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23/03/02

まゆ子「松本零士先生がご逝去されました。」
釈「ご冥福をお祈りいたします。」

じゅえる「まあなんと言いますか、うちのところの作品は松本成分30パーセントくらいで出来てるからね。」
まゆ子「むしろその影響を出さないようにするのに苦労するほどです。」
釈「女の子の絵を描くと、デフォルトでは9頭身になっちゃうんですねえ。」
まゆ子「7頭身くらいでないと可愛くないから、手足をちょん切ってますよ毎回。」

まゆ子「さて! で、だ。」
じゅえる「なんだよ。」
まゆ子「追悼の意味も込めて、銀河鉄道のパクリをやってみよう!」
釈「それは追悼なんですか?」
まゆ子「まあ御存知のとおりに「銀河鉄道」の元ネタは、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』です。
 パクリ元としてはこちらの方をベースにした方が効率が良い。

 SFはいけません。食いつきが悪い。」
じゅえる「まあ999にしちゃうとさすがにパクリが過ぎるからね。」
釈「とはいえ宇宙を走る列車というのは外せない要素ですから、どうしちゃっても似るんですけどね。」

まゆ子「というわけで夜行バスにしよう! というのも考えたが、さすがにこれは誰でも辿り着くオリジナリティの無い翻案だ。
 なんか無い?」
じゅえる「ふつうに、夜のフェリーでよくないか。」
釈「宇宙を宇宙船で行く。斬新です!」
まゆ子「斬新過ぎるわ! だからまずそこんところ、乗り物自体がよろしくないのではと考えます。」
じゅえる「だろうね。まあやるとしたら、銀河幌馬車隊とか?」
釈「西部劇テイストはいいですね、999ですよまさに。」

じゅえる「ちょっと待て。そのパクリ鉄道に乗って誰が何をどうしようと言うのだ?」
まゆ子「考えてない。」
じゅえる「だろうね。」
釈「そんなとこ考えてるのはまゆちゃん先輩らしくないですからね。で、何処に誰が何をどうしますか。」
まゆ子「ありていに言うと、銀河鉄道に乗りたいという純粋な気持ちを作品として構築できないかというお話だ。」
釈「乗り鉄!」
まゆ子「そうそう。
 ちなみに前に考えたのは『銀河鉄道各駅停車で行く宇宙食べ歩きマップ』
 各駅停車で惑星に降りるごとに地元の飯屋でご飯食べて、それをリポートしていこうというお話だ。」

じゅえる「……、悪くない。」
釈「でも各駅停車って、銀河鉄道には駅は何個くらいあるんですか。億はあるんじゃないでしょうか?」
まゆ子「全路線の駅を合わせるとそのくらいは覚悟しないとね。」
じゅえる「寿命で死ぬな。」
まゆ子「もし連載作品だとすれば、まあ著者を3代くらいは必要でしょうね。それでも1千話程度ですか。」
釈「無理ですね。」
まゆ子「このアイデアは放棄しましょう。」

じゅえる「そもそも銀河鉄道株式会社」は出るのか?」
まゆ子「「無幻電鉄株式会社」とかにすればたぶん怒られない。」
釈「まあ、宇宙を行くというだけでパクリもろバレですけどね。」
まゆ子「ちなみに各恒星系内部のローカル路線を乗り継いで隣の恒星系に行く、というめちゃ短い路線の話になりますね。」
じゅえる「過疎化で路線が廃止されてるだろそれ。」
釈「恒星系内部のみなら、どうやって別の営業線に行くんですか。破綻してるんじゃないですかそれ最初から。」
まゆ子「そこは次の営業線までは徒歩で。」
釈「宇宙を?」
じゅえる「ローカル路線バス乗り継ぎの旅、だな。」

釈「しかし徒歩で?」
まゆ子「そこは人型ロボの出番だろう。県境を峠を越えて歩くんだよ。」
じゅえる「もうそれでいいんじゃないかな。恒星間宇宙を移動できるロボならそのままでも。」
釈「まあ、いいでしょう。人型ロボが出るわけですねつまり。」
まゆ子「人型ロボが銀河鉄道に出てくれば、さすがにもうパクリとは呼ばせない。サスライガーが今度は出てくるわけですが。」
じゅえる「ありゃ歩かないよ。飛ぶときは列車の形だよ。」

