ご主人様とわたし〜設定1

 

じゅえる「で、結局やっぱり”ご主人様とわたし”の設定も、うちでめんどうを見ることになっちゃったよ。」

弥生「さがだね、もうこれは。」
まゆ子「仕方ないじゃない。一応はモノが出来上がってるんだし、何も無しに宙ぶらりんでモノだけ転がってるのは気持ち悪いじゃない。」
じゅえる「ま、ここはすぱっと諦めよう。で、どこまで出来てるの。」

まゆ子「”ご主人様とわたし”は3DCGによって作られるいいかげんな物語。というか、設定を共通化してシリーズものにしてやると、塵も積もれば方式でいずれは発表できるんじゃないかという軽い気持ちで立ち上げたシリーズなんだな。要するに野放図にいいかげんなものを3DCGで作っててもモチベーションの維持が出来ないから、自然発生的に凝集力としての物語を生じた、という。なんのことはない、ウエンディズと同じ成り立ちを持つわけだね。」
弥生「なるほど。つまり3DCGの妖精と言えるんだ。うえんでぃずが”でぽ”の妖精であるように。」

まゆ子「であるからして、このシリーズは3DCGを作り易いように荒唐無稽に作られている。なにせ主人公は鉄板で出来たメイドロボだ。」
じゅえる「それが分からない。なんで鉄板で出来てるのよ。普通にふにゃふにゃのプラスチックとか人工皮膚でいいじゃない。というか、メイドロボというのは柔らかくて暖かくてあへあへ夜のお供をするものでしょ。」
まゆ子「そだよ。」
弥生「そなの? じゃあ何故てっぱんなの?」
まゆ子「そこがこの設定のミソなのだな。たしかにメイドロボというものはその成立上の理念から見てもふんわかぽやぽやサービス満点の優しいおねえさんロボであるべきだ。しかし世の中そういうのをキライなヒトも居る。特にキリスト教国のニンゲンは作り物のロボットが神の御業を汚すものとして否定的に見ているわけよね。そういうとこにそういったニンゲンそっくりのロボが行くのは社会道徳上よろしく無いでしょ。まして、日本起源のヲタ丸出しのメイドロボが、だよ。」
じゅえる「うわ。なるほど、そう言われて見ればたしかに気持ち悪がる人は少なくないな、アメリカとかヨーロッパとか。」

まゆ子「このお話しの”ご主人さま”ヘクトール・パスカル氏はヨーロッパ人なのだ。エルキュール・ポワロのぱくりなのだな。それが証拠に”ヘクトール”といういかにもぱっちもの臭い名前が付いている。彼がヨーロッパ人でキリスト教を信じてるとすれば、メイドロボは日本のメイドロボであってはならない。」
弥生「理に叶ってる。でも、メイドロボ自体を必要としないんじゃないかな、本物のニンゲンを雇って。」
まゆ子「そこがポアロと違うとこなんだな。ヘクトール・パスカルは七色の脳細胞を誇る希代の名探偵で身長182cmの偉丈夫。ちんちくりんのポアロと違ってご婦人にモテモテなんだ。だから身近に生身の女を置かないのが、彼女たちへのサービスなんだな。」

じゅえる「もてもてなのかー。なるほど、日本的メイドロボが要らない道理だわ。でも名探偵って、ちょっとアナクロじゃない?」
まゆ子「ヘクトール・パスカルは史上最初の電哲探偵なのだよ。つまり現在、というかちょっと未来なんだけど、その世界では監視カメラやらロボットやらが至る所に普及して、名探偵なんてのの出る幕は無いんだな。カメラのログを見れば犯人一発で分かるし遠隔ロボットでアリバイ完璧完全犯罪というのもアリ。そういう社会では普通の名探偵の手法が全く役に立たない。特にこの監視社会を出し抜いて犯罪を成し遂げようという超エリート犯罪者には警察も無力なのだ。そこにさっそうと現われたのがヘクトール・パスカル。コンピュータとAIを駆使した独自の犯罪心理シミュレータを駆使して、一般の科学警察の手に負えない国際犯罪者どもを次々にお縄にしていったのだね。で、付いたあだ名が電哲探偵。しかしどちらかというと、物理学者のように超難解な方程式で犯罪モデルを解析する理論家なのだな。」
弥生「そうか、従来の名探偵はもう役に立たないんだ。まあ、これだけコンピュータとかネットワークとか発達すれば、いつまでも電車の時刻表とにらめっこというのはバカみたいだしねー。」

