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2016/10/31

 まゆ子「というわけで、今日は「闇御前」てのはどんな奴か突っ込んで考えてみたいと思います。」

釈「えー基本データとして、80歳は優に越えている老人で政界に極めて強い影響力を持ちもはや公然とさえ呼べる権力を行使してきた、まさに「闇御前」です。

 彼の権力の源泉は、タンガラム方台の外部に派遣されている軍隊。
 タンガラム国会においては「平和的」に対外交流を図っているはずなのですが、その実体はタンガラム・ゥアム・シンドラの三国でほぼ戦争状態にあり、未発見島の利権を分捕り合っています。
 当然国会においては戦争など認める状況ではありませんから、この派遣軍を維持する資金は国庫とは別のラインから供給されており、その元締めが「闇御前」なわけです。

 ではカネはどこから来るか。タンガラム実業界において特別なルートが作られており、派遣軍に関する装備兵器類の供給をこのルートに属する企業が独占する事でひねり出しているわけです。
 実際派遣軍維持費と呼ばれるものは相当な額に上り、陸軍海軍のそれに匹敵するほどに巨大化しています。
 で、結局は一般国民から搾り取るしか無いわけで、各種産業においての談合により経済体制の裏から抜いていく仕組みになっており、国民経済を逼迫させる原因ともなっています。

 この状況を改善するには、なによりも国会で正直に「戦争状態にあります」と白状しなければならない。
 現在の政府も議会もそれに耐えうる状況に無く、さりとて未発見島争奪ゲームから脱落してしまうと、資源獲得においてタンガラムが決定的な敗北を来たし経済体制国民生活全てが崩壊する可能性すらあります。
 故に、ムリです。闇は闇で隠しておかねばならず、その総帥である「闇御前」には何者も手を付ける事が出来なかった。

 それをやってのけたのが、英雄探偵として著名なヱメコフ・マキアリイ氏なのです。」

じゅえる「化物を通り越して、国家機関の一部だな。」
まゆ子「それだけじゃないんだ。

 国外派遣軍は戦争をする為の軍隊ではない。戦争をしているがその実は国家権益の確保が最優先課題であり、手段としての戦争戦闘が起きているに過ぎない。
 であれば、もっと平和的な交渉により穏便に運んだ方が双方にとっても得策と言え、集結した兵力は交渉を有利に進める為の駒に過ぎない、と言っても良い。
 ま、駒がコマとして機能する事を誇示する為に、戦闘行為によってその実力を証明し続けている、という感じです。

 そして、往々にして平和とは偽善の別名であり、三国どこであっても公式には戦争状態に無く平和そのものの国際関係である、と規定されており、実体を国民有権者の目から糊塗する為に偽善が大いにまかり通っているのです。

 「闇御前」の真の役割は、この偽善に満ちた交渉の総責任者であり、場合によってはタンガラム国内における利権の一部を外国に売り渡す事さえ行われています。
 つまりは交易というまっとうな経済活動の中にも利権を確保するルートを仕込み、その工作活動に従事する外国工作員諜報員の国内侵入を助けてすらいるのです。
 もちろんタンガラム政府の諜報員もあらゆる形でゥアム・シンドラに紛れ込んでいる。対等に、毒を飲んでいる。
 その毒を隠すために、国内にそれぞれの国の人間を一定数招き入れる試みが行われ、およそまっとうな職業とは思えぬ犯罪者密輸業者がタンガラムにも流入しているのです。

 この流入した外国人犯罪者による犯罪が近年タンガラムにおいても問題視されており、主に南海のイローエント港を中心に裏世界が形成されているのです。
 「潜水艦事件」がイローエント港で起きたのも、そういう背景が有るからです。」

釈「   もう呆れてものが言えない状態ですね。そいつは悪を通り越して破壊者そのものです。」
まゆ子「だがね、これはタンガラム最上部の政治経済軍事的意思決定機関が、最善と認めた合理的な状況なのだ。
 真正面からぶつかれば、シンドラとゥアムが同盟を組んでタンガラムを潰しに掛かる。どちらとも同盟を組ませない為には毒を自ら呷る必要があるわけです。
 そしてバシャラタン法国の出現。ますます国際関係は混迷を深めている。」
じゅえる「つまりは「闇御前」は彼だけが悪いわけでなく、この隠された戦争状況そのものを代表する人物として彼が居るに過ぎない、てことだ。」

まゆ子「そして、未発見方台問題。バシャラタン方台の出現は3国にとっては衝撃的な事件だったのです。
 これまでどんだけ頑張って探しても発見できなかった有人方台が、或る日パーッと晴れ上がった海をまっすぐに進むと、いきなり巨大な島が現れて、見たことも無い人達の国だった。というワンダーなのです。
 どう考えても超常的な力によってバシャラタンの存在が隠蔽されていたと見做す他無く、であればまだ他にもたくさん有人方台が有るだろう。
 その根拠もいくつか有るわけで、各国共通の「ヤヤチャ伝説」を参照にした場合最低でも11の有人方台があるはずなのです。
 というか、どこの国から来たのか分からない人間、というのが各国に放浪者として確認されています。」

じゅえる「マジ?」
釈「とんでもないオカルトですねそれ。」
まゆ子「だが厳然とした事実であって、であれば探さざるを得ない。もし発見が遅れて他国に先を越されたらどのような劣勢に立たされるか分からないのだ。」
じゅえる「つまりは血を吐いてでも進まねばならないマラソンを強いられているわけだな。」
まゆ子「経済問題の先行き特にエネルギー・資源問題を考えると、絶対的に降りるわけにはいかない競争なのだ。」

じゅえる「この状況は如何にして改善されるんだ? ムリだろう。」
まゆ子「そこは非情なる勇気が必要で、ソグヴィタル・ヒィキタイタンが総統となって国家元首になって初めて国民に実態が明かされます。
 もっとも国外派遣軍に参加した兵員がすでに多数国内に居ますから、だいたいの事は国民も勘付いていて、改めて公式に発表されたという話です。」
釈「ヒィキタイタンて偉い総理大臣なんですね。」

まゆ子「まあそれは後の話。もちろんヒィキタイタンがこれに踏み切れたのも、マキアリイが「闇御前」を逮捕処罰にこぎつけてくれたおかげだよ。」

 

まゆ子「というわけで、「闇御前」の人間的側面を構築していきます。

 ま、今聞いたとおりに常人ではありえません。異常者にしますか、賢人にしますか、思ったより普通っぽい人にしますか、それとも予言者風、革命家風、学者風、社長風でもいいです。」
じゅえる「ふむ、まずパッと見の印象からどのタイプの大物にするか、か。」
釈「うーん、どれでもいいような気がしないでもないですが、ここ大きな問題ですよね。」
まゆ子「決定的に重要な問題です。」

じゅえる「容貌としてはカエルっぽいんだよね。前に決めた。若い頃は異様な美少年であり、歳をとっても異様な美老人なのだ。
 ではー常人風ではないよな。」
釈「あー、老賢者風ですかねえ。でも悪っぽくありませんね。ネクロマンサー風にしますか。でも「闇御前」と呼ばれるほど政財界に大っぴらに大物してますからねえ。」
まゆ子「いっそ殿様風か。」
じゅえる「悪くはない。大御所闇御前であるからには、殿様風でも悪くはない。悪くはないが、なんか違う。」

 

まゆ子「せんせー、明美せんせいー!」
明美「はいはい来ましたなんですか。はい、こういう話ですね。ビジュアルですね。」
じゅえる「まさにビジュアルの問題だ。」

明美「背を高くしましょう。割りと痩身で、カエルっぽい顔で。というか、カマキリぽいですかね結局は。」
じゅえる「ほんとにビジュアルから来やがった。」
釈「でも、これでなんとなく感触が掴めます。少なくとも只の学者や社長風ではありませんね。」
まゆ子「ふむ、見かけから入るという方法がアリなのか。」

明美「そいつ強い?」
じゅえる「戦闘力、って意味か。物理的というか武術的な。」
明美「うん。」
じゅえる「まゆ子、そこはどうだ?」
まゆ子「あー、健康の為に。いや、若い頃は危ない橋も随分と渡ってますから、それなりに強い体です。老人となった今ではさすがにと思いますが、健康不安はまるで無い。」
釈「ではある意味でスポーツマン的な感触ですか。」
明美「病人ではない、ということだね。」

まゆ子「いや、持病の一つくらいは有った方がリアル。と言ってもあまりリアルに描写するとその筋からクレーム来るからな。」
釈「ゲルタ病にでもしますか。アレならば地球人のなんとか団体からは抗議きません。」
じゅえる「発汗でも付けておくか。見かけ上よく分かる病状的なものは欲しい。」
まゆ子「うん、……。」

明美「爪伸ばそうか、病的に。」
じゅえる「ふむ。巻き爪だな。人差し指だけ異様に伸びている。」
釈「なんですかそりゃ。切りましょうよ。」
まゆ子「うーん、一応は被告人で収監されているからな。凶器というか自殺に使えそうなのは禁止だ。爪は切る。」
じゅえる「指がいっぽんだけ真っ青、というのはどうだろう。なんか凄く変。」
明美「うんうん、「蒼い指」というのが、「闇御前」を指す隠語としても使えるね。」
まゆ子「それ採用!」

釈「つまり、魔法使い風、ですか。」
じゅえる「いいと思うぞ。」
まゆ子「うん、悪くはないが、明美。」
明美「魔法使いねえ、魔法使いではあるけれど極めて理性的に魔法的な言葉なんかまるで使わないけれど、やってることは魔法じゃんかソレ、というタイプだね。」
釈「おおなるほど。」
じゅえる「魔法使いぽいリアリスト。芸術家っぽくもあるな。」
まゆ子「その路線で行こう。あくまでもリアリストだが、見る人には禍々しい魔法使いに見える系。」

 

じゅえる「じゃあ今度は名前いこう。誰か候補を。」
明美「あらかじめ考えてきましたー。バハンモン・ジゥタロウというのはどうでしょう。」
まゆ子「馬搬門重太郎?」
釈「なんか日本人ぽいですね。」
明美「「闇御前」と言われるくらいだから、日本人ぽいかなーと。」
まゆ子「なんかそう言われるとそういう感じが。」
釈「なんでしょうこのしっくり感。」
明美「ちなみに名前の由来は、倭寇を意味する「八幡」と「バハムート」と「デジモン」をくっつけてみました。下の名前は「空条承太郎」です。」
釈「う。」
じゅえる「すげー安直なのに凝ってる。」
まゆ子「じゃあ、名前それね。けってー。」

 

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明美「家族構成です!」

じゅえる「うわー。」
まゆ子「うわーしまった、それ考えたことも想像したことも無いー。」
釈「いやあだいたいテレビに出てくる悪の親玉って、家族居なさそうですからねー。そうですよねー「闇御前」と呼ばれるほどの大物であれば家族だってたくさん居てもおかしくないですよねー。」
じゅえる「闇のプリンスとか居てもまったく問題ないからなあ。どうするさ。」

まゆ子「えーとだね、まず子供は居る。居るには居るが、既に80歳をとうに越えているのだから、子世代は60代だもう死んでてもおかしくない。
 孫世代でも30〜40代、ひ孫世代で10代だ。」
明美「妾とか居る?」
まゆ子「うわあああ、そりゃ居るよなー、隠し子もいっぱいだよなー。」
じゅえる「あ、ああ、そりゃもうダースで居るよな。」
釈「思ったよりも大家族ですか、闇御前。それだけの収入がありますからねえ……。」

明美「子供世代は死んでもいいよ。政敵との抗争で死んだとかでいい。」
まゆ子「おう。だがそれは、うん、そうだな、「闇御前」は一貫して海外派遣軍への関与で財を成してきたわけだから、息子の一人二人くらいは海外で死んでてもおかしくない。」

じゅえる「そうだな、軍人でその父ということにしておけば、軍部に対しても顔が立つ。息子二人は死んでいる、残りの娘は生きている。くらいだな。」
釈「息子は2人だけですか。」
まゆ子「3人で、ひとりだけまったく利権関係に加わらなかったハグレモノ、というか遊び人というか、海外で戦死した兄達と違い出来がまるで悪いのが生きている。

 で、闇御前の実質業務は死んだ兄達の子、つまりは孫世代が引き継いでいるが、この遊び人にはまったく何の権限も無い。
 が、実業界からはこのヒトを頼って闇御前に取り入ろうとする接待攻勢が続いて、いい気分になっている。
 こんな感じで。」

釈「そのできの悪い奴は本当にダメ人間ですか。」
まゆ子「それが、実は割と賢くて大学教授だったりする。もちろん闇御前の隠然たる力を背景として望外の出世をしたわけだが、学問的には割りと認められているのだ。」
じゅえる「つまり一族としての出来は皆悪くない、ということか。さすがに大物の家系だな。」
明美「遊び人教授、ですか。いいね使い勝手が良くて。」

まゆ子「さらに娘が2人。これは本人は業務に関わらないが、夫が共に優秀な官僚なり実業家で、闇御前の手足となって働く。」
じゅえる「ふむ。それなりに大物ということか。」

釈「孫世代です。」

まゆ子「死んだ長男の系列は実業家として、また政治家として国会にも居ます。おおむね闇御前業務の表の光の当たる系をやってます。
 死んだ次男の系列は娘が一人のみ居て、女性実業家としてかなりきわどい商売をやっています。
 遊び人三男の系列は、これがまた結構な出来が良い子供達で、全員が闇御前業務の裏工作現場で働いています。むしろ彼らこそが闇御前の直接の系譜。
 娘二人の系列は、かなり普通に政官財の業界に食い込んでいます。ただかなり普通で、危ない商売はやってない。
 というか、闇御前の家系の人間はだいたいが法的に危なくない業務に携わっており、決して闇御前に責任問題が遡らないようになってます。
 あと、長男の系列に娘が居て、これは高級軍人と結婚しています。派遣軍ではありませんが、転属の可能性が無いわけではない。」

釈「遊び人三男は子供で十分貢献しているわけですか。親に似ず。」
じゅえる「いやむしろ、闇御前という権力者の息子であるにも関わらず権力を求めない父親の姿を見て、考えるものがあったのだろう。」
まゆ子「とにかく、闇御前裏業務に関わる孫達はそうとう重要な立場を得ており、裏社会の外交大使的な存在と考えます。ゥアムシンドラバシャラタンの高官とも頻繁に接触します。」

じゅえる「軍隊関係が薄いな。」
まゆ子「そこはね。敢えてね。

 さらに妾軍団というのがあります。俗に「11姉妹」と呼ばれる闇御前の愛人が、様々な分野で重要な役を持っています。
その内の一人が、マキアリイとザイリナが闇キャッスルに乗り込んだ際に殺されていた、トロ肉製造所に関連する所長です。彼女は移民業務を取り仕切る重役でした。」
明美「闇御前は出来る女がお好き?」
まゆ子「大好きですね。きれいなだけの女はつまらない。」

じゅえる「その妾姉妹達の子供は?」
まゆ子「色々です。役に立つのも居れば立たないのも、まだ子供も居ます。玄孫のような実子も闇御前は持っているのです。」
釈「とにかくハーレムですね。」

まゆ子「「11姉妹」は役に立つ妾であって、役に立たなかった妾、一夜だけの女もいくらでも居るのです。
 むしろ、女たちが権力を求めて闇御前に群がるような有様。だから有能な美女も多数居るわけです。」
じゅえる「絶倫だな。」
まゆ子「闇御前が魔法使いと言うのなら、まさにこの絶倫具合こそが魔法です。」

明美「その妾たちは、闇御前の事をどう思っているのかな。というか、男として女をどのように扱う性格なのかな。」
釈「ふむ。ハーレムでは王様のように振る舞うのでしょうか。それとも女には弱いタイプ、あるいは魔法で支配するような怪しい魅力充満ですか。」
まゆ子「あー、基本的にこの世界の人間はカエル顔は妖艶なのです。そういう風に感じます。
 だから、魅力系ですね。女が一度堕ちてしまったら、もう這い上がれない泥沼的忠誠心を捧げる事となります。
 闇御前としては、まあリアリストですからそんなにこだわらない。使える者なら使ってやるし、手近に居れば抱いてやる。その程度です。」
釈「そっけない系ですか。」

まゆ子「女も男も、どちらにも等しくそっけないですこの人。ただ必要が有れば心を開くと、カエル的怪しげな魅力が溢れて相手を虜にしてしまいます。」
じゅえる「魔法使い系ということか。」

 

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明美「経済的な問題を考えましょう。闇キャッスルってスゴイ豪邸なんだよね。」
まゆ子「キャッスルというくらいですから、城並です。まあ高い建物は無いけれど、敷地面積が広くてしかも庭園です。
 なんでこんなものが、と思うくらいに広いけれど、このだだっ広さは情報漏れを防ぐのに十分なのです。中で軍隊の一個大隊くらいが決起集会やってもバレません。」

じゅえる「ほお、そこまででかいのか。」
釈「軍の利用も有るのですか。」
まゆ子「うん。一個旅団が駐留出来るほどで、しかもその全員を宴で歓待できるほどの設備がある。
 海外派遣軍の兵士が帰ってきて、首都の闇キャッスルに呼ばれて、慰労会出来るくらいなのだ。」

じゅえる「するのか、それ。」
まゆ子「してるんだよ。ほんとに。」
釈「はー、国家がやるべきではないですかソレ。」
まゆ子「国家政府議会は、海外派遣軍は戦闘戦争をしていない建前になっている。だから、公では特に慰労会をするほどの活躍はしていないことになる。
 もちろん現実は逆なのだから、最大限に労うべきであって、闇キャッスルはその場として十分な広さを持っているのだ。」

じゅえる「そりゃ直接的に軍隊と癒着しているんだな。」
まゆ子「そうなのです。第一海外派遣軍の本来ありえない戦争行動を指揮命令する本部が、闇キャッスルにあります。参謀本部です。」
釈「国家機関としてはそういうのを設置するわけにはいかない、のですね。」
まゆ子「もちろん軍服を来た軍人が頻繁に出入りしていれば、民間人にも気付かれます。
 普通の、背広的なものを着た勤め人風の姿の軍人が闇キャッスルに通勤して、海外派遣軍の作戦行動を司令する業務を行っています。
 実際問題として、看板がちゃんとあります。公的機関としての。」

じゅえる「つまりペンタゴンみたいなものがあるんだ。」
まゆ子「お城みたいな豪邸の庭園の中に参謀本部があり、海外派遣軍の士官兵士が招待されて激励または慰労される祝宴が開かれる。
 民間人の個人的な所有物の中で行われるという、非常に歪んだ存在です。」
釈「当然に、軍関係の業界の談合もここで行われる。」
まゆ子「あー、その為の役所まで存在します。」
じゅえる「無茶だ。」
まゆ子「あー、あるんだから仕方ない。」

明美「じゃあ闇キャッスルを防衛する私設軍隊も存在するんだ。」
じゅえる「面堂邸か!」
まゆ子「さすがに軍人が防備を固めたりはしないけど、軍経験者による警備隊は存在します。それも十分な規模の専属部隊が。百人が3交代というくらい。」
釈「ほんとうに、参謀本部やら大統領官邸並の警備体制なんだ…。」
まゆ子「武装も軍用の小銃に機関銃、大砲まであります。戦車も装甲車も、脱出用に回転翼飛行機もありますジャイロコプターの親戚だから、せいぜい3人乗りですが。もちろん自動車使い放題。
 実は、線路まで引いてます。普段は物資搬入用の貨物輸送線路なんだけど、軍用列車も入れます。」

じゅえる「マジで王様だ。」
釈「国家元首総統よりも、はるかにVIPですね。」
まゆ子「だって、ここを外国スパイに潜入されたら極秘情報筒抜けですから。そりゃ全力で守りますよ。」

 

明美「で、この闇キャッスルに闇御前のファミリーが巣食ってタンガラム全国を牛耳っているのね。」

まゆ子「あー、ファミリーはあまりココには寄り付かない。むしろ闇御前別邸がそうだね。私邸があるんだよ。」
じゅえる「ああ、そりゃね。ここは個人所有にしても公的な存在過ぎるよな。」
まゆ子「ただ闇御前本人は私邸にはほとんど立ち寄らない。こちらの主人は妻です。」
明美「奥さんご存命ですか。」
まゆ子「ぴんぴんしてます。」
じゅえる「はあ。そういうものかね。」
まゆ子「だって、奥さん居る所で浮気なんか出来ないだろ。妾飼えないじゃん。」
釈「ごもっともです。」

まゆ子「こちらの実質的な主人は遊び人教授の三男です。まったく闇御前業務に関わらないから、彼は極めて普通の一般人であり感覚もそうです。
 ちなみにタンガラムは昔からの年中行事とか家族でやるべき法事みたいなものがちゃんと定まっていますが、闇御前本人はまったく手を出しません。海外で戦死した息子達の法事もほったらかしです。
 そういう事はすべて三男がやってくれるのであり、人間の一家としてまっとうな話はすべて彼が司るというわけです。
 家族親族の面倒事、財産的な事なんかもやってます。」

じゅえる「いい跡継ぎなんだ……、遊び人のくせに。」
釈「なにを遊んでいるんですかねその人。」
まゆ子「彼がやってる学問自体が道楽みたいなもので、美術史とか歴史とかそういう関係なんだ。カネにならない商売です。そりゃリアリストの闇御前からすれば遊んでるにしか見えないな。」
じゅえる「あー、そういう分野の学問は金持ちじゃないととてもやってられないてのがあるよね。」
釈「現在のタンガラムは経済拡大の局面にありますから、実業でなければ評価されないという風潮があるんですね。」

 

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明美「では現在の家族状況とかは確認できたとして。
 彼の過去とか来歴とか始めますか。出身と出自はどうですか。」

まゆ子「うん、なんにもない。」
じゅえる「あれば明美を呼んだりしない。」
釈「あはは。」

明美「仕方がないなあ。じゃあ彼は、ーん、じゃあ西岸の漁村の生まれということで。あまり貧しくはないが漁師になるくらいしか将来の道はなく、それではと都会に出てくるのです。
 もちろん頭は抜群によく大学にも推薦で入れますが、カネが無い。そこで誰かのお世話になって、政治家とかと接触することになります。」

まゆ子「書生、ということだな。」
じゅえる「戦前まではよく有ったシナリオだな。頭脳が抜群であれば出世コースでもある。」

釈「けっきょくは大学は行かなかったんですか?」
明美「あーそーだねー、語学学校に行って通訳になった。くらいではどうかな。それで一回外国に遊学に出る。もちろんお金は偉い人が出してくれる。」
まゆ子「あ、いや、それは大学に行ったほうが、」
じゅえる「闇御前は行かなかった。それでいいじゃないか。それでシンドラとゥアム、どちらに行くんだ。」
明美「シンドラでしょう。ゥアム帝国はそれこそ大学出でないとバカにされます。シンドラはもっと親しみやすい風土なのです印度ですから。」
釈「印度ですからね。」
まゆ子「釈ちゃん住んでますからね。」

明美「シンドラで、バイトついでにちょっとした商売を始めてまずまずの成功を得ます。すると現地のタンガラム人が寄ってきます。
 或る程度シンドラの勉強をして、もういいかなと5年位で帰ってきます。ここが、第七協和制崩壊する真っ只中。」
まゆ子「おう。80歳だったからね。60年前の政変にもろぶつかるよね。」

明美「闇御前は政変大混乱の時代に、とある人物をシンドラに脱出させるのに助力します。その時にタンガラム国内にも或る程度の集団を組織します。
 シンドラとの商売とタンガラム国内の政治状況とをリンクしたある種の情報提供業です。人探しとかもします。」
じゅえる「シンジケートを作ったんだな。自前で。」
明美「はい自前です。
 そして大混乱期に、えーと崩壊した政権を、」

 

まゆ子「よしわかったそこから私が考える。

 つまりは第七協和制の崩壊と彼の浮沈は大きく関わっているのだ。ここに出てくるのが、「破聞事件」の治安秘密警察の幹部。
 彼は闇御前にシンドラに脱出した反政府運動家の逮捕を協力させようとするが、闇御前敢然と拒否。そして拷問もされる。
 しかし数日後、まったく逆の、第七協和制の政治指導者の家族やらを秘密裏にシンドラに亡命させる手助けを頼まれる。既に反体制運動はそこまで盛り上がって崩壊寸前だと見切りを付けたのだな。
 こちらの頼みには闇御前は快諾して、百名ほどの関係者の亡命に成功。

 その後第七協和制が軍隊の出動で憲法停止となり、議会解散でこれまでの政治体制が完全崩壊して、全く新しく選挙から新政権を構築し始める中、
 治安秘密警察も新政権に鞍替えして組織改編。公安警察機構となり旧組織の上層部は一掃され、若年の幹部が登用される。
 闇御前と繋がりが出来た幹部も出世して、ここから闇御前シンジケートと彼の二人三脚が始まる。」

 

じゅえる「だいたい分かった。」
釈「ちなみに、闇御前が最初に書生となった人はどうなりましたか。」
まゆ子「あー、どっちにしよう? 死んだか、出世したか?」
明美「生きてる方がいいですよ。闇御前は恩を忘れずにちゃんと恩返しして、そのヒトはちゃんと政治家として大成したのです。」
まゆ子「そうだな。そっちの方が使い易いな。」

まゆ子「あー、つまりその偉い人はその後政治家となり、新体制第八民衆協和制の国会議員となったのです。
 そして闇御前の紹介で公安警察機構の幹部とも知り合い、独自の立場を築いていく。
 こんなもんかな。」
釈「60年前の話ですからね。その国会議員が生きていたのは30年位でいいですよ。」
じゅえる「そうだな、闇御前が真の意味での第一人者となったのが、現在から10数年前。「潜水艦事件」の数年前。
 その頃に、その公安警察機構の幹部が死ぬということで。」
まゆ子「ふむ、つまりその幹部は闇御前の前の政界のフィクサーとして、主に公安活動分野の権力で政界を牛耳っていた、という話だな。」
釈「そのフィクサーの存在が失われた結果、闇御前は名実ともに第一人者としてやりたい放題を始める。70歳前くらいの話ですね。十分若いです。」

