ご主人さまとわたし 設定 第6夜

 

今回は、「くっちゃりぼろけっと」で適当に増補したのをまとめてみました。というか、くっちゃりは長いから検索むずかしい。

 

2005/5/29

まゆ子「おまえたちに期待したあたしがバカだった。ということがよくわかった。」

釈「お分かり頂けたでしょうか。」
まゆ子「分かり過ぎるくらいよく分かった。と同時に、私も甘かったというのもよく分かった。」
美矩「土台、SFを他人に任せるなんて事が、そもそもおばかな考えだったんじゃないでしょうか。」
明美二号「なにせSFですから。」

まゆ子「あ〜、そうなんだ。SFなんだよ。でもモノとキャラと枠組みを与えてればバカにでも出来ると考えた私がバカでした。バカにはSFは出来ない。」
釈「なかなか思い切りがよくてよう御座いました。」

まゆ子「はー、やっぱねえ、統則ロボットを絵に描こうと思ってこのシリーズ立ち上げたんだよ。それを外す? まったく、なんの為にやってるのか分かんないじゃない。
 でもやっぱ私が悪かった。つまり、スタイルを確立しなかったのが、他のSF作品と似たようなスタイルをそのまま流用してSF描こうとしたのが間違いでした。極めて特徴的な未来図というものを、他者の追随を許さないような画期的なスタイルを作らなければなりませんでしたよ。ごめんなさい。」

二号「そもそもどういうスタイルと意図していたんです。」
まゆ子「いや、今主流のハリウッドスタイルの、特殊部隊があってハイテク機材があって、テロリストが居て、という極当たり前の世界観を使えば、素人でもSFできるかなーと。」
美矩「そりゃ出来るでしょうけれど、つまんないものしか出来ませんよ。」
まゆ子「そうなんだ。統則ロボットを出せば差別化出来るというものではなかった。見るからに違うというものを出さなければいけなかった。ということで、画期的なSFのスタイルをぶち上げる。」

釈「どのような。」
まゆ子「とりあえず統則ロボットは出るわけだ。つまり、対テロ部隊は統則ロボットで戦う。敵は武装難民やら犯罪者やら。これはいい。これ自体は極普通だ。しかし人間の生活自体はそれほど進歩しないという現在主流のSF近未来世界観が良くなかった。ここんところを凄い変更する。」
美矩「はあ。」

まゆ子「まずコンピュータは全廃だ。コンピュータ無し!」

二号「ええええ! それはあんまりにも思い切り過ぎるのではないでしょうか。というか、コンピュータ無しでSF出来るんですか?」
まゆ子「もちろん、人体に埋めこんだ電脳なんてものも無い。ケイタイがコンピュータの代わりとかも無し。頭にロボットが取りついてるんだ。」

美矩「ま、まさか。」

まゆ子「そのまさか。聖蟲方式で行く。人間が思った事を聖蟲が読み取って、代理人としてやってくれるのだ。頭のいい人は二匹も三匹憑いて居る。」
明美「でもそれは、しかし、というか、電脳では無いんですか」
まゆ子「電蟲だな。もちろん色んな機能が付いている。ケイタイなんかもう誰も持っていない。でも、電脳と違ってちゃんと代理人の役をやってくれる。ここがミソね。いつもひとりじゃあないのだよ。」
明美「ペットですね。」
まゆ子「ペットだよ。ただし、戦闘力もあるものもある。そこらへんは色々な製品が有るんだ。」

釈「どうやって脳内に情報を伝えるんですか?」
まゆ子「誘導電流だね。脳内にマイクロマシンが入ってるのは同じだけれど、聖蟲の場合はぽっと取ればまるっきり無縁になれる。解放される。その方が便利はいいでしょ。寝てる最中も強制的に叩き起こされないんだから。」
明美「それはそうですね。それはそうだ。要らない時にはすっぱり外せる方が精神衛生上いいです。」
美矩「スイッチ切ってるだけ、と、ちゃんと外せる、てのでは気分違いますから。」

まゆ子「ついでに言うと、もっと大型の機能満載のものとかと接続して、TPOに合わせて能力を換える、てことも出来る。ヘルメットに内蔵とかね。」
明美「それは便利ですが、どっかで聞いたような話ですね。」
まゆ子「ネジ穴付きサイボーグのことだろ。同じ発想だよ。必要な時に機械と接続することで初めて所定の性能が発揮される、という設計思想なんだ。」