じゅえる「でもなんで、首だけになったのよ。」
まゆ子「だからさ、やり過ぎたのよ。

 ヘクトール・パスカルは史上最初の電哲探偵。その活躍で世界に暗躍する国際犯罪者どもをつぎつぎにお縄にした。当然報復も考えるだろうし、あまりに難解な彼の手法のホローワーもなかなか育たない。だとすれば、唯一の天敵を滅ぼそうと考えるのは自然でしょ。で、何度も襲撃を受けたのさ。」
弥生「警察とか国家機関とかの警備は付かなかったの?」
まゆ子「それが難しい。ヘクトール・パスカルはやり過ぎた。国際犯罪者の中にはれっきとした超大国の下請けとして特殊工作に当たるという連中も居たわけね。そいつらもやっつけてしまったから、」
じゅえる「つまり国家レベルでの陰謀に巻き込まれてしまったんだ。それじゃあ長生きは出来ない。」
まゆ子「というわけで、それまで所有していた秘書型メイドロボに加えてボディーガード用メイドロボも購入した。これも鉄板製ね。防弾仕様なのだ。しかし、結局はそれでも不足でとうとうヘクトール・パスカルは死んでしまう。しかし、そこに救いの手を差し伸べたのが”ぴるまる理科工業”なのだ。」

弥生「ぴるまるって、このぴるまる?」
まゆ子「そのぴるまる。前に掲載していた「ぴるまる薔薇園の終末」という小説には書いてたんだけどさあ、ぴるまるれれこがもたらした超科学技術を独占して世界を支配する複合企業体だよ。このシリーズではぴるまるれれこの存在が秘匿されているけれど、ぴるまる理科工業自体はその通りに存在する。世界最大の複合企業体で世界の先進技術を独占し世界中のGNPの15パーセントを独占するという巨大な権力だ。社長はユウ・神辺という超美人の40歳くらいの女の人。」

弥生「で、そのぴるまる理科工業がヘクトール・パスカルを支援する?」
まゆ子「このサイボーグ手術の段階ではね。ぴるまる_から派遣されていた米軍介錯人SUOUというサムライで首切りの達人が、瀕死の重傷を負ったヘクトール・パスカルの首をきれいにちょん切って活け〆状態にして貴重な脳細胞を早急に保存してしてくれて、サイボーグ手術に間に合ったのだよ。彼はもともと米軍の野戦に従軍する軍医で戦死の現場におけるサイボーグ手術前提の脳細胞の早期確保技術のエキスパートなんだな。だから白羽の矢を立てられて、ヘクトール・パスカルの臨終に間に合ったわけだ。」
じゅえる「それであの、鳥籠みたいな首桶に入ってるんだ。」
まゆ子「で、自分のボディを作ればいいようなものだけど、なぜか首だけで居る事を選択したヘクトール・パスカルはこの姿のままで電哲探偵として復帰しまた世界中に飛び回って活躍しようというわけで、自分を持ち運ぶ為の新しいメイドロボを購入した。それが今シリーズの主人公メイドロボ”ANITA”なんだね。

 で、このANITAはフランス製の新型、特徴としては新機能の短距離飛行能力を持つ。つまり推進剤としての水を体内に15リットルくらい確保することにより水蒸気ロケットで高度15メートルくらいはジャンプ出来るんだ。長さで言えば幅跳び100メートルくらいね。短時間の噴射を繰り返すことで高速走行も可能。ただし新製品であるからデバイスドライバの安定度に不安が有る。」

じゅえる「でもそんなエネルギー源はどうするのよ。」
まゆ子「そこがぴるまる理科工業の力なのだよ。ぴるまる_は全世界に新エネルギー”ぴるまるCELL”というものを販売している。これは電池だ。単一電池と同じ大きさ同じ電圧でありながらそれ一個で自動車が走れる程の膨大な電流を供給する。それだけではなく、巨大な戦車やヘリコプターですら飛びレーザー光線兵器すら実現する超パワー供給源なんだよ。しかも原理不明。ばらして見ても中身は単なるガラス。稼働中に分解してみようとしても瞬時に蒸発して分析不能。当然他社が作ることは出来ずに独占状態で、現代文明のすべての動力を一手にぴるまる理科工業が担っている、というほどの重大な支配力をもっている。」
弥生「原理は、何?超未来科学?」
まゆ子「だから、ピルマルCELL、ぴるまる細胞なんだったら。」
じゅえる「・・・ああ。ぴるまるれれこの細胞なんだ。宇宙人ぴるまるれれこの身体の一部が保存されてきたものを量産化した・・・。」

まゆ子「これは物語の中核を為す重要な秘密。これを巡ってヘクトール・パスカルは戦い続けるんだから。さて、で。その件のぴるまるれれこの地球降臨は今から2万年前なのだ。」
弥生「えーーーーー、二万年前のものを現在になってようやっと量産化したっての? 時間掛かり過ぎじゃない。」
じゅえる「いや、ずっと眠ってたんでしょ。どっかの遺跡で。」

