まゆこのましなりぃ その3

2002/10/30

「もびるぺんぎん」
「スターウオーズとかスタートレックとか」
「たいまむしーん!」
「美少女アサシンでゅおは科学的に実現可能か」
「2050年ロボットは少林サッカーを超える」
BACK

 

もびるぺんぎん

明美二号「まゆ子先輩、なんだかロボットが出来たんですって?」

まゆ子「あ、うん。なんだかしらないけどいつの間にか出来ていた。」

明美「どんなのですか。可愛いのですか。」

まゆ子「それがさ、可愛い戦闘用ロボットなんだ。しかも有人、つまりガンダムみたいに人が乗る奴。」

明美「げ! そういうのってあらゆる方面から検討した結果、ダメだって事になったのでは?」

まゆ子「ま、小さいんだけどね。2メートルで500キログラムくらいの。だからパワードスーツの類に比すべきものなんだけど、たぶんどの形のパワードスーツよりも実用性大だ。」

明美「はあ。ただ単に動くというのではなくて、ホントに使えるって意味ですか。」

まゆ子「意味なんだろうねえ。なにせ、冗談で考えてたらホントに使えそうで困ったってんだから。」

明美「やな出来方ですねー。で、どういうのです?」

まゆ子「こんなの。」

明美「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぺんぎんだ・・・・・・・・・・・・・。」

まゆ子「いや、まるっきりペンギンなんだ。というか、ペンギンをモデルに人間が乗るロボットを考えていたら、ほんとにそのままペンギン型ロボットになっちゃったんだ。」

明美「し、しかしペンギンは歩くのが、・・・って絶句しちゃうじゃないですか。」

まゆ子「うん。実物のペンギンは歩くのは苦手だが、ま、それでも何十キロも歩くんだけど、このロボットは歩くのはやめた。」

明美「やめた? あ、まあ、そうですね、無理して歩くのもなんですね。で、車輪が付いてるんですか。」

まゆ子「いやさね、実はロボットが歩くのはちっともメリットにならない、ってのは衆目一致する意見なのだよ。人型ロボットはもちろん多脚式蜘蛛型ロボットも、使いようが無い、ってことになってるのさ。ま、やって出来ないものではないけど、しかし、どう逆立ちしたって戦場で戦闘目的で使うロボットってのはダメなのよ。よわっちくて。」

明美「で、歩くのはやめた、と。はあ、それはまあ妥当と言えば妥当ですが、でもだからといってペンギンってのは。」

まゆ子「その車輪さ、それセグウェイだよ、例のジンジャーさ。つまり、脚の代わりに車輪にして、それでもちゃんと動ける事は保証済みなんだね。そしてペンギン胴体だ。

 ペンギンの胴体てのは見てのとおりにずんぐりむっくりで可愛い。だがそれをロボットとして置き換えてみると、またこのずんぐりむっくりが実に都合がいいんだな。まず容積が大きい。人型ロボットってのは恰好はいいけど容積が小さ過ぎて機械を入れるスペースが無いんだ。大体人型ロボットを考える人はそこを無視して行っちゃうけど、でも歩くのやめるとこういう実に機械を収納するのに都合のいい形状が取れるわけなんだ。当然それは人が乗るスペースの問題でもあるし、また小型化の問題でもある。機械を綺麗にコンパクトに納める事ができたなら、可能な限り小さなロボットを作る事も可能なわけね。

 それに装甲よ。人型ロボットってのは大体装甲は申し訳程度の薄いものだ、と相場は決まってるんだけど、それは形状の複雑さから来るのよね。手足というずんぐりと太いのを許さないパーツもあるし、装甲の重量で重くて歩けなかったりする。でもペンギン型は見てのとおりに単純明快。装甲も極めて効率的合理的に施せるし、車輪だからちゃんと動けるのよ。」

明美「はあ。なるほど。機械とかエンジンとか入るとして考えてみれば、そりゃあ確かにペンギンは都合がいいですね。でも、じゃあ人間の形ってのは無駄なんですか?」

まゆ子「そこよ。車輪が付いているとはいえ、この直立の形状のままで動き回るというのは実によくない。いかに装甲がちゃんと厚く出来てるとはいえ、それでもまだ軽車両よりも薄いんだよ。いや、ペンギン型を採用することにより軽車両レベルにまで装甲厚を確保できたわけなんだけど、でもまだ弱い。」

明美「そうですねえ。確かに直立はだめですねえ。弾が当たってしまいますよ。世間一般の人型ロボット兵器は無頓着ですね。」

まゆ子「これの解決策はすでに開発されている。匍匐前進をするのだ。人型ロボット兵器は匍匐前進をする事で正面投影面積を削減して被弾率を下げる事ができる。まったく理の当然だが、ペンギンは、匍匐前進の名手なんだな、これが。」

明美「え、匍匐前進をペンギンがするんですか? 。。。。。。は! 氷の上をおなかで滑っています。じゃあこのロボットもおなかですべる・・・。」

まゆ子「ソリになるんだよ。原動力はやっぱり車輪。直立で動いている時と同様に車輪で推進する。でも、それは副次的な移動法よ。ソリは、もっと積極的な移動法なのさ。キャタピラも車輪も脚でさえも超える。」

明美「ソリですよ。ソリって普通氷とか雪の上を行くものなんですよ。」

まゆ子「甘いな、甘々だ。あんたね、大阪城の石垣のめちゃくちゃ大きい石を、どうやって運んで来たと思うの?」

明美「え、いきなり大阪城ですか?! それはあ、人足が何百人も掛かって、コロを敷いて、・・・ソリですね。修羅っていうのですけど。」

まゆ子「ソリってのは実はどこでも使えるんだ。キャタピラとか出来る前までは重たいものといえば、船で運んでソリで持ってくんだよ。つまり、ソリの機動エンベローブは車輪キャタピラ脚よりも大きい。」

明美「で、でも、ソリは摩擦が大きくて素早くは動けませんよ。」

まゆ子「素早く動く必要がある所では車輪を使う。問題は車輪で行けない所だよ。そういう所をどうやって移動するか、これが人型ロボットの唯一の存在意義なのさ。で、ソリは、単体ではそんな所は移動できない!」

明美「当たり前ですね。」

まゆ子「でも外からひっぱってもらえば動ける!」

明美「! 引っ張る? 自力で動かないんですか?!」

まゆ子「いや、ウインチ積んでるから自力で動けるんだけど。つまり、大砲でアンカーを撃ち出して地面や障害物に引っかけて、ワイヤーをウインチで引っ張ることにより、キャタピラでさえ行けないような場所にでも、ソリは入って行けるんだ。極端な事をいえば、ワイヤーを使えばこのペンギン型ロボットはビルの屋上にだって登れる。」

明美「うはあ。なんというか、ロボットじゃないですね、ソリですよ。でも、まあ、ロボット以外の何者にも見えませんしね。」

まゆ子「そしてややこしい障害物を乗り越えるためには従来のソリの形よりもペンギンの形の方が何倍も優れている。故にペンギン型を採用したってわけなのさ。」

明美「つまり、歩くのを放棄してしまったら、却って歩くよりもはるかに移動能力が向上した、ってわけですか。アシモ浮かばれませんね。」

まゆ子「致し方無い。このペンギン型ロボットはともかく作ってみる事、実戦に参加する事を念頭に置いて作られている。となると、何よりもまず実用が優先する。で、ソリとワイヤのコンビネーションにはどうあがいたって脚は勝てないんだ。、キャタピラだって勝てないんだから。」

明美「で、このマシンは強いんですか?」

まゆ子「あんまり。」

明美「あんまり?」

まゆ子「戦車の方が強いよ。第一、このていどの大きさじゃ12.7ミリでさえ防げるかどうか。」

明美「弱いんですか。じゃあ意味が無いじゃないですか。」

まゆ子「それじゃあ人間の歩兵はそんなに強いのか、って事になる。」

明美「あ、そうか。人間の方がよっぽど弱いですね。どうして人間の兵隊居るんでしょ?」

まゆ子「そりゃあ、人間がいなきゃてっぽう撃てないからでしょ。ようするに 人間は最低単位の戦闘ユニットなわけ。で、それをどうやって戦場に持っていくか、って問題であって、一番お手軽な生身で持っていくっての、数さえあればちゃんと勝てるからそのまま持って来ているわけよ。物陰やあなぼこに隠れてたら弾は当たらないんだから。」

明美「そうですねえ、戦車だって弾が当たれば壊れるんですから。じゃあこのペンギンは弾が当たらない機械なんですか。」

まゆ子「まね。伏せれば人間とさほど大きさが変わらないという事は、人間と同程度に弾が当たらないって事だからね。でも実は別の問題がある。」

明美「はあ。」

まゆ子「これまで弾が当たらない、って言って来たのは実はウソ。弾は当たるんだよ。でも、確率的に言って、それほどたかくないから、人間の生身の兵隊はやってられる。これがさ、普通10人で行って1人が死ぬか怪我するか、って確率ならまあ戦争しようか、って気にもなるさ。ところがね、これが10人出かけて確実に2人死ぬ、っていうのなら、こりゃあちょっと行けないんだ。」

明美「あ、せんそうってそんな死ぬ確率って低いんですか。」

まゆ子「三割死んだら部隊は壊滅、って言われてるね。戦闘を続行する能力が無くなるから撤退するしかない。ま、退路があればの話だけど。で、一般の歩兵はそういう低い確率でしか弾が当たらない、という希望的観測に基づいて戦争に来ているんだけど、これが、行けば確実に死ぬって観測だとダメなわけよ。」

明美「つまり、これまでと確率が変わって来るってわけですね。」

まゆ子「センサーとロボット、自動制御機械、コンピュータに人工知能と、エレクトロニクスの産物がどんどん一般歩兵の戦場に入ってきてる。たとえばよ、これまで草むらに身を隠して忍んでいけば弾に当たらなかったのが、熱赤外線で体温を検知されて居所ばればれになって、それを自動制御されたライフル銃で狙われたとしたら、逃げようがない。自動制御だからすべてのライフルが望遠鏡装備の狙撃用だと考えてもいいわ。人間が狙ってもなかなか当たらない距離から、確実にクリティカルヒットをばしばし当てられたら、御陀仏。」

