ご主人さまとわたし 設定 第5夜

 

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 そもそも公式に宣戦布告がなされたわけではない太平洋諸島戦争は、全世界規模で起った地域間戦争症候群の一局面に過ぎない。他の地域紛争と同様に、れっきとした国軍同士の争いではなく、脱走兵や難民、地域犯罪組織が崩壊した軍から武器を盗み出し、海面上昇で混乱する太平洋全域の諸島国家にてんでばらばらに組織的強盗を働いた、というのが正しい認識だ。特に崩壊した北朝鮮、水没により折角発展した産業が崩壊した中国沿岸部、元々反政府ゲリラが横行していたフィリピン等から出港する海賊船団は、その当事者である政府に抑える能力が無い為に野放し状態となる。いや国内で反乱を起こすよりは外でやってもらった方がマシで、更に各国から強奪した戦利品を国内に運びこむことで混乱する国内経済を下支えする効果があったために、半ば政府の後押しによって海賊船団がより一層の装備の拡充を果たす、という事さえ見られるようになった。

 この状態を当時も未だ世界最大の軍事国家であったアメリカ合衆国が見過ごすわけが無かったが、合衆国本体が東西の大洋を抱え、中南アメリカとアフリカから流れ出す海賊を討伐するのに謀殺され、太平洋全域まで手が回らなくなり、西太平洋諸国は無防備に海賊船団に襲われる事になる。

 それを、アメリカの肩代わりという形で防いで回ったのが日本海軍であり、マラッカ海峡から東の広大な領域をほとんど一国のみで抑える事を余儀なくされる。幸いにして台湾共和国が中国大陸から流出する海賊船団を或る程度阻止する能力と意志を持ち合わせていたおかげで、これと共同して沖縄以北からの侵攻を効果的に食い止める事に成功し、またロシア共和国は海面上昇の影響をほとんど受けず、シベリア近海で取れる石油と天然ガスを優先的に日本に供給してくれた為に後顧の憂い無く海軍の進出を果たす事ができた。

 その派兵先を地図に描いてみると、旧日本軍の南方への進出とほとんど同じ形になるので、これを第二次太平洋戦争とも俗に言うが、正式には「南北太平洋上での広域治安維持活動および軍隊規模組織的武装犯罪組織群壊滅任務」と称される。旧軍の作戦との違いは、ほとんど東シナ半島への上陸が無く島嶼部での上陸戦の繰り返しだったという点で、その為に強襲揚陸艦を多数建造し、上陸用戦闘舟艇を新規に開発しロボット潜水艦を配備して不足する兵員の代わりとした。海賊船団は寇掠以外の補給手段を持たないので陸上での篭城戦はほぼ不可能である為に陸戦隊はほとんど必要がなかったが、少数の戦闘集団が混乱する市民の内部に隠れてゲリラ戦を繰り広げるのには手を焼かされた。

 海面上昇による海岸線の変更は舟艇の上陸に多大な困難を引き起こす事になり、軍の監視から逃れる暗礁地帯を多数作り出す。この為、初期は海賊船団の生存率は非常に高く、洋上を拿捕する以外はほぼ野放しに近い状態が続いた。携帯対空ミサイルの普及や、後押しする国家から提供されたと思われる軍用ステルス舟艇やECM装置までも利用していた為に長時間洋上を監視できる哨戒機の使用が困難になったことも各国正規軍の不利となる。暗礁地帯に潜伏する敵を殲滅するには特殊部隊による攻撃が最も相応しいが、部隊数には限りがあり敵である海賊船団は多過ぎ、また制圧に成功するとしても反撃により相当の兵員の損耗が見込まれて、事実上お手上げの状態であった。

 この状況を打破する為に、陸上でも利用が始まっていた統則構造のマニュピレータを有する高機動遠隔操縦戦闘ロボットを投入する事が望まれ、日本のロボット技術の全精力を傾けて開発されたのが「タコハチ」である。

 

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まゆ子「というところでいいかな。」

じゅえる「ダメ。」
弥生「だめ、全然。難しくて読む気にならないじゃない。」
まゆ子「でもだって、これが普通よ。これがまともなSFなのよ。」
じゅえる「ということは、普通のSFがダメだということになる。」

弥生「こんなんじゃ読む気にならないよ。もっと普通のとっかかりが無いと、読者逃げちゃう。」
じゅえる「これで読むという奴は、除外しても商売としては影響無い。もっとライトユーザーを呼び寄せる簡単な言葉使いに替えなさい。」
弥生「だから会話文主体でないと読めない、って分かったんじゃなかったの。ゲバルト処女の例から。」

まゆ子「でも土器能登子さんはあんまりおもしろい会話をするような人じゃないのよね。もっと軽い人はハードSFに向いてないし。」

じゅえる「お姫様を出しなさい。」

まゆ子「え?」
弥生「王子様も出しなさい。」

まゆ子「だってタコハチだよ。ロボットだよ。軍事SFで警察ものでもあるんだよ。どこにお姫様と王子様が出る余地があるというの。」
じゅえる「日本海軍なんだから、宮様を出しなさい!」
弥生「や、じゅえるー。それはいくらなんでも時期尚早だと思うよ。」
まゆ子「それはやっぱり出版が不可能になる恐れがあるから。」

