ウエンディズ4番キャッチャー不破直子は酒屋の娘である。

 酒屋米屋とかは近年はスーパーやらコンビニやらが出来てちょっと経営が苦しい所も多いのだが、不破酒店はそんな事もなくそれ相応に繁盛している。ふぁ自身も配達のアルバイトでビールのケースなんかをスクーターに載せて運んでいるが、女の子がこんな重たいものを、とお客さんがびっくりするのが面白くて喜んで家業の手伝いに精を出していたら、人並みはずれた怪力の持ち主となってしまい、そこを弥生ちゃんに見込まれてウエンディズにスカウトされたのだった。

 さてこんなふぁであるが、実は植物を愛する心優しい少女でもある。高校でも園芸部の実質部長として日々丹誠込めて小さな庭園の世話をしているし、ユウレイ部員たちを脅しつけて草むしりの強制労働をさせていたりもする、マジメ少女なのだ。ふぁが入ってきてからは庭園がいつの間にか実のなる植物ばかりの菜園になってしまってたり、それを学園祭のバザーで売り飛ばしたりもするようになったが、商売人の娘であるからそのくらいはしょうがない。

 と言う訳でふぁは時折山に登ってタダの腐葉土を取ってきたりしている。9月の日差しも和らいできたある日、ひとりで近所の裏山に登ったふぁは、そこでみょうなものを発見した。

 数日前まで雨が何日か続き、どこかの地方では街が水びたしになっていたのがテレビで報道されていたのだが、その雨の影響で道の端が崩れて赤土が露出して地中に埋もれていたものが顕になっていたのだった。

 きらりと光ったそれを拾い上げてみると古い白磁の壷であった。お茶を入れるのにちょうどいいような小さな壷で長年埋もれていたにも関らず非常に状態のよい奇麗な姿を留めていた。形も悪くなくてふぁはひと目で気に入ったが、中身はただの土と石である。小判の一枚でも一緒に埋もれていないかとそこらを探してみたがさすがに他には何も無い。だが思わぬ見つけものにほくそ笑んでふぁは家に帰ったのだった。

 家に帰って洗ってみると、確かに良い、高価そうな壷だった。だがそうすると何故こんなものが土の中から出てくるのか、それが不思議に思えた。ふぁは一生懸命考えたが、あんまりそういう事は得意ではないからいつの間にか寝てしまい、結論の出ないまま朝、学校に行く時間となってしまった。

 教室に着くとふぁは壷を持ってまゆ子のクラスに行った。まゆ子はともかくなんでも知っているのでウエンディズの隊士達はわからない事があると彼女の元にやってくる。うまい事にじゅえるがまゆ子と話をしていた。じゅえるも、下らない事ならなんでも知っているという女だ。この二人なら何故土の下にこんなものがあったのか分かるだろう。

 まゆ子は言った。

まゆ子「あちゃー、これ持って帰ってきちゃったの!」

ふぁ「きれいだろ。どこも欠けてないし。」

じゅえる「なにか、わからなかった訳、ね。もって帰っちゃったんだから。」

ふぁ「いや、・・・これ持って帰っちゃダメだったのか?」

まゆ子「そりゃあ、ねえ。普通持って帰らないわよ、こんなの。」

じゅえる「だって、ねえ。これ、骨壷だもん。」

ふぁ「げ! でもこれ小さいよ。」

じゅえる「小さくても骨壷なの。」

まゆ子「入れる骨が少なかったり一部だけしか無かったり、分骨したりする時は小さいのを使う事があるのよ。見たところ高そうな壷だから分骨の線が大きいかな。」

じゅえる「山で見つかったという事は行き倒れかなにかで狗に食われた残りの骨というのはどう?」

ふぁ「げげ。」

まゆ子「それは無いでしょ。こんな壷は使わないわよ。行き倒れには。」

ふぁ「ど、どーしよー。」

まゆ子「返してらっしゃい。」ふぁ「うん。」

じゅえる「待って! たしかそういうのって今、人気なかったっけ。」

まゆ子「人気って、まあ骨壷コレクターとかいるとか高値で売買されるのがあるとか、古いお墓を掘り起こして壷だけ持ってくるような馬鹿がいるとか、聞いたことはあるけど。」

ふぁ「ほー。高値でねえ。」

まゆ子「祟られるわよ!」

ふぁ「売らない、うん売らない。ちゃんと返してきます。」

 