明美「う、確率が跳ね上がるわけですね。じゃあこっちもロボットを使うしかない、という事になります。」

まゆ子「それしか手は無いね。でもやっぱり人間は必要なのよ。ロボットだけでは人殺ししかできない。戦争ってのはきょくたんな話、陣取り合戦だから、人間が出向いて分捕った領域を支配しなきゃいけない。これが歩兵の存在意義ってやつね。戦車だけでは、戦闘機だけでは戦争はできない。最後ににんげんをその領域に駐留させて支配する。これが戦争よ。

 というわけで、人間を戦場に投入する為に、確実に防護する手段が必要。通常は装甲兵員輸送車が使われるが、あれは、行くだけ行ったら生身の人間をそのまま外に出すだけだからね。人間と同等の行動力を持ち、人間以上の防御力を持つ、更に現代以降では、人間を超えるセンサー、情報処理能力、警戒能力を持った戦闘マシンが必要なわけ。

 この情報処理・高度警戒能力を戦場に、歩兵に随伴させる為にこのペンギンが役に立つわけね。」

明美「じゃあ直接的な戦闘力はあんまり必要無いって事ですか。」

まゆ子「まるっきり無いのも困るけど、まあそう。間違っても歩兵の楯になるようには出来てない。戦闘力ってのなら、後方数十キロから無線でミサイルでも大砲でも撃ってもらえばいいさ。詳しい照準や弾着点のレポートなんかをペンギンが送ればいい。無人観測機って手もあるけど、人間が実際にその場に行く、というのとはえらい違いだからね。

 ついでに言うと生物化学兵器が使用されるような環境では、重たい装備を装着しなきゃいけない歩兵に比べれば実に楽だね。長時間の警戒が可能だわ。」

明美「なるほど。そう言われてみると、生身の歩兵の限界は近いってことですか。でもペンギンですからねえ。」

まゆ子「可愛いでしょ。これが敵に精神的ダメージを与えるのさ。かわいらしいペンギン型ロボットに攻撃されれば、ついうっかり降参してみようという気にもなる。」

明美「ならないならない。

 でも、まゆ子さん。そういうのって普通のジープとかじゃ出来ないんですか?」

まゆ子「JEEP! ジープなんて今時よっぽど田舎の軍隊じゃないと使ってないよー。日本の自衛隊はパジェロの軍用バージョンを使ってるんだ。」

明美「あ、パジェロですか。ダーツで当たる奴ですよね。そうか、ジープって時代遅れだったんだ。そりゃあそうか、60年も前の車なんだからなー。」

まゆ子「で、車で出来ないか、と言われれば、出来ると答えるけど、では何故今、そうなっていないのか、というのが答えだね。車は歩兵ほどには小回りが効かない。特に最近のは居住性生存性を高める為にごつくなってるから、そうね、ちょっとしたトラック並みの車長車幅があるわ。でかいのよ。」

明美「たとえば軽自動車をですね、装甲して軍用にするとか、できないですか?」

まゆ子「う、出来るけど、巨大チョロQみたいな可愛い装甲車が出来る。」

明美「む、チョロQですか。なんかヤバそう。」

まゆ子「いや、チョロQでいいはずなのに、リモコン銃塔を付ければそういう風に使えるのに、でも12.7ミリを防ぐのも辛いのに兵隊さんの楯になれと言われるでしょう。なまじ人間の兵隊と随伴出来るが故にそんな役割を押しつけられてしまうのね。」

明美「ペンギンは違うんですか?」

まゆ子「ペンギンは敵に襲われたら伏せるもん。そいうのを楯にはできないわ。」

明美「・・・・情けなさが、わが身を救うんですね。」

 

2002/10/06

 

スターウオーズとかスタートレックとか

明美二号「スターウオーズ見て来ましたー! なんというか、ヨーダって強かったんですね! ストームトルーパーがいいものだったのにはびっくりしました。」

まゆ子「ああ、エピソード2ね、おもしろかった?」

明美「ぼちぼちです。ちょっとタイタニックのぱくりっぽいかなあ、って思わないでもなかったです。」

まゆ子「タイタニック? まあ、その程度の陳腐な物語ってことなのかな?」

明美「で、ですね、あのスターウオーズみたいな宇宙人いっぱいって宇宙は、有り得るんでしょうか?」

まゆ子「というのが今日のテーマってわけね。」

明美「たまには私からネタフリしてもいいでしょ?」

まゆ子「まね。

 

  で、宇宙人いっぱいの宇宙てわけだね。結論からいうと、無い。」

明美「無い?」

まゆ子「地球に住んでる人だって、まったく行き来の出来ない遠隔地に住んでいる人同士は、まったく別の病原菌を持っていて、その病原菌に始終さらされて免疫を持っているんだけど、それがまったく無い地域にふいっと行ってしまうと現地の人の間にその病原菌が大流行する。また自分が未知の病原菌に冒されてしまう。同じ地球上の同じ種族の人間の間でさえこういう事がある。まして、まったく違う宇宙人同士であったなら。」

明美「あーーーーーー。あ、でも科学の進歩でまったく病原菌を殺してしまって無菌状態で接触できるとしたら。」

まゆ子「生物の身体には、まったく当たり前の正常な組織器官として、他の星の生物に対して破壊的作用を持つものが、当然あるでしょうね。というか、変な臭いがして、それが人間には毒ガスだった、とか、毒液を撒き散らして歩いてる生物だった、とかもあるでしょ。」

明美「うあー。ありそうですね。じゃあ、全くの隔離状態で、たとえば宇宙服を着たままで接触ってのはどうでしょう。身体の線の出るかっこいい宇宙服ってのはありでしょ?」

まゆ子「ま、ね。でもどの程度の気密を確保しているかは問題だね。例えば腐食性の大気中に住んでいる生物にとってはなんともない排気ガスでも、別の宇宙人の宇宙服には致命的ダメージを与えるかもしれない。って、地球の大気中の酸素ってのは、まさにそういった超危険物なんだけど。」

明美「うえ、じゃあ、まったく全部の宇宙人に対しての安全を確保しなければ、接触は出来ないって事ですか。」

まゆ子「まだあるよ。世の中にはカーボンベースの宇宙人だけでなく、機械生命体やシリコニイも住んでるかもしれない。彼らにとって、炭素生命体の宇宙服や宇宙船は、まったく無防備のむき出しエスカルゴみたいなものかもしれない。つい食指が動いてぱくっと食べてしまうかも。」

明美「わ、そういえば、宇宙人同士が食べ合うって可能性も有りましたね。ひえー、それは問題だ。」

まゆ子「あるものにとっては単なる資源に過ぎないものが、実は知的生命体そのものであった、って事があるかもしれない。

 つまり、こういっちゃなんだけど、宇宙人なんかとは関り合いになるな! ってのが最良の方法だね。

というか、無理して交流して、何を得るのだ?」

明美「それはそれぞれの国の特産品とか名産を交換するとか。」

まゆ子「普通、宇宙空間を、恒星間飛行を自由に行う事が出来る生命体は、自分達自身の領域にあるもので、閉鎖的な経済空間を作ってるでしょ。余所の恒星系に依存する必要は全くないよ。」

明美「じゃ、じゃあ、科学技術とかはどうでしょう。宇宙のどっかには不老不死とかワープとかの技術を持っている生命体がいるんじゃないでしょうか。」

まゆ子「普通に考えたら、自分とこの技術は余所にはやりたくないけどね。自分達の科学技術を暴露する事は安全保障上非常にマイナスな行為と判断するでしょう。でもまあ、とても気のいい宇宙人がいるかもしれない。」

明美「そうです。気のいい宇宙人が確かに存在するのです。」

まゆ子「で、地球人はその、気のいい宇宙人なのかい?」

明美「えとー、えとー、ぜったい! そんな事はありません!!」

まゆ子「いい宇宙人とお友達になる事はあきらめよう。」

明美「そうですね。しかたありません。」

 

まゆ子「無いのなら、作ってしまおうほととぎす、ってコトワザがある。

 人類の科学技術を駆使して、自分達でエイリアンを作ってしまうのだよ。たとえば耳がうさぎのようなうちゅうじんとか、カエルがおおきくなった宇宙人とか、背が3mもあるまっしろいジャミラ星人とかを、遺伝子操作で作って適当な恒星系にばらまくのだ。」

明美「・・・・・・自作自演ですか・・・・・・・。」

まゆ子「これなら安全は確保される。何十世代を経ると、どれも自分達で勝手に生きてくようになるでしょ。で、遺伝的特性がしっかり把握されている、つまり設計図を持っている限りにおいて、病原体とかの問題はすべて解決できるってわけね。」

明美「なんか、スターウオーズとか、スタートレックとかの世界観と180度反するようなやり方ですね。最初から結果がわかりきっているゲームをしているみたいな。」

まゆ子「でも背に腹は換えられない。安全が最優先だ。第一、外観スタイルともに、まさしく望まれたとおりのものを実現するのだから、文句を言われるような筋合いじゃないわ。」

明美「でも、でも、それでは何の得にもならないような。」

まゆ子「いや、そうでもないよ。

 つまり、文化というのは一種の閉鎖性から生まれるんだ。例えば耳が大きいウサギ星人なら、耳の特性が人間よりも優れているでしょ。そこで生まれる文化は人類のものよりも音に対する感受性がばつぐんに優れている、独自のものになる。カエル星人なら、水と陸と同時に住むような楽しいのができる。とても人間の想像力で補えるようなものじゃない。そして、それがどういうものであるか、人間にその価値が理解出来る程度の隔絶差しか存在しない。つまりまったくの宇宙人の文化なら理解のしようもないが、作られた宇宙人の文化なら生身の人類でも理解出来る余地が大きいのだね。

 人類自身がこのまま進んでいっても、さほど大きな文化的展開は出来ないでしょう。地球は狭くなり、人類がみな同じ情報で暮らしていくようになるんだから。だとすれば、人類社会の多様性と展開性を確保する為に、みずから隔絶した異種族を作り出すのは、まったく正当な手法だわ。」