じゅえる「ではメイドロボが主人公。」
弥生「却下。」

まゆ子「では切り口が無い。」
弥生「というか、一体何を描きたいのさ。それによって描き方は変わって来るでしょ。」

まゆ子「タコハチの使い方。これ一本。」

弥生「むう。ではこの無味乾燥な描き方が一番向いているよな。困ったな。」
じゅえる「つまり軍事アクションがやりたいというのが、目的なわけだね。世間一般の小説みたいな。」

まゆ子「うん。それに新型コンセプトの特殊部隊ロボットタコハチの使い方を世間一般のデフォルトにしたくてね。」
じゅえる「ではもっとシステマティックに書くのがいい。基本的にこの話は主人公は円条寺蓮であって土器能登子ではないのだよ。だから、円条寺蓮を中心とした話であって、タコハチの話はその一局面でなければならない。ということは、蓮さんのところを基点として話が進行するスタイルの一話完結ものでないといけないのだよ。」

弥生「あ、それはアシモフのロボットの世界とかいう短編集と同じ構造だ。」
まゆ子「”I,Robot.”だね。なるほど、女性学者の位置を円条寺蓮がするんだ。なるほど、それは盲点だったな。」

弥生「じゃあ、円条寺さんは偉い人なんだ。」
じゅえる「FBIみたいなものだと思ってくれたまえ。えーとこの場合は、軍人?」

まゆ子「基本的にはこのお話は警察ものだよ。でも軍と関係が無くもない。政府の、・・・そうね、ロボット技術活用研究の通商産業省のキャリア官僚みたいな感じかな。」
弥生「もっとおもしろくしよう。」
じゅえる「タダの役人というのは違うな。でも相当の機密に触れる事が出来る位置にあるんだから、官僚で研究職?なんだろうね。」

まゆ子「いっそのこと謎の人物で謎の権限がある、というのはどうだろう。全編を通じてそれを探って行く。」

じゅえる「それはCIAみたいな感じかな。」
弥生「CIAに無限の権限があるわけじゃないよ。そもそも末端はタダの官僚だし。むしろ007みたいなものだろう。」
まゆ子「007かあ。なるほど、それは凄いな。それだとちょっとくらいアヤシイ性格や言動でも許されるな。うん、それで行こう。で、なにを目的にしてるのかな。」
じゅえる「それはやはり宮様の。」
弥生「うーーーーー、そこまでオブラートに掛かってるのなら、ま、しゃあないか。許可する。」

まゆ子「つまり、国家の中枢に関連することなのかな。」

じゅえる「そうね、まず表向きと裏の顔と、二つの側面があるべきよね。で、表向きは円条寺さんは、・・・・・えーと。皇宮警察官で皇居の警備にタコハチロボットを導入するから、ということで研究をしている、というのはどうだろう。でもそんな必要があるわけがない。単なる警備であれば警視庁とか警察庁がちゃんと配備する。ということで、いかにも謎であるが極めて高いレベルの機密取り扱い許可を持つ人で、命令に従わなければならないことになってるのだ。」
弥生「天皇陛下の007なのか。それは凄いな。」
まゆ子「なるほど。なるほど。それは凄い。それでいこう。」

じゅえる「で、ほんとは何をしているのかというと、電気まねき猫の販売。」
弥生「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
まゆ子「それはいったい・・・・。」

じゅえる「霊的防御の実際の運用研究をしているのだよ。タコハチを使うようなハードな現場に、なぜか電気まねき猫がある。なんの役に立つのかわからないけれど、これが置かれるといきなり仕事がハードになるとか、怪しい犯罪者が大挙押しかけて来たりする。へんだなあ、と思うがまさかこんなものの所為でとは誰も思わない。しかし、実はそれが原因なのであって、その実験の経過と結果を円条寺さんはモニタしてるんだ。つまり実験台、ハムスターね。」

まゆ子「かなり、・・・原理がわかんない。」

じゅえる「考えなさい。自慢のホラを吹きなさい。」
弥生「で、それは宮様に直結してるんだね。やはり、古来からの呪法かなにかの。」
じゅえる「そういうことになる。」

まゆ子「まあ、いいや。とりあえずその原理はわたくしが適当にでっち上げるとして、実装面で考えよう。

 

 えーと、私としては、”ゲバルト処女”に倣って、30枚13回で行きたいと思う。」
弥生「異議なし。しかし、30枚でケリが着くような話なの。」

まゆ子「うーん、円条寺さんがどの程度関連するのかわからないから。でも、一応はケリを着けよう。しかし、本一冊で全部終了というのでは、コストパフォーマンスが悪いから、最低でも三冊描くほどの仕込みをしなければなるまいね。」

じゅえる「またエピソード1、2、3方式ね。イントロ、本編、後始末。でもそれでいいの? ゲバルト処女とは全然違うんだよ。一本道じゃない。」

まゆ子「いや、今回はむしろゲバルト処女よりもその形式を貫かねばならないのね。なぜならば、テレビシリーズと考えてくれたまえよ。タコハチロボットがテレビアニメになるのだ。」
弥生「ふーむ、攻殻機動隊みたいにするてわけね。」
じゅえる「統則機動隊だ。」