まゆ子「そうなんだ。二万年前から続く秘密結社が延々と受継いできたガラスの中のぴるまる細胞をローマ人がピラミッドの中から発見し現代まで受継いだのが、ぴるまる理科工業が所有するぴるまる細胞。それ以前にムー大陸とかアトランティスとかを作った、ぴるまる細胞の応用に成功した古代文明人は居たんだけれどことごとく滅び去った。しかし現代科学の進展によって遂に科学的にぴるまる細胞の秘密にかってなく迫る事が可能となり、ついに量産化ぴるまるCELLとしての汎用化に成功したのだよ。だからこのぴるまるCELLはエネルギー源としてだけでなく超高速のコンピュータとしても機能するが、ぴるまる理科工業以外の者がその機能にアクセスしようとすると、ぴるまる理科工業のプロテクトに引っ掛かって使えない。」

弥生「じゃあ、超コンピュータとかで世界を支配してるんだ。」
まゆ子「でも無いんだ。コンピュータとしては隔絶した計算力を持つにも関らず、ぴるまる理科工業はぴるまる細胞の計算力を持て余している。モノはあっても理論が無い、特にぴるまる細胞のコンピュータアーキテクチャに関しては白紙も同然。ようやっと現在の進歩したシリコンコンピュータによってアクセスが可能になった、という程度でしかない。それにコンピュータとしてのぴるまる細胞は獰猛な野獣と同じで、その進化論的な発生状況から他のコンピュータを乗っ取ることを生存目標として究極進化を続けたシリコニィの細胞は現代文明にとっては背中に核爆弾を背負って歩いているのと同程度の危険さがある。」
じゅえる「なにも、わかってない?」
弥生「ただ増やすのに成功した、だけ?」
まゆ子「だけ。」
じゅえる「おそろしーじゃん。ぴるまるれれこに世界が乗っ取られたらどうするのよ。」
まゆ子「だからアトランティスは滅びたんだったら。

 ぴるまるれれこが地球に脱輪して落っこちた際にUFOのエンジンだったシリコニィの仲間が破損分解して地球大気圏内にばらまかれた。これがΘ放射線と呼ばれるものなんだけど、これによって地上に未曽有の大惨事を引き起こすわけね。つまり、魔法や仙術といったレベルの技術による文明の崩壊、龍や鬼という神秘生物の絶滅、魔法使いの一族による幻影の文明の消失だ。つまりファンタジー世界がさっくり消え失せたんだ。」

じゅえる「そこんところは、ぴるまるれれこの物語のオフィシャル設定だね。ファンタジー世界に降り立ったぴるまるれれこが科学の力で人類社会を進歩に導くというおはなしだ。」
まゆ子「恐竜が絶滅して、ほ乳類が繁栄したのと同様に、魔法ベースの前人類文明が滅びた事により、それまで原始状態であった現世人類は文明社会の形成に移ることが可能になった。それまで支配的だった勢力がスイープされたことにより、ニッチにのみ存在を許されていた人間文明が一挙に花開くことになる。それが先史文明という奴で1万5千年前くらいの話だ。そこにぴるまるれれこの科学知識も関与している。しかし、その文明は長持ちはせずに一気に崩壊する。魔法文明が持っていた天候制御技術をぴるまるれれこは持っていなかったし、というか地球みたいな水惑星の環境なんかぴるまるれれこには関係ないし、生身の人間が生きて行く上で重要な低温域での化学反応や生物に関する科学知識も当然無い。魔法制御を失った地球環境は一気に悪化して折角できた人間文明を一気に押し流してまたもとの原始人に戻ってしまったんだな。」
弥生「そこで、今我々が知っているような歴史が生まれた、となる。地に足がついてなかったんだ。」

じゅえる「で、堅実に人類文明が科学技術を進展させて科学的に扱えるようになったところで、ぴるまる細胞に手を着けた、と。で、そのぴるまる細胞の完全制御とアーキテクチャ解明にヘクトール・パスカルの七色の脳細胞が寄与する可能性がある、と。」

まゆ子「いや、実はヘクトール・パスカルはぴるまるれれこの降臨で滅びたはずの魔法人類の生き残りの一人なんだ。もっとも本人はぜんぜん知らないし、そもそも種族として残っている訳じゃない。現世人類と魔法を失った魔法人類が自然と交配混血して遺伝子が現世人類に受継がれ、それの発現率が相当に高い人物が世界中に36人確認されており、その中で最も魔法人類に近いと看做されていたのが、ヘクトール・パスカルなんだな。人類の平均を遥かに越えた知的能力と女性をめろめろにする人間的魅力、いかなる悪にも怯まぬ偉大な胆力と勇気、これらはまさに王者として諸人に君臨するのに十分な条件なのだ。魔法人類の文明というのはそういう傑物によって現世人類に超然とした形で存在したんだけれど、今回まさに魔法のようなぴるまる細胞を利用する社会が到来したときに、世界中に数多有る主権国家という名のハイエナどもを御してぴるまる細胞の利権を独占し続け同時に破滅から世界を守る為に、旧魔法人類の叡智を利用する、という計画なのだ。