明美「はあ、じゃあ、それは、例えば火星くらいでもいいんでしょうか。太陽系内部でもそれできますよね。」

まゆ子「うん。だけど。電波が届くような距離はちと嫌かな。最低でも1光年は離れていて欲しいよ。」

 

明美「でも、まったく違う由来の、本当の意味での宇宙人ともお友達になりたいです。」

まゆ子「だから、さ。何の為に人類のバリエーションを作ると思ってるの。本当の宇宙人と出くわして、でコミュニケーションを取るとして、人類一種類のメンタリティと、いろんなバリエーションの人類と、どっちが選択肢が多いと思う?」

明美「あ。そうか、カエル星人に似たタイプの宇宙人と出くわしたら、カエル星人に交渉を頼めばいいんだ。」

まゆ子「そして、相手の宇宙人にまったくダメージを与えない、完全無害なバリエーションの新宇宙人を作って、完全な接触を計るのだね。もちろんその新宇宙人は二度と地球側とは接触しない。でも、地球人類は確実に相手と交流できるのよ。あるいは、相手の宇宙人に似たタイプの人類ベースの新宇宙人を作って地球人側に住ませる事にする。」

明美「なるほど。なるほど、スターウオーズみたいな世界は、ある意味意図的に作られていた方が、多様性が大きくなるわけですね。それは楽しい。」

 

まゆ子「とはいえ、直接接触する方法を模索しないでもない。こういう間接的接触法は、楽しいし役に立つけど、過渡的なものだ。人類の科学技術の進歩を考えると、さらに先に進まなければならない。」

明美「はあ。」

まゆ子「人間は変革する。より強くより賢く。機械の力を借りて、機械を生体に取りこんで。で、徹底的に強化した超人類となって、まったく未知の生命体と接触するのよ。相手に冒されず、相手を冒さず、完璧な絶縁性を備えた超生命体として異星人の星に降り立つわけ。

 ようするにウルトラマンよ。」

明美「ウルトラマンってのは、そういうご大層なものだったんですか。」

まゆ子「なんたって光で出来てるからね。あれ。知能もコンピュータ何百万台分の能力を持つというし、パワーも凄まじくて、恒星間を超光速で移動できる。全くもって、宇宙全体の生命体にとって、進化の理想といえる存在よ。」

明美「宇宙船もいらないんですね。」

まゆ子「宇宙船の能力も取り込んでいる、と言えるかな。それに、現地の人間の姿に化けて活動する事もできる。異種生命体の接触にこれ以上なんの機能を必要とするわけ?」

明美「わかりました。つまり、ウルトラマンは意図的に作られたって事ですね。科学技術の粋を集めて、そのウルトラマン人類は自らの身体をウルトラマンに変革したんですね。」

まゆ子「当然、ウルトラマンと同等の交渉を行う者は、ウルトラマンと同じ能力を必要とする。つまり、真の意味での宇宙生命体の交流とは、ウルトラマンレベルにまで進化しないとありえない、ってわけだ。」

明美「うむー、ようするに、スターウオーズとかスタートレックは、未だ甘し、甘し、ってわけですね。」

まゆ子「ま、もうちょっといえば、ウルトラマンみたいに光で構成されているようなからだでなければ、ワープ航法とかの超光速移動に耐えられないのかもしれないけどね。」

明美「でも、ホントにそんな、光で作った身体なんて出来るんですか?」

まゆ子「物質波レーザーてのがある。ようするに、物質の持つ量子的な波を記録して、別の原子を用意して、また元の物体として構成しなおすという技術で、光のホログラフィを物質でやろうってもんなのよ。ま、はじまったばっかでなんの成果も無いんだけど。

 で、これは最終的には元とまったく同じ物質を作り出す事が目的だけど、ホログラフィと同様に拡大して、より大きな物質を作り出す、って事も当然可能です。ついでにいえば、元の物質ってのが存在せず、コンピュータで完全に計算されて特殊な機能をもった架空の物質を空間に作り出す、ってのも可能になるわけね。」

明美「な、なるほど。ウルトラマンもまるきりウソではないということですね。」

まゆ子「出来るのは一万年後。」

明美「いちまんねん!」

まゆ子「早くて半万年。」

明美「ああ、そうか、じゃあ、スターウオーズ的宇宙をとりあえす先に作る余裕はあるわけですね。」

まゆ子「そのくらいが地道でよろしい。」

 

2002/09/06

 

たいまむしーん!

まゆ子「今日はたいむましんの話をしましょう。」

明美二号「あ、映画で有りますね、「タイムマシン」。ジュールベルヌですか。SFの始祖のひとですよね。」

まゆ子「ほとんどすべてのSFのジャンルの発明者ですね。たいむましんももちろんそう。時間を遡るってアイデアはすべての人間の想像力を喚起するすさまじい威力だね。うらやましい。」

明美「でも、相対性理論によると時間を逆転するのは無理なんでしょ。」

まゆ子「まあね。未来に行くのはいいけれど、過去はダメ。ってのがとおり相場だね。」

明美「まさか、過去にいくスゴイアイデアがあるとか。」

まゆ子「何故に過去にいかにゃならんのだ。」

明美「いや、行きたいから。」

まゆ子「行ってどうするの。」

明美「いや、行くといろんな事があるでしょ。昔の事とか現代じゃ分からない事が分かったり、今はもう無くなったものが手に入ったり、過去を変えると未来も変わるとか、これは無いんでしたっけ。」

まゆ子「で、そのいろいろとされちゃった過去は、私たちの過去なのかい?」

明美「え、えーとお、違うかもしれません。未来人が来たという歴史は無いですから、でも、もっと未来の人がそういうのを全部修正してまわった結果だったりして、そうなってるとか。」

まゆ子「その修正の一番簡単なやり方は、最初のたいむましんをぶっ壊す事だ。つまり、最初から時間旅行なんかが無かった歴史に変更することで、歴史が正しい姿にもどるわけね。」

明美「あ、う、それはそうです。」

まゆ子「じゃあなんの影響も無いところをいじるのは構わないか、というと、それが本当に関係ないかはだれにも分からない。やってみなければ未来における影響なんて計り知れようがない。」

明美「大昔に石ころ一個拾って来ただけではるか遠くの未来がむちゃくちゃ変わっていた、っていうSFがどこかありましたね。」

まゆ子「逆に考えると、たいむましんの意義と言うものはそういう理不尽な操作を施して未来がどう変わるかをシミュレートするところにあるわけだ。つまり、過去を改変するとどうなるか、を知る為の道具がたいむましんというわけね。

 つまり必要なのは情報だ。過去を改変する事で未来の人間が利益を得るとしても、万人が等しく利益を得るわけじゃないし、利益とは局在するところにつまり偏って存在するから意味があるわけで、平等の利得というものは利益という概念をむしばむ事はなはだしいわけよ。」

明美「だからこそたいむましんによる過去の改変はゆるされない訳ですね。利益を得ようとする人は一人ではないという事で。政府機関、とかいうのもまったく公平性は当てにならないですから。」

 

まゆ子「という訳だがそれではおはなしにならない。過去の事象を操作するのは諦めて、せめて過去の事が現代に在るように分かるくらいに修正しよう。」

明美「そうですねえ、結局は知識情報か・・。」

まゆ子「でも実際の所、昔の事なんか分かってもほんとに得なのかな?」

明美「へ? や、それは、・・・・そういえばそんなもん分かっても得という事は無いですね・・・・。考古学者が喜ぶくらいで。一般人には確かに縁が無い話です。」

まゆ子「いやむしろ、昔の事なんか分からない方が考古学者歴史学者は飯の種が尽きなくていい。もしタイムマシンなんて出来たとしたら、学者でなくてジャーナリストの担当になるわけだし、昔にあった数々の理不尽な行為に対して無力感を味あわなくてもいい。昔を今の規範で裁く事はできないからね。」

明美「確かに、分かればいいというものではないかもしれません。なんというか、現実の隣の外国にあるかのように、過去の歴史を知る事が出来れば、ものすごく憂鬱になるでしょうね。」

まゆ子「じゃあそもそも何故過去の事が知りたいかというと、それを知る事で、これからの未来が変わるからなのよ。学者だってね、歴史学者や考古学者、古生物学者だって、未来の為に研究を重ねているんだ。別に倉庫にがらくたをため込むのが目的じゃない。過去を知ることによって、これから先の人間世界にある影響を与え改変する事に、研究の意義があるわけね。誰もなんの役にも立たないことなんかやりたくはないわよ。」

明美「それはそうです。」

まゆ子「結局はたいむましんというものは、現世においての利益を得る為の一手段に過ぎないってわけだから、そんなもの無くてもいいわ。ただ、いじってみればどうなるか、これはちょっと面白いから昔の世界をコンピュータでシミュレートするというのが実現できるといい。

 

 整理すると、たいむましんというものは未来には確実に行ける。冷凍睡眠でもしとけばいいんだからね。そしてたいむましんは結局情報を得る事に意義がある、ということだ。で、わたしたちは過去の情報と未来の情報、どちらが必要なのかしらね。」

明美「現在利益を得ようと思えば、圧倒的に未来の情報の方が価値が高いです。」

まゆ子「つまりたいむましんというのは未来の情報を知る事に集中するべきなの。もちろん100パーセントの未来予測は不可能だわ。でも、ある特定の限られた事象であれば、つまりお天気とかならなんとかなりそう。」

明美「天気予報はなんかすごいコンピュータがあるそうですね。でもお天気だけってわけじゃないですよね。株とかも予測するコンピュータとかあるんですよね。」

まゆ子「個別の銘柄というのはねー、そりゃ無理だよ。だから株を何十種類かパッケージにしちゃってそれ全体の株価の値動きを予測する、ってのがある。予測が当たって儲かったって話は効かないけどね。つまり、ある程度マクロにしてしまえば予測可能性はそうとう高くなるって事。難易度が劇的に下がるのよ。」

