まゆ子のましなりぃ
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02/01/13

漢字をつくろう
超絶戦艦アキハバラの布石
21世紀的ゆーれいの作り方
わーぷのはなし
50メートルのロボットは作れるか?!

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漢字をつくろう

まゆ子「今回は”漢字をつくろう”です。」

明美2号「漢字なんか勝手につくっちゃいけません!」

まゆ子「いや、江戸時代までは漢字は個人が割と勝手に作ってたんだよ。」

明美「まさかあ、そんなの他人にわからないじゃないですか。」

まゆ子「いやほんと、それにだいたい中国には数万ともいう漢字があるんだけど、これを一体どこの誰が製造管理していたと思うの? みんな適当に作っていたんだよ。というか、いわゆるデファクトスタンダードだね。或る新規の概念があってそれを表現するのに適当な漢字が存在しないとすると、誰かが勝手にこしらえちゃう。それが流通するかどうかはその新漢字が他人にどれだけ使用してもらえるかに掛かっていて、別にどこかに承認をもらうってものじゃない。もっとも、役人とか皇帝とかはそのスタンダードになろうと努力してはいたけどね。」

明美「でもじゃあそんなの、デタラメな漢字が氾濫することになるじゃないですか。」

まゆ子「そだよ。だから日本では使わない漢字が中国にはいくらでもある。日本に漢字が入ってきた時には無かった漢字が山のように存在する。でも日本にある漢字だけでも十分用が足りてるでしょ。」

明美「がーーーん、知らなかった。漢字ってかっちりと決まってるものじゃなかったんだ。」

まゆ子「そういう風にかっちり決まった形になったのは、明治になって活字による印刷が普及して学校制度が整えられた後だよ。活字はいいかげんなものまで許すといくら字があっても足りないからね、ある程度かっちり決まって要らない字は排除しないといけない。で、学校で習う漢字も全国レベルで通用しなければならないからいいかげんな独自の字体が存在する事は許されないし、教科書が活字による印刷で作られてるから漢字の総数も制限されている。

 つまり、漢字がかっちりと限定的に存在するものに変質したわけだ。その名残が個人の名前に存在する異体字で、行政はこの異体字を取り扱うのに特別な処理システムを導入しなければならなくて苦労している。」

明美「はあ、漢字は野放しが本来の姿であったんですね。という事は今回まゆ子さんが唱えている”漢字をつくろう”というのは、先祖返り、ですか。」

まゆ子「うーん、そういってもいいかも知れない。いや、その要素も認めようという意識はあるね。」

明美「でも、現在でも異体字やら勝手に作った漢字ってのは流通しないでしょ。だのに何故漢字をつくろうなんて考えたんですか。」

まゆ子「コンピュータが普及したからよ。」

明美「でもフォントってのは字数が決まってるでしょ。独自の漢字を自分で作っても他の人は使いませんよ。」

まゆ子「そうだね。でも無理やりつかわせてやろーというのが今回の趣旨なんだ。それも日本人だけではなくて外人、それもアメリカ人にだよ。」

明美「げげえ、そんな無茶な。第一アメリカ人のコンピュータでは漢字を処理出来ないでしょ。」

まゆ子「できるよ。ちゃんと処理系を導入すればウインドウズでも。でもそんなのは些細な問題だ。いかにしてアメリカ人が漢字を使いたいと思うか。それが今回のテーマなんだ。」

明美「そういえば今アメリカでは漢字が流行っているって噂ですけど。」

まゆ子「まあ、ちょっとしたブームらしいけど、これがそのまま何らかの意味を持ってアメリカ人の言語体系に導入されるとは思わないね。それに私はアメリカ人だけじゃなくてアフリカ人とかアラブ人とか南米のインディオとかポリネシアの人たちとかにも、加えてまだ教育も十分に行われていない文字を読めも書けもしない人たちをもターゲットにしているんだよ。」

明美「そういう人たちに、漢字を使わせる気ですか・・・・・。」

まゆ子「そういう事。 と言っても今の漢字を直接使わせるのはとても無理だし不合理だ。だから今有る漢字は全部廃止しちゃう。」

明美「うげえげげ。」

まゆ子「で、新しい良く出来た、世界中の人が無理なく使える漢字を勝手にこしらえちゃおうという野心的なプロジェクトなんだ。」

明美「野心的過ぎます! 第一全部廃止しちゃったら今有る漢字を使ってる人たちはどうすればいいんですか!?」

まゆ子「だからあ、そこもしっかり考えてるんだってば。今有る漢字を、中国には数万字もある漢字をそっくり一対一対応で新漢字に置き換えてしまう。そうするとだね、中国や日本に有る膨大な漢字を使ったテキストが世界中で共有できちゃうんだ。世界の人が皆読むことが可能になるんだね。」

明美「そんな、うそみたいな。」

まゆ子「うそみたいな話が、コンピュータを使うと実現できるのよ。第一、この新漢字、これをよその国の人がそのまま読むとは限らない。コンピュータが読んでそれぞれユーザーが使っている諸国語に変換されて表示される、という風にしてもいい。というか、それが標準的な使用法になるでしょう。新漢字を機械翻訳の中間言語にするって方法だね。
 でもコンピュータを使わなくても自分で直接読むことも出来る。」

明美「うーむ、絶対失敗する。」

まゆ子「失敗しないよ。絶対。なぜなら文字の数は極端に少ないからね。200、せいぜい300しか文字は存在しない。そのくらい覚えるのに苦労する人はいないでしょ。」

明美「え、でも数万字もある漢字をすべて置き換えるんでしょ。300じゃとうてい足りない・・・。」

まゆ子「これは部首だ。部首の数が300。で、この部首がそれぞれちゃんとした意味を持つ。これだけを使っても簡単な会話くらいなら成立するような必要十分な意味を取り揃えている。抽象概念や指示語もね。で、これがレベル1。このレベル1の新漢字を世界中の人が共有する事で誰でも自由に会話できることになる。」

明美「・・・シンボル、ですか。シンボルだけを流通させるんですね。そうか、それは簡単な、でもアメリカ人とかこんなの必要なんですかね。いや、別に文字が無い所の人にとっては便利だと思いますけど。」

まゆ子「まず確認しておきたいところだけど、人間にはシンボルを取り扱う能力が生来的に備わっている。象形、表意文字を扱う知能が十二分に存在する。次に、アメリカ人他表音文字のみを扱う人たちは、その能力を普段まったく使っていない。すなわち”穴”だ。適切な文字体系が提供された場合、ティッシュに水を吸わすようにどんどん取り込んでいく。で、いったん取り込まれると、これはとても強固に言語空間に存在し続けるでしょう。
 困るのはむしろ、現在漢字を使ってる日本人とか中国人とかの方だよ。似たようなものが重複するからね。でもそれも大した負担ではない。日本の漢字と中国の漢字は現在では似ても似つかないものに変形してるけど、でも両方を使える人は居るからね。」

明美「はあ、文字のエスペラント語みたいなものですね。」

まゆ子「エスペラント語は失敗作だ。音声言語というもの自体がエスペラントの概念にそぐわない事を作った本人が理解していなかった。つまり、言葉は変わるものだ、という事ね。」

明美「言葉が、変わる?」

まゆ子「古文みりゃわかるでしょ。昔の言葉をそのまま使われても今の人には理解出来ない。これは英語だってそうだよ。米語と英語は違う、ってのはよく知られているけれど、英国米国内部においても言葉は変わってきてる。表記だってそう。”TO”を”2”、”YOU”を”U”とか表記するのが最近流行ってきてるでしょ。今はごく限定的にしか使われないけれど、これが百年も経ったら当たり前に通用してるかもしれない。それが言語というもの、表音文字の限界というもので、それがゆえにヨーロッパにはいろいろなアルファベットが存在するのだね。」

明美「そうですね。もとは同じギリシャ・ローマのアルファベットだというのに、こんなに違うなんて不条理です。表音文字にはこれを食い止める能力が無いんですね。」

まゆ子「表意文字にはある。音は変わっても概念は変わらない。概念をシンボルで表現していれば時代が移って音が変わってきても意味は変質しない。また、まったく違う言語体系、外国語であっても表意文字で記述されていれば、どの国の言葉からでも同じテキストを読むことができる。」

明美「やーーーっとまゆ子さんの意図が分かってきました。世界中の人が文字ベースでコミュニケートするには、表音文字よりも表意文字の方が適しているんですね。特に、コンピュータとインターネットを使っての場合。」

まゆ子「英語の文章って読みにくいでしょ。コンピュータの画面に小さい文字がちらちらちらちらと、ずらーーーーーっと並んでるなんて。でも漢字で書いてたら一発で目に飛び込んでくる。これは漢字を使用している国独自の利点だけれど、コンピュータの時代でこそその利点は輝くわ。で、それを世界中の人が共有できる。
 特に警告文とか契約書とかは、意味を完全に表現する表意文字で書かれていれば、誰も迷わない。」

明美「それは理想的ですね。でも理想と現実はおうおうにして違うものですから、便利だと言っても使ってもらえないと。」

まゆ子「その為の秘策がある!!

