弥生ちゃんの部屋

 

 新年あけましておめでとうございます。

 旧年中は皆様のおかげをもちまして年内5000アクセスを無事達成する事が出来ました。

 皆になり代わりまして牢屋の中から御礼申し上げます。

(ウエンディズ総裁 蒲生弥生)

弥生「おい! 牢番」

 

    シーーーーーン

 

弥生「おおーーーーい。」

 

   シーーーーーン

 

弥生「おーーーい、誰か居ないのおーー。」

面会人T「よ!!」

弥生「うわ、貴様、大東桐子。なんでこんな所出て来るんだよ」

面会人T「去年呼んだじゃない。ほら、クリスマスの時の。」

弥生「あたしは呼ぶなって言ったんだ。」

面会人T「まあまあ、来てしまったものはしょうがない。それにほら、なんたって二千年だ。これもY2K問題の一種だと思って諦めな。」

弥生「なんだって正月の一発目からお前なんか来るんだよ-。」

面会人T「だってひとりで酒飲んでても面白くないんだもん。ほら、差し入れだ。あんた牢につながれてたからここんとこ飲んでないだろ。」

弥生「あのね、高校生が正月から酒飲んでいいと思ってるの。というか、飲んじゃいけません。」

面会人T「高校生だから、正月だから飲むんじゃないか。おかしな事を言う女だな。それともなにか、中学生だったら飲んでいいけど高校生にもなったらもう卒業しろとでもいうのか。」

弥生「またへんな理屈こねる。お、なにこれ。これ不破酒店でも売ってないようの高級品じゃない。」

面会人T「そごうで買って来た。誰だったか忘れたけど、酒は安物を飲んでたらしみったれた人間になるんだそうだから、このくらいのは飲まなきゃいけないかなー、なんて思った訳よ。」

弥生「あたしは、そんなえらそうなきいたような事言う人の話は金輪際信じないようもう決めたもの。全然役立たないんだから。」

面会人T「私は自分に都合のいい言葉ならなんでもオッケーだけど。そこの湯呑みでいいか。」

弥生「うわあ、そんなお酒湯呑みで飲むなんて勿体ない。ちゃんとグラス用意してきなさいよ。」

面会人T「いいじゃない、飲めりゃなんでも。それに、この湯呑み萩焼だよ。さすがは衣川の屋敷だ。」

弥生「ちょっと、それ一個で回し飲みしようっての。」

面会人T「あんたと私の仲じゃないか。いいっていいって。」

弥生「どんな仲だ。」

面会人T「一緒にお風呂に入った。もう忘れたっていうの。」

弥生「あれは修学旅行じゃないか。」

面会人T「でもあん時はあんたと二人きりだったろ。あの時の話をしてやるとなぜだか男達は喜ぶんだ、見たまま実況中継してやると。」

弥生「・・・そんなアホな事してたのか。」

面会人T「あんたのぴったんこの胸を私が撫ぜたらあんた石鹸踏んづけてひっくり返ってタイルの上に蛙みたいにびたんとひっくりかえってさ、他人の身体ってのをあれだけまじまじと見たって私は初めてだったよ。」

弥生「・・・それを、実況中継、してる、男の子の前で。」

面会人T「な、飲まずにいられないだろ。」

弥生「よこせ、全部飲んでやる。」

面会人T「そうこなくっちゃ。」

   面会人T,弥生ちゃんの湯呑みにとくとくと酒を注ぐ。

面会人T「なに、あんたから先に飲むって? 一応これ買って来たのは私だよ。5万円したんだよ、消費税込みで。」

弥生「どうぜ自分で稼いだ金じゃないでしょうに。ここは私の牢屋だから私が先に飲む。」

面会人T「しょうがないなあ。あんた、ホントは大酒飲みだろ。」

弥生「両親共に中学教師なのにそんなことある訳がないでしょ。おお、なるほどこれは明らかになんか違う。」

面会人T「あのね、全部飲まんでもいいんだよ。持って帰って家でちびりちびりやるんだから。」

弥生「ぐびぐみみ」

弥生「うはあっー、あー効く。やっぱ空きっ腹にはこたえるわ。」

面会人T「なんだまだ昼飯食ってないのか。」

弥生「いや、昨日の6時からだからもう20時間何も食ってない。」

面会人T「うそお、あんたこん中でそんな目に遭ってたのか。」

弥生「いや今日はしるくが東京に年始廻りに行ってるからここにあたしの世話する人が居ないってだけで、今日は確か・・・・・・・・聖の番だ・・・・。」

面会人T「あ! それはダメだ。私が自分より変だって思ったのはアイツだけだから。」

弥生「そう? そんなに変な事は無い普通の娘だと思うけれど。そういえばあんたとは違った意味であの子も避けられてるわね、なんでだろ。」

面会人T「なんでって、見たらわかるだろ。不吉なんだよ、なんだか知らないけど。黒猫は通るしカラスは上を飛ぶし霊柩車は横走ってくし。あいつになんかちょっかいだした奴は必ず洒落にならないような事故起こしてるって噂だぞ。」