まゆ子「だから、軍事アクションでなければならなかったのだよ。タコハチを正面に押し出す必要があった。」

じゅえる「理解した。であれば、タコハチ警察関係、公安秘密工作関係、軍関係、とその全てを円条寺さんが統括するのだ。そのちまちまとした局面がばらばらに描かれるのね。」
まゆ子「そうか、結局そういうことにならざるを得ないんだ。軍関係が嫌でも出て来るわけだ。」
弥生「警察、というよりも行政も関係して来るんじゃないの、電気まねき猫は。」
じゅえる「そうねー。むしろ、実力部隊はそのとばっちりを食うことになる。人間の行動を制御する技術のテストを行っているんだから。」

まゆ子「そうだ。つまり、エピソード1(国内編) エピソード2(海外雄飛編) エピソード3(統則高次元編)になる。エピソード1で、タコハチの実用を描写していく内に、敵の概要が掴めて来て海外に出なければ片づかない事になり、エピソード2で敵の本体を追い撃滅し、追い詰められた敵が日本国内に潜入して高度な作戦を繰り広げるのがエピソード3になる。」

弥生「じゃあ、電気招き猫の実験がエピソード1で行われ、エピソード2ではそれを十二分に活用して敵を殲滅し、それにやられた敵側が秘密を入手して逆撃にやってくるのがエピソード3になる。」

じゅえる「なるほど。であれば、電気まねき猫の原理は相当に強固なものである必要があるね。」
まゆ子「こういうのはどうだろう。別のとこで書いた文章だけど、

仮にそれを「共感子(NRP)」と呼ぼう。
感情や感性を集団で共有する、模倣子(ミーム)に似た概念だが
模倣子が行動や習慣を伝達するのに対して
共感子は感性による価値判断を集団内で伝達共有するのものだ。
もちろん、本能により或る程度は感性は規定されるが、
後天的に経験と学習によって獲得する部分も大きく
確とした理由も無しに、特に問題の無い事物を忌避したり
逆に執着したりという行動を起こすことは、説明の必要も無いだろう。
これも一種の文化である。
その中でも、死や危険に関する共感子「恐感子(NRP-O)」
(”O”はosoroshi,okkanai,obakeの頭文字)
は人間社会において、恐怖の文化ともいうべき領域を築いて発展し続け
科学により世界中の神秘が解き明かされたにも関らず
今も人々の行動を規定してやまない。

弥生「それホント?」
まゆ子「ほんともなにも、私が考えた概念だから、他には無い。故にこれはこれで真実だ。」

じゅえる「じゃあ、これが電気で増幅されて、・・て増幅可能なものなの。」

まゆ子「そこにマイクロマシンが関連して来る。この世界の人間は多かれ少なかれマイクロマシンを導入しており、統則理論で動いている。そのテストケースと言えるのが、土器能登子さんだ。でもマイクロマシンをあまり高度な機能を実現するようには使いたいくないんだよね。えーと、」
弥生「つまりマイクロマシンを人体に投与して新造人間になる、てのは一般的な使い方じゃないんだ。」

まゆ子「うん。この世界は意外とサイボーグというのが無い。時代は西暦2053年としよう。で、10年前に戦争があった。でも、タコハチはあるけれど、本格的なメイドロボは未だ存在しない。マイクロマシンを投与してもバランスを取る事ができないから、強化人間新造人間は作れない。しかし、手足や内臓の破損、戦争のみならず環境汚染で劣化した組織を再生するのに十分な能力がある。千切れた手足をDNAで再生させて、マイクロマシンを使って接着する。そういう使い方をするのね。」

じゅえる「医療用マイクロマシン、て程度ね。しかし、電脳化とかでコンピュータを脳に接続するとかは出来ないの。」
まゆ子「あまり面白くないな、その未来図。もっと別なものを用意しよう。しかし50年後だからそのくらい出来ててもおかしくはない。可能だけれど一般的ではないとしよう。犯罪者に捕まって脳内の情報を洗いざらい引き出されて、詐欺に使われるとかが横行するとかで。」
じゅえる「可能だけれど、現実には適当でない、という位置づけね。説明が要るね。」
弥生「ふむ。今流行のフィッシングとかが脳でもやられちゃうわけだ。」

じゅえる「常識的過ぎておもしろくないな。なにか、ばちっと凄い飛躍は無いの?」
まゆ子「そうねえ。眼鏡やコンタクトサイズにはディスプレイはなっているし、コックリさんキーボードを使って眼球で文字を入力することが出来るから電脳っぽいこともできるんだけどね。」

弥生「そのコックリさんキーボードてなによ。」
まゆ子「視線移動や感圧素子を指で触ったりしてその方向で入力するデバイス。ただし、画面に入力する候補が一度に8〜16程度提示されて、それのどれに反応するかを瞬時にコンピュータが判断して、よりそれらしい候補を次々に変えて提示し続けて、確とした入力操作を行わない内に入力対象を読み取ってしまうという技術なのだ。手で入力するよりもはるかに早いのが特徴。ただし、視覚情報とセットでないと機能しないから、携帯電話の入力の方が便利な時もある。音声入力もあるから、いいか。」

じゅえる「おもしろそうね。」
まゆ子「おもしろいよ。拷問にも使えるもん。瞼をテープで塞いじゃって、その上から強い光線で映像を網膜に投影して、その入力候補を強制的に見せることで、喋りたくないことでも読み取ってしまう、凄い尋問方法がある。」
弥生「それは法的に規制されてないの。」
まゆ子「裁判所の許可があれば、嘘発見器と大体同じ技術だもん。」