明美「でも全然あたらないんですよね。」

まゆ子「どういう訳だかね。もちろん技術的に拙いからではあるんだけど、それ以上に、既に人が未来予測を元に未来予測しているから、という事があるんだ。つまり、誰もが未来予測をしているという前提で未来予測をする、というわけでね、たとえば政府の経済政策なんかは出る噂の段階で既に対応が始まって、本当に出た時にはとっくの昔に過去の対応済みの事象に成り果てているわけなのよ。」

明美「つまり、未来予測される事も織り込んだ未来予測でないと役に立たないってことですか。それは厄介ですね。」

まゆ子「未来予測の技術が進歩すればするほどこの矛盾は大きくなる。なんというか、未来予測ではなくて、スケジュールによって定められている事象として全てが進行し、さらにその事象の影響をすべてキャンセルする方向にあらゆるプレイヤーが活動する、とても不健全な空間が発生するのよ。こうなると未来予測なんかなんの役にも立たないわ。

 例えば、さ。政治があるでしょ。今はその候補者の公約とか人物とかどこに所属しているかで有権者は判断するわけだけど、でもその公約とかを本当に実行したらどうなるか、がシミュレート出来たとしたら、どう?」

明美「それは、・・・・・・・・実際にやってみる事ができるんですから、実際にやって、うまく行くのが分かっている人の所に投票するでしょう。失敗する事がわかり切っている政策のところには絶対に投票しません。となると、それは、民主主義なんでしょうかね?」

まゆ子「少数意見とかいうものが、なんの意味も無くなる世界だね。圧倒的に強い勢力と、それ以外の誤差程度の野党になる。それが嫌なら、予測結果の実現の妨害に走るしかない。って、それはどう考えても有権者の得にはならない。まったくの党利党略だ。」

明美「でも科学技術の進歩は確実にそういった分野のシミュレーションを実現するんでしょ。たぶん。」

 

まゆ子「さて、ではそういう状況に陥った場合、時間ってものがどういう風な存在になるかを検証してみましょ。

 つまり、未来予測によって既に未来は決定されている。現在の人間はそれに近づいていくように努力する事になる。だが、その未来予測を裏切って出し抜こうという人たちもまた居る。そしてその努力はかなりの部分で報われるとして、未来予測は外れる事になるから、出し抜かれる事を計算に入れた幅広く多様な精度を増した未来予測が発生する。そおゆう状況下において、人間は、どう行動すべきだろう?」

明美「それはあ。・・・・・・・・・・・自分に都合のいいように行動するしかないでしょう。未来予測が当てにならないんですから、そもそも未来予測なんて無いのも一緒です。」

まゆ子「だが、決定的に人間の意識は変わって来る。現在の努力の積み重ねによって未来が決定されるのではなく、未来予測が指し示す目標を実現する為にスケジュールが組まれた現在を巧みにこなしていく、そういう風に「時」を人は感じるようになるでしょう。時間というものを順次連続的なものではなく、水平的、一度にすべて見渡せるものと認識せざるを得なくなる。これは、たいむましん的時間認識をすべての人が手に入れる、という事だよ。」

明美「・・・・・・えーーーとお、なんというか、賢い人はむかしからそれをやってるみたいな気もするんですが。」

まゆ子「つまり、近未来、ひとは皆、賢い人のように人生を生きるようになる、という事ね。これは進歩と言ってよいのではない?

で、まあ、人間社会はこういうものだね。人の意識にとって過去も未来も同一平面上の存在としてあり得る。もちろん、その時点に居なければ本当に居る事にならないけれど、しかし、過去が現在を形作るように、未来も現在を形作る。いや、過去も、そうなるべき未来の為にそうなっている事を現在の自分が発見する、ってこと。」

明美「なんか、だまされて言いくるめられてるみたいです。」

まゆ子「というのは置いといて。と。ほんとに出来ないってのはなんのはなしのタネにはならないからね。

 

   じゃあ、ホントにたいむましーんはありえないのか。ひょっとして人間以外の存在にとっては、時間旅行は普通の存在じゃないだろうか? ってのはどう?」

明美「え、人間以外ですか? 宇宙人とか?」

まゆ子「言い換えよう。人間的知性以外の存在にとって、だ。たとえば自然現象として、タイムトラベルがあるとしたら、自然はどういう風にふるまうだろう?」

明美「でも、でも、相対性理論では時間旅行なんてできないって。」

まゆ子「あんなもん、たかだか数十年前に作られた理論に過ぎないわよ。ようするにあれを解のひとつとして持つ時間遡行が可能な宇宙理論が絶対に存在しない、とする法はないわ。で、自然現象として過去へのタイムスリップがあるとしたら、どういう現象がおこるだろう?

 なにか過去の事象を変化させる事が出来るとしたら、未来も変わる。未来が変わると過去を変える原動力も変わるから、過去は「前に」変えられたようには変わらず、新しく変わった未来の必然として変えられる。となると、その未来はまた、・・・・って事になるね。」

明美「・・・・すさまじく、変わる?」

まゆ子「すさまじく、とても観測出来ないほど、確定性が認められない程に変わる。たぶん、人間の制御不能な程に。しかも、どの時点でタイムスリップが起こるか。ひょっとしたら四六時中起こってるとしたら、それは未来が不確定であると同義と言える程に、変わって変わって変わってるのよ。」

明美「未来が確定しない、っていう事ですか? じゃあ未来予測も不可能、」

まゆ子「それを人間が観測したら、すさまじく変化する時間の中に住んでいる人間には、時間というものは不動のモノとして認識されるでしょう。ちょうど、流れる河の真ん中に浮いていたら、水に対しては静止しているようなものよ。そして、ひとは、河の流れには逆らえない、と言っている訳ね。」

明美「げ、じゃあ、タイムマシンで過去に戻るとして、ではどれが過去なのか、時間旅行者にとっては確定出来ない、ってことになるんじゃないでしょうか? 流れる水と流されていて、川上に戻るとしても、そこには元の、自分がその時に居たのと同じ水は存在しない、って事ですから。」

まゆ子「そういうもんだね。ましてや過去の事象を制御して現在を変えようなんて、大馬鹿やろうの話だね。」

明美「うわ。じゃあ、そもそもタイムマシンって概念自体がとんでもなく間違ってたんだ。時間が静的に存在するって前提の上にしか成り立たない概念ですから、そんなぐるんぐるん変わってる時間にはまったく無意味ですよ。」

まゆ子「だが、同時に新しいタイムマシンの概念を産み出すのよ。

 未来は過去の、つまり連続する現在の必然として存在する。それを遡行しての変更は正気の沙汰じゃない。だが、元々、改変された過去とセットで未来が存在するとしたら、それは因果律と矛盾するだろうか? 未来の事象が、自らが存在する為に過去に自分が存在するのに必要な物理現象を用意していく、それは不可能だろうか?」

明美「?????。」

まゆ子「たとえば、さ。一度タイムマシンに乗ったら二度とそれは止まらないんだ。そして、未来と過去、つまり”未来”を期限とする連続した時間を同時に操作出来る。そして未来に存在する事象を実現する為に過去を改変して、で、タイムマシンは時間の流れの中から消滅して不存在になる。タイムマシンは存在しない。しかしとある事象は確実に望まれたとおりに存在する。全くの無矛盾で。」

明美「一回の変更でタイムマシンは消滅して、しかも変更された事を誰も認識しない、って事ですか。」

まゆ子「ふつうに時間の流れに居る人にとって、その変更は、まったくの小さな偶然が魔法のように重なり合って、そういう事象が存在する、という風に観測出来る。この手のタイムマシンなら、時間旅行に付き物のパラドックス問題はまったく発生しない。というか、それはそもそもパラドックスじゃない。」

明美「それは、誰も得をしないタイムマシンですね。改変した人間自体にも認識できないんでしょ。」

まゆ子「というか、改変する人間はタイムマシンに乗らないからね。タイムマシンを作って、起動した途端に、タイムマシンは不存在となり、タイムマシンを構築すべき理由も消失しているのよ。これはパラレルワールドでもないわ。確定出来ない時間の中では、多数の可能性の存在はそれこそ確定できないもん。つまり、現実はつねに一つあるのみ。という非常にまともな結論があるわけね。」

明美「それは、つまり、なんというか、タイムマシンでないタイムマシンとすれば、なんと言うべきでしょう。」

まゆ子「”奇跡”だろうね。奇跡マシン、みらくるくりえーたーだ。時間旅行よりも奇跡を科学的に起こす方が現実的である、というのが今回の結論。」

明美「そりゃ神様ですよ。」

まゆ子「ということは、人間の歴史の中には神様奇跡がごろごろしているから、タイムマシンはある、ってことかな?」

明美「あはは。」

 

2002/08/12

 

美少女アサシンでゅおは科学的に実現可能か

まゆこ「”のあーる”うわーーーんんんん、そは古よりの定めの名。死を司る二人の処女。黒き御手はみどり児のやすらかなるを護り給う。」

明美二号「えーとお、本日はのあーるのおはなしですか。つまり、暗殺者のお話ですね。「女の子ふたり組の美少女アサシンでゅおは科学的に実現可能か?」ってところですか?」

まゆ子「なんというか、あんた屈折したねえ。そんなむちゃな考察はしないけど、本日のテーマはてっぽうです。」

明美「無難ですね。」

まゆ子「そういう事言われると、ほんとにその「美少女アサシンでゅおは実現可能か」をやってみたくなるね。でも、アサシンってのは昔から男だろうが女だろうが関係なく居るんだよ。老人も子供も居る。美少女でゅおてのは、まああんまり無いだろうけど、完全に無かったとは言えないだろうね。つまり在る。」

明美「あ、そういうんじゃおもしろくもなんにも無いですね。じゃあ、「美少女ケモノでゅおのアサシンは実在するか?」ってのでは。」

まゆ子「悪い。実はある。」

明美「げ?!あるんですか?」

まゆ子「動物に暗殺させるってのは有史以前から存在するポピュラーな手段だからね。で、暗殺に使われるケモノってのは大体よく手入れされていて綺麗だし、オスはさかって信頼性がちと低いから去勢するかメス使うのがセオリーだから、あると言ってもまったく問題は無いでしょうね。」