美矩「あの、聖蟲は頭から離れたら無力ですか?」
まゆ子「そうでもない。電波でも繋がってるから、身体のどこにでもくっつけて、かなり自由だよ。だからロボット型でなくても構わないが、可愛いじゃないか。」
釈「やはりデザイン重視ですねえ。」

まゆ子「次行こう。この世界の人は皆変な服を来ている。簡単に言うと、パワードスーツだ。といっても嵩張らない。全身タイツに仮面ライダーみたいなちょっとごついパーツが付いてるなというくらい。」
美矩「めちゃくちゃ変じゃないですか。」

まゆ子「ところが、屋内に入るとすぐ外れるんだ、それ。いわば着る自転車なのだな。これを着用することで、道路をすーっと車輪走行する。ほら、子供が足に着いたローラーで走っていくみたいな感じ。あれの電動版でプロテクターが付いているわけだね。多少のパワーアシストもあるし、軽防弾機能もある。というか、医療バイタルセンサもついていて自分の健康を管理してる。ちなみに脱ぐとその機能は聖蟲が引き継ぐから、皆くっつけてるわけね。」

釈「そんなものが無くてもいいような気もしますが、ダメですか。」
まゆ子「皆着てるもの。というか、これを利用することでダメダメになった都市インフラの再整備があまり必要で無くなったんだ。市内バスや地下鉄とか、エレベータエスカレータとかがぶっ壊れていても大丈夫。この世界の人は不便なのが当たり前の生活をしている。」
明美「50年後なのに、不自由ですねえ。」
まゆ子「戦時下に近いようなものだよ、海面上昇もあるし、犯罪やらテロやらもあるし。」
釈「なるほど、ヤバいんですね。」

まゆ子「クーラーもヒーターもいいかげん。第一地球温暖化防止の為に省エネしまくってるから、個人をパワーアップした方がエネルギー効率良くなったんだ。だから体温調節機能もちゃんと付いている。これを着て寝ても凍死しないし熱射病にも掛からない。ホームレスもこれ一つで十分。逆にこれがあるばっかりにホームレス増大してる。」
美矩「それは・・・・めいわくな。」
まゆ子「もちろん、着ない人も居るのだが、そういう人は極一握りの高所得者階層なのだよ。パワードスーツが無くても快適に過ごす事が出来るわけね。」

釈「でも、高くないんですか、そのスーツは。」
まゆ子「一番安いのだと、9,800円で売ってる。車輪無しアシスト無し、体温調節機能有り、防弾耐刃保証ナシ。ホームセンターで普通に売ってる。」
美矩「やすー。」
明美「それはペラペラの薄手のパワードスーツですか。」
まゆ子「アシスト機能無いから、単なるコートだね。車輪は靴の方でなんとかするタイプ。これでも、おもちゃみたいな負傷目的の地雷くらいは大丈夫なのだよ。」

明美「もっと一般的普及帯の製品てのは、どういうのです?」
まゆ子「3万円くらいから、まともな防弾機能アシスト機能が付く。つまり背骨が入るのだよ、電源付きの。防弾性能も保証が付いて拳銃弾くらいは胴体部ではほぼ大丈夫になる。車輪は無いけどね。」

美矩「フルスペックだと、どうなります。」
まゆ子「コンピュータ並の15万円くらいだね。原付きバイクがまともなのはそのくらいでしょ。脚部にもアシストが入って歩行補助、車輪移動機能付。全身アシストで運動性能を統合的に拡張。防弾のみならずフレームが入っていて槍で突かれても大丈夫になる。電源がその分大きいから、かなり大きいのだけれどね。これ以上の装備を求めるならば、車を買え、という事になる。」

釈「ふむ。3万円くらいので上等ですね。」
まゆ子「学生はね。靴に車輪が付いてるの、てのも2万円くらいから売ってるけど、保護スーツ必須。つまり5万円は普通に必要だってことだよ。」
明美「かなり、マジな話ですね、それは。じつに想像しやすい。」
美矩「それに頭の聖蟲が何万円か、てところでしょ。トータルで10万円くらいは装備が要るわけですよ。」

まゆ子「でも安全には替えられない。あ、ヘルメットは最安値のものでも簡易なのが付いてくる、合羽みたいなものだから。専用ヘルメットの方が勿論いいけれど、上等な防弾機能、情報処理機能、生体維持機能とか付いてるし。」

明美「自転車ってのは、無いんですか。」
まゆ子「盗まれるもの。」
美矩「あー。」

 