弥生「変だねえ、ウエンディズではなーーんにも起こってないんだけど。いつも聖と一緒に居る明美も平気な顔してるじゃない。て、ちょうだい。」

面会人T「うん。山中は・・・、てなんで平気なんだ、あいつ。」

弥生「それはね、明美はいつもいつもいつもいつも生まれた時からずーーーーーっと運が悪いから少々の不吉ではびくともしない免疫を身に付けてるからなのよ。第一聖は別にやりたいと思って人になんかしてる訳じゃないもん。聖を避けてる人が勝手に憶測して勝手にどつぼにはまってるんだもん。自業自得ていうんじゃないそういうの。」

面会人T「お前ちょっと回ってきてるだろ。顔まっかだぞ。」

弥生「うふふこれくらいでくたばるようじゃ座敷牢に一年も居られない。あたしが思うになんだなそれ、アルコール度数30パーセント越えてるでしょ。」

面会人T「それは飲めば自然と分かるだろ。大体普通のまともな女子高生なら匂いを嗅いだだけで飲まないんだよ。」

弥生「だって私普通の女子高生じゃないもん。世界で唯一座敷牢に暮らす女子高生だもん。」

面会人T「そりゃそうだ。」

弥生「ねえ、あんたひょっとして全然飲んでないでしょ。ぺろぺろ舐めてるだけで。飲むってのはね、喉越しを楽しむって事なのよ。そんなちびりちびり舐めてたら酢になっちゃうじゃない。」

面会人T「いいんだよ、今日飲んでしまわなくても。」

弥生「あっついねえ、ちょっとヒーター壊れてるんじゃない。上脱いじゃお。」

面会人T「今日は一月だってのに馬鹿みたいに暖かいからもともとヒーター掛かってないよ。それにしても酒だけ飲むってのも味気ないな。なんかつまむもんは無いのか。」

弥生「けらけら、座敷牢にそんなものある訳ないじゃない。第一あたし運動不足で太っちゃいけないからお菓子みたいなのは持ち込み禁止にしてるの。食べるのは牢番のまゆ子かふぁだけだよ。」

面会人T「ちょっと厨房に行ってなんかこしらえてくる。」

弥生「いいって、どうせ聖が来るんだから。聖はね、台所に立った事が無いっていうから明美に言ってあたし用のおせち料理を作らせたんだよ。今日はそれ持って来る事になってんの。」

面会人T「あーー、それだ。だから何時までたっても来ないんだ。まだ出来てないんだ。」

弥生「へ? 嘘。そんな。」

面会人T「嘘じゃないって、携帯入れてみなよ。」

弥生「ここ電話無い。座敷牢だから。」

面会人T「くわぁー、私の貸してやるから。」

弥生「うんうん。あーーー、聖は携帯持ってない。」

面会人T「山中は。」

弥生「明美は貧乏だからやっぱり持ってない!」

面会人T「ぐわ、じゃああんた今日は何も無しって事か。」

弥生「そうなのかあ。うわあーーー。でも頑張る。聖ちゃん信じる。」

面会人T「私は我慢できない。ちょっと厨房借りるよ。」

弥生「それはいいけどこの離れには台所ないよ。母屋まで行かないと。あんた衣川の人に顔知られてないでしょ。」

面会人T「だいじょうぶだって、しるくの友達だって言えばなんとかなるさ。なんたって牢屋に女子高生閉じ込めてるような屋敷なんだから。」

  大東桐子はそういうと座敷牢の部屋を勝手に出ていった。

  30分後。

面会人T「・・・しょせいがいた!書生が。今時書生の居る家なんてあったんだね。」

弥生「あれは衣川の元藩士の家の人だよ。衣川のだんなさまは今でも慕われてるんだよ。」

面会人T「そういう世界ってのが今でもあるんだね。さすがしるくがお姫様ってのがやっと納得いった。そうかあ、今でも封建社会は脈々と受け継がれているんだね。あ、そうだ、しるくが東京行ったってのはひょっとして皇居にも行ったんじゃ。」

