まゆ子のましなりい その8

06/11/06

 

「ゲームを作ろう」
「新機軸BLOOD+は月詠で月姫」
「明美帝国の逆襲〜監督スティーブン・スピルバーグ」
「エロゲをつくろう」

 

「ゲームを作ろう」

まゆ子「というわけで、でぽは色々と整理統合しているわけですけれど、ましなりぃも例外ではないのですよ。ウエンディズに継ぐ長期企画ではありますけどね。」

釈「まあ、ましなりぃでなくても書けるようになりましたから。で、このまま整理されるのを座視する御積もりですか?」

まゆ子「あ、そうそう。しゃくねえ、あんた、げばると処女に出るらしいわ。海の向こうからやって来る青晶蜥神救世主だって。」
釈「それはまた突然な。でもそれは随分先の話でしょ。」
まゆ子「いきなり、歴史的に見ると、という感じで出る可能性は低くない。」

釈「そういうものですか。で、ましなりぃに戻りますが、どうします。おとなしく潰しますか。」
まゆ子「うーん、どうでもいい。書きたい事があれば書いて、文字書きコーナーに掲示するだけだよ。」

釈「はあ。じゃあめんどくさいからやめます。」
まゆ子「潔いな。しかし、だからと言って、ましなりぃに書いていたようなことをもう書かないというわけじゃあない。というか、書くよ。」
釈「大体分かりました、整理整頓がしたいだけ、なんですね。」

 

まゆ子「で、今日の課題、ゲームをつくろう、です。」

釈「人生ゲームとかですかあ?」
まゆ子「う、・・・・わるくないな。でも今日やるのはテレビゲームだ。」
釈「最近景気わるいんですよね、その業界って。てこ入れしてやろう、ってわけですか。」

まゆ子「この度新しいテレビを買いまして、ハイビジョンですから絵が奇麗になったのです。となると、奇麗な絵を映してみようと思うわけですが、現状一番奇麗な絵となると、映像ソフトではなくてゲームになるわけですな。特に今度出るような新型は最初からハイビジョン対応です。でも絵が奇麗だとしても、中身がカスでは仕方ない。」
釈「つまり、自分がやりたいから自分でつくろう、という実に利己的な発想なわけですね。実に人間的な。」

まゆ子「というわけだが、単純にテレビゲームに限定すると、かなり話が苦しくなる。が、だからこそテレビゲームにこだわりたい。どうしよう。」

釈「いや、私はそもそもテレビゲームには詳しくなくて。弟達ならわかりますけど、今だに旧いタイプのプレステで遊んでますよ。」
まゆ子「ま、最近はそういうのの方が人間としてまっとうだ、という意見が強くてね。子供がお外で遊ぶようになったというのは、実に健全だな。」
釈「実際、家で閉じこもってテレビの前に居る、というのはあまり美しくない姿です。」
まゆ子「違いない。だがそれでは困るんだ。」

釈「でも、まゆ子さん。こういう話をふったからには、なにかアテがあるんでしょ。それを披露して下さいな。」

まゆ子「ふむ。しかしながら私も今回はほとんど空なんだ。そうだねえ、三次元チェスというのはどうだろう。」
釈「・・・・・SFとかでよくある?」
まゆ子「よくあるけれど、成功した例が無い。てことは、原理的に成り立たないか、穴で大成功が転がっているか、二つに一つだな。」

釈「三次元チェスがその他のテレビゲームと比べて優れている点、というのはどこらへんですか。」
まゆ子「数十、百年以上に渡って定番として長く遊ばれる可能性がある、というところ。娯楽のスタンダードとして見込まれてるわけだね。お外で遊ぶのと同程度に健全だと看做される。また、テレビを脱して、リアルの三次元でやる可能性もある。立体映像とかが可能になった場合、それはバイザーとかを使うと可能になるんだけれど、でも使用可能だ。」

釈「かなり、悪くないですね、商売としては。デメリットは?」
まゆ子「コンピュータが強化されている今日において、必勝パターンとかが軽く見つけ出されそうだよ。つまり、最初から人間が勝てないゲームになりそうだ。」
釈「それは、いかんですねー。たしかに、チェスだって将棋だってコンピュータがめちゃ強くなっている現代に、三次元チェスというのはまぬけです。」

まゆ子「つまり、知性を使うゲームであると同時に、知性だけで済ませてはいけないゲームなのだよ。」

釈「とりあえずゲームの骨組みを考えましょう。普通SFでは、三枚ほどのゲーム盤が上下に重なっているものですが、これでいいですか。」
まゆ子「ここが難しいんだがね、三次元チェスは、三次元チェスとして人々の期待にこたえなければならないという宿命を背負っているんだ。形状が突飛で人々の想像とかけ離れているというのは、良くない。だが、まったくそのとおりだとこれもまた困る。これまでの失敗は皆ここに起因する。」
釈「じゃあ、ゲーム盤が重なっている形態は、必須ではあるが、もっと違うものでなければならない?」

まゆ子「第一やりづらいからね。三次元チェスはロジック的に三次元である必要はない、マジな三次元は手に負えないからイヤなのだが、ゲーム盤が三次元に重なるのは人々は期待する。実のところ、人間は三次元を処理するのはとても苦手だ。つまり人々の期待にあるのは、二次元で三次元を処理するてことだな。三次元はややこしいから、二次元で済まそう。こう考えてるわけ。」
釈「かなり難しいですね。暗に、三次元チェスは作ってはいけないもの、となってるんだ。」
まゆ子「つまり、テレビで仮想空間内にあるからといって、斜め上方から攻撃する、というのは禁止ってことだ。フェアじゃない。また、テレビゲームだからリアルタイムで双方とも同時に動かす、というのも禁止だ。ターン制は必須だね。」

釈「駒が取られるのにポイント制で耐久力がある、とかいうのも良くないですよね。どんなに強い駒でも、まずい手を打つと即死ってのは必要だと思います。」
まゆ子「まさに。しかしながら、まずい手というのを指したくないという欲求もある。やり直しが出来るというのは、時間軸において自由度がある、という意味では三次元チェスどころか四次元チェスとさえ言える。て、ことは、だ。」
釈「はい。」

まゆ子「まず、駒を置いているメインボード、てのがあり、自分の駒が配置されているオペレーションボードてのが双方ひとつずつある。てのがよろしかろう。都合三枚ね。」

釈「メインボードには何がおいているんですか。」
まゆ子「それは、普通に二次元のチェスと同じ駒だよ。ただし、移動先にある敵の駒を直接取れない。それは単に戦闘シーケンスに突入するというに過ぎない。」
釈「なるほど。チェスと同様に詰めていくには違いないけれど、相手の駒を取る作業自体がまた別のゲームになってるんだ。」

まゆ子「オペレーションボードに配置している駒の中に、敵が乱入してくる、という形態だね。一つの駒は8個のマスが周囲にあるわけだから、オペレーションボードには8箇所の進入口があるわけだ。で、敵は自分のオペレーションボードの中に、メインボードの駒の配置から特定される駒への攻撃方向から入って来る。」
釈「自分は、それに対して迎撃出来ないのですか。」

まゆ子「つまり、勝利するとは、敵の布陣に対して定められた処理を行うと、自動的に決まるものでなければならない。操作法の優劣で勝敗が決まってはならない。とすれば、だ。オペレーションボードをいじくるのと、メインボード上で駒を動かすのと、どちらか排他的な行為であるべきだ。自分が攻撃を受けそうだと思えば、オペレーションボード上の駒を自在に配置して、敵の進入に備える。相手のオペレーションボード上の配置を観察して、メインボード上のどの駒を攻撃すれば勝てそうかを考えて駒を動かす。二択ね。」

釈「つまり、オペレーションボード上の配置は、すべての駒に対して有効であり、メインボード上のどの駒が攻撃された場合でも、そのまま適用される、そういう事ですね。」
まゆ子「その代わり、オペレーションボード上の駒は、一回の操作で何回でも何個でも動かせる。攻撃される駒が一つ程度の場合、それで十分だが、自分も相手を攻撃せねばならないとなると、必然的に敵との接触が増え攻撃を受けるべき駒の個数が増加していく。まずいね。」

釈「ふむ。で、オペレーションボード上での攻防ですが。」
まゆ子「メインボード上の駒の動き方は二次元チェスに準拠する。その反対に、オペレーションボード上では駒の優劣は無く、すべて同じ駒。敵の進入する駒は通路が有る限り無限に動けるモノとしよう。つまり、駒が配置しているオペレーションボード上において、敵の駒が進入すると自動的に負けてしまうポイントがあるわけだ。そこまでの通路を駒で塞ぐのだよ。」
釈「簡単なルールですね。じゃあそんなに駒は多く無いですね。えーと、6×6くらいで、10個くらいですか。」
まゆ子「えーと、進入口は前後左右中央8あるわけで、(7)×(7)の枠ではないかな。進入口には駒を配置できないから、事実上は5×5+16マスかな。これに10駒か、これでとうせんぼ出来るかな?」
釈「乗っかられると負けるポイントは何個あるんですか? この上には当然駒は配置出来ないでしょうから、これが複数あると、とうせんぼも苦しくなりますよ。」
まゆ子「ポイントが一個で中央にある場合、駒は8個あればアクセス不能になり、無敵だから、これはダメ。進入口が1ヶ所と特定される場合、駒は3個ないし5個でとうせんぼ出来る。ポイントは中心を囲む8マスに複数てとこかな。駒は10個で上等みたい。」

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こんな感じだね。

釈「えーと、なにか、膠着しませんかね。千日手みたいな。」
まゆ子「それはオペレーションボードをいじってばかりいれば、膠着するでしょう。ポーンが封をしている最初の状態が一番強いんだから。つまり、駒が攻撃の脅威に晒されていない状態であれば、必ずメインボードを動かさねばならないというルールはあるよ。」
釈「オペレーションボードとは関係無く、王は攻められると無条件で負けとかあってもいいかもしれません。」
まゆ子「そうだな。王が長生きするシステムだと、王を盾に使うという戦術も使えるからね。」

釈「ふむ。でもなんか三次元っぽくありませんね。二次元チェスを同時に二個やってるみたいで。」
まゆ子「三次元ねえ、日本の将棋の持ち駒を打つというのは十分に三次元っぽいんだが、導入しようか。」
釈「いや、それは外人さんが納得しないでしょう。ナイトとかは、他の駒を乗り越えられますから、これは三次元っぽいですよね。」

まゆ子「三次元チェスというものは、三次元であればよいな、という人々の欲求を実現する為のものだよ。で、チェスが三次元になって嬉しい所と言えば、」
釈「・・・ありませんね。」
まゆ子「なるほど。チェス盤が三次元に拡張されるというのは鬱陶しいだけってことだね。しかし、それではなにがなんでも三次元がいい!って人を納得させられない。」

釈「三次元で何が良いと言えば、高低差があることにより敵の攻撃を受けない、あるいは圧倒的優勢になるってことではありませんか。」
まゆ子「しかし、それを考え出すと三次元把握という特殊技能が必要になりチェスからシミュレーションゲームになってしまう。でも確かに三次元の効果を突き詰めていえば、そういうのだな。
 じゃあこういうのはどうだろう。メインボードの上にもう一枚ボードがあり、そこは待避所になってるんだ。メインボード上の駒を待避ボードに移すと、敵の攻撃を受けなくなる。あるいは自分の駒の動きを邪魔しなくなる。」
釈「で、必要があればすぐ戻って来れるわけですね。なんか一方的に有利ではありませんか?」
まゆ子「待避ボード上の駒は移動不可能だ。もし敵の駒が待避したメインボード上の位置を取れば、その駒は戻って来れない。」
釈「待機ボード上に駒を上げるとその駒は助かるけれど、オペレーションボード上の駒を一個、どれでも任意で排除しなければならない、というのはどうでしょうか。」
まゆ子「つまり、待機ボードの駒は死なないけど、全体は確実に弱くなるんだね。」

釈「待避ボード上に自分の駒があって、それのメインボード上の位置に他の駒が有った場合、駒の復帰が出来ませんから、延々とオペレーションボード上の駒は一個少ないまま、というのは、結構なデメリットではありませんか。」
まゆ子「おう、なかなかえぐい作戦だ。」

釈「で、駒のデザインと動きですが、普通でいいですか。」
まゆ子「ポーン、ルーク、ビショップ、ナイト、クイーン、キング、いいんじゃない。なにせ三次元チェスだ。動きはほぼ同じ。ただポーンは前三列に攻撃出来るように強化しておこう。どうせ直に取れるわけじゃないんだから。オペレーションボード上の駒はストーンと呼ぼう。単純でイイな。」

釈「しかし、7×7のオペレーションボードを10個のストーンで封鎖する、というのは、知的作業は必要無いと思われます。こことこことここを守れ、と門を指すと、自動的に閉鎖できますよ。コンピュータだから。」
まゆ子「ああ、なるほど。そこらへんは自動化でいいのか。しかし、10個の駒で封鎖する、てのは絶妙な数だね。最大で4つの門を守れるが、対面する中央の門は2個しか守れない。」

釈「でも、メインボード上で穴熊戦法とか取られたら、オペレーションボードをがっちり固めて手の打ちようがなくなりませんかね。」
まゆ子「なんであんた将棋の戦法まで知ってるんだ。確かに篭城されたら困るのかもしれない。しかし、篭城戦が出来ないのはそれはそれでまた問題だ。・・・ナイトを増やそうか?」
釈「ナイトを増やすと、どうなります?」

まゆ子「考えてみれば、ナイトの攻撃は門から行われるものじゃない。上、中央への攻撃だよね。」
釈「なるほど、たしかに桂馬飛びで隣接する駒に対してのものじゃない。9番目の門があると考えるべきですね。ナイトはオペレーションボードでは防げない、そういうことですか。」
まゆ子「ナイトは無敵、それでいいじゃないか。そういう場合の為の、待機ボードだ。」
釈「そうですね。死にたくなければ上に上がればいいんですから。」

まゆ子「というわけで、ポーンが成るぞ。敵方最終ラインにまで到達したポーンは、ナイトになる。これはチェスとは異なるが、持ち駒を打てないチェスにおいては、非常に困難な挑戦だ。そのくらいの特典はあってもいいでしょう。」

釈「となると、ポーンを殺す為の布陣を用意しておかねばならない、そういうことですね。穴熊は出来ない。」
まゆ子「不可能ではないが、あまり得策ではない、な。」
釈「了解です。」

まゆ子「ただー、通常ではポーンが簡単には取れないから、壁としての能力は非常に高く、前線が真っ直ぐに並んで膠着するという可能性もある。それに、待避ボードを使った戦術というのを作った方が面白いだろうし、三次元チェスを欲する人は、待避ボード上では駒が自由に動ける事を期待するんじゃないか、と思うんだ。」
釈「そうですねえー、三次元チェスに期待されるものは、そして二次元チェスでストレスが溜まるものはと言えば、制限の無い自由な移動、これですよね。あったらめちゃくちゃになるとは思いながらも、三次元といえば自由、これは確かに欲しいものです。」

