ご主人さまとわたし 設定第三夜

 

まゆ子「あー、というわけで、なんだか統則ロボットの分類をあげておきましょ。」

じゅえる「統則ロボットて、主役なの?」
まゆ子「元々は主役として設定されたものの応用だからね、それなりの厚みはあるんだよ。」
弥生「でも統則ロボットばっかり進化しても困るんだけどねえ。なんだったらゲバルト処女にも投入しようかなあ。」
まゆ子「というわけで、書いてみる価値はあるのさ。」

 統則ロボットには現在10種類のカテゴリーがある。これは発生順に従って分類されたものだが、それぞれに際だった特徴が有る為にそのまま識別コードとして使われている。
そもそも統則ロボットは最初からそういうものとして作られたわけではなく、通常のロボットの部品として、人工筋肉のみで骨格を持たない自由度の高い移動作業脚として統則腕と呼ばれるものが実用化され、その応用として統則腕のみを持つ非人間型ロボットが実用化されたに過ぎなかった。
 しかし、地球温暖化による海面上昇で世界全体において海浜部の都市の水没が進行し、それに伴う各地の混乱と難民の脱出、領土紛争に海賊勢力の勃興という緊急事態が出来し、世界規模で相互に複雑に利害関係が入り組んだの無数の限定戦争のコンプレックス、複合世界戦争と称される大戦となり、にわかに水上戦闘を主体とする戦闘力の整備が急務となり、出来たばかりの統則腕の応用が開始された。

 その第一号がカテゴリー1、統則魚雷である。
 統則魚雷は水没した都市や船舶といった障害物が多数存在する水域で、複雑な軌道を描いて標的に接近する高機動魚雷の一種であり、統則腕を有する事で障害物を容易に回避、あるいは障害物上や内部に潜り込み壁面に吸着歩行することで、従来の高機動魚雷とは全く違う予想もしない方向からの攻撃を可能とした。人工筋肉のみで構成される統則腕はその当初からかなりの低価格であり使い捨てでも惜しくないとこのような用途に選択された。これは大戦が終わって20年も経つ現在でも非常に有用とされ、戦闘用舟艇には普通に装備されている。また、統則腕を有していたとしても魚雷本来の高速航行する能力は阻害されないので、小型潜水艇が搭載する小型魚雷はほぼすべてがこれである。

 カテゴリー2は、その派生型ともいえる、小型統則作業ロボットである。
 元々ロボットの腕として開発された統則腕が遠隔作業用のロボットに搭載されるのは当たり前のことで水中作業用無人遠隔ロボットはほぼすべてがこれを有することとなる。従来の骨格式の作業腕は障害物内部に入り込むことが出来ない為、作業不能の状態がかなり頻繁に発生したが、統則腕を装備することで自由度が大きく拡大した。その後統則魚雷と同じ技術を利用した高速作業ロボットも開発される。しかしこのカテゴリーはあくまで水中作業用ロボットであり、この分類に含まれるものは陸上での使用が普通は不可能であり、また戦闘能力も有しない。しかし、他のカテゴリーが有さない水中での物体の捕獲と輸送能力を持つタイプも存在する。

 カテゴリー3は、統則戦車となる。
 統則腕の有用性が確認されたと同時に上陸用舟艇への搭載も始まる。特に水没都市では従来の舟艇では進入不可能な障害物に満たされた水域が多数存在しており、ゲリラがここに逃げ込むと水陸空どこからでもの攻撃が出来なくなっていた。その水域に進入する為の特殊上陸用舟艇が統則戦車である。最初3t程度の軽量の車両であったがすぐに大型化重装化が始まり、30tにまで拡大した。特に潜水能力の獲得後は非常に有用性が増し、陸上での戦車の運用が相当に困難になるのと反比例するように多用されるようになる。水中に居て隠密性が高いところから戦車の天敵ともいえる航空機への対空戦闘能力が発達し、最新戦車は水中から発射可能で高度1万メートル以上へ到達する超高初速広角砲を搭載するようになっている。