じゅえる「で、そこに電気招き猫は作用する。」
まゆ子「あ、・・・・そこはない。としよう。電気まねき猫はもっと原初の衝動に訴えかけるものだ。

 

というわけで、今回はこのくらいに。」

じゅえる「電気まねき猫の作動原理を考えて来てよ。後、敵ってのものね。」

 

05/02/09

まゆ子「そりゃそうと、メイドロボのアニタとご主人様はどこに行ったんだ。」
じゅえる「え、やっぱ出さないとダメ?」
まゆ子「だって出さないと、タイトルに嘘を吐く事になるじゃない。」

弥生「そりゃあもっともな話だよ。もっともだ。でも出番は無いんじゃないの。」
じゅえる「だって、年代が違うんだもんね。」

まゆ子「うーむ。しかし、今から50年後だ。メイドロボが動いていてもまったくおかしくないでしょ。」
じゅえる「二足歩行ロボットが歩き出して、50年過ぎてるもんね。」
弥生「飛行機だって、50年も経てば太平洋くらい横断してるよ。」

まゆ子「そうなんだ。脳味噌はともかく、側はかなりの進展をしていないとおかしい。人間そっくりとは言わないまでも、肌シリコンのマネキンが人間並の速度で歩く、というのはちっともおかしくない。」

じゅえる「で、脳味噌はどのくらい進んでるの。」
まゆ子「予測はかなり難しい。何故ならば、この世界はタコハチを見ても分かるとおりに単なるロボットとしては、ソフトウエア的に進歩が著しい。でも人間的な受け答えをどういう風な手段でクリアするか。データベースでやっちゃうかな。」

弥生「なにそれ。」
まゆ子「いや、こないだテレビで将棋ソフトの開発を特集してたんだけど、序盤戦をどう処理するかは、相当な難題だったんだ。で、現在の解決策はデータベース。力業でかっての名人戦の棋譜を全検索しちゃう。そこに知的なプロセスは存在しない。にも関らず、それを導入する事でアマ名人に伍するほどに実力が付いたんだ。」
じゅえる「そこまで時代は進んでたんだ。」

まゆ子「てなもんで、人間との受け答えは膨大な量のシーンを人間の女優さんでデータ取り込みして、それを適宜選択して適用する。常識というものが無いという問題は、3DCG空間に物理演算を適用してありとあらゆる日常発生するシチュエーションを再現できるようにして、シミュレータ内で実際に行うのの数百倍でシミュレート出来るようにして、最適解を探す。」
弥生「うえ、仮想空間で実際にやってみるんだ。」

まゆ子「もちろん、これもデータベース化されていて、よくある事は高速サーチで計算量を省くが、まあそういうこと。でも実際人間や高等動物は、生まれてからこれまでの経験をデータベース化して常識を形作っているのではないか、という考え方もある。非常識な方法ではないよ。」

じゅえる「で、それはタコハチも可能なの?」
まゆ子「まあまあ、ね。用途が違うから、それに最終的には人間に判断を任せる機械だから、補助的な機能として付いていると言ってよいわ。だからタコハチの技術が進んだからといって、メイドロボが出来るというものではない。」 

弥生「で、出るの出ないの、どっち?」
まゆ子「基本的には、出たり出なかったり。」
じゅえる「どっちなのよ。」

まゆ子「いや、だってさ、そんな中途半端なメイドロボなら、街中歩いてたら盗難に遇うじゃない。ただでさえ戦争で難民とか流入してて政情不安なんだもん。人間だってひとさらいに遇う御時勢なんだよ。」
じゅえる「あー、電脳化できないのとおなじ理屈か。それは困ったな。」

まゆ子「というわけで、屋内でならまだしも戸外ではメイドロボは未だ無いとしても、まったく問題無い。だが、出したいような出したくないような。」
弥生「物語に必要は無いわけね。でもちょっとぐらいは考えてもいいんじゃないの。」
まゆ子「でも高いからなあ。この時代ではまともな受け答えが出来て意味のある仕事が出来るメイドロボは一体1000万円はする。軍用歩兵仕様ならば兵器抜きサポート機材抜きの単体で3000万円程度だ。安くは無い。日常で見るものじゃあないんだよ。タコハチの方が安くてべんりだから、警察も軍隊も統則ロボットを使ってる。」

じゅえる「あー。それは無理だな。」
まゆ子「しかし、ものは考えようだ。メイドロボはある。でも日常的では無い。物好きなお金持ちの所にはあるけど一般庶民には縁が無い。でもデパートなんかに行くと居たりする。動くマネキンみたいなものだね。通常の会話なんかには結構頻繁に出るんだよ。」
じゅえる「うーん、それは物語上では非常に繊細な扱いを要求されるな。」

弥生「じゃあ、メイドロボがテレビで人気だったりもするんだ。」
まゆ子「それはある。いやむしろ、昔、といっても戦前だけど、李香蘭に代表される中国人歌手女優(李香蘭は日本人の変装だけど)が異国趣味でもてはやされたように、メイドロボ歌手が異世界の感じをだして結構活躍してる、といった方が面白い。22世紀には一家に一台メイドロボがある生活が来る、と皆思ってたりするし、メーカーもそういう風に宣伝してる。あらかじめ予定された未来、という感じであるんだよ。」
じゅえる「ようするにアシモみたいな感じなんだ。」