まゆ子「待避ボードを利用したワープ機能、これを導入するかな。待避ボードに駒を上げると、ストーンが一個減り、元に戻すまではストーンが少ない状態で留め置かれる。にも関らず複数の駒を待避ボードに上げると、駒をメインボードに戻す際には、待避したどの駒の位置にでも出現可能だ、というのはどうだろう。」
釈「つまり駒の位置が交換になるんですね。その機能を使ってナイトが出現したら、大混乱ですね。」
まゆ子「それが嫌なら、その位置に自分の駒を置いて、敵の出現を防止すればいい。駒が出現できない位置の待避駒とはワープ出来ないということにしておこう。」

釈「となると、オペレーションボード上ではストーンが7個とかそれ以下になる可能性すらある、ってわけですよ。こわいですねえ。」

 

まゆ子「てまあ、こんな感じかな。これ以上手を加えるともはやチェスではなくなってしまう。」
釈「ナイトが強過ぎるような気がしますが、いいんですかね。」
まゆ子「ナイトは強力だが、敵の駒を取ると位置がかなり敵中に突っ込んでしまうよ。それは、反撃され易さにも繋がるでしょうし、ナイトを護るオペレーションボードを組んだら、他の駒がヤバくなるのではないかな。このルールでは、敵と危険な対面をしていても無事だが、他でイレギュラーが発生した場合、その安全度が一気に消滅するというとこに妙味がある。ナイトが特別な存在であるけれど、跳ねたら全体が危険になるてのはゲームの展開の速度を上げるんじゃないかな。」

釈「じゃ、これで出来上がり。と。 で、商品化はいつ?」
まゆ子「うーん、どうしようねえ。」

05/08/29

 

「新機軸BLOOD+は月詠で月姫」

まゆ子「釈ちゃんよお、ガンダムしーど殺が終ってしまったぜい。後番組はBLOOD+だぜい。」
しゃくてぃ「終ってしまいましたねえ。ガンダムって強いですねえ。主人公ガンダムはぼろぼろにやられてしまいましたけど。」

まゆ子「わたしは悟ったよ。世界で一番強いのはなんたってガンダム。ガンダムが有る方が絶対的に強いんだ。どんな大がかりな攻撃設備や超戦艦や新型モビルスーツを持って来ても、ガンダムじゃなければ粉みじんにされてしまうんだ。全てはガンダムだけ、ガンダム以外のものが勝利する事はありえない、というのが、世界の法則なんだ。」
釈「いやあ、まったく。加えて言えば、主人公よりも人気のあるキャラの方が強いってわけですねえ。いくらガンダムに乗ってても、ダメな奴はダメなんです。」
まゆ子「しかりしかり。」

釈「で、どうします。ガンダムでもお話してみますか。」
まゆ子「いや、この際だから新番組の設定の方のお話をしよう。BLOOD+だ。ブラッドは、前はPS2のゲームソフトで工藤夕紀さんが声を当てていた、結構凄い作品ですよ。ゲームに使ってたアニメ動画を抜き出した独立作品も同時に公開してますねえ。これはなかなか面白いお話でしたが、もっと面白いのはそのノベルです。」
釈「ほー。」

まゆ子「著者は押井守、しかしながらアニメの方には企画以外は関ってないらしいのね。でもノベルの方はこりゃどぎついものになってますなあ。なにせ延々と死体の処理方法を論じているんだから。」
釈「それはバラバラ殺人の勧めかなんかですか。」
まゆ子「そう解釈してもらっても構わない!」
釈「げ。」

まゆ子「だもんで、私には面白かったのだけど、面白くないと言う人が多いのも事実。また、この本の元ネタである死体の処理とかに関する本も、本屋で立ち読みしたことがありますよん。そっちに価値を見出す人にも、あんまり面白くはないかな。」
釈「そもそもなんでそんなめちゃなノベルを書いたんですか、押井監督は。」
まゆ子「吸血鬼が出るのだよ。吸血鬼がいかにして死体を処理するか、あるいは死体の処理の不手際から生まれる屍鬼伝説のお話で、必然的に死体の処理方法を説明しなければならない。というか、それが書きたかったんだろう。」

釈「…まさか、まゆ子さん、ウチでも死体処理のはなしとかしますか。」
まゆ子「いや、そりゃあちょっと。吸血鬼の話とか。」

釈「あーびっくりした。吸血鬼ですね、うん。そういえば、最近吸血鬼流行ってるんじゃないですか?」
まゆ子「企画の貧困だね。一個流行れば吸血鬼に飛びついてます。」
釈「にも関らず、吸血鬼やりますか。」
まゆ子「やるよお、これまでに無い斬新な吸血鬼の話。

 ところで、吸血鬼といえば十字架だが、これが効く吸血鬼は最近はあんまり居ないね。キリスト教のコンテキストに依存する吸血鬼というのは、これは却下されても仕方がない。」
釈「でも十字架が効かないとなると、太陽と物理的破壊以外には。殺しても灰に生き血を掛けると蘇るんですよね。」
まゆ子「ナンセンス。」
釈「ごもっとも。蘇りは禁止ですね。」

まゆ子「さて、太陽で死ぬというのは紫外線、という極めて妥当で科学的な解釈で成り立つわけだ。心臓に杭を打ち込めばまともな生物ならそりゃあ死ぬ。ニンニクはキライなだけで致命的ダメージにはならない、というかニンニクエキスを目に掛けられたら生身のにんげんだってヤだ。」
釈「コウモリになって飛んでいく、というのはどうでしょうか。やはり読者様が要求する吸血鬼といえば、コウモリはともかく飛行能力は不可欠でしょう。」
まゆ子「そうでもないが、あって悪いものでもないな。ブラッドの吸血鬼は飛ぶし。」

釈「で、どこらへんで新機軸を打ち出します?」

まゆ子「つまり、まったく新しい吸血鬼といえども読者様の期待を裏切ってはならないのだ。というか、わたしは一個それに対する解答を持っている。新機軸吸血鬼ね。」
釈「ほう。またぞろお話に出すつもりでしたね。」

まゆ子「ウプリルという種族の吸血鬼だ。この名前自体は本屋で立ち読みした吸血鬼ものからそのまま借用したものだが、私が考えたのは善い吸血鬼なんだ。」
釈「善い?」

まゆ子「吸血鬼というものは、血を吸う。てことは血の道の専門家でもある。というわけで、この吸血鬼は魔法医としての能力を持っているんだよ。人間の医者や魔法使いが癒せない病でも、この吸血鬼は癒せる。臓器移植だってやってしまう。豚の臓器を抜き出して人間に移植するてことを、現代医学無しでやってしまうんだ。」
釈「そりゃあ善い吸血鬼です。」
まゆ子「でも、食べるのは人間の生き血。生きてる人間の血を吸わなきゃダメなんだ。一人の命で数十人を救うんだけど。」
釈「むー、それはまた難しい話ですねえ。」

まゆ子「てなことで、この吸血鬼は優れた医術の腕を使って色んなトコの王様を直したりするから、爵位もあるんだ。で、増える方法だけど、血を吸われた人間が吸血鬼になったりはしない。清らかな処女の胎内に不思議な精気を長年月に渡って与えることで、吸血鬼の子供を孕むわけね。その女の人は人間でありながら半分吸血鬼となって吸血鬼の手伝いをしながら何十年も若いまま生きて、子供を産むと死ぬ。その間はかなり不死身っぽい。太陽の光の下でも動けるし。」
釈「それはファンタジー向けの設定ですね。てか、そもそも吸血鬼はファンタジーやホラーの怪物ではありますが。」

まゆ子「てなわけで、これは使おうと思えば使えるが、現代物にはなんかあまりそぐわない設定なのだ。新吸血鬼を作りましょう。」

釈「ではまず、どういう要件が必要か、ですね。血を吸う、不老不死、てのはデフォルトですか。」
まゆ子「格闘で強い、てのもデフォルトでしょ。吸血鬼に対抗するハンターが居る、てのも。」

釈「ではどのくらい強いか、てとこから行きましょうか。熊よりも強い?」
まゆ子「それは、実にリアルだな。でも超能力で強いというのは面白さに欠ける。修行によって強くなる方がよくない?」
釈「熊よりも強いとなると只の修行では無理が。特殊な吸血鬼拳法はどうでしょう。血鬼拳というのを修行すると血を吸う極意で強くなる。」

まゆ子「いいぞ。それはいい。血を吸う事で人間の限界を越える能力を身に付けて超人的な体力を得られるんだ。熊くらい一撃で殺せるほどに。でも、どういう理屈だ。」
釈「えーと。断食して血を吸うんです。それを何回も繰り返すと消化器が衰退して血しか受けつけなくなる。その分吸収の良い血液だけを大量に必要とする体質に代わって、血を吸えば吸うほどエネルギーが出せる、疲労も感じないようになっていくんです。」
まゆ子「そりゃ迷惑な人間だな。でもそれはあまり良くない。血を吸う回数が多過ぎる。もっとストイックな感じで、週に一回くらい。」
釈「では通常は棺桶の中で断食していて、目が衰弱して太陽の下では歩けないんです。断食中だから血を吸うのは週に一回。身体は衰弱するのを瞑想で保っているのです。」
まゆ子「いや、極めて長時間の動禅をやってるんだ。死体置き場みたいな地下室で、動いているのかいないのか分からないような武術の型を演じているんだ。」

釈「でもそういう人って、あまり邪悪な感じがしませんね。ひょっとして人間の血を吸わなくても構わないのではありませんか。」
まゆ子「ああ、そうか。普通は羊の生き血とかを啜って生きているが、いざという時に人間の血を吸って変身したように強力になる、て感じだね。」
釈「ですね。じゃあ、これはー。」
まゆ子「ハンターの方だ。これは吸血鬼ハンターだ。」
釈「善い者の方です。なるほど。それはいいかも。でもじゃあ、敵はもっと強力でないといけない。」

まゆ子「血を吸わず、精気も吸わず、ただ強力で、でも人間じゃあない、そういうのがよくないかな。」
釈「それ吸血鬼じゃないですよ。あ、人々を操って互いに殺し合いをさせるとか、政治家として人々を戦争に駆り立てるとかですか。」

まゆ子「月並みだな。そうだな、凄い善人というのはどうだろう。ジャンバルジャンみたくなにがあっても生き残りめちゃくちゃ幸運で、しかも怪力強力、そのチカラを善なる事に使う。」
釈「いいひとじゃないですか。」
まゆ子「大概の政治体制というものは、特に古代的な専制政治において、完全な善とは基本的には叛逆行為だ。」
釈「おお。なるほど。放っておくと国家を転覆させるような事をしでかしてしまうんですね、無制限の善は。そこで古代より専門の殺し屋が居るんだ。」

まゆ子「その一族は、基本的には血は吸わないが、血を吸うととんでもない怪力になる。いつもの三倍以上の異常な筋力を発揮する。このチカラを使って長年弾圧を潜り抜けて来たのだね。ただし衝動的に吸ってしまうというのではなく、血の涙を流しながら愛しい人が権力の暴虐で傷つき息絶えるその流れる血を啜るのだよ。強い怒りと哀しみの中で血を吸う事で、身体の奥のスイッチが外れるのだよ。」
釈「いい感じです。それは悲劇的でいい吸血鬼です。」
まゆ子「血を吸うと変身するといいかんじだな。鬼のような形相になるのだよ。」
釈「飛びますか?」
まゆ子「屋根から屋根に、ものすごく不可能な距離を飛び移る、とかはある。」

釈「十分です。でもこの吸血鬼はどうやって増えるんですか。」
まゆ子「そりゃセックスで普通に妊娠します。普通に人間が相手でもちゃんと遺伝します。ただ、吸血鬼の親となるわけだから生半可な覚悟ではダメだし、吸血鬼はそもそも善い人だから、愛する人にそんな過酷な運命を押し付ける訳にはいかないと大いに悩みます。」

釈「素晴らしいですね。ここまでネタが決まっていれば大長編が書けますよ。でも、それだけじゃあもう少し物語的には弱いのではありませんか。」
まゆ子「や、あの、別に今から書こうとは思ってないんだけど。そうねえ、物語の枠組みを考えると、確かにこれだけでは問題がある。吸血鬼ハンターは時の権力者の手下だろうから、普通の展開だと国家元首とかが悪の黒幕であるでしょうね、やっぱ。」
釈「それだとなにが足りませんかね。」
まゆ子「まず、吸血鬼ハンターの前に雑魚戦闘員が出て来るべきだ。こいつらは一般民衆も苦しめていて、その魔手から護る為に吸血鬼は自らのチカラを発揮する。」
釈「であれば、特殊部隊とか秘密諜報機関とかがでなければいけません。でも、それは月並み。」

まゆ子「月並みだね。つまり、その月並みを脱するには二部に分けねばならない。吸血鬼は通常状態ではごく普通にヒトなんだよ。だから一般社会でも成功する可能性はある。いや、誰にも妨げられなければ相当社会の高い位置に昇りつめるべきだ。それが正義の人の宿命だ。」
釈「ほおほお。では前半で悪と闘いどん底に落ちて、後半では社会的に逆襲するわけですね。で、最終回には全国民の前で吸血鬼としての正体がバレてしまう。」

まゆ子「それも月並みだが、月並みも悪くないと思わせるものも時にはある。だが一人でそこまで上りつめるというのは変だ。そこまでお膳立てする人が居るべきだ。」
釈「かなりいかがわしい人物ですね。それも、吸血鬼ハンターとは対立する勢力で古来より吸血鬼と関って来た。」
まゆ子「前半で、吸血鬼はそれとは知らずにその組織のエージェントを愛してしまうのだね。で、敵の卑劣な手により愛する人を失う。そこに、そうね、その愛する人と同じ顔を持った兄弟とか姉妹とかが出て来る訳だ。」
釈「うーむ、かなりなべたべたですね。でもそれは決して正義の秘密結社ではないわけです。」

まゆ子「なにか、・・・そうね、友達というのが出てなかった。吸血鬼の兄貴分といいますか、正義の為に戦う主人公に対して、人間社会を冷ややかに見詰める吸血鬼が居るのよ。で、普通は何もせずに傍観するだけだけれど、主人公がいよいよ死に掛ける時に助けてくれる。」

釈「完璧ですが、飛躍がありませんね。こういう時こそ、いきなりガンダムが出て来るべきではありませんか。」
まゆ子「!・・・・・がんだむ? 吸血鬼で? どして。」
釈「いや、無茶は言うものでしょう。」

まゆ子「ちょっと待て。・・・よし、最初からガンダムは出ているのだ。ガンダムの有る世界、搭乗型人型ロボット兵器というのがちゃんとある。しかも、戦争なんかやっていない。一般民衆を苦しめる政府の陰謀とは、この新型ガンダムの導入に絡む不正と欠陥の隠蔽にあるのだ。事故ったガンダムが引き起こした大惨事を、政府が全力を上げて隠蔽工作するわけだ。」
釈「・・・・・なんかSFだかファンタジーだかわかりませんね。それ。しかしそうなると、主人公である吸血鬼は最終的にはガンダムに乗らねばなりませんよね。」

まゆ子「後半第二部では冒頭で正式採用された新型ガンダムが落っこちてパイロットが死に掛けるのを、吸血鬼が助けるのだ。それが、まあとりあえず吸血鬼を男と仮定すると、絶世の美少女でしかもじゃじゃ馬でツンデレで、大統領とかの娘だったりするのだね。軍に納入されたガンダムをかっこつけて乗ってて事故る。」
釈「そのお嬢様は、最終的にはどんどん没落していきます! 主人公が出世する度にひどい状態になっていくのですね。」
まゆ子「「前半の復讐が炸裂するのだよ。で、没落して街をさ迷うお嬢様は、吸血鬼ハンターの組織に捕まって洗脳されて、刺客にされてしまう。」

