まゆ子のましなりぃ
バックナンバー2 02/11/15


「宇宙最強戦闘機伝説」
「ENTERtheDRAGONCOMPUTER」
「SFお料理天国」
「”サイボーグOOQ”の巻

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宇宙最強戦闘機伝説

まゆ子「「さてみなさんお待ちかね。”宇宙最強戦闘機伝説”です。」

明美二号「あ、やっぱりするんですか、それ。ブラフかと思っちゃった。」

まゆ子「予告しちゃったからね。とはいえ、世間一般のSF作品に出て来る宇宙戦闘機が、どうしようもなくいいかげんってのは、これはまあSF関係者ならみんな知ってる事だからね。誰かが天誅を下さなければならない。」

明美「いや、そんなに入れ込まなくても。」

まゆ子「さて、宇宙最強戦闘機というからには、戦闘機以外の兵器についても語らねばなるまい、て言っても、宇宙というのは無重力で前後左右上下も無い、しかも大きさも機動力にはあんまり関係ないという厄介な空間なんだ。」

明美「大きさが関係しない? そうなんですか?」

まゆ子「それがロケットというものなんだ。ロケットの性能を決めるのは比推力、つまりどういう仕組みで推進するかってコトであって、同じ推進システムを持っている場合は、推力と機体重量のバランスが同じであれば同じような速度までちゃんと出るんだよ。ま、大きいのは小回りが効かないってのはあるけれど、ある程度の速度を出してしまうとどんなに小さいロケットでも、そう簡単には曲がれないからね。いくら運動性が優れているっていっても、旋回半径1000キロメートルって世界なんだから。」

明美「はあ。じゃあ、無理して戦闘機を小さくしなくてもいいって事ですか。」

まゆ子「むしろ搭載する兵器のエネルギーレベルにふさわしい大きさ、ってのが重要だね。必要な破壊力を産み出すだけのエネルギージェネレータが要求するボリュームが、宇宙戦闘機のサイズを決定する。」

明美「じゃあべらぼうに大きな破壊力が必要だったら、馬鹿でっかい宇宙戦艦みたいな宇宙戦闘機、ってのもあり得るんですか?」

まゆ子「”宇宙戦艦ヤマモトヨーコ”じゃあ、女子高生が操縦する一人乗り宇宙戦艦ってのが出て来るよ。」

明美「はあ。そういうもんなんですね。」

まゆ子「というわけで、どういう兵器を搭載するか、これが宇宙最強戦闘機を決める最重要ファクターって事になる。」

明美「やっぱレーザーですか。それとビーム兵器ですね。」

まゆ子「ビームはねえ・・・、ビームはあんまりお薦めできないなあ。」

明美「あ、やっぱなんかあるんですか。」

まゆ子「拡散するんだよ。荷電粒子ビームはもちろん、中性粒子ビームでも。ターゲットの距離がべらぼうに遠いし速度も速いから、当たらない。」

明美「あ、ビームって光速で飛ぶんじゃないんですか?」

まゆ子「レーザービームは光速だ。でも粒子ビームは光速よりもずいぶんと低い速度で発射されるのが普通だね。なんとなれば、つまり、加速器で粒子を加速して発射するんだから、加速器の性能以上の速度はでない。つまり、ビーム兵器とレールランチャーとは同類の兵器なんだ。でもレールランチャーが光速の弾丸を発射するとは誰も考えない。同様に、粒子ビームも光速では発射出来ない。もちろんレールランチャーよりはずっと早いけど、でも、宇宙で兵器として使うには遅過ぎるでしょうね。破壊力もあんまりないし。」

明美「破壊力も無いんですか、それじゃあ使えませんね。」

まゆ子「あ、破壊力はまあそれなりにはあるんだよ、でも拡散するから高速で移動する遠距離の物体にはあんまり効かないってだけど、固定目標にはそれなりには効果はある。というか、近距離であれば、粒子ビーム砲は火炎放射器のように使うことが出来るのよ。それはそれで便利だわ。」

明美「近距離ってどのくらいですか?」

まゆ子「100キロ以下。なるべくなら10キロ以下。いやいや、どうせなら数百メートルにまで近づきたいね。今の実験室レベルのビーム兵器は、・・・・30センチだもん。」

明美「あはははっはあ。そんなものは全然使えません。そうか、ビーム兵器はダメなんだ。」

まゆ子「攻撃兵器としてはね。ところが防御兵器として見た場合、これは逆に拡散するってのが非常に大きなメリットになる。つまり、荷電粒子をばらまく事で煙幕になるんだ。レーダーや光学、赤外線熱センサー、全てに有効な目くらましだよ。これだったらあんまり高速の加速器は要らないから宇宙戦闘機にも搭載可能だ。近接なら破壊力は十分にあるから、ミサイルを焼いて破壊する事も出来る。つまり、近接防御の必須アイテムとして装備を推奨してもよいね。」

明美「はあ。そういわれると便利だ。でも主力兵器では無いんですね。じゃあ、レーザーですか。」

まゆ子「レーザー。いいね。レーザーは宇宙兵器としては理想的だ。なんたって早い。しかも拡散しないから遠距離のターゲットを確実に破壊出来る。有効射程距離はたぶん1000万キロ以上。ひょっとすると億キロでるかもしれない。問題は、エネルギーレベルだ。」

明美「あんまりエネルギーは無いんですか、レーザーって?」

まゆ子「波長が問題なんだ。何nmの光を出すか、これが問題。波長が短くなればエネルギーは上がるが発生させにくい。長くなれば、ほら、反射もされちゃうんだよ。」

明美「あ、鏡ですね。レーザーは鏡で反射できるんだ。でも、なんか、レーザーは完全には反射出来ないで一部吸収されて鏡を破壊するって誰か言ってましたよ。」

まゆ子「鏡を何百枚も用意すればいい。薄膜の厚さでも宇宙空間では理想に近い鏡面を形成する事が出来る。それが吸い取り紙みたいに何百枚も重なってれば、無力化は十分可能だ。それに安い! 鋼鉄の装甲板作るのの100分の一以下の値段でそんなもん作れるでしょう。」

明美「じゃあ、鏡で反射されない波長のレーザーが必要なんですね。なんですかそれ。」

まゆ子「X線だよ。X線レーザーだったら、反射されない。」

明美「あ、レントゲンですか。そりゃあ、あれは、鉄でも透かして見れるんですから、鏡なんか効かないでしょうね。じゃ、決まりです。最強宇宙戦闘機はX線レーザーを装備、と。」

まゆ子「それはいいんだけどねー、鏡が無いと効率的にレーザー作れないんだ。」

明美「げ、じゃあ、宇宙戦闘機の中では、X線レーザー作れないんですか?」

まゆ子「作れる。でも、効率がべらぼうに低い。レーザーの作り方ってのは簡単なんだ。透明な円筒状の物体に周囲からべらぼうな光を与えてやれば勝手に位相の揃った光が円筒の前後方向に出て来る。X線レーザーも一緒で、べらぼうなX線を媒質に叩き込んでやれば勝手に出る。でも、普通可視光線のレーザーは鏡で前後に何度も反射させて、位相をちゃんと揃えるんだけど、鏡が使えないX線レーザーでは最初のが素通りして出ちゃう。」

明美「はあ、効率低くなるんですね。でも出るならいいじゃないですか。それだけ強力なエネルギーを宇宙戦闘機に搭載しとけばいいんですから。」

まゆ子「昔昔のアメリカのSDI計画では、X線レーザーを作るのにエネルギー源として原爆使ってた。つまり核爆発のエネルギーをX線に変換してレーザー媒質に入力、指向性を与えてミサイルに当てるってのだ。当然地上では使えない。人工衛星なんだけど、使い捨てだ。レーザー一発、それも数十分の1秒の発振時間で、おしまい。」

明美「ひょっとして、宇宙戦闘機も、使い捨て?」

まゆ子「それに、そんなべらぼうなX線を発生させたら前だけじゃなくて全周囲に飛び散って、搭乗しているパイロットも搭載している機器類も、全部被爆、というか、破壊されちゃうでしょうね。X線は鏡で封じ込める事ができないんだから。」

明美「・・・・・・X線やめて、もうちょっと、控えめに、出来ませんか?」

まゆ子「という訳で、鏡が使えてぎりぎりまでエネルギーの高い、紫外線レーザーが宇宙戦闘機の主兵装に決定しました。でも、結構いいですよ。さっき言った薄膜鏡でも、数百枚が、数千枚くらいには必要でしょうから。まあ、紫外線レーザーが相手なら素直に金属の装甲板を使うだろうけど。」

明美「じゃあ、紫外線レーザーは普通の鉄の装甲で防げるって事ですね。」

まゆ子「・・・・明美ちゃん。今でも実際の兵器の装甲ってのは普通の鉄じゃあないんだよ。ま、なんだ、そうはいっても、普通は鋼鉄の厚さで装甲強度を示すんだけど、宇宙だったらチタン板の厚さかな? チタン10センチの装甲に一瞬で穴が開く、くらいの破壊力は必要でしょう。ちなみにこの一瞬てのが曲者で、つまりレーザーは砲弾と違って照射時間てのの表記が不可欠なんだけど、ま、100分の1秒くらいかな。100分の1秒のレーザー照射でチタン装甲10センチに穴が開く。当然これを連続照射で1秒以上当てたらもっと厚いのでも穴が開くわけで、そこらへんが砲弾やミサイルとはちょっと違うところだね。照射時間が稼げれば、どんなごつい装甲を有する兵器でも破壊可能、ってのがレーザーの兵器としての優位というやつなの。かわりに、破壊するのに必要な照射時間がなければ、たとえターゲットに当たっていても破壊は不可能。高速で運動する宇宙戦闘機を破壊するにはどうしても照射時間100分の1秒以下で有効なダメージを与える必要があるでしょう。」

明美「でも、チタン10センチの装甲ってものすごく高価なものになるんじゃないんですか。チタンって高いんでしょ。」

まゆ子「いや、それがね、地上ではチタンは高いんだ。加工するのがずいぶんと難しいからね。エネルギーをべらぼうに食うんだ。ところが宇宙空間ではエネルギーは太陽からただ同然に手に入る。材料としてのチタンそのものはそこらへんの小惑星や月面にも嫌と言うほどあるから、なんだったらチタン1メートルの装甲を持つ宇宙戦闘機ってのも製造可能だわ。」

明美「む、レーザーでは破壊出来ないですね。近距離で核爆弾でもぶつけなきゃいけないかもしれない。」

まゆ子「チタン1メートルの装甲の宇宙戦闘機は、ひょっとしたら核爆弾にも耐えられるかもしれない。乗ってる人間は別として。」

明美「そうかー、X線レーザーはやっぱ必要なんだ。」

まゆ子「というか、さっき言ったX線を大量に発生させる核爆弾、まX線じゃなくても中性子爆弾でもいいけど、が、お薦めだね。でも、そんなのが近傍にやって来るまで待つ宇宙戦闘機は無いよ。レーザーで撃ち落とす、またビーム兵器で目くらましをするんだから。」

明美「じゃあ、破壊出来ないんですか。宇宙戦闘機ってのは、というか、そんなのはもう宇宙戦艦ですけど。」

まゆ子「うーんそうだねえ。光学兵器では無理っぽいねえ。やっぱ最後に頼るべきは質量兵器、砲弾だよ。」

明美「ほうだん? 大砲の弾ですか?」

まゆ子「もちろん火薬では撃ちださないさ。といって、レールガン、リニアランチャーのたぐいもなんだねえ。あれは早いって言ってもせいぜい10km/secだから。もっと高速の、ミサイルだね。」

明美「やっぱりミサイルなんですか? でも撃ち落とされるんでしょ、レーザーで。」

まゆ子「中身が脆弱な爆裂するようなのであればね。たんなる金属の固まりに鏡面装甲を施した、文字どおりの砲弾であれば着弾までに破壊されない可能性がある。というか、破壊されても着弾するでしょう。1トン砲弾であれば、いくらチタン1m装甲であっても、その衝撃で機体全体に衝撃波が発生して、多大なダメージを与えられる。それも速度が早ければ早いほど破壊力は強くなる。」

明美「当たれば、ですね。宇宙戦闘機はちゃんと動いて回避出来るんですから、砲弾なんか当たりませんよ。」

まゆ子「うむ、まったくだ。となれば、砲弾にちゃんとしたロケットエンジンを装備して、自力で方向を修正できる、つまりミサイルのようなものであるべきだ。で、できるだけ近づいて、標的の運動量から角度的に回避不能という距離にまで接近したところで弾頭のみを一気に加速、敵の迎撃手段を全て甘受して耐えに耐え、溶解しながらも直撃して破壊する。まあ、その最後の加速には、核爆弾で推進させるってのもいいかもしれないね。」

明美「うーーーーーん、おもったより現実的で堅実ですね。それなら、ありかもしれない。でも、防御手段はあるんでしょ。」

まゆ子「盾だね。チタン1メートルの装甲でダメなんだ。10メートルにすればいい。それも自機の外に別に付属物として直径10メートル厚さ10メートルの円筒形のチタンの固まりを備えておいて、砲弾を受け止める。」