まゆ子「しかし、よく考えられたサポートがあれば、メイドロボは相当に器用にふるまうことが出来る。テレビのレポーターにメイドロボが起用されていたりして、温泉に浸かっていたりするんだな。人形なんだからそりゃあ理想的に奇麗だし、裏に構成作家が付いてれば気の効いた台詞をぽんぽん飛ばすこともできるわけだ。」
じゅえる「じゃあ、人間の俳優とかは要らない?」
まゆ子「いや、だって、既にもう3DCGで役者を作るというのは、随分と進化してるから。今更メイドロボが進出してきたくらいでは全然変んないんだよ。」
弥生「そうか。」

じゅえる「つまり要約すると、観賞用メイドロボは既に完全に実用段階に入っているけれど、日常の生活には未だ進出していない、という状況なんだね。」

まゆ子「そう。だけど、そこがいいんだよ。いわばメイドロボは未だモラトリアムな状態にある。そこに、人が想像を羽ばたかせる余地が多く存在するんだ。たとえば、この世界は驚くほどサイボーグ的なものが無い。ナノマシンと生体再生でほとんどの器官を再生出来るからね。しかし、メイドロボに脳味噌だけ移植したいとかいう人が居る。また、動物の脳をメイドロボに移植しようという奴も居る。メイドロボという身体により進化した人格を再現出来るコンピュータを搭載して人造人間にしようとやっきになって研究する人も居る。まあ、活気に満ちた状況なんだな。」

弥生「で、その中にカラスの脳を移植しようという者も居るんだ。」
まゆ子「うむ。すべてが計算され尽くした事が分かり切っている完璧なメイドロボが人間社会に居る意味の空しさを逆手にとって、完璧な実用性の上に予測不可能な個性をカラスの脳で附加する、という研究だね。セキュリティ上も、捕獲を困難にする予測不可能性となりふり構わない自己保存性向を同時に兼ね備えることが出来るというもんだ。」

 

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まゆ子「あうー、どうしよう。」

釈帝「どうしたんですか、めずらしい。まゆ子さんに出来ないものは無かったんじゃないんですか。」
まゆ子「みんながいじめるの。私に、”電気まねき猫の作動原理”を確立しろって無理難題言うのよ。」
釈「そりゃーあ、自業自得というものではないでしょうか。調子にのっておもしろそうな事を次から次にぶち上げるから、そういう目に遇うんです。」
まゆ子「しゃくがいじめるー。」

美矩「どうしました、まゆ子さん。」

釈「あれ、なんであなたここに居るの。」
美矩「だって、じゅえる先輩がまゆ子さんが今回ばっかりは困るだろうてことで、応援に来ました。」
まゆ子「でもあなたって、電気怖いんじゃなかったかな。」
美矩「現代社会に住んでて、電気が怖いなんて、

アッ。」

釈「どうしたの。」
美矩「せいでんきが、でんきがびりっと。」
まゆ子「ああ。そういう体質でもあるんだ。」
美矩「あの、せいでんきが無くなる方法ってのを科学的に考えてもらえませんか。冬場って特に弱くって、もう死にたくなります。」
まゆ子「100円ショップに行けばそういうの売ってるでしょ。」
美矩「ええええええー! まさか、そんなもの売ってるんですか。知らなかった。」
まゆ子「あと、学校の制服は化繊が入ってるから、どうしても静電気出るね。溜らないように小まめに金属に触って放電しとくといいんだよ。」
美矩「そんなあ。いやですよお。」

釈「あの、まゆ子さん。この人に関っていたらいつまでたっても電気まねき猫は出来ないと思うんですけど。」
まゆ子「そんな事はない。それにね、わたしこの間100円ショップでオモチャの弓矢買って来たんだ。まったくのおもちゃには違いないんだけれど、これがなかなか面白くてね。こんな小さないいかげんな弓矢でも、意外と筋力を使うんだよね。簡単なエキスパンダーみたいに使えるんだな。」
美矩「へー。そうなんですか。100円ショップって色んなものが有るんですね。」
釈「・・・・・現実逃避してるでしょ。」
まゆ子「いや。それでね、昨日「オペラ座の怪人」を見て来たんだ。」
釈「うーーーーー。」

釈「そもそも、電気ダリとか電気鮭熊とかは一体なんなんですか。どこをどう考えたらこんなもの考えつくんです?」
美矩「電気ダリ?」
釈「ほら、ここんところに書いてある”電気の力で平衡感覚を失い行動不能になる”て。」
まゆ子「電気オカモトタロウというのもあったらいいかなあ。」
美矩「これはダメだ。」

 

まゆ子「あなたたちね、肝心なところを忘れてるのさ。電気で人間がどうこうできるわけがないじゃないか、という現実に立ち返らなくちゃ。電気ではダメなんだよ。テレビだって、電波電気で動いてるけれど、電気を直接鑑賞しているわけじゃない。」