 だが放課後ふぁは裏山ではなく骨董店の前に居た。なぜかと言うと、

じゅえる「売らない。うん売らないよ。でもね、その価値というものをちゃんと見極めないと後で後悔すると思うのよね、わたし。」

ふぁ「うんうん、もののねうちというものはやっぱりせんもんかにきかないとね。」

じゅえる「だからその値段によって適当にうっちゃっておくとか丁寧に穴掘ってお線香あげるとか待遇変えるべきだと思うのよ。もし相当に高価なものだとしたら、山に埋めるよりはむしろお寺さんに持ってった方が私はいいと思う訳ね。」

ふぁ「そうそう。」

 といいつつ二人は骨董店に入っていった・・・・・。

 

弥生said。

 「以上である。委細はすべてのこの不届き者のじゅえるを締め上げて白状させた。あろうことか山中で発見した骨壷をろくまんえんで売り飛ばした両人はそれを折半して帰宅したが、その後ふぁは何者かに取り憑かれたようにふらとスコップを抱えて家を出て、現在10時に至るも消息不明である。ふぁのスクーターはこの近辺で発見したので、ふぁがこの裏山に潜伏している事は確かであるがいかなる状況に陥っているかは定かではない。可及的速やかにふぁを発見保護する事が必要であり、また学校警察等公共機関に事件の真相を知られる訳にもいかないと判断した。よってここにウエンディズのみによるふぁ捜索隊を組織する。」

明美「たたりだ。ふぁは骨壷の幽霊に取り憑かれて山に連れていかれたんだ。」

志穂美「それはない。」

まゆ子「取り憑いたとしたらそれは、金の亡者だと思うな、私。」

じゅえる「ララ・クラフトしに行ったんだと思うんだけどね、ふぁ。」

弥生「ぎろ!」 じゅえる「あ、あははははは。」

しるく「で、ふぁの捜索はどのように行うの。」

弥生「しるく、ごめん。こんな時間に呼び出しちゃって。お父上は怒ったんじゃない?」

しるく「うふふ。書生さんぶん殴って出てきましたわ。あとで怒られちゃう。」

弥生「私もついてっておわびするから。

    というわけで、二人一組で捜索隊を組み、各組ケイタイ持って密に連絡を取り合い地図上でふぁの居ない地域をつぶしていって虱潰しに探そうと思う。穴掘りに行ったとなると通常の道を通っているとは思えないからこれが正しいはずだ。幸い裏山は150メートルしかないからなんとかなる。で班分けだが、」

志穂美「弥生ちゃんは残ってなさい。」

弥生「へ?」

まゆ子「そうよ、弥生ちゃんは責任者としてこの場にとどまり全体を指揮する必要があるわ。万一の時には警察とか救急車とか呼ばないといけないし、二次遭難の危険があるからその時はちゃんとした決断を出来るヒトがここにいなくちゃ。」

弥生「そんな、」

しるく「という訳なのよ。やよいさん。」

じゅえる「ついでに言うと、そうなったら一番怒られるヒトがこの場に必要なんだけど。」

志穂美まゆ子「ぎろ」

志穂美「鳴海はここで弥生ちゃんのサポートをしなさい。」

鳴海「えーー、私も探します。足手まといにはなりませんよお。」

まゆ子「だーめ。聖ちゃんもここで待機ね。」

聖「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

志穂美「夜目が利いても足手まといだ。」

聖「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

まゆ子「じゃあ、班分けは”しるく・じゅえる”、”まゆ子・志穂美”、”明美・明美”で行きます!」

弥生「あうー、すまない。捜索は上り口のある南側半分に限定、左右に展開、横方向に捜索。しるく組とまゆ子組は左右深部探索、明美組は道の近辺を丸く広範囲に探索する事。発見できなければ道に一度集合して三組同時に登る事。いいね。」

全員「了解。」

弥生「鳴海ちゃん、通信担当ね。」 鳴海「はい!」

まゆ子「ふふふ、のくとびじょんが役に立つ日がきたあ。」

しるく「では出発します!」

明美明美「いってきまーす。」

聖「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

弥生「うん、二次遭難するとしたらあの組だね・・・・。」

 

20メートル地点

明美「ふぁー。」明美「ふわさーん。」

まゆ子「じゃあこの地点から始めましょう。弥生ちゃん。」

弥生「やよい了解。気をつけてケガしないように。」

まゆ子「まゆ子おーばー。」

 しるく組は左側に、まゆ子組は右側に入っていった。明美組はともかく大声を出して呼び掛けるのが主任務とされている。これならドジりようがない。

弥生「といってもふぁだってどこもかしこも掘る訳にはいかないだろうし、どうやったんだろう。」

聖「」   弥生「ふん、この山は頂上にあんてなと祠があって、それは金比羅さんだと。金比羅さんにお墓があるのは不自然だからその骨壷はかなり私的に埋葬されたものの可能性が高く石積みも無かったという話だから、ふぁがお墓を探している可能性はむしろ低いと。ふんふん。つまりふぁは墓荒らしではなく金目のものを探すのだから人工物の近くを掘っているはずだと。なるほど。つまりなにか目立つものの側にいるって事だね。まゆ子。」