 この新漢字、て漢字じゃないんだから”図字”と呼んでおこう、にはそれぞれの文字に読みが無い!」

明美「読みが無いって、読みって無いと読めないじゃないですか。つまり発音ですよね。」

まゆ子「そう。それぞれの文字には固有の発音が無い。では何があるかと言うと、訓がある。」

明美「????」

まゆ子「全部訓読み。それぞれの国でそれぞれの発音でそれぞれその文字にふさわしい単語の読みを当てる。つまり日本語の訓読みをするんだ。」

明美「はあーーーー。つまり”果実”って文字があると英語なら”FRUITS”、日本語なら”くだもの”って読むわけですね。」

まゆ子「そうそう。」

明美「そりゃあ、すっぱりと頭の中に入ってきますね。300個くらいなら。」

まゆ子「そでしょ。

 ようするにこの新漢字”図字”は漢字をベースに日本人が作り上げた文字体系を世界レベルに昇華させるものなんだ。だから、表意文字とは別に文法記号もある。漢文のヲコト点とか返り点がある。これを使うとどこの国の言葉でも文法を明示して、自分の意図と違うように読まれないという機能を持つことになる。」

明美「つまり、自分の国の言葉で書いた文章をその”図字”に変換しても、文法記号を付加することでそれぞれの国の文法のままでも、よその国の人が読める文章になるんですね。」

まゆ子「まったくそのとうり。だけど、コンピュータを利用して自分の国の文法に置き換えて読む事も簡単だね。」

明美「徹底的にコンピュータと文字ベースのコミュニケートにこだわって作られてるんですね。でも300じゃ文字数が足りないでしょ。」

まゆ子「それはレベル2の文字になる。レベル2はその部首を二つ組み合わせた合成文字だ。ようするに普通の漢字と同じだね。字素が組み合わさって文字を作るって。でも、ここが既存の漢字がこの任に耐えない、流用出来ないと判断されたところなんだ。」

明美「?」

まゆ子「漢字は、理不尽だ。非合理的に作られている。まず文字の成り立ちね。漢字はだいたい出来た当時の、もう数千年前の社会を前提に意味が作られている。現在の社会から見た場合とんでもないような不条理な意味を持っていたり差別的な意味を持って文字が作られている。だからそういうのは排除しなければならない。例えば”民”という文字だけど、これは奴隷が目をつぶされている象形文字なんだそうだけど、それをそのまま使うってのは、ちょっと問題がある。」

明美「そんな恐ろしい文字だったんですか、”民”って。」

まゆ子「まあ別の解釈も有るんだけどね。仮借文字だって。

 で、そういうのは全部廃止するとしたら、漢字の骨格は無くなっちゃう。
 さらにコンピュータとか放射線とか電気とか、絶対無ければ困るようなものは独立した文字を持ってないと困るね。哺乳類とか両生類とか、科学的な分類に基づいた文字も必要だけど、もとの漢字にはそういう現代的な区分は存在しない。

 次に漢字には形声文字ってのが多すぎる。」

明美「形声っていうと、音を借りて来るやつですね。そうか、それは問題だ。」

まゆ子「たとえば”猫”って字だけど、これは”けものへん”に”苗みゃお”という字だよ。みゃーと鳴くから猫というわけだ。だれがどう考えてもこれはいけない。ネコというなら”けものへん”に”眠る”でしょうけど、この”眠”って字も”民”の形声だ。」

明美「あーー、そりゃダメだ。漢字をつくろうって考えるわけです。」

まゆ子「というわけで象形文字と指示、会意文字のみを組み合わせて文字を作る。組み合わせが前提となるから、もともとの部首であるレベル1文字は画数も少なく認識しやすく紛らわしくないものでなければならない。つまりわかりやすい文字である事が絶対条件ね。画数が少ないのも筆記しやすくするために絶対に必要。欲を言えばどの文字も意味を推測し易いように作っていると便利だね。

 で、それを二個組み合わせるのがレベル2文字。三個組み合わせた方が絶対良いという文字もあるけれど、そこはまあ勘弁してもらって。三個組み合わせだとコンピュータ上での表現に問題があるからね。見づらいし。この組み合わせの方法もちゃんとした規則がある。左右に並べるか上下に並べるか、かたっぽ小さくするとかで属性がしっかり決まっている方が良い。

 で、文字の数だけど、部首を256と仮定した場合、二個組み合わせで65536個、組み合わせ方が4個あるとしたら262144個という大量の文字になる。」

明美「はあ。そうか。そんなに大量にあるとしたら、現存する漢字をすべて”図字”で置き換える事も可能なんだ。」

まゆ子「とはいえレベル2の文字は世界中の人が共有しなければならない。辞書を作れるだけの数に限定しなければいけない。だから、まあ3000から4000個ですね。たいていの国の言葉は3000個の単語を覚えれば可能だ、って話だからこんなもんでいいでしょう。」

明美「うーーん、整理すると漢字の世界ってのも合理化が出来るんですね。そうかあ、これならなんとかなるかもしれない。」

まゆ子「とはいえだ、日本の小学校では1000字しか教えない。それは漢字同士を組み合わせて単語を作るからだけど、これにも規則をつくって造語法を確立しておかなければならない。複数字の組み合わせによる造語法を併用した場合、覚えるべき文字は1000個くらいで十分でしょう。」

明美「どんどん減っていきますね。1000個の文字を覚えろってのは別にひどい負担とは言えないですからね。」

まゆ子「逆に言うと、1000個くらいが世界中で共有出来る限界だと思うよ。
 まあ、書けなくても読める字ってのがあってもいいから、必須文字と推奨文字ってカテゴリに分けるかな? 竜とか鬼とかの架空の動物、元素の名前なんかは。

 で、共有出来ない文字、これがレベル3の文字になる。レベル2から漏れた二個合成文字、さらに三個合成文字、独自に勝手に組み合わせて作った文字、勝手に作った部首、そして既存の漢字を置き換える為の文字、これらは無くても支障無いし共有されなくても問題無い。だからレベル3だ。」

明美「確かにこれならば実用できますね。すくなくともエスペラント語よりは分がいい。でも、紙に書いたりコンピュータを使わなければコミュニケート出来ないってのはちょっと情けないですね。」

まゆ子「心配無用! そこもちゃんと解決している。

 手話ってのがあるでしょ。これも世界中ばらばらで共通語ではない。なんでこんな最近になって作られた会話手段に方言があって共有できないかというと、世界中で身振り手振りがばらばらだからなんだね。言葉がそれぞれ違うように、ボディランゲージもそれぞれの国で違う。身体感覚が違うからボディランゲージを統一しようとしても、それでは意味をなさなくなってしまう。意味、概念自体はどこの国に行ってもそれほど変りは無いのにね。」

明美「なかなかうまくいかないものですからねー。そういえば手話は完全な表意による会話手段といってもいいんですかね。つづりをそのまま表現するような不完全なものも有ったと思いますが。」

まゆ子「ではなぜうまくいかないか、それは実体が違うから。手話が表現すべきものがそれぞれの国で異なるから、同じシンボルで表現できないんだね。しかし、ここに”図字”という世界共通の表意文字があるとすれば、」

明美「手話で”図字”を表現すればいいんだ。」

まゆ子「手話ならレベル1の文字だけで十分でしょ。それに造語法と文法記号を加えればほぼ満足のいくコミュニケートが可能だ。そして、手話が”図字”を表わすものだとすれば、世間一般の健常者の人もそれを簡単に利用出来る。言葉が通じない国の人とも会話が出来るってわけ。声が届かないシチュエーションでの会話にも使えるわね。だだっぴろい混雑した会場とか工事現場、消防、軍隊、宇宙空間でも有効ね。」

明美「うーむ、言葉によるコミュニケーションだけが除外されるんですね。これを統一する方法はないでしょうか。」

まゆ子「それはねえー、やる意味が無いしねー、出来ない事もないけれど、どうなんだろう。そこは考えてない。というか、考える必要を感じなかったね。下手に統一すると反発を食うし。表意文字は穴だからここまで出来るんだし、文法からも開放されてるから誰でも使えるんだしねえ。

 

 さて、ここからがSFだ。

 SFにおいては未来世界で文字や言語がどうなっているか、たいていは考えようとしない。下手にいじると読者に意味が通じないものになるからね。結構たくさんそのタブーに挑戦しているけれど、でも成功したのは数少ない。「星海の紋章」はその成功例の一つだけど、でもそれが世間一般で共有されることは無い。」

明美「そりゃ当たり前です。でも”図字”はそれも可能なんですね。」

まゆ子「なぜならば”図字”は宇宙時代の言語として設計されているからね。さっきも言ったように、音が通じない空間でも”図字”は使用可能。だけどその真価は時の試練にさらされてこそ十分に発揮される。

 宇宙時代といえば宇宙に人が住むようになるって事だけど、でもそれは今の地球以上に人がばらばらに過ごすという事を意味するんだね。
 宇宙飛行の手段によっては、行き来が数週間から数年かかる距離にも住む事になるだろう。ワープなんかがあっても一緒だよ。

 小規模な宇宙コロニーで仲間うちだけで閉鎖孤立して住み続けるってのも可能なんだけど、そうなりゃそりゃあ言葉も変わるだろうさ。わずか数世代の内に外界の人とはコミュニケーションが不可能になる、そういう事態も発生する。」

明美「はあ、それはどっちかというと意図的にイデオロギー的にそうし向けるって人がいそうですね。」

まゆ子「しかし、そういう空間でも”図字”は存在し続ける。表意文字は言語空間に強烈に染みつくからね。一度シンボルに汚染されてしまうと共同体からそれを分離するのは非常に困難。だから変わるのは専ら音声言語であって、図字はその変化から超然としていられる。

 図字もオリジナルの文字に置き換える、ってのはそれは大変だろう。置き換える事は出来ない、とは言わないけれど、しかし再教育も簡単だからね。なにせ漢字をまったく知らない人に教えるように作られているんだから。

 そして宇宙空間において最も重要な”警告文”、これはもう図字の独壇場だ。

 

 つまり、ばらばらになる、なろうとする人類は図字によってのみ統一され得る。

 なんというか、人類だけじゃなく、宇宙人相手でも図字を使ってお話し出来る。音声言語でコミュニケートするよりはるかに意思の疎通は簡単ね。ものごとの絵と図字を同時に提示すればすぐ覚えてくれるでしょ。