明美「その恩人の国会議員は、外務大臣くらいは務めますかね。」
まゆ子「そうだな。そして海外派遣部隊が直面する見えない戦争においてタンガラムが劣勢に陥っているのを挽回する為に、闇御前を投入するわけだ。
 一度、ゥアム帝国にも行かないといけないな。」
じゅえる「ならば外務大臣のお供として堂々と行けばいい。」
釈「そうですね、その頃はすでにちゃんとした身分であるはずですよね。」
じゅえる「で、ゥアム帝国においても闇御前シンジケートを組織するのに成功。闇外交の一元化が可能となって、外務大臣は切れ者として高く評価されることになるのだ。」

 

まゆ子「で、外務大臣を終えた後に海外派遣部隊を指揮する裏の参謀本部長とやらにその議員が就任して、彼自身が闇御前のようになる。
 なるのだが、この段階ではそこまで権力があるわけではない。三国のバランスが崩れないように必死に乗りこなすのがせいぜいだ。
 やはり戦力増強をする他にテコ入れ策は無いわけで、その為の資金調達こそが急務となり、治安警察機構の幹部と闇御前が協力して裏の経済支援組織を作り上げる。

 そして完成した頃に、元大臣は死んで次の責任者となる議員が送られてくる。
 闇御前と治安幹部は連携してこの議員を籠絡し、操り人形として派遣部隊拡大の方針を続行させる。部隊規模と予算規模はどんどん拡大する。」

じゅえる「政府は、」
まゆ子「もちろん、海外派遣軍は政府の決定と軍部の指導の下で行われているわけで、裏の経済支援組織に関しても政権中枢が直接に掌握しなければならない。
 時の政権与党により経済支援組織は直接に指導される事となり、利権を独り占め出来る事となり、当然のごとくに腐敗する。
 腐敗を表の世界に露わにしない為に、公安警察機構幹部は活躍し、ポストは上昇する。

 一方闇御前は、派遣軍同士の戦闘を避けて3国が平和裏に利益を等分する裏交渉を政府外交部が行う下準備を任される。
 そして3国の間で互いに腐敗を共有しあって決定的な破綻が起きないように結びつきを深めていく事となる。なにせすべてが闇の中だから、やりたい放題であった。

 そして闇御前は国外において力を蓄え、公安幹部はトップに登りつめてやがて引退した後も国内フィクサーとして活躍を続ける。

 

 が、政権与党崩壊政権交代が起きて、二人はまたしてもフリーとなり、新政権つまりは今の政権与党である「ウェゲ(真人)議政同志會」に権限が移る。
 フィクサーとしての彼は巧みに持ちかけて、新しい政権にも自分たちの力と協力を認めさせるが、一つ懸念があった。

 国内に外国人犯罪者やそれに類する人間が多数入り込む「滞留者」問題というのが起こり始めて、国内治安を揺さぶるようになる。
 これは闇御前の闇取引の結果であるから、フィクサーと闇御前の関係はぎくしゃくしたものとなる。
 だが当然に闇の経済が大きくなれば、犯罪組織裏社会が潤うのが当然で、これは公安警察機構を背景とするフィクサーにとっては容認できないものである。

 で、元は立場を同じくした二人が暗闘を行うようになり、緊張した状態が続くも、海外派遣軍は依然として重要性は高く、闇御前の勢力の方を政府は支援する事となる。
 「滞留者」外国人犯罪については、表の警察機構巡邏軍の活動強化で鎮める事とする。

 フィクサーは、そこで死ぬ。暗殺毒殺とも言われるが、長年謀略を司っていれば普通に神経に来てしぬ。寿命だ。
 そして闇御前が唯一の第一人者となり、我が世の春を謳歌することとなる。

 これが10数年前。」

 

********************

明美「闇御前のライバルって居ないのかな。」

まゆ子「ライバル?」
明美「フィクサーが一人ではつまらないじゃない。」
じゅえる「確かに。公安関係のフィクサーが失われた以上、その分野が空白のままで許されるはずもなく、別分野のフィクサーが台頭しても不思議ではない。」
釈「それこそ、政治関係フィクサーがこの構図にはありませんね。直接に政治運動について関わる黒幕が居ても良いはずです。」

まゆ子「政治関係か。たしかに欲しいな。闇御前ばかりにいい顔をさせるはずも無い。
 あー、対立する関係にある、んだな?」
明美「ライバルだからね。」
まゆ子「あー確かに国内政治に関してはさほど偉くもないか。むしろ談合体制から弾き出された連中が結集して政治的に巻き返そうと考えてもおかしくない。
 政治・経済が混合した勢力の代表者として、あー個人ではなく企業体というか集団というかグループというか。」

じゅえる「グループね。政治集団として無視できない存在が選挙を支配しているのだな。」
釈「それはフィクサーではありませんね。公然と政権と闇御前組織を糾弾する政治集団ということで。」
まゆ子「むしろ正義だな。」
じゅえる「正義かもしれないが善意からではない。一方に偏った反動というものだが、当然に発生するのだ。
 ましてや戦費調達で国民生活にもしわ寄せが来ており、外国人犯罪組織や密輸組織が暗躍する状況であれば、そりゃなんとかしたいと考える向きも有るだろう。」
釈「英雄探偵マキアリイの立場としては、そちら寄りと言って良いでしょう。」
じゅえる「そう。だから、その集団の名前も「英雄公論者」とでもしておこう。マキアリイにあやかっているのだ。」

明美「とにかく、闇御前勢力に対抗出来る程度には力が有るんだな。」
まゆ子「まあね。特に選挙運動においては強いから、闇御前関係の勢力は危機感を覚えている。
 なんと言っても政権を確保し続けなければバレてしまうからね。」

 

明美「もうちょっと別口も欲しい。」
まゆ子「ふむ。」
じゅえる「政治関係でないとすれば、外交関係か。

 いや、海外派遣軍に対して利権が集中する事に理想派の軍人が不満を覚えていて、そこに指導者としての言論家がカリスマとして立つという形で。」
釈「なんか戦前のお話みたいですね。」
じゅえる「「独立自由軍政団」くらいは名乗るとしよう。彼らは海外派遣軍がさらされる理不尽な状況を見かねて告発に立ち上がった同志であり、軍が持つ国家リセット機能を今こそ使うべきと主張する。」
釈「ちなみにタンガラムの法制度においては、三権分立とは「立法+行政権(政権)・司法権(法権)・軍権 」の三権なのです。」
明美「ちょっと別口というには小者過ぎるかな。あって悪くはないけれど。」
まゆ子「ふむ、そうかもしれん。ただ今後役に立つ話では有る。」

 

じゅえる「政商でないとすればフィクサーとして有力なのは、あとは宗教勢力くらいしかないぞ。」
釈「ピルマルレレコ教団は今でも政治運動として存在します。十二神信仰も、また他の新興宗教も数々。」
まゆ子「新興宗教か。外国から渡ってきた神様、があってもいいかもしれない。ただ、フィクサーとしては足場が弱いぞ。」
じゅえる「伝統的な勢力とすれば、あーでも旧褐甲角王国とか金雷蜒王国とか、」

まゆ子「あー、そういえば、褐甲角王国の黒甲枝チュダルム家はれっきとしたフィクサーであります。司法関係で黒甲枝を背景として、法律に従って行政を監視するうるさ型です。」
明美「なるほど、闇御前にとっては嫌な相手だね。」
まゆ子「言われてみれば、天敵みたいなもんだね。あーでは、長い間チュダルムの爺さんはこの闇御前事業に関しての追求を行ってきた。という事にしておこう。
 これまでは公安警察関係フィクサーが楯になって立ちはだかっていたものが、闇御前一強体制になって、俄然頑張っている。
 そして、ヱメコフ・マキアリイという彼にとっての救世主が舞い降りた!」

釈「そういう存在ですか、マキアリイさんは。」
じゅえる「うん、それは素敵な、それこそ愛娘をくれてやるほどの大感激だな。」
明美「分かりました。では闇御前のライバルはチュダルムのおじいさんです。」

まゆ子「納得。」
釈「納得です。」

 

********************

明美「ということであらかた固まってきました。
 じゃあ今度はエピソード行きましょう。」

まゆ子「えぴそーど?」
明美「その人の性格とか生き方を端的に表す行動、とか逸話とかあるでしょ。別に性格を設定しなくても、この人はこうしますよ的な。」
じゅえる「それは、確かにどのような状況でどう動くか、をエピソード的に設定するのは、紋切型のタイプ決めよりも効果的だ。」
釈「読者様にも一発でわかりますよね、そういうの。」

まゆ子「あー、しかしリアリストの魔法使いかー、家庭はまったく顧みないにも関わらず海外派遣で戦死した自らの息子を楯に取って軍部に横車を押す。そんな性格。」
じゅえる「嫌なやつだな。」
釈「しかし、それでいいのです。彼は基本的に自らを愛国者として語るのです。あくまでもタンガラム民衆協和国の代弁者としてどうどうと悪事を成すのです。」
明美「なにか、世間一般に流布している彼の逸話で、それを言えば誰でもああ!と納得するようなものが欲しいですね。武勇談とか。」

まゆ子「武勇談か。それならば上に挙げた秘密治安警察に逮捕拷問された際に強情でした、とかがある。」
じゅえる「それもいいが、例えば的な。」
まゆ子「そうだなー、あー、政権交代が起きた時に海外派遣軍の経済支援勢力の存在がこれまでの野党にバレた際に、彼はどのように接したか。
 これは政界における伝説となってしかるべきだ。」
釈「どうしたのですか、恫喝ですか。」
まゆ子「いい感じの恫喝を考えておくれ。」

じゅえる「あー、それでは新政権の総統になった人を自邸に招いて、闇キャッスルはまだ出来ていなかったという事で、

 海外派遣軍で負傷して障害者となった廃兵を招集して、宴会を開いたのです。新政権に国家の陰の功労者を紹介するとして。
 その数は千名を越えて、異常な迫力を生み出し、総統も海外派遣軍の現状までの活動を賞賛せざるを得なかった。彼らの貢献を無にしない為に今後も方針を受け継ぐと宣言することとなる。」

まゆ子「ふむ、これまた嫌なエピソードだな。」
釈「軍隊に関係する式典では、定石ではありますが、ことさらに文字にすると嫌なもんですね。」

 

明美「彼に逆らった人がどうなったか、とかのエピソードは無いかな。」

まゆ子「ふーむ、とある企業の社長が分担金の負担に耐えきれず猶予を求めて闇キャッスルに行くと、庭石に人が縛り付けられて死んでいる。
 その間を人々が何事も無かったかのように微笑み談笑しながら通り抜けていく。
 驚いたその社長が警備の者に訴えると、あれは飾りだと言われただけだった。ただの置物に過ぎないと。
 なにをしたのかわからないが、とにかく社長は猶予を申し込む事をやめた。」

じゅえる「それまたえらく血なまぐさい話だ。」
釈「直接に殺した話は無いんですか。」

まゆ子「このような話はどうかな。
 彼が若い頃、第七協和制の秘密警察に捕まって拷問され、後にタッグを組む幹部と接触して政権トップの家族をシンドラに亡命させる話をした時。
 もちろん商売として報酬はもらうのだが、ソレ以外に欲しいものがあるとして要求したのが、彼をこれまで痛めつけた拷問吏の命。
 幹部は、そこまで憎いのか、と尋ねると、もちろん憎いのだがそれは自分だけではない。
 政権に反抗して捕まって拷問された人、その家族なんかがたんまりと居るから、そこに売りつければなにがしかのカネになる。と答えたのだ。
 幹部は笑って快諾する。どうせそこまで惜しい人材ではない。」

釈「これまたひどい話です。」
じゅえる「いや分かるけどね。分かるけどひでえな。」
まゆ子「ま、合理的な性格なのです。さらにー、エピソードを。」

まゆ子「ずっと後の権力を十分に握った後の話。
 とある外国人犯罪グループが警察当局に逮捕されて刑事罰を受けるような話になって、その国の大使か外交官かが闇御前に善処を要請すると、
 その犯罪グループが最初から居なかった事になった。だからその国との関係にまったく何も変わりは無い。
 以後彼らの姿はどこにも無い。」

釈「こわいですねー怪談ですねー。」
まゆ子「合理的な対応、というところを考えてみました。」
明美「でも女性関係でわかりやすい個人的なエピソードを作ってよ。」

 

まゆ子「とある宴会で女性コンパニオンが闇御前に対して粗相をしてしまって上司ともども平謝りになる。
 しかしそのコンパニオンは、たぶんベッドに呼ばれて、宝石とか衣装とかをプレゼントされたのだろう。直後に金持ちになった。
 だが調子に乗って闇御前の名を口走って吹聴したら、或る日素っ裸で浮浪者の群れの中から出てきて、警察に保護を求めた。追い剥ぎにやられたのだそうだ。」

じゅえる「命を取られなかっただけでもマシ、ということか。」
明美「もうちょっと人間的なエピソードは無いの?」

 

まゆ子「遊び人の三男の結婚式、普段はまったく親らしいところを見せたことの無い闇御前が珍しく参列している。
 三男の嫁はごく普通の家庭に育った人で、名門とか金持ちとかでは一切ない。その親族に対して彼は自分の名を式が終わるまで名乗らなかったという。
 しかし、親族全員の名を覚えて後で自筆の礼状を送ってきた。送り主は「(三男の名前)の親」であった。」

釈「意地っ張りですね。格下の連中にはどうしても頭を下げないんですね。」
じゅえる「或る意味人間的だ。すごく。」

明美「でも三男の子供たちは闇御前業務の裏工作員を立派にやってるんだよね。普通の両親から生まれたのに。」
まゆ子「うん、まあ、そこは或る意味冷や飯を食わされたと彼らが思ったんでしょう。戦死した兄達の方が高く評価されたということで。」

じゅえる「ちなみに三男は外国に行ったこと有るのか?」
まゆ子「あーそうだねー、美術品の研究でフィールドワークしに行った事がある。くらいはアリにしておこう。
 ちなみに現在のタンガラムで外国旅行ってのは、そりゃあもう大変にめんどくさい手続きととんでもない旅行費用が掛かるめちゃくちゃハードル高いものです。
 それを気軽に行けるのだから、さすがは闇御前の息子。」

釈「なるほど。十分に利益は得ているのか。」
まゆ子「ついでに外国に行きたいという同僚の学者を連れて行ってくれたりもします。美術史関係でなくても畑違いの人でもOK。三男本人が行く時は5、6人はお供が出来ます。もちろん渡航費用は闇御前持ち。」
じゅえる「ううむ、それはー教授職くらいやってもまったく損が無いな大学。」

 

明美「そういう三男的なエピソードが欲しいんだけどな。」
釈「まったくです。もうちょっと人となりが分かるようなほっこり系エピソードを出してください。」

まゆ子「干しゲルタを食ったことが無い、というのが自慢だ。」

じゅえる「どういうことだ? 漁村の生まれだろ。」
まゆ子「西海岸ではゲルタは取れん。というか、天気が悪いから塩ゲルタが作れないから食べる習慣が無い。ありゃ南岸の貧しい地帯で作られている食いもんだ。
 西海岸は大ゲルタが取れる。小さいゲルタではなく、子供の大ゲルタが取れる。こいつらは普通に美味い。だからゲルタなんか食わない。
 貧乏をした時でも干しゲルタ塩ゲルタなんか食ったことがない。
 というか現代の食生活においてはゲルタを食わなくても、昆布だったり毅豆食品だったりと低所得者向けの食品はちゃんと有るのです。
 塩だってちゃんと精製されたものが粉でで売ってるし、ゲルタを食わなくても行きていける世の中なのだ。

 そして彼は言う。金持ちになりたければゲルタは食うな。
 この言は、かなりタンガラム方台に広がっていて、実践する信奉者も少なくありません。が、軍隊経験者はとんでもない!と反発します。
 ゲルタこそが戦う為の力の源だと、干しゲルタが無ければ戦えないと主張します。

 なお現在拘置所で裁判中なのですが、彼はわがままを言ってゲルタ食品を食べません。拘置所や刑務所ではゲルタ汁は普通に出ますが、拒否します。
 まあ宗教的なことで特定の食品を食べないというのはありますから、要らないというものは出しません。わがままで欲しいものを食べたいというのはこれは通らないけれど。
 だが彼は金持ちですから、差し入れでそれなりのものは食べています。」

じゅえる「そうそう。それでいいんだ、そういうのがいいんだ。」
釈「マキアリイさんとは決して相容れぬ邪悪な存在だと理解しました。」

まゆ子「ちなみに好物は、鯨の脂身、つまりおばいけ。」

釈「そんなものタンガラムに有るんですか。」
まゆ子「鯨は居るからね。と言ってもこの世界の鯨は、実は地球で言うところの水棲恐竜でモササウルス系の生き物です。めちゃデカイ。

 この生物の存在は古代から確認されており、西海岸では百島湾に迷い込んだやつを網に掛けてしばしば仕留められています。
 かなりの珍味。で土地の漁師もなかなか食べられるものではない。また保存食としては難しいから冷蔵庫発達前は海岸以外では食べる事も無かった。
 まあ塩漬けにして仰々しく内陸に運んでましたけどね。」

釈「高価いものですかね?」
まゆ子「安くはないね。タンガラムの人間でもほとんど食ったことがない。鯨取りなんか産業として成り立ってないから。」
じゅえる「鯨産業って無いのか。」
まゆ子「無い。なぜかと言われても困るが、無いものは無い。」
釈「モササウルスって爬虫類ですが、おばいけありますかね?」
まゆ子「あるんだから有るんだよ。」

 

明美「つまり闇御前さんは干しゲルタは嫌いで、おばいけが好き。そういうこと。」
まゆ子「だよ。」

まゆ子「あとー、昔のシンドラに行った時のエピソードで、一時古美術商をやっていたのだが、その時のお土産から三男は美術史とかにハマるわけだが、

 本人は美術にはまったく興味が無く、値段でモノの価値を判断していた。これは記憶力の問題だから。
 だが相場で値段は変わるもので、自分が知らない間に値段が大きく変わっていたら怒ったという。
 高くなっても安くなっても、大きく変わるのは嫌いだ。
 他人に値段を変えられるのが我慢できない質らしい。」

じゅえる「ふむ。まあ、分からんではない。」
釈「普通の人は怒らないですよね、残念には思っても。特に商人ならその値段の違いで儲けますから。」
まゆ子「根っからの商人ではない、ということだね。だから変わらない価値を持つものは好きなんだ。」

 

 

2016/10/30

まゆ子「というわけで「夜のクワンパ」終了をもって、『罰市偵 〜英雄探偵とカニ巫女』は序章を終えて本編に突入するわけです、
 『ゲバルト処女』でもそうだったわけですが、だいたい1巻はテストパターンであってこれで行けるかなーというのを考えて、2巻目からが本編ですね。」


じゅえる「本気で飛ばしていくのはこれからだ、ということだな。」
釈「ではヒートアップしてアクセル全開ですね。」
まゆ子「となる予定なのですが、無理なのです。」
釈「無理とは?」
まゆ子「いや、第1巻をまるまる用いて主人公であるマキアリイとクワンパのキャラ立てを頑張ったわけですが、見ての通りにあんまり燃えない連中だコレ。」
じゅえる「ああ、そりゃあね。ぐーたらゲルタ男と、普通少女だからね。」
釈「テコ入れが必要ということですか。」

まゆ子「ゲストをお呼びしました明美先生です。」
明美「どもー。」

釈「最近明美先輩はほとんどレギュラーですね。」
明美「そんな気がする。で、どうするの。」
まゆ子「なんかばばーんとどかーんとテコ入れして。」
釈「そんな他力本願な。」
じゅえる「だが自分で考えつかんものはそう表現するくらいしか無いんじゃないか。」

明美「具体的に言うと、ビジュアル的に強化したい?」
まゆ子「いや、確かに表現的には派手にしてもらいたいが、こう次元の違うというか、新章突入というか、ハードボイルドに突入というか。」
じゅえる「そこは計画どおりなんじゃないかい。」
釈「そうですねえ、これからぼんぼん人死出ますよ。」
まゆ子「いやいや出るんだけどさ、今のキャラでそんな人死出る状況に合わないでしょ。」
明美「元々そういうキャラなんじゃないの、マキアリイさんて。」
まゆ子「そうなんだけどさ、そこは不自然というか、そもそも英雄探偵なんて不自然であり超常識的存在であり、一般人とは異なるメンタリティを持っているわけで、そこんとこをもっと詳細に描写すべきではないかというのをなんとかして露わにするギミックというか。」

 

じゅえる「つまり、マキアリイというキャラの内面に深く切り込んでいきたい、という欲求だな。」
明美「読者はそんなもの望まないと思うけど。」
まゆ子「うう、それも承知の上でなんとかして。」
明美「困ったひとだな。」

釈「まあそうなんですよね、読者は無敵無双キャラは平気な顔で過酷な状況をさらりと流していくのを楽しみたいわけで、ジェームス・ボンドみたいなものですよ。カッコつけで人をばんばん殺していく。内面なんかありゃしない。」
じゅえる「マキアリイってそういうキャラだよね、本来。」
まゆ子「ううそうなんだ、そうなんだけど、それでは困るんだ。テコ入れにならない。」
釈「確かに。テコ入れする必要は有るのです。」

明美「ならさあ、マキアリイさん自体の描写は要らないんじゃないかな。むしろ敵側の台詞でマキアリイさんの異常な超人性を白状していくというか、他者に描写させる方法で。」
まゆ子「なるほど。本人は変わらないのに、分析して解説してくれるキャラを増やすという方法もあるか。」
じゅえる「定番ではある。特に強いキャラに主人公ヒーローを高く評価させることで、その真価を炙り出すというのは王道だな。」
釈「直接にマキアリイさんの超人性を描く必要は無い、ということですね。」

明美「でもまゆちゃんが欲しいのはそうじゃなく、直接的にヒーロー性を高める方法だよね?」
まゆ子「まあね。こうなんというか桁が上がった感が欲しいんだな。」
明美「でも人は殺さないキャラなんだよね、マキアリイさんは。」
まゆ子「そうなんだ。基本的に逮捕すらしない。悪党が襲ってきてやっつけて失神しているところを警察が逮捕するわけで、逮捕権は持っていない。まあ緊急では法的にアリなんだけど。」
明美「ライバル登場、は予定されているんだ。」
じゅえる「だがそれは、後の伏線であって近々の状況ではむしろ味方なんだな。義眼大尉は。」

明美「悪党のライバルを作るかな。」
まゆ子「うーむそれも定番ではある。」
釈「と言いますか、「闇御前」って結構な大物が実はマキアリイさんの大ライバル的な存在であると、最近私思いますが。」
じゅえる「そうだな。最初にもう捕まっているライバル、ということだな。「潜水艦事件」の時からの黒幕だし。」
まゆ子「つまり、「闇御前」の描写人間性を深く表現することで、マキアリイさんが浮き上がるという寸法か。」
じゅえる「悪くは無い手法だ。」

明美「あたしが思うに、まゆちゃんはマキアリイさんに新たな隠された一面とか欲しいんじゃないかな?」
まゆ子「うーんむ、それは有る。」
明美「まゆちゃんの要望を叶える為に、コレ考えよう。」
釈「そうですね、上記の方法はいくらでも応用が利きますから、併用するということで。」
じゅえる「マキアリイさんの隠された一面、つまりは隠された過去に由来するまったく違う人格、ってことか。」
まゆ子「悪の一面を覗かせる、てことか。」

明美「マキアリイさんの悪って、」
釈「怠惰、ですね。」
じゅえる「常にカニ巫女に殴られているからな。」
明美「怠惰の仮面の下から覗くギラギラとした欲望が、」
釈「ゲルタ食べたがりますね。」
じゅえる「ゲルタの為ならなんでもするな。」
まゆ子「うう、実はこの話元々が「異世界浅見光彦」だから、特に裏はないんだよ。マキアリイさんには。」

明美「呆れた。」
釈「まあそこは物語主人公としてはどうかと思うところですが、浅見光彦シリーズでは事件関係者の方に深い業が有るわけで、主人公には要らないんですね。」
じゅえる「マキアリイは自ら動くキャラであり、逆に観察されるサイドであるから、それでは困るんだな。」
まゆ子「そうかー、そこで構図の食い違いが発生してテコ入れを必要とする事態が発生したのか。そうかー、だよなー。」

 

明美「つまり、ニュートラルな中性的キャラクターから出発しているのを修正して、いかにも主人公キャラ的な造形を必要とする段階に来ましたわけです。
 マキアリイさんてどんな男性? というお話だな。」
じゅえる「ビジュアル的な造形で言うならば、ジャン=ポール・ベルモンドであり、その派生キャラとしてはルパン三世とかコブラとか狼男だよとかの系譜です。」
釈「エロ上等ですね。」

明美「エロ上等にする?」
まゆ子「そこは、この物語はカニ巫女クワンパさんをヒロインとする夢小説的な構造がありまして、少女漫画ぽいものでありますからヒーローは恋愛をするならクワンパさんに、です。」
明美「でもクワンパさんは結ばれない事が決定しているキャラなんだよね。」
まゆ子「うん。というかマキアリイ事務所のカニ巫女とは恋愛しない。殴られてるし。」
釈「まあ要するに、国民的英雄として著名なマキアリイさんに、事務員として近くに居る事を許されたクワンパさんがちょっとドキドキする。というお話なんです。」

じゅえる「エロ欲しいよね。」
まゆ子「あー、これからはクワンパが出てこないマキアリイだけのお話も増えますし、女性ゲストキャラはぼんぼん出ますし、やろうと思えば出来ますが少女漫画的構造から言うとそれはムリ。」
じゅえる「なんとかしろ。」
釈「ねんごろになるのはいいが描写はしない。そういう手法もあります。シティハンター的なやつで。」
明美「やはりそれはダメだな。ちゃんと決まった女性が居て、その人が居るから浮気はしない。そのタイプではないかな。」
まゆ子「であれば逆に、マキアリイさんモテモテで女の方が色仕掛けで来る。か。」
じゅえる「そうだな。そちらの方がクワンパは絡みやすい。いざとなったらぶん殴れば良いし。」