明美「ホントの盾ですね、それ。でも、堅実だ。破る方法もあるんでしょ。」

まゆ子「そりゃあ、数発まとめて撃てばいい。」

明美「それを防ぐ手段は?」

まゆ子「あのねえー、攻撃は最大の防御っていうでしょ、こっちからも撃ち返してやんなさい。」

明美「あ、・・・ばかでした。」

まゆ子「という訳で、宇宙戦闘機の武装は、主兵装として質量弾ミサイル、副として紫外線レーザーと中性子爆弾、防御兵器として拡散粒子ビーム砲とチタンの塊を盾として持っている、ことになる。」

明美「はあ、極めて常識的な線ですね。あ、でも、本当にもっと凄い武器ってのはあり得ないんでしょうかね。たとえば、EVAには反物質粒子ビーム砲ってのがありましたが。」

まゆ子「あはは、反物質粒子ビーム砲は、その特性は荷電粒子ビーム砲と同じなんだ。対抗手段も一緒、荷電粒子ビームで相手のビームを迎撃すればよい。当たらなくても軌道が逸れりゃあ上等。元から装備する荷電粒子ビーム砲で十分防げるよ。」

明美「あちゃ、思ったより手ごわい。じゃあ、それらを装備するとして、宇宙戦闘機ってのは、全長・・・。」

まゆ子「正面投影面積を最少にするためには、敵に正面を向くのが妥当だから、機体の前後にチタンの盾を配置するとして、全長120m、ってとこかな。直径14、5メートルの円筒形。重量はまあエネルギージェネレータがどのくらいの質量を持つか見当もつかないけど、大体300tから500t、その内、推進剤として水かなんかを200tくらいかな? 300tで全備重量500tってのは、妥当なところかな?」

明美「かなりでかいですね。まるで船だ。」

まゆ子「で、乗員は、三名ってとこか。このくらいなら宇宙戦闘機って言っても悪くないんじゃないかな?」

明美「ええ、そうですね。人数が10人以下なら、まあいいんじゃないですか。」

まゆ子「で、この宇宙戦闘機は、地球の戦闘機とは違ってバックができる。」

明美「バック? ああ、後ろにも逆推進で動けるんですね。宇宙船ってみんなそうじゃなかったですか?」

まゆ子「そういうのとはレベルが違う。前方に推進するのと同程度の推力を逆推進でも持つ。つまり、推進に関しては前後の差は無い。」

明美「ええーっ、なんでですかあー。前に飛ぶ方が早いのが当たり前じゃないんですかー?」

まゆ子「前というのは武装が指向する方だとしよう。で、敵と遭遇する。どうする?」

明美「そりゃあ接近しますよ。近づいて攻撃です。」

まゆ子「当然相手も近づいて来る。どこまで近づく?」

明美「そりゃあ、戦闘に都合にいい距離です。でも、それは相手も近づくんですよね、じゃあ、どんどん近づき過ぎてしまう・・・・・。」

まゆ子「そのまますり抜けて通り過ぎるか、進路を変更して舷側をさらけ出すか。あるいは後退して距離を保つか? どうするね?」

明美「・・・・・後退が、楽ですね。」

まゆ子「敵が一機とは限らないからね。距離を保つべきだ。だが、相手が退かなかったら、どうする? 相手は前方向に推力全開で追って来る、対して自分は後退機動になる。逆推進での推力が前進方向よりも劣っていれば、困るよね。でも反転して後方に機体の方向を転換させる暇は、無い。」

明美「よくわかりました。なるほど、前後に同程度の推力が必要です。」

まゆ子「これを外部から見れば、二隻の宇宙戦闘機が互いに正面を向いて質量弾ミサイルの射程距離くらいを保とうとして、当初の運動量を保持しながら互いを円の正反対側に置くように回り込み回転して、前に行ったり後ろに行ったりを繰り返す事になる。もちろん全体としてはどっかに移動してるんだろうけど、その二隻の相対位置関係はそんなもんだ。」

明美「ちょっとおもしろいですね。」

まゆ子「つまり、宇宙戦闘機とは、それほどびっくりするような速度では動かないんだ。というか、よく勘違いする人が多いけど、宇宙にあるモノはそれ自体ある一定の速度を持っている。で、同じような位置、おなじような軌道にある物体は同じような速度を持っているんだ。これは、地球上にある物体が地球の自転までを考えるととんでもない速度で動いている、というのさほど変わらない。ようするに相対速度の問題なんだ。で、基本的に相対速度がゼロくらいじゃないと、ろくな戦闘なんて出来はしない。衛星速度を出したり止めたりしながらの戦闘なんてのは起こり得ないんだ、この程度の技術レベルでは。」

明美「そういうのが出来るのはどのくらいの科学レベルなんですか? ひょっとしてワープとか必要だったりして。」

まゆ子「あーーー、そのくらいだね。少なくとも対消滅ロケットエンジンとかは必要だ。それも大加速や大減速、Gでいえば1000とか一万とかのレベルでの急加速が必要だから、人間の出る幕はない。」

明美「爆発?」

まゆ子「そうそう。対消滅爆弾の爆圧で加速するくらいのもんだね。うん。」

明美「なるほど、ワープエンジンが必要ですね。で、その宇宙戦闘機ですが、やっぱり動力は核融合炉ですか。」

まゆ子「ま、他には考えようがないから、そうでしょうねえ、って、最近はあんまり核融合炉ってぱっとしないんだけどね。」

明美「あ、なんかうまくいってないんですか、開発。」

まゆ子「すすんでるんだけどね、以前考えられていたほどはクリーンでもないしスマートでも無いというのが、だんだんバレて来たんだ。たとえばこれから作る新しい核融合実験炉だけど、これは一応は発電も考えてるんだけどその方法が酷いんだ。核融合で発生する中性子を炉壁に吸収させて発生する熱を、水で冷却して炉壁を保護しつつ熱湯にして蒸気を沸かし、それで従来どおりの蒸気タービンで発電するんだ。」

明美「アナクローーーーー。」

まゆ子「で、その中性子を吸収した炉壁ってのが、これがとんでもない核廃棄物になるんだな。核融合発電の利点の一つは核廃棄物が出ない所にあるんだけど、これではだめだ。」

明美「はあ、それは知りませんでした。核廃棄物ですか、それじゃあ今とおんなじじゃないですか。」

まゆ子「問題はまだある。つまり炉壁が中性子を吸収して熱を出すわけだから、炉壁が溶けちゃうような高温は出せない。つまり、そうそう巨大なエネルギーを発生させる訳にはいかない。という事は、核融合炉に期待される超巨大な発電能力はとても無理なんだ。さらに言うと、蒸気で発電するからには小型化は困難。たぶん、巨大な原子力空母くらいしか搭載できない。とても宇宙戦闘機には使えない。」

明美「はあ。」

まゆ子「さらに言うと、トカマク式なんだけどね、あれは燃料を再投入しての連続運転は出来ないんだ、原理的に。一回反応を起こしてはいったん冷やしてプラズマを再投入、臨界条件まで持ち上げて再度反応、ってま、仕方がないんだけどこういう形で運転する。でも、そんな微妙な反応を24時間何日も連続して起こし続けられると思う?原理的には可能だけど、技術的には不具合いっぱいってとこなんじゃないかなあ。」

明美「そんな、じゃあ宇宙戦闘機の根本が成り立たないじゃないですか。」

まゆ子「もう一つレーザー式って核融合方式があるけど、これはもともと発電には向いてないしね。宇宙船を推進させるには便利な方法だけど、でも超強力なレーザーで核融合燃料を反応させるんだけど、その為には宇宙船内部に超強力な発電設備が必要だ。といって、原子炉を積む訳にもいかないから、つまり、電源が無い!」

明美「うそお、それじゃあ困るじゃないですか。なんかないんですか。」

まゆ子「仕方がないから、新しい宇宙船に搭載する為の核融合発電装置まで考えてしまったよ。

 核融合発電に期待されるクリーンな発電方法ってのは、核融合で生じるものを全て荷電粒子か光子にして、中性子が発生しないようにすることを要求する。が、そのためにはヘリウム3という、現在のトカマク式ではとうてい得られないプラズマ密度が必要な厄介な燃料を使わなくちゃいけないから、ま使えない。それにトカマク式はややこしいぐねぐねとした電磁コイルをぐるぐると巻いていて、せっかく全部荷電粒子にしても電力としては回収出来ない。つまり、もともときれいな発電には向いてない方法なんだ。で、向いてる方法はあるかといえば、全然主流じゃないけどミラー型ってのがあるんだ。わたしはこれを改良した。」

まゆ子「つまり、ミラー型ってのは前後に電磁コイルを置いてその間にまーるくプラズマを閉じ込めちゃおうという非常にシンプルな方法なのね。だから、前から燃料となるプラズマを供給して、後ろから反応してエネルギーを持った荷電粒子を排出してその先に電磁的にスマートな発電機を設置するという、非常にシンプルな装置に成り得るんだ。だが、シンプルすぎて肝心のプラズマ密度が稼げない。

 そこで、わたしは、そのまーるい、ぼけぼけとして核融合臨界条件を全然満たしていないプラズマ塊に外から馬鹿みたいにえねるぎーを与える方法を考えた。って、それはどこの研究者でもやってるんだけどね、大概は電磁的にコイルを通してじわじわとプラズマを温めていくんだけど、わたしは気が短いから、

 反物質の粒子ビームを撃ちこむ事を考えた。

 つまり、核融合の燃料であるプラズマ塊の原子核に反物質の粒子をたたき込んで対消滅反応を引き起こし、それで生じるエネルギーでいきなりプラズマ塊の内部で臨界条件をクリアしちゃおうって寸法だ。」

明美「あの、すいません、それって、反物質発電機じゃあないんですか?」

まゆ子「ガスレンジに火をつけるのに、点火の時に飛ぶ火花をさして、火花レンジというかい? これはあくまで核融合発電で、対消滅で種火を付けるだけのもんなんだ。ま、問題はそんな反物質粒子ビームがうまく、必要な密度で得られるかってとこだけど、まあ密度なんかは反物質粒子ビーム発生器を束にして設置すればいいだけだから、ほぼ確実に点火するね。」

明美「これなら宇宙戦闘機に積めるんですか?」

まゆ子「その反物質粒子ビーム発生装置の大きさ次第だね。といっても、実験用加速器と違ってそんな馬鹿でっかい加速器は必要ないんだけどね。で、これなら、本来SFで期待されているような大電力が、ほぼ確実に得られる。しかもクリーンでスマートだ。

 

 というわけで、他に誰かもっとすばらしい、現実的な、技術的に実現可能な、しかも小型で大出力な核融合発電装置を考えてくれるまでは、これで議論を進めていこうと思う。」

明美「あ、なんだ、やっぱり仮想のものなんだ。でも、素人目にはうまくいきそうな気もしますねえ。」

まゆ子「反物質を発生させる装置。それでもぎりぎり可能な限り圧縮された燃料プラズマ。で、内部の対消滅で発生したエネルギーをちゃんと燃料の原子が受け取ってくれるか、という問題もある。ホントに使えるかどうかは、さあてねえ。」

明美「で、その新型核融合炉はパワーはあるんですか? 宇宙戦闘機として大活躍できるくらいの。」

まゆ子「構造がシンプルだから無理が効くんだよ。原理的にはこれもパルス状に反応を繰り返すんだけど、トカマク式のぐねぐねプラズマよりもミラー型のまんまるプラズマの方がよほど簡単だから、連続運転に適している。それも発電が荷電粒子によるものだから、どんどこどんどこ発電出きるんだ。まあ、どのような燃料を使っても多少は中性子は出て問題は無いことは無いんだけどね。で、電力が直接大量に引き出せるから、むしろ電気をどうやって溜めとこうというのが問題になるくらいだ。

 だから、こんな感じかな。核融合炉の炉心はともかく冷やさねばならない。だから冷却水を流してお湯を作る、蒸気を作る。この蒸気は発電には関係ないから、外部に排出される。で、この蒸気をあり余る電力でイオン化して電磁的に加速して放出する。これがロケット噴射として推進する。比推力で2000秒から5000秒ってところかな、かなりの推力と噴射速度を稼げる、よいロケットだよ。前後に同程度の推進力を出すってのも、この形式なら簡単だ。

 つまり、宇宙戦闘機の舷側左右に、ロケットノズルが前後に二つ付いている、って形になる。外輪船みたいだ。」

明美「じゃあ、これで問題は全て解決だ。」

まゆ子「いや、まだある。さっきから核爆弾核爆弾って気軽に言うけれど、実は宇宙には核爆弾は無い。」

明美「え、ウランって宇宙には無いんですか?」

まゆ子「無いとは言わないけど、でも地球とは異なる形で存在するでしょう。地球では地下のマグマに温められた熱水が岩盤中の重金属を溶かし出して濃縮して蓄積するんだけど、月にはこのシステムは無い。ま、月には月の地質現象があるだろうから、ウランの鉱脈が無いとは言わないよ。でも、宇宙ではエネルギーは嫌と言うほど降り注ぐ太陽光線から無制限に得る事が出来る。となると、発電目的でウランを掘る必要は全く無い。用途は、兵器のみだ。