 

まゆ子「とまあそういうことなんだが、実はもう実際に形にはなってるんだ。
 『彷徨える百合SEA−ず』は元々このラインで構成されたんだ。
 或る日宇宙戦艦を相続した女子大生「樺湖ミレイ」がちまちまと飛んでいると、いきなり他の恒星系にワープする。
 それだけでなく、神様的な存在であるところの「ガーデンマスター」の巨大船に宇宙戦艦ごと忍び込んでワープする。」

釈「なんだ。出来てるじゃないですか。」
じゅえる「彷徨えるの続きを書けばいいじゃんか。」
まゆ子「だがそれでは追悼成分が無い。」
じゅえる「なるほど。」
釈「そこはーつまり、追悼の為の特別なシナリオを考えろ、というお題になるわけですか。」

まゆ子「ただ、まあ読んで面白くなければならないわけでして、だったらよお、こないだ書いた「落語大東桐子さん」みたいに落語にしてはどうだろうか。」
じゅえる「落語「銀河鉄道999」か。」
釈「ふむ。たしかにそれは新機軸。これまで999を落語にした人は居ないでしょう。」
まゆ子「とはいうものの、二次小説はわたし書けない。書いたことない。また書いたってそうはならない。
 根っからオリジナルでないと書けない体質なものでして、だからパクろうというわけだ。」

じゅえる「二次小説・マンガなんかをぐりぐり書けたら、今頃同人誌くらい出してるわな。」
釈「まゆちゃん先輩はお手本通りにはぜったい描けないヒトですからね。
 じゃあこうしましょう。その落語での中の会話で999を話題に持ち出すという形で、ちょっとだけ触れてみるというのは。」
まゆ子「そのくらいかなあ。

 で、」
釈「で、とは?」
まゆ子「誰が何してどうするの?」
じゅえる「あー、そうだな。たっさんを出すかまた。」
まゆ子「でもさすがに、桐子さんは出さないぞ。というか話が全然違うぞ。シリーズに入らない。」
じゅえる「わかるわかる。ここはまったくオリジナルのどの作品ともかけ離れた設定で、列車を出すとしますかね。」
釈「そうですね。では登場人物@たっさん、決定。」

じゅえる「車掌さんは出なくちゃいかんだろ。」
まゆ子「たっさんを列車の外に放り出す?」
じゅえる「切符持ってなければね。」
釈「それはそれで面白い展開ではありますが、列車内で物語が完了するものにしてもらいたいと思いますよ。」

まゆ子「あ、いやそうか。桐子さん出てもいいんだ。
 つまり列車なんだよ、途中駅でお姐えさんとして桐子さんが乗ってきてたっさんビビる。これで行こう。」
釈「ほうほう。つまり乗客としてまるで何の関係も無い二人が出会わしたという筋ですね。」

じゅえる「そういう筋であれば、車掌さんは房々之介にしよう。」
まゆ子「ふむふむ。前回の投稿をちょいと匂わせる程度ですね。そのくらいの出演はアリか。」
じゅえる「でも御隠居さんは出てこない方がいいぞ。空中ディスプレイで通信とかは。」
釈「でも今回、たっさんはスマホくらい持っててもいいんじゃないですか。」
まゆ子「スマホなんか見てたら落語にならないよ。スマホ禁止。」
じゅえる「まあ待って。スマホは有っても電池切れてるでいいじゃないか。」

釈「あ、つまりたっさん自分が乗った電車が何処に行くか、なんだか分からなくてどんどん怖くなるとか、そんな感じで?」
じゅえる「行き先不明の幽霊列車、ミステリートレインか。怪談列車というのは割とある話かな。」
まゆ子「ビビったたっさんが途中の駅に降りてみて、ここが何処だか分からないから慌てて元の列車に飛び乗って、というのはアリだな。」

じゅえる「で、怪談列車話でいくのか。それとも999準拠でいくか。」
まゆ子「怪談列車は割と簡単にネタが定まりそうで面白くない。難しい方で行きましょう。」
じゅえる「999ぽくないけど999展開だな。うん、で、パスを盗まれる。」
釈「定期券ですね。というか、スマホがあるのに定期券?」
まゆ子「切符だよさすがに。切符が何処に行ったか分からなくて大慌てで探す、ふつうにアリですね。」
じゅえる「車掌が切符の改札に来るのか。」
まゆ子「そもそも切符持ってなくて、列車内で車掌から買うことにするか。地方線ではよくある話だ。」