 カテゴリー4は、統則腕を有する潜水服である。
 統則戦車により水中障害物の多数存在する領域への進出が容易になったため、統則戦車に随伴する兵員の為の装甲潜水服が必要になった。ただしこれまでの統則兵器とは異なり、人間が直接障害物に接触し戦闘に従事するわけであるから、開発は難航する。開発スケジュールの遅延を補う形で従来のアクアラングによる軽装潜水具に統則腕を附加するという簡易潜水服が採用され多用されたが、やはり脆弱であり事故が多発、兵員の損耗率が導入前よりもかなり高くなった。しかしゲリラや海賊はこれで十分とする者も多く、水上舟艇への単騎での襲撃に使用され正規兵の部隊が多大な損害を受けた。これに対抗するのに各国の正規軍は潜水服による迎撃は採用せず、次のカテゴリー5、統則潜水艇で対抗する。現在は統則潜水服の開発も順調に進み倍力機構も搭載した非常に強力なものが存在するが、遠隔操作する統則戦闘ロボットの発達で水中戦闘に参加することは既に無く、特殊部隊のみに用途が限定されている。

 カテゴリー5は、統則潜水艇である。
 戦闘用潜水艇は本来統則腕を必要としないが、統則戦車や統則潜水服の登場でこれらに追随するように小型潜水艇も統則腕を装備するようになった。当初は統則戦車と見分けがつかない、潜水能力を持つ統則戦車程度のものであったが、ゲリラや海賊がよく潜伏していた水没都市の地下街や地下鉄内への進入に統則腕が非常に有用である事が判明し、中でも乗員が一名で乗用車程度の大きさしかない、IKAと呼ばれる高機動統則戦闘潜水艇が特に発達して水中戦闘の王者として評価が確定する。現在ではIKAは更に進化して、水深300メートル以下の深海底での戦闘も、あるいは陸上に上陸しての戦闘も可能になっている。統則戦車よりも小型であり水中戦闘能力では上まわるものの対陸上戦闘では及ばない為に、両者は競合することなく共存している。

 このように、統則腕を有するロボット、潜水艇の能力の高さは多くの者が認めたが、陸上での応用はそれに5年は遅れて導入され、瞬く間に既存の戦闘ロボットを駆逐していった。この遅れは、頭足類を連想させる統則腕は水中のみのもの、という思いこみの為せるもので、実機としての統則戦闘ロボットの登場までその認識がくつがえることが無かった。それが、カテゴリー6である。

 カテゴリー6は、兵員随伴戦闘支援統則ロボット。通称タコ6である。
 いきなり完成形として戦場に投入され、そのまま現在でも使用され続けている完成度の高いロボットである。箱型のボディの前方に一対の統則腕を有し、人間の行けるところならばどこにでも進入出来、従来の戦闘ロボットがさんざん悩まされていた機動エンベローブの壁をあっさりとクリアした。また兵員に先行しての屋内制圧に特に多用され、専用の小型モデルも開発された。その構造の単純さと統則腕特有の故障の少なさが兵士に信頼を抱かせ、大火力を輸送運用して歩兵戦闘の最前線から兵士を解放したために絶大な支持を受け、以降これ無しでは戦争が出来ないとまで言われるようになる。別名”戦場のロバ”、あえて高度な判断機能を搭載せず、随伴する兵員に判断を任せたことが成功の秘訣と看做されている。他方、その判断能力の無さが完全無人の戦闘の実現を阻み、カテゴリー7、8の開発へと繋がる。

 カテゴリー7は、統則腕を有する直立二足歩行ロボット、兵員代替ロボットである。
 カテゴリー6の成功は、その先にある兵員をロボットで代替するという欲求につながる。しかし、二足歩行する兵員でなければこれまでの業務のすべてをロボットで置き換えることは不可能として、長く実験段階に留まってきた。特に難民や捕虜を取り扱うの為には柔軟で人体にケガをさせず、それでいて力強く抵抗を許さない、という背反する能力が要求され、これに応えることは従来の多関節ロボットでは不可能とされていた。そこで最初から人工筋肉のみで構成される統則腕を使用するというアイデアで解決を図ろうというのは普通の発想であるが、しかし成功はしなかった。現在に到るもカテゴリー7で実用段階に到達したモデルは存在しない。更に不都合なことに、多関節型の二足歩行ロボットが実用に先行したために、カテゴリー7自体の存続が危ぶまれている。実験機レベルでは、全身統則構造のまったく骨が無く軟体の人型ロボットも作られているという。