 で、未来の人類にまともな理性ってものがあるとしたら、・・・・こんなものは許さないな。」

明美「許しませんね。許せませんよ。しかし、ちと困りますね。地味だけど、ちょっと不都合がある。」

まゆ子「特に質量弾ミサイルはね。あれは最後の加速を核爆弾に頼ってるから、別の手を考えなければならない。といっても、あんまり困らない。まあさすがに核融合エンジンを搭載するわけにはいかないけど、宇宙戦闘機本体にはちゃんとある。レーザー光線もある。

 つまり、宇宙戦闘機本体からレーザー光線を使って質量弾ミサイルにエネルギーを与え、推進剤を加熱加速して推進する。これも推進剤は水で結構だから、まあ、楽といえば楽だ。でも核爆弾にはそれはそれで用途はあるんだけどねえ、しゃあないか。」

明美「はあ、なんとかなるじゃないですか。」

まゆ子「だが、この核融合発電機、始動には大量の電力が必要だ。いったん動いてしまえばどんどこ自力で発電して自分が動く為の電力を稼げるんだけどね、ともかく最初に動くにはなんかパワーのある電源が必要だ。で、宇宙空間で宇宙戦闘機が止まってしまった場合に緊急用発電機として核分裂爆弾か核分裂発電機を想定してたんだけど、・・・・どうしよう。」

明美「どうって、言われても、緊急用ってのは太陽電池程度では動かないって事ですよね。うーーーーーん、化学的なのはダメですか?」

まゆ子「ダメだね。弱過ぎる。電気を溜めておくってのも間抜けだし、反物質は溜めておきたくはない。なーんかねえー。」

明美「あの、・・・・・核融合炉でも核廃棄物は出るんですよね。核分裂燃料ってのを、作れないんですか?」

 

まゆ子「お?!      おおおっ?」

 

 

2002/4/5

 

 

ENTERtheDRAGONCOMPUTER

明美2号「え、またコンピュータの話するんですか? あれ没ったんでしょ。」

まゆ子「しっぱい、したからには、リカバリーするしか、無いでしょ。」

明美「根性悪いですねー。でも、そもそもどこを間違ったんです。」

まゆ子「このぺーじは本来お話しのネタを書くところなんだ。しかし、その提供はそれ自体一個のお話しとして為される。つまり、これ自体が完結した一個のお話、創作物なんだ。でもこないだのはそれがうまくいかなかった。」

明美「はあ、じゃあ要するにこないだのは行き当りばったりで書いたってことなんですね。」

まゆ子「基本的にはこのページは行き当りばったりで書いているんだけど、でもその前にネタをずいぶんと吟味してちゃんと落ちを考えてから書いている。この間のはただ単にネタの羅列として、コンピュータ買った勢いで書いたもんなのよ。とはいえ、そのネタ自体は以前からすーっと考えていた事なんですけどね。」

明美「じゃあ今度は落ちがあるんだ。」

まゆ子「そりゃもちろん。

 

 

 で、”ENTERtheDRAGONCOMPUTER” です。」

 

明美「どらごんコンピュータってのはそもそも一体なんなんですか。」

まゆ子「私が勢いでこの間考えついた概念で、地上最強コンピュータの称号よ。現在地上に存在する最も強力なコンピュータに対して与えられる名誉の事よ。」

明美「なるほど、じゃあどっか政府機関の特殊なスーパーコンピュータとかの事なんですね。」

まゆ子「いや、そうじゃない。ドラゴンコンピュータというものは、戦わなければならない。戦うコンピュータとして地上最強のものをドラゴンコンピュータと称するわけだ。」

明美「おお、なるほど。まさしくドラゴンの名にふさわしい概念だ。じゃあそれはコンピュータ同士が通信でハッキングしあうとかして戦うんですね。」

まゆ子「うん。だから、そのコンピュータを駆る者こそが現代社会の最強者というわけね。」

明美「そうかあ、これでぐっとお話しっぽくなりますね。

 という事は今回のテーマは、ドラゴンコンピュータの作り方ですね。」

まゆ子「GOOD! 

 

 さて、ドラゴンコンピュータを考える際に一つ潰しておかねばならないものがある。コンピュータウイルスだ。」

明美「あれ、コンピュータウイルスってドラゴンコンピュータの武器になるんじゃないですか。」

まゆ子「そういう考え方もあるけれど、ドラゴンコンピュータは相手のコンピュータを潰すだけじゃあ、勝ったとは言えないんだ。相手を乗っ取って自在に操る事が出来て初めてドラゴンの名にふさわしいと言えるでしょう。」

明美「はあ。という事は、コンピュータウイルスはドラゴンコンピュータの邪魔になるんですね。相手のコンピュータを潰してしまうと乗っ取れないから。」

まゆ子「まあ、潰して乗っ取るという手もあるし、相手に負荷を掛けてセキュリティを甘くするとか、あるいはぶっ潰して復旧する隙を衝くとか色々と応用方法もあるんだけど、でも、ウイルス自体はドラゴンコンピュータには成り得ない事を覚えといてね。」

明美「あ、結局は最終的にウイルスが関係するんだ。絶対そうだ、そうでしょう。」

まゆ子「うーーー、だからそこは覚えといてって言ってるじゃない。

 

 その前に、なぜドラゴンコンピュータが存在するか、それを説明しなければいけないわね。

 ドラゴンコンピュータってのは最強コンピュータってわけだけど、なぜ最強でなければならないといけないかというと、世界を支配するためなのね。コンピュータを使ってあらゆるシステムに入り込み、ありとあらゆるものをクリック一つで自在にコントロール出来る。これがドラゴンコンピュータのあるべき姿なの。」

明美「おーーー、なんというか、まさにB級SFの最終ラスボスのアイテムですね。でも、そんなものが本当にあり得るんでしょうか。」

まゆ子「そうだね。いくらなんでもそんなもんがホイホイ出来ちゃったら世の中大爆発しちゃうからね。

 とはいえ、アメリカはハッキングの防御研究をした結果、不正侵入はどうやっても防げないという事が明らかになっちゃったっていう話だよ。これは、或る意味、アメリカにとって望ましい状況でもある。つまり、最も強力なコンピュータ技術力を持つ者にとって、現在の状況はまさにドラゴンコンピュータが存在しているのと同等だ、というわけね。」

明美「つまり、現在すでにドラゴンコンピュータは、ある、んですね。」

まゆ子「つまり、コンピュータというものは、機械と、ネットワークと、それを使う者によって成り立つ。現在ドラゴンコンピュータは高度の技術を有するコンピュータ技術者の集合体、がそれである、と言えるね。だが、」

明美「だが?」

まゆ子「技術の進歩はいつの時代も人間には厳しい。どれだけ個人の才能を誇っていても、新しいデバイスの出現でいきなりその地位を追い落とされるんだ。」

明美「じゃあ、早い内に、人間の代わりをするコンピュータが出現すると、」

まゆ子「いや、機械としてではなく、人間の努力を無にするような、個人の才能に頼るのがしごく間抜けに思えてくるアプローチが実現するんだ。

 そもそもね、ハッキングを防げないと言っても、軍用コンピュータのようにインターネットから独立した存在にしてしまえばセキュリティは格段に向上する。いくら、個人のコンピュータとかが、なんらかの形で繋がっているからアクセス可能だと言っても、すべての錠は時間稼ぎであるから、人間が手当てするまで保てばよい、というセキュリティのあり方でもいいんだ。

 それに、ハッキングでも王道中の王道、パスワード解読は、これは銭を持っているところが絶対的に強い。通常のシリコンのコンピュータでなく、遺伝子コンピュータとか量子コンピュータとかの、一般的ではない、やたらめったら金の掛かる計算手段を用いれば、いくら世界中のコンピュータを連結したとしても勝てない程の計算力を持つ事が可能。つまり、パスワード解読という種目においては、政府機関、特にアメリカには絶対に勝てない。」

明美「はあ、そりゃあ、そうですよ。お金を持っている人が一番強いのは自然な事です。」

まゆ子「それを覆す事こそが、ドラゴンコンピュータの存在意義なんだ。」

明美「まさにSFアイテムの面目躍如ってなものですね。

 

       では、どうやったら実現できるんでしょう。」

 

まゆ子「簡単な例を言えば、検索エンジンだ。検索結果を意図的に誘導すれば人間社会のすべての機能を思うがままに操れる。人間の行動を支配すれば、いかに独立したネットワーク、コンピュータシステムであっても自由に操る事が出来る。アメリカ大統領の選挙を支配すれば、強大な米軍の軍事ネットワークを事実上制御する事が出来るわけで、その為には検索エンジンを支配して、インターネット上で活動する膨大な個人の行動に一定の方向性を与えるというのはとても有効な方法だよ。」

明美「・・・・・・・・もう、・・・・・・出来てるじゃないですか。そうか、所詮は人間社会での出来事なんですね。コンピュータを直接支配するんじゃなくて、コンピュータを扱う人間をコントロールするのがドラゴンコンピュータ。まさしく世界を支配する力という訳です。」

まゆ子「だが検索エンジンでは弱い。所詮はパッシブな、受け身的な制御方法だ。どうせなら個人個人が自らの意思でドラゴンコンピュータのパワーを強化するように能動的に関るべきだ。たとえば、その検索エンジンで誘導する方向は、誰がどうやって決める? 世の中のすべての人があらゆる場所から関与する事によって意見が衝突し相殺しあって、整理統合され、最も強力な意思に収斂される、そういうのであれば誰からも後ろ指を差される事はない。」

明美「戦う、わけですね。あくまで戦って勝ち取る事がドラゴンコンピュータの基本原理なんだ。」

まゆ子「つまり、ドラゴンコンピュータは日々ユーザーに依って進化する、強化される存在だ。そして他を駆逐していく。じゃあどうやって、という話になるのだが、この検索エンジンのアイデアは、そのままドラゴンコンピュータの中核に使えるね。

 なんとなれば、最近のオンラインソフトの流行には”ピアトゥピア”っていう互いのコンピュータ同士を直接繋げて、HDDの内容を交換しあうソフトがあるんだけど、検索エンジンにもこれが使える。これはすなわち、ドラゴンコンピュータの背骨に成り得るもんだよ。」

明美「検索エンジンの? 検索結果を交換するんですか????」

まゆ子「検索結果というものは、それ自体はあんまり意味はない。誰でもおんなじ物が得られるからね。でも、その検索結果を評価したもの、というのはこれはある種の知的生産物だ。つまり、あるインデックスで検索して、その結果を評価して、使い物になるものだけを抜き出して、短くまとめるとしたら、立派なコンテンツになるわけね。これを交換する。」

明美「はあ、でもそれは無数の膨大な量の、とんでもなく制御不能な数の件数になるんじゃないですか?」

まゆ子「完全に自由ならね。でも、人間の行動というものはそんなに突飛なものではないわよ。誰かがもうすでにやったような事を性懲りもなく繰り返す、大体はこうよ。人間は自分の見聞きした情報に基づいて行動するのだから、コンピュータを介さずに入手した情報であれば、かなり限定される。

 コンピュータインターネット経由でも、流行廃りはあるんだから、注目される物件ってのは限定される。で、そういうマターに焦点を絞ってこれを統合すれば、極めて効率的にまとまった、知的に処理された情報を入手出来るわけよ。同時に、インデックスを発信して人々の関心を収斂する事で、より深く耕されてレベルの高い情報としてパワーを得る事が出来る。」

明美「やっぱり鍵は人間の行動なんですね。で、実際にはどうやって実現するんですか?」

まゆ子「やり方はすごく簡単。ドラゴンコンピュータは初期にはただの検索エンジンでしかなくて、それも他の検索エンジンに効率的にアクセスするソフトでしかない。ただ、それで得た検索結果に対して「この情報は有益でしたか?」と質問して、YESと答えると、そのリンクと検索キーワードを記録してHDDに記録しておく。これだけよ。」

明美「なんかすごく馬鹿馬鹿しいほど簡単なんですけど。」

まゆ子「簡単だよ。馬鹿馬鹿しいほど。ところがだ、このリンクってのは、どれも誰でも確実に接続出来るとは限らない。リンク切れしてたり、HPが消滅してたり、アクセスの制限されるデータベースだったりしてね。そういう時、その内容を抜粋して同時に保存しておけば、誰でも確実に情報を入手出来る。禁止されたデータベースの内容もね。」

明美「あ、せこい。」

まゆ子「これがピアトゥピアの実力よ。一度閲覧してしまえば、オリジナルのデータベースには用は無い。内容を部分的に外部に公開してしまう事が可能であるわけで、そういう秘密の情報がドラゴンコンピュータを利用して得られると知れば、誰もが利用してどんどん強化されるってわけね。

 

 でも、自分は利益を得ても他人には与えない、っていう人はいる。いや、アクセスの制限されているデータベースの利用者はモラルとして外部にその内容を公表しないでしょう。であれば、餌が要るね。」