釈「オチを考えましょう。で、結局どうしますか。」
じゅえる「最後はたっさんネジにしろ。」
まゆ子「早いな。」
釈「さすがにネジは無理でしょう。機械の体とか。」
じゅえる「もっと難しいぞ。そもそもどうオチにするんだそれ。」
まゆ子「たっさんが、実は俺機械の体だったよ、と改めて気が付くとか?」
釈「いやそもそもこれ、SFなんですか?」
じゅえる「え、違うの?」
まゆ子「ど、どうしよう。」

釈「いや999でしょ、そしてたっさんですよ。SFでしょう。」
じゅえる「でも宇宙人出さなければSFに無理にしなくても通るぞ。」
まゆ子「通るねえ。SFでなくてもSF風味で現代もの、いや江戸時代にしても構わんけど、スマホ持ってるしな。」
じゅえる「たっさん暴れさせろ。」
まゆ子「了解。で、列車内で暴れるとして、何するの?」
釈「そこはー、どこに行くのか分からなくて怖くなったたっさんが、降ろせ降ろせと。」
じゅえる「そうだ、列車内の電気消そう。真っ暗な客車が夜の闇を走るんだ。」
まゆ子「回送列車?」
釈「回送列車も電気付いてないですか?
 でも、自分以外誰も乗っていない列車の電気がいきなり消えると、怖いですよ。たしかに暴れるルートです。」

じゅえる「で、どうするの?」
まゆ子「真っ暗なままで着いた駅に飛び出して、ここは何処だ? という展開で。」
じゅえる「ふむ、で列車は行ってしまうんだな。」
釈「降りるんですか、駅を出ちゃう?」
まゆ子「そりゃあ、降りたからには出なくちゃね。出て、腹が減ったなと立ち食い蕎麦屋なんかに立ち寄って。」
釈「深夜に?」
じゅえる「終電じゃなかったのか。」
まゆ子「誰も終電とか言ってないけど、まあ終電ぽいか。深夜には立ち食いソバ開いてないか。」
釈「コンビニくらいは開いてますかね。」
じゅえる「コンビニが有るのか。というか、その駅はど田舎とかじゃないのか。」

まゆ子「うーーーん。コンビニも無く、自動販売機に突き当たるというのは。」
釈「缶ジュースくらいですか。」
まゆ子「いや、うどんの。」
じゅえる「うどんの自動販売機ってのは、アレか。あのレアものの。」
まゆ子「アレ。」
じゅえる「で、それがオチ?」
まゆ子「オチ。」
釈「え、うどんの自動販売機がオチ?」
まゆ子「うどん屋のおやじが機械化ですよ。実に松本テイスト。」
釈「いやそこはラーメンでないと。」

 

     *****     

落語「銀河鉄道999」〜松本零士先生をしのんで

ちょいとそこら辺まで広がる大宇宙。前回落語でおっ死んだたっさんはカンパネルラの隣に座る資格がある。
松本零士先生ご逝去の報を受けて、急遽たっさんに御登板願いました。
「鉄さん」じゃないのがポイント!
出演 たっさん:たっさん お嬢さん:大東桐子 車掌:遠藤房々之介

トンネル抜けたら車内照明が落ちるのは「関門鉄道トンネル」ですね。
本州と九州で電気の供給が違うから境目で切り替えた時に起こります。

  ***  

 え〜毎度お運びいただきましてありがとうございます。一席お付き合い願いたいと思います。

 世間では松本零士御大将の御業績としてはやはり「宇宙戦艦ヤマト」、ついで「銀河鉄道999」
 宇宙でございますね、だだっぴろい宇宙を縦横無尽に飛び回り大活躍する冒険ロマンを称賛なされるのは当然といたしまして、
ではそれだけかと言うとそうではない。
 戦場漫画シリーズや御大若かりし頃をモデルとした「男おいどん」なんかは、汚い下宿に婆あの大家さんとまるで落語です。
 しかしですな、おいどんは青春真っ盛りでドラマもロマンも溢れておりますが、
落語に出てくる人物ってのはもう少しひねた、そこまで向上心に溢れた人物はそうそう出ては参りません。