 カテゴリー8は、半自動型自律戦闘統則ロボット、通称タコ8である。
 カテゴリー7と並列して、カテゴリー6に高度な判断力を備えて自動戦闘ロボットにする計画が立ち上げられ、その結果生まれたのがタコ8である。一般兵員の代替ではなく、特殊部隊員の能力をロボットに模倣させて、手軽に高度な近接戦闘能力を活用出来るようにしたところが特徴で、その為に大火力の搭載は最初から見送られ兵員が普通に装備するものと同等の小火器を使用する。また完全自動型では管制に特別な指揮車両を必要とするのを嫌い、運用の軽快さを重視してあえて指揮用員を随行させようという思い切った割り切り方をした、遠隔リモコンロボットとして出来上がった。リモコンと言っても高度な人工知能を有し多数のセンサーを内蔵しており、単独でも戦闘自体は自動判断も可能であるが、特殊部隊ではより高度な判断を伴う複雑な作戦を行うので、そこまでの判断をコンピュータにさせるのは無理として融通性を高めるためにこの形態に落ち着いた。タコ6が瞬く間に兵士に受け入れられたのと同様に、タコ8の高度なオペレーション能力は現場指揮官に認められ、多用されることとなる。大規模な正面兵力が激突する戦争ではなく、テロや抵抗運動、海賊行為という、特殊部隊を必要とする局面が多発した当時の戦況において、タコ8はいかんなくその能力を発揮した。これにより、タコ8オペレーターという新しい兵種が生まれ重用されることとなった。

 なお、特殊部隊は単に戦闘に参加するのみではなく警備任務においてもその能力が活用されるが、高度なセンサ機能を多数有するタコ8はその点においては人間を上まわる能力を持ち、統則ロボットの投入で劣勢に立たされたゲリラ、海賊が要人テロにより戦況を打開しようとする当時の状況で大いに戦功を上げ、現在ではタコ8ロボット抜きでの警備任務は考えることが出来なくなっている。これは戦後の警察による警備活動にも引き継がれている。

 カテゴリー7、8からは設計段階でシステム全体に統則理論が適用されており、部分破損に対しての生存性が著しく高くなっている。統則理論とは、同じ種類の素子が複数連結し、おのおのの物理的な配置を素子自らが判断してその場所における最適な機能を自ら判断し、全体として統一された機能運動を行う、というもので、その典型は人間社会であり、おのおのが特に図らずともその場の状況を判断して全体として機能するのを模倣したものである。統則構造はロボットの、特に人工筋肉によって構成されるものに適用されるのだが、単に機能分担だけでなく動力分配と情報伝達、情報の分散処理で破損部を迂回して回復させるように働くので、システムの生存性が著しく高くなる事を期待されている。

 カテゴリー9は、消防レスキューロボットである。
 これ以降は大戦後の開発となり、平和目的の統則ロボットの利用が進められ、戦闘用統則ロボットの技術を利用しての消防用ロボット、タコ9が開発された。特殊部隊の代替としてのタコ8を応用したもので、ビル火災等火災現場に進入せざるを得ない状況下では十分にその柔軟性を発揮する。頭部に放水器を装備しホースを引きずるタイプと、消火器を内蔵して主に被災者の救助に当たるレスキュータイプとが用意されている。
 さらに、タコ6を改良した緊急救命ロボット、タコ99も開発された。タコ6はその箱型ボディが輸送に便利な為にさまざまな貨物を運搬するように設計されているのだが、中には負傷者あるいは死者を輸送する為に上部に担架を設置したものもあり、生命維持装置を搭載していたりする。これを発展させてより高度な生命維持機能を搭載させたカプセル型担架を搭載した患者搬送ロボットがタコ99となる。火災や災害現場でも使えるように、カプセルは耐火性と強度を与えられ高度な水平維持装置も搭載され、担架の姿勢が常に一定に保たれるようになっている。

 

 この分類は通称TACOと呼ばれる世界規格になっており、TACO-8統則ロボット、等と呼称する。

 