明美「利益供与ですか。そういう秘密情報を公開する人はなんらかの利益をもらえるんですね。」

明美「禁止されているようなデータベースの内容を公開すれば、それを利用した人からお金をもらえるようにすれば良い。そうでなくても、インデックスを再編集して、より使いやすくまとめて新しい実体を作って公開すれば、またそれもオリジナルな情報になり、お金が儲かる。ただし、本物のお金では無い、ドラゴンコンピュータネットワークでのみ効果を持つ独自通貨”ドラゴンテール”だ。ドラゴンコンピュータを利用する人はドラゴンテール(”両”=小判の貨幣単位ね)を払って情報を得る事が出来る。

 と言っても、検索エンジンにお金を払いたくは無いでしょ。」

明美「当然です。検索エンジンは只だから価値があるんです。」

まゆ子「そういう事。通常ドラゴンコンピュータを使っている人は、それが有料サービスであるとは認識していない。あくまで通常の検索エンジンとして理解するのだけど、情報を提供する側の人にはお金が入ってくる、そういうシステムなんだ。」

明美「誰も払わないお金が、もらえるんですね。いかがわしい話ですね。」

まゆ子「いかがわしいよお〜〜〜〜。金を払わないのだったら、体で払ってもらうしかないものねえ〜〜〜〜。」

明美「きゃあ、えっち。」

まゆ子「といっても、人間が払うんじゃない。繋いでいる、ユーザーのコンピュータが働いて返すんだ。

 さっきも言ったようにドラゴンコンピュータの情報は、一件一件専門的な極めて限定的な情報だ。それが何億何十億件と世界中ばらばらのコンピュータの中に少量ずつ格納されている。どうやって探し出す?」

明美「無理ですね。不可能ですよ。どこかにそれらを整理統合するコンピュータが無いと、・・・・・・って、他人のコンピュータを勝手にそれに使う気ですか!」

まゆ子「情報のインデックスの整理格納、検索を、それぞれ分散したコンピュータがばらばらに同時に行うわけね。それも期間限定で、数日から数時間でサーバー機能をコンピュータからコンピュータに移動していく。検索も、数十数百台のインターネットに接続したコンピュータを勝手に使って世界中で同時に行う。その間ユーザーである人間は自分のコンピュータが他人に勝手に使われているなんてまったく気づいていない。これはインターネット常時接続が可能になった今だからこそ成り立つサービスよ。」

明美「でも、そんな、勝手に使われても誰も怒んないんですか?いくらなんでもそれはヤバいような感じですよ。」

まゆ子「まずHDD内のスペースだけど、勝手にへんなファイルが増殖すればそれは誰でも怒るわよ。でも、それも許容範囲ってのがある。たとえば、1GbytesのHDDで100Mの領域を取られたら、それは怒るんだ。でも100GbytesのHDDでは1Gbytes取られてもあんまり腹は立たない。容量の100分の1じゃあ、HDD内のファイルの増減が意識されないからよ。で、これからはもっとずっとたくさんの容量を持ったHDDがコンピュータには搭載されるでしょうから、大体テキスト情報であるドラゴンコンピュータの検索結果は、実際の内容も併記した圧縮ファイルで何百万件も格納出来る。

 通信の方も同じよ。54Kbpsのアナログ電話回線でインターネットに繋いでいれば、それを他人が勝手に使えばあっという間に障害が発生するけど、これが1M〜10Mbpsになると、ちょっとくらい相乗りしたって分かんないんだ。光ファイバー通信ならば100Mbps、1Gbytesのファイルだって一分ちょいで転送が可能でしょ。これをばれないように10分くらいに分割して転送すれば、コンピュータのユーザーにとってはドラゴンコンピュータは存在しないも同様。自分のコンピュータで障害が起きなければallOKてなものよ。

 CPU自体の処理能力なんて、通常眠ってるのと同程度しか計算力を使ってないんだもん、他人が利用して何が悪いってものよ。」

明美「負荷は、無いも同然、てわけですか。で、情報を提供する側の人はどういう利益を得るんですか?」

まゆ子「まず、検索の優先順位ね。金持ちは先にサービスを得る事が出来る。また同時に検索に使用するコンピュータの数も多い。他人のコンピュータを数百台以上利用しての膨大な計算力を入手する事も出来るし、同時に大量の仕事をさせる事も出来る。特定ターゲットに大量にアクセスするって事も、一回線のアクセス回数が制限されている端末への、集団でのパスワードクラックも。悪いことをするのには非常に便利なシステムだね。」

明美「はあ、でも、自分が持っているお金を増額したり、データをいじってお金持ちになるって事する人は多いんじゃないんですか?」

まゆ子「それは、まあうまくやってる。基本的には「ツケ」でサービスを利用するからね。他人に貸した金はよく覚えているものだ。他人に貸した金を水増ししても、伝票を相互に暗号化して持っているから、すぐバレるしね。で、そのツケをまとめて取り立てを請け負う機能をサーバーが受け持ったりする。まるで暴力団みたいな機能だよ。」

明美「うわ。」

まゆ子「さて、で、ここで一つ大きな課題がある。

 

   本当のお金と、ドラゴンテールを交換したい、って欲求だ。」

 

明美「うあ、そんな事出来るんですか。それなら是非使いたいです。本当に本物のお金ですよね。」

まゆ子「ドラゴンテールは、架空のお金だ。架空だから、誰が発行しても構わない。だけど、この人には許すけれど、知らない人にはいくら金を持っていても使わせてあげない、って気にもなるでしょ。

 だから、ドラゴンテールはアクセス制限を持つ独自の私的通貨としての機能を暗号技術を利用して実現する事が出来る。今流行の地域通貨ってのを、自分で発行出来るんだ。もちろんアクセス出来る人間を登録して、決まった人だけが使えるようにもできる。

 で、銀行振り込みかクレジットカードで現金を得た人が独自ドラゴンテールを発行して、それが仲間うちで通用する、となると、ドラゴンテールの現金との兌換性が発生するってわけね。これが、個人じゃなくてある程度の資本規模を持つ企業とか銀行であったら、かなり広範囲に通用する通貨を独自に発行する権限を誰もが手に入れられる。」

明美「あ、それって、社会の時間に習ったことがあるような無いような、ひょっとして銀行法違反じゃないですか!」

まゆ子「だーいじょうぶ大丈夫。ドラゴンテールをゲットするのには”手数料”、で、現金化する時はドラゴンテールをなにか景品と変えて、パチンコの景品交換所みたいなところで現金化する、という方法もある。景品をネットオークションに掛けて、特定業者が入札する、という手もある。」

明美「まねーろんだりんぐだ・・・・・・・・。」

まゆ子「うむ。その機能はドラゴンコンピュータに要求される基本機能のひとつだよ。」

明美「現金が動く、となると、ヤバい事も可能、ってわけですか。例えば、人殺しとか。」

まゆ子「うーん、いいね。それとかテロリストに資金協力とか、武器密売、麻薬取り引きとか。完全に匿名で現金化が可能であるね。だが、最も重要なのはやはり情報でしょうね。機密情報をドラゴンコンピュータを使って取り引き出来る、となると、ドラゴンコンピュータの集客力が一気に倍増する。」

明美「まさに悪の為のコンピュータ、ドラゴンコンピュータの面目躍如たるものがある、ってわけですね。でも、政府当局から規制されたりはしないんですか?」

まゆ子「基本的にはドラゴンコンピュータは、悪も出来るコンピュータでしかない。悪人が使わない限りは悪ではない、ってのは普通のコンピュータ、インターネットと同様だよ。ただ、より悪事に利用しやすい、優れたシステムではあるね。特定ドラゴンテールのシステムは、セキュリティの観点から言うと通常のパスワードシステムよりも自由度と安全性が高い。これは、通常の企業や集団、組織にも有益だよ。」

明美「どういうシステムなんですか?」

まゆ子「つまり、特定ドラゴンテールは分割不可能なお金、小判と思えばいい。その小判を誰が持っているか、をシステムのサーバーは記録している。メンバー同士が小判を交換する時も、サーバーを介するわけだから、誰が持っているかは周知の事実。個人というよりも、コンピュータを特定する機能、ってのが効果ある。個人を識別するパスワード、コンピュータを特定するドラゴンコンピュータID、アクセス資格を示す小判と、三要素が揃って初めてアクセス可能になる。パスワードを一回ずつ変更するのは面倒だけど、小判は一回使うと更新されて、幾らコピーを取っててもそれ以降は古い小判は無効になる。小判をどこか別の場所に保管して置けば、もっと安全だね。他のドラゴンコンピュータにはその小判は使えない、んだから。ちなみにドラゴンコンピュータのIDは最初の起動時に乱数で決定されてアクセスも変更も不能だ。暗号化されて隠されている。」

明美「ほお。じゃあ、不正な侵入はドラゴンコンピュータは許さないんですね。ハッキングも出来ないんだ。」

まゆ子「ドラゴンコンピュータは、或る意味仮想のコンピュータ、エミュレータのようなものでね、OSとしての機能も持っているんだ。操作出来るのは、自分の外部の、インターネットで繋がった他のコンピュータであり、自分自身がインストールされているコンピュータには、専用データ領域以外にはアクセスも出来ない。自分自身に害を為すような命令は、たとえ他のドラゴンコンピュータからのものであっても、自分で判断して拒絶する。他からのアクセスは全て悪の意思に基づいている、と仮定する設計思想に則って作られている。

 ドラゴンコンピュータは、他者の善意をあてにするような、そんな脆弱なシステムではない。

 そのかわり、他のコンピュータに対する不正アクセスに使われてもなーーーんにも拒否しないんだな。

 それに、ハッキングに関して言うと、ドラゴンコンピュータは最強だ。ドラゴンコンピュータは通常は単なる検索エンジンに過ぎないけど、その先にはちゃんとハッカーに繋がっている。誰か優れたハッカーがクールな手法を開発したとして、ドラゴンコンピュータを使えば瞬時にそれを全世界の人間が共有出来る。ハッカー専用掲示板を公開しているようなものだね。それも匿名でばらまく事が出来るし、ばらまくとお金がもらえるんだ。またドラゴンコンピュータを使って複数のコンピュータを同時に使う新手法ってのも考えつくだろう。世界中からたくさんの優れたハッカーが殺到して、またたくうちに、世界中のシステムを攻略してしまうよ。

 なぜならば、アメリカに、
   アメリカが持つ最強コンピュータ技術者集団による

       現”ドラゴンコンピュータ”を、

           無効化して攻略する、唯一の方法だからだよ。

 だから言ったでしょ。いつの世も、技術の進歩は人間に冷たいって。」

明美「うう、悪だ。こんなもの作るも悪だけど、考える奴はもっともっと悪だ。」

 

まゆ子「とはいえ、だ。これではまだドラゴンコンピュータの名を冠すには弱すぎる。私の理想とする悪の中の悪、大悪にはまだほど遠い。」

明美「え、もう十分じゃないですか。どんな悪でもこれを使えば可能になるんでしょ?」

まゆ子「たとえば殺し屋を雇う場合、まあ、このままでも見つかるかもしれないけど、でも、本当に殺し屋を雇うとして、どういう手続きが必要なの?」

明美「え、連絡をつけてターゲットを教えてお金を振り込めばいいんじゃないですか?」

まゆ子「あのねー、そもそもその殺し屋なる人が、信用に足る相手であるか、まずこれを審査しなけりゃいけないでしょ。前金だけふんだくってドロン、ってのはまだ良心的な方で、その依頼ってのを記録されていたらそのまま殺人教唆になるんだよ。骨の髄まで恐喝されたりする事もある。また、殺し屋の中には依頼主も殺すようなのもいる。特に、代金でトラブったりしたらね。いや、それをちゃんとクリアしたとしてもだ、警察ってのは馬鹿じゃないんだから、殺し屋と素人の殺し方の区別くらいはつくんだよ。殺し屋だとわかれば、それを依頼した人間が居るに決まってるんだから、被害者の交友関係とか取り引き関係とかを調べて、まったく簡単に自分の所にやってくる。自分でやるよりも簡単にバレるよ。それまでも隠蔽しようと思ったら、4、5人は必要な大仕事になる。当然お金もぼっと上がる。いや、そもそも、本当に殺し屋って見つかるのかい?そんな簡単に素人がつなぎをとれるようだったら、とっくの昔に捕まってるよ。本当に見つけるんだったら、その筋の人間に依頼するしかない。でも、そういう奴らは殺し屋本人よりタチ悪いよ。」

明美「うーーーーーーん、そりゃあ大問題だ。悪い事をするためには、もっと悪い奴につなぎを取らなきゃいけないわけですか。そんなリスクを冒すわけにはいかないですからねえ。うーーーん、確かに、ドラゴンコンピュータはもっと改善されなければいけない。」

まゆ子「それに、クリック一発で世界をコントロールする、というドラゴンコンピュータの要求仕様にはこの程度じゃあまったく不足だ。悪い事でもなんでもする人間ってのは、そうは居ないし、居たとしてもろくな事出来ないだろうし、やるとしてもとんでもない金銭を要求してくるでしょ。とてもクリック一発ってわけにはいかない。」