明美「がーーーーん、変わったこと言おうと思いましたけど、やっぱり私は平凡な想像力の無い人間でした。」

まゆ子「頑張ってはいるけどね。

 

 で、人間のアサシンですか。やっぱ武器ですね、鉄砲です。」

明美「鉄砲は今後もずっと使われていくんですか? レーザー銃とかになったりはしないんですか?」

まゆ子「うーーん、鉄砲はかなりしぶとく残るだろう。エネルギー兵器は現在のところ、よくわからない。信頼性の問題もあるし、てっぽだまだってあたりゃ人は死ぬんだから、威力の面では、特に個人ユースではまったく問題は無い。支障があるのは装弾数だろうけど、エネルギー兵器にだって限界はある、というかてっぽだまよりも多く使えると決まった訳では無いんだから、どうかな?」

明美「じゃあ近未来においては鉄砲、というかピストルが主流っていうのでいいですか。」

まゆ子「今後30年は保証しよう。火薬式の鉄砲が個人戦闘の主力兵器である現状が変わる事は無い。変わるとすれば、鉄砲以外の道具だ。」

明美「鉄砲以外、って言っても、普通、まあ自分でやったわけじゃないですけど、映画とかでは銃撃戦は鉄砲以外の道具は使いませんね。」

まゆ子「狙う方法よ。ターゲットを狙うのに、道具を使うの。簡単に言えばデジカメとかケイタイとかを使って銃撃戦の補助をするわけだね。」

明美「たとえば?」

まゆ子「例えば、現在の技術を使えばとんでもない視力を産み出す魔法の眼鏡が作れるそうですね。目の奥、つまり眼球の中の視神経が存在する部位のでこぼこをレーザー光線で測定して、レンズを数十ヶ所に分割して部位ごとに最適な光線をあたえるように、ひとり一人に完全オーダーメイドでレンズを作った眼鏡、ってのが存在するらしいよ。これを使えば誰でも視力6.0くらいになるらしい。」

明美「はあーーー、すごいもんですねー。視力がそんなにあったら、鉄砲いやでも当たりますね。スコープで覗いてるみたいなものですね。」

まゆ子「ひとりひとりレンズを作るのはめんどくさいから、と電子的に、液晶とか使ってコンピュータでその眼鏡とおなじようなものを作る事も出来る。というか、熱赤外線イメージセンサを使ったスコープとかは今でもかなり出まわっているんだから、これを小型化低価格化すると、銃撃戦時普通に視力の補正が行われている、という事態になってるでしょう。」

明美「なるほど、武器自体は変わらなくても狙う方は変わっているんですね。じゃあ、防弾チョッキとかはどうでしょう。」

まゆ子「アメリカでは外勤の警官は基本的に義務づけられてるみたいだね。まあ銃撃戦の多い地域では、でしょうけど。普通の弾ならなんとか死なないで済む、というレベルではあるけれど、無いよりはずっとましだわ。だから、それは今更言うような事じゃない。むしろ、対ナイフ、対刃防御力を持つ防具の素材を、軽く、かさばらず常時着ていられるようなのが早く発明されるべきでしょう。」

明美「うーーん、やる事無いですね、私たち。」

まゆ子「なあに、弾を改良すればいいんだ。いかに防具が発展しても、弾の方が簡単に威力を上げられる。今の防弾チョッキでは、鋼鉄の弾丸は止められないし、軍用の対ライフル用の防弾チョッキだって、無いよりはマシというだけでちゃんと弾が当たれば貫通するんだから。それも5.56ミリとかの小口径弾が、よ。」

明美「軍用のでもダメなんですか! それは困りましたね。じゃああの兵隊の人は、そんな頼りないものを着けて戦っているんですか?」

まゆ子「いや、手榴弾とか、爆発で吹き飛ばされた金属片とか、とんできた石ころとかにはずいぶんとよく効くから、無意味ってものじゃない。ただ鉄砲にはそんなに有効じゃないってだけなのね。」

明美「結局鉄砲弾には当たるな、ってわけですね。」

まゆ子「わけです。じゃあどうやればいいか、っていう事ね。」

明美「漫画みたいに透明になれるといいですね。それとか、カメレオンみたいに色が変わるとか。」

まゆ子「うん。そう。透明は無理としても、カメレオンはほぼ間違いなく出来る。電子ペーパーとかいうのですか、瞬時に色が変わる薄型ディスプレイはほとんど実用化寸前です。これでポンチョみたいなものを作って着れば、カメレオンはすぐ出来る。でも、」

明美「でも?」

まゆ子「さっきも言ったでしょ。熱赤外線って。人間から出る赤外線は、そう簡単に誤魔化せない。体温を消すわけにはいかないからね。また、体温を消してみたとしても、赤外線CCDはわずか0.5度の温度差も感知してイメージ化出来る。動かないときには誤魔化せても、一旦動き出した人間は、ほとんど丸見えでバレバレよ。」

明美「あーーーー、そうですかあ。うーーーーーんんん、ダメですねえ。そういうスコープを安く小型化して普及させるんでしたね。困ったな。」

まゆ子「そういう時は仕方がない。煙幕でも張ろう。でも、熱赤外線は煙幕を通してでも検知できるから、煙幕自体も発熱するものじゃないといけない。が、そこにめちゃくちゃに弾を撃ち込めばいいから、逆効果ってこともある。頭に来たからレーザー光線をデタラメに振り回してセンサーを潰すって手も使おう。これはかなり効果がある。けど、レーザーの発信源は確実に攻撃されるでしょう。」

明美「うーー、身動きできないですね。戦車が必要、ってことですか。」

まゆ子「戦車も最近ではそんなに安泰じゃないんだ。RPGっての、ほらアフガンのタリバンが背中に背負っていたとんがったロケット弾、あれは二昔前の戦車なら確実にぶっ潰せるんだ。命中率悪いし射程距離も短いけど当たれば確実、装甲車くらいなら軽くやっつけちゃう。歩兵がどんなに重装甲をしても、それこそパワードスーツを着ていても、ダメです。」

明美「じゃあ、じゃあ、人間の歩兵が最強なんですか?」

まゆ子「そんなことあるかい。でも、ライフルとかで撃ち合うようなレベルの戦争では、どこの兵隊でも火力はあんまり変わらない、ってものかな。昔みたいに装備がいいから、火力の質が高いから押し切れた、っていうアドバンテージが無い。だから、電子機器を使って情報処理能力を強化して差をつけようとアメリカ陸軍は頑張っている。」

明美「でも、・・・・・・・まゆ子さん、切り札あるんでしょ。」

まゆ子「もちろん!!

    ロボットよ。

 それも大きさ30とか50cmとかのちいさなロボット。火力では、それこそ、拳銃弾を10発程度撃つとか手榴弾を爆発させるくらいしか無いような貧弱な兵器よ。」

明美「あはは。小人ロボットが拳銃持って後ろから撃つんですね。それは簡単だ。」

まゆ子「小人ろぼっとってのは、そりゃメルヘンでおもしろいけど、実際そう。人間が動けない時でもそのくらいの大きさのロボットはちゃんと見つからずに動ける。むしろ、人間がおとりとなってロボットが見つからないようにする方がいい。いや、自力で動けなくてもいいわ。どっか見えないところに仕掛けていて、そこに敵を誘き出す、という手は非常に有効でしょう。人間では隠れられないという場所でも、ロボットはちゃんと何日でも待ってられるからね。都合のいい事に、そういう小型ロボットに使えるような小型燃料電池が今にも発売されようとしているよ。」

明美「しかし、それでは人間がピストルで撃ち合う、ノアールみたいなのには使えませんね。いや、使ってもいいかもしれませんが、どんぱちの撃ち合いじゃあ直接人間が撃つしかないでしょ。」

まゆ子「うふふ、ピストル自体をロボット化する、という方法がある。ピストルにカメラとコンピュータを内蔵して銃口の正面に敵が見えたら弾を発射するという機構を備えれば、目を瞑っていても後ろを向いていても戦える。いつもいつも敵が前に居るわけじゃない、っていうだろうけど、バレルが振動して2度とか3度とか傾いて回転して銃口を振っていれば、銃身の回転のタイミングに合わせて自動的に発砲して敵をスイープしてくれる拳銃が出来上がるわ。」

明美「それって無差別殺人する拳銃ですか?」

まゆ子「いや、狙点を定めなくても自動でターゲットに照準する拳銃と考えた方がわかりやすいでしょう。本当はちゃんと狙えていないのに、弾は当たる。そういう自動照準銃なのよ。むしろ誤射は少なくなるね。」

明美「うわあ、そりゃ無茶苦茶ラクチンなピストルですね。つまり物陰に隠れて鉄砲だけ出して撃ってても、当たるってわけですよね。」

まゆ子「そういうこと。」

明美「じゃあこれで決定ーー! と。

 

  でも、あの、あんまり痛くなくて人が死ななくて、動かなくなるって弾丸は出来ないものですか?」

まゆ子「そうだねえ。ドラえもんみたいに空気鉄砲とかあればいいのにね。」

明美「あの空気を弾にして打ち出すって奴ですね。大きいのは空気砲って言って、腕にはめて使うんです。」

まゆ子「考えた事はある。空気のかたまりってのは無理にしても、音は空気の波だから、強烈な音をぶつけてやれば空気砲とおなじ効果がある。でも拡散して広がるからエネルギー密度が稼げない。指向性のある超音波だってそんなバカみたいなエネルギーを乗せられないし、周波数が高いから、ぶつけるというよりびりびりする、て感じにしかならない。そこで考えた。周波数の異なる二種類の超音波を同時に発振して、標的に当たった場所でうなりハウリングを起こして、低周波に変換するっての。でもね、ものすごく発振器が大きくなるのよ。電源も必要だわ、でかい奴。」

明美「つまり、ドラえもんのは無理なんですね。」

まゆ子「いや、そうでもない。

 つまり撃った後、撃たれた標的に弾丸が跡形も残っていなければ、空気砲とあんまり変わらない。じゃどうするかといえば、着弾した際に跡形もなく蒸発してしまえばいいんだ。爆発して、相手を吹き飛ばしてね。」