弥生「地球温暖化で気温が世界規模で暑くなって、極地の氷が溶けて地球は水没するんだ。」

まゆ子「それはすこし違う。地球温暖化で平均気温が上がった結果極地の氷が溶けて海洋の低層流の流れが止り、赤道付近の熱を極地に持って行く暖流のベルトコンベアが停止して、地球は平均気温がむしろ下がってしまうのだよ。海面上昇と寒冷化が同時進行するのだな。」
じゅえる「最悪じゃん。」
まゆ子「最悪だよ。だから戦争が勃発した。しかし日本は金のチカラでなんとかなってしまうのだな。で、海洋での戦争ということで日本の軍隊が世界中に安全保障上の義務とかで出かけて行って、日本得意のロボット技術を応用した統則ロボットが大活躍するというわけだ。」

 

じゅえる「うん? ちょっとまって、これは『ご主人様と私』の設定じゃないわよね?」
まゆ子「・・・あ。」
弥生「そうなの?」
まゆ子「どうしよう。」
じゅえる「どうしようじゃなくて。どうしよう。というか、ご主人様とわたしってあいまい過ぎるよ。」

まゆ子「よく考えたら、これは別にピルマル理科工業の製品じゃなくても良かったしー、どうしたものかな。どう考えても鉄板製メイドロボの時代よりも統則ロボットの時代の方が古いぞ、技術的に。動力だって燃料電池だし。」

弥生「こういう時は深く考えない! ご主人さまとわたしの時はいいかげんの設定でも許容して、統則ロボットを主人公にする時はこの設定でいけばいいんだよ。」
まゆ子「そういうことにならざるを得ないんだけど、でもホントにこれが主人公になるお話を作る気があるのかな。」

じゅえる「あのさ、これを誰かのげばると処女にしてもいいんだよ。だれかやってみる気は無い?」
弥生「いや、・・・・・志穂美は別の口が見つかったし、じゅえるやってみない?」
じゅえる「いやわたしは気軽になんも責任が無い方が、・・・志穂美って?」

弥生「志穂美は天使になるのだ。」
まゆ子「またあやしげなこと考えたねえ。天使なんて柄じゃないでしょ。」
弥生「不良の天使で現在地上世界に追放中。志穂美にぴったりだと思わない?」
まゆ子「それには統則ロボットの出番は無い?」
弥生「無い。」

 

まゆ子「ま、いいや。統則ロボットに戻ろう。というわけで、技術的には統則ロボットはこの時代には古くなっている、というか明らかに人工知能技術は隔絶した差がある。最低でも40年。」

弥生「じゃあ統則ロボットは廃れているか、民生用が普通に出まわっているのかな。」
まゆ子「そうねえ、タコ型のロボットはなかなか便利いいからねえ。人間型に出来る事ならなんでも出来るから、普及していると考えた方がいいね、。メイドロボが高級召し使いだとしたら、下働きの下男程度のものだね。たぶん、普通の家でも一家に一台くらい。」
じゅえる「ピルマルセルで動くわけね。電池で。」
まゆ子「人工知能技術も進んでるから、普通に話をするけれど、アニタとかみたいには芸が無い。実にロボットらしいロボットみたいな受け答えしかできないよ。完全シリコンコンピュータ製だ。」

じゅえる「自動車も自動運転かな、そんな社会だと。」
まゆ子「そんなとこだろうね。ただ、常時人工知能を搭載しているのか、それともロボットが運転するのか、無線で人工知能に接続して操縦してるのかの違いはあるけどね。」
じゅえる「じゃあタコハチロボットは骨董品かな。」

まゆ子「そこんとこは考慮する余地がある。オクト08土器能登子が骨董趣味のいい女か、タコハチロボットが愛敬があるおもしろいキャラか、どっちだろう。」
弥生「コメディタッチなら後者だね。おもしろいロボの方が応用が効く。」

 

まゆ子「しかしこのシリーズでそんなに深い扱いをしようとは思わないんだけど。そもそも土器能登子がそんなに深く絡んで来ることにはなってない、というか何も考えてない。」
じゅえる「おおっと、なんかゲバルト処女弥生ちゃん篇を考えてた最初みたいなすっからかんさだね。おんなじ手法で膨らませて行っていいかな。

 そうねえ、土器能登子は自分がメイドロボとは知らずに育ったのだよ。それがいきなりお前はロボットだって言われてとち狂って、・・・・どうしよう。」
弥生「いきなりそう来るか。しかしヘクトール・パスカルはどう絡んで来るのだ。えーと、確か土器能登子は警察関係者だったよね。」
まゆ子「そう。統則ロボットを使う警察の特殊ロボット隊の隊長さんだよ。そうか、ヘクトール・パスカルとは事件の関係で出会っているのだな。」
じゅえる「であるならば、土器能登子は国家の命令で特殊部隊の隊長として、国家規模での陰謀に絡んだとされるヘクトール・パスカルを追うわけだ。でそうやってる内に、自分が実はにんげんじゃなかったことを知る・・・・。」
弥生「なんか凄く可哀想なヒトだな。」