釈「そういうことであれば、その出世をお膳立てする秘密結社というのは、実は新型ガンダム導入に絡んでいて、大惨事の事故をひそかに仕組んで居た、というのが正しいですね。」
まゆ子「とすれば、もう一つ、政治集団が必要だ。吸血鬼が前半お世話になった理想主義的だけどあまり実行力の無い、という組織だね。その組織の中にも裏切り者が潜んでいる。」

釈「それは、でもしかし、そうですね、ガンダムを導入するくらいですから、国外に敵が居るんですよ。敵国のスパイというのが良いです。」

まゆ子「しかしながら、敵国といっても、秘密結社は両方の国に浸透しているんだ。で、両国を戦争状態に陥れようとする。たとえばだねえ、敵国のガンダムに細菌兵器を搭載していて、それが自分の国を不意撃ち攻撃をしようとする。しかしながらそれは仕組まれた罠で、こちらの国に先制攻撃をさせる為のブラフだった。しかもブラフの筈の細菌兵器は実際は本当に敵のガンダムに搭載されており、敵国に帰還した後でそこで爆発散布される手筈になっている。どちらに転んでも最悪の状況の中、吸血鬼はガンダムに乗り込みその企てを阻止するのだよ。」

釈「なんかよくわからなくなりました。」
まゆ子「ガンダム入れろと言ったあんたが悪い。」

05/10/19

 

「明美帝国の逆襲〜監督スティーブン・スピルバーグ」

まゆ子「すぺおぺがやりたい!」

釈「ましなりぃです、はい。で、まゆこさんまた新企画ですか?」

まゆ子「げばるとシリーズ第三段、すぺおぺウエンディーズ。宇宙でガンダムするよお。」
釈「そんな遠くに行かなくても、北海道あたりで。」
まゆ子「すまん。」

釈「で、なぜ宇宙なんですか。もっと地道に北海道あたりでガンダムすればいいじゃないですか。」

まゆ子「そのちくちくする嫌味はやめてくれ。とりあえず宇宙ものは一個考えておかねばならない必要があるのだよ。」
釈「仕方ないですねえ、で、どんなのがやりたいのですか。」

まゆ子「あ、そういえば、学園ウエンディズというのも考えた。とある女子大学の中に潜入したおさむらい桐子ちゃんが、鶴仁覇○○堂のお嬢様の依頼で大活躍する、という痛快学園ラブコメディだ。」

釈「つるにはまるまる堂ってのはなんですか。」
まゆ子「深く考えない。ともかくこれは、マリア様が見てるのインスパイアなんだ。いんすぱいあ、とはいい言葉が出来たもんだ。」
釈「要するに、またパクリたくなったんですね、マリ見てを。」

まゆ子「で、スペースウエンディズだ。これは、トップをねらえ2のインスパイアなんだな。」
釈「・・・そういうことか。なるほど、つまり、宇宙ロボをインスパイアしたくなったから、やるわけですね。」
まゆ子「そういうことです。

 

 えーーーーー、時は未来、西暦2700年ごろ。スペース歴645年、突如冥王星にある「明美帝国」独立を宣言、地球連邦に対する独立戦争を引き起こしたのだ。」

釈「ちょっとまってください。明美帝国というのはなんですか。それに冥王星って。」
まゆ子「この物語の究極の悪、明美帝国は三人の皇女に率いられる悪の帝国だよ。明美一族というものは、かって地球から借金苦を逃れる為に地の果て宇宙の果ての冥王星に逃げ込んだという由緒正しい一族で、長年冥王星で研究を重ねた結果、スペースエネルギーと重力ウエービング航法の開発に成功したのだ。」

釈「明美一族が、ですか?ちょっとイメージと異なりますが。あ、ちなみに、もうそのくらいでは驚きませんよ。明美一族、うん。じつににくらしい連中だ。」

まゆ子「あー、そのおー、スペースエネルギーというのは、外宇宙から飛んで来る高エネルギー粒子を直接エネルギーに換える方法で、重力ウエービング航法てのは、反動推進ではなくて空間を直接蹴飛ばして光速の87%までいきなり加速する極めて効率的な遷光速航法なのだ。ただし副作用があって、このロケットの後方には重力波の異常が感知されて、その波に当たると頭痛や吐き気、目眩いやら生理不順やらが起こるというので、地球では200年前に諦めちゃった航法なのだ。ちなみに開発した人は、明美帝国の科学者、マッドサイエンティストのスペースまゆちゃん、て人だ。」

釈「まゆちゃんて、御自分も出演なさるおつもりですかあ。開き直ってますねえ。」

まゆ子「明美帝国は地球に対して、独立と同時に、「スペース荘園の解放」と「コスモ徳政令の発布」を要求する。つまり、外惑星に作られたコロニー群を民主的に独立して運営する事と、全太陽系内の個人の借金を帳消しにすることだね。」

釈「あのー、ひょっとしてそれは日本史の教科書をベースに独自のアレンジを加えた、凄いはなしですか。」
まゆ子「大長編大河物語です!」
釈「なるほど、そう来るか。つまり、借金でクビが回らなくなった人たちが、反旗を振り回すという話ですね。」

 

まゆ子「で、明美帝国が開発したのが、スペースカベチョロンというスーパーロボットだ。ちなみに開発者のスペースまゆちゃんは、オリジナルはとっくの昔に死んでいて、そのクローンの脳細胞をガラス瓶の中で培養していて、クローンの身体を電波でコントロールする事で一大科学者軍団をこしらえているのだ。」

釈「それはマモーのインスパイアだ。で、スペースカベチョロンはガンダムのインスパイアなんですね。て、いやちょっとまて、トップをねらえ2のインスパイアというと、バスターマシンのインスパイアか。」

まゆ子「だいじょうぶです。スペースカベチョロンはオリジナルです。なぜならば、明美帝国は貧乏だからろくな兵器が無いのです。主要武器は、重力ウエービング航法の後方波動で、これを地球に向けて全人類を気持ち悪くさせます。スペースカベチョロンはこのエンジンを搭載することで慣性の法則を無視したいいかげんな運動が可能です。また、まゆちゃんが考えた重力ウエービング砲で光速の87%の速度を持つ鉄砲玉を射出することで、地球連邦軍をやっつけます。中には青いカベチョロと称えられる天才パイロット弥生ちゃんてのが乗ってます。」

釈「しかし所詮は光速よりも遅いんですよね。100万キロも離れては当たるまで相当余裕があるんじゃないですか。」

まゆ子「重力ウエービング砲の恐ろしさは、その発射が分からない事に有る。つまり波に乗って鉄の弾丸が飛んで来るんだけど、波と同じ速度で飛ぶから到達まで感知出来ないんだ。また波のせいで電磁波も歪んでレーダーも光学も観測不能になる。つまり、当たった時に初めて撃たれた事に気付くという非常に厄介な兵器だ。しかも弥生ちゃんが撃つから百発百中。鋼鉄の弾丸がそれも1tもある弾が亜光速で当たれば、どんな戦艦だって撃沈だよ。」

釈「地球連邦軍は重力ウエービング航法を使えないんですか。200年前に開発中止になったんだから、技術はありますよね。」

まゆ子「そこが明美帝国の恐ろしいところで、地球連邦が外惑星である冥王星に向けて重力ウエービング航法を使うと、その影響は冥王星の反対方向、つまり太陽系内部に後方波が押し寄せるのだよ。明美帝国は外宇宙に波を逃がしているが、地球連邦側は地球を揺らさないと使えない。非常に迷惑なのだ。」

釈「悪辣ですねえ。でも、そんな超技術があれば、別の恒星系にもいけるんじゃないですか。」
まゆ子「もう行った。アルファケンタウリも明美帝国の領土に一方的に宣言している。つまりスペースカベチョロンはアルファケンタウリで作られているのだよ。建造から10年掛けて輸送して来ている。すべてまゆちゃんの頭脳の力だな。」

釈「地球連邦軍はどんな兵器を使っているんですか。まさかガンダムとか。」

まゆ子「まさかあ、全部ロボット兵器、アンドロイドが動かしている未来兵器だよ。そいつらはほんの手先で、ほんとうの敵は地球貴族軍”H”(ハッシュ)というのだよ。」
釈「! 心得ました。”H”にあらざれば、人にあらず、て奴ですね。そうか、明美帝国は源頼朝なんですね。」

まゆ子「どちらかというと将門なんだが。で、地球連邦軍は極めてまともな兵器を使っている。明美帝国は極めて変態的な兵器を使っている。で、明美帝国のカベチョロンにはちゃんと人が乗っている。無慣性航法だから人間が操縦しても大丈夫なんだよ。」

釈「わかりました。”H”という連中は頭の上にゲジゲジがついているんです。」

まゆ子「いや、さすがにそれはだめだよ。ともかくだね、地球連邦軍は物量が明美帝国の30000倍、勝てる道理の無い戦なんだが、明美帝国の蜂起により、地球圏では反”H”運動が巻き起こるのだよ。そこで”H”は軍だけではなくて、目に一丁字も無いどぐされ外道軍団を作って反乱運動を弾圧して回るのだ。」
釈「悪い奴ですねえ、”H”は悪い連中ですよ。」

まゆ子「ここで問題なのが、明美帝国と戦う軍人はごく少数の人間の士官と、人工人格を持ったアンドロイド・ロボットで運用されるが、どぐされ外道軍団は人間が直接戦闘をしている、て事だよ。人型の巨大ロボットを使って、哀れな一般民衆を酷い目に遭わせるのだね。」

釈「じゃあ、明美帝国は人型ロボットを使わないんですか。」
まゆ子「使いますよん。人型ロボットをカベチョロンにくくりつけていて、航行中に破損したとこを修復しています。その為に人間が乗っていると言った方がいい。つまり、人型ロボットは人型ロボットらしくやっている。」

釈「?? そうだ。なんで明美帝国の人は重力ウエービング航法を使えるんですか? 気持ち悪くならないんですか?」
まゆ子「慣れた。」
釈「なれたあ?」

まゆ子「元々明美一族は困窮の中に生活してガード下とか線路の横とかに住んでいたのだよ。だから少々ごとごと揺れても大丈夫。長年月を耐えてついに新人類に進化したのだ。アーブみたいなものだね。」
釈「はあ。でも、地球連邦軍もサイボーグとかアンドロイドとかは耐えられるんじゃないですか。」

まゆ子「にんげんよりデリケートなそいつらは、重力波変動に耐えられないんだ。これが地球連邦が重力ウエービング技術を持っていない理由で、電子回路とかもっと進んだ量子回路とかはこれに耐えられないんだ。しかし、ドクターまゆちゃんはこれを可能にした。なぜならば、冥王星で実験し放題だったからだよ。地球圏でこれを実験しようとしたら、周辺住民への被害が続出で、その賠償額が研究予算の数十倍にもなるというわけだ。そこで、地球圏ではこれをやめちゃった。どうせ頑張っても光速の87%だから、もっとすごいワープ技術に資金を突っ込んだんだ、実現してないけれど。」

釈「まゆちゃん先生はどうやってそれを実現したんですか、というか、まゆちゃん先生は研究に耐えられたんですか。」

まゆ子「デバイスの問題は、重力変動に強い真空管を採用する事によって実現した。だからスーパーカベチョロンはバカでっかいのだよ。で、切れた真空管を入れ変えるために巨大作業ロボットが付いてくる。ほんとは真空管よりも更に原始的な仕組みで奇跡のように実装しているんだけどね。だから、あまりにも巧妙な手品を見破れないように、地球連邦軍は重力ウエービング航法の再現出来ない。ドクターまゆちゃん自体は重力変動には弱いのだが、水の中に浮いて居るクローン脳に重力変動とは逆位相の音波を流すことで相殺して、なんとか保っている。

 実のところ、冥王星で実験して重力波変動を外宇宙に放出するというのは良いアイデアだったんだけど、もっとも近傍に居る研究員が耐えられないから、この研究はおじゃんになったんだね。まゆちゃんはそれをなんとかしようと無理して借金まで作って研究を続けて、その借金が元で冥王星の明美一族のところまで逃げて来たんだよ。」

釈「ほお。なるほど、哀しい過去があるんですね。」
まゆ子「そうなんだよ。まゆちゃんは趣味の骨董的機械物を借金のカタに全部奪われてしまったのだよ。その復讐の意味もあるのだな。で、地球連邦はドクターまゆちゃんを20世紀型の科学者だと誤解して重力ウエービング技術の謎を解こうとするが、実は19世紀型科学者だったんだね。」

釈「その二つは違うんですか。」
まゆ子「明確に違う。20世紀型科学者は、背後に膨大な科学工業の後押しを受けている。つまり、工場が製品を作らなければなにも出来ないのだよ。でも19世紀型科学者は素材から自分で作っちゃう。作れないのは鉱山技術を要するものだな。鉄のかたまりがあれば、大抵のものは作っちゃう。」
釈「なるほど。まゆちゃん先生は明美帝国に無くてはならない人だったんですね。」

まゆ子「しかしながら、おかげでスーパーカベチョロンはバスターマシン並にバカでっかい機械になってしまった。それもメンテナンスを常に必要とする困った機械だ。この時代はメンテナンスなんかロボットが自動でやるし、自己修復機能だってついているんだけど、それがまったく使えないのだね。」

釈「スペースエネルギーというのはなんでしょう。ふつうに核融合とかではダメなんですかね。」

まゆ子「いや、じつはスペースエネルギーがなんなのかは誰にも分からないんだが、どうもハッタリらしいんだね。というよりも、重力ウエービング機関は動力発生機関も内包しており、重力波変動を受けても作動し続ける特殊な核融合炉、というのが実体らしい。真空管で制御される核融合炉、ってわけだ。で、重力ウエービング機関を駆動するのに最適なエネルギーを供給する。それがスペースエネルギーの正体らしいんだ。というか、核融合炉でもじゅうぶんなエネルギーを発生させるから、そんな変な動力要らない。」

釈「では、そうとうに古臭い代物ですね、それ自体は。重力ウエービング機関を持っている、というだけで。」

まゆ子「だから、素で戦っては勝ち目は無い。でも、ウエービング砲は弾着まで発射が感知できない、という特殊性で勝ち続けるのだよ。でも、半年もすれば地球連邦軍もそのひみつを看破して、地球産重力ウエービング戦艦を作って来る。未成熟ながらワープ機関も装備している。」

釈「わーぷですか。それはまた、どの程度未成熟なんですか。」
まゆ子「簡単に言うと、プラズマの塊しかワープ出来ない。高エネルギーであるという情報だけを転送する機械、というわけだね。でも兵器としてはそれで十分。転送先の空間が自動的に対生成を行って、高エネルギーの塊を虚空に作り出すから、敵なんかいちころだ。また、これまで検知できなかったウエービング砲の弾の位置を、おなじ重力ウエービング機関を装備する事により効率的に探知できるようになった。大ピンチです。」

 

釈「ろぼはどうでしょう。”H”のスーパーガンダムに対抗できるんですか。」
まゆ子「まったく無理。重力波変動内でも動けるというだけで、リトルカベチョロンはほとんど武装らしきものをもっていない。有るのは機関砲くらいだ。」
釈「機関砲というのは、火薬式で、電子回路も何も無い、アレですか。」