釈「ではマキアリイさんは浮気はしないキャラですか。」
明美「ちょっとドキドキはして欲しい。」
まゆ子「うん、そこまで頑なな人間ではない。」
じゅえる「酒を飲みに行ったらおねえちゃんが居るだろ。そういう人達には。」
まゆ子「あー、実はマキアリイさんは男と飲むタイプで、飲みつぶれたらお姉ちゃん達が群がってくるタイプ。」
明美「朝起きたら隣に女が寝ていた系ですか。」
まゆ子「それもアリかな。ただ、国民的英雄がそれだと大スキャンダルだから、女の方も堅い系の訳あり美女だな。」
明美「では既に隠し子は有り?」
まゆ子「うーん、それはー分からない。」
明美「有りだな。」
じゅえる「マキアリイの隠し子と呼ばれる人は、マキアリイ死後にいっぱい出てきますが、おおむね嘘ばっかりだ。」

釈「せめてあの病院に住んでるエルフ姫ぽいヒトと絡ませるくらいはエロスを出しましょう。」
まゆ子「うん、出しっぱなしというわけにもいかないからな。」

 

明美「いっそ武術の師匠を女性にするとか。」
まゆ子「あーそりゃーちょっと違う。マキアリイの武術の師匠はちゃんとした男の人でもう死んでるよ。
 その娘とか居てもいいけれど、そこは少し違う。」
明美「でも実はマキアリイさんが追っている女性というのは欲しい。」
じゅえる「どんな女だろうね。マキアリイさんの想い人というのは。」
まゆ子「知らん。」
じゅえる「お前はそういうやつだ。だから明美が居る。」

明美「あー、どんなヒトでもいいんだけど、武術が出来るのは確かだよ。」
じゅえる「そうだな、マキアリイの隣に居ても大丈夫という感じが欲しいな。なら武術くらいは使えるはず。」
釈「呪術はどうですか。」
まゆ子「マキアリイさんは十二神信仰に関して結構詳しい。たぶん宗教関係の書物はそれなりに読みこなしている。呪術くらいはアリだ。」
明美「学校の先生?」
じゅえる「ほお。」
釈「ほおほお。なるほど、マキアリイさんはろくに学校にも行ってないのに選抜徴兵で知能検査にもパスしてますから、それなりの教育は受けているのです。
 その家庭教師的な人物が若い女性であったとして、……あーでもそうなると30歳をすでに越えてますね。」
まゆ子「センセイというのは悪くないが、となれば現在は失踪しておりマキアリイも消息を探していると考えるべきだな。」
じゅえる「学問の師匠ということか。武術の師匠はおっさんで、学問はおねえさんだったんだ。」
釈「ふーむ、だいたい見えますね。」

じゅえる「そのシナリオであれば、マキアリイはセンセイが好きというよりも行方不明で案じている、という関係だな。
 なにかアクシデントが有って、マキアリイが故郷に不在の間に失踪してしまった。」
まゆ子「普通に嫁に行ったとか?」
明美「それでいいと思うけど、その嫁入り先が消失していたという話かな。」
まゆ子「ふむ、なにか事故か事件かで一族そっくり消滅していた。かな。」
明美「今も生きているという確証が無いと、そこまでは真剣になれない。」
釈「だいいちお嫁に行ったのならマキアリイさんが恋情を抱いたとしても、そこまで女性関係に影響はしないでしょ。」
じゅえる「それこそマキアリイの隠し子が、」
まゆ子「いえいえそれはダメ。」

明美「うーん、ちょっと違うか。」
釈「学校の先生設定はいいとして、この人がマキアリイさんの恋愛観にはあまり関係ない事としましょう。」

じゅえる「もうすこし怪しげな関係性を持つ女がいいな。それも若い美女。」
釈「21、2歳。かな。マキアリイ28歳に対して22歳くらいがエロくて良いです。」
明美「ルパンであるならば不二子ちゃんですが、それは悪党ですね。」
じゅえる「怪しい悪の美女、はもちろんマキアリイに絡んでくるべきだが、それがそこまでキャラクターの根幹に関わるほどの影響力を与えるかというと違う。」

 

まゆ子「どうもこの路線は違うようだな。マキアリイという人物を構成する要素に謎の女や過去の女はそれほど関係しない。」
明美「となると、死の宿命という路線になるよ。」
じゅえる「ああ、そうだな約束された死がマキアリイという男を規定する。アリだが、不死身だしな。」
釈「運命づけられた死とは、どういうものですかね。でもだいたいそういう話はもっと若い10代主人公の物語ですよ。」
明美「マキアリイさんにも義眼大尉のような超能力が有るという設定では。」
じゅえる「いやマキアリイの出自から言えば、なにか予言者によって運命が定められている。」

釈「占い、ですね。」
まゆ子「占い、か。普通の占いではなく物凄く特別な儀式で授けられた確実に当たる占い、だな。」
じゅえる「そうだな。マキアリイが選抜徴兵で故郷を出る際に授けられた運命で、そんな馬鹿なと思うようなものだが「潜水艦事件」で英雄として崇められる事となり、がぜん信じざるを得ないものとなる。」
まゆ子「それでいこう。マキアリイは占いの運命に従った人生観を持っており、その死の運命を考えると特定の女性と所帯を持ってまっとうな家族を作ろうとか考えないのだ。」

釈「いいですね。」
じゅえる「不自然ではない設定だ。お前は何時何時に死ぬ、と確度の高い占いで示されていれば、独特の死生観も持つだろう。」
まゆ子「一見愚かにも無謀にも見える行動にも、説明が付くわけだ。」
釈「十二神信仰に詳しいのにも納得の理由なわけです。

 どんな占いの結果が出たのでしょうか。」
まゆ子「あー、文面で言えばこんな感じかな。

 ”汝此処を出南海に至り深みに潜む鯨魚を得て庶人の勇者となり栄光に輝く
  天駆ける翼を得て存分に羽ばたき陽を隠す黒雲を払い光を取り戻すものの、ゲルタのみにて報われる
  やがて南海に戻り努めを果たし終えずして藻屑と消える”


じゅえる「海の予言だな。」
釈「海ものばっかりですね。」
明美「でもノゲ・ベイスラ市に居る限りはだいじょうぶな予言ですね。」
まゆ子「うん、マキアリイがベイスラに居る理由の一つだね。
 なおこの予言をもらった時点で、マキアリイは海を見たことがない。ガンガランガ育ちだから。」

じゅえる「この予言で一番ひどいところは、”ゲルタのみにて報われる”だな。マキアリイがっかりだぜ。」
釈「はあ、金持ちにはなれない宣言ですからね。」
明美「この占いは、全体としては良い方かな?」
まゆ子「栄光に輝くとか光を取り戻すとか、普通の予言では出てきません。この占いは特別な王家に伝わるものだから、栄光とは国家を統べるほどの権勢を、光とは国民を救う善政を意味します。

 マキアリイは特別に王家の占いを授けられるほどに、故郷では大事に育てられているのです。
 この辺りの話は、第三巻に出てきます。

 

 あーでもねー、この故郷に一度帰る話はなにも決まってなかったから、予言の話が出てきてくれて大助かりだよ。

 ちなみに私は考えた。
 マキアリイの巫女は8人7回変わるわけだが、その7人目つまり双子巫女の頃クワンパから5年過ぎくらいだな、でマキアリイは一時経済的成功を収めるのだ。
 つまり金持ちになる。小金持ちだが、そのまま探偵業を引退してしまうかな、と皆考えていた。
 ところに! イローエントで彼の盟友だった刑事探偵が邪悪な密輸組織のとの長年の闘争の末に死んでしまう。彼の遺志を継いでマキアリイは本腰を入れてイローエントに拠点を移す。
 でそれまでの刑事探偵事務所は弟子探偵に任せて、イローエントで単独に正義を追求し8人目のカニ巫女と運命的な出会いをするわけだ。

 で、イローエントでの活動はそれまでに蓄えた富を自腹で散財してしまって、彼がゥアム帝国行き豪華客船から失踪・死亡宣告後に財産整理をした結果、ほんとうにゲルタを買うくらいしか残ってなかったのが判明する。
 まさに正義の為に一生を捧げた男として、世の人は皆涙したという。」

じゅえる「ゲルタだな。古代風塩ゲルタを売り出して大当たりしたんだ。」
釈「はあ。まあ、らしい商売ですね。」
まゆ子「さすがにそれは安直過ぎるから、もうちょっと色付けて。」

じゅえる「5人目の巫女はポラパァーラで、マキアリイの嫁に成る為に来たって女だろ。これは嫁に成れたのか?」
まゆ子「あー、パス。そこは考えない。彼女はマキアリイのところを卒業した後に東岸に戻って偉い巫女になったとされている。

 で6人目の巫女。彼女はこれまでなーんにも考えていない。むしろ弟子探偵の男の方が考えてる。
 だがそういう展開であれば、これまでと違って彼女自身が犯罪に関係する、なんらかの因縁を持った運命の少女、的なものでどうだろうか。
 カニ巫女になったのは復讐の為で、未だ見ぬ仇を追い求めてマキアリイ事務所に転がり込んだ的な。」

明美「そういう展開であれば、マキアリイさんがこれからの人生を考えて新しい道に踏み込む為の契機を与える役割を彼女が果たした。そういう設定にするべきだね。」
じゅえる「なるほど、双子巫女の頃には実業家として転身するわけだから、英雄探偵としては一定の完成達成を見た。というわけだな。」
釈「そのことによってマキアリイさんも何らかの変化を自覚せねばならない、そういう展開があった。ってわけです。」
まゆ子「うんうん。で、実業家として転身に成功した彼は、しかしイローエントからの悲報に接して、全てを投げ出して英雄探偵でなく一人の刑事探偵として悪の巷に踏み込むわけです。
 これが、占いに定められる「努め」というものなのです。」

明美「理想を言うならば、クワンパさんが8巻予定ですか? それに相当する第6巫女シリーズを通して一貫した謎事件を解決していく。という長編で。」
釈「ちなみにマキアリイ事務所の巫女の名は、初代ケバルナヤ、2代ザイリナ、3代シャヤユート、4代クワンパ、5代ポラパァーラ、6代ヤャラアタ、7代シスメィ&カトラマヤ(トカゲ巫女)、8代シクゥヴァルと決定しました。」 

 

2016/09/21

明美「というわけで再開です。

 えーと、なんだっけ?」
釈「申し訳ありません。「闇御前」事件の設定をお願いしておきながら、ついつい海軍装備についてちょっとのめり込みすぎてしまいました。」
じゅえる「すまん、こういうのは明美には興味無いんだったな。」
まゆ子「えー、改めて依頼いたします。

 マキアリイ刑事探偵事務所の女性事務員ザイリナが、学校怪談を調査していたら、→中略→ してタンガラム方台最大のフィクサーであり極悪非道の犯罪者である「闇御前」を逮捕に至る。
 この過程を考えて下さい。」

明美「むり!」
じゅえる「いやまあ、むりだしな。」
釈「無理というよりも、無茶がすぎる要求です。」
まゆ子「だめ?」
明美「あー、そーねー、そもそもがどういう学校怪談だったのよ。ザイリナが探していたのは。」

まゆ子「これは中学生の間で広く流布している怪談です。

 ”ある学校で、女子中学生が失踪します。行方不明です。犯罪かどうかもわからない、原因不明の失踪です。
  ところが、或る時その中学生の同級生の親がとあるパーティに招かれまして、それがずいぶんと偉い人が催す秘密のパーティだったらしく、なんか妖しいものがいろいろと出てきた。
  で、そのパーティのメインディッシュとして、飴色に身体が透ける美少女型の肉が出てきて、それが失踪した女子中学生そっくりだった。
  パーティの客は争うようにその肉を食べてしまいましたとさ”

 というものです。」
じゅえる「それ「げばると処女」で出てきた肉だな?」
釈「たしか、「吐蝋肉」という、巨大な両棲類が生きた子鹿を呑み込んで胃液の中でとろとろと溶かして、中途半端に蕩けたところで吐き戻したものです。
 飴色で透明な燻製肉みたいなもので、とにかく美味間違いなしです。」
まゆ子「人間を「吐蝋肉」にする為にその両棲類「嫗媽」の口に放り込むのは、人喰い教徒が昔からやってきたことですが、まあだいたい失敗します。そりゃあね、溶けちゃうよね普通。」

 

明美「ふむふむ。たしかに学校怪談としてはいいでしょう。気味悪くて恐ろしくて残酷で、女子中学生が絡んでます。
 でも、そのパーティに出た親御さんて、何者だよ。人喰い教徒なの?」
まゆ子「あー、そこを考えるとこの怪談は崩壊しますね。」
じゅえる「どう考えても非合法パーティだし、それに呼ばれるような奴はやっぱり非合法な仕事をしている存在だよね。子供を普通の学校に通わせるとかは無い。」
釈「この怪談自体が不可能物件ですかー。まいったなー。」

明美「しかしまあ、いいでしょう。とにかくザイリナはこの話を信じるかどうかは別として、どこから発生したものかを調べるんです。
 で、不思議な失踪事件を発見する。というか被害者を発見する。
 まあ発見したのはお姉さんであり、妹の女子中学生がごく普通の感じでどこかの寄宿舎に入って、しばらく連絡はあったけれど、消えてしまったというお話です。」

まゆ子「ただ消えたのなら、その寄宿舎が騒ぐでしょ。」
明美「騒がない。というか本人から姉に当ててちゃんとお手紙がやってくる。でもお休みになっても中学生帰省しない。
 でそういう状況で数年が経って卒業する年になって卒業式には出ようと家族でその寄宿舎に行ってみると、いつの間にか退寮していてとっくの昔にここからは居なくなっている。
 というか、手紙自体がおかしくて、たしかに本人の筆跡なのに内容が彼女らしくなくて、ただオウム返しのようにこちらから送った話題を返してきているだけ。
 なんだか怪しい! と警察巡邏軍に捜索願を出して、手紙も調べてみたけれど、分からなくて、結局は失踪なのです。」

じゅえる「そりゃー、それだけで十分学校怪談じゃねえか。」
釈「実際に有った学校怪談ですよそれ。いいですねーそんなのがほんとに有ったら。」
まゆ子「ふむふむ。最初の学校怪談は放棄して、これを本格的に探索し始めたって事だな。うん、それなら筋が通る。」

明美「でもトロ肉の怪談も後でオチに使おう。」
まゆ子「なるほど、発端は間違った出発点だけど、最終地点に到着するとそれがほんとに有ったんです。というのは、アリだな。」
釈「王道的なアイテムの使い方ですよ。」

 

じゅえる「で、マキアリイが本格的に乗り出して、失踪事件の真相を暴き出す。」
まゆ子「だね。そして少女失踪事件のからくりを暴き出すが、すでに彼女は別の場所に消えている。何?」
釈「まさか食われるってことは無いとして、やはり奴隷か娼婦として働かせる? あるいは外国に売り飛ばされる。あるいは変質者の虜となる。」
じゅえる「どれがいいかな。どれでも使えると思うけれど。」

明美「もうちょっと中二病的に!」
まゆ子「OK。 ではなんらかの中二病組織か教団の秘密の会に入る為に、女子中学生が自ら志願してこのからくりに乗っていて、ほんとはまったく別の所に消えてしまっている。
 マキアリイは、その教団を発見する。」
じゅえる「教団、うん教団でもいいし、なんらかのサークル的なカリスマの主催する会とかでもいい。」
釈「なんだか皮肉なものがあってもいいかもしれませんね。マキアリイさんが解決した事件に絡むような。」
まゆ子「ふむ。ではテロ組織「ミラーゲン」でも出すか。」
じゅえる「それは時期尚早。「闇御前」は「ミラーゲン」と関与しているから、最終的に出て来るが、この段階では出してはイカンよ。」
まゆ子「じゃあカリスマ。そうだな、現在の救世主、とかいう触れ込みで謎の会が催されていて、そこに入会する為に自らの消息を消したということで。」

明美「ニセのイエス・キリストみたいな奴を、マキアリイさんがぶちのめします。」
まゆ子「OK。 カリスマニセ救世主を逮捕します。」
じゅえる「いや、だがここで終わると「闇御前」に到達しないぞ。」
釈「このカリスマはただの隠れ蓑という事にしましょう。女子中学生はここを経由してまた別の場所に拐われていったのです。」
じゅえる「それでトロ肉か。」
まゆ子「いや、それは早すぎるな。」

 

明美「きれいな少女達が何人もこのカリスマの会を経由して、どこかに消えている。そういう大事件に発展ですね。」
まゆ子「ふむ、だが、そこは少年少女という事にしよう。美しい少年少女達が新世界のアダムとイブになる、という話で、彼女達はまんまと騙されてどこかに行くのだ。」
釈「それは外国ですね。売り飛ばされましたね。」
じゅえる「外国に売り飛ばすとなると、外国につてのある「闇御前」が関与していてもおかしくない。」

明美「なんか違うな。」
釈「そうですか。」
明美「そんなあからさまな犯罪ではダメなんじゃないかな。」
じゅえる「ふむ。そう言われると、簡単すぎるか。もっと奥の深い、根深い邪悪って感じがいいかも。」

まゆ子「であれば、外国というよりは、未発見だった島にタンガラム人を移住させて新天地を作る。という計画をだね。」
釈「それは秘密の計画ではなく、公的なちゃんとした計画に、そのカリスマに洗脳された少年少女が送り込まれる、という風にしておいた方が「闇御前」が関与するのに近いと思います。」
まゆ子「ふむ。国家公認の民間団体の移住計画ね。「闇御前」カンパニーが関与する。」
釈「では、その島にカリスマの親分みたいなのが居て、そこにそのカリスマの王国を作るということで。」

じゅえる「明美、これはちょっと、」
明美「うん、耽美が足りないね。」
まゆ子「カリスマじゃダメか。」
明美「いや、島で王国はいいんだけどれど、こうもっと発展性の有る悪というか、世間を震撼させる邪悪というか犯罪というか、テロリズムの香りというか。」
じゅえる「そうだな。なにか悪の香りが欲しいんだな。合法的計画の内であれば、そこは弱い。」
釈「凄く国家反逆的ななにかが、必要ですね。そういうわけなら。」

 

まゆ子「ふーむ。だがタンガラムの外に出ていくのがデフォだと考えると、……移住先が未発見島ではなく、すでに発見されているれっきとした主権国家有人方台であるバシャラタン法国内に、公然と独立国を建国する計画!では。」
釈「そりゃ悪いですね。悪の極みですね。」
じゅえる「ふーむ、なし崩し的に侵略していこうという筋書きだな。もちろん法的にも外交的にも許容されるはずの無い。」
まゆ子「国家間の取り決めにも違反する重大な犯罪です。ここまで話が発展すると、すでに刑事事件を飛び越えて政治事件です。「闇御前」を引っ張り出すに十分なネタになりました。ありがとう。」

明美「その失踪した女の子はここで保護する?」
釈「そうですね、この段階でもう用済みですね。ここで保護しましょう、お姉さんと涙の対面です。」
じゅえる「それはいい。だが、この程度では大魚を釣り逃すだろう。「闇御前」には到達しない。」
釈「うーんまだだめですか。決定的な打撃を与えきれていませんか。」
まゆ子「そうだなー、この程度であれば、外務省の役人が一人死ぬくらいでしかないな。もうちょっと完璧な悪が必要だ。」

 

明美「じゃあ、そのバシャラタン法国で独立国を実現するために、現地の偉いさんに賄賂として美少女を贈っていたとか。」
じゅえる「生きたまま? それとも死んだ美少女?」
釈「ここでトロ肉か!?」
明美「おう!」
まゆ子「おう! それだ、それでいこう。美少女のトロ肉を世界最高の珍味として、バシャラタンの悪徳僧侶に貢いでいるんだよ。その為に殺された少女が居る。」

明美「トロ肉養殖場にマキアリイさん突入です。」
まゆ子「よし任せろ。ここで施設の秘密を護る悪の戦闘員投入だ。マキアリイさん大活劇だ。」
釈「ようやく本領発揮です。」
じゅえる「そして養殖中のトロ肉の女子中学生を発見。しかもまだ生きているという。」
釈「猟奇です。それがいいんです!」
まゆ子「うん、それで完成したトロ肉の出荷伝票から、驚くべき秘密組織の実態が明らかになり、その中心人物として「闇御前」が浮上する。」

釈「警察突入していいですよね、ここ。」
まゆ子「伝票押収して、捜査の結果驚くべき政界の超重要人物が浮上して、警察局お手上げ状態。
 そこで正義の英雄探偵マキアリイとカニ巫女ザイリナが、単独で「闇御前」の本拠地「闇キャッスル」に突入だ。」
じゅえる「闇キャッスル」かよ。」
釈「そこはもうちょっと穏便に、「闇享楽城」とかのソレらしいものにしましょうよ。」

 

じゅえる「そして「闇御前」と対決。闇御前は、……悪事を認めるわけ無いよな。」
まゆ子「無いな。」
釈「大物の爺ですからね。そんなの知らん、で終了ですよ。」
明美「マキアリイさんが戦う相手は、どうしましょうかね。やはり悪事を暴露されたからには生かしては帰さない、というのが王道だよね。」
じゅえる「いやでも、知られてまずい悪事の動かぬ証拠が無いからな。どうするか。」
釈「それこそ、お昼ごはんに美少女のトロ肉を食っていた現場に踏み込む、くらいでないとダメですね。」

明美「うんそれだ。まずマキアリイさんは闇御前が多くの人々と美しい日本庭園で豪華な美食を楽しんでいる場に乱入します。絵のように美しい光景の中にです。」
まゆ子「ビジュアル的に、だな。日本庭園てのが不思議だが、アリとしよう。」
明美「そして、満座の中心で美少女トロ肉の話をし始めます。その場に居た各界名士やら貴婦人やらが吐き気を催すような話です。」
じゅえる「うんうん、クライマックス的にそれでいいぞ。」
まゆ子「しかし、詰めが甘い。」
釈「それこそ、美少女の身体の一部やら、身につけていた装身具が口の中からこぼれるくらいのあからさまな証拠が無いと、これでは戦えません。」

まゆ子「うん、クライマックスはそれでいい。あと巨漢な戦闘のプロで殺人狂と戦ってもいい。だがー、闇御前自白しないな、それ。」
釈「最後のひと押しが足りない。困りました。」
じゅえる「殺人狂の巨漢と戦って、勝てば褒美になんでも好きなものをやるぞ、と闇御前が賭けを持ちかけてくるのにマキアリイが乗って、それでー、」
釈「犯罪の動かぬ証拠が欲しいですねえ。」
明美「死体だよ死体。」
釈「死体ですよねー、それもトロ肉の。」

じゅえる「あ! それトロ肉で無くてもいいんだ。今この場に死体が有り、それが闇御前の指示で殺されたものだと証明されれば。」
釈「警察は動けます。」
まゆ子「ふん、なるほど。トロ肉がこの場に有る必要無しか。

 そういうことであれば、マキアリイと警察局にぶざまにも家宅捜索されてしまった、トロ肉養殖場の責任者が闇御前の命令で殺されて、この場所に有る。
 大勢の各界名士が集まってご飯を楽しんでいたそのど真ん中の庵であるか、宝箱であるか、の中身がその死体。
 マキアリイは巨漢に勝って、それをもらう事を闇御前に約束させる。」
釈「なんでも好きなものをやろう、という賭けに勝って、その宝箱を所望するわけですね。そして中から、死体が。」
明美「それは、美人のおばちゃんでそのシーン以前にマキアリイとちゃんと会話して、調査を拒否したおばちゃん、の死体である。
 という事にしよう。絵的に。」
じゅえる「そうだな。おっさんの死体が出るよりは、絵になるな。」
まゆ子「なるほど、それまで捜査をことごとく妨害してきた、闇御前の表の顔である民間営利団体の所長とか、そういう肩書を持つおばちゃんだな。」
釈「それまでの物語の展開でしばしば現れた、読者もよく知る人物。ってことです。」

釈「あ、ちょっと待って下さい。なんでマキアリイさんは、その宝箱にその女性の死体が有る、と知ってるんです?」
じゅえる「そんなものどうとでも理屈はつくさ。

 たとえば、そのおばちゃんはかなりの偉い人物であるから秘書とか常に居て、マキアリイも見知っている。
 その宴会場の庭園にもその秘書だけは居て、ひそかに目でマキアリイに助けを求めている。
 宝箱に視線を向けるのを、マキアリイさん見落とさなかった。」
まゆ子「かんたんでいいな。」

明美「でもその女性を殺したのは、マキアリイさんが斃した殺人狂だよね。闇御前は殺人教唆ということでいいのかな?」
まゆ子「うーん、それだけでは弱いか。」
じゅえる「その裏で密かに館を捜索していた警察局の特別チームが、別の犯罪についての証拠を発見した、とか?」
釈「脱税、あるいはなにかの貴重品や美術品が登録されていないままに館を飾っていた。そのくらいで。」
まゆ子「そうだな、経済犯として捕まった方がまだまだ後が続きそうでいいな。」

釈「今回入手した証拠だけでは裁判を進めるのが難しくて検察は手をこまねいているのを、マキアリイさんに向かってきた暗殺者の証言を得て「殺人教唆」21件での立件が成立するわけです。
 ここは証拠が弱いくらいでいいんではないでしょうか。」

 

じゅえる「じゃあ、これでFIN. に到達だ。」
釈「おつかれさまでしたー。明美先輩、補足はありますか。」

明美「いや、カニ巫女ザイリナさんの活躍が少ないかな。」
じゅえる「少ないな。」
まゆ子「少ないな、善処します。ただ物語の流れとしてはこれでいいとして、実装段階においてはザイリナの出番を増やしてもっと決定的な役割を演じさせましょう。」
釈「ですね。」

 

追記:
 マキアリイとザイリナ、カリスマのカリスマが少年少女を洗脳して海外に送り出す施設に突入。だが彼らはすっかり洗脳され尽くしており、自らが犯罪に加担しているとは理解しない。
 だがマキアリイが英雄探偵であるのは知っている。というか洗脳プログラムにおいても、タンガラム人民の優秀性を誇張する為にマキアリイというモデルが悪用されていた。
 つまりはこの会においては、マキアリイ本人もカリスマである。鉄壁なる正義の化身として崇められていた。
 一方カリスマのカリスマは絶対の善として計画中枢にあり、彼の言うことこそが絶対の命令なのだ。
 しかぁし、鉄壁の正義によって絶対の善が殴り倒される姿を目の当たりにして、少年少女らの人格は崩壊。
 その後ザイリナのカニ巫女棒が当たるを幸い殴り倒して、神の罰として彼彼女らに襲いかかる。洗脳はすっかり解けてしまった。