明美「そうですねえ。基本的なところで間違いがあるみたい。普通の人は悪い事はしないんですから、特に社会的に重要な役割を持った人は悪いことしないでしょうから、これはダメですね。人間はコンピュータみたいに都合よくは動いてくれません。」

まゆ子「それを動かす機能がドラゴンコンピュータには必要だ。ではどうするか。

 普通の人間に悪事を為させるために、ドラゴンコンピュータには”わらしべ長者システム”がついてくる。」

明美「なんですか、そのわらしべ長者システムとは?」

まゆ子「わらしべ長者システムとは、普通の人に、微細なイレギュラーな行為を自発的に行わせる機能だ。操られる人は、それが悪事だとは決して気づく事は無い。」

明美「そんな都合のいい・・・・。」

まゆ子「ドラゴンコンピュータは、基本的には検索システムだ。ただし、これまでには無いアイテムを検索する事が出来る。たとえば、ネットオークション、あれは本当に自分が必要なものはそうそうは出てこないんだ。出たら即押さえられるようにずっと見張ってなければならない。でもそうじゃなくて、私はこれが欲しいー、って要求書をどこかにぶら下げておけば、誰かが”あげまーす”って言ってくれると楽しいじゃない。」

明美「はあ、そうですね。それは便利な機能だ。」

まゆ子「もちろん只じゃない。お金、で購入ってだけじゃない、物品で交換ってので応じてくれる人も居るかもしれない。けど、自分がそれをもっていないと、交換は成立しない。」

明美「はあ、当たり前です。」

まゆ子「では、もし、自分が交換可能なアイテムをもらって、欲しいアイテムを持っている人が要求する交換アイテムを提供してくれる、天使のような人がいたらどう?」

明美「いや、そんな都合のいい人がそう簡単に見つかる、・・・・・・・ドラゴンコンピュータは検索エンジンだ!」

まゆ子「自分が交換可能なアイテムやサービスで、目標とするモノを実現する、その中間に無数の人を並べて順繰りに交換していったら、最終的には自分の思う通りのものが効率的に実現する。それが”わらしべ長者システム”なんだ。だから、”パンダのぬいぐるみ”で”嫌な奴をぶっ殺してやる”、という人の所まで自然にたどりつく事が出来る。それも、自分の正体は匿名のままで、だ。なにせ、とんでもなく多い人を仲介して到達するのだからね。で、その中間の人は、自分が人殺しに間接的に関っているなどとはまったく気づく事なく、ちょっとした欲求を満たされて、大して負担でも無い行為を積極的にやってるわけだ。

 さらに言うと、相手が要求するアイテムよりもうちょっといいものを提供する代わりに、代わりにやってくれるサービスの質を、ちょっと余計にやる事を要求する事も可能だ。でも、そのちょっとの枠組みを乗り越える、ってのが、決定的な破滅に繋がるんだな。」

明美「おそるべし、わらしべ長者システム。でもそれは凄く便利な機能ですね。別に人殺しだけじゃなくて、善い事にも使えるんでしょ。」

まゆ子「善悪見境なく、ね。むしろ、最終的に善い事の方が、実現の可能性は高いでしょう。でも、善い事がマクロで見た場合本当に善いかは、それはどうかな? 「破滅への道は善意で舗装されている」、ということわざもある。知恵の足りない、でも善良な人の考える善いことってのは、大抵は最後にはひどい失敗に終わるんだ。善に至るプロセスの途中で、一個分岐を間違えたら、誰も予想し得ない凄い結果になるんじゃない?」

明美「うう、ほんとに世界が支配されてしまう。まさに、悪の中の悪、黙示録の中の獣みたいな、ああっ、ドラゴンコンピュータってなまえじゃないか。」

 

まゆ子「だが、これでもまだ足りない。B級映画の悪のラスボスのように、最終兵器や秘密アイテムを行使すると、それ自体が意思を持ってラスボスの意思に逆らう、とか、予想もしない結果が到来する、とか、そういう機能を有するべきだ。人間には決して完全なコントロールが出来ない、そのくらいの自律性が、ドラゴンコンピュータになければならない。」

明美「いや、いくらなんでもドラゴンコンピュータが自ら喋って、自ら世界を動かして、全人類を抹殺しよう、とか思うなんて、そんな、人格を付与するような事が出来るわけが、というか、そんな能力はコンピュータ的には無いでしょ。」

まゆ子「うん、無い。でも欲しい。それに必ずしも喋る必要は無いからね。

 たとえばこんなものよ。

 さっき言った、自分が欲しいものよりもちょっといいものを提示して、代わりにする事をちょっとレベルアップしてもらう、って機能があったでしょ。これを、最初にプロセスを起動する人にも適用するんだ。”これこれがしたい”って入力すると、それに似たような、でも実現可能性がより高い目標を提示して変更してもらう。その代わりに、交換条件も少し変更される。

 普通の人は、完全に満足いかなくても現実的に実現可能な目標で我慢するからね、これは成り立つよ。でも、その変更は誰にとって最適なんだろう。ひょっとしてその変更は、誰か他の人の要求を実現するために、ゆがめられているのかもしれない。」

 

明美「こ、コワイ。ほんとうに恐い。自分が主導権を持っているつもりで、完全に操られているんじゃないですか! これは最早”悪”なんて陳腐な言葉では表現出来ない、暗黒意思です。

 で、でもでも、そんなのが世の中に出まわらなければいいんじゃないですか。世界中の政府もばかじゃないんだから、そういう弊害を持つソフトを野放しにする訳が無いじゃないですか。」

まゆ子「それがね、政府よりも強い、そういう事をしたがるおばかさんが世の中には居るんだ。

 彼はなんでも欲しがるコンピュータ坊や。他人のソフトがもっている優れた機能を、自分のソフトに勝手に付け加えて、世界中にただでばらまくんだ。

 ドラゴンコンピュータは色々と新機軸に基づく優れた長所を持っていて、しかもインターネットのブラウザにプラグインとして組み込むのに最適な、分割して独立した個別の機能としても把握出来る。ドラゴンコンピュータのアイデアを、不完全ながらも実現するソフトが出現すれば、彼はもっと洗練された形で強化されたそれを、世界中のコンピュータにタダでインストールしてくれるでしょう。各国政府からの攻撃も彼が身を挺して守ってくれるわよ。」

明美「うう、その人の名は、」

 

まゆ子「さあぁ、今はゲーム機に夢中みたい(kiss)。」

 

 

2002/02/24

 

SFお料理天国

まゆ子明美2号「新年あけましておめでとうございます。本年もよろしくお付き合いくださいませ。」

明美「いやあ、なんだかんだいって年越ししてしまいましたね。この企画。」

まゆ子「そりゃ続くわよ。書きたい事いっぱいあるんだから。」

明美「弥生キャプテンは自分も『弥生ちゃんのポリティカルコレクター』とかいうのを作りたいとか言ってましたよ。じゅえるさんも自分のコーナー持ってるじゃないですか、主人公である自分に無いのは間違ってるって。」

まゆ子「いや、弥生ちゃんの言いたいことはよくわかるけど、それは敵を作るからね。それも大量に。だからダメ、そういうのは。」

明美「キャプテンは政治家か弁護士か裁判官か、ともかくそのたぐいの人になりたいって言ってましたね。」

まゆ子「それと教師もだね。口先三寸で世の中の人をたぶらかす職業に就きたいらしいよ。」

明美「それは、ーーーーーーーー、今でもそうじゃないですか。」

まゆ子「というわけで、お正月ですからかるーく小ネタでいきます。

       SFお料理天国ーーーー!

明美「お料理ですか!! まーかせちゃってください。なにしろ『くっちゃりぼろけっと お料理コーナー』の担当ですから、それはプロです!」

まゆ子「うんうん。たまにはちみもいいところを見せてくれたまえ。

 で、どっちがいい? ”地球篇”と”宇宙篇”。」

明美「あ、二つもあるんですか。それはー、なるほど、未来の食べ物と言っても地べたに住んでる人と宇宙に住んでる人は食べてるモノが違うんですね。」

まゆ子「お薦めは宇宙篇だね。」

明美「じゃあ地球篇。」

まゆ子「ち。」 明美「やっぱり、地球篇の方が厄介なんですね。大当たりー。」

まゆ子「くそー、こいつ慣れてきたからなー。そうです。地球篇は宇宙篇の数百倍厄介です。なんでかというと、今とあんまり変わらないから。」

明美「変わりませんか。」

まゆ子「というより二十世紀が変わりすぎた。当分これを覆すほどの革新は起こんないでしょう。漸進的な変化はあるんだけどね。」

明美「変わったってのはどの辺が。」

まゆ子「まず肉を食うようになった。」

明美「それが変ですか。」

まゆ子「大変異常な事態だね。なぜなら、昔から肉というものは貴重品だったんだ。穀物でも牧草でもいいけれど、食用動物というものは飼育するのに大変コストが掛かるんだ。狩猟もそう。そうやすやすと取っ捕まっていれば動物とっくの昔に絶滅しちゃうからね。なかなか食べられないお御馳走が肉だったんだ。」

明美「はあ。それはそうですね。いまでもお肉は高いですから。でも、買えない程では無い、というのはこれは異常なんですね。」

まゆ子「お魚もそうだよ。動力で走るおふねが出来るまではすべて風任せ潮まかせ。魚が居る所も勘と経験に頼ったバクチみたいなもので、現代の魚群探知機を使った漁とは全く違う、不安定で不確実なものだったんだよ。第一冷蔵庫が無いから大量に獲っても流通出来ない。保存処理をしなければ町の人や山の人はお魚なんてとても食べられなかったわ。お金持ちになったら”下駄の歯みたいなとと食べて”という唄もある。お魚の切り身がそれほどの大御馳走だったんだね。」

明美「そうか、それは確かに20世紀のお話ですね。動物性たん白質をこんなに簡単に手に入れられるなんて、ちょっと前までは非常識な事だったんですねえ。」

まゆ子「動物性たん白質と言えば、卵だってそうだよ。戦後すぐまでは養鶏も少なくて卵は目の玉の飛び出るような貴重品で病人の薬として精力をつけるための特別な食材として使われてたんだから。卵をようやっと手に入れて、藁の包みに大切に包んで大事に持って帰る途中で転んで割って泣いちゃったって話が、戦後すぐまでの文学にはごく普通に大量に存在する。」

明美「はあ。藁の包みってのは最初からやばいのではないでしょうか。だって、保護材が無いじゃないですか。」

まゆ子「いや、藁は発泡スチロールみたいなものだから保護材としては良かったんだよ。その頃は地鶏だから卵の殻も固かったし。それだけ道が悪かったってとこが大きいかな。つまり流通の問題だ。そこらへんのすーぱーで売ってるものじゃなかったんだ。というか、スーパーマーケット自体がその頃は存在しなかったしね。」

明美「はあ、卵屋さんに行くか鶏飼ってるところに直接行くかしか入手出来なかったんですね。そう言われてみると、今の生活というのは異常ですね。」

まゆ子「で、現在の体制がこのまま維持出来るか、発展途上国でもそういう流通を整備出来るか、これが21世紀の課題。もちろん食料の供給が出来るというのが大前提だけど、でもこのままだと地球の人口は100億くらいで頭打ちだろうから、なんとかなるんじゃない?」

明美「100億で止まりますか。」

まゆ子「人間が増えすぎた。増えすぎると、もう増やす余地が無い事が、アフリカとかインドとか中国とかでは分かってきたから。これまでは増やせば増やすほど経済的な利得を見込めて将来への投資になったんだけど、むしろ逆だと思えば止まるでしょう。エイズの問題もあるし。アフリカでは21世紀はエイズで人口ががくっと減るらしいよ。戦争の時みたいに人口推移グラフの曲線ががくっとへっこんでしまい、労働力の供給がストップしてしまうとか危惧されてる。」

明美「はあ。じゃあ食料の供給はなんとかなりそうなんですね。」

まゆ子「むしろ水だね。真水の供給がそろそろ限界に近いから、食料生産が増やせない。増えなきゃ人口はいやでも減る。そのバランスが取れるのが100億くらいじゃないかな。なんとかクラブってシンクタンクの報告みたいな、馬鹿みたいにグラフが発散するって事は無いんだよ。」

明美「水ですか。どんなに遺伝子操作で穀物の収量を増やそうとしても、おみずが無いとそれは仕方がないですね。では、当分は今食べてるみたいなものが主流で変わりませんか。」

まゆ子「最終的に人間が食べてるものは、そうでしょね。その中間がえらく変わる事はあり得るけれど、でも遺伝子操作された農作物が、そんなに増えるかな。これはアメリカの農業会社の言うとおりには増えない可能性がある、というか、連中の言うようにはたぶん決してならない。」

明美「そうなんですか? 遺伝子操作はダメなんですか・」

まゆ子「遺伝子操作というのは現状は単なるパッチ当てだ。これがいいと思う遺伝子をにゅっと挿入して複数培養して、狙い通りにちゃんと機能する個体だけを抜き出して増殖させる。そっから後は神頼みだ。」