まゆ子「動作原理からいって、それがベストだから。むろんこんなものではガンダムは壊れない。向うはビームを放つからね。体当たりしてもまったくガンダムは平気だ。」
釈「いや、そのくらいのバランスがちょうどいいと思いますが、それでは面白くはないでしょう。どうしますか、格闘戦の描写は止めますか。」

まゆ子「いやいや、こんなこともあろうかと、ドクターまゆちゃんは最高の新兵器を開発しておいたのだ。名付けてスペースペイント弾! 相手の機体の表面に粘っこく絡みつき宇宙でも揮発しない特殊なプラスチックを塗りつけて、センサーやら武器やらを沈黙させてしまう恐ろしい超兵器だ。これさえあれば、火薬式機関砲でもガンダムを動作不能に追い込める。」

釈「またせっこい手ですねえ。まあ、200ミリの大砲で撃ったくらいでは墜ちない相手ですから仕方ありませんが。」
まゆ子「いや、さすがに200ミリで撃てば堪えるよ。火薬ガスの発射速度くらいでは貫通しないけれど。そうだ、そのスーパーガンダムは”ガングリオン”と名付けよう。」
釈「・・・だめです。ぐぐってみましたら、結構MSガングリオンてのがあります。無敵戦隊とかもありますから、ありふれて居ます、それ。」

まゆ子「そうか。じゃあ、ペドフィリオンというのはどうだろう。」
釈「それはー、まあいいか。悪のろぼっとだから。あ、だめだ、ペドフィリオンもある。だめですよお、先輩。もっとぶっとんだのじゃないと。」
まゆ子「ぐぐぐ、うー、仕方ない、またいつものように意味不明語で名付けるか。ガンでもキャノンでもランチャーでもアローでもカタパルトでもない、えーとエフェダーインというのは。エフェドリンとフェダーインの合成だ。」

釈「まあいいでしょう。で、そのスーパーガンダムに乗ってるのが、”H”ですね。」
まゆ子「いや、”H”に雇われている”G”というならず者たちだ。泣く子と”G”には逆らうな、という諺もある。」
釈「あー、では明美帝国は孤立無援ですか。”H”は平家で”G”は源氏ですよね。」

まゆ子「つまり、アストロ貴族主義というのがあって、それが”H”なのだ。地球産まれの地球育ちの超お金持ち集団で、どんなに頑張っても一般庶民はその世界に入る事はできないのだよ。むろん民主主義なんかまったく機能していなくて、というか民主主義なんか既にどうでもよくなって、”H”が事実上太陽系を所有していて、すべての経済活動は”H”の為にある。というか、それは地球の生身の人間なのだ。
 宇宙に住んでる人は皆、遺伝子改造で宇宙線に対応していて、皆脳に電子回路を持っていて、生の人間ではないのです。”H”に自動的に服従するように脳がプログラムされている。しかし、その中でも出来の悪いのが居て、服従回路がぶっ壊れていて、それは当然のことながら社会活動経済活動においても不適応を起して、借金塗れになってしまうのだね。明美一族はそういう系譜で産まれたのです。」

釈「では”G”はそのぶっこわれた連中を集めて、違法な汚れ仕事をさせているのですね。」
まゆ子「ま、そんな感じで。というか、基本的には宇宙に住んでる人間は不老不死なのです。記憶を抜き出して別の個体に受継がせる事ができるから、死んでも生き返ることが出来るのですね。まあ、基本的には死後ではないと記憶移転はできないけれど、借金があるとそれが出来ないのです。」

 

釈「ああ。”H”は死ぬんですね、普通に。それは考えちゃうなあ。」

まゆ子「まあ、宇宙の人は、不死ではあるけれど、だいたい200年も生きるともう自発的に生きるのを止めちゃいます。時代に対応できなくなるんですね、知能が。知能を組み替えると、それは個体としての同一性を公的には認められなくなるから、死んだと同様の扱いを受けます。もちろん普通の人間として子供を作れますけれど、子供の脳に自分の記憶を移し変えるのは違法です。個体の独立性を守るためにはとうぜんですね。」

釈「死なない、電脳化している、宇宙線に強い。ほかになにか利点はありますか。」
まゆ子「いやー、アンドロイドってのもあるから、特にはないなあ。才能ってのも遺伝子で調整されているから、普通に出来がよろしい。だから、全体として宇宙人は普通人なのだ。」

釈「じゃあ”H”は出来が悪い?」

まゆ子「”H”の人は生態的に普通だから、おどろくような普通さ不完全さがある。だもんで、社会全体が”H”を保護するように作られているのです。同じ土俵で”H”と宇宙人は勝負しない。というよりも、”H”は芸術品で、宇宙人は量産品、と思ってよろしい。”H”が素晴らしいことをするには長年月の修練と努力が必要で、それも時間の経過と死によって容易に失われてしまうけれど、宇宙人のやる事はデータを引き継いだら普通に再生するし、アンドロイドが獲得した技量をコンピュータを介して自分のものにすることも可能です。つまり、人間的な継承というものが存在しない。あるのは金銭貸借くらい。

 そこで明美一族の特殊性が光るのです。明美一族はもともとそういう宇宙人だったけど、種々の事情によって”H”と同じ唯一性を手に入れてしまった。」

釈「なるほど! 先祖返りしちゃったわけです。明美一族は”H”と同様の属性に目覚めてしまったわけです。非合理的ですが、だからこそ価値がある。」
まゆ子「スペース荘園の解放、というのはつまり、自分達にも”H”と同様の唯一性を認めよ、という要求なのです。死ぬ明美一族に対しても、コロニーの所有権を認めよという。」

釈「でもそうすると、コスモ徳政令とはどういう意味になるのですか。借金を棒引きにしてしまうと、自分達と同じ存在に成り得る人たちがいなくなる、・・・あ、居なくなった方がいいんだ。唯一性を持った人間がこれ以上増えるのは明美一族にとっても不利益なんだ。」
まゆ子「まあそういうことで、明美一族は出来がわるいからこそ価値がある。」
釈「人をバカにしたような話ですが、論理的帰結です。でも、そうならば、宇宙人のひとは、そんな出来の悪い”H”のお守りをするのを疑問に思ったりしないんですか。」

まゆ子「いや、それを言うのなら、宇宙人よりもアンドロイドの方が性能は上なんだよ。なんせ西暦でいうと2700年くらいだから、人工知能も生命である人間を既に越えてしまっている。それらアンドロイドとロボットの助けが無いと、宇宙人もちゃんとした経済活動は出来ない。てことは、構図としては”H”を巡るものとなんら変わることはない。」
釈「はあ。それはあ、つまり人間てものに価値が無くなっちゃった世界ですかあ。」

 

まゆ子「とまあそういうわけで、唯一性を巡る戦いが行われるのですね。その中に”G”の少女しるくが自らの唯一性に目覚めるのです。」

釈「あ、明美一族は主人公じゃないんですか。」
まゆ子「だって明美だもん。これは『ゲバルトしるく』の為の設定なんだよ。だから、一個すぺおぺが必要だ、って言ったじゃないか。」

05/11/21

 

まゆ子「なんだか疲れたよ・・・。」
釈「どうしましたか、まゆ子さん。」

まゆ子「宝くじ、買った。」
釈「はあ。」
まゆ子「おまじないして買った。」
釈「まあ、そいう事普通にしますよね。」

まゆ子「買ったはいいが、その後何故かがくーっとパワーが抜けた。なんか寿命が三日ほど縮んだような感じ。」
釈「おお、当たったかもしれませんね、それ。」
まゆ子「しかし寿命が三日程度では1億円は当たってないな。1万円くらいかな。」

釈「でもこれまではそういう事無かったんですか。」
まゆ子「新開発のおまじないを考えたんだ。かなり効果が有りそう。」
釈「おお! それは是非とも教えてください。」

まゆ子「やり方は至極簡単なんだ。念じてもダメだ、どんなに一生懸命念じてもダメなんだ。」
釈「まあ、そりゃそうですね、普通。」
まゆ子「しかしわたしには或る程度の念力があって、時々機能することもある。だけど、それはなんと言いますか、念力ではなく予知能力系なんだよ。たとえばボールが当たる3秒前にピンと予感がする。」
釈「あんま、役に立たない能力ですね。実益はあったんですか。」
まゆ子「それがあるんだよ。たとえばサッカーでヘッディングする際に、ピンと来て頭をひょいと屈めたら、そのまま当たって20メートルほどかんぺきに飛んでった。それとかゲーセンでルーレットで人形取る時も、ピンと、というか心臓がどきっとしたのでやってみると大当たり、三回できるところが1発で大当たりゲットだよ。」
釈「ほお、かなりあるんですね、実績は。」

まゆ子「そこで私のおまじないはこれまで一生懸命念じるのと、心臓がどきっとするのと二本立てだったのだよ。しかしこないだゲーセンに行った時に気付いたんだ。念じるのは効かない、ぴんと来るのは作為が効かない。しかし、念じた先に心を解放して予知感覚を使ってみたらいいのではないか?」
釈「やったんですね。」

まゆ子「やりました。その件の人形取りルーレット、三回やって三回あたりです。ただし、三回小当たりでも人形は取れないのだな、リーチだけど。」
釈「ふむ、むずかしいとこですね。実益はあってもコストが伴わない。」
まゆ子「そこで、今回色々とその手法を試してみたのです。宝くじ買う前に念じて、その究極点で心を解放して、宝くじを買いました。そこまではいいんだけど、5、6歩行った所でがくーんとパワーが抜けた!」
釈「そういう話ですか。なるほど。それは当たっているかもしれないけれど、1000円とかだったらコストパフォーマンスが合いませんね。」
まゆ子「パワー回復に1週間掛かりました。或る意味大損です。やはりお金は地道に稼がないとダメだね、この方法は別のところで使うと逆にパワー増大に役立つんだけれど、賭け事はやばいぞ。」

釈「でも、1億当たるのならば、10年くらい寿命が縮んでもいいって人は多いんじゃないでしょうか?」
まゆ子「そういう人は了見間違ってるぞ。寿命が1年縮むという事は、3年半病人になる、と思った方がいい。表面上は元気かもしれないけれど、裏のパワーが抜けてるから事故とか病気に掛かり易くなるんだよ。まあね、でもどうしてもそうやりたいと思えば、パワーを蓄積する修行をして、有り余る余剰パワーをそれに注ぎ込む、というのが吉だね。」

釈「まゆ子先輩はそういうオカルト的なものもカバーしてたんですねえ。」
まゆ子「そうですよお。頑張ってますよお。

 

 てなわけで、ゲバルトしるく、明美帝国の逆襲です。」
釈「また新設定ですね。」

まゆ子「明美帝国の発祥の物語です。

 つまり、地球には遺伝子改造も脳内電脳も無い素の人間が住んでおり、宇宙には遺伝子改造して機能を向上させて電脳内蔵で個人データを記録していて死んでも生き返る宇宙人が住んでるわけです。
 明美一族はその初期の遺伝子改造をそのまま維持している旧い種族なのです。22世紀から23世紀に掛けて人類が宇宙空間に居住を進めた大開拓時代には、遺伝子改造をして耐環境性の高い改造人間が主体となって宇宙植民を行ったのです。当時の技術では宇宙線とかの防御が完璧とはいかずに或る程度は暴露される事が多かった為に、放射線による遺伝子損傷を回復する機能が高い、そして狭っ苦しい鬱陶しい五月蝿いエアコンくさい空間に何年も住んでも大丈夫という人材が求められたのですね。」

釈「ほおほお。つまりは、不十分な住空間と宇宙での生産活動に従事するための身体を必要としたわけです。」
まゆ子「この時期、宇宙人は遺伝子改造は行っても、電脳は外科手術で脳に挿入していました。また、記憶のみを外部化出来た為に死んでも生き返るというのは無かったのですね。
 しかしその後技術が発達して、人格というか自我がそのまま稼動状態で外部に取り出せるようになり、遺伝子工学が進展して、発生学的に脳内に生体電子回路を形成する事が可能になりました。また、大開拓時代が終って安定成長時代になった為に、耐環境性は高いものの知的能力の拡張には資源配分を行っていない旧型の宇宙人は自然と居なくなっていきました。というか、新型遺伝子にバージョンアップしていったわけだね。社会が必要とする能力が変わってきた為に自ら対応した。

 この時点で地球に居る素の人間は、宇宙人と張り合うのをやめました。いくら外部的に拡張しても能力が追い着かなくなったので、社会構造的に素の人間を大切にする方法で、自らの権益を守る事に方針を変えたのです。”H”の誕生です。

 ちなみに”H”は”エッジ”と読み、”Human”の略です。”G”は”Generic”で、”一般人” 遺伝子改造をされた一般的な宇宙人の意味です。

 そんな中、わずかにニッチ的に残された耐環境性を必要とする職場に、旧型遺伝子の宇宙人が生き残って居たのです。彼等は本質的に開拓者であり、粘り強く退屈な作業をこなし続けるという特性があり、それは当時でも役に立ったのです。」
釈「ふむふむ。なるほど、冥王星開拓をするのは必然だったわけです。」

まゆ子「しかしながらそれらもやがてロボットが人間並の判断力を持つようになると、駆逐されます。いや、コストの問題で彼等自身が自分達の役割をロボットに置き換えて行ったという方が正しい。宇宙開発に人間が必要ではなくなったのです。それでもなお宇宙開発に携わろうとする人は、人間をやめてアンドロイドに電脳を載せて、人間を越えた存在になりました。明美一族はそれは出来なくて、やむなく社会の片隅で貧しく暮らして居たわけです。が、旧式遺伝子では激しい競争社会では生きられない。たちまちに借金暮らしに陥り、ついには電脳すら質に入れる有り様。」

釈「あの、電脳って質屋に持って行って、お金になるんですか?」

まゆ子「正確には、電脳に記録した人格データで不意の事故の際に死亡しても身体を復元してくれる公共サービスを受ける権利を、質に入れたのです。また、電脳を脳内に挿入するのにもお金が掛かるわけで、しかも既に大半の宇宙人には必要でなくなったその手術は保険適用が無くなって、生まれたはいいけれど電脳が無い、という明美型宇宙人が発生するわけです。
 まあ、この時点で大半の明美型宇宙人は公的サービスを利用して新型遺伝子改造を受けて、普通の宇宙人になったのですが、当時は”H”が遺伝子改造者に対して服従プログラムを投入していた時期にあたり、それを良しとしなかった者が少数居て社会不適応者としてどこにも行き場が無くなったのです。そこで、」
釈「誰も寄りつかなかった冥王星に逃げ出したのですね。」

まゆ子「冥王星はなんの価値も無い、惑星とさえ看做されないほどの辺鄙なところだから、或る種のゴミ捨て場として”H”の黙認を受けたのです。”H”に逆らう奴は冥王星送りだー、と自ら見せしめになることで、独自の居住空間を手に入れたのです。実体は旧式宇宙人の吹き溜りで楽なものだったのだけどね。
 とまあそういうレッテルを貼ったおかげで、新型宇宙人は寄りつかなかったのです。冥王星は出来の悪い人たちがなかよくみんなで資源を分け合って暮らしている平和な世界で、競争の激化が続く一方のその他宇宙人社会の住人には、平和過ぎてとても耐えられない。低レベルで可能性を制限される世界だったのです。