まゆ子「そういうわけで、ロボット技術が相当に導入されてるのね。荷物運びとかはロボットトレイが行う。台車がロボットになってるのだね。階段とかでもスムースに50キロくらいは普通に運ぶ。コンビニの商品搬入とかも勝手にやってくれる。また、屋内に入って脱いだパワードスーツもトレイが勝手に保管場所に持ってってくれ、聖蟲で呼び出すとつるつると持ってきてくれる。」

明美「普通のロボットはどうなんですか。」
まゆ子「ちゃんとあるけど、メイドロボは少ない。メイドロボは高い! だからもっとまぬけな着ぐるみ系ロボが活躍している。つまり、保護材で全身を覆った人間サイズロボットね。もちろんパワーはあるけど、安全上あまり早くは動かない。トレイが早く動くから別に構わないんだけれど。ともかくインフラがぶっ壊れている状態を前提にしたロボットだから、あまり高性能ではなく堅実そのものなのだな。人手不足を補うため、あるいは危険物やら爆弾やらも処理するようにできている。」

釈「絵に描いてみないと、ちょっとわかりづらいですね。」

まゆ子「もっともだ。だがそこに統則ロボットが入って来るというのがかなり問題だな。そういう社会なら統則ロボももっとスマートな存在でないといけない。

 あ、そうそう。なんか2CHの軍事板の銃弾スレを覗くと、近々米軍は銃弾を新型のものに取っかえるらしい。5.56ミリから6.8ミリ弾になるのだ。これはつまり5.56ミリが軽過ぎて、遠距離射撃だと空気抵抗でエネルギーを失うのが早くなり、沙漠とかの遠距離で打ち合う戦闘にはかなり支障を来すからだって。かといって、7.62ミリとかはデカ過ぎるし弾道特性もあんまり良くなくて、試してみた結果三八式歩兵銃が使っていた6.5ミリ弾が弾道特性も威力貫通力も歩兵銃としては最適だったらしいよ。ただ、やっぱ、米軍が6.5ミリ使うのはさすがに憚られるらしくて、弾頭重量を増やす為と称して6.8ミリになったという話、ほんとはどうか知らない。たぶん50年後だとこの6.8ミリ弾の方がポピュラーな気がする。統則ロボットが採用する鉄砲もそうなると設定変更だ。」

釈「口径が大きくなるんですね。」
まゆ子「うん。ま、近距離の殺傷力は5.56ミリでも十分以上なんだけれど、遠距離戦も多くなって来たからね。50年後の海浜やらでの戦闘も距離はかなり遠くなる。三八式歩兵銃は状態の良いものならば狙撃銃としてもつかわれたくらいに遠距離の弾道特性はいいから、当然の選択なんだろうね。」

明美「えーと、じゃあどうなりますか。」
まゆ子「ほとんど変わらないが、アサルトライフルの弾倉がちょこっと大きくなる。その程度かな。

 まあそういうことで、色んなとこがちょこっとずつ変わる。タコハチのデザインももうちょっとスマートで未来的になる。」
美矩「えー、じゃあ円条寺さんはどうなりますか。」
まゆ子「う〜ん、そこはやはり、土器能登子さんでいこうと思う。では、じゃあ、そういうことで、一応テストをやってみるぞ。」

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「土器さん、新しいアクトスーツどうですか。」

 アクトスーツというのは、内勤の警官が着装する軽装備防弾アシストスーツのこと。テロで警察署内にも砲弾が普通に打ち込まれる御時世なれば、事務職といえども装備に気をつかわなければいけない。私が休んだ一週間の内に、いつのまにか装備が入れ代わっていた。

「うーん、変わらないよ。色も前のと一緒だし。メーカー変わった?」
「いえ、ここんところに電池ホルダーが付いて長時間勤務にも対応と、」
「なんだ、残業中充電しなくていいようになっただけか。」

 蔡典子巡査は私の感想にあまりいい顔をしなかった。たぶんもう少し細かい変更がなされているのだろうが、アクトスーツなんてものは署内を冷暖房設備の負担から解放する程度で構わない。

 地球温暖化のこれ以上の進展を防ぐ為に大規模な室温調節は忌避され、個人個人を直接体温コントロールする事になった。毎年平均気温が10度も違い極端な猛暑から真夏に雪が降るとかにもなれば、衣服にエアコンをくっつけてしまう方が合理的だ。だが、それに防弾機能や通信AV機能、生体監視機能、運転支援機能等々ありとあらゆるモノを搭載すると、こういう大げさなアクトスーツになる。外勤警官はこの上に更にハードシェルアーマーを装着し全周監視機能、環境音響場解析機能、射撃管制機能にスピーカーやフロート、呼吸補助フィルタまで装着してまるでおもちゃのロボット兵の姿になってしまう。 