じゅえる「では、・・えと日本政府だな、はピルマル理科工業と繋がってるんだ。」

まゆ子「そういうことになるかな。もちろん一私企業であるピルマル_に完全支配されているという事はない。これは世界中でそうで、ピルマル_は決して権力に直接結びつこうとはしない。相手政府側がピルマル_に頼らざるを得ない状況を作り出し、政府側が勝手に便宜を図らざるを得ないというスタンスで通している。日本だけではなくアメリカともロシアともEUとも中国とも、色々なところとそうだから不偏で中立性を意図的に高めているんだよ。
 それに、ピルマル_はエネルギー革命を引き起こし中東産油地帯に多大なダメージを与えたんだけれど、それを補填する形でペルシャ湾岸にピルマルセルの工場が建っている。もちろん秘密はまったく開示されてないけれど、大量に雇用を発生させている為に反感と共に依存関係が発生し、またそのおかげで周辺に関連産業が整備されて工業化が進展しているから、どこも表立っては文句は言わない。西側諸国も、石油時代以降のイスラム・アラブ国家の崩壊と民衆の流出を食い止めているピルマル_の力に世界平和と安定を頼っている、というのが現状ね。」

弥生「それほどのちからがあるのか・・・・・・。」
まゆ子「中国からインド、でペルシャ湾岸へと成長センターが移ってきた、という設定ね。開発には日本の力も随分と関っている。で、これは2060年頃と思って下さい。」

じゅえる「イスラムとの関係はどうなってるの。」
まゆ子「近代化が起こっている最中では、宗教はあまり効力が無い。ずいぶんと緩んでいる。工業化から見放された奥地では先鋭化は進んでいるけれど、テロは周辺各国が強力に抑え込んでいる。ピルマル_以下の進出企業に逃げられては困るからね。民主化と政府への権限の集中が同時に起る、という日本の高度成長時代みたいな格好だね。あと、海水面上昇で既存の工業地帯がダメージを被って作り直すよりもサラ地で出直す方が安くついた、という面もあるから、ピンチをチャンスに転換するてことで、アラブ各国はこの流れに乗り遅れたら二度とチャンスはないと思ってる。石油時代の終了まで無策で自立した工業力の発展はなく、10年くらいどん底に落ち込んだ反省もあるのね。民衆も伝統的なダメ政府にはあいそを尽かしてるから、現行のピルマル体制とも呼べるのを支持している。」

じゅえる「アフリカはどうなってるの?」
まゆ子「ひでえもんだ。海水面上昇でも本来あんまり影響を受けないはずが、世界経済の混沌の波をもろに被って南アフリカ等にある都市国家以外は混沌のるつぼという感じ。南アメリカはその影響で海岸線は海賊の巣になっている。それと中国の環境破壊と海岸線の上海香港等がもろに水没して、これも海賊の巣。」

 

弥生「つまり、『ご主人様とわたし』は統則ロボットの話の未来なんだな。」

まゆ子「しかたない、行きがかり上そうなる宿命にあるんだよ。なんせメイドロボの居る世界なんだから、それ以前の技術開発史も勘定に入れなくちゃいけない。統則ロボットの後にメイドロボはある、という位置づけなんだから、世界観も共通化せざるを得ない。」

弥生「ピルマルの本社はどこにあるの? アラブじゃないんでしょ。」
まゆ子「どうしよう。アラブではないけれど、アメリカ日本ヨーロッパ中国には無い。むしろ絶海の孤島辺りにあったりするのかな。」
じゅえる「要塞島だな。ピルマルセルのオリジナルを保管する最強の要塞。」
まゆ子「それはまた別のところにあるけれど、たしかに要塞である必要はあるね。なんとなく悪役っぽい。もちろん警備上の問題で、これだけの大企業なら小国の軍隊と同等以上の戦力はあるべきだよ。」
弥生「太平洋上にある、孤島ということにしておこうよ。アクセスはいいよ。」