 更に、当時から重力ウエービング航法の研究は始まっていたから、脳内に電子回路を搭載する宇宙人にはとても耐えられない。」
釈「明美一族は、慣れたんですよね、その副作用に。」
まゆ子「いやいや、これはまゆちゃん先生のおかげで、重力ウエービング機関の発生する重力変動を一定方向に限定する画期的な方法が編み出されたから、許容レベルにまで抑えられたという話で、やはり気持ち悪くはなるんです。慣れたけれどね。

 その後、冥王星以外の宇宙人社会では、脳内電子回路から量子摂動型演算回路へと更にバージョンアップして、人間とアンドロイドの境目が分からなくなります。さすがにこれはマズイということで、宇宙人の生体演算回路の機能制限が始まり、宇宙人の普通人化、競争社会の抑制が起ってアンドロイド全盛の時代になるのです。
 つまり宇宙人の”H”化が始まったわけで、能力格差による差別を是正し社会の均等化が要求され、平均化した社会が実現したもののやがて或る種の宇宙人が負け組になって昔の明美一族のような状態に陥るのです。」
釈「その人たちを救済する為の方法が、スペース徳政令ですか。」
まゆ子「コスモ荘園の解放というのは、つまりその負け組宇宙人が独自社会を作る事を許容する、というものでもあります。つまり人間社会の分裂化ですね。

 当然この要求は”H”の反発を買います。”H”は統一された人間社会の原点として人間社会全体の発展の原動力でありますから、分裂は許せないのです。というわけで、アンドロイド以外の人間の恒星間移民は禁止され、亜光速航法の研究も衰退します。この時期でも恒星間航行方法は反動推進、量子摂動による対生成推進が主流です。」
釈「でも明美一族はそれを良しとはしなくて、アルファケンタウリまで移民することになる。」

まゆ子「アルファケンタウリは冥王星に匹敵するしょうもない恒星系で、人類は初期の恒星間探査船を送り込むと瞬く間に興味を失います。もっと遠くの宇宙へと無人探査船を送り、通信で人格データを転送して現地で再生するという形で、誰でも飛べるようにします。ワープが実現したようなものです。100光年飛べる世界ではアルファケンタウリへの興味を維持する人は居なくなりますが、明美一族はそこに目を付けた。見捨てられた惑星は明美一族の楽天地です。で、そこで資源開発をしてカベチョロンシリーズを作るのです。重力ウエービング機関の熟成もここで行い、ついに完成へとこぎつけて艦隊を建造、冥王星に十年掛かりで持ち帰り、独立を宣言した、というわけです。」

釈「そもそもの重力ウエービング機関てのは、どういう風な原理で動くんですか。」
まゆ子「でたらめだよ。そんなもなあ無い。まあ、てきとうに考えると、

 コイルがあるのです。全長150メートルの。で電線が巻いてます。直径1oの真空チューブがぐるぐると巻いてある。この中をマイクロブラックホールがぐるぐると巡って、重力変動を引き起こし、その波にコイルを引っ掛けて進むという極めて簡単な仕組み。
 どくたーまゆちゃんは、これを改良して、重力変動が軸方向の後ろに狭い角度で発散されるように作り直しました。はっきり言ってノーベル賞級の大発明です。これで、軸の横には重力変動が伝わらなくて、或る程度は機械物も動くわけです。で、この横のところに人間が乗るし真空管コンピュータも搭載される。」

釈「反動推進と重力ウエービング航法と、どちらが優れているのですか?」
まゆ子「反動推進です。重力変動を引き起こし周辺に被害甚大な重力ウエービング航法はそもそも現代社会では使えない機械です。

 量子摂動型推進機関は燃料が基本的に要らない真空エネルギーを利用しますからタダで動きますし、到達可能な速度も光速の99%までは理論的に可能です。理論値87%実際は60%以下の重力ウエービング航法よりも優れているのは確かです。
 しかし反動推進は加速過程が絶対に必要な為に、無慣性航法である重力ウエービング航法の方が状況によっては優れている所もあります。エネルギーの問題も、重力ウエービング機関は専用のエネルギージェネレータのスペースエネルギーを使用して普通の核融合エンジンと同程度の経済的な運用が可能だから、特に問題ありません。」

釈「つまり、使えるのであればカベチョロンにも量子摂動型エンジンを搭載したかったけれど、それは重力変動で不可能だから、スペースエネルギー機関を開発したわけですね。真空管で制御して。」
まゆ子「そういう事です。

 さて、カベチョロンですが、現在設定上では二種類のカベチョロンと、モビルカベチョロンロボットを考えています。

 モビルカベチョロンロボットは、身長15メートル程度の巨大人型ロボットで、カベチョロンの外板に貼り付いて切れた真空管のメンテナンスを行う事を目的として考えられたロボットです。人間が乗るのは、十分な能力を持つ人工知能を真空管では構成できないから、人間の脳味噌を使おうという、とんでもないアナクロな発想ですね。
 エンジンはスペースエネルギー機関は真空管が大量に必要なので搭載不能、仕方なしに核分裂発電機を搭載しています。」

釈「核分裂というのは、原子炉ですよね。コンピュータ無しでも大丈夫なんですか?」
まゆ子「中性子ミラーというものが開発されているので、まったく問題ありません。実のところ原子炉は真空管時代に開発されたエネルギー源であり、制御も真空管で上等過ぎますが、モビルカベチョロンではぜんまいとバネで制御しています。」
釈「ぜんまい・・・・。」
まゆ子「無問題です!

 で、極めてアナクロな油圧駆動しますし、部分的には超伝導モーターも使っています。基本的には単に真空管の入れ変えをするだけの機械だから、ろくな運動機能はありませんが要求される活動には不自由なく動きます。で、ロケット推進には蒸気ロケットで姿勢制御を行い、尻尾型イオンロケットで秒速100kmまで加速可能です。旧い技術を使っているけれど、重力ウエービング機関の影響範囲内でちゃんと動ける凄いロボットですよ。

 武装は、尻尾のつけ根に付いている120o連装機関砲。当たるとねちょっとする特殊ペイント弾でガンダムの外部センサ類を沈黙させますが、これには核廃棄物も混じってます。酷いです。で、主たる攻撃手段がこの120o連装機関砲に小型核分裂弾頭を使用しての、核爆弾乱れ撃ち。毎分150発で換算1kトン以下の核爆弾が連続的に爆発します。」
釈「それって、凄くないですか。」
まゆ子「いや、この時代のガンダムは、これの直撃を受けても大丈夫。」

釈「どういう頑丈さですか、それは。」
まゆ子「対ビーム装甲とはそのくらいの熱にも耐えるんだよ。ていうか、宇宙空間には空気が無いから、せっかく爆発した核爆弾のエネルギーも有効に相手に伝達出来ないんだな。直撃に近い至近弾でないとほとんど効果は無い。」
釈「すげー。」
まゆ子「まあもっと馬鹿でかい核爆弾ならばもうちょっと効果はあるんだけど、量子摂動で生み出す高エネルギービームを主兵装とするガンダムには無用だな。モビルカベチョロンも馬鹿でかい核爆弾は必要無いから持ってない。どうせ空中で迎撃される。」
釈「そういうものですか。」

まゆ子「所詮は対空防御に過ぎないんだよ。核爆弾つるべ撃ちでもね。ただ、まあ、モビルカベチョロンの使命はカベチョロンの秘密が地球側にバレないように完全破壊するため、だからこんなもんで上等だ。それにカベチョロン対策に重力変動の影響を受けない核機雷とか使われた時には、十分意味がある。」
釈「所詮は機関砲で秒速1kmくらいですからねえ。」
まゆ子「いや、2kmは絞り出してるぞ。」

釈「ガンダムはビームの速度は光速ですか。」
まゆ子「レーザービームは光速だけど、主兵装のビームは金属粒子をよくわからない原理で飛ばして秒速1000km以上。直撃すると温度だと百万度以上になるから、それに対抗する事を考慮された装甲は、中心部で30万度にしかならない核弾頭なんか全然大丈夫なのだね。ともかくカベチョロンの武装とは格が全然違う。」
釈「絶対勝てませんね。」
まゆ子「屋内にでも入らない限りは無理だな。もっとも重力変動が起きている空間内部ではビーム発射機は稼動しないし、飛んできたビームを無慣性運動で避ける事ができるけどね。」

釈「で、その重力ウエービング機関を搭載した巨大カベチョロンです。」
まゆ子「キャノンバスターカベチョロンとシールドデストロイヤーカベチョロン、カベチョロンフリゲートです。

 カベチョロンフリゲートは戦艦空母ですから、まあ普通です。武装は無いも同然で。出撃したカベチョロンとモビルカベチョロンを回収するだけの船ですね。

 キャノンバスターカベチョロンは無慣性航法で発生した速度のまま1トンの鋼鉄の砲弾を放り投げるだけの機能しか持たない。ただ、止ったり動いたりを頻繁に行うから真空管の破損率が高くてモビルカベチョロンが外に取り付いて常に修復している。全長は200メートル重量は5000トン、装弾数100発。明美帝国の主要兵器です。威力はすごいですよー、1トン砲弾を光速の60%にまで加速してぶつけるのだから、耐ビーム装甲でも耐えられない。巨大戦艦も撃沈してしまいます。またいざという時は本体そのものをぶつける事も考慮しており、その場合は5000トンの機体が自爆散乱して対象物をぶち壊しまくりです。地球ですら危うい戦略兵器です。

 シールドデストロイヤーカベチョロンは全長210メートル重量15000トン、主な目的は、攻撃隊のキャノンバスターに搭載されていたモビルカベチョロンの回収です。笠の開いたキノコの形をしていて、キノコの笠がそのまま無垢のチタンの装甲板で、厚さが20メートルもある。ここまで厚いとさすがにガンダムのビームだって防げるのだ。で、その陰に機関と武装とモビルカベチョロンが隠れている。武装はキャノンバスターカベチョロンと同じで装弾数が20発、他にプラズマキャノン砲が4基、120ミリ連装機関砲が2門ある。モビルカベチョロンが2機搭載だから、計4門だね。
 プラズマキャノン砲はいわゆるソレノイド、電磁投射砲で砲弾初速は秒速15キロメートルという宇宙兵器としてはまともな速度が出る。これで大型の核融合爆弾を投射する。この核融合弾は指向性爆弾になっていて爆発のプラズマが一直線に伸びる特性があり、事実上ビーム兵器としてガンダムにも一定の効果がある。

 ちなみに1トン砲弾の数が限定されるのは、急速に動いたり止ったりする重力ウエービング砲を使用すると大体真空管が切れるから、それを修復する限界が100発、シールドデストロイヤーは回収帰還が主任務だからぶっ壊れる前に帰る必要があって、装弾数が最少になっている。」

釈「しかし、地球側もガンダムより凄い兵器があるんですよねえ、やっぱ。」
まゆ子「無いよ。必要無いし、敵も無い。ガンダムをリリースするだけの戦艦空母があり、ガンダムだけが搭載兵器ということになる。カベチョロンフリゲートと一緒の形だね。ただし居住性能は桁違いで、宇宙人が生身で乗るから十分な防御設備と居住設備がある。つまりは地球側は海賊程度なら有り得ても、宇宙戦争なんてことが起こるなんて考えてもいなかったんだね。自分と対等な敵が出現するなどとは夢にも思わなかった。まあ、冥王星の明美帝国と、地球側の勢力比は1:30000。戦争の可能性なんか言ったら狂人扱いされるよね。」

釈「でも、アルファケンタウリで軍備を整えて来たのではありませんか。」
まゆ子「だから、それで1:30000。」
釈「・・・・むごいはなしですねえ。」
まゆ子「まあ、だからこそガンダムも数が少なくて勝負になっているというとこがあるわけだ。重力変動に巻き込まれるとガンダムも停止するし、乗ってるアンドロイドも止ってしまいますからねえ。」

釈「アンドロイドというのは、どの程度の出来なんですか。宇宙人の最高の性能の人よりも上?」
まゆ子「はなしにならないほどの格差があります。また、重力変動の影響下でもエラー補正処理をして能力の5パーセント程度で稼動してますが、それでも宇宙人よりも上です。」

釈「人格のレベルはどうでしょ。」
まゆ子「にんげんとだいたい同じですよ。というか、死なない機能を持つ宇宙人はアンドロイドとだいたい同じようなパーソナリティであって、そういうのに合わせて人格設定しているから、アンドロイドと宇宙人は見分けもつかない程度の精神的特徴しかない。そうでないと人間には制御できないから、という理由があるわけですよ。”H”に理解できないような高度な抽象的表現を出来るように作っちゃあ、ダメなのです。」

釈「アンドロイドの脳はポジトロンブレインですか。」
まゆ子「そりゃあスタートレックだな。違います、量子摂動回路です。量子コンピュータですね、ただスタンドアロンで存在する訳じゃないから、電子コンピュータでも性能はほとんど変りません。必要とされる人間の人格のシミュレーションには電子コンピュータでも十分な能力があるのですが、それが1000人分同時に処理出来る、と思って下さい。つまりここにアンドロイドが居たとして、でもネットワークを介して1000の現場に同時に存在して仕事しているほどの能力がある。」

釈「そりゃあ生身の人間勝てませんよ。余裕で能力を持て余していますね。」
まゆ子「だからといって不満に思ったりはしないけどね。アンドロイドはアンドロイドで独自の文化圏をこしらえていて、それは仮想空間内にあるのだけれどそれを十分に実現する為には今の能力でもまだ足りないと思っている。ま、色々と進歩の余地はあるわけです。

 でもねえ、実はアンドロイドも宇宙人も、今回の明美帝国の侵攻を実は歓迎しているんだ。なぜならば、当時の地球圏では100年以上も軍事活動が必要なな事態は起こっていない。軍とは名ばかりで、せいぜい海賊とりしまり、それもロボットが自動的にやってるのを情報通信で管理しているだけ、という暇な部署なんです。」

釈「なるほど。100年ぶりにお仕事が舞い込んできたというわけですか。そりゃあ張り切るなあ。」

まゆ子「てなわけで、久しぶりの実戦を演習と考えて浮き浮きしている。で、演習が長続きするようにガンダムの発進数を抑えていて、まんべんなく皆が実戦を経験出来るように戦力の均衡を図っているわけだ。”H”も、あんまり暇だと一般宇宙人社会にあれこれ口を出して来るのに、明美帝国の反乱でこっちに目が向いちゃってるしね。
 こりゃあいいや、ってことで、宇宙人の将軍は自ら騒動や反乱の種を蒔くことを、ひそかに始めたりもするわけですよ。」

05/12/04

まゆ子「そうは言ってもだね、明美一族という連中は、遺伝子改造を受けたコーディネーターなんだよ。」
釈「のっけから始まります。ましなりい、明美一族の逆襲の続きですね。」

 

まゆ子「つまり、明美一族の元となった初期型の宇宙開拓者向け遺伝子改造人間は、宇宙空間で暮らす為に必要な能力を附加されていて、それは単に肉体的に強靭だというだけでなく、知的能力にも或る程度の強化がなされている。つまり、アーブと同じ航宙計算能力を持っている。」
釈「アーブと同じ、ではいけないんですか?」
まゆ子「そこまでの必要は無い、というのが当時の結論。脳内にコンピュータを埋めこんで知的機能を補完する事が前提となっていたわけだから、無理して生体に知的機能を附加する必要は無い。」