明美「うわ、爆発ですか。普通に弾が当たるより惨いじゃないですか。」

まゆ子「あ、勘違いしてるね。爆発したからといって破壊力があるわけじゃないんだ。爆発によって硬い金属の破片が散乱することにより、周囲におおきな破壊をもたらすのが、爆弾って代物よ。ま、量の問題の程度はあるけど、手の中で爆竹が破裂しても、そんなには痛くないでしょ。」

明美「痛いです。痛かったです。」

まゆ子「指が飛んだりはしてないでしょ。紙で出来てるんだから。つまりそういうものよ。手品で使うようなあっという間に燃えてしまう紙とかで火薬をくるんでたら、弾着の際に消滅する弾丸が出来る事になる。さらに進めて、着弾する数センチ、10cmくらいの空中で爆発したら、安全性も高くて、標的をぶっ飛ばす、まさにそのまんま空気砲だね。」

明美「あ、なんかいい感じだ。それにしましょう。で、悪い人をぶっ飛ばしましょう。」

まゆ子「とはいうものの、やはり爆風だけではそう簡単にふっ飛んではくれない。さすがにね。だから、爆発した際に周囲のガワが膨らんで、爆圧を受け止めて膨張してぱんぱんに固くなった状態で、それがぶつかるっていうのなら、かなりの威力になるでしょう。」

明美「風船銃ですね。」

まゆ子「うん。」

 

明美「しかし、犯罪ってのは何時まで経っても無くなったりはしないんでしょうか? なにかスゴイ機械で犯罪が起こる直前に防ぐってのはないんでしょうか。」

まゆ子「ああ、こないだ見に行った映画の予告にあったね。犯罪が発生するのをコンピュータシミュレートして、犯罪を起こす事になる人間を未然に収監して防止するっての。なんにも犯していない人が、いきなり牢屋に入れられるのよ。」

明美「げ、なんにも悪い事してないのに、悪い事する前に捕まっちゃうんですか。」

まゆ子「シチュエーションを限定すれば、完全に不可能という技術じゃあないね。とはいえ、密室で数人、とかの規模だけど。社会全体でシミュレートってのは、そりゃあさすがに馬鹿話だ。実際に未然に防止するとなると、直前をロボットで抑えるってとこかな。街中の至る所にコンピュータとカメラが仕込んであって、犯罪行為が起こりそうなところではいきなり警告が飛んで来るとか、電撃で制止されるとか。」

明美「あーーー、そりゃなにか違う。わたしの求めているのはそういうんじゃなくて、えとおーーー、正義の味方みたいな奴です。ピンチになったらどこからともなくやって来て助けてくれる、っての。」

まゆ子「ヴぇーゑー。そりゃあ、身体を鍛えなさいよ。自分の事は自分でまもる。」

明美「そりゃそうなんですけど、でもそれじゃ追っつかないって事あるじゃないですか。」

まゆ子「それはあ、つまり、ボディガードの事だね。自分では気付かないけれどいつも隠れてボディガードが見張っている、みたいな。」

明美「あ、そうそうそうです。見えないボディガードっていいですね。見えるかっこいいボディガードってのもいいですけど。」

まゆ子「そか、結界だ。自分の周囲十数メートルからを常時監視していて、なにか起こりそうなものを発見しては逐一対処していく、ってのね。コンピュータと地域LANが完備していれば出来なくはない。でもやっぱ周囲は監視カメラだらけだ。そこら中の監視カメラに勝手にアクセスして、周辺情報を獲得していくってのか。で、なにかあればご主人様に報告してくる。というか、特に重要でなければ、ご主人様を安全な方向に無意識で誘導していく、ってのはいいね。で、緊急時にはロボット銃が勝手に風船弾を撃って止める、と。」

明美「あ・・・・・・・、出来るんですね。言ってみるもんだわ。」

まゆ子「逆も出来る。暗殺する時に、自分の周辺をあらかじめスキャンして攻撃対象を選択し順番を決めて、その通りに暗殺者が動くと、極めて効率的に敵をやっつける事ができる、って。行動のスケジューリングを勝手に作ってくれるコンピュータってわけね。それに自動照準銃を使うと、実際ノアールみたいに動く事も可能でしょうか。」

明美「というか、そこまでしなきゃノアールは不可能なんですか・・・。」

まゆ子「とはいえ、どこにでも監視カメラがあるわけじゃない。でも小型ロボットカメラを自分の周囲に浮かべて置くことは出来る。蝿くらいの大きさのぱたぱた羽で飛翔する小型ロボットをね。問題はご主人様の行動をどうやって規制するか。コンピュータの思い描くとおりに動かせるかだね。頭に触角でもつけといて、電気でぴんぴんって引っ張るような感じを発生させる、ってのはどうかな。」

明美「なんか、それ凄く間抜けです。外から見たらまるで道化ですよ。」

まゆ子「うーーん、それはそうだな。じゃあ手足につけよう。そう言えば、前に、目が見えない空手少女ってのを考えた事があったな。肩に垂れパンダ型のロボットが乗っていて周囲の状況を少女に音声会話で説明するんだ。で、手足額背中にセンサーが付いていてヒヤッとして障害物との距離を感じる事が出来る。この感覚を使って全身を目にして敵をぶん殴るんだ。」

明美「ほあ。じゃあそれを使って、ご主人さまに動くべき方向を指示して安全に行動させる事が出来るんですね。目が見えない、というのだと、そのまま夜戦闘するって事も可能ですね。」

まゆ子「そだね。むしろ視覚に頼るよりも触角を活用した方がいいかもしれない。たとえばさっき言った蝿型センサーカメラね、アレを自分の前方にすっと飛ばして敵や障害物、地形情報を手で触るように感じ取る事が出来る。よく超能力者が手のひらをムン!ってかざして透視するって描写があるけど、触角の方が視覚より却ってよく把握出来るのかもしれないね。」

明美「という事は、科学的超能力者ってことですか。」

まゆ子「ま、今の人間はだれでも超能力者みたいなものだけどね。居ながらにして世界中のあらゆる事を知り、見る事が出来る。千里眼千里通だよ。」

 

明美「じゃあじゃあ、今度は念力を実現してみましょう。」

まゆ子「うんんん。念力は、念力はね。仙道でいうと掌風だが、手のひらから送る風で岩を砕く技だけど、これは鉄砲でいいでしょ。むしろ空中浮遊させるとかだね。それはジェダイのフォースだよ。いくらなんでもそれは無理。ロボットという手はあるけど、それじゃあ違うんじゃない?」

明美「あの、ほら、手をかざすと他人を自分の言うがままに動かせるって技があるじゃないですか、スターウオーズ。あれはできないですか。」

まゆ子「あれ? あれは便利だね。うん、複雑なのは催眠術とかが必要だけど、ちょっと注意を反らすとかは簡単だ。あらぬ所で物音を立ててやるとか、ちょいちょいと見えないようにつついてやるとかね。わりと強力な超音波をぶつけてやるって機能があると出来るよ。肌に当たるとぴりぴりってするくらいの。」

明美「なんだ割と簡単に超能力って出来ちゃうんだ。困ったもんですね。」

まゆ子「それとか、蝿型センサーカメラにもその超音波発生装置を搭載していて、遠隔操作で敵の注意をひく事も楽しいね。」

明美「テレポーテーションは?」

まゆ子「なるべく早く移動する、というくらいなら、足にローラーブレイドでも着けとけばいいけど、秘策は無い事も無い。手を使うんだよ。」

明美「手ですか?手で四つんばいになって走るんですか?」

まゆ子「意外とね。意外と手は移動に役に立つんだ。というか、人間は別にだだっ広い野原を走り回っている訳じゃない。町の中とか建物の中とかの狭い空間を移動している。で、階段上がる時に手すりを持つと早いように、廊下を走り回る時も手で何かに掴まれば方向転換とかダッシュとか、脚だけで運動するより早く動けるのね。」

明美「ええ、それはそうですけど。でも、普通にやってますよ。」

まゆ子「握力が弱いとそれもあまり効かない。機械で握力を強化する特殊手袋とかをはめていると、かなり無理な運動も可能になるし、二階によじ登るとかで時間を節約して移動する事も出来る。もちろん格闘戦時には非常に強力な武器になる。」

明美「手だけのパワードスーツって事ですか。」

まゆ子「たぶん肩から靭帯みたいなのが来ている構造になるでしょ。幾ら握力が強くても、その先の腕とかで荷重を支えきらなければ意味無いもん。そうだね、上半身を覆う防弾チョッキに付属として握力強化パーツが付いている、というのか。で、さっき言った感触で状況を把握する装置がそれに内蔵されている、と。コンピュータも付いていて蝿型センサーカメラのコントロールが可能、という。」

明美「・・・・・・・脚が、弱いですね。」

まゆ子「脚はね。下手にいじるより車輪使った方がいいから。」

明美「ジャンプ力を強化するとかは、どうです。」

まゆ子「ドクター中松の使って? 実はそういう試みは結構皆やってるんだ。でも実用化には至っていない。なんか無理あるんだろうね。ようするにバネを靴底に付ければいいだけだけど、それじゃあ動きが自由にならなくて、かえって邪魔になる。強力な手でそこらの自動車とかにしがみつく方が早いでしょ。」

明美「あ、そりゃはやい・・・・・。」

まゆ子「結局人間の、個人の形をそんなに変えないという前提の下ではあんまびっくりするような強化は出来ないって事かな。超人は人類の夢ではあるんだけど。あ、そだ。背中にロケットを付けてプッシュするというのはどうだろう。飛ぶんじゃなくて推すのだったら、結構いけるよ。」

明美「火が出るんでしょ。不許可です。」

(2002/07/15)

 