美矩「では、電気まねき猫は一体電気でなにをしているんですか。」
まゆ子「電気まねき猫に特別な能力があるというのがそもそも幻想の始まりでしょ。しょせんはまねき猫。ただの置物が一体なにを発信することで、今日まで生き延びて来たかを考えてみよう。」
美矩「可愛いからじゃないですか。」
釈「それと縁起担ぎ。でもキャラクターが可愛いというのは、確かに強い特徴ですよね。」
美矩「電気ダリは、・・・・・ダリという希代の変人芸術家のイメージが第一に作用するんじゃないかな。つまり、それが持つメッセージを強調することで、電気なんとかはその機能を発揮する。」
釈「つまり、世間の共通認識としてその置物の意味を誰もが共有できるからこそ、縁起物として機能する・・・・。」

美矩「しかしその解釈では、電気の出番が無い。このシリーズは円条寺蓮さんのものなんですが、円条寺さんはどう考えてたんですか。」

まゆ子「魔法。」

美矩「・・・・らくでいいなあーーーーー。そもそも、だいたいからして、どうして電気まねき猫なんて考えついたんですか。そこをうかがわないと、話が進められませんよ。」
まゆ子「円条寺蓮は平安時代から続く陰陽師の家系で、おもに化け物退治の記録係を勤めて来た。つまり魔法のスペシャリストだ。そこで、陰陽道と風水を利用して人々を自由に操る方法を考案して、その効果を電気仕掛けで効率化して、現代に持ち出して来た、・・・・というおはなしなのだ。」

釈「ではではですよ。やっぱり魔法のようななにか不思議原理を導入するべきではないでしょうか。ものがあるんですから、どうにも動かさないといけないですよね。魔法上等です。いきましょう。」
美矩「やっぱり原点に立ち戻って、魔法とかでいくべきではないでしょうか。これじゃあ前に進みませんよ。」
釈「でもこれははーどえすえふの設定なんだから、・・・諦めますか!SFは。それで押し通るという手もありですよ。」

 

まゆ子「・・元々はね。これら電気まねき猫シリーズは、気配を発生させるものなんだよ。人間が色んな状態に有る時の特有の気配を、それぞれに発生させてそれに通行人が感応して、効果を発揮する。形状によるイメージの励起はそれに付随する効果をもたらすという程度で。中身は機械仕掛けの偽人間でそれらの事物の気配を出そう、というのが円条寺蓮の計画。」
美矩「では気配とはなにか、ということですよ、問題は。」
釈「でも改めて聞かれると、気配ってなんなんです。」

まゆ子「そうなんだ。改めて考えると気配はなにを指すのか全然わからない。なんとなく使っているけれど、誰も知らないんじゃないかな。」

美矩「なるほど。なにがこんなに苦しいのか、ようやっと理解出来ました。わからないものをわからないままに考えているからなんですね。」
まゆ子「でもって、なにかと考えると、でも野生生物だって気配を完全に察知しているとは言い難いからねえ。それなら山で熊やら猪やらに不意に出くわすなんてありえない。」
釈「そうですよね。野生生物がそんなに気配に敏感ならば、人間に捕まるわけがない。」

美矩「ということは、要するに、注意力と観察力が気配の元だ、ということでしかない。無意識よりもちょっと上の意識に近いレベルでの警戒体勢が、気配を感じ取る。」
まゆ子「物事に集中している時は、そういうの感じないものね。観察力というのは正しいよ。」
釈「では、街中をてきとーに流している人間に、集中力観察力注意力は無いから、気配も感じない。」
まゆ子「ラッシュアワーの人込みでそれは無いだろうね。」

釈「ではでは、つまり町行く人を不必要に警戒させればよい、という結論に到達するんですけれど、でもそんな人を電気まねき猫が呼び込めるでしょうか。」
まゆ子「逆に、リラックスしている状態だからこそ、そういう勧誘が機能するんじゃないかな。つまり設置場所は、ひとがほっとする場所にそれら機器はあるべきだ。つまり、街中にぽかっと空いたセイフティゾーンにね。たとえば、歩行者信号の横、とかバス停の前とかで、電車のホームとか、無駄時間を過ごさねばならない場所。その中でも特に人が嵌まり易いへこみとか物陰とかが狙い目ね。」

釈「目立たないように光学迷彩で電気まねき猫を隠すとかは、無理なんですか。というか、透明になる光学迷彩はこの世界には無いんですよね。」
まゆ子「光沢迷彩というのはある。てかてか光る迷彩機構で陰影を消すことで、距離感と現実感を稀薄にさせる。透明はどうしても無理で姿は消せないというのを逆用して、任意の物体に姿を変える動的迷彩機構もある。あ、」

美矩「どうしました。」
まゆ子「動的迷彩機構を忘れてた。つまり、自分自身の姿を変えることで、人が意図するイメージが瞬間的に置き換わることで人の行動を制限することは可能だ。」
美矩「どういうことです。」
まゆ子「電気まねき猫がある。人はそれを気にも止めないで真っ直ぐ歩く積もりだが、まねき猫の姿は思っているよりも幾分細かったとしたら、自分ではまっすぐ歩いているように思っていても、実はほんのすこし曲がっている、ということもある。また、それに気付いたことで自然そっちの方向に意識が行って、進路が変更されている、ということもある。イメージを喚起するという縁起物の力を逆利用するんだ。」
釈「それで、電気ダリ、というのがあるんだ。」
まゆ子「電気ダリはそれでOKのはずだ。電気鮭熊やしーさーもそういう風に動的迷彩機構で情報を投影出来る。」