 そのためにはヘクトール・パスカルに完全な形での能力の発現を促さねばならない。とぴるまる理科工業は彼に近づいたのだけれど、彼が一度死にサイボーグになったことで事態が少し変わった。つまり、死んで生き返ったヘクトール・パスカルは一種の不死人になったわけで、うまくすると2、3百年も生きられるかもしれない。生きた生身の王ならば反発する政治勢力もあるかもしれないが、不死の神として人類社会に君臨するとすれば、また社会の形態が変わってくる。ぴるまる細胞の秘密を保持し続けるためには神秘のベールに覆い隠しておいた方が得策かもしれない、とね。」

弥生「不死人かあ、首から上しかないもんねー。そりゃあ、不死にかなり近いよね。」
じゅえる「神かあ。でも、それじゃあ、彼が神である証明というのが必要なんじゃないかな。誰が見ても明らかに常人以上だという事績による証明が。」
まゆ子「そこで、冒険の旅が始まるわけだ。ぴるまる理科工業はヘクトール・パスカルを全面的にバックアップする。だがその裏では彼を暗殺する工作もしている。それだけではなく、彼を使って潜在的な敵をいぶり出そうともする。殺そうとしたり助けたり、奇妙に矛盾する指令がぴるまる理科工業社長から発せられることになるのね。スゴイ謎がそこにあるわけなんだよ。」

 

じゅえる「だいたい物語の骨格は分かった。で、メイドロボだけど。」
まゆ子「三体あるんだよ。
 一番古株の秘書型メイドロボ、ヘルミーネofパスカル。あ、このof以降はつまりヘクトール・パスカルの所有という意味ね。これは、赤くて巨乳で眼鏡を掛けていて、最もヘクトール・パスカルに愛されているし愛している。秘書型ロボットであるから彼のマネージャーをしていて彼の財産も管理している。

 二番目が護衛用に購入された防弾メイドロボ、シノアofパスカル。シノアという名前だけど日本企業製で古い格闘ゲームのチャイナ風お姉ちゃんをモデルに作られている吊り目のロボット。ただし、護衛用とはいえ人間に対して致死的な攻撃は政府機関所属で公務でなければ使えないので、麻痺程度しか威力を保たない武装しかない。青い身体で5.56mm程度のライフル弾を止弾吸収出来る。肩の部分に煙幕機能を持っている。

 で、三番目が逃走用飛行メイドロボ、アニタなのだね。フリフリでひらひらのピンクのエプロンドレス着てる少女タイプのメイドロボ、身長は170cmあるけど。新製品でバグ持ち、フリーズする。お茶目な性格なのは、最初に購入された際に扱いやすいようにヘルミーネがプリセット人格の中から選択固定したのよね。ヘクトール・パスカルに付き従って人前に出ることも多いと思われたから。実際、首桶の中の彼は直接にはほとんど喋らない。名探偵のの推理をする時はアニタが代わりに喋る。頭の両脇に飛行標識灯が付いている。

 で、こいつらの特徴は、人間みたいでなく鉄板で出来ていること。圧延バネ鋼板というぽよんぽよんする鉄板だから、おっぱいは硬くてカンカン音がするんだけれど、ぽよぽよと弾む素敵なボディなんだ。鉄板といえども表面に塗ってある塗料内部にはナノマシンが散りばめられていてちゃんと触覚があるし、空冷型だから鉄板を通して内部の熱が発散されており人肌のぬくもりがある。」

弥生「ちょっとまって、コンピュータはどうなってるの。メイドロボを動かすだけのコンピュータは出来てるの。」
じゅえる「そうだ、コンピュータ技術は進展してないんじゃなかったの。」
まゆ子「そこまでバカにしたものじゃないんだよ。今のペンチアム4とかと一緒にしちゃいけない。全部64ビットCPUで64ビットOS、128ビットも見えるてるけれど並列処理チップが複数付いていて今のコンピュータの30年先くらいには進歩してるんだよ。メイドロボもちゃんと動くし、自然会話も可能。人間に出来ることは大概出来るけれど、あんまり人間的ではないなあ、というレベルにまで到達している。しかしー。」
じゅえる「しかし?」

まゆ子「その程度の人工頭脳ではやはり面白みに欠けるんで、特殊な処理機能が付いている。バイオチップというもので生体の脳がそのままカプセルに詰まっていてコンピュータがそれをサポートすることで相当に人間っぽい反応を引き出すのだよ。特に、人間の感情とか隠された思惑とかを推察する能力に優れている。」
弥生「なに?それ。何の脳が入ってるの。」