2050年ロボットは少林サッカーを超える

まゆ子「こんにちわーーー。今回はサッカーのお話しです。」

明美二号「サッカーですか。イイですね、W杯ももうすぐですし、タイムリーです。でも、まゆ子さん、サッカーってお詳しいんですか?」

まゆ子「いや、全然。たいくの授業でやったくらいだ。でも、ほら、2050年にはロボットがサッカーで人間を負かす、ってのやってるでしょ。」

明美「ああ! なるほど、今回はその線で行くんですね。納得なっとく。」

まゆ子「とはいえ、ロボットが人間をサッカーで超えるってのは、こりゃあ一筋縄じゃいかないな。

 なぜなら、トップクラスのサッカー選手ってのは、これはもう超人なんだもん。

 蹴ったボールがコンクリの壁に当たったら地響きがするし、シュートするとボールが火を吹いてタイガーに変身するし、地上5メートルまでジャンプしてオーバーヘッドシュートするし、いや人間鍛えたらなんでも出来るもんだね。」

明美「(呆)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。あの、それって、ひょっとして「少林サッカー」の事では?」

まゆ子「そだよ。」

明美「あ、・・・・・あれは、まんがですよ!映画ですよ!漫画みたいな映画でしょ。あれは人間には出来ないですよ!」

まゆ子「やれ!」

明美「だからできないったら!」

まゆ子「なーに、よくよく見ると、あの程度のパフォーマンスであれば、そうだね、125CCのバイクのエンジンくらいの出力じゃないの? 可能だよ。」

明美「げ、・・・・・・ひょっとして、あれに勝てたら、どんな人間にも負けないロボットになる、とか思ってます?」

まゆ子「うん。」

明美「・・・・・・・という訳で「2050年、ロボットは少林サッカーに勝つ!」をお送りします。」

まゆ子「あきらめがよくてホントによろしい。一年を経て、君もせいちょーしたね。

 さて、少林サッカーだけど、でも日本人にはアレはまったく違和感無く見られるんだよね。なんたってあれは日本のサッカー漫画の真似なんだもん。」

明美「あ、あれぱくりなんですか?」

まゆ子「ぱくりというには語弊があるけど、つまり、日本の漫画は香港でも台湾でもよく読まれているんだよ。当然スポコン物も。で、香港とか台湾韓国の人は、日本の漫画的デフォルメ手法をよく心得ている。で、サッカー映画を作ろう、それもこれまでに無い、馬鹿馬鹿しいくらいにスゴイものを作ろう、と思い立てば当然のコト、日本の漫画的手法を駆使するのよね。で、少林サッカーになるってわけ。」

明美「はあ。じゃああれはまったく自然な映画なんですね。」

まゆ子「アジア的に普遍なデフォルメである、と言えるでしょ。で、あるからにはアレを実現するってのは、非常に大きな説得力がある。」

明美「で、ロボットですね。でも、そんな、バイクのエンジンくらいであそこまでできるんですか?」

まゆ子「人間ってのは小さくて軽いからね。前にも言ったでしょ、サイボーグってのはバイクと比べるような機械だって。どんなにスゴイパフォーマンスだって、人間をベースに考えると内燃機関が絞り出す出力にかなうものではないよ。たとえばあ、プロレス技で、ジャイアントスイングってのがあるでしょ、あの、足持って、ぐるぐる相手を振り回すやつ。」

明美「ありますね。」

まゆ子「これを、バイクのエンジンでやる、としたら、どう?」

明美「そりゃあ、・・・・・・・すごく回りますね。少林サッカーでも出来ないくらい。」

まゆ子「バイクの動輪でサッカーボールを挟んでこすって打ち出せば、どう?」

明美「人間が触れないような、すごいシュートになる、と、思います・・・・・。」

まゆ子「少林サッカー、できないと思う?」

明美「しかし、ロボットですから。そりゃあバイクのエンジンをそのまま使ってサッカーボールを蹴飛ばす機械はできるでしょうけど、でもロボットに仕立て上げるのは。」

まゆ子「ま、そこが技術って奴ですね。大体、ロボットってのは単一の動力源、回転動力源で駆動されるようには、歴史的に考えられてないのよ。そりゃ当たり前、手足という離れたとこにある機械を胴体に有る回転源と接続する方法が無いもの。チェーンで回すわけにはいかないね。」

明美「はあ、素直にモーター使うべきですけど。でも、まゆ子さんそれやるつもりですか?」

まゆ子「まさかあ、いくら私でも、そこまで無謀ではないわよ。そうね、私だったら、筋肉に相当する部分で、エンジンのシリンダをくっつけるね。」

明美「は? しりんだって?」

まゆ子「知らない? あ、ひょっとしてあなた、エンジンがどういう風に動いているか、知らない?」

明美「はあ、申し訳ありません。ガソリンで動くのは知ってますけど、ぐるぐる回るのは分かりますが、どうやって動くのかまでは。」

まゆ子「うーーん、中学校の家庭科・技術で出て来るんだけどなあ。」

明美「お料理お裁縫の方が役立ちますから。」

まゆ子「そりゃそうだ。自動車のエンジン開けて修理しろ、なんて出来ないもんね。しゃあない、説明は省く!」

 

(という訳で、二人して子供むけ絵本技術書を見てる。なかなかおもしろい本だ。)

明美「なっとくしました! エンジンはシャフトがぐるぐるして、ピストンを上下に動かせば動力を発生させるのですね。で、ガソリンが爆発して、ピストンが上下して、空っぽになったところで呼吸をして息を吸い、ガソリンがまた入って来る、と。」

まゆ子「ちょっと変だが合格だ。で、このぐるぐる動力をあらゆるパワーに変換するコトこそ、現代文明の神髄と言えるわけね。ぐるぐるこそが文明の光なのだ。」

明美「納得しました! 少林サッカーでぐるぐるしてたのは、ここにその秘密が有ったわけですね!!」

まゆ子「あ、それは、ちょっとちゃうような気がするけど、・・・・・その通りだ!! ぐるぐる力を産み出すコトこそが、あらゆるパワーの源。人間だってそのとおり。発勁というのは、足のくるぶしからひねりこむ力を脚から腰全身で発生させて撃ちこむらしいから、ぐるぐるこそ少林サッカーの原動力であると言ってもまったく問題ないでしょう。」

明美「うむー。ではバイクのエンジンをロボットに搭載するのはまったく正しい行為なわけですね。」

まゆ子「正しいんだけどね、ただしいんだけど、それじゃあ動けないんだ。人体というのは基本的には回転動力で動いていないから。少林拳だって何十年もの修行を積んで初めてぐるぐるパワーを円滑に伝達出来るんだから。」

明美「わかりました! まゆ子さんはその何十年も掛かる修行を、ロボットにあらかじめビルトインして、円滑なぐるぐるパワーが手足に伝達されるような構造のロボットを作る気なんですね!」

まゆ子「あ、いや、そこまで大げさなものは考えてなかったんだけど、・・・やっちゃおうか?!」

明美「やっちゃってください!」

まゆ子「やっちゃってみましょう。

 

 まず、少林サッカーを実現する前に、ただのロボットでも人間と戦う時に問題になるのは安全性。人間と接触して、いや、かなりのはげしさでコンタクトしても人間が大丈夫な安全性の確保だよ。」

明美「はあ、そりゃあ絶対条件ですね。って、クッションつければってのは、・・・だめだったんですよね。」

まゆ子「サイボーグのはなしの時に言ったでしょ、バイクのタイヤでぶん殴られるようなものだって。という事は、致し方ない、一次構造の段階からクッション機構を内蔵する以外解決する方法は無い。という事は、最初から機械の中にとんがっている部品は使えないというこった。」

明美「とんがった部品というのは?」

まゆ子「ま、ひじ、肩、腰、ひざはとんがってちゃいけない、というよりも、無い方がいい。それらの部品に代わってクッションがついている、という形だね。手先足先も危ないが、これは軟質材料でなんとかしよう。すくなくとも足は無ければ歩けないからね。」

明美「そういうのは、本当に人型ロボットなんですか? そんなの無いのは、タコ?ですか。」

まゆ子「タコにクッションを付けたら人型だ、というようなものかな。タコ型だって当たれば怪我するんだよ。固いんだよ蛸足も。あれは筋肉の塊だから、力が入っている状態では金属の棒と接触するのと変わらない。だから、クッションが必要だけど、全体的にクッションで包んでしまったらまるで相撲取りのような形状になってしまう。お相撲さんがサッカーをする、という絵は、さすがに見たくないな。」

明美「はあ、じゃあ最低限のクッションしか付加しないわけですね。で、ひじひざ肩腰、でも胸とかおなかとか背中も必要ですね。それとすねと腕は確実に接触しますから、ここはどうしましょう。」

まゆ子「すねと腕は、折れる。」

明美「は?」

まゆ子「人間に負傷を起こさないようにするために、そこは折れる。折れて衝撃を全部ロボット側が吸収する。折れると言っても、折れるように作られたものが折れるのだから、どうでもいいよ。折れても切断するわけじゃないんだから。」

明美「はあ、そりゃあめんどうな機械ですね。そんなやわな機械でありながら、少林サッカーを超えなければいけないんですから。」

まゆ子「というわけで、最初から関節というものは無いのだよ。関節構造をとっている限り、決して人間を戦うロボットは作れない。さっきあんたが言ったようにタコ、が最適だ。でも、ほんとのタコじゃない。「ましなりぃ 資料ぺーじ」の”サルボモーター”が最もふさわしい形態だ。」

明美「サルボモーター、っていうと、・・・ちょっと待ってくださいね、調べますから、・・・・・・ダッチわいふ?」

まゆ子「そ、ダッチワイフなんだ。あれは、強靭な素材で作られた風船のぬいぐるみで空気で膨らんでいる。で、長い板バネが手足に入っていて、このバネと空気圧で重量を支えて、空気圧の変動で駆動力を産み出すんだよ。」

明美「関節が無い、っていうんじゃないですね。これは、さいしょから関節を拒絶した構造なんだ。」

まゆ子「そう。歩くのに別に関節は要らないんだよ。竹馬だって動けるんだから。脚が歩くのにひつような運動をするためには、前に出る、上に引き上げる、という動作を実現すればいいだけで、それは関節でなければ出来ないというものではない。サルボモーターはバネの弾性でそれを実現するんだよ。」