まゆ子「こちらまゆ子。」 弥生「ひじりっちゃんが言うにはふぁはお墓ではない人工物の側にいる筈だってんだけど、どう。」 まゆ子「そうね、実はお墓ってここらへん無いのよ。それにふぁが山に登ったのはもう夕暮れの時刻だったから、たしかに目立つものの側にいる可能性が高いわ。」

じゅえる「こちらじゅえる。わたし思い出したんだけど、ふぁってこの裏山に前にカブトムシを採りに来た事がある筈なの。つまり土地勘はあるって事でしかもカブトムシ採りは日の出前に行うと言ってたから暗さはあまり関係無いと思うよ。」

弥生「ふむ。ではふぁは前もって何かありそうな場所を知っていたと考えた方がいいね。で、骨壷発見に刺激されてその場所を掘ってみたくなる衝動に駆られたと。」

聖「」 弥生「ふむ。一番ありそうな頂上の金比羅さんは除外してよい、って? 確かに何か出るとしたらそこが一番有りそうだけど、逆に祠の内部や直下にこそそういうのは有って祠を破壊しなければ発掘は出来ない。ふぁにはそれだけの度胸は無い、と。」 じゅえる「まったくだ。さすが聖だ。ふぁは本質的に墓荒らしには向いてないって事ね。」 まゆ子「そうなるとその他の祠にも手は出してないはずだ。つまりふぁは誰のものでも無いお宝が欲しいんだから、」

弥生「つまり、捨ててあるものだ。ゴミじゃない、でも高価そうなもの。なんだろ。」

明美「いませーん。弥生ちゃん。この近くは居ないみたい。」 弥生「了解。しるく。まゆ子、どう。」

しるく「ダメみたいね。」 志穂美「いぶり出すって方法はないか。火を使って。」 まゆ子「そんな無茶な。」 弥生「一度戻って上昇します。」

 

40メートル地点。

明美「ふぁーあ。」 明美「ふわさーん。ぎゃ!」

まゆ子「こちらまゆ子。明美二号が足をケガしました。すり剥いただけです。」 弥生「探索を続行しろ。そんなケガはいつもの事だ。」 明美「そうだよ、こんなの乱闘でたたかれるのにくらべたらどうって事無いわよ。」 明美「でも痛いですー。」

志穂美「こちら志穂美。けもの道っぽいのがある。探索するか?」 弥生「いや、声が届く範囲であれば水平に探索しなさい。」 志穂美「了解。」

弥生「鳴海ちゃん、志穂美の武装はなんだっけ。」 鳴海「ヌンチャクです。鉄で出来てます。」 弥生「それならイノシシが出ても大丈夫だな。」 鳴海「えーと、まゆ子さんはMー16のエアガンでしるくさんは木刀です。じゅえるさんはフラッシュライトです。明美さんは金属バットで二号さんは救急箱です。まゆ子さんはのくとびじょんってのを持ってます。」 弥生「それは軍用の奴だ。どうしてそんなもの持ってるのかね。」

志穂美「こちら志穂美。ゴミ発見。」 弥生「ゴミ?」 まゆ子「そうなのよ、ゴミ。ただしふぁが出した物じゃないわ。」 弥生「どういう事?」 まゆ子「つまりここは人の来る所だって証明なの。」 弥生「なる。で、そこは何がある?」

しるく「こちらしるく。テレビ発見。」 弥生「え?」 じゅえる「不法投棄の廃品よ。かなり色んな物があるわ。斜面に沿って下の方に溜まってる。」 弥生「ふぁが行きそうな感じ?」 じゅえる「いや、・・これはどっちかって言うとまゆ子向きだな。」 まゆ子「こちらまゆ子、ふぁは廃品には手を出さない。あの子は結構奇麗なものが好きだ。」 じゅえる「そう。ふぁは色とか形とかが奇麗なものにしか手を出さない。」

聖「」 弥生「しるく組撤退せよ。ケガしないようにね。まゆ子、そっちの方のゴミは何?」 まゆ子「食べ物みたい。アイスの包み紙と、お菓子だね、この袋。」 聖「」 弥生「なるほど、子供が遊びにくるような所って事だね。ふぁは当然この右側の方に来た事がある筈だ。」 まゆ子「でも行き止まりだ。というか、岩がある。これをよじ登るんじゃないかな。」 志穂美「止めた方がいい。知らないと登れないというものがある。上からいこう。」 弥生「撤退せよ。」