まゆ子「カラス。カラスの卵から取り出した脳細胞が培養されて生命維持機能込みで僅か1キログラム程度のユニットになっている。だからこれは一種のサイボーグでもあるわけね。ただし完全自由なサイボーグではない。カラスの脳は自分ではメイドロボとして振る舞っているわけではなく、もちろんメイドロボとしての自我なんかも無い。ゲームのプレイヤーとして「メイドロボゲーム」をやっているわけで、ご褒美信号が与えられるようにサポートコンピュータが提供する極めて複雑なゲームを次々にクリアしているだけなんだな。ネットゲームがスタンドアローンのRPGよりも面白いように、カラスというきまぐれなプレイヤーに操作されることにより、外の人間からして非常に人間臭い面白みのある親しみやすい個性を持ったメイドロボが作れるのだ。
 これはいきなりメイドロボ用に作られたシステムではなくて、知能を解析する為に生きた脳の論理回路の挙動を分析するという知能解析研究の素材として長く一般的に使われたのね。安価で供給されて取り扱いも維持も楽なカラスの脳での実験が世界中で繰り返されて学生の研究素材としてもあまりにもポピュラーになった物の流用品なの。その研究の一環としてカラス脳に高度知能附加、言語理解能力の附加という試行で使われたサポートコンピュータ技術の流用でメイドロボの仕事をする事が可能になったのだよ。技術水準としては脳研究の大学院修士レベルでそんなに大層なものじゃない。」

じゅえる「ほんとにそんなことが可能なの?」
まゆ子「それも分からないほどに、今の生物の知能研究は遅れているのだよ。」
弥生「でも、研究材料としては、猿を使うのが一般的じゃないの?」
まゆ子「猿は高い! 猿は霊長類だ! つまり人間の仲間だから、その脳を一寸刻み五分刻みでありとあらゆる責め苦を与えるような脳研究はほとんど許可されなかったのだよ。しかも猿の脳は極めて高等に複雑に進化していて、それに研究用の電極とかを仕込むのはブラックジャッククラスの天才脳神経外科医が必要であり、はっきり言ってぶち殺される猿の為にそんな高等な手術をする酔狂者を何十人も確保するなんてのは不可能だったわけね。だから、高等な知能を持っていながら小型で構造的に単純な脳を、頭から丸ごとくりっと切り抜いて、全方位からコンピュータ制御のマイクロサージャリー手術を行う事が出来たカラスが脳研究、知能研究のターゲットになったのだよ。
 それにカラスは鳥だからね。人間が外部から与える仮想空間内の移動でも、体性感覚として歩行の情報を常に与え続けなければならない歩行生物よりも、三次元空間をぴゅーっと飛んで行く鳥類の方がバーチャル空間への適応力が高かったんだよ。飛行する鳥類は歩行生物よりも視覚による情報に依存する割合が非常に高い、というのも実験にプラスに働いたのね。猿とか犬だったら、臭いとか触覚とかに情報を与える比率を高めなければならず、分析に困難をもたらすんだよ。」

 

弥生「べんりいいねえ、カラスって。」
まゆ子「だから、ANITAは空を普通に飛べるんだよ。特殊な制御プログラムが無くても。」
じゅえる「で、空を飛ぶのに水を飲む、と。エネルギー源はやっぱり、ぴるまるCELLなわけだ。」
まゆ子「そういう事。」


2004/10/13

 

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参考文献)

 

ピルマル薔薇園の解放

 

ピルマル歴240年7月

 6月24日に起こった反体制活動家エヌク・ヨハリソンのリンチ殺害事件は、7月13日に警察当局より、反政府組織内部での仲間割れによる抗争事件として発表されマスコミ各社はそのまま報道した。
 しかしその三週間の間に、これが内務監察治安部によるものである事がテレメール通信網の裏回線を通じて全市民の知るところとなっており、この虚偽の報道をきっかけに全国規模での一斉デモへと拡大する。
 デモは約2週間続いてついには首都マルカハイ近郊で暴動騒ぎを起こすまでに発展したので、中央政府は第2首都防衛軍を動員して鎮圧に当たった。