釈「そりゃそうですが、にも関らずその後の宇宙人は肉体的強靭さを捨てて知的能力の拡大を行ったんですよね。」

まゆ子「社会の性格が変わったんです。大開拓時代の、物理的に制限されているから急いでも仕方ないなあ、という気質の人間が必要とされた時代から、高度なコミュニケーション能力を発揮して社会をぶん回して行く競争社会に突入したのですね。そこでは従来の電脳外挿式の知能拡大ではおっつかない、生体の脳とシームレスな融合を遂げより高度で抽象的なイメージを取り扱える”質的にステージが上”な社会を作り上げたのですよ。初期型宇宙人はべたべたな肉体労働者としてつくられており、板子一枚下は真空という非情な現実世界の中で生きていた人間だから、そいう社会の中で立ち振舞う事は、無理だ。」

釈「無理ですね。でも肉体労働者なんですか?」
まゆ子「これはまあ、現在の宇宙飛行士が知能だけでなく肉体も技術も鍛え上げるのと同程度に肉体労働、という意味で、宇宙飛行士の育成に長年月掛かっていたのを省略する形での遺伝子改造が行われたのだね。だから筋力が強力とかではなく、劣悪な環境下に置かれてもクールな作業が連続して可能な、という耐久力勝負になる。肉体的強靭さを前提とする知的作業が可能な、まあ当時のレベルで言えば高水準な才能を持たされていた。」 

釈「ああ、時代の進展に従って普通にスペックの上昇が社会全体で起こっていた、てことですか。なるほど、じゃあ明美型は最初はとてもエクセレントな存在として見られていたのですね。」
まゆ子「それこそコーディネーターと同様に無改造人間から敵視されて居ました。

 で、或る種の論理パズルも得意なんだな。登場当時は生体コンピュータとまでも言われたくらいで、無機的で知的な作業が得意なんだ。後にどくたーまゆちゃんはこれを利用して、カベチョロンの真空管入れ換えを効率的に行う回路回復アルゴリズムを考えた。パズルを解くように真空管を入れ換えて行くから、モビルカベチョロンは効率的に修復機能を行えるわけね。
 で、そのパズルというのは、21世紀のコンピュータにも必須としてインストールされていた、ソリティア、フリーセル、マインスイーパーだったりする。」
釈「・・・・・・・・・・・・・まいんすいーぱーを700年後でもやってるんですか・・・・・・。」

 

まゆ子「さて、で社会の進展で大開拓時代が終った後は、明美一族も手をこまねいていたわけではなくて、外挿されるコンピュータの能力拡大でカバーしようとしました。最終的には脳内に入れるのではなく外にくっつける形でも機能強化を行いまして、それで結構うまくいったのです。これが曲者。なんとかなるから、対応が遅れた。」
釈「ふむ。でもシームレスな脳機能強化ができないのに、外付けでどうやったんです?」

まゆ子「いや、スタンドアローンなコンピュータに用は無いさ。ネットワークで繋がっているから、コンピュータは単独では得られない力を持つ。この外部コミュニケーション機能を強化して、AIやら電脳やらに人間の操作の先読みをさせてバックアップするという、ソフトウェア的手法でなんとかしようとした。無改造人間も同様に外部コンピュータに任せるという形で対応しており、同じ技術だからちゃんと発展したのです。しかし、最終的に無改造人間はそれをやめて、外部にアンドロイドを従えて自分の代りをさせるという形で対処するようになる。それに対して明美一族は、自分以外のモノに自分の役を任せるなどというぜいたくな手段が使えるわけもなく、極端に肥大化した恐竜的進化の果てに、最終的な敗北を迎えてしまうのですね。」

釈「でも脳の中に電脳を発生学的に生成する、というのはどういう技術なんですか。DNAですか。」
まゆ子「DNAも混じっているけれど、つまりDNAをいじって別の種類の人工遺伝子の受け皿を作るわけね。そこに外部から胎児に投入されるナノマシン電子回路の部品を組み上げて行く独自の設計コードをインストールすると、生体の脳とシームレスに繋がる電脳が形成される。この手法の良い所は、DNA改造をほとんどしなくて済む点で宇宙人は人間としてはかなりまっとうな存在へと回帰したのね。それ以前の明美型宇宙人はちょっと人間離れしたところもあった。

 たとえば、呼吸器。人間の肺では希薄な空気を呼吸出来ないけれど、鳥の気嚢システムに手本を取った高機能酸素交換システムを装備して相当な低気圧や低酸素状態でもなんなく行動できるようになっている。1分間くらいなら真空中でも大丈夫。そしてこの酸素交換システムにより脳にも酸素が十分供給できるから、無改造の人間よりも知的能力でそうとう高い成績を修める事もできるのね。」
釈「酸素ですか。なるほど、空気が淀んでいると気持ち悪くなりますからね。」

まゆ子「そこそこ。環境が悪いと言うのは結局空気が悪いてことなのよ。だから、呼吸システムにはかなり力を入れている。呼吸システムが成功したからこそ、明美一族は成功したのだよ。しかし、新型宇宙人はそれを排除してもっと普通の、ただの人間の肺に戻してしまった。脳が電脳と融合したから必要なのは電気となり酸素は最小レベルで十分になったからね。酸素の取り過ぎは寿命の短命化にも繋がるから、やめちゃった。明美一族は別に短命ではないけれど、それは希薄な空気を吸わねばならないという形で環境が短命を防止して居たわけ。普通に事務処理なんかして何年も暮らす時は、呼吸システムを片肺切って生きる、というような手段を使わないと酸素で脳がイカれちゃう。」

釈「で、放射線に対する耐性が高いんですね。」
まゆ子「これは凄い。はっきり言って化け物だ。放射能浴びたら手が黒くなっちゃったー、アハハ。てな具合で、放射線による遺伝子破損を回復するシステムがばけものレベルに強化されている。木星より遠くなると太陽エネルギーは使えないから、普通に原子力を利用していてメンテナンスをするにも事故が起きるだの、色々あったからね。さすがに放射線浴び過ぎると死んじゃうけど、死なないで戻って来たら医療カプセルに入れといて1ヶ月もしたらちゃんと癒ってしまう。」

釈「生殖細胞の損傷は無いんですか。」
まゆ子「いや、そいうの元から付いてない。生殖行為は趣味でやるだけで、赤ちゃん生まないんだよ。ただ、後に、つまり宇宙で働かなくなった時期にその機能の回復をした。それも、新宇宙人の機能の一つなんだよ。ちゃんと生殖行動を行って子供を産む。社会と言うのはそういうものじゃない?」

釈「はあ。でも、そんな機械みたいな人間でも、不満は無かったんですか。」
まゆ子「それはねえ、かなり難しいはなしがあって、元々中程度の遺伝子改造人間というのが先行してあって、それのバージョンアップとして宇宙開発用遺伝子改良人間が出来たんだ。機能の拡張は当然人間の在り方に対する議論を呼んで、生殖機能を無くすというのが普通の対応になったのだね。男女が結婚して病院で遺伝子合成をして、新しい子供を作る。あるいは子供工場から買って来るという出来方をしていた。別に不自然な行為ではないんだ、これ。当時は普通の無改造の人間も、そうやって生殖行為の負担を軽減する事が流行っていた。その基盤があったからこそ、宇宙用改造人間というアイデアが実現したんだよ。」

釈「でもそれじゃあ”H”ではない。」
まゆ子「そうなんだ。”H”はその当時は、ほぼ絶滅危惧種だった。なにも人工の手を加えない。遺伝子に手を入れない。機械を人体に挿入しない。これをやってる人たちは、もう差別主義者か宗教か、というくらいになっていた。自然分娩もむしろ不自然ということで、先進地域では新生児の半分以上が人工子宮で造られるようになったんだね。遺伝子改良にも便利だから。それに、遺伝子改良を行った者同士をミックスした場合、生まれた子供の遺伝的特性はデタラメになるから、どうしても抜本的調整が必要なんだよ。調整を受けた者が自然分娩をするのは現実的には不可能だから、まあ生殖機能が無いのは当然なのだね。」

釈「という事は、調整を全部やめちゃったからこそ”H”は可能になった、ということですね。つまり、地球では遺伝子改造が或る日禁止になったんですよ。」

まゆ子「そういうことなんだけど、それには伏線があった。つまり、遺伝子調整者には生殖機能を持たせるのは無理だ。子供は外部で調整しなければ思った通りの特質を発揮出来ない。ここで『標準遺伝子』という考え方で出来たんだよ。標準遺伝子に目的となる特性の遺伝子を外挿して、母体に着床させる。両親どちらにも遺伝子は由来していないけれど、両親の元となった遺伝子グループ・家系から標準遺伝子を持って来て、両者カップリングさせて胎児の基準遺伝配列を決定し、そこに調整遺伝子を投入して、母体に戻す。そういうやり方で、遺伝子調整者も自然分娩が可能になった。
 まあ、元から特性の優れた家系の人物の遺伝子を利用するという風潮はあったけれど、それが極限まで純化された結果、標準遺伝子が存在する地球という環境、原形としての人間である”H”が生まれるのさ。」

釈「ふむふむ。割とまともな考え方ですが、でもそれでは親は自分と直接血の繋がりの無い子供を妊娠するわけですよね。それでいいんですか。」
まゆ子「うん。そこは年月が必要だったけれど三世代ほどで決着した。つまり、自分は標準遺伝子のミックスした遺伝子で構成されるが、そのミックスしたもの同士で遺伝配列を考えると、どういう子になるのかよく分からない。ミックスした結果が予測できるようにするためには、標準遺伝子同士でかけあわせた方がわかりやすい。また標準遺伝子は特性がはっきりした血族を基準にしているから、どういう特性を持つ子なのかを希望通りに混合できたのだね。利便性の追求の方が、自己の血の継承という利点の良くわからない行為よりも優先したのだよ。

 で、”H”は、その見本として自ら純度を高めて行った。血族婚に近い行為を繰り返して、実にわかりやすい家系を作って行ったし、別の家系と婚姻した子供は排除していったのです。
 というか、つまりこれは国だ。”H”はそれぞれ孤立した国であり、その内部でのみ婚姻可能とする事で、単一民族を作って、地球にかって在った種々の民族を復元したと考えるとわかりやすい。」

釈「なるほどなるほど。なんか実に日本的なシステムなわけですよ。で明美一族ですが、後天的に生殖機能を獲得したのだから、標準遺伝子をつかうわけです。」

まゆ子「理想を言うとそうなのだが、それには金がかかる。標準遺伝子使用料はこれが結構高くつく。経済的に不自由な明美一族にはなかなか負担が大きいのだね。それに明美一族は特徴的な耐環境性能が神髄だ。必要とされる特性は何世代もまったく同じものだった。個々人が調整を考える必要が無い。

 ということで、”H”に似た制度を自ら整える事にしました。耐環境性を持ち機能強化する遺伝子が常に継承されるように遺伝配列を再配置して、交雑しても遺伝的特性が変わらない「基準家系」という妊娠可能な一族を皆で作ったのです。この家系の人たちは宇宙で厳しい環境にさらされないように保護され、お姫様扱いされてきたのです。で、これと「標準遺伝子」との交雑を行って通常使用料の半分で、次世代の宇宙仕様改造人間を生み出して行った。」
釈「は、半額ですか。」
まゆ子「その後半額使用は違反となり、ついには標準遺伝子の使用も禁止されてしまいました。宇宙仕様改造人間の生産が不能になり、「基準家系」のお姫様”明美”がリーダーとなって政府に陳情に行きデモを行ったのだけれど、最早無用という事でどこからも相手にされず電脳挿入手術の保険適用も打ち切られ、遂には電脳を質に入れるほどの困窮状態に陥ったのです。」

釈「で、借金を繰り返して取り立てのヤクザに追われて、とうとう冥王星に逃げ出した、と。」

まゆ子「そういうことです。しかし一人で行ったわけではない。明美一族はそれでも100名は居たわけで、それに借金友達とも言える、どくたーまゆちゃんも一緒に冥王星に逃げ出したのです。だがそのままでは、クローンでしか子供を増やせない。標準遺伝子は手に入らないし、普通の新型宇宙人はちゃんと遺伝子にプロテクトが掛かっている。
 そこで標準遺伝子から外れた混血の遺伝子を持つ、地球から排除された”H”に目を付けたのです。”明美一族”の隠密くのいち”じゅえる”が、混血”H”が主に住む月面で大活躍して、1000セット以上のオリジナル遺伝子を獲得して、それで冥王星に完結した生活圏を作ることが出来ました。まあ、後で月面の混血者が何人か冥王星まで亡命して来たけどね。

 てなわけで、混血の”H”と、借金から逃げ出した明美一族が住む冥王星は、”H”にとっては流刑惑星のような感じで捉えられ、全宇宙の遺伝子改造者・宇宙人に、「ろくでもない連中はここに流しちゃうぞ」という見せしめが実現したわけです。」

釈「そのやって来た混血者は皆男ですか? 明美姫とまぐわってお子様を製造なさるのですか。」
まゆ子「うーむ、そこんとこは余り決まってない。体外で人工子宮で作ってもいいし、明美から取った卵子と掛け合わせて受精卵を明美型宇宙人女性の子宮に入れてもいいし、明美本人が妊娠してもいい。どうしようか。どっちにしろ、冥王星独立戦争時には現在の人間と同じに男女が交わって子供が出来るように先祖返りしてる。1000人分の遺伝子のごちゃまぜで、もう遺伝的特徴とかなんとかはどうでも良くなってる。」

釈「はあ。では冥王星でも遺伝子改造技術はあるんですね。」
まゆ子「まね、もう旧い技術だし、なんだったら機械でランダムで遺伝子の変異を製造してバリエーションをつくろう、とかの話もあったのだけど、やはり裏付けがあった方がなにかと便利かな、とじゅえる隊が身体を張って遺伝子ぶんどってきました。大正解です!