美矩「電気びりけんは?あれは賭けに勝つ機能があるんですよ。」

 

まゆ子「・・・・・・・・・・・・わすれよう!」

 

釈「あーだいたい機構は呑み込めました。つまり、気配を発生させる装置であり、人がそれに同調することで意思決定を任意の方向に促す、という機械なんですね。電気まねき猫は。」
美矩「電気びりけんてのは、頭がすっきり冴えた状態の人の気配とリンクすることで、自分もカンを鋭くしよう、というような感じで考えられてるんでしょう。」

釈「では、電気まねき猫の中身は、人?かな。」
まゆ子「段ボール箱の中に人が入ってても、別に気分をシンクロさせやしないよ。」
美矩「電気というのは、その気配をシンクロさせる為に発散量の増加をはかる増幅装置に使われる、と解釈するべきではないでしょうか。といっても、気配というのが増幅可能なようには現在のところ思えません。」
釈「つまり、電波のように気配を発信出来るという仮定をなんとかして実現しなければ、電気まねき猫シリーズは成り立たない事になる。どうしましょう。」

まゆ子「むりやり出ることにするか、気配状の電波を発信するか、二つに一つだね。気配状電波、というのがなにかは問題があるけれど、電波の中身、つまり発信する信号自体は問題なく得られる。つまり、電気まねき猫の内部にバイオチップとかが入ってることにすればいい。ガラス基盤上にDNAで配線が勝手に成長して、脳細胞のようなものが出来上がるのだよ。これが発振する。」

美矩「しかし、電波は無理でしょう、電波は。人間はそんなものを受信しませんよ。」
釈「わたしもそう思います。」

まゆ子「だからそこを悩んでるんだよ。電波を直接受信するほど人間は都合よく無い。電脳化だって進んでない。携帯電話が小さくなって顔に貼り付いている程度でしかない。マイクロマシンが人体で直接的に効くスゴイ効果を発揮してるということもない。そういった現実の中で、何が出来るかなんだよ。」

美矩「えー、でもなにかあるでしょう。」

まゆ子「せいぜい音か光・映像だね。臭いはめんどくさいから使うのは止めよう。音、それも低周波振動が一番合ってるはずなんだけど、どうするかな。指向性低周波なんて作れるかな。」
釈「音って指向性があるんですか。」
まゆ子「超音波はね。低周波で指向性とするならば、超音波の干渉で、焦点となるべき位置に波動を作り出すという方法になる。これは実現するでしょう。問題はどういう音波、振動を作り出すか、だね。」

釈「バイオチップで作り出す、というのではダメなんですか。」
まゆ子「他人の波動に合わせたくらいで意志を変更させるなんて出来はしないよ。そうねえー、たとえば

 レーザーで道行く人の鼓動と呼吸のリズムを測定する。で、それを元にバイオチップから発振される気配の信号を合成して、指向性低周波を対象者に投影する。当てられた人は、自分の呼吸鼓動というリズムからまるで自分が突然そういう風に感じてるのかと勘違いして、意識に特別な感覚を感じ、行動を変更する。

こんな感じかな。」
美矩「おそろしくめんどくさいですね。」
まゆ子「いや、コンピュータが勝手にやることだから、それほどでは。但し、服を着ているからねえ。低周波を効率的に受け取れない可能性が強い。」

美矩「あー、それほど強い音波では無いでしょうしね。」
釈「強い音波を当てるとどうなるでしょう。」
まゆ子「そりゃあ、五月蝿いからすぐバレル。」

釈「あそうか。そりゃ困ったな。もっとエネルギーを集中してというわけにはいきませんかね。耳に直接叩き込むとか。」
まゆ子「いやーそれは、いくらなんでも。睫毛を揺らすくらいなら出来るかもしれないけどね。」
美矩「そんなに強いんですか、超音波。」
まゆ子「そのくらいは未来技術の進歩を期待できるかな。それにー、レーザー光線をぶつけることでなんか固いものを熱で振動させるとか、メーザーで金属を叩いて発音させるとかも可能かな。」

 

釈「おー、意外とスゴイ。しかし電気まねき猫はそんなに強烈では困るでしょ。」
まゆ子「だね。まねき猫本体にある指向性スピーカーくらいが関の山かな。数十個のスピーカーの合成で音場を作り出すんだ。」

美矩「イオンとかいうのはどうでしょう。今ではどんな空調機にでもイオン発生機能が付いてますよ。イオンをどうこうして、人に影響を与える訳にはいきませんか。」
まゆ子「あー、でも結構な大きさの電磁加速器は必要だろうから、無理だね。電子レンジの数十倍のエネルギーも必要だ。」
美矩「ざんねん。」

釈「生暖かい風がぴゅー、というのもダメですか。幽霊みたいに。」
まゆ子「臭いを自由に合成出来る機能というのがあれば、それも悪くない。しかし、出来るかな。臭い物質を瞬時に合成して、て。あ、そうか。その場で合成しなくてもまねき猫シリーズはそれぞれ目的が違うから、臭いを合成して持っておくことは可能かもしれない。認知できないけれど感知出来る臭い物質、とかいうものはあるかもしれない。」
釈「おー、じゃあドライヤーみたいな風でそれを送り出す、というのは悪くないですね。生暖かい風でぴゅーと。」
美矩「どうして生暖かいのよ。」
釈「いや、温かい方が臭いが良く発散するかと思って。」