「すなおに人型ロボットを導入すればいい、と思うんだけどね。」
「それはウチの課の頑張り次第でしょう。」
「違いない。」

 私の名は土器能登子(かわらけ のとこ)巡査部長。中四国州廣嶋中核首都警察高速展開ロボット隊の第一チーフオペレーターだ。高速展開ロボット隊とは、遠隔操縦の武装ロボットを使用して市内に起る凶悪犯罪やテロ活動、交通危険行為を鎮圧するのが目的の部署だ。元は軍用に開発された運動性の高いロボットを使用するのだが、本来はこういう風には使わない。静かに隠密裏に敵の警戒網を掻い潜り至近に忍び込んで目的を果たす、ニンジャのようなロボットで特殊部隊の活動の代替を見込んで開発された。戦時中は私もこれを操ってかなりの戦果を上げたのだが、それから十年、軍を離れてもなお戦闘ロボットからは逃げられていない。

「で、昨夜の出動は二件ね。手動操縦車の暴走鎮圧に、泥酔したヤクザが酒場で銃を振り回した、と。」
「後の方は説得で収まりました。9ミリですから撃たせても大丈夫だったんですけどね。」

 内勤の警官までが防弾服を常時着用しているくらいだから、民間人も皆軽防弾服くらい持っている。ましてや戦後の混乱でごたごたして復員兵やら武装警備員やらがうろつく盛り場では、標準装備だろう。警察用より高いブランドモノの高級スーツだって存在する。ほとんど剥き身の美人のおねえちゃんというのは、それを毎日買い替える事の出来る奴でなければお目にかかれないだろう。

「結局はヤクザじゃなくて界面都市の警備員と判明、奥さんに逃げられたとかで荒れてただけみたいです。拳銃だって20世紀のもので弾丸も3発しか入っていませんでした。」
「まぐれ当たりでも人は死ぬんだから。」

 「仁義なき闘い」の時代から広島は極道の多い土地柄だが、現在もやはりそうだ。特に中国や朝鮮半島からの難民を封じ込めている旧広島市南区の界面都市では、なんとかしてのし上がろうとする難民の集団と既得権益を守ろうとする地元ヤクザとの抗争は日常茶飯事となって全国に悪評を轟かせている。ボートや水中スクーターを使っての難民居住区への襲撃も普通に行われて、どこから入手するのか旧世代の対戦車ミサイルを相互に撃ち合っている。

 高速展開ロボット隊の必要性もここにある。陸上からだけでなく海からも展開出来るこのロボットは、本来任務もやはり島嶼部や水没した都市の廃墟での上陸戦、生身の特殊部隊員を使うにはあまりにも危険な局面を専門に行う為に作られた。なにせ、

「・・・・タコハチ四号、五号の通常メンテナンスと補給終わりました。五号のガワにちょっと傷入ってますよ。昨日パトカーから転落しましたから。」
「はい、嵐山さんごくろうさま。」
「あ、土器さん。もう身体の方は大丈夫なんですか。」
「身体の調子が悪いのと、マイクロマシンの調子が悪くて不快感がある、というのはちょっと違うんだけどね。」

 嵐山巡査、名は”どろっぷ”というおかしな名前の婦警だが、も統則ロボットオペレーターで私の指揮下にある。

 統則ロボットとは分散処理の一形態である統則理論に基づいて作られたロボットの事で、特に人工筋肉で構成されるマニュピレータを持つものは現在ほぼすべてこの制御方式を使っている。頭足類を模したロボットというわけではないが、海陸を共に移動できる高機動武装ロボットに最適な形状を模索した結果、遠隔操縦ロボットはタコのかたちになってしまった。

 私はこのタコロボットを使って南洋の島々で武装難民や海賊と三年に渡る戦いを行った。2042年から47年8月まで続いた「太平洋諸島戦争」だ。この戦争の特徴は、主権国家同士ではなく、武装難民や私兵、ゲリラ、テロリスト、海賊といった確固とした中核の無い武装組織の同時多発蜂起との全面対決になったという点だ。特に中国から流出した武装難民が太平洋全域に散らばり、地球温暖化による海面上昇の対策に大童の海洋国家すべてに襲いかかった。海面上昇は世界中で起ったから、「インド洋戦争」「大西洋戦争」「地中海侵蝕戦争」「アメリカ周辺戦争」「南極戦争」というのが同時に発生し、軍事大国はそれぞれの領域において大規模な鎮圧戦に臨んだ。これが「第一次世界同時紛争症候群」で、二回目はまだ無いのにもうナンバリングが振られているのは、誰もが今後何度でも起ると予想しているからだろう。