明美「か、かみだのみ、ですか。」

まゆ子「導入した遺伝子がそのまま変異しない保証は全く無い。これが500年千年といった時の流れの中でどのように変異するか、現代の科学者の知った事じゃないな。」

明美「あ、そんなに先の事まで考えなくちゃいけないんですか。」

まゆ子「そりゃそうだよ。いったん自然界に放出してしまえば厳密な隔離なんか出来ないんだから。それに、そのままでは変異しないとしても、その遺伝子が別の動植物の体内に取り込まれて思いもかけない変異を遂げる、という事はあるでしょ。たとえばインフルエンザね。あれは元々鳥の病気なんだ。でもブタの体内で変質して人間にも機能するタイプになる。だから、鶏とブタと人間が密接な環境で居住する、香港あたりの中国がその震源地らしいよ。」

明美「そんな複合的な変質は科学者は承知してるんですか?!」

まゆ子「まさかあ、そんなどこをどういじったらいいのかわかんないような事まで考えてたら、いくら研究費が有っても足りないわよ。せいぜい5年の間の安定性くらいかなあ。
 でもまあ収量増やすとか、寒い所でも育つようにするとか、そういうのならそれほど問題は無いと思うよ。でも、それに留まらず、農作物が自ら体内に農薬を作り出して病虫害に対して攻撃的な防御力を与えようとかいう研究も進んでるから、これは要チェックね。その物質が虫だけじゃなくて、人間にも作用する可能性は極めて高いわ。特にアレルギーという形で反応したら、これまで何百年も平気で食べていたものが、ある日突然劇的な拒否反応を示して死亡する、って話が21世紀、この先何百回と聞けるかもしれない。」

明美「反対です。反対です、遺伝子操作作物は。」

まゆ子「だから、そういうアプローチは避けて、変な科学物質を造りださない遺伝子改造生物を作り出して、これまで利用されなかった資源を活用して食料にする。というか、使えなかったものを使えるようにして、それで動物を飼うとかいう風になるんじゃないかな。例えば珪藻類の内部にブドウ糖をアミノ酸に変換する遺伝子を導入して、光合成からそのままたん白質を作り出して、ブタとかに飼料として与えて大きくさせるとか。最終的に人間の口に入るものは一緒だけど、その過程が全然違うとかね。あ、そうそう、牛の肉骨粉とか、いまはもう使えないじゃない。あれをどろんどろんに溶かして特殊な微生物に分解させて異常プリオンを含まないたん白質に変換して再利用するとか言うのはありでしょう。」

明美「ううむ、やばい世の中になりそうですね。それくらいだったら自分で農業やってご飯作った方がいいかもしれない。」

まゆ子「でも知らない内にどっかから遺伝子改造生物の遺伝子が入り込むかもしれない。完全な遮断はまず不可能ね。」

明美「どうやって食料を供給するか、それはまあよく理解しました。で、メニューの方はどうなんですか。」

まゆ子「うん。実は、これも20世紀にずいぶんと変わったからね。まあ大概の国のメニューが東京とかニューヨークとかでは食べられるから、これまでのような見知らぬ料理同士の融合という形での変化は少なくなっていくでしょう。無意味な混合はね。でも、コンセプトは違う。日本料理は西洋や中華とはコンセプトが違うから、そのコンセプトを取り込む形で他国の料理を変化させていった。これを意識的に行うのが21世紀の料理の変化でしょう。つまり哲学だね。」

明美「その哲学までは、分からないんですね。」

まゆ子「さすがにね。自分で考えてもいいけど、それは今後のお楽しみにしておきましょう。」

明美「あの、小さい錠剤を飲んで食事にする、って未来像があったと思いますけど、あれはどうなります?」

まゆ子「今もそういう人は居るよ。だから、・・・・・・・実現したって言ってもいいけど、でもあれおいしくないじゃん。胃腸の為にも良くないし、主流になる事はないんじゃないかなあ。もっともサイボーグとかが世の中に増えて来たらちょっとは違うかもしれないけど。でもサイボーグだったら、錠剤は呑まないな。液体でしょ。それも口からじゃなくて、直接内部にポンプで送りこむとか。」

明美「はあ。ま、錠剤呑んで食事は終わり、って事を考えるのはよっぽど仕事が忙しくて食事する暇も惜しいって人でしょうから、その程度のアイデアでしかない、んでしょうか。」

まゆ子「問題は、痩せ薬が出来てるかどうか、だね。」

明美「お、あ、それは重大な問題だ。」

まゆ子「錠剤で十分な栄養が取れる、というのなら、ダイエットも簡単だ。けど、さすがにそういうサプリメント系の食品ばっかり食って太った人間ってのは聞いた事はないから、太る人間は普通のお食事をする人でしょ。胃袋をきゅっとしめちゃって錠剤だけが通るようにしてれば、いやでも痩せる。」

明美「いやーーーーーーな、話です。それは、ちゃんと利く痩せ薬を考えてほしいです。」

まゆ子「ここで、宇宙篇が出てくるわけですね。

     宇宙に住んでる人間はあんまりご飯食べない!」

明美「食べませんか!! だから簡単だったんですね、」

まゆ子「なんで食べないかと言うと、お腹が空かないから。つまり運動量が少ないから必要なカロリーが少なくて、ご飯もあんまり食べなくていいんだ。なんで運動量が少ないかというと、重力が小さいから。低重力環境に適応した人類はあんまり飯は食わない。」

明美「1G環境じゃないんですか、地球と同じく。」

まゆ子「1G環境を宇宙に再現するのはちと大変だ。不可能ではないけど、不経済。1G環境に耐えられる建造物は火星表面程度0.4Gくらいの環境基準の建造物の、重量でいうと2、3倍の資源を必要とするでしょ。資源がたくさん必要という事はそれだけコストが掛かるって事で、1Gを諦めたらスペースコロニーが2、3、4個くらいぽんと出来るんだね。」

明美「はあ、すると、地球にはその人たちは降りて来られないんですね。低重力に慣れちゃったら地球の重力は辛いでしょうから。」

まゆ子「その代わり長生きする。平均寿命100年が当たり前だね。或る意味では、生まれた時から老人のような環境で暮らしているようなもんだ。地球に降りるってのは、でもロボットとテレイグジスタンスを併用したら特に問題はないかな? サイボーグとか、パワードスーツとかいう手もあるし、宇宙人口と地球人口の比率が逆転してしまった時点で、その問題はとるに足らないものになるでしょ。」

明美「でも、じゃあ、その宇宙に住んでる人は、ご飯をあんまり食べない?」

まゆ子「サプリメントで上等になる。でも食べる人はちゃんと食べる。けど、生き物を殺して食べる、って習慣は無くなっているかもしれない。」

明美「鶏とかブタとかを飼わないって事ですか。」

まゆ子「必要なのは肉であって、動物ではない。いや、普通の肉だったら、固くて消化が悪くて、低重力の人には向かないかもしれない。生き物を殺すって事に嫌悪感を示す人はいまでも多いけど、宇宙だったら殺さなくてもクローン技術で食べるための肉というものが作れるかもしれない。たん白質の固まり、ってもんだね。こんにゃくみたいな。」

明美「・・・・・・お魚も、ないかも。」

まゆ子「宇宙空間でおさかなを飼うのは簡単だ。元から無重力の生き物だからね。水はたくさん要るけれどリサイクルすればいいだけだから、多分技術的な問題も簡単にクリアされるでしょう。でも、骨がある。」

明美「骨を取るのは嫌いでしょうね。宇宙の人。これも切り身で売る事になるでしょうから、だったら最初から切り身でクローンを生成すればいいって考える人は絶対出るでしょう。」

まゆ子「極めて合理的だね。クロレラとかなんとかを培養してアミノ酸を作って、それを原料におさかなの細胞をクローンで成長させればよいだけの話だ。あんまりお腹が空かない人はそれで十分かもしれない。いや、ひょっとして、野菜とか果物とかも無駄を省く為にそうやって科学的に食材を作って、本物は観賞用として育ててるかも。偽物の食材も形は本物そっくりとか、もっとかっこいい形に整形されてお店に並んでて、本物は芸術作品として博物館とかお花屋さんで高値で売ってて、で地球から来た人しか食べない、という世の中・・・・・・だったりする。」

明美「お魚の切り身が、お魚そっくりの形に整形されてうろこが彫ってて、表面に色まで着いててぎょろっとした目玉の飾りがくっついてくる。それはよくない世界、なんでしょうか???」

まゆ子「どうなんだろ。薔薇の形の玉ねぎとか、全長15cmの手足が生えたブタの形の牛肉とか、羽まで食べられる生きてるような小鳥のオブジェ部分的にバニラの味がする、とか食べたい?」

明美「う、・・・・・・・・・それは食べたいような気もしないでもないような。」

まゆ子「見た目はただのバナナ、火にかけると弾けて中華の烏賊の炒め物みたいな花が開いたような形になる食品とか、最初はただの円盤型のパテみたいなものが、レンジにかけたら大きく膨らんで鰆のパイ包み焼きになるとかのギミックをしこんだ製品も考えられる。あるいは逆にまったくただのこんにゃくみたいな塊で、でも味は極めて複雑怪奇、よっぽど修練を積んだプロのグルメにしかその価値が分からない珍味だとか。」

明美「でも宇宙に住んでる人はあまりお腹が空かないんでしょ。」

まゆ子「食べたくない人を、無理やり食べたくさせる為には努力と工夫が必要だから、当然こういう食品はアリだよ。」

明美「じゃあ未来の宇宙の人の食卓というものは、」

まゆ子「現代では考えられないほど、色とりどりの不思議な形の食品が、たぶん味も変なのが、おもちゃのように並んでいる、というものになる。調理法もそれら食材に合わせて無茶苦茶発展してて調理法に合わせた食品が供給されてたりして、今の料理があほみたいに簡単に思える、そんな食卓になる。論理的な帰結として。人工筋肉が仕込んであってぴくぴく動く生体ロボットの活け造りとかもアリ。喋る小人の唐揚げ、お腹の中にはキノコのソースがたーっぷり、とか。ほんとの生き物を殺していないのだから、別に倫理的な問題は存在しない。」

 

明美「な、なんか、イメージと違う。未来の人の食事ってもっと殺風景なものの筈では。」

まゆ子「そ・・・・・う、だね。自分で言ってて頭おかしくなりそう。」

 

 

END

2002/01/01

 

サイボーグOOQ

まゆ子「今回は、”サイボーグOOQ”と銘打って始めたいと思います。なんというか、最近昔のアニメをリメイクするのが流行っているみたいで、サイボーグ009が復活してますね。」

明美2号「という事は、今回はサイボーグ技術がテーマな訳ですね。」

まゆ子「うんそう。サイボーグというと改造人間です。改造人間と言えばやっぱり仮面ライダーでしょう。最近仮面ライダーの新シリーズがお子様に大人気っていうから、やっぱこれよね。」

明美「どーーーーしてなんですか。サイボーグ009のはなししましょーよ。」

まゆ子「どっちでもいいんだよ。どっちも石ノ森章太郎先生の原作なんだから。」

明美「あ、そうなんですか。じゃあいいです。」

まゆ子「石ノ森先生はサイボーグについて考えるのに各作品パラレルで考えてその成果をそれぞれ反映させているから、仮面ライダーを例にとって009を説明してもなんの問題も無い、どころかそっちの方がむしろ正しいんだよ。

 で、仮面ライダーです。ライダーってのは大体バッタ怪人ですね。カブトムシとかトカゲとかまあいろいろあるんですけど、でもコンセプトはみな一緒。

 内装火器のたぐいを装備せず、あくまでサイボーグ体本体の基本性能だけで勝負する、パワーも装甲もスピードも平均より少し上というだけで、特殊化しない。すべてにおいてバランスが取れた万能タイプの改造人間が仮面ライダーのコンセプトよ。」

明美「はあ、まっとうなもんですねえ。というか、これは怪人としては平凡な存在なんじゃないでしょうか。」

まゆ子「平凡だね。だがその平凡な改造体がレアケースとして存在する。仮面ライダータイプの有用性は十二分に証明されているにも関らず、ね。」

明美「変ですね。使えるんだからもっといっぱい作ってもいいようなものですけど。って、偽ライダーってのが10人ばっかり出てくる回があるんですけれど、でもあれは全然弱いんですよね。変ですね。」

まゆ子「すっごく変だ。仮面ライダーは強い、しかし同じ設計の怪人はまったく弱い。となると、改造された人間の差だ、としか言えなくなる。だけど、そんなのは設計図を見れば一目瞭然、わざわざ負けにいく怪人なんていくらなんでも馬鹿馬鹿しすぎる。となれば、勝てるんだ。10人揃えればとびきり優秀な素体で作られた仮面ライダーにも。性能的にはそうなっているはずなんだ。」

明美「そりゃあ、そう、ですね。なにが違うんでしょう。根性でしょうか。」

まゆ子「根性! うーーーん、核心を衝いてきたね。そう、根性だ。仮面ライダーと偽ライダーとでは、まあ素体の人間の能力の差も大きいんだろうが、なにより根性が違うんだ。」