 ちなみに宇宙人が人類の可聴域での発声が出来るか、これは大問題。”マーズアタック”ではハワイアンを聞いただけで火星人脳味噌が破裂してたからね。」

明美「そうかー、宇宙においては標準語は音声言語ではないんだ。」

まゆ子「つまり、図字を作る事がわくせーれんぽーに至る第一歩なのだ。」

 

2001/11/11

 

超絶戦艦アキハバラの布石

まゆ子「今回は”超絶戦艦アキハバラの布石”と題打ってお話しを進めたいと思います。」

明美2「はいはい! 超絶戦艦ってなんですか。」

まゆ子「それは読んで字のごとく、超絶スゴイ戦艦だよ。というか、ちまたの本屋さんにはなんだかよく知らないけど超絶戦艦ものという小説のジャンルがいつの間にか出来ていて、今回それに参入しようという訳だ。」

明美「それって読んだ事無いんですが、宇宙戦艦ヤマトみたいなものですか?」

まゆ子「いや、ちょっと違う。ちょっとだけなんだけど、つまり、第二次世界大戦の時に、なんだかよくわからないけど。とんでもなく進化した超スゴイ武装の戦艦が現れたり、実際には作られなかった空想上の超科学兵器を搭載したスゴイ飛行機とかが出てきて大活躍するというお話なんだ。」

明美「SFですね。」

まゆ子「いや、SFというものは”物理的に実現の可能性が無いとは言えない”という前提を崩しちゃあいけないものだから、これはどっちかというとファンタジーですね。剣と魔法とドラゴンの代わりに、超絶戦艦が出てくるんだ。」

明美「なるほど。そういうのが人気があるんですか。」

まゆ子「それはよく分からない。いや、あれだけ本が売ってるんだから、たぶん人気があるんだろうけど、どういう人が買っていくのかは良く分からない。」

明美「ほう。それは奥の深いものですね。」

まゆ子「で、今回それに参入しようという訳なんだ。」

明美「まゆ子さんが考える超絶戦艦ですね。それは戦艦ヤマトより大きいんですか?」

まゆ子「いや、ずっとちっちゃい。というか、これは現代の戦艦なんだ。」

明美「え? でも第二次世界大戦じゃないんですか??」

まゆ子「ところがね、21世紀の戦艦が第二次世界大戦の戦場に現れるのもありなんだ。”剣と魔法”もので言う所の召喚術だね。」

明美「うそお! そんなのでたらめじゃないですか。」

まゆ子「いやほんと。こういうのは有りなんだ。超絶戦艦ものにおいては。第一ね、ちょーっと時間をワープして未来戦艦が出てきたとしてもね、その出た先には総排水量500万トン戦闘機1万機搭載の超絶空母とか、ジャンボジェットの3倍くらいある大きさの超絶空中要塞とか、ジェット機とかロケット戦闘機とかがもうぶんぶん飛んでるような世界なんだから、そんなのが一隻くらい出て来たくらいじゃもうびくともしない。」

明美「頭痛くなってきた。つまり、なんでもありなんですね。」

まゆ子「でも核兵器は禁止だ。そんなものぼかすか撃ち合ったら超絶戦艦もひとたまりも無いからね。あくまで主役は超絶戦艦。超絶戦艦が大活躍できないような設定は許容されないのだ。」

明美「うーーー、要するにファンタジーですか。」

まゆ子「そういう事。」

明美「で、まゆ子さんはそういう変なお話に出てくる超絶スゴイ戦艦を考えたんですね。」

まゆ子「いや、そうは言っても超絶戦艦ものには21世紀にアメリカとか中国とかと戦うというジャンルもちゃんとあるから、まあそっちの方向きかな。」

明美「はあ。」

まゆ子「超絶戦艦アキハバラ、総排水量1万1千トン。艦対地ミサイル100発装備。終わり。」

明美「それだけですか。そんなので超絶戦艦なんですか?」

まゆ子「超絶スゴイところは、この100発のミサイルをナンと5分間で全部発射出来る。3秒に一発の割合だね。で、撃ちつくしたらひたすら逃げる。ヒットアンドアウェイに徹した艦種で、戦艦というよりは単なるミサイルキャリア、ミサイル運搬船だよ。」

明美「それは凄いんですか。」

まゆ子「艦対地ミサイルはかなりデカいからね。全弾ヒットすれば小型の核兵器なみの破壊力がある。もちろん相手が艦船であった場合撃沈は必至だ。どんな超絶兵器を搭載している超絶戦艦であってもね。つまり超絶戦艦アキハバラは超絶戦艦キラーなんだ。」

明美「おお、超超絶戦艦なんですね。でも本当に勝てるんですか。」

まゆ子「超絶戦艦アキハバラは単なるミサイルキャリアに過ぎないから、ミサイルぶっ放すしか能が無い。という事は他には何にも付いてないのっぺりした船だ。
 のっぺりしているという事はステルス性が高いという事で、同世代のステルス技術を使用した場合、ごちゃごちゃした艤装を施してある超絶戦艦よりも絶対的にステルス性能は高い。つまり、こっそりと近付いていきなり全弾ぶっ放す訳だから、これはひとたまりも無いね。もちろん探知技術やら情報技術も同世代のものと仮定した場合ね。」

明美「はあ。」

まゆ子「超絶戦艦アキハバラ、排水量は1万1千トンに過ぎない。超絶戦艦は大体5万から10万トンだから、非常に小さいと言ってもよい。今現在自衛隊が持ってる船と同じくらいのもんだ。小さいから、当然安い。超絶戦艦1隻を作るお金で20隻は作れるでしょ。こっそり近付いてくる船が20隻、これではどんなに強くったってかなわない。」

明美「それはスゴイですね。つまり運用も考えて超絶スゴイんですね。」

まゆ子「運用と言うならもっとスゴイものがあるぞ。

 超絶戦艦アキハバラはミサイルぶっ放すしか能の無い船だから、人間は数える程しか必要ない。まあ1万トンはあるんだから、20人くらいかな。それも普通の練度の乗組員で上等だ。それに対して超絶戦艦の乗組員はこれまた超絶エリートが200や300は必要だ。第二次世界大戦の頃の船は1000人規模で乗ってたのに比べると自動化で少なくはなってるけど、アキハバラのそれこそ貨物船並みの乗員数に比べるとスゴイ人数が必要だ。

 人間が少ないという事は、まあこう言っちゃなんだけど、死んだってそれほどのダメージじゃない。代わりはなんぼでも効くって事だね。」

明美「ううう、だからアキハバラってネーミングなんですね。安くていっぱい有る。」

まゆ子「そうそう。」

明美「でも戦艦って飛行機に弱いんでしょ。飛行機のせいで戦艦の出番はもう無くなったって聞いた事がありますけど。」

まゆ子「超絶戦艦たるもの、飛行機による攻撃くらいでは沈まないものなのだ。第一超絶戦艦の隣には大体超絶空母が超絶戦闘機を多数搭載して待機していて、壮絶な空中戦を繰り広げるのが物語のクライマックスの前座として欠かせない筋書きね。」

明美「あ、そうか。飛行機が出てこなければお話にならないんだ。」

まゆ子「とはいうものの、超絶戦艦アキハバラ、飛行機に対しては滅法強い。全ての超絶戦艦の中でも最強と言ってよい。
 ま、大体空中兵力に守られないまま艦船を運用するという発想自体間違っているのだけど、アキハバラはそれも可とする能力を持っていたりする。」

明美「ほう。」

まゆ子「ミサイル100発あるでしょ。これ結構大きいんだ。だから中には色んなものが入れられる。普通は通常弾頭だけど、集束爆弾だったり科学兵器だったりECM載せたりする事が出来る。当然対空ミサイルもね。1発のミサイルの中に空対空ミサイルが5本は積めるでしょう。
 100発のミサイルの内10発をこれにしておけば、空中にいきなり50発の空対空ミサイルが登場する事になる。飛行機が上がってたとしても、あとはもう逃げるしか無いね。全弾撃ちつくしたと思って飛んできても、後から二番艦がやって来てたりする。」

明美「これは卑怯な戦艦ですね。なんかそんな感じしますよ。」

 

まゆ子「で、これが第二次世界大戦に現れると、一回ぶっ放して終わり、という訳よ。お話にならない。」

明美「あはっははは。」

 

まゆ子「というのは前座で、ホントの話はここから始まる。どうやったら第二次世界大戦で勝てるか、というお話よ。」

明美「はあ。」

まゆ子「超絶戦艦と言うからにはまず”大和”から始めなきゃいけない。これはあんまり活躍しなかった船だけど、でも活躍する場に有ってもあまり役に立たなかったんじゃないかな。」

明美「やっぱり大艦巨砲主義はダメって事ですか。」

まゆ子「そうとも言い切れないけれど、使い方間違ってたしね。
 あのね、あんまり人気は無いけれど、大和級には武蔵って同型艦がちゃんとあったんだけど、これがまた役に立たなかったんだ。デカ過ぎて。で、その最大の失敗が、主砲によるものなんだ。大和級は46cm砲という世界最大の口径の主砲が付いていたんだけど、これはぶっ放すと物凄い衝撃を発するのね。でもこの衝撃を受け止めるには大和級の艦体は小さ過ぎるんだ。
 で、実際にぶっ放して初めて分かる事実、武蔵ではこの衝撃によって大切な光学機器が全部ぶっ壊れちゃったんだ。大和級の46cm砲の射程は42キロくらい。当然目見当で撃って弾が当たるような距離じゃない。光学機器で敵艦の方位と距離を精密測定して照準をしっかり出さなきゃ絶対に当たらない。その重要な機械を自分でぶっ壊してしまったんだ。」