 8月15日、奇しくも100年前の世界大戦が終わったのと同じ日に、日本国軍は太平洋におけるほぼ全ての武装勢力の鎮圧の終了を宣言して兵力の引き上げを開始した。その少し前、6月の終わりに私は「毒矢」で撃たれて負傷して戦場を後にした。その時の後遺症で免疫系に修復不能のダメージを得て、マイクロマシンによる補完を受けている。この医療用マイクロマシンが曲者でよく動作不良を起して全身の倦怠感や骨格のきしみ、貧血や嘔吐を引き起こし、たびたび私を病院送りにする。

「でも、るぴかちゃんももう小学生だから、大丈夫でしょ。」
「三年生だよ。まあ随分と手間が掛からなくなったけど、その分私が迷惑掛けちゃうのだね。」

 娘は9歳。毒矢に撃たれて人事不省になった際に妊娠が発覚して、私が入院中に勝手に生まれた。全身毒素で汚染されて子宮や卵巣も重大なダメージを被ると、組織保存処理をしようと検査した時に、妊娠2週目の彼女が発見されて体外に移され、人工子宮内において生育し、私の退院とほぼ同時に出産となった、母にまったく迷惑を掛けなかった良い子だ。人工子宮といっても人間の遺伝子を導入された豚の子宮を使うもので、或る意味では人間の母親の胎内で育つよりも健康に育成される。「ブタから生まれた子」といじめられるかと心配したのだが、現在の小学校というものはそこらへんはちゃんと教育してくれているようだ。

 無駄口を叩きながらも、休職中のデータをチェックする。署には出ていなかったがコンピュータを接続しなかったわけではなく、多少は事務処理をやっていたし、彼女たちに手に負えない重大な事件が起きた場合はコントローラを病院に持ち込んでタコハチロボットの遠隔操縦をする積もりだった。遠隔操縦、といっても特殊部隊と同じ任務を行うこの手の戦闘ロボットは、オペレーターもなるべく現地に投入して近くで操作するのが基本だ。そうでないと、友軍の兵士が死ぬ事が、なぜか多い。現場の空気を吸う事で緊張感を共有して、ロボットの操作にも影響するのだろう。可能な限り現場に赴く、これは統則ロボットオペレーターの鉄則だ。

 

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まゆ子「てな感じ。」

明美「いちにんしょうだ。」
釈「一人称が効いてますね。これが正解ですか。」
美矩「確かに、今までとはちょっと違います。」

まゆ子「これで行こう。未来の世界のタコ型ロボットを描くには、その馬鹿馬鹿しさを誤魔化す為に過剰な現実感、皮膚感覚が必要だった、という事だね。」

釈「なんだか知らないけれど、出来た!」
明美美矩「できた!!」

まゆ子「というわけで、これをどういう風に一冊の本にするか、という問題になる。
 だが出来てしまうと、なんというか、円条寺さんも入れる事が可能になるねえ。」
釈「妙なものですねえ。一生懸命やっても出来なかったのに。」

まゆ子「というわけで、以前の計画をそのまま続行することにする。異議は無いね。」
二年「ありませ〜ん」

 

まゆ子「で、これもまた、6回裏表プラス締めくくりの13回構成とする。」

美矩「弥生ちゃん先輩のゲバルト処女とおなじ方式ですね。」
まゆ子「つまり、6回裏表、30頁を一回としたお話にする。ただしゲバルト処女と違い一回裏表で完結するようにする。」
美矩「一回ごとに集中するわけですね。続き物ではないのだから。」

まゆ子「そういうことです。

 

  1、統則ロボット参上、その活躍
  2、機動ロボット隊の話と運用の枠組み
  3、怪しい女円条寺蓮登場。37ミリ砲の導入
  4、円条寺、怪しいまねき猫導入。市内の一般人の生活の話
  5、統則ロボット隊、大規模犯罪を察知。解決
  6、大規模犯罪の裏事情が判明し、真の敵が姿を見せる
    (13)、次のステージへ行くための準備の章

美矩「短い。」
明美「これでは難民の事とかは全然書けないんじゃないでしょうか。それに、真の敵と、俗な大敵と、二つ来るんでしょ。これはピルマル細胞の敵は出番が無いですよ。」

まゆ子「そうなるかな。しかし、十三回で書けばこんなものだろう。」
釈「確かにこんなものです。でも、釣り具合が今ひとつよろしくないと。」
まゆ子「うーん、では。

 