 

「うぇえええええ、げえああ気持ちわりぃ。
 なんでこのたっさん様があんな野郎に付き合って安酒飲まなくちゃいけねえよ。
 そりゃま世間の義理ではあるけどよ、俺じゃないよ代理だよ、頼まれて来ただけだ。
 なにがごめんなさいだ出来ねえなら最初から引き受けて来るな。

 なんだいああもうこんな時間だ、どこも店じまいで街も真っ暗じゃねえか。
 今時は時短だエコだで遅くまでやってる店も無くなったな。
 仕方ねえ女房殿のとこに御帰宅なさいますか。

 おや、電車が動いてない。終電? 終わっちゃったの? 駅も真っ暗?
 参ったね今何時だよ、て、ええっ腕時計が無い!
 あ、最近は腕時計しなくなったんだった、スマホだよ便利なものがあるねえ。
 スマホがあれば時計だろうが電話だろうがインタネットも、
 ……真っ黒だ動いてない。電池? 電池無いの、なんで?」

 たっさんスマホの電池を切らしてしまいました。どうにも社会人として士道不覚悟であります。
 困ったなと周囲を見回しますが開いているのはコンビニくらいで、
これが地方都市の現実。皆さん夜になると寝てしまう。
 仕方が無いなとタクシーを探しますが、今時タクシーの運転手さんもお年寄りが多くてこれまた寝てしまう。

 八方塞がりでやむなく駅に舞い戻ってまいります。

「駅ってものは四六時中開いてるもんじゃないんだな。シャッターなんか降りてやがる。
 世知辛いね。この寒空朝までベンチに座ってろと言うのかい。

 おや? 駅にも裏口ってのがあるんだね。開いてる入口があるよ。職員専用通用口ってのかい。
 背に腹は代えられねえや、ちょいと御免なさいよ悪気があるんじゃないですよ、女房殿がですね」

 やっちゃいけないことをやってしまうのが落語の登場人物。
 たっさんのこのこと暗いホームに上がってしまいます。
 もちろん電車なんか来やしない。

 と、そこにすうっと滑り込んでくる一編成。
 黄色いボディの派手な電車が客席明々と輝いて、たっさんを招きます。
 がらっと自動扉が開く。

「おいなんだよあるじゃねえか電車がよ。なにが終電終わりましただ、サービス良く来るじゃねえか。
 乗っちゃいますよ、乗りますよいいですねはいごめんなさい」

 誰も居ない。もう遅いですからね、たっさん一人貸し切り状態であります。
 つぃっと伸びる座席が左右、まっつぐがら空き。
 どっかと腰を下ろして大股開いて大威張りでふんぞり返っても誰に遠慮が要るものか。

 ぷしゅっと空気が抜ける音がして自動扉が閉まり、電車出発でございます。
 がたこーんと、いや今時こんな音出して走る電車も少なくなりました。線路も車輪も進化してる。
 いきなり横に揺れたりなんかもめったにしない。
 しないが、しないわけじゃない。
 ぐらっと揺れてたっさん首が前後に振られる。おつむの回転もちょと進む。

「ついうっかり乗っちまったけど、終電終わって来る電車って何なの。
 え、ひょっとしてこれってミステリートレイン? あの世に逝っちゃうの? たすけてー」
「え〜切符を拝見」
「あ、車掌さん。検札? 今時? あるの?ある。助かったー。

 て、よくよく考えるとおいら切符を持ってないよ。無賃乗車だ、どうしよう。
 アニメで見たから知ってるんだ。
 切符を買わずにミステリートレインに乗ったら車掌さんに列車のドアから突き落とされて、
 ぎゃあああと悲鳴を上げて宇宙の塵に」

 歯の根が合わずにカチカチと震えております。

「切符を〜拝見」
「ごめんなさい!」
「それでは切符を買ってください。」
「え、車内で切符を売ってるの? 車掌さんが? 凄いねハイテクだね未来だね。
 で幾ら」
「999円となります」
「きゅ、きゅうひゃくきゅうじゅうくえん? えらくまた半端な金額だね。それに高いよべらぼうだよ。
 一体どこ行きの切符だよ」
「”むにゃむにゃむにゃ”」
「え、なんだって?」
「”むにゃむにゃむにゃ”行きの各駅停車。終点に到着後は回送となってご乗車できません」
「帰りの乗客は乗せないって残酷だね無慈悲だね、これはほんとにミステリートレインだ。