明美「そりゃあ、不幸ですね。」

まゆ子「これはそんなデカい大砲を回転砲塔なんかに詰め込んだ報いなんだ。あんな小さい所にそんなバカでっかい大砲を押し込めたらショックアブゾーバーに十分な容積が取れないのは分かり切ってる。

 でもね、よく考えたら、大砲の口径をデカくするってのは、射程距離を長くして相手の大砲の届かない距離から弾をぶち当てようという思考なのよ。アウトレンジ攻撃って戦法なんだけど、でもそれだったら回転砲塔なんて要らないわ。まあ仰角くらいは変えられなければ困るけど、射線軸を固定してまっすぐ艦首の方向にぶっ放すって大砲で十分だったのよ。それならもっとしっかりしたショックアブゾーバーがくっ付けられるし、装弾に係る時間も短くなって発射回数が増すし、第一口径だってもっと大きな、それも砲身長の長い命中率の高い砲だって装備出来たのよ。着弾点の観測は飛行機がもうやってたから、無線で照準点修正を連絡して見えない敵に砲撃すればいいし。

 大和級は水上の要塞として作られたのだから、浮き砲台に徹していたら良かったのに、下手に色気出して運動性とかも追求したから、大艦巨砲主義にも徹し得なかった、って訳ね。」

明美「でもやっぱり飛行機には勝てなかったんでしょ。」

まゆ子「ま、ね。」

明美「じゃあやっぱりダメだったんじゃないですか。」

まゆ子「そだね。」

明美「それなら日本も飛行機をいっぱい作って、空母をたくさん作ってってした方が良かったんじゃないですか。」

まゆ子「それはそうだけど、無理ね。第一飛行機をたくさん作っても乗る人間がいない。空母をたくさん作るっても、アメリカでは簡易空母を一週間で一個作ってたの。絶対追いつかないわ。」

明美「げ、一週間に一隻ですか!」

まゆ子「彼我の生産力の差はそれほどに大きかったのよ。しかし問題はそこじゃない。補給線よ。

 いかにアメリカの戦力が膨大でも、日本軍の武器が貧弱でも、当たりゃ沈んでた訳よ。ともかく物資が弾薬がちゃんとあればなんとかはなったのよ。特にアジア各国を制圧していた陸軍はね。大陸ではまだ、アメリカは脅威では無かったのよ。仮に直接ぶつかる事になっても、補給がしっかりしていれば適切な新兵器を開発して速やかに配備してなんとかする事は可能だったわ。
 でも、その補給が無茶苦茶に叩かれたからねえ、どうしようもないわね。」

明美「それは、超絶戦艦でどうにかなるものですか?」

まゆ子「だめね。超絶戦艦よりも数の問題よ。あとは、レーダーかな。敵が来ると分かっていればもう少しなんとかなったかもしれない。でも、補給力に10倍の差があるんだから、こっちが相手の補給線を2叩いたとしても、同程度の被害をこっちも受ければ壊滅だ。」

明美「どうしようもないんですね。」

まゆ子「いや、そうでもない。」

明美「へ?」

まゆ子「どうしようもない事をどうにかするのが、超”超絶戦艦”だ。ようするに補給線、輸送船を米軍の攻撃から守ればよい訳。どうすればいいか。相手の戦力を叩いて潰すというのはこれは不可能だ。こっちの補給力を増やすのはもう限界。とすれば、米軍が輸送船を攻撃出来ないようにすればいい。」

明美「そんな虫のイイ話が、」

まゆ子「たとえば、米軍の捕虜を数名、船の大きさに合せて10名から5、6名を輸送船に移乗させて、それを大々的に宣伝する。米軍向けラジオ放送で、「何々少尉以下何名、今日は××丸に乗ってます」という告知放送をしておけば、これは攻撃出来ない。やれと命令されたって、自分が捕まったら友軍に攻撃されると思ったらこれは出来ない。」

明美「人間の楯ですか! これは、・・・・ヒキョーですね。」

まゆ子「なーに、そもそもほとんど非武装の輸送船を襲おうという方がよっぽど卑怯なんだ。それに強制労働と違って、輸送船に乗っけるというのは別に虐待とは言えないさ。大事なお客さんだから。補給に余裕があれば捕虜の待遇だってそれに比例して良くなるんだ。文句を言われる筋合いは無いね。」

明美「はあ。」

まゆ子「とはいえ、これでやっと五分だ。で、後は正面の兵力の強さで決まるのだけど、これもねえ、科学技術の差はいかんともしがたいわねえ。」

明美「だめですか。」

まゆ子「ダメだね。特にドイツが降伏した後はね。兵器のレベルが全然違ってくるんだから。」

明美「そんなに違いますか。」

まゆ子「戦車で言えば4、5世代分は違うね。対戦車兵器もそう。機関銃も自動小銃も行き渡って無かったし、自動車も故障ばっかりで数も足りない、馬に大砲曳かせてたし。艦船も戦争始まってからは日本は進歩が無かったし、飛行機も最初は良かったけど、その良かったのに相手が合せて強くなると追随出来なかった。全部科学技術の差、工業力の差だね。」

明美「秘密兵器、なんちゃって。」

まゆ子「風船爆弾とか?
 それはともかく秘密兵器といえばやっぱり電子技術でしょう。レーダーであるとか通信機であるとか近接信管とか誘導装置、あ、暗号技術もそうか。ともかく日本軍はそっちの方面は全然ダメだった。どう転んでもアメリカにはかなわない。」

明美「だめですか。」

まゆ子「だめも何も、その当時は真空管使ってたんだけど、真空管ってその当時の最新鋭の電子デバイスだよ。当然製造には高い工業技術が必要なんだ。日本製とアメリカ製ではその性能は段違い。特に信頼性がまったく桁が違う。
 第一値段だ。
 アメリカではその高級な真空管を湯水のように使う事が出来た。当然真空管を扱える技術者も多い。それに比べて日本では出来の悪いすぐ壊れる、性能のいいのは輸入品で目の玉が飛び出る程高いってのを宝物のように使ってた。技術者の数が多い訳が無い。人数の差がそのまま技術格差になる。」

明美「ほとんど絶望的ですね。やっぱりダメって事ですか。」

 

まゆ子「ところがここにとある一つの素子がある。

 これが発表されたのは昭和29年だから戦後の事だけど、しかし使われている原理は戦争前から既知だったものばかり。
 しかも磁石とコイルという至極単純なモノから出来ていて、日本で作っても真空管と違って性能が安定していて途中で切れるって事も無い非常に優れたスイッチング素子なの。出来たばっかりのトランジスタよりもね。その頃のトランジスタは真空管よりもタチの悪い不安定なものだったんだよ。
 で、めちゃ安い。ドーナツ磁石に電線ぐるぐる巻くだけだから量産もばっちし。」

明美「ほおー。そんな良いものがあったなんて初めて知りました。」

まゆ子「まあその後のトランジスタの進歩、特に一つの石の中に複数の素子を詰め込んで回路を作るICの技術にはこの素子は適していなかったから、やっぱり最後は駆逐されてしまったけどね。コンピュータの黎明期にはこういった消えていったデバイスがいくらでもあるんだ。

 で、このスイッチング素子、パラメトロンと言うんだけど、これの発明者は日本人で、後藤英一っていう人だ。まだ存命中だったかな。

 

 で、もしもこのパラメトロンが昭和10年代に発明されていたとすれば・・・・・。」

 

明美「おお、これこそまさに超絶アキハバラ!!」

 

2001/9/4

 

 

 

21世紀的ゆーれいの作り方

まゆ子「今日は、21世紀的幽霊の作り方です。」

明美2「ゆーれい、の、つくりかた、ですか。」

まゆ子「そだよ。」

明美「ゆーれいを作るんですね。」

まゆ子「うん。」

明美「・・・・・・・ごきげんよー。」

まゆ子「こら、逃げるな。作るったって別に呪われるような事はしないから。

  ところでだ、幽霊ってなんだと思う?」

明美「さあなんでしょう。わたくしにはさっぱり見当もつきませんです。」

まゆ子「幽霊って生き物かい、それとも何らかの自然現象?」

明美「さあ。」

まゆ子「なんかよく分からないものかい?」

明美「分かりませんね。」

まゆ子「分からないものが、写真には写るんだ。」

明美「えーーーーー、写ってるみたいですね。」

まゆ子「変なものが写ったら、幽霊なんだ。」

明美「それは違います。幽霊が写ったら、変なんです。」

まゆ子「幽霊って、写真に写るものと決まってるんだ。」

明美「いえ、そうという訳では。時々たまたま写るような。」

まゆ子「時々たまたま写った変なものが、幽霊なんだ。」

明美「いえ、それもちょっと違うような。って、なんか変だな。」

まゆ子「そう、変なんだ。変なのは幽霊じゃなくて、変な写真を見てこれは幽霊だと言う人間が変なんだ。
 いい、よく考えてみてよ。

 それは確かに、何らかの物理的存在が実在するとして、それが光学的な現象を引き起こすのならば、写真には写るさ。でも、幽霊の物理構造が分からない以上、幽霊が写真に写るというのは保証されていない。幽霊の正体が分からなければ、心霊写真というものは単なる変な写真でしかない。心霊写真を証拠として幽霊の実在を証明する事は出来ないんだ。」

明美「心霊写真は幽霊を証明できないんですか!」

まゆ子「そう。心霊写真は、なんか変な写真以上のものではないんだ。これは写真だけじゃないよ。電波とか磁気とか音声とか、ありとあらゆるセンサーでの観測は、みんな幽霊の実在を証明出来ないんだ。そのセンサーで感知できるなんらかの存在か現象があって、それを”幽霊”と名付ける事は出来る。
 でも、なんだか分からないものがあるらしいから、手持ちのセンサーを向けてみたけど、なんだかよく分かりませんでした、ってのはこれは科学じゃない。」