明美「はあ、でもこれ、6メートルもありますよ。」

まゆ子「小さくしよう! あまり大きいと人間に威圧感を与えるから、1、7mだ。」

明美「いいんですか? そんないいかげんな決め方で。」

まゆ子「なんで悪いんだよ。サルボモーターは別に人が乗らなくてもいいんだから、小さくてもいいんだよ。第一サルボモーターは胴体部分にのみ機械が入っていて、手足には空気とバネしか無い。人間とコンタクトする為には実に都合にいい形態なんだ。」

明美「そもそも、なんでこんな変則的なロボットを思いついたんですか? これって、どう考えても変でしょ?」

まゆ子「いや、私に言わせればね、サルボモーター以外のロボットの方がよほど変なんだ。だってね、ロボットってのは二足歩行するんだよ。二足歩行ってのは、どうあがいてもこけるんだよ。こける時はいかなる防止装置を付けててもこける。こけて損傷を受ける事をまず第一に考えなければ、ロボットの設計としては失格だ。じゃあどうするか、と言えば、やたらめったら強固なフレームでこけても大丈夫なくらい頑丈につくる、か、ロボットの周囲にクッションを付けて、こけてもショックがフレームに至らないようにする、つまりお相撲さんにする、か、そもそもこけてもその衝撃が主要部品の損傷を引き起こさない、衝撃の伝達から免除される構造をとるか、この三つしかない。」

明美「サルボモーターは、その三番目の設計なのですね。そうか、ロボットってのはどうあがいてもぶつける、こける、からは逃げられないんだ。じゃあ、人間にぶつかっても怪我をさせないってのは、つまり正常進化なんだ。」

まゆ子「正常というよりも、これがロボットの設計として当たり前、っていう世界にならなければ家庭用ロボットの実用化ってのはならないわけね。」

明美「で、サルボモーターが最も進んだ形なんですね。でも頭が無いですけど。」

まゆ子「頭は、要らない。第一そこは人間が乗るところだ。人間が乗っていて高速で転倒した場合、頭は受け身をとるのに不都合があるから、排除した。サッカーではヘッディングを使うから無いと困るかもしれないけど、しかし無いからといってヘッディングが出来ないわけじゃない。」

明美「まあ、頭が有るだろう位置にボールが当たればいいだけのはなしですからね。でも、有ってもいいんでしょ?」

まゆ子「趣味の問題だね。それこそ人間を象る為には頭が必要だろう、という思いこみを実現してあげる、というだけの話だ。一番いいのは半天周の魚眼レンズカメラなんだけど、ま、あたま付けてもいいよ。どうぜ人間にぶつけても痛くないバブルヘッドなんだから。」

明美「で、アクチュエーターですが、無い、んですよね、サルボモーターには。」

まゆ子「全体としてアクチュエータなんだけど、手足には無い。すべて胴体に入っていて、しかも高圧空気を送り出しているだけだ。あとは、股関節が前後するだけだね。腕は肩だけが動く。」

明美「なんというか、すごく、厄介な制御機構が必要そうです。」

まゆ子「ま、ね。でも、関節機構を持つロボットと比較して特別厄介だ、というわけでもないよ。ま、二足歩行する為には同じくらいの複雑さが必要だ、って程度でしょうね。」

明美「しかし本当に歩けるのでしょうか? って、言っても関節構造を持つ歩行機械だってやっと歩いているに過ぎないのですから、これは聞くだけやぼってものですかね。」

まゆ子「そうだね。作ってみなきゃ分からない。だけど、竹馬が歩いてるんだ。竹馬にクッションをつけたに過ぎない構造のサルボモーターが絶対に歩けないとする確固たる理由は無いね。だから、歩ける。それもかなりの高速で。このクッションが高速移動にまた適しているんだ。」

明美「ひざのバネ、って奴ですね。ホントにバネなんだから、そりゃあまあ、そうかもしれない。」

まゆ子「そして、この手。脚と同じ構造のこの腕は、ただただ、機体がこける時の為にだけ存在するアクティブバンパーなんだ。機体がこけたら、この手がそのまま前に出て、衝撃を吸収、弾性力で地面をはたいて機体を一回転させて受け身を取り、関節構造の無い丈夫な脚部でブレーキングを掛ける、というスマートな仕組み。言っちゃなんだけど、これよりも進歩した転倒防止、保護機能があるのだったらどっからでも掛かってこい、てなものよ。」

明美「そりゃあ、腕をバンパー専門に使うなんて、普通のロボット研究者は考えないですよ。普通は、手で作業する為に脚が付いてるんだから。でもサッカーをやるって時になると、この構造は」

まゆ子「ベストだね。」

明美「認めます。でも、このつかつかとモデル歩きするのは、なんかこけそうですね、足引っかけると。」

まゆ子「やっぱこけるね。横にこけてもサルボモーター自体は対応できるんだけど、周囲にいる人間はヤバい。」

明美「? え、なんでですか。」

まゆ子「重いんだよ。サルボモーターは。というかロボットは。というか、人間だって他人に横からのしかかられたら耐えられない。」

明美「あ、それは、・・・・・・・対策が無い!」

まゆ子「人間でさえ、横からのしかかられたら自分もこけるしか方法が無い。当然ロボットにそれを回避する方法が有るわけがない。どうしよう。」

明美「どうしようって、こけないで下さい。」

まゆ子「サルボモーターはこけないように動かす事ができる。ようするに手を横に張ればいいんだから。手が完全に転倒回避に使えるサルボモーターは、横にこけないように動ける優れたロボットだ。だが、」

明美「だが?」

まゆ子「力が強過ぎる。170センチのロボットが、まあ軽くても100キロ、本当に軽く作っても50キロよりはよほど重いだろう。明美ちゃん、50キロの人がのしかかって来て、あなた耐えられる?」

明美「50ですか? ・・・・・・・・ちょっと苦しいです。まゆ子先輩くらいですかね、体重。」

バキ!

明美「・・・・・ふぁ!先輩くらいです。はい。で、ふぁ!先輩がのしかかってくると、無理です。」

まゆ子「ふぁはもうちょっと重いよ。でもまあ、そういう事だ。そんな重たいものが、こけないように手を突っ張るわけだね。」

明美「ああ、・・・・・かなりの力になりますね。それがもし人間に当たってしまったら、」

まゆ子「手はクッションじゃないよ。ふわふわしたもので支えるのは却って危ないから、タイヤくらいの固さはある。すくなくとも人間の手と同じ固さはある。で、そんな固さでぶん殴られたら、K1選手のパンチに匹敵するでしょうね。」

明美「こけるにこけられない、でもこけてはいけない。無茶ですね、それは。」

まゆ子「対策は、さらなる軽量化しかない。20、いや15キロくらいにまでロボットを軽量化しなくちゃいけない。」

明美「全体でそれですよね。エンジンは、エンジンはどこに載せるんですか?!」

まゆ子「エンジンの重量で許容されるのは、8キロくらいだ。フレーム全体で8ー10キロ、エンジンで8キロ、残りはコンピュータとか空気ポンプとかバルブとかチューブとかの補助部品、さらに外装のクッションが5キロは必要でしょう。30キロだね。人間と対決し得るロボットは、安全性を考えると30キロ以下でないと許可出来ない。」

明美「げー、小学生だ。」

まゆ子「そう、小学生だ。でも、あんまり背が低い相手だと、プロのサッカー選手はかえってやりづらい。身長は160、いや、170を要求するだろう。頭で20センチは稼げるけど、150cmで30キロか、ぎりぎりってとこだね。」

明美「ひょっとして、バイクのエンジンというものは、8キロではおさまらないんではないでしょうか?」

まゆ子「スーパーカブの50ccのエンジンでも、無理でしょうね。搭載可能なのはラジコン飛行機のエンジンくらいだ。どう考えても出力が足りない。」

明美「ど、どうしましょう。」

まゆ子「ジェットエンジンだ。出力を最大限に引き出す為にはジェットエンジンを搭載する以外ない。タービンジェットエンジンだね。これなら、最少の重量で最大のパワーを出力できる。ついでにコンプレッサーを排する事ができるから、サルボモーターの動力として申し分ない。でも電力に変換しなきゃいかんだろうから、相当パワーロスするだろうねー。」

明美「電池はどうですか?超伝導電池とか。」

まゆ子「50歩100歩だね。どちらが早く止まるか、ってとこでしょ。サルボモーター形式なら、ジェットエンジンがふさわしい。電池だとコンプレッサーが要るからね。でも関節のあるモーターで動くロボットであれば、さあ、アシモよりも弱っちいロボットになるでしょう。人間とぶつかったら手足骨折脱臼しまくりだ。」

明美「じゃあ、じゃあ少林サッカーってのは、やっぱ無理ですか?」

まゆ子「ふふふ、そこだ。総重量30キロしか許されないロボットの出力は、実に人間と同程度でしかない。これがどういう事か分かるかね?」

明美「それは、・・・・・・・・・・・・・、人間と同じ動きをするしかない、という事ですか!」

まゆ子「実はサルボモーターには最初から必殺技がある。サルボモーターのアクチュエーターは板バネと空気圧で動くのだが、この形式では瞬間的にパワーを発揮する事が出来ない。初動時に動力供給からすこし遅れて駆動する事になるのだね。これを克服する為に、空気圧を使って瞬間的にパワーを発揮する特殊な駆動系があるんだ。それは、衝撃波。胴体の根元で爆発を起こして、空気圧を使って手足の末端に衝撃波を伝えて瞬間的にキック力を発生して駆動する。」

明美「ほお。」

まゆ子「これは、もともと中国拳法の発勁にヒントを得て作られた機能なのだ。そして、サルボモーターのダッチワイフ的手足は、その衝撃波を柔軟な素材で作られた風船状手足をひねる事でぐるぐるパワーに変換して、くるぶしから足、腰を伝ってひねりを増幅し、全身に伝達する事が可能だ。つまり、」

明美「少林さっかー、なのですね。」

 

 

2002・5・27

 

inserted by FC2 system