  7、難民都市内部を探索して、武装難民組織を抉り出す
  8、武装難民組織の大攻勢計画を完膚なきまでに叩きのめす。その焔の中でピルマル細胞の敵が出現
  9、円条寺蓮の電気まねき猫の効力の正体が判明する。土器能登子と円条寺蓮、対決
  10、円条寺蓮のお話と、真の敵の話
  11、武装難民組織を動かす極悪人の姿が見える、円条寺の情報で捕まえられそう!
  12、大捕り物作戦。しかし失敗して混乱する中国に脱出する
    (13)、この作戦のせいで、円条寺蓮の存在が真の敵に知れる

美矩「なるほど。エピソード2の方が燃える展開ですね。」
明美「ゲバルト処女もそうだけど、色々と舞台設定が整った第二話の方が面白そうですね。かなりガチな展開です。」
釈「これでは、エピソード3を書かないわけにはいきませんね。でもどうします。中国に行きますか。」
まゆ子「いや、行けないだろう。行くべきではない。その代わり向こうから強敵がやって来ることになる。

 

  13、統則ロボット隊、これまでに無い強力な武装をしたプロの敵と遭遇。土器能登子の能力でかろうじて勝つ
  14、軍情報部からの情報で、廣嶋市を標的とした中国国内の特殊部隊組織の暗躍が判明。対応を急がれる。円条寺、不在。
  15、統則ロボットオペレータに対する暗殺、という手段が実行される。ここもかろうじて危機を乗り越えるが、ポイントに円条寺の示唆があった。
  16、既に大半が判明した廣嶋電猫曼荼羅を逆用して、統則ロボット隊の大勝負。
  17、大勝負の決着が着く中で、電猫曼荼羅の真価が炸裂。円条寺、真の敵と会う。
  18、統則ロボット隊、難民都市内に進入して敵を追う。円条寺、真の敵と対決。
    (13)、ついに敵を拘束。円条寺、廣嶋市を去る。(目的は果たせなかったらしい)

美矩「つまり、序章、快進撃、ピンチを耐えぬき大勝利、という路線ですね。」
釈「実に少年漫画的な構成です。素晴らしい。」

まゆ子「まあ、こういう風に作れば面白いとこは確実に抑えられるでしょう。面白いのが一番。」
明美「他人に読んでもらわなければ意味はありませんから。」

まゆ子「じゃ、今日のところはこういう感じで。土器能登子の親子の物語とかもまぜまぜしなくちゃいけないから。あ、それと、広島なんだからヤクザについても研究して、未来派ヤクザを導入しなくちゃね。」

 

 

2005/4/26

しゃくてぃ「さて、現在『ご主人様と私』改題『統則最前線』は停滞しきっているわけなんですが、この原因を究明し解消しようというのが今日の話題。」

美矩「そんなむずかしいこと、私たちに出来るわけないじゃない。」
明美二号「そもそも、わたしたちの管轄じゃないような気がするんだけど、でもなんか策があるというの、釈?」

釈「これはー、かなり凄まじい策ですが、多分効きますよ。まゆ子先輩に殺されるかもしれませんが。」
美矩「試しに言ってみて。」

釈「じつはーわたし考えた所、統則最前線を停滞させている最大の原因が、主人公の土器能登子さんだ、という事に気付いたのですね。」
明美「あー、それは禁句だよ。」
美矩「じゃあなに? ひょっとして、土器能登子さんを、外そうとか。」

釈「そんな事出来るわけないじゃないですか、統則ロボットと土器能登子さんは一心同体、統則ロボットを扱う所かならず能登子さんは出没するのです。」
明美「そうだよね、そうなんだ。」

釈「というわけで、統則ロボット自体を外そうと。」
美矩「げえげげげげげ、それじゃあ換骨奪胎どころか、完全入れ換えじゃない。」

釈「幸いにも、円条寺蓮さんの電気まねき猫は凄まじい威力を発揮する事が、その作動原理を確定した時に判明したのですね、そこで、統則ロボット自体をさくっと。」
明美「いや、だって、・・・大丈夫なの。」
釈「さくっと削除するだけじゃあありません。むしろこっちの方がより酷い話なんですが、脇役に使います。」

美矩「どういうこと。」
釈「出るのです、統則ロボットも土器能登子さんも。でも、出るだけ、その他大勢、いや背景として、単なる道具としてトラブルを解決する一手段として、まるっきりストーリーの根幹に関らないように登場するのです。」