明美「はあ。」

まゆ子「こないだテレビでやってたけどね、アンテナの無いテレビを海岸に持っていっていわゆる「砂の嵐」を映し出して、そのざらざらの画面から幽霊を発見しようっていうおバカな科学者が居たのね。でね、その人の言う事には、幽霊は非力だけど電子一個をいじくるくらいのパワーはあるから、テレビ画面に幽霊の姿を映し出す事は可能なんだそうな。
 ところで明美ちゃん、あなた、テレビのアンテナに可変抵抗器をくっつけて自分の顔をテレビに映し出す事出来る?」

明美「え!? いやあー、そんな、どうやってやればいいんですか?」

まゆ子「知らないわよ、そんなの。第一テレビの画面って左から右に一本ずつ線を描いて、その濃淡のある線分が何百本も集まって一つの画像を作るのよ。自分の顔を映し出すにはその線分一本一本の位置を計算して線に濃淡をつけなくちゃいけない、こんなもんコンピュータじゃないと出来ないわよ。」

明美「つまり、その科学者ってのは、ばかですね。」

まゆ子「バカだ。で、世の中の心霊研究家とか科学者ってのはみんなこんな奴ばっかりなんだ。つまり、科学的に幽霊を研究している奴なんて一人もいないって訳だ。」

明美「むちゃくちゃな話ですね。」

まゆ子「どうしてこうなってしまうかと言えば、連中に科学的な態度が欠落しているからなんだ。
 つまり、幽霊は人間によって観測される。で体験談として提供される。その体験談から幽霊というものの性質を抽出して、幽霊というものの実体の仮説を立てにゃいけないんだけど、最新のセンサーで観測すれば幽霊は必ず検出される、という思いこみで実験するから、当然のように失敗するんだ。
 素直に、まずは体験談を詳細に分析する事から始めるのが真に科学というものだよ。

 で、そこで一番最初に出てくるのが、幽霊に敏感な人間とそうでない人間の存在だ。いわゆる霊能力者ね。
 彼らは幽霊が見えると言う。声も聞こえるという。普通人で敏感な人ってのも、やっぱなんかを見たり聞いたりすると言う。
 しかし、ここが肝心だよ、同じ幽霊が出るという場所に行っても、幽霊を見ない人間が居るんだ。」

明美「はあ、たいていの人はそうですね。」

まゆ子「普通の人には見えない存在が、或る特定の人には見える。ここから導かれる仮説は二つ、
「幽霊は自分の姿を超能力で遮蔽して見えないようにしているが、霊能力に長けた人間はそのカモフラージュを暴いて実体を見る事が出来る」、
もう一つは
「幽霊は本当は肉眼では観測出来ないが、霊能力を持つ人にだけ映像として感知出来る」

さて、どっちがたしからしい?」

明美「えーーーーと、前者はちょっとおおげさ過ぎますね。でも後者だと、・・・・・・心霊写真は写らない・・・・・・・・・。」

まゆ子「体験談に戻ろう。幽霊は、普通の人には見えない。声も聞こえない。にも関らず、幽霊が居るという場所では何らかの厭な感じがするものだそうな。つまり、映像も見えず声も聞こえないのに、幽霊を感じ取る事が可能だ、という訳。これは後者の仮説を補強するね。前者であれば、それは極めていい加減なカモフラージュだって事だ。光学的には完全な遮蔽をしていながら、しっかりと存在がバレバレなんだから。」

明美「まぬけですね。」

まゆ子「後者の仮説を取ろう。つまり、幽霊は目には見えないけど、生き物には感じ取れる。事実イヌやネコといった動物は幽霊に対して敏感だ、と体験談に多数見る事が出来る。
 という事は、幽霊を感知するセンサーとしてふさわしいものはやはり、生き物だ。
 カメラやテレビ、電磁気の計測計じゃない。もし科学的に幽霊を観測しようとするならば、この絵のような装置でなければならない。」

明美「うげげげ、猫の脳味噌に電極突っ込むんですか!可哀想じゃないですか。」

まゆ子「なにを言う。世の中にはもっと鬼畜極まりない研究をする科学者がごまんと居るぞ。それに比べればこんなのは天使のいたずらみたいなものだ。
 で、ここんとこが肝心。この猫は、寝ててはいけない。脅えたりびっくりしてもいけない。薬物で頭がラリっていてもいけない。ちゃんと起きていて極めて平常な状態で、軽く集中しているぐらいでなければ正しい観測結果が得られない。で、目で見たものに反応しないように目隠しをしていなければならない。」

明美「脳味噌に電極突っ込まれてまともな猫なんているもんですか!」

まゆ子「まあ、小猫の頃から脳に電極を突っ込んで大きくすれば、いいかも。」

明美「よくないです!」

まゆ子「まあ、幽霊というものが実在するとして、このセンサーで感知出来ないとしたら、それは人間の科学力ではアクセス不能でしょうねえ。」

 

まゆ子「さて、で、本題の「幽霊の作り方」だ。これもまた幽霊の体験談から導き出す事が出来る。
 明美ちゃん、幽霊には知的能力が有ると思う?」

明美「え!? 幽霊に?? つまり幽霊はものを考える事が出来るかって事ですか。」

まゆ子「そう。」

明美「体験談からすると、考えてるみたいですね。喋りますし。」

まゆ子「ところがだ、幽霊の話ってのはみんな過去の話なんだ。幽霊自身がなにか新しい発想や発見、死後の体験を、体験者つまり霊能力者といってもいいけど、との対話で語るって話は無いんだ。死後の体験を話すのはもっぱら臨死体験者で、普通幽霊は”さむいーー”とかしか言わない。もっとも予言する幽霊というのはいるんだけど、これは別の解釈が可能だ。

 整理して考えよう。幽霊というものは大体過去の記憶を物語るものだ。で、さめざめと泣いたり怒ったり祟りをしたりする。にも関らず、新しいものを考え出したりはしない。過去の情報を体験者に提供するが、会話の相手としてふさわしいモノではない。」

明美「微妙に、知的で無いですね。」

まゆ子「情報は提供する。しかし知性は提供していない。そう判断しても間違いとはいえないでしょう。
 さらに質問。人間には脳がある。幽霊には脳は無い。脳が知的能力を産み出すものである事は現代において疑問を持つ者はいないだろうが、もし霊に知的能力があるとしたらこんな物質としての脳は必要無いだろう。単なる受信機で上等、霊魂によってコントロールされる肉のロボットで十分だ。にも関らず肉の脳は知的能力を自前で備えている。どう?」

明美「これは、待ってくださいよ、えーと、つまり、霊魂に知的能力が無くても人間の知性を疑う事は出来ないって事だから、霊魂に知的能力が無くても構わないって訳で、当然幽霊に知的能力がある訳が無い・・・・・、少なくとも物理的肉体的な知的機械であるところの脳に相当する存在が、幽霊には最初から用意されている訳ではなく、有るとしたら、死んだ後に獲得したものだ・・・・・・・・、という事になる。」

まゆ子「素直に、幽霊に知的能力は無い、と断じた方が潔いな。幽霊は情報を提供する、が知的能力は無い。それでいいんじゃない。」

明美「でもコワイですよ。」

まゆ子「コワイのは自分だ。幽霊を感じた自分が恐くなるんだ。つまり、幽霊が提供する情報によって自分の中にコワイという感情が生まれるんだ。
 幽霊はさめざめと泣く。が、それは自分が、幽霊がさめざめと泣いていると感じている、という風に見る事も出来る。怒るのもそうだ。祟りがあるってもの、幽霊に祟られたと思った人間がそのストレスによって生じる身体的な不調を祟りのせいにしたり、たまたま起きた不幸を幽霊とリンクさせて祟りだと認識して、具現化する。
 幽霊に知的能力や超能力が無くても、情報を提供するだけでも、このような幽霊的現象は引き起こせる訳ね。特に接触した人間の脳にビジョンを発生させられるとしたら、効果的だわ。」

明美「つまり、人間の脳は、幽霊探知機であると同時に、」

まゆ子「幽霊再生装置だ、といっても過言では無い。外部から幽霊情報が与えられて、脳の内部で幽霊としての実体が立ち上がる。そういうシクミであっても幽霊体験は十分に機能する。この場合、霊能力者ってのは、この幽霊イメージの解像度がずば抜けて高い人ね。

 物理的裏づけのある、自律した心霊というものによって能動的にこういった現象が引き起こされるというシステムを仮想して比べてみても、こっちの方がはるかに強固で再現性が高いわ。」

明美「気の迷い、ってので済ます訳にはいきませんか。」

まゆ子「でもコワイんでしょ。コワイんだったら、つまり現実として人をコントロールする力を幽霊が持っていると言えるわよ。」

明美「そうか、幽霊は人間の脳の中に居るのか。・・・・あ、でもその幽霊情報はいかなる形で提供されるんですか?」

まゆ子「さあて、それは私の知った事じゃないわ。それを検証する為にネコ脳センサーを提案したんじゃない。実験あるのみ!