 だがこの治安出動のさなかより決定的な事件が起こった。

 7月22日。ピルマル理科工業第1特殊兵装販売部長ヨン・ヨト・キオンの乗った自動車がデモ隊に取り囲まれ暴行を受けたとして車載した武器を起動、8人が重軽傷を負うが却ってデモ隊の攻撃は激しくなり、ヨンは軍に救出を要請、ただちに一個小隊が向かって電気銃の水平射撃を行なって救出した。
 この時は電気銃による攻撃であったため負傷者は出なかったのだが、電撃を受けて意識不明のデモ参加者達をヨンが男女を問わず蹴って回る姿が一般民衆によりムービーテレコで撮影されテレメールで放送されたのだった。
 ヨンの救出に当たった小隊隊長デンモルク中弐尉は、兵に彼を抑えさせ暴行をやめさせたが、ヨンはピルマル理科工業の権威を振りかざし更にデモ参加者の射殺を要求した為、平手打ちをして拒絶した。ヨンから事件の顛末を報告されたピルマル理科工業は政府要人に働き掛け、軍上層部はデンモルク中弐尉を解任、拘留する。

 この措置に対して第2首都防衛軍は激しく反発し、更に市民団体に情報がリークされるとデモは一気に拡大、ピルマル理科工業に対しても矛先が向けられ、全土のピルマル理科工業支店は焼き討ちされた。
 政府は事態を静める為に第2首都防衛軍を撤収、代わって首都近衛兵団、ピルマルレレコ親衛隊による治安維持に当たり、ヨンを車載武器の使用による傷害罪で逮捕した。
 これにより首都周辺は沈静化したが、周辺都市や地方では暴動は更に激化、特に西部の中核都市マルハミィ、マルハミラは中央政府より派遣されている総督が脱出するまでに至った。

 7月30日。ここに至って政府は全土における無期限の戒厳令を布告、全中核都市で防衛軍が市内に進入して治安回復を図る事とした。また、経済活動に多大の損害が出る事を怖れてこれまで行われなかった、テレメール通信網の無期限閉鎖が決行され、無線放送も大きく制限された。
 だがこの措置は完全に裏目に出た。
 情報が遮断された民衆は新聞や放送の報道をまったく信用しなくなり、口コミで情報交換を行なっていたのだが、戒厳令が発令されてから一ヶ月、夏の終わりにある一つの噂が発生する。

 「ピルマルレレコは既に死んでいる」

 この噂はそれまで民衆のタブーとなっていたピルマルレレコの権威に対する反抗という新しい状況を産み出し、各反政府勢力は路線の修正の為に一旦活動を停止した。より穏健な勢力やこれまでのデモ、暴動に反発を覚えていた一般民衆にとってもこの噂は奇妙な現実感をもって受け止められ、社会は全体的に異様な沈静を見せる事となる。

 政府はこの状況をまったく認識できなかった。現象的には各地の治安は回復しデモも暴動も終息したため、戒厳令の解除を決定。首都マルカハイを除いて防衛軍の撤収も開始した。

 9月1日。未だテレメール通信は封鎖されたままで夏は終わり、学校が新学期を迎えた。だが生徒達の話題の中心は「ピルマルレレコ死亡」の噂で、新しい伝達ルートを得た噂は、これまでは不確定情報として状況を見守っていた民衆の間に確実な情報として一気に拡散した。
 噂は民衆にまったく信頼されていないマスコミをも動かした。当初は政府発表どおりに「ピルマルレレコ健在」を報じていたマスコミ各社も、まったく動きを見せない政府に対して次第に非協力的になり、ピルマルレレコの生存を示す確かな証しを求めてのキャンペーンを行った。

 政府はこの要求に対してまったく動かなかった。従来通り「ピルマルレレコは健在で、ピルマル薔薇園で研究活動を行なっている」という声明を発表するだけで、生存の証明を何も出さなかった。
 その内に、これまでピルマル理科工業と近い立場にあった各地の大学が、この30年間にピルマルレレコが何の科学理論も機械も発表していない事に不審の念を示し、マスコミ各社も同様に一度の記者会見も撮影も行われていない事を暴露するようになった。
 だが政府は動かなかった。「ピルマルレレコ死亡」の噂はもう百年の昔から定期的に発生しては消えていったので、今回もすぐに沈静化するだろうと静観していたのだ。

 9月27日、テレメール通信網復帰。これは経済の停滞が市民生活に重大な混乱を引き起こし始めた為であり、その復帰も官公庁、軍や企業に限って、しかも首都マルカハイを経由する回線のみとして各都市同士を直接に繋がない様に十分な注意を払ったものだった。