まゆ子「そうだね。アクセスを考えると、ハワイとかガラパゴスとかのイメージでもいいな。ネオ・ムー諸島という怪しげな島にあることにしよう。日付変更線のあたりにある。」

じゅえる「人工島だね。要塞で飛行場があって、リゾート施設があってイルカが居て、研究者がたくさん居る。海底に秘密の研究所があるのだよ。で、本社ビルには軍隊並みの警備が居て、ピルマルの社長を頂点とする鉄の掟に縛られた古代からの秘密結社が経営の実体を掌握する。」

弥生「それだ。秘密結社があるんでしょ、ピルマル細胞を保存してきた。」
まゆ子「たしかに秘密結社なんだけど、あやしげな世界戦略で歴史をコントロールしてきたとかじゃないよ。経済を掌握してきたわけでもないし、超科学技術を応用してきたわけでもない。

 古代先文明人の血脈を保存する組織だ。むしろ、世に目立たない方がよい。アトランティスの後継者であるけれど、一般人類にはピルマル細胞の利用は不可能と見極めて、先文明人の復活を画策し、時折世間に英雄や天才を輩出する哲学的とも言える静かな秘密結社だ。世界制服やら人類の頂点に立つとかの野望も無い。というか、そんなのは児戯に等しい愚行だと思ってるのだな。ピルマル細胞の応用に成功すればいつでも可能。しかしそれを安定的恒久的に続けるのは難しい。」

じゅえる「ちなみにアトランティス人はどうやってピルマル細胞を利用していたの?」
まゆ子「頭にピルマル細胞を埋めこむ。」
弥生「あー、それは直接的過ぎるなあ。そりゃあ滅亡しても仕方ない。」

まゆ子「で、哲人賢人ばかりで構成されているから、自分達ではピルマル細胞をコントロール出来ないことを良く知っているのだ。だから先文明人の超カリスマ力に期待している。というわけで、このメンバーは別に秘密に動いていたりしないんだよ。きわめて普通の人に見える。ただ、普通で無い事を知っている。」

弥生「にも関らず、ここに至ってピルマル理科工業を立ち上げたわけは?」

まゆ子「出来るから。科学技術の進歩により、ピルマルレレコの正体に迫るだけの知性を人間が漸くにして確立したと考えて、科学の力でこれまで出来なかったピルマルレレコ本体へのアクセスを開始しようというプロジェクトが開始した。その為に資金が要る、組織が要る、権力に対しても対抗力が要る。だからピルマル理科工業を立ち上げた。やろうと思えばこれだけのものが簡単に作れるポテンシャルがあったのだよ。」
じゅえる「地味に見えて、史上最強なんだね。でも、秘密結社はこれだけなの?」
まゆ子「いや、もう大小数百に上る歴史的秘密結社があるんだけど、それ等全てに超然としてたのだね。中にはピルマル細胞を独自に保存していた所もあったんだけど、最後には野望に駆られた権力主義者に不完全な利用がされて、ことごとく滅び去ってきた。それを冷静に見続けてきた組織なんだ。」

 

弥生「にも関らず、ここで世に出るわけなんだね。」

まゆ子「この人達は、ピルマル細胞自体は全人類のものだと思っている。また、ピルマルレレコの存在を世人に伝えねばならないと思い続けてきた。しかし、これまではそれは人類にとって害にこそなれ決して幸福にはつながらない、と見極めていたんだよ。しかし、否が応にも科学技術は進歩してそれだけで人類を滅ぼすことが出来る段階にまで世界は進歩してしまい、それを防ぐ為にはピルマル細胞の利用もやむなし、と思い至ったのだね。失敗してもピルマル細胞による破滅は、生態系には壊滅的なダメージを与えない事が経験上分かっているから、未熟な科学技術による破滅よりも相当にマシだ、とも思っている。つまり、よりよく滅びる為にピルマル細胞を使おうという計画でもある。

 まあ、この人達は核時代にはその結論に達していたんだけれど20世紀はまだまだ全然ダメと思い、ロボット・人工知能技術の発展でようやっとGOサインを出した、ってことだよ。それでもまだ早いということで、全人類を管理するための偉人を探している。」

 

じゅえる「よりよく滅びる為の、道具、・・・・ね。それは常人には発想出来ないな。」

2004/11/28

 

 

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