弥生「そう、かもしれない。子爵家だからね、元。」

面会人T「なんでそんな女が県立高校なんているんだ。それこそ東京のお嬢様学校にでも行くべきなんじゃないか。」

弥生「しるくは、あれでも甘えんぼなんだよ。ご両親といっしょの方がいいって言うんだから。それにお嬢様学校って男の子居ないじゃない。だからうちの高校に来たんだよ。」

面会人T「おとこ! それこそあいつに一番似合わない言葉じゃないか。」

弥生「おっと早まっちゃいけない。しるくが男が居ないってのは、女の子が相手じゃ竹刀でも思いっきりぶん殴れないからだよ。」

面会人T「・・・けんどお?・・・・」

弥生「剣術。剣道じゃないのだ。北辰一刀流だよ。ただ剣道をやっても強いってだけで、北辰一刀流は一応竹刀稽古が主流だからね。あ、道場にも行ってるのかな。」

面会人T「そういう風に聞けば別に不思議じゃないけど、そうか、そんな裏があったって訳だ。世間て広いな。」

弥生「桐子、あんたこそ女学園行くべきじゃなかったの。一人暮らしなんかしないで寮に入れば良かったんだよ。」

面会人T「おい、わたしがだよ、そんな舎監だの寮長だのの言う事素直にきくと思うのかい。相部屋になった娘の方がかわいそうってもんだよ。」

弥生「くれろくれろ。ちょっとちょうだい。」

面会人T「おい、聖を待つんじゃなかったのか。おまえに食わす分までは作ってないぞ。」

弥生「チャーハンだ、チャーハンの匂いがする。桐子自分であんた作ったね。」

面会人T「まあ、そういう事。賄いの人居たけれどそこまで厚かましくなれないからね。そうそう、あんたの分の朝御飯ってやっぱり作っていたんだってよ。でも今日は誰も取りに来ないからまたお正月のおせちの残りかなんか食べてるんだと勘違いしたみたいだ。あんたの朝飯犬に食わせたって言ってたぞ。」

弥生「そうか、犬に食われたんじゃあしょうがない。桐子の作って来たのを食べるしか法はないな。」

面会人T「今日はもう6日なのに、おまえまだごちそう食べてたのか。」

弥生「なんだと思う。3日まではしるくが居たからまだ良かったんだ。4日はふぁが来て焼きそば作ってった。夜はじゅえるが来て羊羹置いていった。5日はまゆ子が来てY2K用の非常備蓄食を置いていって乾パンと水と冷たいまんまのレトルトカレー、昼ごろ明美が来てラーメンを作って、夜は志穂美が鳴海ちゃん連れて来て散々に人の非常食食い荒らしたかと思うと出前にピザ取って私は3分の一食べただけ。これがまともな人間の食事だと思う? まだ通常の日の方がましなもの食べられたわよ。」

面会人T「なるほど、座敷牢ってのはやっぱり酷いもんなんだな。まあいいや、食いな。」

弥生「スプーンは別に無いな。あーん。」

面会人T「おまえ、酒飲むと遠慮とか恥とか無くなるな。仕方のない。」

弥生「ふむふむ、なるほど、結構やるじゃない。さすが一人暮らしって所だね。隙が無い手慣れた味がする。たまごもふんわりなってるし脂っこくないし味もしつこくないし、ネギもちゃんと薄く切れてる。」