 じゃあ買うよ、”むにゃむにゃむにゃ”行き1枚だ。
 えーとおいらアナログ人間だからよ、ちゃんと財布に小銭が入ってるんだ。
 ひのふのみ、9百9十9円だって? 無いよそんな細かいお金」
「千円札で1円玉のおつりが来ます」
「お、おう。なるほど、それは簡単便利がいいな。じゃあ千円札くう御名残り惜しい、ごきげんよう」

 ”むにゃむにゃむにゃ”行き大人1枚、切符をゲットであります。
 四角い厚紙、硬券てやつでして鋏でばちこーんと切り込みが入ります。
 もちろん有効期限は本日限り。

 たっさん命の危機を脱してほっと一安心。

「いやなんだね、人生こういう時間の過ごし方もたまにはいいもんだね。
 世知辛い日常を飛び出して行く先も分からない列車の旅なんて、少年の心が甦るてもんだ。

 となるとだよ、一人旅というのもちょっと味気ないね。
 やっぱり旅は道連れ美人のねえちゃんなんかが傍に居てさ、
 嬶あなんていけねえ、あんなちんちくりん。
 若い頃は小さくて可愛いかなーなんて思ったけどよ、今はぷっくりと丸くなりやがって。
 旅のお供というのなら、楚々としてほっそりと背の高い、
 今にも空に溶けてくような儚い風情の漂う金髪の外人さんかなあ。
 旅情を誘うね、ノスタルジーだね。そんでもってがばっと脱ぎっぷりも良くってよ」

 そうこうする内に、停車駅でございます。
 電車停まって自動扉が開いて、お一人お嬢さんが乗ってまいります。
 歳の頃なら18・9か。ほっそりとした体つき、西欧フランス人形みたいな整った顔。
 髪は淡い栗色で肩まで伸ばすソバージュが軽やか。

 たっさんが座る席の向かいの、5メートルほど離れた所に格好のいいお尻を預けます。

 見ますね、男だから。たっさん無遠慮にお嬢さんの御顔を拝見します。
 なにせ今は少年の心持ち、ロマンと勇気に溢れてる。
 訝しげに思ったか、お嬢さんもこちらを振り返る。ちろと瞳を向けてくる。
 そのまなざしの険しいこと。まるで冬の雌オオカミが如くに威圧感がある。

 たっさん驚いて顔を背け、何事も無かったかに正面向いて口笛なんかを吹く真似をする。

「いけないね、余計なことを望むんじゃなかったよ。
 ありゃメーテルなんかじゃないや、エメラルダスだよ。怖いよ。
 なんだかこう、サーベルでブスっと刺されるような気がして落ち着かないよ」

 たっさんの太刀打ちできる相手ではありませんな。
 がたこーんがたこーんと電車が進む中、蛇に睨まれたかに身動きもせずじっとしておりますと、
余計な事まで考える。
 考える内にある重大事に気が付いた。

「この電車、おいらのお家に帰ってくれるの?」

 とんでもない迂闊でありますが、そこがロマン。
 ま、気付いてしまったからには仕方がない。ここは一度降りようと決心します。
 お嬢さんも次の停車駅までみたいですから、彼女とは違う出口から電車を降りた。

 一歩足を踏み出して、深夜ですから見渡す限り闇であります。
 簡素なプラットホーム、駅舎なんか飾りほども無い。
 海が見えます遠くに暗く、裏手は山で森となる。近所に家も建物も無い。
 明らかにこれは無人駅。しかもど田舎カントリー。
 降りたところで店も無いと直感で分かります。

 これはいけないと、背後で閉まろうとする電車に飛び込む。
 ばしゃっと閉じる自動扉。
 振り向けば窓の外には先ほどのお嬢さんが車内の灯りに横顔を照らされるのが見えます。
 その表情、まさに今から決闘に向かわんとするかの迫力。殺気。