 ”H”の生遺伝子を導入している事で、”H”にしか適用されないはずの人身保護規定、データセーブが出来ない人間に対して死亡を前提とする法的措置を行ってはいけない、というのが冥王星明美帝国にも適用されて、戦争中でも直接冥王星を攻撃できなくなっています。」

 

釈「てなわけで、で本編主人公しるく先輩のキャラ設定を考えましょう。それを考えると、どうも、”H”の混血で月に住んでいる人、というのがしるく先輩のきゃらにふさわしくないですか。」
まゆ子「うーーーーーんんん、なるほど。悪くはないが、読者様の意表を衝くには弱くないかな。」
釈「こんなとこで意表を衝いても仕方ないでしょう。まあ、定番な気もしますが、定番だからこそ明美帝国の反乱の異常さが際だつというものです。」

まゆ子「新型宇宙人のキャラをどうやって設定するか、から攻めた方が良くないかなあ。”G”だよ、」

釈「うーん、ではしるく先輩は”H”そのものにしますかあ? なんか接点が無いんだよなあ、冥王星と。」
まゆ子「そうか、ではなにか新しい接点をこしらえよう。冥王星から落ちてきて”H”に育てられたお姫様、というのはどうだろう。」
釈「明美一族のそもそもの御先祖様というのはどうですか。明美標準遺伝子、という。」
まゆ子「新造人間という手もある。人類すべての標準をとなる、神的遺伝配列を持つ少女。」
釈「いや、そうですね。冥王星に”H”が新しい希望を抱いて、彼等と共に新世界へ旅立つ為の鍵、とか。」

まゆ子「・・・・・これでいこう。”H”は遺伝子改造は禁止、後天的にも禁止、機械を挿入するのも禁止、遺伝病の治療とか先天的欠陥の治療にもそれらカガクテキ手段の使用は禁じられる。だが純粋な”H”であるしるくは、そのままでは死んでしまうということで、月面に送られて延命処置を受けるのだよ。遺伝的ではない生体改造手術を受けて。そして生命を長らえた彼女は、しかしもう二度と地球に下りる事はできない。月面は居心地の良い所だけれど、純粋な”H”であるしるくはそこでもやはり異物なんだ。で、自己のアイデンティティとかで悶々としている中、突如明美帝国の逆襲が始まり、周囲が重力変動で苦しむ中、生身のしるくは全然堪えない。そこで興味をもって、冥王星の最前線に”H”として乗り込むのだ。」

釈「よござんすね。」

2005/12/6

 

 

06/1/19

 

まゆ子「というわけで、大体カベチョロンができました。ホントは下面は作ってないけど、まあこんなもんだろう。ついでにキンギョロンも作ったぞ。」
釈「ましなりいです。

 しかし、キンギョロンというのはなんですか。」

まゆ子「カベチョロンは本来戦闘用ではない。やっぱ戦闘用の専門機体くらいは用意しておくべきだろうなあ、ということで、フレームを流用して戦闘機にしてみました。手足はいらないから取っ払って、金魚をモチーフとしたキュートなデザインにしましたよ。」

釈「なんだか武装はたいそう付いているみたいですけど、やっぱガンダムには全然効果無しなんですよね。」
まゆ子「気休めです! まあ、全装備核兵器ですけど。あ、口のところはレーザー光線砲ですよ。出力は弱いけれど、とりあえずレーザーです。10o鉄板くらいなら一撃で穴開きます。」
釈「それじゃあ、今の戦車にも勝てやしない。

 あ、前から気になってたんですけど、このカベチョロンの秒速100kmというのは疾過ぎはしませんか。」
まゆ子「なんで? 光速の3000分の一でしかないのに。」
釈「でも今のロケットは秒速15キロくらいでしょ。」
まゆ子「そりゃ疾過ぎるな。太陽系飛び出ちゃうぞ。しかしまあ、今の化学ロケットではスイングバイを利用してその程度が関の山ですか。カベチョロンは原子炉搭載イオンロケットエンジンだから、100キロなんてのが出ます。」

釈「そんな速度、要りますか? いや、早ければ早いほどいいのはわかりますが。」
まゆ子「人間が乗るからねえ。つまり、冥王星から出撃して、また帰って来るわけだよ。人間が生きてる内に帰還を果たす為には、早いロケットが是非とも必要になる。それに加えて、推進剤の搭載量は最小でなければなならない。まあ、原子力ロケットでもいいんだが、今イオンロケットがブームだから、付けてみました。
 ちなみに、イオンロケットと言えば「はやぶさ」!イトカワに降りたけど、ちゃんと地球に帰って来れるかわかりませんねえ。はやぶさが搭載するイオンロケットは、キセノン原子を30キロメートル毎秒で噴射します。カベチョロンは100キロですから、ぜんぜん進歩してないと言った方がいいですね。」

釈「はやぶさは30キロ毎秒出てるんですか?」
まゆ子「ロケットというものは最適噴射速度がだいたい到達速度の上限になるもんだ。質量比の関係で、それ以上の速度を出すのは経済的で無くなるんだよ。まあハヤブサは小さいし、なんたって電源は太陽電池だから、エンジンの出力だけでがちに加速するわけにはいかない。でもまあ、」

釈「ちょっとまってください。ハヤブサのエンジンは太陽電池で動いてるんですか。」
まゆ子「現在の衛星搭載の奴はみなそうだよ。原子力電池で動くイオンロケットはまだ無いはずだ。ましてや原子炉でなんて。」
釈「ひょっとしてすさまじく出力が小さい?」
まゆ子「推力は一円玉が動くくらいかな。イオンロケットだから。でも長時間加速し続けることで最終的に大きな速度に到達するんだよ。カベチョロンも長時間加速する事で速度を稼ぐ。原子炉搭載だから推力も相当あるけど、まあ10分の1とか100分の1G加速だね。」

釈「・・・それはガンダムみたいな高機動戦闘はできない、ってことですか。」
まゆ子「急角度で転進する、てのは出来ないしやる必要も無い。惑星間航行ロケットていうものは、元々飛んでる時点でたいそうな速度を得ているんだよ。ミサイルなんかは追いつけない。
 つまりだね、惑星間航行ロケット同士の戦闘は、正面から接近するという異常な状態で無いかぎり普通に鬼ごっこ的状況に陥いり何日も相対距離が変わらずに過ぎて行き、レーザー光線でも使わなきゃ弾がめちゃくちゃ遅くて相手になかなか届かないということになるんだよ。」

釈「ガンダムでは惑星間航行戦闘はできないってことですか。あ、いや、何日間も飛びながら戦闘ってのはワンマンじゃあ出来ませんけど。」
まゆ子「カベチョロンはつまり、何日どころか一ヶ月くらいは乗りっぱなしを設計して作られた舟なんだよ。その間ずっと加速中。戦闘なんてばかなことはしないで、ただ帰るための舟だ。」

釈「なるほど。つまりこんなものでは戦争なんてできないわけだ。」
まゆ子「それではあまりにも華が無い、というので急遽こさえたのが、キンギョロンだ。一応イオンロケットも付いているけれど、左右に4基くっついた自由に振り回せるプラズマアークエンジンでガンダムみたいに動けるようになっている。」
釈「キンギョロンならばガンダムみたいに動けるんですね。」
まゆ子「まね。自由に高機動戦闘するためには大推力のロケットでないといけない。だが大推力ロケットでは惑星間航行は出来ない。推進剤消費量が大き過ぎて、ブレーキを掛ける分まで残らないんだよ。
 ちなみにプラズマアークエンジンてのはわたしがでっちあげたロケットエンジンで、電極からバチバチ火花が散っている中に水とかを放り込んでプラズマ化して噴射するものだ。単なるプラズマロケットだね。カベチョロンのイオンロケットエンジンも実は同じ手法でプラズマを作って、長大な加速器で電磁的に噴射速度を上げて放射する。だからどっちもプラズマエンジンだ、てのが正解。」

釈「キンギョロンは腹部に二発大きな核爆弾を搭載しているから、戦闘爆撃機と言ってよいですね。」
まゆ子「そうです。しかし、誤解してはいけないのだが、核爆弾を放り込むのならば、別に高機動戦闘能力は必要無い。イオンロケットで高速を得て、そのままの速度で爆弾をリリースして、自機は反転して減速帰還する、というのが爆撃ミッションだ。カベチョロンでも十分に可能。キンギョロンはこの爆弾は目くらましにしか使わないよ。」
釈「でもこの爆弾は、えーと5tですか。10tですか。」
まゆ子「5トンです。一応ミサイルになってるし。もっとちいさな高機動ミサイルも持っているけれど、ま、役には立たないな。ビームで迎撃されちゃう。」
釈「ガンダムは、そんなもの一撃です、よね。そうかあ、キンギョロンもビームライフルを付けなきゃねえ。」

まゆ子「ともかくだ、カベチョロンにしてもキンギョロンにしても、その目的は冥王星への帰還でしかないのだよ。カベチョロンは救出任務を行い、キンギョロンはそれを支援して時間稼ぎをする。で、イオンロケットで長時間加速をして、冥王星方向に出来るだけ早く逃げる。これしか考えてない。ほんとうは自力航行するよりも、重力ウエーヴィング機関をもっている母艦に収容してもらいたいのだけれど、それも惑星間のとんでもない位置に控えているから、そこまでは自力で行くしかない。」

釈「この、救出時5人乗れるというのは、計7人ですね。コクピットには乗れないでしょうから、中に居住空間があるんですね。」
まゆ子「首の後ろにサブコクピットがある。カベチョロンはでかいぞ。道路を走っている大きなトラックを左右上下前後に二台ずつくっつけたぼりゅーむがある。居住スペースもちゃんとある。コクピットは脱出カプセルを兼ねているから二人しか乗れないけれど、コクピットだけでも1月くらいは居られるように出来ている。
 ほら、カベチョロンのコクピットの上には鍋の取っ手みたいなものがあるでしょ。これは、そのものずばりの取っ手だ。緊急脱出時にはコクピットだけ脱落して、僚機に回収してもらうための取っ手ね。」

釈「なるほど。でもコクピット無しでもサブで動くわけですよね。5人が乗って1月も住めるというのは、ひょっとして旅客用カベチョロンとかもあるのでは。」
まゆ子「うん。腹に客室コンテナを接続した場合は20人くらい、いや短距離ならば100人は乗れるバスにもなる。」

釈「キャンピングカベチョロンというのも。」
まゆ子「・・なるほど。遊撃用に小惑星帯に潜伏するという戦法もありか。えーと、カベチョロンベースで腹部に居住設備付き、脚も後部に増設してちゃんと歩行可能。頭部に工作用ユニットを接続して資源開発する。てものを考えてみよう。」
釈「名前は何にしましょうか。」
まゆ子「腹が大きいから、ガマドロンというのはどうかな。」

 

「エロゲをつくろう」

まゆ子「ラブコメがやりたい!」

釈「・・・・それは北海道で。」
まゆ子「えろげみたいなラブコメがやりたい!」
釈「ですから北海道にはそれ専用のキャラが控えて」

まゆ子「てなわけでましなりぃです。エロゲを作ろうが今回のテーマ。」

釈「ま、ネタはこの程度にしておいて、エロゲですか。でも女の子がエロゲしてもおもしろいものでしょうか?」
まゆ子「やってみた! 5分と保たなかった。エロとかいう以前にこのシステムはダメだ、うっとうしすぎてついていけない。」

釈「アレってテキストをえんえんと読むだけなんですよね。」
まゆ子「テキスト読んでフラグ立てて、という作業の繰り返しらしい。ま、イリュージョンとかは別だろうけど。」

釈「イリュージョンというのはなんですか。」
まゆ子「エロゲの会社で、裸の女の子が格闘をするとか、おっぱいの大きさを自由に変えられる素敵な3DCGゲームを作ってるとこだ。」
釈「おお、時代はそこまで進んでいるのか。」
まゆ子「この間グラボを6200に換えたから、デモ版を試しにいれてみましたが、あたまいたいですな。」

釈「そういうのではダメなんですか。」
まゆ子「今回はちと話は別。ワールドワイドで通用する、フォーマットとしての新エロゲが必要とされているのです。」

釈「それを、5分と保たない人がつくる?」
まゆ子「ものは考えようで、5分と保たない私がちゃんと満足できる形態のゲームであれば、世の中のすべての人がゲームに適合出来るのです。」
釈「ものは言い様だなあ。して?」

まゆ子「とりあえず、大体分かった事がある。FATEとかいうエロゲが今人気なのだが、これは完成する前に既に人気沸騰して今頂点。アニメも出来るそうだから、もうしばらくは残るけれど、まこれからは下り坂ですかね。」
釈「出来る前に、人気というのは、変ですね。つまり本編は人気に必要無い。」

まゆ子「ぶっちゃけそういう事になる。これは今始まった話ではなく、前にはセンチメンタルグラフィティというセガサタンのゲームでありましたが、設定画集自体がゲームソフトで大人気ブレイク、皆が待ち望む中で大々的に発売、その本編の出来のあまりの酷さに皆死亡、という画期的なゲームでした。これが萌えビジネスというものです。」
釈「つまり、キャラしか必要じゃない? なるほど。本編なんか作る必要は無いんだ。なるほど、べんきょうになる。」

まゆ子「であれば、本編作らなきゃいいじゃない、という事になるのだが、さすがにそれは許されない。つまり、いつか完成する物語として、その先行消費が行われているのです。完成するという期待がなければそれはただのイラスト集やテキストでしかない。」

釈「つまり、究極のエロゲとは、その期待をいつまででも持続してキャラクターの消費を永続させるもの、ということですか。」
まゆ子「ミッキマウスとかガンダムはその好例です。完璧なガンダムは何時まで経っても現われないのです。しかし、過去の作品に溺れているわけでもない。過去の作品から、次のガンダムが生まれる事が期待されているからこそ、真のガンダムがあり得ると思うからこそ、ここまで人気が続くのですね。過去のガンダムだけが持てはやされているようですが、そうではない。」
釈「でも、昔のガンダムのMSの人形ばかりが売れていますよ。」
まゆ子「つまり、真のガンダムとは、ほんとに人が乗れるガンダムの事を意味し、テレビのガンダムはその販促バージョンに過ぎない、と考えるといい。本物のガンダムが製品として実用されるようになるまでは、ガンダム人気は続く、ということだよ。」

釈「ああ、乗りたいのですね。それは確かに、良い商売だ。」

まゆ子「てことは、エロゲにおいてその形態を採用すると、ほんとにエッチ出来る女の子の出現を示唆するエロゲこそ、究極のエロゲということになる。しかしながら、エロゲを畑に蒔いて女の子が生えて来るわけもなし。そこで、メイドロボというものに人気が集まるわけです。」
釈「つまり、真のメイドロボの出現を促すリアルな物語こそが、真のエロゲ。」

まゆ子「とはいうものの、ではメイドロボものだけであればいいかというと、そうもいかない。やっぱ生身の女の子の方がいいという人も多い。そこでコスプレブーム、メイド喫茶ブームになる。」
釈「雛形としての、エロゲ。なるほど。しかし、それではワールドワイドのビジネスとしては、弱いですね。」
まゆ子「そのとおりだ! 真のエロゲには、それが或る種のステイタスを生み出すという機能が要求される。自己実現の手段として、エロゲ製作というものが捉えられねばならない。つまり、個人の才能に帰する所が絶対に必要だ。そこで、人形ものの隆盛という事になる。」
釈「芸術作品としての、人形製作。そこにエロゲテイストを加える事で、なんやら有り難みのある哲学的なものが発生する。しかし、特殊過ぎる。」

まゆ子「やはり人だ。生身の女の子だ。そして本編は必要無い。永久未完の実体を目指す、限りなく現実から遊離したアプローチ。これよ。」

釈「しかし、それでも、男女関係のシミュレーションではダメなんですよね。」
まゆ子「そのアプローチは常に行われているが、すべて身を結んでいない。根本が間違っているのだ。アイドル、偶像としての女の子、卑俗化した女神、あるいは母のような姉のような、そういうアーキタイプに直結する存在は決して現実化しない。現実化しないものはシミュレーションの必要が無い。では究極の恋愛は偶像として機能するか? それには個人の才能や運が大き過ぎる。選ばれた者でなければあり得ない。エロゲの消費者にはそんな事が出来るわけがない。」

釈「うーむ。だんだんエロゲが凄いものに見えて来た。つまり、真のエロゲというものを実現できないからこそ、現在のテキストだらけのエロゲが隆盛しているというわけです。」
まゆ子「わたしが読めない原因もそこにある。どうでもいい物語は読みたくないのだ。読んで為になるエロゲ、というのはあり得ないけれど、その予感があるエロゲというのは可能で、しかも予感だけあれば成り立つ、そういうことです。」