 ちなみにカリスマのカリスマとは、女子中学生が寄宿舎を逃げ出す時に入会したサークルの指導者の上部組織の指導者で、フランチャイズ制。
 現代の救世主を標榜するも、老舗の教団「火焔教」「ぴるまるれれこ教団」とはまったく関係ない。
 このフランチャイズシステムは、或るカリスマがカリスマを一人任命して、その子カリスマが会を独自に開き会員が増えれば3人で親カリスマに供物を、10人で金銭を、30人で最も美しく神に愛される者を上納するシステム。
 その代償として、人を贈ってくれば子カリスマは1人を孫カリスマにすることができる。というネズミ講システム。人を贈られた子カリスマはそのまた親カリスマにお礼の金銭を上納する。
 本物のネズミ講とは違って拡散する条件が緩い為にそんなに簡単には破綻しない。また有能な者を子カリスマにしなければ会員は増えないので儲からない。人間を見る目が大切になる。
 結果として、カリスマとなる資格を持つ人間はかなり優秀であり、システムの破綻を招かないという利点がある。
 最終目的としては、美しく神に愛される人間、という特殊才能を最上位カリスマにまで届ける事である。

 カリスマのカリスマを倒して海外移民事業を行う「闇御前」カンパニーを警察と共に家宅捜索するマキアリイ。
 すでに警察局の捜査官は闇御前の力に恐れをなしており、責任転嫁先としてマキアリイを必要とする。
 そう簡単に証拠の書類なんか見つからないわけで、捜索も暗礁に乗り上げる中、マキアリイは所長室(後でころされるおばちゃん)をぼーっと眺めて気がついた。
 マキアリイは動体解析の専門家であり、部屋の中の人間がどのように動くかを遺留物等から読み解く技能を持つ。
 その目から見て、怪しい家具の配置があって、床下に秘密の金庫が有るのではないかと推察する。
 警察の鑑識が床板を剥がしてみるが、コンクリの大きな塊があり予測は外れる。だがマキアリイ、気がついた。
 このコンクリの使い方はテロ組織「ミラーゲン」が建築物の建築途中に爆弾を仕掛けるのと同じやり方だと。
 コンクリを切ってみて、果たして爆弾とややこしい構造でフタが開く秘密の金庫を発見する。
 その中から、闇御前が直接関与した証拠と共に、トロ肉養殖の恐るべき情報が。

 闇御前の最凶護衛の巨漢をぶっ倒して捕縛して望みどおりに死体の入った宝箱を手に入れ、死体をお食事会参加者全員の目に晒したマキアリイである。活かして帰すわけにはいかない。
 だがその状況は逐一外部に漏れていたのである。マキアリイに随伴するザイリナの背中のリュックサックにはしっかりと無線通信機が入っており、闇キャッスル外部の警察部隊に筒抜けで録音までしている。
 いい気になってペラペラと喋った闇御前は最新電子機器によって敗れるのだ。
 そして家宅捜索令状が執行され、結果財務上の犯罪を発見して併せてこれも起訴される。
 ちなみに最凶護衛との決闘は「決闘罪」は適用されずマキアリイ無罪放免。
 殺されたおばちゃんの生死は箱を確かめるまでは不明であったために、マキアリイは善意の一般人として彼女の安否を調査していたのを妨害された、という理屈で検察官もケリをつけてくれた。

 注)どうせ本文中でこのエピソードは小説化されないのであるから、別に筋書きをそっくりばらしてもまったく困らないのだ。

 

2016/09/20

まゆ子「さてわたくしいつものように馬鹿をやりましたよ。

 『罰市偵』第二巻通算9話「夜のクワンパ」、とりあえず書いて更新を始めたわけですが、今回9×3章ものでかいのになってしまいましたよHAHAHA。」
釈「これまでで一番デカイ話ですか。」
まゆ子「そもそもがこの話、クワンパさんの日常生活を面白く描写しよう、てだけの軽〜い回のはずでした。というかそうです。
 でも長くなっちゃったな、」
じゅえる「馬鹿だね。」
釈「ばかですね。」
まゆ子「理由は簡単。3日分のお話だからです。だから3回に分けて更新されますね。」

まゆ子「さて、『シン・ゴジラ』見てきたぞ。うちの『ゲキロボ』に出てくる原子力宇宙怪獣といっしょだね。やはり対空レーザーは強い。」
釈「アレはまんまゴジラですから。」
じゅえる「えーと、あれはメカナマケモノに絞め殺されたんだっけ。」
まゆ子「シンゴジラのゴジラも爆発でなく絞め殺したら、ちゃんと原子炉がシャットダウン処理をして止まったと思いますよ。
 生物学的に考えて、放射性物質を爆発散乱させるのは得ではありません。子供とかの遺伝子を継承する存在のために、貴重な放射性物質のエサは保存すると思います。」
釈「自然死ならそうでしょうが、まあ原子力怪獣を殺すのは大変ですよね。汚染除去とか。」
じゅえる「あれ最後どうなったんだっけ。」
釈「喜味ちゃんが解体して南極の氷の中に保存です。あとで地球人の科学者グループが構造解析をします。すごくお宝です。」
まゆ子「そうなんだよねー、原子力怪獣って地球の原子力工学をとてつもなく進化させる研究資料のお宝の山なんだよね。
 『シンゴジラ』でもそこらへんをちゃんと書いていて、うん分かってるな!と安心しました。」

 

まゆ子「というわけで、第10話です。長年タンガラム中央政界を牛耳ってきたフィクサー、通称「闇御前」が逮捕されて裁判を受けます。
 が、これで5度目の裁判です。
 タンガラムの裁判制度だと、地方裁判所で裁判をして判決→上告→中央裁判所で審議→再裁判を他所の地方裁判所で行う。 という形を取ります。
 なんでかというと、中央裁判所と最高裁判所は違っており、最高裁判所での審理は法律の改正を伴うような重大な裁判のみに限られるからです。
 これまで通常の法律の範疇に収まると判断された事件の裁判は、同じレベルの裁判所で携わる面子を換えて行う。こういうシステムです。
 だから、被告人と弁護士である法論士は同一としても、裁判官と検事は別の地方の別の裁判所の人、という事になります。」

じゅえる「2審制なんだよね。」
釈「刑事裁判では、事実上1審は検事による裁定です。これに不服がある場合に裁判を起こす事となります。」
  (注:では検事による裁定なんか無視して上告しちゃえばいいじゃん、と普通考えますが、裁判になったら情状酌量は消えると考えて下さい。罪が一等上がります)

じゅえる「二度目の地方裁判所での裁判の判決が不服な場合は?」
まゆ子「そりゃ普通に終了だよ。ふつうは。
 だが今回、この「闇御前」裁判はそこで止まらなかったんだ。」
じゅえる「そりゃまたどうして。」

まゆ子「まず、闇御前は中央政界に影響力を行使していたわけで、当然に首都ルルント・タンガラムで逮捕されます。罪状は殺人教唆です。
 しかし法曹界にも根強い影響力を持っていたということで、首都での裁判は見送られ、隣のカプタニア地方裁判所で行われます。ここでは有罪になります。
 当然中央裁判所に上告、再審が認められて今度はヌケミンドル地方裁判所で行われますが、ここでねじれた。

 ヌケミンドル裁判所は、この事件は単なる刑事事件ではなく国家反逆罪に相当するものであるから、最高裁判所で改めて審理すべきだと中央裁判所に突き返したんだ。
 逮捕後時間が進んで、それだけ事件の根の深さがどんどん暴露されて、当初の単純な殺人教唆ではなく、もっと大量の犯罪を精査すべきとヌケミンドル裁判所は差し戻したのです。
 中央裁判所はパニックに陥り、というかそりゃあ「闇御前」と呼ばれる人間の数十年分の悪事の総決算ですから、単純な裁判でカタが付くわけなかったんですね最初から。
 或る意味では、政界に及ぼす影響を考えて微罪でケリを付けよう、という思惑が働いていたわけで、そこをヌケミンドル裁判所に見抜かれてしまった、と解釈すべき状況です。

 そこで罪状を改めて第一審から、今度は首都裁判所で裁判が始まるわけですが、これを妨害する動きがいろんな方面から発生して裁判官への脅迫事件までもが発生するのです。
 審理不能という情けない状況に陥った為に、首都から遠く離れたデュータム地方裁判所で改めて第一審を行って、ここで一部罪状については有罪、他は審理に必要な調査が未了であるとして差し戻しになったのです。
 で、三度中央裁判所に戻ってきた事案で、有罪判決が出た部分のみで再審が認められて、ベイスラ地方裁判所に回されてきたわけです。」

じゅえる「はあ。じゃあようやくに最終審理結審だ。」
釈「ややこしいですね。」
まゆ子「ところがだ、審理不能な他の案件に関しての情報提供をすることで免罪にする、という政治取引が成立しそうな怪しい雲行きが。」
じゅえる「おう。」

まゆ子「このままでは「闇御前」本人を取り逃がしそうな驚くべき状況に陥る可能性が現実味を帯びてきて、主任検事であるところのチュダルム彩ルダムが切れたのです。
 そこで関係者の一人を説得して、ついに決定的な犯罪「国家反逆罪」で起訴しよう、という流れになったわけなのです。
 つまりベイスラ地方裁判所での裁判に証人としてその関係者を法廷に呼び出し、「闇御前」が国家反逆罪を犯していたという決定的証拠を突き出して、審議を強制終了させるのです。
 「国家反逆罪」の裁判は最高裁判所において一審制で決着しますから、そこで否応なく白黒付ける事になります。
 それはつまりは、法曹界に潜む闇を徹底的に炙り出すということにもなるのです。」

釈「最高裁判所で無罪になったら?」
まゆ子「そこまではマキアリイの関知するところではない。
 というか、最初のカプタニアでの裁判の罪状「殺人教唆」自体が、マキアリイへの連続暗殺未遂事件によるもので、マキアリイ本人が暗殺者を何人も拘束する事で暗殺依頼が「闇御前」から発せられた命令であると証明してみせたわけです。
 この確証が掴めない時点では、検察側はほとんど及び腰で立件にもっていくことすらできなかったくらいに、闇御前の影響力は強いのです。」
釈「つまりは、この裁判の最初の立役者はマキアリイさん本人そのもの、であったわけですね。」
まゆ子「この連続暗殺未遂事件は映画にもなっています。その名も『英雄暗殺!』」
じゅえる「まんまだな。」

 

釈「でも、どうして殺人教唆の証拠を入手できたんですか? 一流の暗殺者であれば依頼人の名前を明かしたりしないでしょ。」
まゆ子「そうだよ。捕まえたくらいで喋るような素人は一人も居ない。」
じゅえる「ではどうして。」

まゆ子「捕まえたやつは全員一流の殺し屋なのだ。プライドが有る。受けた依頼は必ず果たすし、依頼人の名前や情報を明かしたりは絶対しない。
 だが彼らはすべてマキアリイに負けた。負けて死んだ。死んだ所で、というか死ぬ直前にマキアリイによって助け出されたのだ。命の恩人がマキアリイだ。

 その上で、マキアリイは再度の暗殺勝負を敢然と受けて立つ。ただし今度は俺にも得をさせろと。殺される側のマキアリイにはなんの得も無いとは、これは不公平ではないか。
 そう言われれば間違いなくマキアリイ一方的に不利で無意味なわけで、暗殺者もマキアリイが勝った場合の報酬というのを設定することとなる。それが「暗殺依頼の黒幕の暴露」だ。
 まあ、最悪もう一度負けても自分が死ねば、そんな要求聞かなくてもいいんだから、楽な勝負なわけですよ。

 で暗殺勝負でまたしてもマキアリイに負ける。負けて死にそうなところをまたしてもマキアリイに助けられる。それでもなお自殺しようというところを、ぶん殴られて気絶して命は助かる。
 で、目が覚めてまたしてもマキアリイと対峙する事となり、そこで根負けして証言を承諾するわけだ。
 これを概ね、7人分やった。他の連中はもっとかんたんに喋ることとなる。というか、その7人は暗殺業界でもトップクラスの連中でそいつらがゲロるというのなら、彼らも同じようにした。」

じゅえる「相変わらずの無茶な話だ。英雄どころの話ではないじゃないか。」
釈「仮面ライダーでもこうはいきませんよ。無茶も休み休みしてください。」
まゆ子「まあそういうわけで、マキアリイに命を助けられた暗殺者連中は死刑はもちろん免れないのだが、「闇御前」裁判に関しては一貫して証言を翻そうとしない。
 徹底的にマキアリイとの約束を守り続けているんだな。これがタンガラムの漢ってやつさ。」

釈「もうちょっと卑劣な人質を取る系の暗殺者は来なかったんですか?」
まゆ子「当然に来たんですよ。そいつらは一流とは言えないけれど仕事はきっちりする系で、しかも正体がバレないように遠隔で脅迫したりする卑劣な連中だ。」
じゅえる「暗殺者としてはじゅうぶんだと思うな。それで、マキアリイはどうした?」
まゆ子「彼らの誤算は、英雄探偵マキアリイのトラブルに遭遇する才能を理解していなかったことなのだ。
 人質だの卑劣だのを企てている真ん前に、マッキーさんがどんと出現する。なぜと言われても困るが、居るんだからどうしようもない。」
釈「あー、」
じゅえる「あー、ダメだわそれ。」
まゆ子「だから、こいつらに白状させるのも凄く簡単だったのです。」

釈「それって、巫女はザイリナの時の話ですよね。」
まゆ子「うん。まあ彼女には荷の重い話であるので、マキアリイは方台中をひとりで逃げ回っていたんだけどね。自費で。」
釈「なんの報酬も無しですか。」
まゆ子「自分が暗殺されるのを自分で退けて自分が生き残るのに、誰がカネ払ってくれるんだ?」
じゅえる「そこはそれこそ、「闇御前」に請求すべきだろ。」
まゆ子「……、ああ! そういう考え方はあるのか。物語中でも出しておこう。クワンパに言われて初めて気付いた、ってのに。
 証人大量確保で裁判できるようになった実質受益者である彩ルダムも、言われてびっくり。この巫女は頭がイイな、と改めて感心する、ということで。」
釈「すっごくまぬけだ……。」

***

 

まゆ子「というわけでだ、でそもそもがこの「闇御前」、なんで捕まったの? というところを考えてもらいたい。
 ちなみにこの事件の発端は、首都ルルント・タンガラムで勲章受賞の祝賀宴会でへとへとになったマキアリイとザイリナが、ベイスラに戻ってきて憂さ晴らしに始めた学校怪談の探索です。
 元は事件でもなんでもなかったものが、調べていく内にとんとんと巨悪に結びついていった、という代物です。」

じゅえる「ちょっとまて、いくらなんでもそんなアホな話は無いだろ。」
釈「そうですよ。そんなのは小学生向きのおもしろ小説でも無いような荒唐無稽な展開です。却下です。」
まゆ子「とはいうものの、そうなったんだから仕方ない。考えてくれ。」

釈「じゅえる先輩、これはーつまりー、丸投げというやつですか。」
じゅえる「いつもの手口だが、それにしても悪質だな。そんな無茶はよほどの作家でも考えつかんはずだ。助っ人を呼ぼう。」
釈「明美先輩ですか。でも、こういう話には向かないんじゃ。」
明美「いえもう来ちゃいました。」ドーン

 

明美「で、闇御前てどのくらい偉いんですか?」
じゅえる「そうだ、まずそこのところをなんとかしろ。全然設定がないぞ。」
釈「いやフィクサーですから、しかも闇御前と言われるくらいですから、……閣僚経験者ではない?」

まゆ子「あ、闇御前は政治家ではありません。で、50年くらい影響力を行使し続けています。」
じゅえる「ちょっとまて、何歳だそいつ。」
まゆ子「あー、そーだねー、考えてなかった。50年となれば、政治史の表舞台に登場して50年となれば、最初は30才くらいかな。
 たぶん80才くらい。」
釈「うひゃー。それは闇御前だ。」
じゅえる「ほとんど妖怪だな。」

明美「その50年間ずっと偉かったんですか?」
まゆ子「ああなるほど。なるほど、それはおかしいな。つまり、彼の前に政界を牛耳っていた存在を彼が駆逐して今の立ち位置に来れた、というわけだな。
 つまり政治における裏面の闘争というのがあったわけだ。
 そうだねー、彼が現在の地位に成れた。つまり絶対的権力者と成れたのはここ20年無い。10数年だ。
 マキアリイに逮捕されちゃってすでに実権を失って3年は経っているから、50ー3で47年間、つまり前30年は政界における有力人物ではあっても第一人者ではなかった。
 60才になるまでは、まだ何かが政界を支配していたんだ。」

じゅえる「そっちの方がよほど怖いさ。つまり、すでに十分に爺に成り果てた後に、ようやく実権を得たわけだな?」
まゆ子「そういうことになるね。今言われてそう感じて、びっくりしてる状況。」

釈「その前ってのは何者なのです。」
まゆ子「あ、そこはたぶん明確だ。今回「夜のクワンパ」第3夜に出てくる話なんだけど、
 タンガラムの政界は、現在「第八民衆協和制」という政治体制なんだけど、60年前に「第七民衆協和制」が崩壊した後の発足したものだ。
 闇御前の前に勢力を持っていた人物は、たぶん第七協和制の生き残り。旧体制のしがらみを色濃く受け継いだ存在だ。
 まあよくある話ですが、新しい政治体制が発足した時に、前政権の暗部の汚い仕事を引き受けていた部署は解体される事になるんだけど、だがそれは表向きで実態はひそかに次の政権の裏の実効組織に移管されるんだ。
 ここを牛耳っている人物だね。」

じゅえる「なるほど。じゃあめちゃくちゃ悪いやつではないか。」
釈「となると、その対抗馬であった闇御前は、むしろ正義?の側?」
まゆ子「ふーむ、或る意味ではそうだったのかもしれない。いや、だからこそ旧体制の遺物を打倒し得た。故に現在の繁栄を見る、という仕組みだな。」

明美「闇御前はすごく悪い方がいいです。」
まゆ子「違いない。このシナリオは一時棚上げして、20年前に第一人者となった時はすでに全くの悪の権化であった、という事にする。」
じゅえる「といっても、どの程度の悪か。というか、政界における超悪ってのはどういうのだ。」
釈「まあ、国家の裏切り者というか外国勢力と通じて国家転覆とかをするのが最悪でしょう。でもそれだと、20年もあれば国はむちゃくちゃに。」
まゆ子「いや今現在はじゅうぶんに無茶苦茶ですよ。マキアリイさんの活躍によって政府の信頼はかぎりなく薄くなっていて、支持率も最低ラインです。」

明美「闇御前は人を簡単に殺す邪悪の化身です。」
釈「そりゃあそうですよね。マキアリイさんに刺客を何人も送りつけるんですから。」
まゆ子「ついでに言うと、テロ組織「ミラーゲン」の闇元帥でもあったわけですよ。殺しの達人ですわな。

 なるほど、そこでいくか。誰が死ぬかを自在に出来る、政治勢力のバランスを人殺しでなんとでも制御できる。そんな人間だ。」
じゅえる「いやいや、そんなの政府とか警察とか、軍隊とか黙っているんですかい。こちらも対抗してぶっ殺しましょうさ。」
まゆ子「ふむふむ。であれば、闇御前は政府系の暗殺組織か秘密警察関係の人間を自在に操れる立場にいる。そういう存在と言うことにせざるを得ない。」
じゅえる「ちょっと浅いな?」
釈「そうですねえ、あまりにも当たり前過ぎて面白みに欠けますねえ。」
明美「それは無しだよねえ。ほんとに普通に民間人なのに、政府・政治家が頭ペコペコ下げる。そういう絵が見たいですねえ。」
まゆ子「ふむう。そうだねえ、民間人の巨悪なフィクサーだよねえ。理想的なのは。」

 

じゅえる「となると経済を牛耳っている事になるんだが、」
釈「見逃されがちですが、政治・経済・軍事 と三権力が有るのですよ。軍事力という側面も無視できないですよ。」
まゆ子「軍事力かあ、ふーむ。
 軍事ということであれば、心当たりが無いではない。

 タンガラム国内においては、じつのところ平穏無事で皆さん太平の夢に酔っているのですが、国外は違うのだ。
 タンガラム、ゥアム帝国、シンドラ連合王国、そしてバシャラタン法国。今のところ見つかっている方台つまり大陸ねは無いのですが、それ以外の小さな島はいろんなところに散在するのです。
 これをどこが領有するか、という問題は現在棚上げになっている。というか、これ以外の有人方台が未発見ながらも存在するのは確実であり、海中の島をどこが領有するかは全部が分かってみなければ決めようが無いのだ。
 不思議なことだけど、そういう風に皆思っているし、多分それは正しい。この4国に属さないどこから来たか分からない人間、というのも確実に存在するのだ。

 だが資源利用に関しては別。領有しないことになっていても、事実上の専有は出来る。どこの国もツバを付けてない島を見つけたら利用し放題なんだな。
 であるからして、バシャラタン以外の国は血眼になって海の地図を作るのに必死になっている。そして時には戦争にもなっている。
 だがこれは、国民には知らされない隠された戦争なのだ。まああまり大規模な戦争ではないけれど、小部隊同士の小競り合いに過ぎないけれど、熾烈な戦争なのだ。

 で、この海島争奪戦は政治家はもちろん承知しているのだが、議会で戦争遂行の議決が行われた事はない。
 軍部も、陸海の二軍・巡邏軍に合わせて、海外派遣軍というのが常設される事となっているのだが、海外派遣軍の運用に関しては謎なのだ。
 というか、軍部の参謀本部の指示を受けての行動ではない。海外であるから連絡も難しく、また行動を他国に知られないように隠密行動が基本であるから、非常に秘密が深いのだ。
 ではどこがこの戦争みたいな行為の指揮をしているか。答えは「無い」です。
 外務省やら経済省やら国土省やらとかの合同で行われており、権限もそれらの省庁が握っており、その依頼に基いて海外派遣軍が動いている。という形なのです表向きは。
 言うなれば単なる行政処理として、執行機関としての海外派遣軍が動いている。だからこれは戦争ではない。

 もちろんそんなイカサマが通じるわけがなく、実質的な中枢司令本部が存在する。これが、闇御前の組織なのだ。
 もちろんこんなものであるから軍事予算も大量に注ぎ込むわけにはいかないし、軍事予算もわずかにしか支出されていない。にも関わらず潤沢な資金を得て戦争行為を継続できる。
 この資金供給を行っているのですね、闇御前は。」

じゅえる「おう。そりゃあ大物だ。」
釈「十分に大物ですね。それで民間人ですか。」
まゆ子「表向きはただの民間人の事業者なのだが、まあ公然の秘密なんだな。誰もがアレは凄く権力を握っている人だと知る。」
じゅえる「たしか、今度マキアリイさんと会う「義眼大尉」も、その海外遠征で空戦中に目を負傷したんだったね。」
釈「そうでした。その流れから、壊滅した「未ラーゲン」の司令官になるんです。後の方で。」

じゅえる「なんだ、最初から出来てるじゃないか。」
まゆ子「びっくりするなよ、この「闇御前」が海外派遣軍と繋がっている、てのはほんとうに今!考えた。」
釈「いつものことです。」

 

明美「美爺、というのはやおい業界的にはアリなのかな? 無しかな?」
じゅえる「いやーそれはー、80才で年齢相応に老けた人物で萌えるのはちと無理ではないだろうか。やはり相応に若く美化しないと。」
明美「ダメかな?」
まゆ子「うーむ、年齢にもかかわらず凄く若い、てのはダメなんだろ?」
釈「ほんとうに老けていながら、萌える容貌の80才の老人、ですか。さすがにそれは魔法を使っても無理ではないかと。」
まゆ子「言わんとするところは分からないでもない。つまりビジュアル的に立つ悪役「闇御前」がほしいわけだな。」
明美「あたしが、じゃないよ。まゆちゃんが必要なんでしょ。」
まゆ子「あ、あー、うん。そうだな、闇御前がどんな顔しているか、どんな人相風体かは考えてなかったなそういや。」

じゅえる「つまり、必要なものを忘れてたわけだ。普通の爺が出るだけでは困るよなそりゃ。」
釈「ちょっと盲点でしたねそれは。確かにビジュアル的に特筆すべき人物には違いありません。」
まゆ子「禿?」
じゅえる「ふむ、モヒカンはどうだろう?」
釈「あー、それはー。」
明美「髪は白だよねえ。80才なら。」
まゆ子「うん、白髪モヒカンでも悪くはない。いや、モヒカンだけでなく後ろ髪が物凄く長いという感じで、とにかく特徴的な。」
釈「怪しい博士風に黒メガネでも掛けますか。盲目でもいいですよ。」
じゅえる「目がぎょろっと飛び出している。」
まゆ子「あ、おおそれだ。「げばると処女」に出てきた設定だと、普通の人は美しさの基準はまあ地球と同じなんだけど、特別にカエルっぽい人に妖しい美しさを認めるのだ。
 闇御前はカエルのような容貌で、人々はあまりにも怪奇な姿に思わず思考が停止してしまうんだ。」
じゅえる「なるほど、タンガラム基準での美爺か。アリだな。」
釈「若い頃は特別にモテた、というやつですね。」

明美「服装はどうしよう。頭が白髪で長髪ならば、赤い服の上下とかかっこいいよ。」
釈「そういえば、昔の日本では、というか明治時代の網走刑務所とかは赤い囚人服を着せられていたとか。」
じゅえる「赤い囚人服、いいねそれ。」
まゆ子「ふむふむ、裁判中であるのだから、服装も私服ではない方がよしとするか。まあそれくらいの金持ちになると、私服アリではないかなとか思わないでもないが。」
じゅえる「囚人服だ。決定。」

***

 

まゆ子「そこで、えーと、何処まで話したっけ。」
釈「かなり紆余曲折しましたが、闇御前は軍海外派遣部隊を牛耳る民間組織の実力者であり、テロ組織「ミラーゲン」の元帥、というところまでです。
 活動期間は長いけれど、完全に第一人者となったのはこの20年。それまでに政界を牛耳っていた勢力を駆逐しました。」
じゅえる「その駆逐された方、というのが60年前に潰えた「第七民衆協和制」の残党であり、現政権の暗部を担っていた存在。
 しかし流石に50年も経てば魔力も消えて、現実的に今の陰謀である闇御前が全権を掌握した、事になっている。」