面会人T「私はコンビニの弁当ばっかり食べてる訳じゃないよ。母さんの居た時から自分でやってたからね。」

弥生「お正月もそんな感じ?」

面会人T「うん。大掃除もしなかった。まあ、外で食べる所も閉まってるから自分でやるしかなかったんだけどさ。」

弥生「またひとりでお正月迎えた訳ね、あんた。くそ、こんな所閉じ込められてなけりゃ強襲掛けてやる所なのに。よこせ。」

面会人T「もう嫌だよ。」

弥生「違う、そっちの方だ。」

面会人T「あ、酒ね。ほら、ワイングラス借りて来た。」

弥生「これはワインではありません。そんなので飲むのは湯呑みで飲むのといっしょです。」

面会人T「そういうもんじゃないだろう。」

弥生「でもね、あんた。ひとりは良くないよ。ちゃんと実家に帰りなさい。お父さんは泣いているぞ。」

面会人T「なんだそれは。ほっといてくれよ。」

弥生「そうはいかない。五万円の酒ぶら下げて余所ん家で飯たかるようなそんな子に育てた覚えはありません。クリスマスもひとりだったでしょ。」

面会人T「今年はひとりだったよ。あの手の手合いは良くない。うん。手が切れてせいせいしてるわ。」

弥生「去年よ、もう。草加さんそんな悪い人じゃなかったのに。あんたが根性ひねこびてるから。だからそんな子に育てた覚えはないっていうの。」

面会人T「だってさ、三つも年上なのにぐじゃぐじゃ言うし引っつきたがるし私の事普通の娘扱いするんだよ。どこに目を付けてるんだってんだ。そんなに普通の子が好きなら私みたいのにちょっかい出すなってんだ。もう、殴られてみなけりゃ自分が何したか分からんようなのは今後一切手を出さない。うん、約束する。」

弥生「やっぱりあんたの事あたし好きになれないわ。根性、三度でも四度でも何度でも叩き直してくれる。」

面会人T「お、正月早々やるか。面白い。おまえが座敷牢に入れられてからめっきり他の奴等大人しくなりやがって飽き飽きしてた所なんだ。やるってんのなら付き合ってやるぜ。」

弥生「・・・・だけどあたしが手を出すまでも無いようだ。ほら、そこ、聖が来てる。」

 

  白い小さな手が桐子の左手に握られている洋酒の瓶をすっと撫でた。

聖「・・・・・・・・・バランタイン・・・・・・・。」

面会人T「う、うわ、うわ、うわ、うわわ、うわ、貴様どこから入って来た。」

聖「・・・・・大東桐子、2組31番私学文系コース二学期末順位87番・・・・補導歴二回公共物破損いずれも説諭のみで釈放停学三回・・・・・」

面会人T「おい、こいつ何言ってるんだ。」

弥生「大した事じゃないわよ。あんたに関するデータを呼び起こしてるだけなんだから。」

聖「・・・・・・飲酒・・・。蒲生弥生も。」

明美「こんにちは、やあ弥生ちゃんごめんなさい。もう大変だったんだから。聖ったら火の扱いがちょー苦手なんだから、ガスの炎が天井まで延びて危うく火事起こすとこだったり、包丁が聖の足の上に落ちそうだったのがなぜだかあたしの方に飛んで来たり、よくわからないけど胡椒の瓶が詰まって出てこなかったりして、いつまでたっても料理に取り掛かる事ができなかったの。でもやあーっと完成したんだから。味の方はあたしが保証してる。全部味見したし。あのね、聖ってあんまり濃い味つけはダメなんだって。だから私が代わりに弥生ちゃんの好きそうな感じにアレンジしたけど本来のものはもう100パーセント聖がやったんだよ。聖のおかあさんだって聖がここまで出来るなんて思っても見なかったって涙流して喜んでたんだけど、考えてみればこんなに頭がいいんだから料理だって出来て当然よね。まゆちゃんが言ってたけど料理ってのは技術じゃなくてどういう味のどういう食感のものを作るか最初にイメージした通りのものに近づける構想力だっていってたから、その点は聖って絶対合格点よ。そりゃあちょっと動きが鈍いところがあったんだけどさ、そこのところはあたしがちゃんとフォローに回ったんだから。いいよね、そんくらい。弥生ちゃんの言ってた事とちょーっとだけ違うかもしれないんだけどそこはそれ最初だって事で大目に見てくれるよね、ね。あ、あら大東さん明けましておめでとう。きゃ!」

面会人T「わ!」

聖「・・・・・・・・!・・・・・・」

 

 蒲生弥生は丸い皿が人体に突刺さるという世にも珍しい光景を目撃した。もっとも柔らかい肉の間にすっぽりと入っていったのが刺さったように見えただけであるがそれでも痛みは貫通した時と同等、いや筋肉等で被われていない急所とも言える部位にめり込んだからにはその激痛はそれ以上だったのではないか。なんといっても「顎」に、なのだから。

 顔を抱えてのたうち回る大東桐子の姿を我が事のように感じながらも弥生は、神様って本当にいるんだ、そう思った。まあこのくらいで死ぬような女ではないから特に心配はしなかったが、それより無表情に凍りついている聖の方が気になった。これもまた顔面から柱に突っ込んで痙攣している明美の手からふろしきに包んだ重箱を手繰り寄せ中から昆布締めを取り出して口にくわえた。

弥生「うん。」

 

End

 

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