 

60メートル地点。

明美「ふぁー、ぎゃ!」 明美「だいじょうぶですか、ぎゃ!」

じゅえる「こちらじゅえる。明美一号が転倒。どろだらけになっただけだけどね。」 弥生「二号の声も聞こえたけど。」 じゅえる「おおきな蛾が顔に止まっただけだ。」

まゆ子「こちらまゆ子。先程の岩の上を探索する。」 しるく「しるくです。廃品の不法投棄していた所へはこちらからは行けません。もう少し登ります。」 弥生「やよい了解。明美の声がちゃんと聞こえる所までで戻って。」 しるく「了解。」

まゆ子「こちらまゆ子。ふぁの気配無し。こちらじゃないみたい。岩の上に何か人工物がある、って志穂美、ちょっとちょっとあぶない!」 志穂美「確認した。岩を抉った穴に小さな神棚みたいなものがあり中に古い短刀が突き刺している。錆びているけどしっかりしたものだから、それほど古くはない。ひょっとするとまだ誰かが使ってるのかもしれない。」 まゆ子「志穂美危ない。弥生ちゃん、志穂美イエローカードだ。岩によじ登るんだもん。」 弥生「弥生了解。志穂美あとで厳重注意ね。」

じゅえる「こちらじゅえる。道がある。別の上り口だ。」 弥生「そりゃまずいな。そっち行ったかもしれない。」 まゆ子「こちらまゆ子。こっちはもう40メートルくらいは岩が切り立っていて登れない。ふぁはこっちにはいない。」 弥生「了解。どうするかね。」

まゆ子「弥生ちゃん、足跡探させて。」 弥生「あ、そうか。」 じゅえる「あしあと?いや、それが見えないんだけどね。」 まゆ子「足跡だけじゃないんだ。スコップもふぁは持ってるんだ。それを地面に突き刺して登ってるはずなんだ。」 じゅえる「了解。」 まゆ子「弥生ちゃん、私達もそっちに行こうか。」 弥生「うーん、もうちょっと待って。」

弥生「鳴海ちゃん、地図だ。」 鳴海「はい。」 弥生「うーん、これだね。別の上り口というののは。まゆ子の方は、急傾斜地になってる。ふぁは登らない。うん。」 聖「」 弥生「ああ。なるほど。この上り口の上になんかあるね。」

じゅえる「こちらじゅえる。足跡とスコップ跡発見。足跡は滑っててふぁかどうか分からないんだけど、スコップは間違い無い。」 弥生「まゆ子組、しるく組の方へ移動せよ。じゅえる。その合流ポイントの上に少し開けた場所は無い?」 じゅえる「開けた、ってのは無いけどなんか草が生い茂ってる所はあるよ。」 まゆ子「こちらまゆ子。そこはなんか地図に載ってるの?」 弥生「いや、でも聖ちゃんが言うには人工物は作るべき所に作るんだって。この合流地点からアクセスしやすい広場みたいなのはどうもクサい。」 まゆ子「なるほど。」

しるく「こちらしるく。声が聞こえるわ。ふぁだわ。」 じゅえる「これは、昔の防空壕みたいなものかしら。洞穴だわ。表もちゃんと板で封鎖してるけどもう木が腐ってる。」 弥生「やった。明美組はしるく組の方へ急行。まゆ子組は集合地点まで下がって待機。 やったね!」 鳴海「いえい。」

じゅえる「こちらじゅえる、ふぁ発見。落とし穴におっこちてる。」 ふぁ「ひーん。やよいちゃんごめんなさい。」 しるく「ケガはしてないみたいなんだけど身動きが取れなくなってたみたいなの。」 ふぁ「ひぃー。たすけてえ。」

 

 こうしてふぁは救出された。なんでも彼女は昔聞かされた「Q資金」というのを掘りにきたのだという。終戦の時分に日本復興の為に武器弾薬とともに大量の黄金が山の中に隠されて、その一部がこの裏山の防空壕跡に今も眠っているのだと。だが、まゆ子にQ資金というものが戦後日本の経済の裏面史でたびたび登場するペテンの常套手段だと聞かされふぁは沈黙した。その話を教わったのが近所の質屋の娘だ、って所で普通ほら話だと気付くだろうと指摘されるとぐうの音もでなかった。

 以後ふぁはせこせこと地道に小銭を稼ぐのに精を出し、一攫千金を目指す事は無かったという。

 

明美「こちら明美、テレビ発見。救援を乞う。」 明美「あうーー・・・・。」

 

END

2000/09/25

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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