まゆ子「ふむ。第七民衆協和制の秘密治安機関の謀略ね。これをマキアリイさんは60年の時を越えて暴きます。
 ですが、それ以前に、10年前の「潜水艦事件」この黒幕も、闇御前であったわけですよ。なにせ海外と直接に関係のある話ですから。」
じゅえる「そうだな。闇御前が完全にフリーハンドになって行っていた大陰謀が「潜水艦事件」なわけだ。」
釈「最初からマキアリイさんは闇御前と対決する運命だったんですね。」

明美「報復されなかったの?潜水艦事件で。」
まゆ子「あー、まあ。ぬけぬけと黒幕は逃げおおせて、事件の最も重要な部分は責任者を自殺でごまかして、公的な刑事事件の捜査はお終いとなっています。
 まあこれからの裁判で「潜水艦事件」もこいつの仕業だったと暴露が来るわけですが、これはたぶん「第5巻この女、ヒロイン」での話になるでしょう。」
釈「で、それで報復は?」
まゆ子「そんなけちくさい小悪党ではないのです。若き英雄誕生で今の政権が大喜びしているんだから、飴玉としてしゃぶらせておいてやろう。どうせ核心部分には到達しないのだから。
 英雄ヒィキタイタンとマキアリイも、所詮はただの若者になにが出来るはずもない。報復なんて話はどこからも出て来ないのだ。

 まあとにかくだ。闇御前勢力は対外政策に従って暗躍している組織であり、昨今タンガラムで増加している外国人犯罪組織とも繋がりが深い。
 一方20年前に駆逐された方の実力者は内政で国内治安を秘密警察組織を使って維持しようという連中。外国人犯罪組織に関しても厳しい処分をしていたのは間違いないだろう。」

じゅえる「なるほどね。つまりは外国人組織を国内でいいように利用しようと考える闇御前一派にとって、旧治安警察勢力は邪魔であるから暗闘の末に葬り去ったわけだ。」
釈「その結果として、タンガラム国内の治安は乱れ、テロ組織「ミラーゲン」が跳梁し、英雄探偵大活躍というお話です。」
まゆ子「なぜ旧治安警察勢力が衰退したかといえば、まあ昔の人間が死んでしまったからです。第七時代に結成された秘密警察の人材が老朽化で引退せざるを得なかった。
 その長である実力者も老衰で死ぬ。組織の人材の若返りは、それは表の治安維持機構がちゃんと有る中では思うように増やせない。」
じゅえる「表にも秘密警察機構は有るんだ?」
まゆ子「マキアリイさんが遭遇する政府工作員がソレです。秘密だけれど合法的存在。対して旧組織の人間は存在自体が非合法、ただし活動目的は政府機関の維持秩序保全である。」

明美「難しくてわからないけれど、旧組織の人間はいい人なの?」
じゅえる「いやそれは、旧ソ連の締め付けるような保安体制が懐かしい人が今も居る、って話だろう。20年前まではタンガラムの治安は良かったのか?」
まゆ子「えーと、つまりは第七体制が崩壊する前後はタンガラム経済も大混乱に陥っております。ただこれは、経済体制の進化に社会制度が適応できなかったという側面も大きい。

 第七体制の時期には、というか
   第六体制というのがゥアム帝国との「砂糖戦争」を戦った政治体制であり、これが戦後軍部の影響力が大きくなり過ぎて、それに対抗する為に政府側も独裁を強めて崩壊。

 第七体制は軍備拡張を行うにもまずは工業力の増強を図らねばならないと、全土に工業化を推進していった政権です。鉄道線路をいっぱい敷きました。
 ここで地方農村部と都市工業部との格差問題が発生し、また資本による政治への干渉が大きくなり癒着して腐敗堕落する事となります。つまり経済偏重主義ですね。
 で腐敗撲滅運動が民間から盛り上がったのを、秘密警察機構で弾圧する羽目に陥り、最後は倒されて第八体制に移行します。第七体制の存続期間は40年くらいです。」
じゅえる「だめじゃん、第七」
釈「ダメですねまったく。」
まゆ子「いやまあ、ダメなんだけどね。

 その反省から第八体制は民衆主義の影響が強いものとなっています。開発独裁体制から脱却して民衆による統治を実現するもの、という建前です。これは揺るがない。
 だが反作用は有って、とにかく政治が落ち着かない。選挙結果で政権がコロコロ変わって政策の一貫性を取るのが難しい。政党政治のマイナス面のドツボにハマっています。
 おまけに腐敗が無くなったわけでもないし、まあダメです。」

釈「うまくいかないものですねえ。」
じゅえる「経済はどうなんだよ。物語中では随分と進化していると思えるのだが。」

まゆ子「基本的に『罰市偵』の世界は、日本の1950年代を下敷きに構成してあります。まあ逸脱する部分も多いのですが。
 で第八体制における経済政策ですが、基本は第七の工業化重視策を踏襲しています。だがそのままではない。
 経済的に異なる状況が確実に発生しているのです。まずは技術的には、内燃機関の進化によるモータリゼーションの萌芽。自動車が大々的に使われるようになりました。
 飛行機の発明と利用も特徴的です。第七体制ではせいぜい気球しか実用化していなかったものが、ちゃんと飛べるようになりました。
 まあ飛行船は作れるけれど原動力が蒸気では搭載できなかったですね。やっぱり内燃機関でないと。

 そして真空管デバイスによる電子機器の登場。この最先端がテレビ放送技術です。また前時代の電信技術から、音声や映像を伝える情報化社会に突入しています。
 遠隔通信での情報量の増大は当然に経済体制を変えます。金融や証券・債券市場は劇的に進化して、今や金こそがタンガラムの原動力とさえ言われています。
 逆に言うと、第七体制まではまだまだ農業を基本とする社会だったわけです。

 電子機器は発達したわけですが、対外戦争が発生していませんから発達はゆったりとしたものです。特にコンピュータ。」
釈「コンピュータは第二次世界大戦の需要の中から生まれたようなものですからね。でもテレビが有るのに、発達しませんか?」
まゆ子「こう言っちゃなんだけど、真空管は良くない。電子計算機を組み立てたはいいが、あまりにも凄まじい電力消費量と真空管の寿命の短さと、なにより大規模過ぎるシステムとで音をあげました。
 というか、この分野はぶっちぎりでゥアム帝国が進んでいるのであり、ほとんどすべてゥアムで開発された技術の丸パクリです。真空管の品質も国産はよろしくない。
 ただ、すでに真空管ではダメだということが分かっていて、トランジスタとか磁気素子とかで電子機器を作り始めています。」
じゅえる「トランジスタ、もう有るんだ。」
まゆ子「まあ、あります。というか鉱石ラジオは1200年前からありますから、半導体に関しては結構関心を持たれていて、他の電子機器の発展でようやく実用化にこぎつけた具合です。」
釈「鉱石ラジオというか塹壕ラジオは弥生ちゃんキャプテンが作ってますからね。」

まゆ子「そして直面するエネルギー問題。工業化が進展した結果、従来通りの薪炭燃料の供給が行き詰まって、北方針葉樹林帯を伐りまくってなんとか賄っていますが、省エネが大命題になってます。
 海外の孤立島を血眼担って探すのも、エネルギー源を見つけるための必死な努力なのです。蛍光灯使用も罰則を使ってまで奨励しています。」

***

 

まゆ子「とまあそういうわけで、軍用の電子機器も大して発展していません。無線電話機は随分と進化しましたが、誘導兵器はまったく無い。
 真空管にそれほどの進歩も無いからVT信管なんて考えない。というか、戦闘機はまだまだ時速300キロメートル台です。マキアリイが操縦できる偵察機では200キロも出ない。
 対空戦闘も片手間で、VT信管が必要だとはまったく気付きません。どこの国も。
 とはいうものの、対空砲は開発されています。普通のカノン砲を上に向けて。
 2メートルくらいの長い筒を地面に埋めて、ぽんと500メートルくらいにまで打ち上げると落下傘付き爆弾が空中に留まって導火線で爆発するという、花火みたいに簡単なものも実用化されています。
 複葉機相手だとこれで十分だったりします。というかこの砲は簡易大口径迫撃砲としても使うことが出来て、陸上戦闘でも大人気です。

 ちなみにこの惑星は大気薄いから、プロペラでは8000メートルより上は飛べません。というか実用上昇限度は5000メートルです。通常は3000メートル以下で飛んでいます。
 プロペラレシプロ戦闘機の開発は進んでいるのですが、高高度飛行能力を考えると噴進式(ジェット)エンジンを使わなくちゃ無理だと考えられています。
 で、開発中なのですが、エンジン排気の高熱に耐える材料で進歩がなかなか進みません。
 というわけで、レシプロエンジンでジェットエンジンのコンプレッサーを回転させる複合方式が今一番HOTな飛行機技術です。

 で、ハイテク兵器といえば、魚雷くらいですね。さすがに真空管デバイスを入れるだけの大きさ重量がありますから、ちゃんとアクティブソナーで追尾できます。
 あと、レーダーはありますが、そもそもが外国勢力の航空攻撃なんか考える必要もありません。陸上では皆無、外国派遣軍が使用する艦艇には搭載されています。
 ロケット弾はありますが、ミサイルはありません。というか、ミサイルの射程距離で到達するようなところに敵が居ません。
 遠隔地を攻撃したければ普通に爆撃機を使います。だが大型飛行機の滑走距離はエンジンの性能の未発達からものすごく長くなります。だから大型爆撃機は飛行艇を使っています。
 現在主たる戦場となるのは海外の洋上ですから、それが一番最適な兵器なのです。

 艦艇に関しては、装甲艦艇は製造可能です。しかし重くなればその分燃料消費量も多くなる。石油重油はありませんから、薪炭で動く蒸気船です。蒸気タービン船。
 だから通常は遠洋航海をするのは帆船です機帆船。骨組みは鉄骨でも船体も木製であったりします。
 さすがに戦闘艦は鋼鉄製ですが、これは延焼を防ぐためというのが主な理由で装甲厚は無いも同然の代物。十分な装甲を持った艦艇は本国沿岸だけで使用されています。

 で海の最終兵器は魚雷。砲よりも魚雷攻撃を防ぐのが最重要な問題となっており、海中に金網を張って離れた場所で爆発させる。金網をぶら下げた小型艦艇を随伴させる、などの対策を取っています。
 しかし、飛行機の発達により空から魚雷攻撃をするというとんでもない脅威も発生しており、戦闘機による空中防御が今現在最もHOTな課題なのです。
 だから、「義眼大尉」は戦傷を負った。

 さらに、潜水艦の発達です。これまでは長距離遠洋航海が可能な潜水艦は無いと考えられてきましたが、「潜水艦事件」により長距離潜水艦が現実に存在することが暴露されてしまいました。
 また潜水艦母艦が運んだ小型潜水艦が短距離で活動する、というのもあります。タンガラム海軍の運用はこれで、海外派遣もこのタイプが出動しています。
 潜水艦は当然に魚雷攻撃をしてくるのですが、これに対抗する為にタンガラム沿岸を護る「重装甲砲艦」てのがあります。しかし鋼鉄装甲で魚雷を防ぐとなると、建造費で国が潰れるほどになります。
 だから、強度は十分に高いけれど建造費の安い、コンクリ製の船です。質量で防御します。重いけれど、もちろん軍艦だからちゃんと高速で航行できます。ここらへんはエンジンの問題。ただ、あまり遠くには行けない仕様。

 潜水艦対策としては、この重装甲艦を用いるか、水上飛行機による索敵を密に行うか、二通りの考え方がありましたが、「潜水艦事件」を経て今は後者に重点が置かれています。
 ちなみにこの重装甲艦の主砲は口径20センチで射程距離は15キロ程度。鉄骨木造機帆船軍艦なら一撃で沈没するくらいの威力はあります。対して装甲防御力に関しては同径砲で撃たれても船体主要部無傷です。」

 

じゅえる「戦艦・巡洋艦・駆逐艦・魚雷艇・その他って区分はどうなってる。」
まゆ子「あーまず戦艦はありません。巡洋艦はありますがさほど装甲の厚いものではありません。駆逐艦はこの世界では沿岸のみで働く船で、遠洋では軽巡洋艦がその役を担います。」
じゅえる「そりゃそうだ。巡洋能力が無いと付いてけないからな。」

まゆ子「そして随伴の木造機帆船が偵察艦として存在します。戦闘任務も出来なくはないが、装甲能力が無いから普通は戦いません。というか、大型機関銃で殺られるんですよこのタイプは。」
釈「はあ、まあ木造船ですからね。軽巡洋艦や駆逐艦は大丈夫なんですか、そこ。」
まゆ子「さすがに砲弾ではなく銃弾でやられる戦闘艦は無い。

 そして艦隊には木造の大型補給艦が付いてくる。場合によってはこれも或る程度の装甲板が付いています。今タンガラム海軍ではこの種の船も鋼鉄船に更新している真っ最中。
 で、この大型補給艦を母体として水上機母艦や潜水艇母艦、水雷艇母艦が整備されています。これは鋼鉄船ね、新しい船だから。
 陸戦隊母艦というものもある。陸上での戦闘任務を行う兵員を移動させる船で、戦車や輸送車両を積んでいる。揚陸艇はあるが、揚陸艦は無い。」

釈「駆逐艦は無くて、水雷艇は付いてくるんですか。巡洋艦隊に。」
まゆ子「水雷艇4隻くらいを母艦の上に載せてくるからね。水雷艇は蒸気タービンではなく内燃機関で進む。搭載燃料が少ないからそんな遠くまで行けない。」
じゅえる「石油が無いってのは面倒なもんだな。」

まゆ子「で、戦艦は無いが沿岸専用の重装甲砲艦は有る。大砲で撃ち合って最前線で戦う船だから戦艦と呼んでもいいのだが、どうしても速度が遅いし遠洋には出ていかれないから、主力とは見做されていない。別名「無敵艦」」
じゅえる「戦艦でいいじゃないかよ、それ。」
まゆ子「沿岸での防衛戦闘においては、主力は駆逐艦なんだよ。内燃機関装備で高速で敵を翻弄するんだ。
 敵の標的とする陸上港湾施設を重装甲砲艦でカバーして、周囲を駆逐艦隊が走り回って雷撃で沈める。これが沿岸防御戦闘の構想なのだ。」
釈「最前線で戦わないんですね、結局は。」

まゆ子「新しい戦術だと、敵潜水艦が長駆侵入してくる事を警戒して、駆逐艦ではなく水上偵察機部隊による密度の濃い長距離索敵を主として、駆逐艦隊の包囲の輪に追い込んで砲雷撃で撃滅する。
 もしも重装甲大火力の艦艇であれば水上機もしくは潜水艇による雷撃で仕留める。という航空機を縦横に使った作戦を用いる事となる。」
じゅえる「重装甲砲艦って要らないんだな、ほんとうに。」
釈「エンジンがですね。もっと燃料がですね、薪炭でなく重油なら。」
じゅえる「石炭すら無いからな。内燃機関たって、魚油で動いてるし。」

まゆ子「実は重装甲砲艦をさらに巨大化して海外に派遣しようという、巨艦計画が存在したのだ。
 とにかくコンクリートを使うことで装甲力は確保できた。あとはエンジンの問題で、更に言うと燃料搭載量の問題だ。
 であれば船の容積を大きくして、大量の燃料を積めばいいじゃないか、という発想になる。事実それは正しいのだが、計算するととんでもない金額の燃料費が掛かる事になる。
 完全鋼鉄装甲の大型艦に比べれば安いが、建造費もべらぼうだ。
 さすがにこんなものは作れないので、計画倒れで終わっていたんだが、巨砲巨艦にこだわる人種は居るもので、ずっとくすぶり続けて来たわけだ。

 で、「潜水艦事件」によって一気に流れが潜水艦と航空機に進み始めて、この路線は消滅する。のだが、
 しかし巨艦計画再びを狙っての騒動が、「潜水艦事件十周年記念式典」で発生して、主役であるヒィキタイタンとマキアリイ+クワンパ大活躍となるわけだ。」

 

まゆ子「あと、護衛艦というのがある。これは、艦隊に随伴する偵察艦とほとんど装備が同じ船で、機帆船。目的が商船や客船の護衛というだけ。
 といっても地球の機帆船時代の軍艦と違って、舷側に砲をずらりと並べたりはしません。機関砲搭載です。回転砲塔装備です。魚雷発射管搭載です。」
釈「魚雷積んでたら、たしかに手は出せませんねよっぽどの大戦艦でないと。」

まゆ子「護衛艦は単艦、または同型数隻で調査艦隊というのを作って運用されている。つまりは未発見の島を探す隊ね。
 中には気球を搭載していて、高空から無線電波で長距離通信をする機能を持つ船もある。帆船であるから燃料補給の必要が少なく長距離航海できるから、調査任務も捗るわけさ。」
じゅえる「電波通信ができるのはいいけれど、でも味方がすぐに応援してくれるとかは無いんだろ。」
まゆ子「心配ご無用。この現代社会では、ちゃんと飛行艇が飛んできてくれます。だから1千キロくらいの距離孤立していても大丈夫なのだ。」
じゅえる「そうか。それなりに近代化してるんだな。」

まゆ子「すでに「勲章事件」で出てきた、「空中の飛行船を中継しての大陸間電波通信」てのも、本来の目的はこの調査艦隊との連絡を密に取る事にあるのです。当然に軍用なのだ。

 ついでに、
 海外派遣艦隊旗艦は戦艦ではありません、巡洋艦です。戦艦が無いんだから当然。この種の船は指揮通信能力を強化していて、「指揮艦」「司令艦」と呼ばれます。
 かっては最大の火力で武装しており最前線で戦うこともあったんだけど、魚雷の普及でちょっと割が合わなくなって後ろに引っ込んでいる事になります。
 強力な砲を積んでいる古いタイプの司令艦もありますから、これは「司令砲艦」と呼ばれたりもします。
 とにかく装甲無しで大火力をぶつけ合うなんてのは不可能、無理。現在の司令艦は砲を少なくした代わりに装甲をちょこっとだけ厚くした船です。」

釈「ほんとに砲は無いんですか?」
まゆ子「いや有るんだけどね。回転砲塔でなく舷側砲で20センチ砲を搭載しているよ。10センチ砲も、機関砲も機銃も対空砲も。
 でも魚雷発射管を積んでるから、大型艦を確実に殺せるのだ。航続距離も10キロと長いし。
 艦砲は、むしろ魚雷艇が接近してくるのを防ぐ為の装備だよ。」

釈「口径メートル単位なんですか。」
まゆ子「いやそりゃ便宜上でほんとうは、指幅(15ミリ)が銃の口径の基準なんだが、砲の場合は普通に杖(705ミリ=47指)基準だったりする。
 10センチ砲は7指砲だな、105ミリ。20センチ砲は13指だな、195ミリ。」

***

 

じゅえる「まあ海の装備はそのくらいにしておこう。」
まゆ子「これから海軍関係の話がガンガン出ますから。一応予備的に設定しておきました。」

釈「戦車は?」
まゆ子「戦車は内燃機関の発達した現代、第八体制になってからの新兵器です。まあ海外派遣をするに当って、強力な陸戦兵器も必要とされていますが、なにせエンジンが弱い。
 地球で言えば第二次世界大戦の軽戦車くらいが主力です。
 この世界では、特にタンガラムでは第一次世界大戦のような塹壕戦は経験していないので、塹壕を乗り越えるという風には戦車は発生していません。」

じゅえる「大口径砲ってのは出来てないのか?」
まゆ子「あー、列車砲というかたちでの10センチ級大口径砲運用はあります。また要塞砲として沿岸防備に30センチ級の大型砲は存在します。
 しかしながらタンガラムにおいては、口径7センチくらいの軽量山砲を使い回すのが陸軍の想定する戦闘ですね。7センチ砲でも砲口から大型弾体を挿入する直径20センチ砲弾てのが使えますから。遠くまでは飛ばないけど。」
釈「スピガットモーターですね、それは。」
まゆ子「小銃擲弾大好きなタンガラム軍が、大砲にも同じものを使わないわけが無いのだ。」

釈「70ミリ砲は、4と3分の2指砲ですか。」
まゆ子「いやそこは、10分の1杖砲だよ。十分砲と呼ばれています。」
じゅえる「じゃあ10センチ7指砲は、七分砲じゃないか。」
釈「いやそれは100.7ミリで105ミリでないからダメですよ。じゅえる先輩。」
じゅえる「めんどくさいな。」

釈「陸軍は野砲で10センチ以上の砲は持ち出さないんですか。」
まゆ子「ありますけどね。口径10センチの長砲身カノン砲もちゃんとありますよ。ただ重量がめちゃくちゃ重くて、というか普通に重いから専用トラクターで引っ張っていくような代物です。
 拠点防衛や要塞攻略なんかでの使用を主と考えていて、機動戦と呼ばれる野戦では重視しません。」
じゅえる「それでいいのか?」
まゆ子「地球の常識からいうと???ですが、この世界飛行機が出来てから意外と時間が経っているのです。複葉機時代がかなり長い。
 だから、砲を持ってくるより複葉機で爆撃しようと考えたりするんですね。高度1000メートルから10キログラムの爆弾を幾つも落とせば、砲による攻撃より凄いじゃん。という理屈です。」
じゅえる「対空砲の方が必要なのか。上に出てきた対空花火砲。」
釈「そうですね。意外とやりにくい戦場ですね。」

まゆ子「実はこれは、海外派遣部隊の戦訓から来ているわけで、彼らは10センチ砲なんて持ってないんですよ。上陸させる事は出来ない。
 持っていけるのは軽量の十分砲と機関銃と小銃擲弾。そんな装備で戦っています。
 だから航空機による支援爆撃は非常にありがたいものと理解しているし、成果も十分に上げている。
 タンガラム国内での大規模な戦争はもう百年も起きていないから、ほんとうに戦っている海外派遣軍の知識に従っているわけです。」

じゅえる「でも国内で戦争が起きたら場合はそれじゃあ役立たないんだろ。」
まゆ子「陸地を運ぶのは大変だけど、運河を使って舟で砲を運ぶのは昔から大得意です。列車砲もその流れで出来てます。
 だから国内でもし戦争が起きた場合は、各地に配備されている10センチ砲が大量に集結するという算段。
 歩兵部隊による防御戦闘はその為の時間稼ぎだから、むしろ軽量砲による軽快な機動力が重視されるのです。」

釈「列車砲って重くありませんか。」
まゆ子「列車砲という言い方が違うのかも。むしろ鉄道砲と呼ぶべきで、鉄道貨車に露天で積まれた砲が運ばれてくるのです。」
釈「普通ですねそれは。」
まゆ子「問題は、タンガラムには簡易軌条という安物の鉄道線路があって、ここは重量物を運搬できない。
 この場合、砲を貨車から下ろして、線路用車輪を接続して砲単体でも牽引走行できるようにしてしまいます。貧乏故の悲しさです。」
じゅえる「列車砲でなく、大砲列車かよ。」
釈「かなり、不思議な光景ですね。」

じゅえる「道路を猪に引っ張らせればいいじゃないかよ。」
まゆ子「いやまあ、それは当たり前過ぎて普通にやるんですけどね、和猪を戦場に連れて行くのはなかなかに博打なんですよ、怖いんだよ。馬ほどおとなしくはないんだから。」
釈「和猪なのに、なごやかじゃない?」
まゆ子「普通なら大丈夫だけど、爆発とか発射音が充満する戦場ですよ。馬だって怖いんですよそういうところは。」
じゅえる「そうなんだ。まあ人間だって怖いしな。」
まゆ子「アニマルだって怖いんです。」

***

 

 

 

 2016/07/31

まゆ子「というわけで、第二巻「戦う日常」の第五話「LIVING DEAD殺人事件」を考えます。これはミステリーです。」

釈「やはり、これ出来ませんか。」
まゆ子「いやー、死んだはずの女が生きているのをマキアリイが発見する、という冒頭のシーンはいいんだけど、そこからどうすればいいかが分からない。」
じゅえる「そりゃー替え玉殺人であれば、普通は生きてる方に利益が有るからな。
 当初考えていた戸籍だけを買い取って死んだことにして本人は生きている、てのはちょっとな。」
釈「替え玉をぶっ殺す方が簡単ですからね。なぜ死人を偽装しなければならないのか、合理的に考えつきませんよ。」

まゆ子「うん、つまりここで「女」が死んだことを公的に認めさせなければならないわけだ、替え玉殺人なら。
 しかし、替え玉の方にメリットが無いのに別の女が死んだ、というのがわけわからん。」
じゅえる「なんでそんなもの考えたんだよ。」
まゆ子「すまん。絵的にはちょっといいかなーと。」

 

釈「つまり、話は2つに分かれるわけですよ。死んだ女の方に価値があった。生きてる女の方に価値があった。」
じゅえる「どちらかを選択しないといけないが、まあ普通に考えると生きてる女の方に価値が有るよな。」
まゆ子「ところがだ、この事件は死んだ「女」の家族は全員納得する。疑うのは何年も前に離縁した義母だけだ。」
じゅえる「義母?」
まゆ子「うん。家族は遺体を確認して、その女に間違いないと証言するし病院の治療記録でも確認された。
 だが葬式に来た義母が遺体を見て「違う」と口走った、という証言を追い駆けてマキアリイが本人を発見する。というシナリオ。」

じゅえる「そりゃーあれだろ。幼い頃にとっくに入れ替えがされていたってことだろ。その義母が離縁されるのも女の入れ替えを隠すための工作だ。」
まゆ子「あ! なるほどー、……そうかー、生きてる方が価値が有るシナリオか。」
釈「であれば、展開は大きく膨らみます。まず入れ替えられる前の女はどうなったのか。生きてる女の身元は何なのか。何故家族は死んだと証言するのか。」

まゆ子「つまり家族は納得ずくでこの死を受け入れたわけだな。」
じゅえる「ちょっとまて、その前にその女どういう経緯で死んだのだ? そこ聞いてないぞ。」
まゆ子「ああ、そこね。