明美「はあ、じゃあ根性の座った人間を仮面ライダータイプに改造すれば、確実に勝てるって事ですね。」

まゆ子「それは無理ね。というよりも、悪の組織ショッカーに自ら加入しようという人間の根性が座っていないはずが無い。ショッカーはヤクザみたいに、他ではもうどうしようもなくて何にも役に立たないような人間が流れ流れて身を持ち崩した、って情けない悪ではない。世界征服の理念を実現するために、一方通行出口無し、脱退は死有るのみって組織に命懸けで飛び込んでるんだ。

 こんな連中の根性がさらわれて嫌々改造手術をされた人間よりも劣ると思う?」

明美「そういう言い方をされると、そうですねえ。よっぽど仮面ライダータイプになるのが嫌だったんでしょうか。」

まゆ子「こんなに強い仮面ライダーになるのが何故嫌か? それに大体改造手術を受けて怪人になるのは名誉な事なんだよ、ショッカーにおいては。」

明美「そうですねえ。何故でしょう。仮面ライダーはえんがちょなんでしょうか。それだったら改造された人間のやる気が激減するって事はあるかもしれません。」

まゆ子「それにはショッカーという組織の人事を知る必要がある。」

明美「じんじ、       ですか。」

まゆ子「ショッカー怪人というものは大体自分が従事している作戦に合わせて体を改造しているものだ。だがこの作戦、誰が考えてるんだ。」

明美「えーとー、首領、かな。」

まゆ子「そんなめんどくさい事するもんか。大幹部でもない。大幹部も改造されてるからね。平幹部が作戦を成功させて大幹部に成り上がっているんだ。となると、じゃあその大元の作戦は誰が考えているのか、って事になる。」

明美「はあ、とすれば企画会議でも開いてるんでしょうか。あ、そうか、開いてるんだ。で、誰か頭のいい人が作戦を考えついて、・・・あれ、作戦をするにふさわしい怪人が居ませんね。」

まゆ子「そりゃあ言い出しっぺがなるべきでしょ。つまり、企画を立てた人間がそのまま怪人になって作戦を実行する、って寸法だ。」

明美「あそうか。そうそう、それだったら納得いきます。じゃあそれは、まだ怪人になってない、ヒラの、・・・一般の戦闘員ですかね。したっぱの。」

まゆ子「だろね。つまり、したっぱの戦闘員はいつまでもしたっぱでいる気は無いんだよ。皆一生懸命に知恵を絞って悪事を考えて、それを企画書に書いて大幹部に提出する。とその企画が認められた戦闘員は昇格して改造手術をしてもらえる、って訳だ。」

明美「なんかかなり合理的なシステムですね。」

まゆ子「士気を高めるには最高だろうね。改造手術ってのは大体一回やったらもう元には戻らないんだから、普通の人間なら躊躇するけど、この方式だと自ら進んで改造手術を受ける気になる。

 だから、仮面ライダータイプは嫌なんだ。」

明美「そうか、万能タイプってのは、何をすればいいのかわからないんだ。」

まゆ子「このタイプに一番近い改造人間は、実はヒラの戦闘員なんだ。」

明美「ヴえ?」

まゆ子「ヒラの戦闘員といえども多少は改造されてるんだよ。というか、日本の警察官が持ってる38口径のニューナンブなんかじゃまったく効果無いんだもん。ただの人間じゃないさ。」

明美「ああ、なるほど。言われてみればケーサツにやられる戦闘員なんて居ませんでした。」

まゆ子「作戦の企画を揚げて改造してもらって自ら作戦の指揮をとる。それで成果を上げて大幹部に出世する、ってのが正しいショッカー生活だ。でも、仮面ライダータイプになっちゃったら、従事するべき作戦が無い。つまり出世のしようが無い。
 まあなんだ、普通の怪人が部長級だとすれば仮面ライダーは課長級怪人ってところかな。雑魚のヒラ戦闘員よりは上には違いないが、部長級の花形怪人の作戦の支援雑用にこき使われて、しかも出世の見込み無し。

 例の偽ライダー作戦だけど、これを企画した人間は、まあ本人もライダーになっただろうけれど、他の人はいやいや改造されたんじゃない? つまり自分の企画じゃないんだ。で、他人の作戦に巻き込まれて、一生うだつの上がらない中間管理職決定! って。そりゃあやる気はないだろー。

 根性で仮面ライダーに勝てる道理が無い。」

明美「惨いですね。そりゃあ負けちゃった方がいっそ楽かもしれません。」

まゆ子「まあ、組織もせっぱつまってくるととち狂って訳のわかんない事するからね。

  で、ここで009が出てくるんだ。

 00ナンバーサイボーグ戦士を作ったブラックゴースト団は、ま、言っちゃ悪いがろくな連中じゃない。ショッカーが悪の帝国として世界全体を支配しようという崇高なる理念に基づいて活動しているのに比べると、ブラックゴースト団は単なる武器商人。自分たちで火をつけて武器を売りまくっててきとーに銭を儲けよう、という方針しかない。だから00ナンバーサイボーグも単なる実験体、あるいは商品見本でしかないんだね。

 で、分かるように、誰が好き好んで商品見本に成りたがるもんか。だから脱走されるような改造人間しか作れなかったんだ。」

明美「はあ。モラルってもんが00ナンバーサイボーグには無かったんですね。そりゃあ誘拐してきた人間を無理やり改造って訳ですから。

   あれ?本郷猛は誘拐されたんじゃなかったですか??」

まゆ子「ふふふ、そこだ。何故かしら、仮面ライダーだけは戦闘員からではなく外部の人間を拉致して改造しようとしたのか? 謎でしょ。」

明美「はい。」

まゆ子「これもショッカーの人事を考えると分かるんだ。

 バッタ怪人は宿命的に下っ端怪人、課長級の怪人だ。だから当然花形部長級怪人の作戦の補佐をする。だけど、花形怪人の直接の部下ではない。まあなんだ、大幹部直属の部下で作戦時に出向しているだけだね。戦国時代なら”寄騎”与力って言われたひとだ。

 このポストの役割はもちろん作戦の補佐支援。だけどもう一つ、より重大な任務がある。それは監視だ。」

明美「監視・・・・・・、ですか。それじゃあ大幹部は怪人のことを信用していないって事ですよね。でもショッカーって反逆すると死刑なんじゃないですか。」

まゆ子「本当に誰も反逆も謀反もしない組織ならそんな掟は要らないさ。日常茶飯事に反逆が起きているからこそ、死の掟がある。」

明美「あ、・・・・・・なるほど。そりゃそうだ。」

まゆ子「さっき言ったとおりに、ショッカーは士気の高い組織なんだ。ヒラの戦闘員たちも向上心に溢れる熱血漢だ。自ら改造人間になることを志願するくらいに。しかし、このシステムは宿命的に反逆から自由になれない。なぜならば、向上心自立心の強い人間こそ反逆を引き起こすんだから。」

明美「のほほんとしている人間は反逆なんかしない、それは理屈ですね。なるほど、ショッカーも苦労してるんだ。」

まゆ子「だからこそ仮面ライダーが必要になる。絶対裏切らない監視役として。脳改造でダイレクトに精神をコントロールする気だったんだろうね、大幹部ともなるとそれくらいの能力は持ってるだろうから。

 でも素体となる人間にはとびきり優秀な戦闘力と知能が必要だったりするんだね、これが。

 なぜかってーと、
反逆する人間というのは、本人的には自分のことをとっても頭のいい人間だ、って思ってる。ただ単にずる賢いとか人としてやってはいけない事を乗り越えてるだけ、かもしれないけど、まあ只者では無いさ。

 で、監視役はそういった奴の予想も出来ない動きを敏感に察知して、裏切りを未然に発見して大幹部に報告しなければならない。だから反逆する人間よりも頭良くないといけない。それに反逆する怪人たちも、まず監視役をぶっ殺す事で景気づけすると相場は決まってる。報告する前に殺されては元も子もない。だからこそのバッタ怪人だね。

 怪人が反逆しようとして監視役を殺そうとするその瞬間、バッタ怪人自慢の跳躍力で一目散に逃げるんだ。」

明美「ははー、そんな物騒な役目を負わされるのが決まっているバッタ怪人に誰も成り手が居ないのはそりゃあ当たり前ですね。だから余所から人材を調達しなければならなかったんだ。」

まゆ子「それと、ショッカー内部にも派閥とかあったのかもしれないね。戦闘員どももどれかの幹部とつながっているだろうし、義理とか人情はあるだろうし、熱血だから土壇場でショッカーの理念よりそっちの方を優先させるかもしれない。」

明美「うーん、ショッカーって非情の組織だと思ってましたけど、そうなんですかね。」

まゆ子「非情といっても、作戦遂行にプラスになる情まで禁止してしまったらどうしょうもないよ。使えない人間をかき集めるよりも、反逆するほどに燃えている人間が少数集まってる方がいいでしょ?」

明美「そうですね、って、ブラックゴースト団はそうじゃないんですね。」

まゆ子「そこよ! そこは大問題なのよ。

 なぜならば改造人間、サイボーグってのは精神的に極めて不安定なものである、という事をブラックゴースト団はまるっきり無視してるんだよ。

 サイボーグってのは、ようするに生身の人間じゃない。ところがにんげんってやつはその生身の体に精神的に依拠するところがとても大、なんだね。心身二元論なんて成り立たない。体が損なわれたら精神もダメージを受けるんだよ。特に、機能を強化した戦闘用サイボーグってのはね。009たちがサイボーグ手術によって受けた心の傷をどのように癒していくか、これが「サイボーグ009」の物語の中核よ。

 でもこの問題はショッカーでは発生しない。なぜなら改造手術を受けた当人が極めて強力な使命感に支えられているからね。むしろ、その精神的ダメージを転化させ使命遂行の原動力に換えている。だからショッカーは強い。」

明美「ショッカーの大幹部のキャラが異様に強烈なのもそこに原因があるみたいですね。サイボーグ手術のコンプレックスを悪の意志にすり替えるから、あんな凶悪な顔になるんだ。」

まゆ子「ショッカーってのはさすがに、苦労を積み重ねてきた組織だね。

 それに比べるとブラックゴースト団は甘い、甘すぎる。あれを組織した連中はたぶん、ものすごい金持ち連中で自分たちはまるっきり手を汚さずに利潤だけ上げようって組織を結成したんだと思うよ。金で汚れ仕事する人間雇って。大体ブラックゴースト団の本当の黒幕は、ただ単に出資者だ、というのかも知れない。組織がどんな悪事を働こうが不問で、配当だけ戻ってくればいいっての。実現するレベルでどんな事があろうが関知しない、自分たちは潔白だ、ってね。

 だから、サイボーグ戦士も金や弱味や自爆装置で言う事を聞かす事が出来るって思ったんだろね。」

明美「うーむ、ブラックゴースト団がそんな無神経な組織だったら、そりゃあ逃げますね、サイボーグたち。」

 

まゆ子「さて、問題はここから。

 サイボーグ手術は素体である人間に多大な精神的ダメージを与える。この傾向は、実は正義のサイボーグだって同じなんだ。いや、軍隊の、兵隊が負傷してサイボーグ手術を受ける事になった、って設定でもこれから逃れる事は出来ない。それどころか交通事故でそうなった、としてもやっぱりそうなんだ。

 いくらあんたは死ぬ所だったんだけど、サイボーグ手術で助かったんだよ、感謝しなさい、って言われても、ダメ。」

明美「そうですねーー、そりゃあ深刻な問題でしょう。そうですか、今回のテーマはそれですね。”サイボーグを受ける人の精神的負担を考えた現実的なサイボーグのあり方”ですね。」

まゆ子「

    あんた、慣れてきたね。

 まあそういう事なんだ。戦闘用サイボーグとはいかなるものであるべきか、だよ。この問題はサブテキストとして”GHOST IN THE SHELL”を参照してほしい。あれ見ればまあ大抵の問題は出てくるから。でも、実は、漫画でも映画でもその解決はしてないんだな。」

明美「それはどういう作品ですか。よく知らないんですけど。」

まゆ子「攻殻機動隊よ、士郎正宗原作の漫画で映画は押井守。きわめてカルトっぽいサイバーパンク的作品だよ。主人公の女サイボーグがかっこいいんだ。」

明美「あ、サイボーグが主人公なんですか。で、自分の体が機械のばけものだって悩むんですね。」

まゆ子「いや、・・・・・そゆのとはちょっと違うな。確かに体は機械だけどめちゃくちゃ精巧に作られて生身の体以上の精密度とパワー、頑丈さを持ってるの。素人には決してサイボーグだって見破れないくらいの。でも、実際はそれだけの能力を手に入れた反面、自分自身ではそのメンテナンスが出来ない、その資金も無いから政府機関から抜け出せない。つまり、社会の一部にがっちりと機械のように組み込まれなければ生きていく事が出来ない自分に対面せざるを得ないのよ。まあ生身の人間も実際はそうなんだけど、でも生身なら考えなくてもいい実存的な問題を否応なく突き付けられているんだね。」