 9月28日、マルカハイ中央株式取引所、大暴落。テレメールが復帰して再開した株取引は予想通りに大幅な値下がりを見せる。

 9月29日。東南部の都市マルブフハイで狂女踊る。この女は大暴落で破産に追い込まれた為に狂ったとされているが、彼女は自分はピルマルレレコの生まれ変わりだと称し、かって地下に葬った古の魔法の生き物達をこの世に復活させると大声で喚いて回った。彼女は誰にも制止される事もなく2時間以上マルブフハイの中心街を踊って回った後警察に保護される。その直後、マルブフハイ近郊に眠っていた銅翼龍(カッパードラゴン)が目覚めて都市上空を飛行した。マルブフハイ防衛軍の戦闘機2機が緊急発進、龍に発砲するも逆に2機とも撃墜される。龍は首都マルカハイの方向に向けて飛翔したという。
 この事件はテレメールの裏回線でまたたく間に全土に広まった。ピルマル理科工業はテレメール回線による通信事業も独占しており、この種の怪情報はすべて盗聴して削除していたのだが、動力線に信号がリークするというバグを利用した裏回線は中心のサーバーを経由しないでテレメール回線から直接読み取れるので抑える事ができなかった。もともと裏回線は1キロメートル以下の通信しか出来ず、個人の通信機の無数のリレーを通して情報が流通しているので原理的にもピルマル理科工業にはどうしようもなかったのだ。

 10月1日。この日は全国で一斉にデモがあった。暴力的なものではなく、むしろ淡々と静かに市民が集まってきて自然発生的にデモになったもので、その目的は勿論、政府に対して「ピルマルレレコの生存の真否を明らかにする」事を求めるものだった。
 これに対して政府は警察の治安部隊を派遣して抑える、また従来通りの声明を発表したが、警察官といえどもピルマルレレコ死亡の噂の真偽を確かめたいのは一緒だったので、なしくずし的にデモ隊は各都市の知事公邸や官庁になだれ込んでいった。
 だが地方自治体の首長もまたこの件に関しては情報を得ていない事は同じだったので、各地方の知事、市長、村長、中核都市の総督の連名による中央政府に対する公開質問状の提出と最高裁判所にピルマルレレコ生存に関するあらゆる政府情報の開示を申請した。

 10月5日。中央政府首相幹事 トゥグ・吉プルルは全土に向けて特別会見放送を行なう。それは今回のピルマルレレコ生存の真偽を問う公開質問状に対しての正式な解答であり、彼は明確にピルマルレレコの生存を表明し、同時にピルマルレレコが病に冒されており通常の状態では無い事を明らかにした。また、近日中に容体が良ければ特別にピルマルレレコのテレビインタビューを実施する事を全国民に確約した。

 10月7日。各地のデモは終息したが、広場に人が途絶える事は無くピルマルレレコの病気平癒を祈念する市民集会へと変化した。
 首都マルカハイでは再び第1、第2首都防衛軍が市内に進入して東西に配置、ピルマルレレコ親衛隊はピルマル王宮正面に布陣して市内中心部は封鎖された。またピルマル理科工業の武装警備隊も市内の本社ビルを囲んで警備を強化した。
 同日、ヤン・ヨト・キオン不起訴決定、釈放。また夏のデモ、暴動で逮捕された民衆のうち、反政府組織の構成員でない者も釈放された。その数24.501人。

 10月10日。ピルマルレレコの会見インタビューの特別番組が放送された。

 この番組は当初録画で行われる予定だったが、最高裁判所長官 ミドリ・アンカラの勧告で生放送となる。会見場はピルマル王宮翔鯨の間、中央噴水となる。ここはかってピルマルレレコが私的な客に会う時に使ったとされる場所であるが、最後に使われたのはすでに40年も前の事である。
 この会見に参加したのは首相幹事 トゥグ・吉プルル以下の閣僚15人、地方中核都市総督8人、全人間最高議会上議長 住ミ・キリクルル 下議長 シンボ、最高裁判所長官 ミドリ・アンカラ。
 人間博士会総帥 キンドルフ ピルマル科学アカデミー総裁 立花マント、ピルマル理科工業社長代行 ユウ・コウベン・スゥク。
 他に各テレビ局、新聞社代表が10人。
 それにピルマル科学研究会主宰であったミツトノ・リトリの末孫であるミツトノ・レレコがインタビュアーとして指名された。

 10月10日午後2時00分 特別放送開始

 全土全国民が注視する中、テレビ中継は首相幹事トゥグ・吉プルルの釈明から始まった。彼はピルマルレレコの容体は思いの外悪く、この病が地球に固有の大気に起因するものでピルマルレレコの解析能力をもってしても治療法が見つかっていない事、またこの病気の為ピルマルレレコが異常放電を起こす為に普通の人間では近づけなかった事を説明し、国民に無用の心配を掛けない為にこれまですべての報道を制限した事を政府の責任によるものであると陳謝した。そして現在ピルマル科学アカデミーが総力を挙げて治療法の研究を行なっており必ずピルマルレレコは快癒すると約束した。

 そしてミツトノ・レレコによるインタビューが開始される。

 ミツトノ・レレコは若い時分にピルマルレレコの侍女をしていたとして国民に知られている。ピルマルレレコに会った事のある「民間」の生き証人としてこれまでもピルマルレレコ死亡の噂が流れた時は彼女の下にマスコミ各社は駆けつけ、否定するコメントさせてきたのだが、今回彼女もこれまでピルマルレレコに会えなかった。