 この物語はとある殺人事件の裁判をめぐって始まります。男が恋人を惨殺した、その犯人の弁護を法論士が請け負ってその人の指示でマキアリイも動いています。
 で犠牲者の身元を再度洗っていたら、遠くイローエントで生存を確認!  という塩梅。この確認した時点が開巻冒頭になります。」

じゅえる「惨殺、かい。」
まゆ子「転落して顔面を打った所に上からレンガなり石なりを投げつけて、人相が分からないほどに痛めつけて殺しています。
 が、犯人の男は酒に酔って覚えていない、ただ隣で女が死んでいたという証言を繰り返すばかり。ただ状況から考えて他の犯人は見当たらないから、泥酔しての犯行という線で立件してます。」
釈「怪しいですね、すこぶるあやしいですね。犯人に仕立てられてますね。」

 

じゅえる「その後、殺された女の身元はわかったのか?」
まゆ子「そこをどうするべきか考えてるのですよ。あかんわからん。」
釈「じゅえる先輩の提起した、幼い頃に女がすり替えられていた路線を採用した場合、
 ……そうですねえ、「女」本人の身元を隠さねばならない特殊な状況がある、そしてまた現在再び存在をくらまさねばならない状況が発生した。そういう事になりますね。」

じゅえる「面倒だな、DNA鑑定は無いのか。」
まゆ子「まだ無い。」
じゅえる「入れ替えは可能、と。つまり今の時点で生きてる方の「女」は紅茶中毒のジャンキーになっているわけだろ。これでなにか算段が狂ったということで。」

釈「そうですねえ、でも「女」の家族ってお金持ちなんでしょ?」
まゆ子「金持ちには違いないが庶民レベルでしかない。そんなややこしいものが関与するほどの名家ではない。」
釈「では、入れ替えられたとすれば、もっと偉い家の子をこの家で匿っている、というシナリオですか。」
じゅえる「となると、「もっと偉い家の子」は、今現在の状況はどうなんだ? ひょっとして、殺された女というのがそれなのでは。」
釈「そうなると、義母の証言がおかしいですよ。義母が知っている女ではないんですから。」

まゆ子「すり替え説はダメかな。あくまでも紅茶ジャンキー女の身元を隠すために死体がでっち上げられたシナリオか。」
釈「幼少の頃から命を狙われ続けている女、ってことですか。」
じゅえる「では、その家の本当の子はすでに替え玉として殺されているとか。」
まゆ子「ふむ、そっちの方がまだ分かり易いが、あえて替え玉死体を用意するほどの身分となると、この民衆主義の世の中ではちょっと無いぞ。どこその王家みたいなもんだろ、そのシナリオは。」

釈「人の命を簡単に奪えるような権力、か。よっぽどの変質的な王室ですねそれは。」
じゅえる「ふむふむ、それは王室のような絶対的権勢を振るう閉鎖的な財閥、て線かな。」
まゆ子「財閥かー、やだなーそんな金田一ぽいのは。」

 

明美「話は聞きました。ここはわたしにお任せを!」
釈「せんせい!」

明美「ここは思いっきりロマンチックホラーで行きましょう。もう血みどろの邪悪で陰湿な感情の入り交じるおどろおどろしい。」
まゆ子「うう、金田一だ。」
明美「

 舞台はとある工業町、この町全体が工場であり、工場の支配者である社長こそが神という閉鎖的な世界です。
 そこに燦然と光り輝く王朝がありまして、専制的厳格な家長の下に家族までもが奴隷的に盲従する恐怖の館です。
 そこの娘か息子か知らないけれど、子供が居まして、プリンス・プリンセス的に扱われているのです。
 だがその家長が戯れに手を付けた女が妊娠して、一人の女の子が生まれました。相続上非常にめんどくさい話です。
 その女は既に別の男と結婚しており、認知されない代わりに大金をもらって口をつぐむ事となります。
 だが生きてるだけで厄介であるので、本来の相続人達がなきものにせんと

まゆ子「うう、だからこのラインは嫌なんだ。陳腐すぎて使えないんだよ。」
じゅえる「確かにこれは古いな。なんかもっと新しげな、」
釈「とはいうものの、タンガラムは日本の昭和30年代くらいの世界でしょ。まさに金田一大活躍ですよ。」
まゆ子「ううそうなんだ、それはそうなんだが、これは浅見光彦パクリであって金田一パクリじゃないんだ。」

明美「そんなに嫌なら別なのにします。

 女の子はヤクザの親分が女に生ませた子で、」
まゆ子「うう、それもいや。」
じゅえる「言わんとする事が分かるぞ。いやだな。」
明美「つまり裏に大きな権力が絡んでいるのが嫌?」
釈「そりゃ困りましたね。普通犯罪ですか。そんな替え玉とか出てきませんよそれじゃあ。」

まゆ子「……、男が、犯人の男が恋人を殺すために偽装工作をでっち上げた。名前と戸籍を買って、恋人の死体をその戸籍の女ということで事件化して、後に別人である事が分かるが既に火葬されて。

 いや、それはダメだな。家族の認識や病院の記録改ざんまでするだけの権力が無い。」
明美「じゃあもうめんどくさいからこれでいいや。

 女は実は双子でした。一人は里子に出されて互いに存在を知らずに生きてきました。
 或る日女、紅茶中毒患者の方ね、は男と知り合います。
 金持ちの御曹司ですが、まあごく普通の若い頃はやんちゃしてます系でダメ人間です。まあ期限付きでだいたいまともに働きますけどねこういうのは。
 別に結婚する気も無いし、てきとうに付き合っていたら、或る日自分にそっくりの女が現れます。そして自分に接触してきます。
 もし良かったその男譲ってください、と。もちろん財産目当ての結婚です。
 で、その女はかなり悪辣な奴で、男を誑し込む方策をいろいろ画策するわけです。あまりの露骨な悪さに女は戦慄します。
 いくら男がバカでも、こんな女の餌食にさせるわけにはいかない。
 で、或る日悪い女が男を泥酔させて悪巧みをしている現場に乗り込んで口論となり、喧嘩となって格闘の末悪い女の方を殺してしまうのです。
 恐ろしくなって逃げたら、新聞報道とかでは自分が死んだ事になっている。家族もさっさと火葬してしまった。
 で怖くなって遠くのイローエントに逃げて、罪悪感から鎮静効果のある紅茶の中毒患者となってしまいます。ちなみにお金は悪い女が溜め込んでいたものがそっくり使えました。
 しかし、或る日気付くのです。悪い女を殺したと思ってたのに、なにか手口が違う。顔面を潰して正体が分からないようにするまでは自分はやっていない。
 別の第三者、あるいは男がやったのか。とにかく恐ろしくて、おそろしく紅茶に逃げこむしかなかった。

 そこに英雄探偵マキアリイさんが推参するのです。」

 

じゅえる「なんだ。一番まともじゃないか。」
釈「双子殺人も陳腐といえばそうなんですが、どうですか?」

まゆ子「その事件、短いな。」
明美「短いでしょうね。こんなに簡単だから。」
まゆ子「10数章で収まるな、それ。」
釈「ですね。尺的には二巻五話という短編エピソードとして悪くないです。」
じゅえる「じゃあ、採用しよう。

 オチは、実は女同士の格闘となったところを男は見ていて、悪い女がやられた後で狸寝入りをやめて止めを刺していた。
 中毒女が生きている、という情報は適切な場面で暴露しようと考えたが、マキアリイに先に見つけられてしまった。

 ……オチないな?」
釈「あー、もう少し考えますか。」

まゆ子「ちなみにこの物語は、ベイスラの法廷とイローエントとの二元放送。しかもマキアリイと紅茶女がベイスラに戻ってくる鉄道の中でのシーンが続く事となる。
 今さっき決めた。」
じゅえる「では、列車に刺客でも送り込むか?」
まゆ子「うーん、そこまで行くと、普通犯罪ではないなあ。」

 

釈「男を出しましょう! 悪い女には悪いヒモが付いているんです。この金持ち男を強請るネタとしての悪い女の工作活動だったけど、シナリオが変わって直接悪い男が強請る事となります。
 で、殺人の実態を喋られては困るから、口封じに来る。」
まゆ子「            うーーーーーーーーん、まだ弱い。」
明美「耽美性に欠ける!」
じゅえる「悪い男というのが、いまいち立場上弱いな。もうちょっと、それこそ男がお金持ちの子息であるところに絡んで、工作的な。」

釈「分かりましたよ。じゃあこうします。悪い男はとっくの昔に、金持ち男の両親に強請に行っていて、悪い女を排除してやるからカネを出せ。とやっていた。
 ところがこの展開。金持ち男は警察に捕まってしまいます。
 そこで悪い男は、無罪になる証拠が有る。と言って親からカネを巻き上げ続けているのです。
 ちなみにこのシナリオだと、悪い女を殺したのは悪い男で、金持ち男自身は無実です。」

じゅえる「ふーむ、耽美性に欠けるねえ。」
明美「よほどの色男にでもしますかね、悪い男。」
まゆ子「だが家族が被害者を認識したりとか、医療記録が一致するとかは。」
釈「そこは、悪い男が家族の方にも話を付けていて、紅茶女が殺人者となるよりは殺人被害者の方が体裁がいいだろ。と持っていってるんですよ。
 医療記録にしても、悪い女自身の医療記録と差し替えればいい。そっくり双子なんだから簡単です。」

まゆ子「それ双子設定要るか? 普通にそっくりさんでいいんじゃないか。」
明美「双子の方が劇的じゃん。」
まゆ子「うんむ、屋上屋を重ねるて感じだが。」

じゅえる「そりゃこうしよう。
 マキアリイさんが列車で悪い男を捕まえる。そこで思いもかけない双子の話をして、紅茶女二度びっくり。妹を殺してしまったのだと深い後悔に絶望する。
 だが、マキアリイさんは、本当に悪い女妹を殺したのはこの男だ、と看破するわけだ。」

明美「相変わらず耽美が無い。しかたない、その悪い男は双子妹が貰われていった先の義理の兄貴ということにして、血の繋がりの無い兄妹の近親相姦とかにしますか。」
まゆ子「いや、そこまで出す必要は無いだろ。」
じゅえる「いやいやいや、紅茶女にやられて悶絶して兄貴にすがろうとする妹を愛憎からブチ殺す、これは十分に耽美だよ。」
釈「のわーるですねー。」

まゆ子「だが、そこで殺す理由が分からん。」
釈「妊娠してるから、というのはどうでしょう。俺以外の男の子を孕みやがった。という嫉妬で。」
明美「まだ耽美が足りない!」
釈「それでは、紅茶女と悪い女を見比べて、こんなに違うものかと絶望したとか。」

明美「うむうむ、実は悪い男は根っからの悪人ではなかったんですよ。
 だが義理の妹との近親相姦で人生がめちゃくちゃになりまして、悪の道を進むしか無くなった。
 ところが、もう片方の双子の姉はといえば極めて普通の女性であって、妹が特別に悪だという事に気がついた。
 もし紅茶女が養子で自分の所に来ていれば、こんな人生を歩む事はなかった。全部この女が悪いんだ。」

じゅえる「身勝手な話だな。だがそこがいい。」
釈「ワルは、そのくらい悪くないとダメですね。」
まゆ子「うんうん。ではここでフィクスします。明美様ごくろうさまでした。」

 

 

 2016/07/25

まゆ子「というわけで今日はシンドラについて考えます。
 シンドラとゥアム帝国の姿がそろそろ出現して、外国人が物語中に出現する頃合いです。」

釈「頃合いですかね。」
じゅえる「まずどこから始める?」
まゆ子「基本中の基本。外国人の名前です。タンガラムの人間とは隔絶して異なっていなければなりません。
 というかもう考えた。

 シンドラの人間の名前は、パシャヤーン、とかリョリューンとかの拗音が多くなります。またパヤパヤとかチャケチャケなどのように同じ音の重複があります。

 ゥアム帝国では漢字によく似たグェイ聖符というものを使っています。これはタンガラムのギィール神族が使っていたギィ聖符とほとんど同じものです。この音で名前も構成されます。
 で、カプッア・ツタ、とかケケル・ィタとかの短い音の繋がりが単語の発音であり、名前もそうなります。
 またカタ・ツネッタ・カ みたいに前から読んでも後ろから読んでも同じ回文みたいな韻を踏む習慣があります。」

じゅえる「ふむ。まあそのくらい変わってないとな。」
釈「バシャラタンの名前はどうしましょう。」
まゆ子「そうだなー、なんというか粘着系のべたべたって感じの名前がいいな。これは後で考えます。」

まゆ子「とまあそういうわけで、ゥアム神族はギィ聖符を使っておりギィール神族との類縁を推測されています。かっては同族であったのではないかという。
 ちなみにギィ聖符は1万字程度を持ちますが、グェイ聖符はそれに加えて「愚民文字」が別に存在します。
 簡単漢字というもので、千文字程度であらかたの意味を表す事ができます。もちろん筆画も少なく書き易い。
 ゥアム帝国では支配層のゥアム神族の地位は揺るぎませんが、さすがに近代化によって合理化が進み「愚民文字」による公文書の書記が許されるようになっています。」

釈「アルファベットは無いのですか。発音記号は。」
まゆ子「ありますよ。「愚民文字」というのは漢字の字素を3個程度組み合わせたものですが、字素一つ一つにはそれぞれの音が有り、発音のみを記述したければ字素のみを書きます。」
じゅえる「ま、むしろ合理的に出来ているわけだな。愚民文字。」
釈「でも愚民文字というのは嫌ですねえ。」
まゆ子「ゥアムの民衆は愚民と呼ばれると何故か喜ぶ習性があるのだ。仕方ない。」

まゆ子「シンドラの文字は一種類です。シンドラベッドですね。発音を記述するものです。名前はー、パロォーン。ルーンぽく発音してください。
 タンガラムのネズミ文字に相当するものがあって、そこからテュクラ符のように発展したものですが、さらに進化して文字を連ねて文章を作るのみならず、文字を重ねて一つの意味を表す記法があります。
 つまりは㌖  i みたいな文字があるのです。」

釈「めんどうですね。」
まゆ子「読みは誰でも分かりますし意味もわかりますが、書くのが若干面倒です。そしてこう書かれているものは名詞化されているからそのように扱います。
 人の名前もこういう感じで書くからなかなかやっかい。」
じゅえる「花押みたいなものか。まあ、習慣だからね。」

 

まゆ子「とまあそういうわけで、社会的地位の高い人ほどややこしい花押を持っています。
 シンドラは連合王国という事になっていますが、その実態は各地に居る太守達による合議制で政治が行われています。王様は基本形式的なもので、太守達による選挙で選ばれます。」
釈「選挙権は分かりますが、王様の被選挙権は?」
じゅえる「王様になり得る家系、というのが別にあるのか。」
まゆ子「あー、正統王家の血統が3個くらいあることにしてもいいけど、どうしよう。」
釈「なにか不思議の験があると、ファンタジーぽいですね。聖蟲がシンドラには1匹だけ存在するとして、それが飛んできたら王様になれるとか。」
じゅえる「うーん、もっと理不尽な義務というか契約というか、」

まゆ子「聖戴者の家系であることは間違いないとして、どうするかな。
 えーとたしかシンドラは、カブトムシの聖蟲に相当するコガネムシ聖蟲が居て、それがイソギンチャク悪蟲にとりつかれた三悪人により支配されて、爬虫類救世主達が幾人も戦いを挑みことごとく敗れて、最期弥生ちゃんにより退治されて秩序が回復されています。
 ちなみに「シンドラ」という国名は、弥生ちゃんが「シンド人もびっくり」と言ったことから始まっています。それ以前は「十六神星方臺」」

じゅえる「弥生ちゃんがシンドラを去った後は誰がその土地を治めたんだ?」
釈「そうですね、トカゲ神救世主はシンドラには居なくなったんですか?」
まゆ子「考えてない。」
じゅえる「今考えろ。」
まゆ子「へい。

 えー、つまり弥生ちゃんは無責任にシンドラの人民を放り出して別の方台に行ったわけではなく、後事を託すにふさわしい存在が居たからこそ任せたわけだ。
 で、イソギンチャク三悪人を倒したのは聖戴者ではなくヤクザ軍団、という事になっている。水滸伝みたいな世界だ。」
釈「水滸伝ですかーいいですねー。」
じゅえる「水滸伝って、最終的にはどうなるんだ? というか、山賊が革命に成功したらやはり新王朝建国じゃないだろうか?」
まゆ子「あー、そーだねー、少なくとも各地の太守はヤクザで活躍した英雄なんだろうねー。」
釈「あ、でも待ってください。イソギンチャク魔人が台頭する前はコガネムシ聖蟲を戴く聖戴者支配だったんですよね? それはどうなったんです。」

まゆ子「うん。イソギンチャクの聖蟲によって悪の波動に支配されていたコガネムシ武者は、弥生ちゃんによって解放されます。
 正気を取り戻すと本来の地位に復帰しようとするのですが、まあ民衆は三悪人の手先となっていたコガネムシ武者を許しませんね。ごく少数は悪から免れて解放運動を細々と続けていましたが。」

じゅえる「うーん、コガネムシ聖蟲の元締めというか王様というかは?」
まゆ子「なるほど、そりゃ居るわな。あーどーしよー。」
釈「とりあえず聖蟲としてのコガネムシがちゃんと居るのであれば、聖蟲を育てる組織は存在すると見做すべきですね。王家はちゃんとあります。」
まゆ子「そういう理屈になるなあ。」
じゅえる「悪の波動に冒されたコガネムシ武人によって王族は暗黒城に幽閉されていた、という事にすればいいさ。」
まゆ子「それいただき。」
釈「そうですね、三悪人をやっつけた後に暗黒城が開かれてコガネムシ聖蟲王が解放されるのです!

 

 て、ゲジゲジは?」
じゅえる「いやゲジゲジの聖蟲は来ていない事になっているぞ。というか、三悪人の一人の魔法博士によってシンドラには魔法科学文明が発生したのだ。
 という設定だったな?」
まゆ子「うん。言うなれば、ゲジゲジの代わりにイソギンチャクの聖蟲がコガネムシの後から来た事になるのだが、それは悪であった。悪の間違った文明であった。
 というか、その文明は魔法を原動力としなければ発動しないわけで、魔法の元はイソギンチャク聖蟲だ。無くなれば動かん。」
釈「じゃあ原始時代に逆戻りですか。」
まゆ子「いや新石器時代の文明からコガネムシ聖蟲の人によって金属器は作られる事になるのだが。うーんそうだなー、長く青銅器時代が続いて、しかも象が使えるから家畜が動力になって、かなりの高度な文明が作られていたんですよ。コガネムシ時代には。
 で、そのまま2千年も長続きして、世界はもう変わらないのだなと皆が思っていたところに、三悪人登場!
 いきなり鉄器製造を始めて、魔法の泥ゴーレム「ドローテ」を使って急速に文明を開花させた。悪の文明だ。」

釈「なるほど、悪人だけど実績は十分だったわけですね。」
まゆ子「まあ打倒されるべき存在ではあったけど、というか三悪人がシンドラを支配したのは50年にも満たない期間なのだ。で、この時期はシンドラではなく「ダマドリヲ悪勝国」という国名であった。悪玉トリオね。」
じゅえる「おいおい。」

釈「ではもうコガネムシ聖蟲の時代は終わっていたということですか。」
まゆ子「うん。」
じゅえる「じゃあこうすればどうだ。暗黒城を解放した弥生ちゃんにコガネムシ王は跪き涙を流して、この国をこれから治めるのは貴方様です、と王位を譲位する。禅譲だな。」
まゆ子「なるほど、すべての人が納得する結末だなそれ。」
釈「ヤクザ軍団も満足ですよそれ。」

まゆ子「こうしてシンドラ国王になった弥生ちゃんは、だが次の方台に行かねばならないのだ。というわけで、後を誰に託すべきかを考える。
 もちろん民主主義なんて無理。強い権力で守らなければ社会の安定は保てないのは常識である。民衆は未だに封建時代の学習を十分には行っていない。」
釈「コガネムシ聖蟲はどうなりましたか。」
じゅえる「ああ、居れば役に立つかもしれないな。」
まゆ子「なるほど、では弥生ちゃんに正式に譲位された式典で、すべてのコガネムシが天上に帰る事にしよう。一斉にキラキラと輝いて登って行くのだ。それでコガネムシ時代はおしまい。」
釈「絵的には綺麗ですが、政治的には辛いですね。」

 

まゆ子「えーそーだなー、

 コガネムシ聖蟲が居るという事は、巨大コガネムシ神も居るわけだ。これが天に帰る際に巨大な置き土産を置いていったのですね。
 黄金の黒ひげ危機一髪。」

釈「何に使うんです、それ。」
まゆ子「だから王様を選ぶ際に、剣を突っ込んで。」
じゅえる「なるほど、それは公正な王様選出だな。」
釈「でも太守の合議制の意味が無いじゃないですか。」
まゆ子「そうだなー、20才になったら太守の息子達が一生に一回だけ黒ひげ出来る掟になっていて、その時大当たりしたら選挙王は交代ということで。」
じゅえる「それは在任かなり短くないか、というか毎年飛んでないか?」
まゆ子「ああ、なるほど。じゃあ王様が死んだら儀式を行う?」
釈「そうですね、こうしましょう。毎年武術大会を行って、優勝した太守の子弟が一度だけ剣を突っ込む栄誉を得て、当たりが出たら王様交代。」
まゆ子「そんなもんかな。象徴的な王様だしな。」

じゅえる「つまり、太守の子弟であれば誰でも出られるということか。脳筋の方が強いというわけだな。」
まゆ子「うーんなるほど。ではこうしよう、黒ひげに突っ込む剣は魔法の剣であって20本しかない。
 参加者は20人しか選ばれず、それまでの選出過程には体力勝負は無くむしろ知性と教養を競うものである。
 そして剣はそれぞれ異なる姿形をしており、武術の上手な者には戦いにくいものが、そうでない者には普通の剣が割り当てられる。」
じゅえる「人が死ぬな?」
まゆ子「うーん、ダメかな?」
釈「嫌なら参加しなければいいのです。」
じゅえる「当然だな。まあ王様になったらなにか素晴らしい特典を用意しておこう。シンドラ中の美女を集めたハーレムとか。」
まゆ子「いやいやそこは、勝ち残った者には神の言葉が与えられるとかで。」

釈「一般民衆は参加できないのですか? というか、疑問は持たないのですか。」
じゅえる「どうしよう、そこまでシンドラの政治体制が進んでいないという事にするか。」
まゆ子「そだなー、つまりそれまでの選出過程において候補者本人のみでなくお供が2名まで許されて、その助けを借りて勝ち進んでいく。というのはどうだろう。
 このお供を民間人から選んでもよい。お供を選ぶ為の試験とか大会が各太守の領地で行われる。ということで。」
じゅえる「補助的な役割は許される、ってことか。まあその後そいつらは大臣になったりするんだろうな。

 

 太守って何人くらい居るの?」
まゆ子「百人くらいかな?」
釈「タンガラムと同じ程度の面積であれば、百万平方キロだから、一人1万平方キロくらいですか。」
まゆ子「北海道を除く日本の県と同じくらいか。狭いかな?」
じゅえる「いいんでないかい。大名の数は幕末で266人だそうだから、いいんでないかい1万平方キロ。」
まゆ子「じゃあシンドラ百人太守ということで。」

釈「ではだいたい王様を選ぶ大会には百人が出るというわけですね。」
まゆ子「だいたいどこの太守でも、というか太守が治める地域を「邦」と呼ぼう。どこの邦でも一人くらいは若い適齢者が居るだろう。」
じゅえる「20才限定?」
釈「前後5才くらいの幅は欲しいですね。」
まゆ子「じゃあ30才以下で20才成人した者に限るということで。もちろん参加料は出さないといけないそれも大金を。」
釈「優勝者は参加料独り占めでいいですね。おおむね百倍のお金が儲かりますよ。」
じゅえる「それだけでも有り難いな。」

釈「いえ、ちょっと待って下さい。優勝者にはカネが入るのはいいんですが、このシステムだと優勝者が黒ひげ失敗する可能性があります。
 何十年も王様が居ない状況もあり得ますね。」
まゆ子「ダメかな?」
釈「どうなんでしょう。実質的政治が太守の合議制であるのならばどうでもいいのかもしれませんが。」
じゅえる「王様が居ないと天変地異が起きる、ということにするか。シンドラは火山国ということだし、要石となる黄金の黒ひげをちゃんと機能させないと大災害になる。」
まゆ子「そんなものかな。
 で、弥生ちゃんはもらった黒ひげを一発で起動させる事に成功して、「以後シンドラの王になる者は、黒ひげの起動に成功しなければならない」と掟を作るのだ。」
釈「そこにトカゲ神救世主としての弥生ちゃんキャプテンが意味を持つわけですね。」

まゆ子「うーん、そうだな。弥生ちゃんが来る前に7人の爬虫類救世主が現れるわけだが、彼等を黒ひげを管理する者として任命しておこう。
 シンドラを統治はしないが、シンドラの心臓部に当たる黒ひげを護る聖なる存在として、高く尊ばれるのだ。」
釈「救世主も合議制ですか。まあ、そんなものでしょうね。」
じゅえる「つまり、空白位が続くとシンドラは大災害に見舞われるから、民衆は一刻も早い王様の選出を待ち望むわけですが、そう簡単ではない。てことだな。」
釈「ですね。政治的にもそれでいいんじゃないですかね。」

 

まゆ子「あー、少なくともこのくらいの権限が王様には有ってもいいと思う。
 太守が代替わりする時、後継者は王様の承認を得なければならない。」

じゅえる「一番もめるところだな。で、承認されなければどうなるのだ?」
まゆ子「王様が新しい太守を定めて就任させる。もちろん次なる太守は太守議会で合議制で決める。」
じゅえる「ふむ。揉めるなこれは。」
釈「まあお家騒動で血統がむちゃくちゃになった場合は承認しない例もあるでしょう。ですが、恣意的に認めないとかも有りですか?」
まゆ子「有り。つまり神の声というやつだ。王様が認めないのは神の声であり、誰も逆らえないのだ。というか、もし逆らったら次に大災害が起きるのはその邦という事になる。」