美矩「たとえば、”突如出現した難民ゲリラは、円城寺蓮の予測の範囲を完全に逸脱することはなく、待ち構えて居た高速展開ロボット部隊に鎮圧された” とかこんな具合で終わり?」
釈「その程度です。」
明美「冒涜だよ・・・。」

美矩「でもね、でも会話文が主体でないと話は書けないし能登子さんを排除しちゃうと、登場予定人物はごっそり居なくなっちゃうよ。」
釈「円条寺蓮さんは、人一倍喋る女です。あんまりおしゃべりなのでそれを理由に暗殺されそうになってしまうほどです。」
明美「そんなに喋る人ならば、なんとかなるのかな。

   ちょっとやってみよう。」

 

「・・・突然ですが、ココから先は立ち入り禁止です。」
 とその大柄な女は通路に立ち塞がり、彼らとその後ろに続く数名の足を止めさせた。
「ちょっと待て。あんたは誰だ。なんの権限があってここをとうせんぼする。」
 女はにこやかに微笑んだ。警察署内においてははなはだしく場違いな笑顔だ。場違いと言えば彼女の服装も、一見すると婦人警官の制服の礼装に見えるものの、実は私服でしかも胸を強調するデザインの、非常識に大きいその胸部をこれ見よがしに突き出してみせる実にけしからん服装だった。
「・・民間人か。」
「いえ、私こういうものです。」
 と胸ポケットから名詞を差し出し、先頭に居る50代禿の男に渡す。その見事と言うか豪華というかの胸から紙片を引っ張り出す仕草に、その場に居た者すべてが思わず首を上下させて名詞の行方を追う。
「皇宮警察統則ロボット警備研究班、円条寺蓮? まさかそんな人が何故廣嶋に、警視庁だろ、そういう肩書きを持つ人間に用があるのは。」
「ふるいですねー、そういう皇室の在り方は10年代までですよ。今は行動する宮様に合わせて、警備もより高度で機動的科学的な、統則ロボットを使った高水準の体制が必要とされるのです。」
 女、円条寺蓮はにこやかに応対するが、鐚一センチも下がろうとはしない。通行人は更に増えて十人以上にもなってしまう。行きがかり上名詞をもらってしまった50代禿の、情報電脳課長補佐皆川が代表して折衝に当たる。
「あなたの身分は一応了解しましたが、われわれがここを通ることと、あなたの職務と、どういう関連があるのです。なにか危険物を扱っているとか特殊な装備を起動しているとか。」
「起動してます。」
 ざわ、とその場の人間は状況を理解して警戒した。この、いかにも怪しげな女がやることだから、相当に怪しい装備なのだろう。という事ぐらいは現在の警察に奉職する者ならば誰もが心得ている。日進月歩で進化するロボットやAIに起因する事件の続発で、未体験前例の無い状況に対処する事を誰もが自然と身に着けされられている。
「大筋は理解したが、ではいつ通れるようになる。それとも今後この通路の使用は不可能になるのか。」
「いえ、もう少し。今所内全員の位置関係を測定していますから、ここから抜け出られては困るのです。」
「全員を、測定? それは個人情報に関する事ですか。我々はそのような通達は受けて居ませんが。」
「位置情報、つまり人間の居る状況をシステムが把握するまでのほんの少しの時間、御辛抱ください。この測定から漏れますと、ゴーストとして勘定されますから、不利益を被りますよ。」
 やはり、ろくでもない状況のようだ。もう少し、5分だけ、というので彼らは苦虫を噛みつぶす想いで耐えた。こういう無意味な待ち時間、というものは戦争からこっち、しばしば社会の各所で遭遇するからには、彼らも理不尽だとは腹は立つものの慣れるしかないのだ。
 左腕の婦人用時計を眺めて、これは現在ではほとんど使われない装飾品で大抵の者は顔面に目立たぬように貼り付けたシートコミュニケータの電波時計を参照する、蓮はようやく通行を許可した。
「システムが稼働してますから、左階段は使わないでくださいね。」
 だがすべての者が左階段を下りて行った。こちらに行くはずの無い者でさえ、なぜかそうした。下に下りて初めて、自分はなぜココを下りたのか、疑問に思い、再び階段を上る。が、元来た通路を逆行し、誰一人として目的地に行けた者は居なかった。
「・・・・これはもしかしたら、人間の行動を支配するシステム、というものが起動しているのではないですか。」
「噂には聞いた事がある。警備任務で不特定多数を誘導するのに密かに使われているらしいが、そうか。」

 

釈「こんな感じです。」

美矩「うーーーーーーむーーーーーー。これじゃあ分からない。」
明美「オチまで書かないと。それに本筋に絡んでいるのかどうかさえ分からない。」
釈「ではこんな感じ。」