釈「では、最終的な消費過程、エロゲのプレイは無視していいのでしょうか。」
まゆ子「それは、或る種の人間は無視してもいい。つまり、ゲームを買ってもやらない人間、最後までクリアしない人間は多数居る。P2Pで不法に無断で落して来ても、インストールするとHDDが汚れるからと遊ばない人は、なにを目的にダウンロードしているのか? だが、一方でそれでもクリアする困った人もちゃんと居るのだ。」
釈「クリアする人の評価によって、そのゲームの価値が決まるというわけですね。その最終過程に到る前までに、消費し尽くし売り上げてしまうことこそ、勝ち組エロゲメーカー。」

まゆ子「無論、ほんとに出来のよいゲームもあり得るし、続編が作られて更に盛り上がるという、正常な過程を辿るものもある。DOAなんかそうだね。エロゲじゃないけど、てあれはエロゲだよね。」
釈「最終評価過程で良い評判を取る事を可能とし、それでいてそこに到る段階でも売り上げを得ることが、究極のエロゲ。そして最終評価つまりエロゲプレイの内容を万人が楽しめる形態に作り上げるのが今回の目的。
 鍵はなんです?」

まゆ子「マンガか小説、というのがこれまでのエロゲの雛形だ。そして、結局はエロゲはエロに至らねばならない。これは最終点は決まっていて、ビジュアルによるセックスシーンの描写。動いてインタラクティブで、とフォーマットは決まっている。動かないで字だけで済ますものも多いけどね。
 逆に最初からセックスシーンのみで構成されるというゲームもあるが、そいうのは、キャラを別に消費させるというビジネスは成り立たないらしい。」

釈「エロシーンは不可避、しかし、PS2とかでエロシーン無しのエロゲも売ってますよね。あれはどうなんです。その分析から外れますよ。」
まゆ子「いや、それでいいんだ。つまりエロでさえ最終的には必要ではない。エロに到るという予感があればこそ、それはエロゲとして成立する。PCでの18禁バージョンが存在するという不可思議な安心感が、それら非エロのエロゲの存在を保証する。」

 

釈「(・・・・・。)あー、そろそろ、なにか結論らしきものを出してもらいたいな、とじゅえる先輩が言ってます。」

まゆ子「ここで歴史的にエンターテイメントメディアを考察してみると、小説→映画→ゲームとなるわけだけど、これはそれぞれ情報→体験→期待、というキーワードで成り立っている事が分かる。
 小説は本来真実の記録を読むべきものを、虚偽の情報を読むことで楽しむ。架空の体験の記録という情報を楽しむものだ。しかしながら、映画は体験そのものだ。そもそもが見世物として始まった映画は、それ自体が一つの体験であり、映像と音声により文字に依るものよりもはるかに大きな情報を提供する。そこで映画は虚偽の体験、疑似体験としての映像を娯楽として提供するようになった。

 そしてゲームだ。映画よりも体験という意味合いでははるかに自由度は上、インタラクティブ性こそがゲームの神髄であり、映画が提供する疑似体験を超える仮想体験を得る事を可能とした。しかしながら、テレビゲームは仮想体験を提供するものでありながら、その原動力は仮想体験そのものではない。実は、それが仮想であり虚偽のものであることを誰もが知っていて遊んでいる。つまりは、これはフェイクに過ぎないが、それでもそこになにかがあると考えるからこそ、ゲームは売れたわけだよ。

 何かが起きるという期待、それはここ20年はハードウエア的進歩による可能性の追求の極限へ到る、という期待であった。しかしながら、その進歩が相当高いレベルにまで到達した現在、ハードウエア的進歩はもはや万人の期待では無くなっている。メディアの進歩に対する期待から消費者が解放された段階にある、と言い換えた方がよいだろう。ここからがゲームというメディアの真の姿を構築するべきなのだ。それが虚偽の期待を娯楽に提供するビジネス、だね。」

釈「具体的に、ゲーマーにどういう期待を与えるべきなのでしょう。」
まゆ子「エロゲは、早い話が製作者がプレイヤーの心理を操作する事で成り立っている。通常のゲームはプレイヤーがコンピュータを操作して、ゲームを制御するものだけど、逆。日本人がRPGを好きなのは、そこんとこが性に合っているのだね。心理操作される事に快感を求める、しかも自身は自分が操作していると理解する、というか誤解する、そいうシステムだね。」
釈「よりよく心理誘導される期待、ですか。でもなんか、能動的ではありませんね。」
まゆ子「欧米人がエロゲにぴんとこないのは、そこらへんに原因があるのだろうね。つまり、能動的なエロゲが出来れば、それはブレイクする。」

釈「エロゲの女の子は支配されセックスされる為にある、コントロール可能なもの、として定義されているでしょ。それは、なにか、腸捻転してますね。」
まゆ子「しかし、それは一種のフラグ立てゲーム、あるいは条件を満たして行くパズルゲームに過ぎない。エロというご褒美を目当てに、パズルを解いて行く、それだけだよ。しかもなにをしてよいのか分からないパズルだ。時系列に沿って順に提示される選択肢をいい感じにスイッチしていくパズルゲームで、だからこそ攻略本というのがある。」
釈「ふむ。」

まゆ子「ゲームというものはそういうのじゃない。操作系は開示されていなければならない。それをすればどうなるか、分かっているべきなのだよ。対象である女の子にどうなるか分かっている操作をしていく。そして女の子は自分の思う通りに動いて行く、にも関らず、ゲーム内の状況がそれを妨害してうまく動けない、というのが正しい在り方だね。」
釈「ふむ。王道ですね。」
まゆ子「王道だけれど、エロゲではそうじゃない。DOAはそれに最も近いゲームだけど、まああれは一応エロゲではないからね。」

釈「エロゲは一応、現実を模倣したものですから、先が分からないのは当然だと思いますけど、・・・あ、そうか、先が分かるというのが期待ですね。」
まゆ子「エロゲ長者は経験によってシナリオの展開を読んで先が分かるわけだけど、展開をさりげなく示唆しておいて、プレイヤーが自分だけは分かっている、という風に誤解させるのがベストです。」
釈「全知性の獲得による全能性の実現、の仮想体験ですか。しかし当然その期待は裏切られるわけです。」
まゆ子「そりゃそうだ、予想外のものが出て来るからこそエンタは成り立つ。操作不能なものを、操作可能なものでクリアする、これがゲームだ。

 だがここで視点を換えよう。どうすれば、気持ちよくエロゲが作れるか?」

釈「プレイヤーに提供すべきものは、一応目処がついた、というわけですね。・・そうですね、つまりは従来からのエロゲの形態であり、実に親切かつバカっぽく超簡単に正解を提示している、ように見せかけて、クリア困難な状況に叩き込む。これが真のエロゲであるべきなのです。作る方はめんどくさいですね、やっぱ。」

まゆ子「そこだ。エロゲは基本的には、簡単にできている。早い話が作りたいだけの奴が安っぽく作っているわけでエロ絵で誤魔化しているだけで、普通のゲームと同様のシビアなゲーム性というのに直面するのを避けている。シナリオもまた書きやすいように書いている。映画や小説には参入出来ないけれどエロゲならなんとかなると考える者が、映画や小説を念頭において書いている。そう理解して下さい。無論真の意味でそれができるのは或る程度達者でないといけない。下手くそが作ると、なんやらわからない話でただエロをしただけ、ということになるのね。」

釈「ゲーム、エロゲとしてのフォーマットが未だ無い、と言いたいのですね。真のエロゲ作家は未だ存在しない。」
まゆ子「エロゲは現在、プレイヤーを自分が考える流れに引っ張り込みたいシナリオライターの欲求のままに成り立っているが、そういう考え方は放棄してもらわないといけない。車ゲームであれば、自車の挙動の軽快さ自由さ物理的正しさを追求すべきであり、さらにゲームバランスをシビアに調整しなければならない。それと同等の作業をエロゲも要求する。ま、他人を自分の思う侭に操りたい、自分の世界に引っ張り込みたいという人間には、いやな仕事には違いない。」

釈「しかし、けっきょくエロゲは会話によって成り立つべきでしょ。エロゲなんだから人間の女の子と会話しなければ始まらない。会話だけで操作される女の子、というのはかなり面倒ですよ。」
まゆ子「そうでもないだろ。車ゲーは後ろ向きに走ると、ぶつかってゲームにならない。ゲーム制作者は後ろ向きに走る者に対してゲームが楽しくあるようには保証しない。女の子を会話で操作するとして、女の子の望まない事をさせる会話をすると、途端にゲームが頓挫するシステムであってもおかしくはない。というか、そういうことすると女の子に見捨てられるのが現実だ。」
釈「そりゃそうですけど、」
まゆ子「また同時に、フリーの会話が可能であれば、会話の選択肢というのが膨大になる。使われなかった選択肢というものが本筋の倍三倍いやもっと必要になる。誰からも鑑賞されないテキストが絶対必要というのは、クリエーターとして面白くないことこの上無い。

 てなわけでね、テキストを全て読ませるというのがまずシナリオライターの使命となる。また、すべてを読ませるからには一本道シナリオがふさわしいし、ゆえに最小のテキスト量で作品が完成するというメリットもある。」
釈「しかし、一本道シナリオで、キャラの女の子を自由にコントロールするというのは、矛盾しますよね。一本道シナリオは不自由なものです。」

まゆ子「そうなんだが、そうじゃない。女の子がしゃべり、それに対してプレイヤーが応答するという現在のシステムでは、それはダメに決まっている。しかし本当の会話はそういう風にできているだろうか?」
釈「え? いや、なるほど。確かに本物の会話はそうじゃないですね、思いつきを互いに喋って居て、実は関係無いことをならべているような気もします。決断が必要な会話なんて、・・・無い?」
まゆ子「変でしょ。本当の会話は、エロゲの台詞のようではない。エロゲの会話は基本的に小説の会話、シナリオに沿った理路整然とした会話なんだ。だけど本当の会話はそうじゃない。相手の言葉の中から有益な情報を見つけ出し、また相手の感情を推測して、こちらからも誘導してさらに会話を続ける。そういうプロセスだ。それをエロゲ内で実現する方法が、ちゃんとある。」
釈「あるんですか。」

まゆ子「ある。というか目の前に有る。インターネットでブラウザで、HPとか覗いて行くでしょ。これよ。相手の会話にリンクがある。」

釈「ああ、会話内の単語がキーワードとしてすべてリンクになっているんだ、それは楽だ。テキストをいやでも読んで行きますよ。なるほど、どのキーワードをクリックするかで女の子を操作するんだ。決断をしたと思わない内に、すでに決断が行われている。なるほど、それはPC上で遊ぶのに実に正しいですね。」
まゆ子「だが、プレイヤーはそのシステムに気付くと、後悔する。自分の選択が正しかったかを常に気にするのだよ。誰もが正解を欲する。であれば、正解を見せてやればよい。テキストを読んで行くと、或る時点で他のシーンに移るポイントがある。ここは決断してもらわないといけないけれど、それに到る前には、読んだテキストをバック出来る。ブラウザでリンクをクリックして進んで行ったのが戻れるように、後戻りできるんだ。無論、無制限ではない。既に読んだと言う情報があるからには、次に提示されるテキストは未読の状態でクリックしたものとは異なるべきだ。しかしながら、やり直しが或る程度効くことで自由度は相当に高くなる。しかも先のテキストを読んだ事で次に提示されるべき情報を知っているから、全知性も獲得しているのだ。

で、最終的にはプレイヤーは自分が最適と選んだシーケンシャルな会話群をフラグとして持って、次のシーンに到る、という事になる。」

釈「至れり尽くせりですね、それは。そこまでやらなくちゃいけないんだ。」
まゆ子「だが手間は、現在のエロゲの無意味選択肢よりもむしろ少ない。無駄なテキストが省けるからね。読むべきものを結局は読まされているし、すべてのテキストが読まれる事を期待出来る。クリエーターにとっては十分な環境のはずだよ。」

釈「しかし、それでは、プレイヤーはキャラの女の子に対して、一人称的に没入するというのは無いですね。」
まゆ子「無い。しかし無くてもよい。所詮はディスプレイ上に表示されるただの文字だ。没入するのには相当の集中力が必要で、しかも容易にその体感は剥離してしまう。そうであればむしろ、自分のスタンスは変わらない、女の子は客観的に操作している。そして、女の子も別に特別に自分を好きになってくれるわけでもなく、普通にゲーム内に存在することで、逆にプレイヤーはキャラを良く知るようになるんだ。
 理解出来ないキャラ、あるいは予想と外れたキャラだったというのが一番エロゲには良くないのだね。予想を裏切るのは可だが、予想から外れるのは許されない。であれば、そもそも中途半端にしか分からない、全知性を持っていながらもやっぱりキャラが何考えているかわからない。キャラはキャラで独自に動いている、てのがむしろリアルな臨在性ではないだろうか。」

釈「まゆ子先輩はようするに、普通の格闘ゲーみたいなのが正しいというスタンスなんですね。意のままにできるようでも、やはり操作は難しいての。

 でも、現実においてゲームが実現可能性を持つ、というのは?」
まゆ子「それはまた別の時に話をしよう。まだ、リンクを引いた後どのように処理すればいいか、に問題は残るが、とりあえず、エロゲを作る枠組みは出来た!」

釈「はあ。まあ、たしかに、この話を始めた時には形どころかなにもなかったのですから、ウエブブラウザ形式エロゲの優位性が確認されたのは、まあ成果と言っていいですかね。」
まゆ子「というか、とりあえず、出来るわけだ。エロゲは作れる。」
釈「そうですね、小説を読むような芸の無い形ではないエロゲは作れます。思いつきでこれと同じ形態を取るエロゲはあるかもしれませんが、ここまで論理的に組み上がっているものは無いでしょう。うん。」
まゆ子「というか、これはすでにエロゲを超越して一般性を有している。新しいゲームがあるわけだ。つまり現実においても、これは成果であり、模倣者は応分の利益を得るでしょう。」

釈「たしかに、そいうことも有り得ますか。エロが無くてもウエブ形式ゲームは作れますから。ただのHTMLアドベンチャーでは追っつかないけれど、JAVAでも使えばいいんですかね。」
まゆ子「そういや最近ジャバって聞かないな。どうなってるんだろ。FLASHは大盛況なんだが、変だな。
 それはともかく、要するにエロゲ専用ブラウザを作ればいいわけだ。シナリオとエロ絵と、プログラムは別に出来る。自作エロゲ支援ソフトというのがどっか落ちてるだろうけれど、それの類似品というか真打ですが、を作ればいいわけだ。」

釈「とはいえ、最近のエロゲはビデオやらGIFやらもつかうわけで、3DCGを効果的に使っているものもあるのですよね。「しろつめくさ」なんとかというののデモ版を見たことがありますが、なかなか操作性と演出はがんばってます。」
まゆ子「そうだねえ、ま最初から完璧である必要も無いし、また資金も無いから、研究デモ版くらいは考えて見ますか。HSPなら手間も掛からずに出来るでしょ。・・・・・。」

 

釈「・・・! いま、なに考えてました?」
まゆ子「いや、テキストいじるのならLISPかなあ、とか。」

05/12/21

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