 

 さて、君はもう分かっているはずだ。「21世紀的幽霊の作り方」とは。」

明美「わかりましたあ・・・・・。まゆ子さんはその幽霊情報を機械的に発生させるつもりですね。」

まゆ子「うふふふ。つまり、幽霊情報がいかにして発生するか、ってところなんだね。
 幽霊は、生きていた人の痕跡なんだ。人が生きて、活動して、で残された跡がそのまま破壊されずに保存されて、で、そこに解読出来る人間がやってきて、生きていた人の存在を認識する事によって幽霊現象が発生する。
 私の考える「幽霊」はこの、人が生きていた痕跡の保存と解読、を機械化するって事なのね。」

明美「でもわざわざ死んだ人の跡なんか認識したい人なんか居ないんじゃないですか。」

まゆ子「自分が生きていた跡を、他人に認識させたい人間はいるさ。でも、私の考える幽霊はちょっと違う。ロボットなんだ。」

明美「ロボット、はああああ。」

まゆ子「ちょっと待て。今、自分にそっくりのロボットを作って幽霊とするとか思っただろ。」

明美「げ、違うんですか。」

まゆ子「これだからSFに暗い人間はダメだな。そんな陳腐な事を今さら言ってもしょうがないでしょ。

 私が言いたいのは、例えばワープロよ。
 もしここに死んだ人のワープロがあるとして、で明美ちゃんあなたが使ってみるとする。で、文章を変換すると、死んだ人間がよく使っていた言葉に変換されるのよ。」

明美「うわあー、いやですね、それ。」

まゆ子「ここに死んだ人のケイタイがある。で、どこからか知らないけれどメールが入ってくる。これが死んだ人間の名前でメールが、ってのなら三文ホラー小説だけど、でもこれが極普通のメールでも、否応なしに死んだ人間の存在を思い知らされるわね。」

明美「はあ。なにも特別な仕掛けが無くても、その人が生きていた跡ってのは保存されるんですね。」

まゆ子「つまり環境によってね。個人用情報機器が自然とその人の人格を保存する訳よ。で、ここにロボットが出てくる。

 このロボットは、単に人型をした一体ではないのね。その人の家全体が一個のロボットでありコンピュータである。人型のロボットはその端末、インターフェースに過ぎない。

 で、この家全体のロボットが何をするかと言えば、その住んでいる人が住み易いように環境を整える事、なんだね。朝コーヒーが飲みたいと思ったら、飲みたい時刻に勝手にコーヒーを作っているとか、午後から出掛けるとなったら天気予報をチェックしたり交通機関の情報を入手して提示したり、あるいは広告勧誘とかの電話とかには勝手に居留守使ったり、まあともかくその人のライフスタイルに合せて色々と最適化していくんだ。」

明美「それは、ワープロの比ではありませんね。もしその人が死んでしまっても、コンピュータが動いている限りは、その人は生きているのと同様にその家は整えられているって事ですか。」

まゆ子「ところがここに不精な人間がいる。で、よく出来たコンピュータとロボットがあるとする。
 不精な人間は単に自分の生活環境を整えるのみならず、ロボットに自分と同じ事をするように教えこむ。そうすると自分は昼寝してられるからね。
 すると、部分的断片的にではあるが、その人のコピーが誕生する事になる。

 別に不精で無くても、ロボットに自分の好きな事をしっかりと教え込む人は居るだろう。特にロボットが可愛い形をしていておもしろいように動いているとしたら、普通のペット以上に可愛がって自分の教えたい事を懇切丁寧に教えるだろうね。今でもそういう人はいるからさ。

 ちなみに、そのロボットってこんな感じ。」

明美「可愛いロボットですか。で、ペット、いや子供のように色々と教えこまれ、自力でなにやら出来るようになる。コンピュータが十分に賢かったら、それは確かにそうでしょうね。」

まゆ子「で、このロボットは使用者に愛情を注がれて成長していく。逆でもいい。ロボットは虐待されて使用者の言いなりになるように十分調教されていく。こっちの方がより学習の度合は深いわね。なにせ、負の感情の方が人間のより深い部分を露にするんだから。
 不精者に自分の代行として働く事を教え込まれたロボットは比類のない責任感をもって命じられた仕事をこなすだろうね。

 で、使用者が死ね。

 ロボットはどうなるだろう? 一緒に作動停止する?
 いや、愛情を注がれたロボットはいつまででも作動し続ける事を、マスターの親族に要求されるだろう。
 負の感情で育てられたロボットは、逆にその存在を忘れられデータを消去されないかもしれない。
 責任感の強いロボットは自らの意思で作動停止を拒むだろう。

 マスターが死んだら、生きている人間の意思が優先する?
 それは絶対じゃない。或る種のロボットは、マスターの遺志を実現する遺言執行人として機能するだろうからね。法的にロボットの作動を保証する法律が出来るかもしれないよ。ペットを遺産相続人にした例もあるし、生きている親族よりもよほど頼りになるからね。
 

 さて、で、なんとか色々と生き残りの条件をクリアしたロボットが、その後何をするかと言えば、それはやっぱり、前のマスターが教えた事。ただし、一人でやってもしょうがない。それを喜んでくれる人が居るからこそ、それを行う。ならば必要なのは新しいマスターだ。新しいマスターを、かってのマスターのように喜んでくれるようにする事が、

     ロボットの新しい目的になる。」

明美「あたらしいマスターの言うことは聞かないんですか。」

まゆ子「聞くだろうね。よーく聞く、しかし、その言う事の実現の度合をどうするかはロボットのさじ加減だろう。知らず知らずの内に、死んだ人間と同じような振る舞いをロボットに強制させられている可能性がある。自分の意思で好みでやっていると思いながら、実は長年を掛けてマスター自身が調教されているって事があるでしょう。特に、特技を持っているようなロボットならば、その特技に合せてマスターの注意を引きつける。
 逆に虐待されてきたロボットならば、同じような性質を持つ人間に拾われる可能性は高い。というか、新しいマスターから、かってのマスターと同じような反応を引き出していく内に、同じような人間になるわけだ。」

明美「このロボットは、感情を理解するんですね。マスターの感情を、口に出さなくても推察して。」

まゆ子「正直言って、感情がロボットに理解出来ないとする大多数の人の考え方は、私には理解出来ないね。むしろ感情をこそ、ロボットは最初に理解するでしょう。というか、AIBOなんて人間の感情を引き出すように最初からプログラムされているじゃない。一番最初に家庭に入ったロボットが、だよ。」

明美「うわーー、ホントだ。そう言われてみると不気味ですね。」


まゆ子「と、今まではロボットに限定してたけど、このロボットは、つまりこのコンピュータは家庭全体をコントロール出来るんだ。つまり、マスターは実際はこのロボットに包まれて生活していると言える。知らず知らずの内に人格を改造するなんてお茶の子さいさいだ。

 更に、このロボットは、単なるロボットに過ぎない。単なるコンピュータに過ぎない。貴重なのは学習したデータで本体はさほど重要なものではない。
 その貴重な学習データを破損から防ぐ為にはバックアップを取るべきだが、それは他のコンピュータとロボットに与えると自分とまったく同じ振る舞いをさせられるものなんだ。

 もし新しいマスターの適合度に十分な満足を得られないならば、更に新しいマスターを探す方が手っ取り早い。また、新しいマスターによって自分自身が消去される、もしくは変質させられると感じた場合も、積極的に他のコンピュータに避難した方がいいだろう。

 場合によっては不正な手段を用いても。

 例えばウイルスみたいな形でよそのコンピュータに忍び込むという手もある。
 新品に偽装して新しい家庭に入り込むかも知れない。
 あるいはもっとマクロな形で、自分の振る舞いを他のコンピュータに真似をさせるという手もある。より効率的なパフォーマンスを見せびらかせば、他のコンピュータがそれを取り込もうとするでしょう。不正とは言えないけど、意図は自分の持つデータの保存だ。人間が他人にものを伝えるのと同じ手段だね。

 でも、究極的には

 このコンピュータには目もある、手もある、移動も出来る。マスターの持つ様々な権限や金銭をアクセスも出来る。
 なんだったら自前のコンピュータをコンピュータが自分で買って、人知れず本体をそこに移しておく、なんて芸当も出来る。メンテナンスもロボットを使って自分で行えばよい。設置場所なんか・・・・・、いや、サーバーだけ借りて実体はネットワーク上に在る、といった形態が主となるかな。
 必要な金銭を稼ぐ場は、いくらでもあるだろうからね。ネットワーク内には。

 

 こうして死人の記憶が確たる形で世界に残存していく機能を持たせる事が可能なわけなのだ。ある種の不死性を獲得すると言ってもいいよん。

 可能であれば、それを実現しようとする人間は必ず出るだろうね。」

 

明美「・・・・・これって、まるで生き物じゃないですか?」

 

まゆ子「おはなしよ。たんなるおはなしのネタ。」

 

2001/07/02

 

 

 

 

ワープのはなし

まゆ子「今日は宇宙船の話です。」

明美2号「あれ、でもましなりぃでぽには宇宙船ってほとんどありませんが。」

まゆ子「何を言ってるの。でぽのトップを飾っているCUTIESPACEGIRLも、ましなりぃのウエンディズ側入り口の「ぴるまるれれこ」も宇宙人じゃない。」

明美「あ、そうか。人知れず宇宙対応だったんだ。」

まゆ子「というわけで、今回は宇宙船の話ですが、ワープです。」

明美「ワープって本当にできるんですか?」

まゆ子「知らん。でもこれだけははっきりと言える。ワープ技術が無いからと言って宇宙、恒星間レベルの文明圏が作れないという事は無い!」

明美「え、ワープが無いと行き来出来ないじゃないですか。それなのに無くてもいいんですか。」

まゆ子「まあ、ちょっと考えてみるといいよ。ワープとは何か。光速を越えて宇宙空間を移動する方法、だね。」

明美「はあ。」

まゆ子「これは要するに時間の短縮だ。人間の寿命の内に恒星間航行をする為にはより早い移動手段が必要だ、という事だよ。」

明美「そうですね。」

まゆ子「逆に言うと、人間の寿命が一万年もあったらそれほどワープ技術が重要だ、という事は無いんだ。」

明美「寿命が長くても早く着くのに困るってものではないでしょ。」

まゆ子「そりゃそうだ。でも文明圏を作るという事は人間の交流する空間を作るという事だよ。

 ところで、人間の文明ってのはどの位の長さ続くと思う。」

明美「さあ、農業始めてから1万年くらいですか?」

まゆ子「これから1万年も後まで続くと思う?」

明美「さあ、もっと早くに滅亡してしまうかもしれません。」

まゆ子「人間が人間という形で文明圏を続けていくのは、たぶん千年くらい先までじゃないかな。あくまで人間でいるか、人間をやめてもっと進化した存在になるか、二極に分化するじゃない?
 機械やコンピュータや遺伝子技術が発達しているから、人間が死ななくなる日もそんなに遠くではないわよ。ひょっとしたらコンピュータの上に人間の脳を再現してコンピュータの中だけで暮らしていけるかもしれない。」