じゅえる「災害がどこで起きるか、が制御出来るわけか。」
釈「太守の徳によって、災害が起きるかどうかが決まる。ってわけですか。」
まゆ子「まあ、理不尽な決定も多いのです。誰が見ても立派な跡継ぎと思われた人が拒絶され、バカボンが後継者として認められるとか。」
釈「なにか法則性というものはありますかね?」
まゆ子「まあ普通に、王様選び祭りに出場機会がありながら出なかった者、とかはダメなんじゃないですかね。」
じゅえる「ああ、そりゃあーそうだ。」
釈「適齢期でありながら義務を果たさなかった。そういうことですか。じゃあ出場料が賄えなかったという理由で出ないのもダメですか。」
まゆ子「ダメだろうねえ。まあ弱小邦であれば運不運だ。」

じゅえる「当然王様は太守の一人として首都周辺領域くらいは領有できるよな。」
まゆ子「宮廷費というものもありますから、そのくらいは普通ですか。」
釈「議会というのは、民衆参加はナシですかね。この体制だと。」
まゆ子「宮廷会議、というやつで賢人を集めて法律を新しく作るとかは有りだろう。で、まとまった法案を王様が太守会議に掛けて修正やらして承認をもらって、全国規模で施行する。」
じゅえる「宮廷会議というものがあるとすれば、その参加者はどんな資格で。」
まゆ子「各国太守の推薦は当然として、大学とか実業界とかの成功者であるでしょう。やっぱ実績が無いと。」
じゅえる「政治家ではないんだな、こいつらは。」
まゆ子「どうしようかねー、宮廷会議の専門家という軍師が居てもいいかなー。
 いやそうだこうしよう。世の中には領地を治める太守以外にも、職業別だったり階層別だったりの有力者が居るんだ。ヤクザ軍団も有力者の一人だ。
 彼等の利益代表者として宮廷会議に議員を出すことが出来て、それを請け負う専門家は存在する。軍師ではなく政師だな。」
じゅえる「ふむふむ、一般民衆とは直接つながらないけれど、その程度かな。」
釈「民主的ではありませんが、効率的ではあるでしょうね。」

まゆ子「つまり、王様自体の機能よりも王様の下の宮廷会議の機能の方がとても大きいわけだ。もちろん司法機関とかの中立性を必要とされる政府組織も宮廷付属だ。
 軍隊はー。」
釈「軍隊もやっぱり国、ああ太守が実権を持っているんでしたね。太守がそれぞれに抱える軍隊がありますか。」
じゅえる「太守による連合軍、てのがシンドラの防衛力なんだな。もちろん王様軍もあるけれど親衛隊みたいなもので、実効戦力とはいえない。」
まゆ子「わかった。それは王府軍という名前で王様にのみ従う軍隊だ。
 警察治安機構は?」
じゅえる「それは当然各太守の手下がやってるんだろう。」
釈「でしょうね。FBIが必要ですよ。」
まゆ子「FBIか。なるほど、王府警察というのが存在する事にするか。邦をまたいだ犯罪を取り締まる為の中央警察だな。」

 

釈「まとめましょう。

 シンドラの国家機関は、神の試練で選ばれる王様と、各地の邦を支配する太守の連合とで構成される。
 神の試練は黄金の黒ひげであり、黒ひげを護る特別な爬虫類救世主の家系が存在する。
 王様を選ぶ試練は太守の家系の適齢者を挑戦資格とする。これは太守の義務であり、出場しなかった場合太守職の継承が不利になる可能性が高い。
 国家レベルの政策の大半は、各太守を議員とする太守会議によって合議され決定される。この際には邦の大小や邦力に関わらず平等対等の発言権を持つ。
 国家レベルの法律の制定や様々な政策は、王様の下にある宮廷会議によって議論され、成立した法案を王様が太守会議に提出して審議、制定され王様が発布する。
 宮廷会議の議員は各太守の推薦による賢人・実力者であるが、各種階層や産業別の有力者集団から派遣された「政師」と呼ばれる者が働く。
 王様の宮廷には、司法機関や全体的な警察機構など公的機関が付属する。
 軍隊は各国太守が供出する連合軍が主力である。王様自身が保有する軍勢は主に宮廷付属の公的機関を防衛する為にある。

じゅえる「民主的ではないなあ。」
まゆ子「タンガラムから流入した民衆主義思想は、シンドラでは有害思想として取り締まられていますよ。」
釈「やっぱり!」
まゆ子「まあ、昔と違って現在は、一般民衆であっても一定の人権は守られると国法で定まっていますけどね。程度の問題ですが。」

釈「進歩的な太守、というのも居るんでしょうか。」
まゆ子「もちろん。ただ太守という職は世襲でおおむね決まるから、限度はあるさ。王様も太守の家系のどれかだから。」
釈「やっぱり血統ですよねー。」

じゅえる「太守って、家系的にはどの程度まで遡れる? つまり伝統的に。」
まゆ子「あー、弥生ちゃんがイソギンチャク三悪人をやっつけた創始歴でいえば5000年代に大激変が有るわけですから、この頃にものすごくシャッフルされてます。戦国時代です。
 それ以前はコガネムシ武人の世界ですから、コガネムシ家系というのは当然にあります。
 あーそーだなー、コガネムシ家系はすべて野に下り太守などの重職は努めない事にしているのだな。自らの不甲斐なさの責任を取って。
 ただし家系的には各コガネムシ家系が血縁で強く結びついて、社会の一大勢力になっている。
 太守の家系というのは、だいたいコガネムシ家系と姻戚関係にある。本家筋ではないが娘だったり養子だったりで、まあおおむねどこの太守も多かれ少なかれそうなんだ。
 つまりはコガネムシ家系の傍系である場合が多い。もちろんまったくの一般人である特殊な太守も居るけれど。」

じゅえる「つまりは、元は民間人だけど代が重なるにつれてかっての支配者一族の血が入って貴族化している。ということだな。」
釈「そのくらいですかね。もっと凄いものが欲しいとは思いますが。」
じゅえる「イソギンチャク一族、とか居てもいいな。」
まゆ子「あー、闇の一族ねえ。泥のゴーレムを操る魔法使いがまだ生きている、というのも面白い。
 というか、イソギンチャク神というのがちゃんと居て、それはれっきとした天の神様であるわけだから、イソギンチャク家系が居てもおかしくはないのだ。
 ただ弥生ちゃんに退治されたからなー。」
釈「あくまでも闇の一族、それでいいじゃないですか。」
じゅえる「いや、闇の一族が大手を振って歩いているのがいい。悪が許容されている世界なんだ、シンドラは。」

まゆ子「別民族という形で、決して太守体制に溶け込もうとしない集団が有る。そういう感じかな。」
じゅえる「それも体制に対して敵対的な存在なのだ。」
釈「民族問題ですねえ。」
まゆ子「ふむふむ。ではこうしましょう。闇の一族は怪しげな芋を育てて食っているのです。主食です、かなり美味しい。
 ただしこの芋は周囲の土地の栄養を全部吸い尽くして枯らしてしまうので、他の作物の農業が出来なくなります。だから普通の農民は怒って追い出そうとする。
 闇の一族は決して芋を手放そうとしないから、各地を流れ歩く事になる。どこでも嫌われ者なのだ。」
釈「どんな芋ですか。」
じゅえる「芋でなく、なにかないか作物。」
釈「そうですねー、球根?」
まゆ子「陸イソギンチャク、というのはどうだろう。土地の栄養だけでなく通り掛かる動物も人間も食べるという猛イソギンチャクだ。」
じゅえる「それは闇だな。」
釈「闇ですね。」

 

***

まゆ子「というわけでシンドラについての続きを考えます。
 なんか無い?」

釈「産業構造ですね、人がどうやってご飯を食べているか。」
じゅえる「インドみたいなとこなんだろ。」
まゆ子「インドはジャングルばっかりじゃないですよ。乾いたところも寒いところもあります。」
じゅえる「そりゃそうだ。で、普通のところは。」
まゆ子「あー、畑があります。水がたっぷり流れていて農耕に適しております。」
釈「農耕が主要産業ですか。」
まゆ子「うーん、まあ食べるに苦労はしていません。問題は換金作物です。これを作ると食料生産が食われてしまう。」
じゅえる「うう、やはりカネが曲者か。」

まゆ子「工場制手工業ですね、おおむね。機械化は進んでいませんが、科学技術はある。
 難しい設定ですが、科学技術は産業というよりも奇術的な発展をしているのです。」
釈「なんだそれは。」
まゆ子「妙なはなしでですね、ここの職人は鉄を板にしないで棒というか針金というかにしちゃって、籐籠みたいに編んじゃうんです。まあ溶接ですが。
 なぜか溶接技術が巧みで、ちゃっちゃか組み立てる不思議な才能があります。」
じゅえる「それは変なのか?」
まゆ子「変だよお。針金で出来たフレームに布を張って塗料を塗って、馬車のキャビンみたいなの作っちゃいますから。歯車まで針金構造物だ。」
釈「器用なんですね。」
まゆ子「その分妙なものが出来るけど、まあなんでも作ります。さすがに製鉄業は近代化機械化していますが。」

 

釈「燃料は何ですか。石油石炭は出ないんですよね。」
じゅえる「シンドラは火山国で地熱発電で電力をまかなっていると聞いたが。」
まゆ子「牛糞です。」
釈「やっぱり。」
じゅえる「牛糞て、どのくらい良く燃えるんだ?」
まゆ子「ははは、まあ燃料の性能としては乾いた草燃やしてるようなものですからそれほどカロリーは高くない。便利ですけどね道端に転がってますから。」
釈「つまりシンドラには牛が居るんですね。」
まゆ子「水牛だね。」
じゅえる「象も居るんだ。」
まゆ子「水牛に車を牽かせたり、象が木材を運んだりと動物力では重宝しています。イヌコマしか無かったタンガラムとは大違いです。」
釈「和猪がタンガラムにも居ますよ。」
まゆ子「あれはたかだか500年の歴史しか無い、つい最近発生した動力源だ。シンドラとは年季が違う。」

じゅえる「でも鉄鋼生産は牛糞じゃダメだよなあ。」
まゆ子「まあタンガラムと同じ木炭だな。南方で樹木の成長が早いからあんまり困ってない。生産量自体がそれほど多くないという事情もある。
 逆にシンドラは長い青銅器時代を経ているから、青銅を用いるのが得意なのです。立派な道具が作られているぞ。
 あと、椰子油だな。油がいっぱいとれるヤシが生えているからこれが一大産業になっている。
 もちろん油ゲルタも穫る。」

釈「つまりは、国内においてはまったく問題なく経済は回っているわけですね。」
まゆ子「そうもいかないのさ。ゥアムはもとよりタンガラムにさえ工業力が遅れているのは明白で、先が読める太守は心を痛めている。
 このままでは工業化競争から脱落して外国に支配されてしまうと。
 だが太守ごとに考えは違うから全国統一した資源配分とか開発集中とか出来なくてもどかしい。」
じゅえる「いずこも大変だな。」

 

釈「通貨はどうですか。ゲルタはあるんですか。」
まゆ子「あー、ここではヤシが通貨っぽく機能しているな。ナツメヤシだな。主食とは言わないがそれに準じるものだ。」
釈「どのくらいの価値です?」
まゆ子「片手にひとすくいでゲルタ1枚位だな。だから最小単位はナツメヤシ1個だ。
 ティカに相当する通貨はこちらでもお魚だ。ゲルタではないが1メートルもあるナマズがおおむね1万円の価値を持つ。もちろん通貨としては銀貨なのだが。
 ちなみにこのナマズの名前は「千」である。つまりナツメヤシ千個分で流通する。
 その上は象牙1本で、100万円相当。金で取引されるが、金自体が神聖なるものとして高く扱われている。」

じゅえる「金融機関とかは普通にあるわけだ。」
まゆ子「痛いところを突く。互いに独立して影響も特に与え合わずに成長した3つの文明圏がどのような金融システムをつくり上げるか、そんな大問題わかんないよ。」
じゅえる「そりゃまあ、イスラム金融とか有るからなあ。わかんないよなあ。」
まゆ子「そこは考えないようにしよう。物語では扱わないし、必要もない。ただー太守という地方絶対権力が有る状況からすれば、金融も太守が握っているのが筋であろうさ。」
釈「太守ってのを大名と考えると、御用商人は別に居ると思うんですが、違いますか。」
まゆ子「大名と違って参勤交代とかは無いからなあ。それに相当するのが王様選び儀式での参加料だけど、そこまで高価いとは。」
じゅえる「御用商人、両替商だな。太守によって完全に経済圏が分離分裂しているとすれば中立な存在としての民間商人は重要な役を持つのでは。」

まゆ子「あー、それを良しとしないのがシンドラの太守達だ。こう考えてはどうだろうかな、百人も太守が居るのに何故民間人なんか儲けさせなきゃいけないか。」
じゅえる「あー、そういう考え方ですかい。」
釈「利益独り占めタイプの地方有力者ですか。民間商人は彼等のしもべという位置づけですね。そこまで強力な支配体制を敷いているわけです。」
まゆ子「そうだな。民間人の御用商人というのがさほど大きな財力を持たないとすれば、中央金融を支配するのも宮廷という形を取らざるを得ない。
 国家の財務と流通経済が王権というものに寄生する形で機能している。」

釈「なんでもかんでも公的なものは王様ですか。でもそうすると経済官僚は相当な切れ者が宮廷に居ないと困りますね。」
じゅえる「そのポストに誰を当てるかを太守達が権謀術数を尽くして争うのだから、うん宮廷経済でいいんじゃないかな。」
釈「宮廷が中央銀行であって、各太守にカネを貸しつけて、民間金融を運営する。そんな形ですね。」

まゆ子「とにかくシンドラは、太守のチカラが大きい。あまりにも大きすぎるから中央に公正な王様を必要とする。そういう世界だ。」

 

じゅえる「マスコミとか報道、放送業界はどうなんだ。」
釈「ああそれですよ、そんな体制であれば自由な報道とか出来ませんよね。表現も規制が厳しくて。」
まゆ子「うん、まあ、それは厳しいわな。特に太守とその手下に対する批判は物理的妨害を受けて無理だな。」
じゅえる「やはり暴力で封じられるか。」
まゆ子「ところが不思議な事に、王様に対してはどれだけ辛辣な批評も批判も許されるのだ。

 これは現在の王制が始まった弥生ちゃんに由来して、「私に文句があるなら真正面から言え」とわざわざ外の広場に文句を言うコーナーを作って一日中罵詈雑言を聞いていたという故事があるのだ。
 しかもその際に、発言者が太守に対する批判を始めると「それはあなたの為にならない」と止めさせて、ひたすら弥生ちゃん本人に対して批判させた。
 この故事を現在までも墨守して、王様だけはいくらでも批判してよい事になっているし、王様直属の宮廷機関に対してもそうなのだ。」

釈「いかにもきゃぷてんらしいやり方ですね。」
じゅえる「宮廷直属の警察機構に対してもそうなのか。」
まゆ子「はい。そういうものです、と警察機関の職員隊員自体が理解しています。
 というのも彼等はおおむね各太守の領地内での秘密主義により職務の遂行を度々邪魔されていますから、情報の公開と公然の批判が必要だと彼等自身が痛感しています。」
じゅえる「国家中央の権力にしては、ずいぶんと気苦労が多いんだな。」
釈「なるほど、とにかく敵は地方分権なわけですか。」

まゆ子「だからね、太守とその手下の権力は絶大にして絶対なわけで、自由な批判とか報道は不可能なのだ。
 ところが、それは自分が住んでるところの太守であって、その太守と仲の悪いあるいは利害対立が有る太守の領地に行って批判する分には、まったくにお咎めが無い。
 まあ後で領地に戻ったら闇の暴力に曝されるんですが。」
じゅえる「全国完全制覇していないから、そりゃそうだな。」
釈「妙なところでバランスが取れてるんだ。」

まゆ子「あと、宮廷会議において各議員はおおむね太守や業界団体の推薦推挙もしくは政治活動によって送り込まれています。
 彼等の言動はその背後に居る実力者のものであり、彼等を批判する事はその実力者に対する直接的な批判でもあります。
 これへの批判は王様への批判でもあるから、止める権限を持たない。自らに対する批判を引き受ける目的で各議員が居るとさえ言えます。」

釈「王様への直訴、はダメなんですか。」
まゆ子「作法としては、各太守への直接的批判は禁止。だが婉曲的に王様への批判の形を借りる感じでは可能。
 王様が太守に直接処罰をするのは難しいが、宮廷の役人が実態を調べて太守会議に改善を要求する事は可能。だがピンポイントでそこの太守に改善を促すのはなかなか難しい。
 そこで、太守継承の拒絶権が発動するわけです。迂遠ではありますが人間は必ず死ぬのだから、逃れられない。」

じゅえる「喫緊の課題では無力、ってことか。」
釈「このシステムであれば王様の権力はその程度でしょうね。」

まゆ子「まあそういうことなのだが、太守システムは隣県に害が及ぶようであれば隣県の太守が軍を率いて攻めていくのも可能、ってことだ。
 王様は基本的には国内での戦争を止めて仲裁和解に持っていく役割なのだが、また正義の戦争へのお墨付きを与える立場でもある。」
じゅえる「実力でなんとかされてしまう、そういう事例も有るってことか。」
釈「王様独自軍がもっと強ければ、……って、江戸幕府でも幕末はそうもいかなかったですからね。」

まゆ子「むろん、とある太守が隣県を攻め取って領土を拡大しようとかするわけですよ。または儲かる鉱山やら港やらを分捕ってと。
 これは王様が討伐令を出して、太守会議が出兵を決議します。まあどの程度根性入れて動くかは別ですが。」
釈「どうしてもダメだった場合は、太守継承が出来なくて、王様が拒絶した地域は天変地異に見舞われる、という寸法ですね。」
まゆ子「もちろん天変地異の災害は、ほんとうはよく分からない。因果関係が有るのか無いのか、でもだいたい統治に失敗した地域ってのは災害を自ら招いてしまうからね。
 特に神様の力に頼らなくても滅びるのさ。」

釈「でも他力本願ですね。」
じゅえる「いや太守会議ってのがあるんだから、裏に工作部隊も抱えているだろう。
 あまりにも目に余る太守の邦にはNINJAが侵入して、いろんな謀略を展開して自滅させるんだよ。そっちの方が軍を差し向けるより安く付く。」
まゆ子「うん、そんな感じかな。流言飛語とかの違法出版物が、その太守の領地でなぜか大量に配布されるわけですよ。」

 

釈「では芸能をいきましょう。映画テレビはどうでしょう。」
まゆ子「映画はあるぞ。テレビーはー、どうしたものか。電波事情はタンガラムと同様であるし、工業化も進んでいないからテレビ自国生産は出来ないな。」
じゅえる「そうか、テレビ作れないとなれば輸入だが、タンガラムやゥアムから取り寄せるのは大変な手間とカネが掛かるんだな。」
まゆ子「太守であればテレビくらい購入出来るのだが、放送局が無いからな。有線だろうが番組製作者というのが必要だし、一日放送を編成するにはとてつもない設備と人員が必要だ。」
釈「ではテレビ放送は無いということで。」
じゅえる「ここらへんにシンドラ工業力の低さが出るわけだ。」

まゆ子「その分映画が大隆盛という事にしよう。映画館だけでなく野外上映も度々行われて民衆が熱狂するのです。」
釈「踊る?」
まゆ子「踊りましょ。」
じゅえる「損損。」

釈「となると、芸能バラエティとか無いしゴシップ番組とか無いんだ。」
じゅえる「テレビ特有のコンテンツだからな、そういうのは。映画はどんなに頑張っても一定の整形がされて、リアルタイム性は無い。」
まゆ子「ふん、出版も自由ではないからね。ちなみにシンドラでの紙はバナナの葉っぱです。昔はバナナの葉っぱそのものに字を書いてました。
 現在の紙はバナナの葉の繊維を漉いて作ります。」
じゅえる「それは弥生ちゃんの仕業?」
まゆ子「まあね。また海苔を海で取って板海苔をぱりぱり食べていたのをシンドラ人が真似して、紙を作りました。」
釈「また海苔ですか!」

まゆ子「ちなみに出版業は盛んではないわけではありません。表現が自由でないだけで、当たり障りの無い記事はちゃんと書けます。
 まあエロいのは流石に大きく制限されますけど。キス表現禁止だし。」
じゅえる「それは今のインドでも同じだったかな。」
釈「そりゃそうですよね、エロは禁止ですよ。」
まゆ子「ちなみにそういうエロ表現が一番進んでいるのはタンガラムです。なにせ民衆主義。
とはいうものの、ですね。ゥアム帝国もシンドラも暑いから夏場は女の人でも乳放り出してたりしますから。」
じゅえる「ああ、乳は普通に描いても写真でもOKなのか。アフリカの現地人とかは普通にそうだしな。」
釈「そこらへんは昔から思ってましたが倒錯してますね。」

 

まゆ子「ちなみにシンドラでは神様の極彩色ポスターは大人気で民衆が飛ぶように買ってます。
 もちろんタダの印刷ではなく、偉いお坊さんや神官の祈祷文付きです。
 だから普通の出版社は発行禁止、王様の宮廷出版社専門事業であり、宮廷の重要な財源の一つです。」
釈「インドの神様は大人気ですからね。て、こちらは天河十六神ですか。」
まゆ子「コガネムシも爬虫類も、イソギンチャクの悪神もちゃんとポスターになってますよ。」
じゅえる「悪い神様って人気だからな。」

まゆ子「ちなみにシンドラ十六神では悪神はイソギンチャクだけではありません。4×4に神様属性が分かれていて、善神4・悪神4・何も考えない4・まだ本気出してない4 という神様構成です。」
釈「いやな神様だなあ。」
じゅえる「まだ本気出してない、てのは未来神のことだろ。これから訪れる神様。」
釈「じゃあ何も考えてないってのは、」
まゆ子「それは人間の都合関係なしに暴れる神様のことだよ。シンドラ名物の火山とかが台風とかがまさにそれだ。」
釈「あ、人間のお祈り効きませんよね、そういうのって。」

じゅえる「じゃあ拝む価値も無いじゃないか。」
まゆ子「そこで善神さまにお願いです。人の言う事は聞かないけど神様の言う事は聞くのです。」
じゅえる「なるほど、そういう仕組みか。」
釈「じゃあ、悪神にお願いすると人間の奴をやっつけてくださいよへへへ、って感じですね。それは悪い神だ。」

まゆ子「丁度いいからシンドラ十六神を作っておくか。動物や虫は後で当てはめるとして、
 善神:命・光・潤い・恵み 悪神:病・闇(おばけ)・悪巧み・飢餓 何も考えない:台風・火山・太陽・死 本気:知恵・正義・お宝・破滅 
 」

釈「十二神方台系とはかなり違いますね。」
じゅえる「悪神という概念を取り入れてるから抽象化が進んでるんだろう。」

まゆ子「ちなみに、イソギンチャク神は悪巧みの神です。知恵の神との違いは全知全能ではなく、人間をそそのかせて悪事をさせないと活躍できない神様です。
 えーと、火山の神はフジツボ、台風の神は横巻きマイマイ。」
釈「横巻きマイマイってなんですか?」
まゆ子「普通のカタツムリと違ってカラが横に巻いてる奴さ。」
釈「ああエスカルゴですね。」
じゅえる「クラゲはおばけだな。病はどうしよう。」
釈「水牛と象も当然に入れましょう。」

まゆ子「まあまあ。えーと神殿組織ですが16の神様神殿が有るわけでなく、4つの属性の神殿が有ることにします。善神殿・悪神殿・自然神殿・未来神殿。」
じゅえる「このシステムならそうだろうが、神殿同士が敵対関係にある、とか?」
まゆ子「いやそれは無しの方向で。悪神殿も祀らないと悪いことが起きますよ。大事な神様なんです。」
釈「ですね。ご利益だけでなく祟りの方が恐ろしいですからね。」
まゆ子「あと、えーと、マンダラを描きます。十六神マンダラを。金剛界マンダラですね。」

 

 

 2016/07/13

まゆ子「とまあそういうわけで、『罰市偵』第二巻「戦う日常」第一話「勲章事件(仮)」の初稿を書き終えて、修正して削って、まあ上手いこと行ったけど思ったほどは削れなかったけどまあいいか。
 というわけで、それじゃあ第二話「夜のクワンパ」を書き始めたのです。」

釈「まあ、いつものとおりに完成する前に次を書き始めるわけですね。」
じゅえる「合理的ではない。とは思うものの、まあ好きにやれとしか言えないな。」
まゆ子「とまあその流れで、次は第六巻「英雄と皇帝」の筋書きを考え始めたのです。」

じゅえる「ちょっとまて、345巻の筋書きはどうなった!」
まゆ子「あー、考えてない。」
釈「おいおい。」

 

まゆ子「とまあそういうわけで、罰市偵第二巻第二話の執筆を開始します。」
釈「へい。」
じゅえる「最初からこういう風にくっちゃりで設計すればいいのに。」

まゆ子「とは言うものの今回また犯罪絡みではない日常パート回です。」
じゅえる「犯罪をぶち込め。」
釈「そうですね、些細なものでいいですから、犯罪欲しいですね。」
まゆ子「今回の主役はクワンパ。クワンパ主役で犯罪解決、でいくか。」

釈「とはいうものの、なにかちょっと構造的に面白くありませんね。」
じゅえる「そりゃアレだろう。一巻の最終話はクワンパ回だからな。重なるんだろう。」
まゆ子「なるほど、それはあまり嬉しくないな。誰か探偵役を別に用意するか。」
じゅえる「つまり、レギュラーを増やすってことか。」
まゆ子「カロアル家のバイジャンくんがこの巻から登場する設定になっています。彼をココで投入しませう。」
釈「なるほど。」

まゆ子「えーと、今回の腹案だと

 シャヤユートの映画のシナリオが完成してマキアリイの監修を受けるのを事務所で目撃する
→クワンパの巫女寮でのメンバー構成と日常を設定
→幼女の依頼で小猫を探す事になる。クワンパは近所の人とあまり触れ合わなかったのをマキアリイが配慮してそうさせた
→クワンパ、夜の電話交換所でメガネ女と
→(終わり)」

じゅえる「今回の題名は、「夜のクワンパ」という事になっている。夜に活躍しよう。」
釈「ならば、それでいいじゃないですか。巫女寮に覗きが出現して、クワンパは夜通しの警戒をする。」
まゆ子「ふむ。なるほど、それはここで投入すべきシーンだな。