 動き出した電車の中で、遠ざかるお嬢さんを見送って、たっさん胸をなで下ろします。

「ヤバかったー。こりゃあ降りちゃいけねえ駅だった。
 見てよあの気合、こりゃあアレだね、彼女今から切った張ったの大勝負だね。ガンフロンティアだ。
 俺もなあー、俺も光線銃でも持ってりゃ「ちょいと加勢するぜ」とかっこいいとこ見せたんだけどな。
 荒くれガンマンどもがひしめく酒場で、カウンターに肘でも突いてバーテンの野郎に「テキーラ」なんて注文するんだ。
 くううう惜しかったなねえちゃんよ」

 電車進行方向左手の窓にはずっと暗く海が見えております。
 たっさん左側の座席に移り、窓に齧りついて外を眺めている。

「こうして見ると夜の海ってのは、
 空の星やらお月さまやら遠くの灯りなんかを反射して、まるで宇宙を走ってるみたいな乙な気持ちだね。

 しかしな、科学ってもんも知らない間にずいぶんと進んだものじゃないか。
 昔は冥王星の海にヤマトがぷかぷか浮いてるのを笑い話に出来たのが、今じゃほんとに海があるってよ。
 AIってのが大きな顔でのさばって絵を描いたり小説を書いたり人間要らずと来たもんだ。
 この調子じゃいずれおっ死んだ師匠達が墓場から機械の体で甦って寄席をどっかんどっかん沸かせるんだ。
 出番が無くなって仕事にあぶれた若手落語家は、コオロギで出汁を取ったラーメンを美味いうまいと食うことになるんだな。
 くうう、腹が減った」

 もちろん食堂車も車内販売も有りません。
 ぐーぐー泣く胃袋をなだめながら、たっさん窓の外の変化に気が付きます。
 相変わらずの海が見えますが、大きな工場があったり造船所だったりと工業地帯の趣が増えてくる。
 静まり返っているとはいえ明らかに街の灯りが眼下を流れる。
 人外の魔境から文明社会へと復帰いたします。

「ようやく終点に到着かい。長かったね一体ここはどこら辺だろうね。
 ほどほどに賑やかな街なら24時間営業のファーストフードがあるだろうさ。
 無けりゃコンビニでも構わねえ。こう腹の虫が騒いじゃあ落ち着かねいね。
 ええい運転手さん、最大戦速!」

 電車に無茶言っちゃいけない。と、があぁっと外の音が変わります。
 トンネルに突入いたしました。
 窓の外は暗いばかりで何も無く、いやトンネルの壁面に直管蛍光灯の白い光が断続的に線になって飛んでいきます。
 ただのトンネルじゃない、なんだか下の方に下っていくような感触が。

「おいおいちょっと待て下かよ、地面の下に潜ってくよ。
 大丈夫かおい、ちゃんと地面に出てくるんだろうね。
 このままずぅっと沈んで行ったら、それこそあの世地獄が終着駅のミステリートレインだよ。
 助けてー、
 助けて―。
 たすけてええ、まだトンネルかい長いね。ほんとに大丈夫なのかい。
 閻魔様の所になんか行きたくないよ女房のところに帰ってお寝んねしなくちゃいけないんだ。
 神様仏様キリストさま悔い改めますもうべらべらと無駄口叩きません寡黙な男になりますからお助け」

 があぁっと、音が変わって解放感が。広く開けた地上にトンネル抜けて出てまいります。
 線路左右の光景ももはや街の中。

「なんだい悔い改めて損したね。
 あはは、誰が反省なんかするもんか矢でも鉄砲でも持って来いてなもんだ。

 な、なんだいどうした。いきなり真っ暗だよ。
 スイッチばちんと切れる音がしたよ。非常灯だけぼんやり点いてるよ。
 え、なに非常事態? 喧嘩売ってんの?
 お、おお上等だこちとら生まれた時から血の通ってる人間だ。掛かって来やがれめーたーどもめ。
 どちらがご主人様か白黒つけてやる」

 誰も居ない車内で大暴れ。
 といっても暗いから手足を吊革座席にぶつけないようこじんまりと暴れます。
 ダンスでございますね。
 そこにブレイカーを入れるかの電気ぶおおんと音がして、車内照明が回復いたします。

「やったぜ人類大勝利だ。見たか機械伯爵」
『次は〜終点”むにゃむにゃむにゃ”、なお当列車は到着後回送となってご乗車できません』

 車内アナウンスが鳴りまして、程なく電車もゆっくりとスピードを落とし、
それなりに大きな駅のホームに入ってまいります。
 ごくんとブレーキが掛かり、立って踊ったたっさん危うく転びそう。
 なんとか体勢を立て直すと電車完全停止となりまして、乗降口が開きます。