 ピルマル王宮翔鯨の間 大理石で作られた真っ白い噴水の前にピルマルレレコは座っていた。彼女は全身から青い光を放っておりテレビカメラでは輪郭がぼやけて見えた。ピルマルレレコが公共の場で最後に姿を見せたのはもう40年も昔になるので一般民衆は誰も本物を見た事がない。だが光を発して神々しいその姿に誰もそれが本物のピルマルレレコである事を疑わなかった。それはこの会見に列席した面々も同じである。閣僚はともかく各都市の総督、民間報道各社代表も今回初めてピルマルレレコを見た。

 インタビューに答えるピルマルレレコは民衆の想像していた通りの姿だった。それは地上に降りた女神、誰よりも愛し慈しんでくれた人間世界の母、科学と進歩を教えてくれた偉大なる教師。ピルマルレレコは皆に迷惑を掛け心配させた事を謝罪し、自分の病気平癒を願ってくれた事に感謝した。そして今も自分が人類社会の役に経つ為に日夜研究をしている事を明かし、まったく新しい飛行機械の模型を見せてくれた。 この日のピルマルレレコは完璧だった。誰一人ピルマルレレコの健在を疑った者は居なかった。その時までは。

 話は自然とプライベートな事に移り、ミツトノ・レレコが侍女をしていた頃の思い出話になった。

 ピルマル薔薇園の中央にあるピルマル神殿で毎日蜜蜂の世話をして、ピルマルレレコが身体に停まった蜂がびっくりしないように放電を我慢していた姿をミツトノ・レレコが見て笑った話をしていた時、ミツトノ・レレコが大粒の涙をその双眼から流したのだった。この時61歳になる彼女が泣きながらインタビューを続ける姿にテレビの前の全国民は深い感動を覚えたが、ピルマルレレコの態度は彼女が涙を流す前とおんなじだったのだ。

 ミツトノ・レレコは涙を流しながらそのままインタビューを続けていく。そしてピルマルレレコは楽しそうに会話を続けていく。まるでミツトノ・レレコが泣いているのが見えないかのように。

 そして。

 ミツトノ・レレコはいきなり席を立つとピルマルレレコの膝にすがっておいおいと泣き出したのだった。更に「やめて、もうやめて、偽者のレレコさまを喋らさないで」とピルマルレレコの身体を大きく揺すり始めた。

 その場に居る者は全て硬直し、一体何が起こったのか理解できなかった。だが最初に理性を回復して動いたのは首相幹事トゥグ・吉プルルの腹心として知られる内務監察治安部長ベイギルだった。彼は大臣では無いが治安維持に関する説明の補足をする為に特別にこの場にいる事を許されていた。彼は一早く事態の異常を認識し、ミツトノ・レレコを抑える為にカメラの前に飛び出した。だが、彼が押さえつけるとミツトノ・レレコはより一層ピルマルレレコを揺すり、大きく傾け、ベイギルが無理やりにミツトノ・レレコを引き剥がした時、反動でピルマルレレコは噴水の中に落ちてしまった。

 水に落ちたピルマルレレコは爆発した。電気回路がショートし発光部分の電極がスパークし、モーターが異常回転してピルマルレレコの部品を引きちぎり表面カバーを突き破って歯車を周囲に散乱させた。

 この会見で使われたのはピルマル理科工業が作ったよく出来たロボットだったのだ。これの原形はピルマルレレコが200年前の「ウロボロスの角煮の戦い」で勝利した時のトリックで使用したものだが、その設計図がピルマル理科工業にまだ残っていたのだった。ミツトノ・レレコはトゥグ・吉プルルとベイギル、そしてピルマル理科工業社長代行ユウ・コウベン・スゥクに芝居をしてピルマルレレコが健在である事を証明するよう強要されていたのだ。

 すべての人間がその時凍りついた。この光景の一部始終を見つめていた国民は皆、ピルマルレレコが本当に死んだのだと理解した。

 特別放送はそこで中断終了し、黒いテロップが流れたままでテレビ放送は夜まで回復しなかった。
 放送終了直後から全国全都市で全市民が一斉に暴動を引き起こした為である。

 その夜の暴動は悲しかった。誰も民衆を止めなかった。警察も防衛軍も民衆を規制しようとしなかった。前の暴動の時には何重もの兵隊の列に守られた官庁街も今度は誰一人守ろうとしなかった。公務員でさえ暴動の列に加わっていたのだから。各地で庁舎に火が掛けられ空を焦がすような炎が漆黒の闇に消えていく。どこからともなく、街の至る所からすすり泣きの声が聞こえてくる。何十万人もの嗚咽が炎と共に天に昇っていった。

 

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