明美「で、どういう決着を着けたんですか?」

まゆ子「かみさま。」

明美「あうーーーーー。」

まゆ子「まあ、その、極めてよくできた機械の体を持っていたとしても、そういうジレンマに取り込まれてしまう、ってところが当面の問題なわけよ。

 

 さて、この問題を片づける前に、一個選択肢を潰しておきましょう。

 まず、ロボットみたいなサイボーグは却下ね。つまり、甲冑に身を包んだような、とか、まんまロボットの体に人間が入っているってような、いかにもロボット然としたサイボーグ。これは使えないから、現実的には存在し得ない、という事にしておこう。」

明美「ダメなんですか?」

まゆ子「だって、そんなの、まず固いんだもん。人間の日常生活で、人間が普通住んでいる環境で、そんな鉄の固まりみたいなものがうろつく余裕無いもん。たとえて言えば、スーパーとかコンビニの中をバイクに乗って買い物するようなものだよ。」

明美「それは迷惑な。でも、バイクですか。」

まゆ子「その手のサイボーグが存在し得るスペックは、身長250cm以下、体重300キロ以下。少なくとも小錦よりは小さく無いと人間生活には参加出来ないわ。しかも金属製よ。ちょうど中大型バイクが直立して歩いているようなレベルだわ。」

明美「バイク、確かにそんなもんですね。サイボーグってのは機械としてはバイクに比べられるようなものなんですね。でも、いくら金属製だって、人間に接触する部分は柔らかい素材で出来てるんじゃないですか?」

まゆ子「それは、バイクのタイヤがゴムで出来ているからぶつかっても大丈夫って言ってるのと同じだよ。」

明美「あーー、そんなとこまで似てるんだ。」

まゆ子「いくら注意していても、そのボディを制御しているのが人間である以上、ついとかうっかりとか無意識に、って動きはあるんだよ。で、いくら緩衝材で包まれていようともそれだけの重量物がそれなりのパワーでぶつかってきたら、当たった人ケガする、というか死んでもしゃあない。」

明美「ひええ、町には出られないってことですね。それじゃあ確かに人間として生きている事にはならない。」

まゆ子「町どころか、家の中だって。いや、家の中っていえば住んでるのは家族でしょ。大事な人が最も危険にさらされる、つまり触れ合う事さえ憚られる。これで中身の人間にアイデンティティを保て、ってのは酷だわ。あくまで機械、兵器としてしか存在し得ない。でも、そんないいかげんな兵器よりも、もっと普通の機械の方が多分有効だわ。」

明美「そんな体にされるのは死んだ方がまし状態に陥りますね。では、そうでない、もっと普通の人間サイズの柔らかい素材で作られたサイボーグはどうでしょう。ちょうど仮面ライダーくらいですかね。」

まゆ子「これもスペック上で考えると中小型バイクが直立して歩いていると考えるとよい。大型よりはましだけど、でもねえ。サイボーグでしょ、体に生身の部分が残ってる訳だから。」

明美「残ってたらいけませんか?」

まゆ子「スーパー戦闘用サイボーグを作るとして、何を強化する?」

明美「そりゃあ運動能力でしょう。装甲は、・・・まあ外づけでもいいかな。あと動力ですか。エネルギーをどっからか供給しなければ、ご飯を食べて動くっていうわけにはさすがにいかないでしょうから。」

まゆ子「動力は別にしよう。動力をすごいものにしよーなんて思ったらスペック上許容されるボリュームに入りきらない。

 で、運動能力だけど、手でも足でもいい、どこかの筋力を強化しようと思ったら骨も換えなきゃいけない。」

明美「当たり前ですね。」

まゆ子「でも四肢の末端を強化したら、それがくっついている根元の方も強化しないと力が強すぎてもげてしまう。つまり、手足を強力なものにしようと思ったらまるまる取り替えなきゃいけないって事だ。でも、まるまる取り替えるとそれがくっついている胴体も強化しなきゃいけない。」

明美「手足だけじゃだめですか。」

まゆ子「もげるったら。もげはしなくても骨折はする。それも骨盤やら尾てい骨やら背骨やら、腕を動かせば首も骨折するでしょ。みんなつながってるんだから。ちなみにそういう骨折やらねんざやらは、生身の人間でも変な風に動いたら自分自身の筋力だけで起こしちゃいますよ。」

明美「じゃあ、骨格とか筋肉とかは全部入れ換え?」

まゆ子「たぶん。それも超強力なってレベルのパワーじゃなくてそうなるよ。普通の生身のアスリートクラスの筋力でも。」

明美「ひゃあ、それはもう弱いサイボーグですね。」

まゆ子「じゃあ中身だけ、内臓だけ抜き出して機械のボディに入れ換える、ってしても、人間って動くと内臓も圧迫されるんだよね。走っただけで気持ち悪くなる人いるんだから。まったく人体と同じ構造で筋力を強化してる、ってのでも、その強力な筋力で圧迫されたら内臓あっという間にぼろぼろだ。隔壁で内臓を直接の圧力から隔離しても、でも筋肉で内臓を圧迫するのは、運動してる最中に内臓が揺れない為に固定するのが目的なんだもん、固定機能が無かったら、ちょっと運動しただけで内臓ぐるんぐるんして倒れちゃうよ。」

明美「人間の身体ってよくできてるんですねえ。それじゃあ結局筋力の強化は諦めた方がいいって事ですか。」

まゆ子「実は、骨格だけ強化、ってのもやめた方がいい。骨が折れた方が筋肉や内臓にダメージを与えないってケースもあるからね。なんというか、固い折れない骨だと、筋肉や内臓組織は固いコンクリや鉄の壁にぶつけられたのと同様の現象がおきたりする。

 これはただ自分だけの問題じゃない。たとえば満員電車の人ごみの中に一人だけ鋼の骨格を持つ人間が居たとしたら、どうなる?」

明美「その人に押しつけられた人はケガしちゃいますね。」

まゆ子「30人31脚とかで皆で仲良く共倒れでぶっ倒れたとしたら、どうなる?」

明美「巻き添えくった人は、死にますね。そうか、骨は折れるべき時は折れるべきなんだ。」

まゆ子「それが人間というものなんだ。それにさっき言った不注意でぶつけた時ってのもある。ただの生身の人間でさえ、素手でバットをへし折ったりブロック砕いたり出来るんだよ。」

明美「うーむ、恐ろしくレベルの低いサイボーグが出来ますよ。ほとんど生身の人間以下の能力しか持たない。」

まゆ子「サイボーグ技術が事故に遭った人の生存を第一義とするならば、それで上等だ。その価値は計り知れない。でも、日常生活を平穏無事に送る事と、戦闘時にスーパーマン的活動が出来る事を両立させるのはとんでもなく困難な挑戦だ、って事は分かったね。」

 

明美「じゃあいっその事、脳だけ移植するってのはどうでしょう。極めてよくできたサイボーグ体に脳だけ詰めて内臓の機能も機械に置き換えてってのは、どうです。」

まゆ子「さっき言った「攻殻機動隊」のはそれに近いサイボーグだけど、脳、ともう一つ、生身の組織が絶対にいい部分があるんだ。」

明美「なんですか、生殖器ですか。」

まゆ子「精巣や卵巣は外に精子や卵子を凍結保存しておけばいい。

 皮膚よ。生身の肉の皮膚を全身に貼っていた方がその人の精神衛生上計り知れない意味があるわ。なんとなれば、皮膚はその人と外界をコネクトするインターフェイスであり、他人から見ても自分から見てもこれが自分だと認識する自分の境界そのものなんだから。」

明美「はあ。機械の身体に生身の肌ですか。まるでターミネーターですね。でも、それは確かにいいですね。これがまったくもって自分だ、と主張するのに、内臓とか脳とかを引っ張り出す人はいないんですから。」

まゆ子「ところが皮膚を生身のまま維持しようと思ったら、人間が持っている内臓がそっくり全部必要になる。脳だけを生かすよりはずっと負担が大きい。ご飯も食べなくちゃいけなくなるから消化器も必要だ。当然この機能を付加したサイボーグはその活動を大変制限されるでしょう。ほとんど人間並みの環境でしか活動できない。」

明美「なんぎですねー。でもこれが一番良い方法なんですね。」

まゆ子「脳のためにもね。脳の大脳皮質の領域の大部分が皮膚からの情報を処理するように作られている。脳自身も外胚葉由来だから、皮膚の親戚だよ。でも人間は人間らしく扱われるのが最も正しいあり方なんだから、機械みたいな事が出来ないからといって責められる筋合いはない。」

明美「スーパーマンは無理ですか。残念。」

 

まゆ子「そうでもない。」

 

明美「ほら言った。最初からそういえばいいんですよ。どういう仕組みですか。」

まゆ子「変身だ。必要な時には変身すればいいんだ。」

明美「・・・・・・・・・・仮面らいだー、ですね。」

まゆ子「と言っても、いきなりなんの用意も無く変身出来る訳がない。第一人間のボディの中に人間以上の体積を持ったパーツを仕込んでおく事は出来ないさ。魔法じゃないんだから。」

明美「そりゃそうです。というか、仮面ライダーとか怪人とかはどうやってそれを解決してたんでしょう。」

まゆ子「知らないけど、ショッカー他悪の秘密結社には絶対カメレオン怪人ってのがいるからね、その技術を応用したんじゃない? 普段は人間に見えるように偽装している、というか見る人にはその目に直接、人間の姿を投影している、とか。

 

 で、現実的なサイボーグってのは、そういう姑息なまねをせずに、組織的に変身する。どうするか、っていうと、着るんだ、着ぐるみを。」

明美「着ぐるみ、ってぬいぐるみですか。仮面ライダーショーじゃないんですよ。」

まゆ子「でもそれが一番簡単だ。つまり、着ぐるみの装甲服を着て変身する。でもそれじゃあただの人と一緒だ。制限も普通の人間と共有する。でももしそのサイボーグ体の骨格にねじ穴が開いていたら、どう?」

明美「ねじ穴って、なんのねじですか。何をくっつけるんです。」

まゆ子「だからさ、着ぐるみの装甲服。普通の人間が服を着るのとサイボーグが装甲を付けるのは違うんだよ。サイボーグ体は骨格に直に装甲を装着出来るから、人間が装甲服を着るよりもずっと自由度が高くなる。着てボリュームが膨らんだからといって、動きにくくなる事はない。

 ま、なんだ。自力で運動するのを諦めて、セミの抜け殻みたいなパワードスーツにして、その中にボルトでサイボーグ体を固定して、で中身の筋肉がまったく活動しない状態にしてもいいかな。神経から電線を外部に引いてきて外側の外骨格に付いているアクチュエーターを直接制御して、自前の筋肉と骨格は戦闘中はだらーんとダレてる、っての。外づけの生命維持装置と直接接続して、戦闘中の過酷な環境下での内蔵の負担も軽減できる。

 これならサイボーグっていってもほとんど人間と変わらない形に留めておけるし、戦闘用サイボーグと民間用サイボーグで構造がほとんど変わらないから、量産効果でコストも安くなる。」

明美「コスト、も考えなくちゃいけない、んですね。そりゃ当然ですけど。」

まゆ子「軍隊でサイボーグを採用するとしたら、単なる生命保存の為には可能な限り徹底的に安価に作るべきでしょ。で、それがちょっとの仕様変更で戦力強化に役に立つのなら、恩の字じゃない。

 それに動力ね。どう考えても人間のスペースの中にそんなスーパーマンみたいな動力を仕込む事は不可能。ましてや内臓が一式ちゃんと詰まっていたら。第一そんな強力なエネルギー発生器の燃料は何? 燃料どこに詰めておく? 廃熱が出るのはどう処理する? そんな事考えるよりは、必要な時だけエネルギー発生器を外づけした方がずっと妥当なかたちではないかいね。スーパー強力な筋力は出せなくても、外づけ電池で何時間も疲れずに動ける人工筋肉を持っている。そういうのの方が役に立つんじゃない?」

 

明美「そうすると、普通人とほとんど変わらないにも関らず、そとになんかくっつけたら人間以上の能力を発揮できる、そういうサイボーグが望ましい、と。

 日常生活を送るボディは仮の姿、半完成品状態で、外側に外骨格とか動力を付加すると初めて完全な姿になるように、初めから作ってある。それが戦闘用サイボーグなんですか。」

まゆ子「要するに、人間をベースに改造して能力を強化する、ってコンセプトはダメなのよ。可能なのは、機械と一体になったとき設定される能力がちゃんと発揮できるように最適化された人間、これこそが唯一実現可能なサイボーグ戦士って訳ね。」

明美「でも、それじゃあ、サイボーグ戦士に絶対必要なものは、ねじ穴、だけですか?」

まゆ子「ねじ穴と、それがちゃんと固定に役立つように治具がくっついた骨、だけかな。飛行機で言うハードポイントってやつね。
 神経の情報は電線引かなくても読めるかもしれないから必須ではない。その他のスーパー機能は外側にいくらでも増設できるもん。なんだったらパワードスーツでなくて、車両や航空機に固定してもいいよ。どちらもまるで自分の身体のように扱えるんだから。」

 

明美「・・・・・・・・便利、ですね。」

 

まゆ子「サイボーグだもん。」

 

2001/12/05

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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