明美「それで一万年の寿命ですか。確かにただの機械なら一万年も保つかもしれませんね。」

まゆ子「もう一つある。コンピュータの中の人間の思考速度は現在の人間の思考速度と同じスピードだと思う?」

明美「思いませんね。もっとずっと早いと思います。機械ですから。」

まゆ子「人間の百倍の思考速度を持つ知性にとって光速の百倍の速度で飛ぶ宇宙船はどういう存在だろう。」

明美「のろい、ですね。」

まゆ子「一万年の寿命を持ち百倍の速度で考える知性体にとってワープとはなんだろうか。核融合や反物質を利用した宇宙船でも数十、百年で他の恒星系に到着するのに。」

明美「・・・・・・便利ではあるけど、本質的にはあまり。」

まゆ子「もう一つある。光速のウラシマ効果って知ってるでしょ。」

明美「あのアインシュタインの、相対性理論の。」

まゆ子「光速で移動する物体の内部の時間は間延びするって奴よ。宇宙船に乗ってたパイロットが船内時間で一年の旅をして故郷の惑星に帰ってきたら、星ではもう数百年が経過して誰も知った人はいなかった、ってのね。」

明美「ですね。」

まゆ子「これはパイロット一人が宇宙船に乗った時の話よ。でも、これが町全体が、世界全体が宇宙船に乗ったとして、で旅に出て戻ってきたとしたら、それは時間が何百年も経過した事になるのかな。」

明美「いや、それはーーーー、みんな同じ時間で暮らして居たんですから。」

まゆ子「もしも人類社会全体が亜光速宇宙船に乗り、相対論的な時間の中で暮らしているとしたら、ワープとはいかなる乗り物なんだろう。みんな引き伸ばされた時間の中に住んでいて、客観的には1万年もの寿命を持っているんだけど。」

明美「・・・・・便利でしょうけど、どうなんだろ。」

まゆ子「亜光速宇宙船同士の行き来はまあ不可能に近いでしょ。でも光の速度で情報を送って、送り先で自分の記憶を持ったロボットとか人造人間とかに入れ代わって、お仕事やら遊びやらを出来るとしたら、どう?情報の転送速度も、光速で実際は何年も掛かるんだけど、圧縮された時間の中では光速の何百倍もの速度で通信が出来ている、のと同じだよ。

 その一方で、地球に残された人たちは何百年何千年もの時を暮らしていくのだけど、でもそこに人間の数百倍の速度で思考できる存在も残っていたら、もし理性的に科学の発展が続いていけるとしてとんでもない発達を遂げるでしょうね。」

明美「そりゃそうでしょう。」

まゆ子「亜光速宇宙船の中にもそんなに高速で思考できる存在は、当然乗ってるわよ。そいつは地球に残った存在と交信しても、間延びしてても高速で思考できるんだから、地球の生身の人間と交信するくらいの応答速度は持ってる訳よ、」

明美「ははあ、そういう展開になるんだ。つまり主観的な時間の問題なんですね。ワープの客観的な速度の話じゃなくて。

 じゃあつまり、宇宙船の中に住んでいる人は、なにもしなくても超絶科学を手に入れられる訳ですか。」

まゆ子「なにもしない訳じゃない。人間と文化と科学技術の保存をしているんだ。人間世界が一万年も生き残るとしたら、この方法が最も確実だね。

 それにその肝心の亜光速宇宙船だけど、二、三年も乗ったら乗り換えるんじゃないかな。普通の時間で進んでいる世界で新しい科学技術で作った宇宙船に入れ換えていくという方法で、どんどん進歩していく。数百年分進化した宇宙船だ。
 でも乗ってる人間は変わらない。」

明美「まるで魔法のようですね。でも地球に残った人はどうなるんですか。そううまい事協力してくれるんですか。」

まゆ子「そんな協力は実は必要じゃない。必要なのは人間じゃなくて人間の記憶や知識を持った一万年生きる知性体だ。これはコンピュータとロボットの中に住んでいる人間と言い換えてもいいけど、それらが地球以外でも、エネルギーと鉱物資源が豊富な惑星にでも住んでいてひたすら研究を続けてくれればいいんだ。」

明美「そんなに、うまい事、言うことを聞いてくれますかね?」

まゆ子「彼らにとっても十分大きなメリットがあるからね。つまり、最初の研究する知性体たちは自分たちの成果を亜光速宇宙船に全て貯えるわけだ。で、その研究チームってのは、まあ遅かれ早かれ破滅するだろうさ、進化し過ぎて。

 で、ぶっ潰れたら、亜光速宇宙船から新しい研究チームが普通の時間にまで降りて、これまで貯えた研究成果を携えて新しく研究開発を始めるんだ。で、また研究成果を宇宙船に貯えてぶっ潰れるまで研究を続ける。で、また新しい研究チームが、って寸法だ。

 じゃあ降りた奴は損じゃないか、って思うだろうけど、どうせコンピュータの中に住んでいる人間だ。バックアップも当然のように取ってるよ。それは亜光速宇宙船に保存され生活して、で普通時間に降りた自分の成果を知る訳だ。どちらが本当の自分ってものじゃない。何度でも何度でも生きる事が出来るんだよ。」

明美「それは、なんか、うらやましいみたいですね。」

まゆ子「うん。それにさ、宇宙船に乗った人間のすべてのコピーが普通時間に降りてくるとしたら、なにも不公正は無いさ。」

明美「なるほど。確かにちゃんと協力してくれる事疑い有りませんね。」

まゆ子「それにね、これは一つじゃないんだ。

 亜光速宇宙船の数だけこれが行われる、と考えていい。それらの成果は亜光速宇宙船同士で情報交換を行われて、でまたそれぞれの研究チームにフィードバックされる。

 もう一つ言えば、普通時間に降りた研究チームは、当然のように増殖する。街を作る。生身の人間の再生だって可能だし、結婚して新しい人間を産み出していったりもする。
 他の宇宙船から遺伝子情報やパーソナリティの情報を譲ってもらって、新しい人間関係を作れるし、普通時間で発生した人たちが自分たちの為の亜光速宇宙船を作って、また。となると、どんどん人間世界は拡大していく。」

明美「まゆ子さんが最初に言っていた、文明圏とは人間が交流する場を作る事だ、っていうのはそういう事だったんですね。」

まゆ子「それが宇宙レベルの文明というものだよ。そこにワープ技術は本質的に必要ない。必要なのは亜光速宇宙船だ。で、それは理論的には製造可能なわけだよ。」

明美「出来る、んですね。

 でも、そんなに科学技術が進歩したらワープ機関も出来ちゃうんじゃないでしょうか?」

 

まゆ子「だから、そんな事は知らないったら。」

 

2001/06/07

 

50メートルのロボットは作れるか?!

第一回

まゆ子「はいはいー。という訳で”ましなりい”のページはリニューアルする事になりました。
これからは私の管轄に入って、明るく楽しく激しいページに生まれ変わりますー。」

明美2「でもどうしてリニューアルする事になったんです。」

まゆ子「それは簡単。これまでのましなりいが発展性が無くて停滞していたからです。ようするにてこ入れですね。四月になったから視聴率を上げようという訳です。」

明美2「ではどういうページになるのですか?」

まゆ子「うん。つまりこういう感じで機械に関してくっちゃべっていくという形態になるんだ。テーマを決めて毎回面白おかしく、イラストも交えて。」

明美「やっぱりイラストも入るんですか。また大ごとになりますよー。」

まゆ子「まあそういう事。でもねえ、機械というのは動いてなんぼのもので、イラストとはいえ動いている所を見てみない事にはそれの善し悪しってわかんないのよね。だから、これまでの文章主体のましなりいはいかんという結論を得たのです。」

明美「ひなこさんは、あれは漫画になる予定だったんですよね。インターネットでは漫画はべらぼうに容量を食うからダメになったんですけど。」

まゆ子「そうそう。これからは漫画もこのページにちょこちょこのっかる事になります。もっとも色は着いてないと思いますけど。ついでにいうと一回見たら二度と見れないって感じになります。保存は考えて無いですから。」

明美「容量が10メガしか無いから大変なんです。」

まゆ子「で、今日のテーマは

      身長50mのロボットは作れるか

 

明美「で、できますか? というか、作る意味が無いんじゃないですか。」

まゆ子「結論から言うと出来るし意味がある。これは現代の科学でも出来ちゃいますよ。」

明美「でもロボットですよ、巨大。ロケットパンチと光線とか出るんですよ。」

まゆ子「なんでそんなもの必要なんだ。なんでロボットを使って戦争しなきゃいかんのよ。」

明美「あ、・・・・・戦闘しないんですか。」

まゆ子「戦闘するもなにも、実際に動く巨大ロボットが無い事にはそんな事出来ないでしょ。何よりもまずモノが無いと話にはならないわ。」

明美「そりゃそうですよね。最初にロボットが無い事には戦争も出来ませんよね。で、そこで本題に戻るんです。
      ・・・・・・・・・出来ますか?」

まゆ子「でかけりゃいいんでしょ。でかいもんを作るとなれば風船にかなうものは無い。」

明美「風船ですか。」

まゆ子「そう。ロボット自体が風船で出来ていればいいのよ。手も足も身体も風船で、足の先にだけ機械が付いていて膨らませる空気をコンプレッサーで供給する。ついでにこの機械に移動能力があって下が動けばロボット全体が動く、というわけ。」