「わたしの名は円条寺蓮、かの有名な円条寺治彦の娘だ。なに、父を知らない? いや、それはもっともだが、その筋ではかなりの有名人というか、私の家系はそれなりに歴史的に重要な役回りを振られて千年以上もこの日本を守る為に日夜活動をしてきたというご苦労様な家なのだ。え、御前になんか守られた覚えはない、それを素人に知られては私の仕事は成り立たない。そうね、あなた達がもし私と出くわしたとしたらたぶん、なんらかの摩訶不思議な怪奇現象の被害者となった時だけだ。一般人には全く縁の無い高度な政治的判断を要する領域での活躍は、如何に華々しくても報われる事の無い哀れなものよ。だが今回の任務はちょっと違う。なにせ私が私自身が最も目立つようにプロデュースして企画から実行まですべて関与するのだから、出ずっぱりよ。して何を目論んでいるかといえば、」

美矩「なに?」
釈「考え中。」

明美「やっぱり何者かわからない。ちょっと危ない人じゃないかな。」
美矩「これではただの舌が軽いおねえさんだよ。だめじゃん。」
釈「ふむ。」

 廣嶋西岸、つまり旧広島市南区宇品港近辺は元々埋立地である為に海水面上昇による影響をもろに被りほとんど冠水してしまった。高層ビルもまばらで会った為に界面都市も作られず、もっぱら台船を繋留して連結し、浮き島を地面としている。水没からもう20年にもなるのだからいいかげん築堤処理をするべきなのだろうが、旧市内中心部と廣嶋新市街の建設の煽りを喰って放置されたままとなる。このままでも結構有効活用がされているし、元々が向上や港湾施設ばかりで復元に急を要するモノも無いというのが後回しの理由だ。
 このような場所は大抵難民の巣窟となる。むしろ難民の巣窟であるからこそ復旧が遅れ、またそれをいいことに難民をここに封じ込めるという悪循環が形成されている。周辺の海水中にはフェンスも巡らされ、自由に外部と出入出来ないように隔離されており、内部の自治も難民独自の治安組織に任されている。
「内部の警備は、警察の管轄でしょ。武装も許しているの?」
「止めたとしてもどこからともなく調達されるものを、人員を割いて摘発するのは馬鹿馬鹿しいということで、ロボットの巡回中発見次第攻撃する、という対処を取っています。もちろん軍用火器の所持はれっきとした犯罪行為であり、その処置には法的根拠も蓋然性もきちんと確保して居ます。」
「持ってる奴はテロリスト、という論理ね。難民の反発は無いの。」
「歓迎されてますよ。そういうの持ってる奴は、難民に対して使ってるわけですから。」
「理にに叶ってるな。」
「本来ならば、陸地に収容キャンプを作るべきなのですが、ただでさえ貴重な瀬戸内の平野部を難民収容の為に割くというのは議会が承認しないのです。海上の台船上とはいえ彼らの自治があり日本人も入って来ない環境と言うのは、人権保護が十分ではないというデメリットも打ち消す許容範囲内なのでしょう。」

美矩「これは、円条寺さんでも能登子さんでもどっちでもいいような台詞だ。」
明美「おとこでも構わないな。まだダメ。」

釈「ということはー、なんだ。もっとキャラを強く印象のキツいものにグレードあっぷするかな。」
明美「出来るの?円条寺さん。」

釈「つまり、もうひとり、引き立て役を出してそいつを主人公にすればいいわけだ。」
美矩「それは定石だね。」
明美「男がのぞましいんじゃないかな、それ。」
美矩「定石だね。どうする。」

釈「おとこでもいいけれど、警察関係者というのはあまり面白くはないですね、意表が足りない。」
美矩「広島だから、ヤクザなんじゃないかな。」
明美「でもヤクザの男なんかやだよ。」

釈「ここは一番、高校生男子というのはどうでしょうか。年頃のやりたい盛りの男の子の前に、めちゃくちゃ乳のデカいねーちゃんが降って来るのです。」

美矩「なるほど。なるほど。」
明美「ちょっといいかもしれないけれど、じゃあ、構造ががらっと変わる。」
釈「変えません。この男の子の近辺に、土器さんを配置する、という。お姉さんとか?」
美矩「おかあさんてのはどうだろう。ちょっと歳が若いか。」

 

釈「この男の子は冒険してもらいますから、土器さんは、・・・・とりあえず出るということで。」

美矩「とりあえず、男の子サイヨー。」

 

 

 

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