 終点あとは回送ですから、ここは嫌でも降りるしかない。
 どうなるものかと不安はございますが、えいっとホームへ飛び出した。

 はあっと大きく深呼吸。やっぱり動かない地面と外の空気は晴れ晴れといたしますね。
 乗客はたっさん一人のみ。
 空の電車の扉ががらりと閉まりするりと行ってしまいます。
 プラットホームはしんと静まり人の気配が無い。人類絶滅後の風景みたい。
 やっぱりミステリートレインだったのかしらん、よくぞ命が有ったものだと
階段をとんとんと昇って改札口へと向かいます。

 有り難いことに改札口には駅員さんがちゃんと居た。
 居たのはいいが、なんで乗客が今頃のこのこ上がってくるのか、そっちの方が不思議です。
 ”むにゃむにゃむにゃ”駅行きの硬券切符なんか持ってるたっさんは、まさに不審人物。
 まあそれでも、電車始発の準備に忙しく相手にするのも鬱陶しい。
 とっとと出てけと駅を追い出されてしまいます。まずは順当。

「てやんでえ、こちとら999円も払った乗客様だぞ。大切に扱いやがれ。
 て、まだ夜明けまでは間があるな。腹ごしらえ出来る所はと、」

 ございませんな。自動販売機が煌々と光ってるくらいです。コンビニだって見当たらない。
 缶コーヒー飲んだって腹は膨れない。
 あーラーメン食べたいラーメン食べたいビフテキでもいいぞ、なんて贅沢ぬかして街を彷徨うと、
有りましたね。「うどん」の3文字が明るく輝く。

「しめたっ、屋台のうどん屋かい。偉いねこんな夜分にまで営業とは。
 おい親父、熱いのくんなカケで! 
 お、おおおお、親父っどうしたその体。なんだ真四角豆腐みたいに真っ白になりやがって。
 機械か、機械の体にされちまったのか。なんてまあ変わり果てた御姿に」

 うどんの自動販売機でございます。今時珍しい超未来ハイテクサイバーパンク。おにぎりは付いてこない。

「ま、まあいいや。機械の体になってもうどん屋続けようってんだ。よほど腕には自信があるんだろ。
 え、前金。ここんとこお金入れるの。硬貨じゃないとダメ? クレジットカード効かない?
 入れるよ入れちゃうよチャリンチャリーンと。

 お、動くねごとごとって中の機械が動き出した。
 でも冷凍うどんを電子レンジでがあーっと温めたなんてのは許さないよ。
 親父、どんぶり頭からぶっかけてあちいあちい言わせちゃうよ。

 中でお椀がぐるんぐるん回るね、本格的だね、分かってるね。
 さすが機械になってもうどん茹でたいっておっちゃんだ。気合が違う。
 おっともう出てきたよプロは早いねお待たせしないね。
 だがねこのたっさんも気合が入った麺食いだ。舌に合わなきゃどんぶり、あっちいいい。

 猫舌だったよ忘れてたよ。
 いやいいんだ、冷えた体を温める熱っついうどんは正義だよ。ふうふうすればいいんだ。
 ずるずるずるっとな、落語で麺を啜るのは十八番だ。
 そしてお出汁だ、こう喉を通って熱いやつがくぅうううーっと。五臓六腑に染み渡るねえ。
 まさに命の焔が燃えてやがって胃の腑にまで降りて来て、
 ああ生きててよかった。しみじみ思うね。

 長い列車の旅冒険の日々を乗り越えて危難の末に辿り着いた最終目的終着駅に降り立って、
 おいら少年の日の憧れをすっかり思い出しちまったよ。
 何も持たないからっけつの素寒貧でも抱く夢だけはデカかった。
 ガラスの嫁が欲しかったよ」

 ずずっと最後のお出汁も飲み干して、ふうと顔を上げる。
 夜の闇もしらじらと朝の気配に彩られ、街もだんだん動き出す。
 たっさん日本の夜明けだと、どんぶりの底にたった一つ残された丸いモノを割り箸で摘まんで天に掲げる。
 これぞ人生の宝、俺の集大成だと誇りと共に声高らかに宣言する。

「ネギだ。」

 

 

〜END

 

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