まゆ子「音と、臭いと、動的迷彩機構か。しかしまだ弱いかなあ。」

 

釈「しかし、そのバイオチップてのは、そう上手い事動くんですか。」

まゆ子「それは私にも分からない。人間の行動を左右するからには、相当の実験を繰り返してパターンを採集しているんだろうから、それをうまく再現する為にバイオチップを作った、というのであればちゃんと動くはずだ。汎用バイオチップてわけじゃあないだろうからね。」
美矩「じゃあ、ものすごいお金が掛かりますね、研究には。」
まゆ子「億じゃあ済まない。どこから調達したんだろう。それでこの程度の効果しかないというのならば、割が合わないな。」

 

釈「しかし、これが統則理論と関係ない、というのは少し面白くないですね。なんかリンクできませんか。」
まゆ子「う、む。それは言える。町全体にこのシリーズを配置することで、なんか意味があるようにするかな。でも統則というのは、そこに論理演算が存在しないと意味が無い。」
美矩「人の行動が変わる、というだけで、コンピュータじゃないですからね。」

まゆ子「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・こんぴゅーたか。」

釈「なにか?」
まゆ子「実はコンピュータというものは、なんだって出来るんだ。ビー玉でも電磁リレースイッチでも、トランジスタでも真空管でも、原子スイッチとかいうのも最近では考えられている。つまり、論理回路を実現出来る素子があれば何を使ってもコンピュータは作れる。ただ、素子の速度が遅いと意味が無いというだけでね。

 だから、人の流れを使ってコンピュータを作る事だって出来る。」

美矩「まさか。」
釈「でも人間では効率が悪いんですよね。」
まゆ子「だから、計算ではなくて、何かを実現するカスタム回路を構成する。都市全体をなにかに変えてしまう、というのはどうだろう。風水とか魔方陣都市とかではよくあるアイデアだけれど。」

美矩「それは大体、悪魔とかがやってくるのを防御する為ですよね。でもこれはハードSFだし、ロボットとか遺伝子改造生物とかは出ませんよね。」
まゆ子「だから、人間に対して、人間を使って、意識外でコントロールする。何の為に、というのは何故円条寺蓮がタコハチを欲するのか、という点に直結する。あるいはもっと現実的に、人間社会の効率を絞れるだけ絞る、という生産性向上だけを狙ってたりするのかな。」

釈「案外、ここに犯罪者が集中してくるように仕組んで、ネズミ取りみたいに効率的に逮捕しちゃうのに、タコハチロボットを活用するとかではないでしょうか。廣嶋は東京からも大阪からも適当に離れてますし、トラップを仕組むにはちょうどいいんじゃないでしょうか。」
美矩「福岡は、中国朝鮮半島に近過ぎますし。犯罪者をトラップするには本州の方が向いているのは確かです。」

まゆ子「ううん。そういう使い方でも悪くない。いや、カネを引き出すにはそれは非常に説得力のある意見だ。しかし円条寺蓮はもうちょっと難しいことを考える人間だよ。そうね、それは一部採用しましょう。犯罪者トラップとして人間の行動を相対的に制御する魔方陣都市。しかし、更に奥の狙いがある。」

美矩「そこは魔法ですよ、魔法。黄泉の国が口をぱかっと開けるんですよ。」
釈「それがいいです。それがもっともらしいです。陰陽師として。」
まゆ子「しかしね、そんなのではハードSFにはならないような気がするんだけれどね。

 ・・・・・いや、これは人をおびき寄せる為の罠なんだ。そこに最も強力な力を持つ希代の悪、生きた悪魔のような男が居る。そいつをおびき寄せる為にこれだけの大がかりな罠を仕組んでいるというのはどうかな。」

美矩「一連の戦争の張本人、とかですか。」
まゆ子「ま、いいでしょう。そういうことならば、電気まねき猫の能力がかなり稀薄だというのも、納得できる。効かないようで実は効いている。でも総体的に見てみなければ何をやっているのか分からない。これを解析するのは、電哲探偵の仕事だね。あ、・・・・・・・そうか、ここにヘクトール・パスカルが絡んで来るんだ。」

釈「つまり、古代の英雄人種が、敵?」
まゆ子「ここまでやるからには。そうね、ではそれは、ピルマルレレコと無関係と言うわけにはいかない。昴賢同盟の裏切り者、というのが一番正しい敵の姿だね。」
美矩「あ、この年代と辞書にのってる奴ですね。ピルマルレレコの秘密を持ち逃げした奴が居るのですか。」
まゆ子「となると、統則理論とマイクロマシン関係から土器能登子がクローズアップされるのも当然ということになる。カネの出所も、タコハチの活用も同じ穴のむじなだ。」

 

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釈「出来ましたね。」
まゆ子「できたあ。これも君達のおかげだよ。」
美矩「めでたしめでたし。」

 

まゆ子「さて、これをさらにブラッシュアップして、と。」
美矩「え、まだやらなくちゃいけないんですか。」
まゆ子「いや、だって、アウトライン出来ただけだもん。電気まねき猫の原理と人間寄せ回路の詳細も固めなくちゃ、小説できないじゃない。」
釈「これからが本番。」

美矩「ひいいいいいいい。」

 

2005/03/02

 

 

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