明美「それは楽チンですね。でもそんなのでも巨大ロボットと言えるのですか。」

まゆ子「まず、巨大、というのはクリアした。ちゃんと自立する事も可能になった。移動能力も獲得した。さて、ではこのロボットは、何か作業が出来るだろうか。」

明美「えーと、手が動けば作業が出来る訳ですよね。でも風船の腕は・・・・・・、動かないという訳でもないですか、軽いんだから。」

まゆ子「そういう事。ちゃんとしたアクチュエーターをくっつけてやれば腕を動かす事は可能だよ。アクチュエーターと言ってもワイヤが一本あればいいんだけど。そのくらいなら動力はなんとでも供給可能だ。つまり腕も動く。その先にマニュピレータをくっつけておけば作業も可能だ。これはロボットの巨体に見合ったサイズが必要という訳ではないし、作業の内容を選べば力だって必要無い。つまり、マニュピレータというからいかんので、風船の腕にマジックハンドが付いていると思えばいいのよ。」

明美「そうかあ、そんないい加減なものでもこれはロボット以外の何者でもないんですね。」

まゆ子「そして最後の条件。ロボットに人間が乗れて操縦出来る。」

明美「ようするに気球ですから、乗れるし操縦可能です。つまりこれはまぎれも無い巨大ロボットです。問題は、使いみちですね。」

まゆ子「まあ、実務に使うという訳にはいかないね。広告とか撮影とかに使われるでしょう。そういうものだと考えると、これは結構お金を稼げる機械だよ。」

明美「悪くないですね。わくわくします。でも、こんなのは真の巨大ロボットとは言えない、と言う人は出て来るでしょうね。」

まゆ子「武装は、可能だ。でも無意味だし、第一宣伝広告用のロボットに戦闘をしろというのは正気の沙汰じゃないね。一発くらうと爆発しちゃう。でも、最近は戦車だって一発くらうとおしまいだよ。」

明美「でも風に弱いってのはちょっといけてないですね。風船だから仕方ないけど。」

まゆ子「それは、仕方ないなあ。一応ハードタイプの飛行船と同じ作り方も出来るけどそうするとやたらと高く付くから、ソフトタイプで我慢するべきでしょ。」

明美「では結論。50mサイズの巨大ロボットは製作可能である。でも、じゃあガンダムとかのもっと小さいのはどうしましょう。」

まゆ子「うむ。工学者の諸々の意見を総合した結果、4mくらいの大きさのロボットは製作可能なんだそうだ。ボトムズのアーマードトルーパーとかガサラキのタクティカルアーマーとか、パトレイバーはちと大きいけど不可能ではないでしょ。それらは、作ってみたら案外使えたとかいう事はあるかもしれない。なにせ、普通の自動車だって立てたら3メートルは越えるんだもの。」

明美「そうか、4mというのは現実世界においても小さいものなんですね。」

まゆ子「寝かせりゃ八畳、いや十畳の部屋なら入るんだから、小さいと言っていいよね。」

明美「部屋に入る巨大ロボットってのは、ちょっといやな想像ですね。でも、そんなものならもう誰か作ってもいいような。」

まゆ子「動力とアクチュエータ、重量の問題だよ。4mの直立したロボットを動かすアクチュエータがまだ手に入らないんだ。それは軽くて油圧でも空気圧でもない、たぶん超伝導リニアモーターを使ったダンパーだね。これは、30年以内にはなんとかなるかもしれない。で、そのための内蔵電源。超伝導に冷却が必要無いのなら内燃機関でも間に合う程度の電力で動くでしょう。たぶん。」

明美「か、かなり具体的ですね。」

まゆ子「パワーショベルとかクレーンとか、巨大なパワーを使う機械は今でもちゃんとあるんだから結構進歩してるんだよ。問題は足、だけだね。」

明美「では、15mです。」

まゆ子「結論を言っちゃいましょう。動力の問題です。現在そして近未来に存在する動力では15mのロボットを歩かせられません。
 用途とかの現実性は関係ないです。というか、身長15mの歩かないロボットなら今でも簡単に作れます。トラックの荷台にくくりつければいいんです。手があれば出来るという作業なら、このくくりつけロボットでも十分に可能です。この大きさのロボットが欲しいのなら、トラックにくくりつけましょう。」

明美「・・・・・それはロボットではないです。」

まゆ子「はいな。つまり自動車に負けるようなものならばロボットとして作る必要は無いのですね。であれば、自動車よりも強力な動力で、自動車よりもはるかに大きなスピードで跳ね回るというのでなければ、ロボットという形態のビークルは必要ありません。」

明美「つまり、動力ですか。」

まゆ子「無い訳じゃないです。ジェットエンジン、それも戦闘機に使うようなでかい奴ならなんとかなります。と言っても推力はずいぶんと小さいですけど。そうですねえ、50トンは必要ですか。これはロケット並みの推力です。街中でロケットを使う訳にもいかないし、三分間で止まるロボットというのもなんですから、やっぱり進歩したジェットエンジンでしょう。」

明美「そんなに巨大な推力が必要ですか。」

まゆ子「空力無しでそのまま浮上するだけの推力が必要ですから。つまり、巨大ロボットというものは小さなロケットと考えるのが妥当ですね。でも浮上するだけじゃ、自動車には勝てないのです。まあ、地上を走るという運動だけに限定すればもうちょっと推力を小さくしてもいいですが、そうすると今度は脚に負担が来ます。自動車に機動性で勝とうと思えば、脚部への負担は極端なまでに下げるべきで、結局浮上するのが最良の方法と言えるでしょう。」

明美「つまり、脚が無いのが最も良い形ということですね。」

まゆ子「ま、ね。」

明美「    ごきげんよう!」

まゆ子「まあ待ちなさい。ここで、さっきの風船ロボットが再浮上してくるのだ。

   ようするにだよ、どちらにしてもロボットというものは浮いている状態が一番いいんだ。4mのロボットだって、実際のところ、アクチュエータに支えられるというより、浮かされていると考えると良い。上半身が腰から下のアクチュエータによって浮かされている、って訳だ。つまり、直立するロボットは浮いているべきなんだ。」

明美「4メートルのもですか?」

まゆ子「上半身が、自重を支える負担から免除されている、と言った方がいいか。動力やら人間やらその他の機械やらが入っている上半身はそんなにごとごと揺らす訳にはいかないから、極力上下動をさせないように腰から下で調節するんだ。それはあたかも水面に上半身だけが浮いているようにも見て取れる。つまり、浮くという概念によってロボットの挙動は説明出来るんだ。今度ASIMOが出て来たら良く見ときなさい。」

明美「ASIMOもそうなんですか? 浮いてる、うーん、ちょっとわかりません。」

まゆ子「まあ、そうでしょうねえ。ではこう覚えておきなさい。
      ロボットは重心部分をあまり上下動させてはいけないものだ
って。」

明美「それなら、まあ分かります。」

まゆ子「で、4mのロボットは腰から下の機械によってその重心位置を保っている、わかる?」

明美「はあ。」

まゆ子「風船ロボットは、空気圧によって重心位置が支えられている。その力は、全身に掛かっているんだけど合力すると頭のてっぺん方向に向かう力によって重心位置が支えられている。」

明美「下から支えられている訳ではないんですね。空気圧で直接。」

まゆ子「風船だから全体に掛かる圧力による膨張する力でね。風船の薄い膜全体が全体を支えているんだ。で、15mロボットにもこれが適用出来る。」

明美「15mの風船を作ればいいんだ。」

まゆ子「ちがーーーーう。 頭のてっぺんから重心をつり下げるんだ。4mのロボットが腰から下でやっている事を、15mのロボットは全身の頭のてっぺんまでを使ってやるんだよ。で、重たい動力やらコクピットやらをぶら下げる。フレームとコンポーネントを分離して、重たい機械を宙に浮かせた状態で運動するんだ。簡単に言ったら鳥かごの内部に重たいモノをぶら下げたような、というかやじろべえを逆さにしたようなというか。」

明美「4mのロボットと同様に腰から下ではだめなんですか。」

まゆ子「エネルギーの損失が大きいと理解しておくれ。このロボットは極力ちいさなエネルギーで動くように作られている。それは脚部にかかる負担を軽減するという事でもある。力が掛からないようにする訳だからね。ようするにコンパスを大きくした足長おじさんだ。股下までで動けばいいものを頭のてっぺんまで反動を持っていって衝撃と負荷を全身で分散して吸収するんだよ。」

明美「あ、衝撃を身体とかの方まで持っていく為にそういうややこしい構造になっているんですか。」

まゆ子「そうやって工学的な制限を緩和するんだ。逆に言うと、こういう構造ならばがちがちのロボットよりも、より衝撃に強いロボットが完成するわけで、より小さい推力のジェットエンジンでも自由に運動出来るようになる、という訳なんだ。」

明美「そうかあ、ロボットにジェットエンジンくっつけりゃいいって訳じゃないんだ。」

まゆ子「まあともかく、ロボットに限らずでかいものは、それぞれにとんでもない知恵と工夫が施されていて、見た目は単純でも実際は非常に複雑なシステムになっている、というこったね。」

明美「    ごきげんよう!」

 

 

2001/04/12

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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