 ついで
  小猫を探していてとあるお屋敷の様子を窺うバイジャンくんを捕獲 小猫は彼が抱いていた

まゆ子「というわけで考えたののおまけ。

 クワンパはどうやってもマキアリイ事務所が財政好転しない原因を遂に発見する。
 飛行機免許だ。年間飛行時間が免許更新に義務付けられており、マキアリイはちゃんと守って毎年更新しているのだが、そのフライトはおおむね週に1回1時刻(2時間)飛行しなければならない計算になる。
 で、これに掛かる費用が、まず飛行機レンタル代、燃料費、整備費、保険料でおおむね1回1金(10万円)掛かる。タンガラムは1年37週だから370万円掛かる計算だ。」

釈「うわ!」
じゅえる「うーむ、今でも自家用飛行機は金持ちの道楽だから不思議ではない数字だが、痛いな。」
まゆ子「これを月1回にまとめて飛んじゃえ、という提案をクワンパするのだが、つまり1フライト3時刻(6時間)飛ぶと、今度は重整備というのが必要になる。
 1回1時刻の飛行ならまあ通り一辺倒の整備で済むけれど、そんなに長く飛んだら飛行機やエンジンに負担が掛かり過ぎてかなり大事になってしまう。
 全然節約にならないのだ。
 さらに言えば、免許更新時の飛行技術審査の時にもまた結構なカネが掛かる。まあ年間40金は食われてるのだ。」

釈「それはクワンパ怒りますね。でもそれなら飛行機やめちゃえばいいと思いますが。」
まゆ子「政府がやめさせてくれないんだ。
 そもそもマキアリイの飛行機免許は徴兵時に、英雄となったマキアリイにさらに箔を付けよう無理やり飛行訓練させた賜物。特別措置なのだ。
 そして政府の行事やら宣伝やらで、しばしばマキアリイは飛ばざるを得ない状況となる。もちろん戦闘機パイロットほど無茶な飛行はしなくてよいが、それなりに技量は必要。
 で、上記必要経費はマキアリイが公務員であった時代はまったく苦にならなかったのだ。なにせ公用の飛行機で練習出来て、整備も国や組織持ちだったから。」

じゅえる「そりゃそうだ。政府の命令で飛ぶんだから。」
釈「でも民間の私立刑事探偵にはカネは出せない。ってことですか。」
まゆ子「法律的にもね。そこでマキアリイは泣く泣く自費で飛んでるわけだ。子供たちの夢を裏切っちゃいけないから。」
釈「つらい、英雄探偵つらい。」
じゅえる「人が良すぎるぞ、マッキーさんは。」

まゆ子「というわけでクワンパはキレる。政府に手紙を送って飛行機練習代を肩代わりしろ、と直訴するのだな。
 その時にマキアリイに、手紙の送り先としてどこ?と尋ねたら、政府総統府広報局にマキアリイ担当部署がある、と教えてもらうのだ。
 そこが目を光らせているから、マキアリイ印の清涼飲料やら、マキアリイ氏愛用の上着なんかが販売されて儲ける事が出来ないのだな。」
釈「なるほど、理不尽ですねそりゃ。」
まゆ子「というわけで、マキアリイは今予定されている中では、2巻3話で空を飛ぶ。3巻2話でも総統閣下のご命令でイローエント海軍航空隊と共に飛ぶ。
 飛行機免許はぜったいに必要なのだ。
 というわけで、政府の方もクワンパの手紙を見て考えて、アユ・サユル湖上航空隊ベイスラ支隊の水上機で練習できるようにしてくれるのだ。
 というわけで、マキアリイが奥さんを助けてやった片目義眼の大尉が登場だね。私的な出会いの後に、公的に彼が出てくるのはこういう理由から。」

じゅえる「ふむ、良い絡み具合だな。」
釈「それは自然ですね。」
まゆ子「えーと、この飛行機代発覚は、2巻の後半クワンパ日常回で出ます。
 で、航空隊大尉との顔合わせはイローエントでの式典後の事件解決で総統閣下がご褒美をくださる事になって、クワンパが直訴するという感じかな。」
釈「いいですね、直訴。」
じゅえる「ふむ、総統直訴の結果役所が迅速に動いた結果、湖航空隊に話が回ってくると。3巻3話ってとこだな。」

釈「えーと第三巻構成の予定を確認するとですね、第二話イローエント海軍事件の後に、第三話クワンパおみやげ、という事になっています。
 イローエントで大活躍したおみやげを近所の人に持っていく話ですね。」
じゅえる「なんだ、無駄話するのに持って来いじゃないか。決まりだな。」
まゆ子「決まりだな。採用。」

 

まゆ子「というわけで第二話です。「夜のクワンパ」ということで、夜をベースに物語を作ります。
 というわけで、どういうわけだかバイジャンくん登場回になってしまいます。これは難しい。」

釈「難しいですか?」
まゆ子「クワンパとバイジャンくんは歳が2歳しか違いません。というかクワンパが誕生日迎える前までは1歳違いです。ほとんど同級生。」
じゅえる「ふむ、下手に絡むと恋愛沙汰になってしまうな。」
まゆ子「しかも「夜のクワンパ」だ。若い男女が夜中一緒というのは道徳的によろしくない。」
釈「ちょっと困りますね。どうしますか。」
まゆ子「事務所に連行して、彼がカロアル軍監のご子息である事が発覚して、マッキーさんがどこか連れて行ってしまう男同士で。という展開で。」
じゅえる「なるほど、クワンパを絡めるのは無しにするか。」
釈「そうですね、少なくとも今回は無しにしましょう。」

じゅえる「とはいうもののフェイドアウトされては困るのだ。なにか作れ。」
まゆ子「へい。えーとマッキーさんが未成年を夜の街に連れ出す、というのはダメダな。」
じゅえる「もうちょっとまともな場所は無いか。」
釈「硬派なところがいいですかね?」
まゆ子「マッキーさんはなー、硬くても柔らかくてもいいんだが、少年だからなー。
 彼が軍人志望であればもっと単純なんだが、電気技術者志望だからなあ。どこに連れていくか。」
じゅえる「その電気技術の才能は今回出さなくてもいいんじゃないか?」
まゆ子「ふーむ、今回はただの不審者扱いでいいかなー。」

釈「すなおにマッキーさん行きつけの網焼き屋さんに行きましょう。で男同士でゲルタを食うのです。」
じゅえる「まあそうだな。後でクワンパがその網焼き屋を訪ねてみて、その話を聞くのだよ。」
まゆ子「ふむ、もう一つ爆発的な面白さが欲しいんだが。」

じゅえる「そうだな、巡邏軍に二人共捕まってしまう、というのはどうだろう。深夜の喧嘩にマキアリイさんが介入して、バイジャンくんはそのとばっちりで。」
釈「なるほど、カロアル軍監は巡邏軍のトップですから、そりゃー恥ずかしいお話ですね。」
まゆ子「なるほど。翌日出勤すると巡邏軍から電話があって、牢屋の中のマキアリイを引き取ってもらいたい、という連絡が。」
釈「なんて情けない! それですね。でも尋常の喧嘩であれば、マッキーさんはたちどころに鎮めてしまうでしょう。」
じゅえる「そうだな。街全体が大混乱に陥るような大騒ぎで、大量検挙された中にマッキーさんとバイジャンくんは間抜けにも。」
まゆ子「うわー、そうすると暴動か。」
釈「なにか暴動のタネありますかね。」
じゅえる「ヤクザの喧嘩でいいんじゃないか?」
まゆ子「だがマキアリイは、その程度では介入しないぞ。」
釈「喧嘩が拡大して、火炎瓶が飛んで火事になった、とかでは?」
じゅえる「そこで可憐な少女が煙に巻かれそうになるのを、マッキーさんが飛び込んで助けると、ヤクザのどまんなかであった。とか。」
まゆ子「ふむ、もうちょっと賭場荒らしとか縄張り争いとかの要素を組み込んで、マッキー大暴れさせよう。」

釈「そういう展開であれば、バイジャンくんは牢屋で釈放される。という展開よりは、カロアル軍監が腹を立ててしばらく牢屋に入れとけという事になって
 クワンパによってマキアリイと共に釈放されて、事務所に転げ込む。という感じですね。」
まゆ子「うん、そちらの方が転がしやすい。」
釈「では深夜の電話番も、この夜ですね。質屋のメガネ女のネイミイさんと電話交換手の練習をしていると、遠くの方で火事になる。半鐘ががんがん鳴っている。」
じゅえる「なるほど、夜のクワンパだな。」
まゆ子「で、一体なにがあったんだよ、とクワンパは単身で騒ぎのあった場所を訪れて、マッキーさん馴染みの網焼き屋に。
 今の事務所を開く前にマキアリイが天井裏に下宿していたお店にいくわけだ。
 そこは第一のカニ巫女事務員ケバルナヤの思い出がいっぱい篭った場所なのですね。英雄探偵出発地点として、今や聖地なのです。」

釈「聖地ですか。」
まゆ子「コアなファンにとってはまさに巡礼の場所です。今の事務所に行くと英雄探偵のお仕事の邪魔になりますから。」
じゅえる「うむ。お行儀のよいファンだな。」

まゆ子「で、その訪問を終えたクワンパは自分の寝所である巫女寮に帰って、就寝END」
釈「OKですね。」
じゅえる「まあ、マキアリイが暴れる騒動の質によりますか。けっこう派手なものにしよう。」
まゆ子「ふーん、少女一人を助けるくらいじゃダメか。」
釈「1ダースくらいはですね。」

まゆ子「ふむ、無認可保育所に火が飛んだ、くらいにするか。夜の女達が預けていた子供の。」
釈「まさに英雄的ですね。」

まゆ子「あ、それからですね。これまで第一巻では「タンガラム世界の設定」がおまけに付いてきたんですが、
 第二巻では「マキアリイ華麗なる戦歴」と称して、これまでに解決してきた事件の概要を1ページくらいで説明します。
 もちろん随時設定は追加されますが、この間作った年表を十分活用しましょう。」

 

 

 

  2016/05/31

 ※今更の話ですが、「何故マキアリイはベイスラに居るのか?」が疑問となりました。考えよう。

まゆ子「まあ基本的にですね、マキアリイは警察局の捜査官を辞めさせられたわけですよ。
 地方に飛ばされてその土地の有力者が長年積み重ねた犯罪を暴露してしまい、警察内部にまでその影響が及んでいたことを白日の下にばらしちゃったんです。」
釈「そりゃ居られませんね。」

じゅえる「警察局の内部ではそれは評価されなかったのか?」
まゆ子「評価する向きは多かったんですよしょせんは田舎の話ですから。ただ政治家が蜂の巣を突いたように大騒ぎしまして、じゃあ仕方ないな捜査権限をこれ以上与えたら何やらかすか分からないと、マキアリイ説得して退職させました。」
釈「クビでなくて依願退職という扱いですか。」

まゆ子「退職したマキアリイには自動的に刑事探偵免許が付いてきます。本物の捜査官だから当たり前のように。」
じゅえる「法的用件を満たしていたわけだな。」
まゆ子「しかし最初はその資格を使いませんでした。いやこの状況でそんな事したら大事じゃないですか。平地に乱を起こすみたいで。」

 

釈「田舎から、何処に行ったんですか。」
まゆ子「首都ルルント・タンガラムに一度戻ってクビになって、それから自分の生地であるガンガランガ付近に一応身を寄せて、そこもうっとうしいからヌケミンドルに出てきます。」

じゅえる「マキアリイの故郷はガンガランガなんだ。」
まゆ子「正確にいうとちょっと違うが、そこにヤキュのお師匠さんが居てマキアリイは10代の頃はお世話になっていました。上級学校に通っていたという事実も無いのですが選抜徴兵で採用されていますから、それなりの教育は受けていたと思われます。」
釈「学校に行ってない?」
まゆ子「たぶん、昔ながらの賢人による徒弟教育に近いものを受けていたと思われます。田舎にはよくあるのです。」
釈「物語で出てきますか。」
まゆ子「たぶん、師匠の墓参りとか行くはずです。そこにお姫様が居ると思われます。」

じゅえる「姫?」
まゆ子「姫です。ただし何の姫かは決まっていません。とにかくマキアリイの謎というのはその姫関連と考えてください。」

じゅえる「つまり決まっていないんだな?」
釈「とにかく姫っぽいものを出せば後でなんとか設定を膨らます事が出来る、程度の投げっぱなしですね。」
まゆ子「そういうこと。だが、どうしようかほんとに悩んでる。許嫁とかは安直すぎて困るのだな。」
釈「そうですねー、古代王国の姫君の末裔、というところでしょうねー。」

じゅえる「うーむ、まあそこは次の機会に考察しよう。
 で、」

まゆ子「とりあえず人の多い所でないと商売困りますから、首都に近いヌケミンドルに出てきます。ここを拠点と定めて、何かしようかなと。
 映画関係のグッズ販売で食っていたのはこの頃です。」
釈「うーむ。情けないですね。」

じゅえる「刑事探偵ではなかったのか。」
まゆ子「下手に動くと必ず犯罪事件にぶつかってしまうので、ここは平和が一番とカタギのシゴトをしていたら、ヤクザと揉めてしまって。」
釈「興行関係は仕方ないですねー。」

まゆ子「そして弱小ヤクザの親分に見込まれて婿にされそうになって、逃げました。」
じゅえる「うんうん、そのくらいがいいぞ。やはりそこにもえらいベッピンの嬢ちゃんが出てくるのだな。」
まゆ子「そういう事にしておきましょう。とにかく、この時は正体を隠して悪いヤクザと悪い政治家と悪い大企業をやっつけてます。」
釈「うんうん。」
まゆ子「そして正体がバレました。まあ、バレるんですが自分の名声にすがって生きているという情けない実態もバレるんです。

 で、嬢ちゃんが怒って、そんな情けないことなら自分と結婚してヤクザの親分になって全方台制覇の野望を。」

じゅえる「困った嬢ちゃんだな。」
まゆ子「かなりインテリです。上級学校にも通ってます。」
釈「あー、とにかく逃げたわけですよ。」

 

じゅえる「全部スプリタ街道沿いだね。」
まゆ子「そうだねー、そうだねーじゃあマキアリイが首都から左遷された田舎というのを、西側にしておきましょう。「モバルタ」という山奥の街が首都から割りと近くていい感じだし。」
釈「地図を見ました。いいですねモバルタの位置は。首都から近いのにまるっきり田舎丸出しで。」
じゅえる「田舎の実力者がでんと居座るのにちょうど良さそうな場所だな。うんここでいい。」

釈「方台東部には縁が無いんですか?」
まゆ子「考えてない。というか、クワンパの次の巫女が東部出身だからそこで縁が出来る。
 ソレ以前となると、やはり軍で広報活動に引っ張り回されていた時に、嫌々ながら連れて来られたってとこだろう。」
じゅえる「あまり深くはない、ってことだね。」

釈「東部のその時になにか活躍させますか。」
まゆ子「うーん、全スケジュールびっちりと軍広報に管理されていた時代だからなあ。なにかイベントあるかな。」
じゅえる「暗殺事件とか爆殺事件とか毒殺事件とか。別にターゲットはマキアリイでなくてもいいぞ。」
まゆ子「いやいや、そいう表立っての大活躍はらしくないでしょ。」

釈「もうちょっと控え目で意味深なやつですよね、欲しいのは。東部はギィール神族の本拠地ですからなにかお宝の。」
まゆ子「隠し財宝発見とかか。うーんそうだなー。」

じゅえる「いっそのこと、武術の対決をしたとかでは?」
まゆ子「それはー、いいのかな。マキアリイが武術の達人てのはこの時期にはもう知れ渡ってたのかな。」
釈「どうなんでしょうね。とにかく悪漢どもをちぎっては投げの大活躍で武術の達人扱いされていたのは確かです。」

まゆ子「なるほど。世間で評判の英雄殿がどの程度使えるのか試してみよう、ってギィール神族お抱えの高名な武術家との手合わせをやらされるはめになった。
 これはありだな。」

じゅえる「そこで相手が本気であったからマキアリイも本気を出さざるを得なくなって、衆人環視の中でマジ格闘をしてしまうんだ。」
釈「いいですね、それで本当にマキアリイがめちゃくちゃ強い事が世間にも評価されてしまうんですよ。男の子達は大興奮です。」
まゆ子「うむなるほど。ほんとうの武術の達人であると世間に知れ渡るイベントがここで発生した。それでいいかな。」
じゅえる「うむうむ。」
釈「大賛成です。」

 

まゆ子「それで、ノゲ・ベイスラに流れてきたマキアリイは刑事探偵を始めるわけです。最初は事務所を自分で構えるのでなく、誰か既存の業者のスタッフとして。」
じゅえる「そうなんだ。まあ、まったく信用の無い状態で刑事探偵なんか始められないだろうしね。」

釈「そこは大手ですか。」
まゆ子「うーん、どうかな。弱小でも知り合いが一人でやってる、でもいいぞ。なんだったら大手でもいいんだけど。」
じゅえる「大手だな。」
釈「そうですね、大手にまず仮採用になって業界に足を踏み入れるんです。でもそこも早々にクビになる。」
じゅえる「そうだね、出向いていった先で度々正体がバレてしまってやり難くてしょうがない。「君は刑事探偵には向かない」と言われてクビになってしまうのだ。」
まゆ子「目立ちまくりだからね。資格はあっても営業的に成功するとは限らない。

 そこで、最初のカニ巫女ケバルナヤに遭遇するのです。」

釈「業としての探偵でなく、正義としての探偵になれと説教されてしまうわけですね。」
まゆ子「まあね。いきなり事件の只中に突入してしまって、ケバルナヤがそういう風に持っていくんだ。それで、自分で事務所を構えて、とりあえずは映画興行社という名前で営業を開始する。」

じゅえる「でもほんとに営業できないだろ、それ。」
釈「まあ、どうしますかね。」
まゆ子「押し売りだな、そういう時は。カニ巫女は年中街をうろついているから、犯罪が起きそうな話を知っている。そこでマキアリイにちょっと調べてくれと。」
じゅえるそうか、カニ巫女専用刑事探偵だったんだ、最初は。」
釈「なるほど、それはアリですね。」

まゆ子「そうだなー、ケバルナヤ時代はまだ刑事探偵としてのフォーマットが定まっていなくて、色々試行錯誤して、で今の事務所に落ち着いたところでケバルナヤは事務員を辞めて次のザイリナに交代する。」

釈「そうか、事務所はまだ無かったんだ。」
じゅえる「ケバルナヤとの活躍の結果刑事探偵としての信用を得て、見事に個人事務所を設立するのに成功したわけだ。当然カネも無かった。」
まゆ子「まあ或る程度の金銭を持っていないと、事務所借りられないからね。

 えーと、ケバルナヤ1年、ザイリナ1年半、半年空白、シャヤユート9ヶ月、3ヶ月空白、クワンパ→ でマキアリイ28才です。」

じゅえる「刑事探偵としては4年しかやってないのか。というか、24才で事務所開業ってのは無理っぽいしな。」
釈「28才としても、そもそも何月生まれでしょうか。その数ヶ月は大きいですよ。」
まゆ子「うん。えーとクワンパは夏が誕生日なのは確定している。7月くらいかな。
 マキアリイもそう遠くなく誕生日を迎える29才になります。クワンパが辞める時はクワンパ19才マキアリイ30才。1年半の期間の内に30才になります。」

釈「つまりクワンパ就職の時点ですでにマキアリイは誕生日から半年は過ぎている事になるわけです。」
まゆ子「クワンパは再来年創始歴6217年9月に事務所を辞めます。1年半です。マキアリイ誕生日は9月以降ではないわけか。5月は近すぎる。8月くらい?」

じゅえる「クワンパ卒業間近にマキアリイ誕生パーティをする事が出来るな。」
釈「なるほど、それは使えます。」
まゆ子「うむ、なるほど。それはいい絵になる。」
釈「じゃあ決まりで。マキアリイ誕生日は8月です。」

じゅえる「ところで、ケバルナヤ時代は事務所無しでどうやって営業してたんだ。」
まゆ子「そりゃマキアリイの部屋ですよ。下宿です。それこそ網焼き屋の屋根裏部屋くらいな安い家賃の部屋で。」
釈「下宿ですか。電話はありませんね、そんな貧乏だと。」
まゆ子「そうだな、電話の有る所に寄生するように営業していたわけだよ。」

釈「流しの刑事探偵ですね、ほとんど。」
じゅえる「うん、そんな感じがいいぞ。」
まゆ子「そして、ニセ病院と後になる建物を手に入れる。というか管財人にされるわけだ。
 ソレ以後は探偵事務所は一時ここになる。でもここは貧乏人ばかりだから商売にならない。ちょうどいい建物を物色している内に、トカゲ巫女にぶん取られて病院にされてしまうのだよ。」

釈「でも網焼き屋の屋根裏部屋の方が絵的に楽しい探偵生活ですね。」
まゆ子「まあ、楽しいといえばね。より正確に表現すれば、屋根裏に行くための階段の上に寝ていたのだ。」

 

じゅえる「ケバルナヤってどんな巫女なんだ。その頃何処に住んでいたんだ。」
まゆ子「ケバルナヤはカニ巫女には珍しくたおやかな淑女です。神様を敬う事の篤い実に見事な巫女です。だから住む所の心配など要りません。どっかのおばあさんに部屋を借りています。」
釈「おとなしい?」
まゆ子「棒を振るう時はぶっ殺す時で、ソレ以外は言葉で相手をたしなめようとします。ただ、堪忍袋の緒はそんなに長くないです。」
じゅえる「カニ巫女はカニ巫女ってことか。」

まゆ子「マキアリイがまだ信用を得られない時期に、カニ巫女の立派なのを連れ歩いているから信じる人も多かったのです。というかこの頃は事務員服なんか着てないただの巫女見習い服です。」

じゅえる「じゃあ事務員てのが発生したのはザイリナからなんだ。」
まゆ子「そうだね、事務所が新装開店して事務員が必要だな、って事になった時、ケバルナヤが「じゃあ事務員を連れてきますね」と連れてきたのがザイリナです。」
釈「そうなんですか。最初はまだ何も固まっていなかったんですね。」

じゅえる「ケバルナヤって特別な巫女なんだな?」
まゆ子「よく出来た人です。マキアリイが真人間になったのもケバルナヤの力と言ってもいいかもしれません。
 まあほっといてもいずれ巨大な悪と何度でも遭遇していたはずですが、刑事探偵という地盤を築いている事で処理はずいぶんと楽になっています。」

釈「まるっきりの民間人が巨悪と遭遇して解決、ってのはそれはたしかに無茶ですね。」
じゅえる「あるべき所に持ってった人、ってことだな。」

まゆ子「で、新事務所でザイリナという巫女見習いを事務員として再出発したマキアリイですが、大混乱です。なにしろザイリナは子供だ。」
釈「15才ですかね。」
まゆ子「15才です。中学校とカニ神殿と同時に通ってた彼女は、中学卒業と同時に世間修行を始めます。事務員卒業時は17才ですけれど。」
釈「卒業直前に髪が赤くなったんですね。」

まゆ子「まあそもそもですね、ケバルナヤは歳が上だったんですよ。17才まで教員専門学校に通っていてそこからカニ巫女ですから。
 マキアリイと遭遇したのは19才、卒業時は20才です。そりゃザイリナとはまるで違う。」

 

じゅえる「結局ケバルナヤとザイリナの期間の事件は何件なんだ?」
まゆ子「えーとー前に書いたクッチャリの記述を読み返すと、

 ケバルナヤの事件が現役時代に1本ドラマ化されて、ザイリナが人気になった後に再映画化されて、更にドラマが3本。
 ザイリナは映画が2本ドラマが5本、多分扱われる事件は重複するから、事件自体は5本。だがその後事務員引退した後もドラマ映画は作られている。
 シャヤユートは在任中に新聞で大きく扱われる事件は5件遭遇しており、3件がドラマ化。今度「シャヤユート最後の事件」が映画化されるから、多分ドラマはすでに作っている。

という設定だ。」
じゅえる「ケバルナヤ・ザイリナはまだまだネタが有りそうだな。」
釈「ザイリナの時に、中央政界に救う「闇御前」を逮捕したでかいのが1本あります。その後マキアリイは21件の暗殺未遂事件をくぐり抜けています。これはまだ出ていない設定です。」
まゆ子「そのマキアリイ連続暗殺事件は一連のものとして1件と数えよう。

 そうだな、このあまりにも暴力的な事件が世間に公表された事によりマキアリイの名声は天高く星空に届くばかりになったけど、カニ巫女は怖気づいてザイリナ卒業からシャヤユート登場まで半年を空費した、ということで。

 ドラマ化はその空白期間に行われ、続いて連続アクション活劇として映画化が行われるものの、「闇御前」事件自体はあまりにも話が大きすぎてテレビ映画会社も二の足を踏んでドラマ映画化はまだ可能となっていない。
 逆に言うと、「闇御前」事件がドラマ化されないからこそ、「連続暗殺未遂事件」映画が大ブレイクした。という形。
 そうだな、この映画はその名も『英雄暗殺!』ということにしよう。」
釈「まさに!」

じゅえる「ザイリナの事件は「闇御前」と「英雄暗殺」を除いて、さらに大ネタが5件以上ある。ってことだな。」
まゆ子「8件はほしいね。」
釈「そうですね、新聞で大ネタ扱いされるレベルで8件です。」

まゆ子「シャヤユート時代に、洋服店(美装店だな)で美女が消えて誘拐されエロ奴隷として売り飛ばされる事件が解決されている。これはすでにドラマ化終了。映画化もやっている。」

じゅえる「9ヶ月しか居ないシャヤユートが5件。1年のケバルナヤも5件以上は欲しいな。」
まゆ子「ケバルナヤ時代の、ニセ病院の建物をヤクザから守った事件は、新聞で報道されていないぞ。」
釈「特筆に値しないささいな事件、ですね。クワンパの下宿と同レベルなんですよ。」

 

       ****

じゅえる「とにかく5+8(+2)+5件の大事件を考えよう。それも全てドラマ化映画化出来る規模の大犯罪だ。」
まゆ子「うう、それはきつい……。」

釈「政界・財界・警察・軍・外国・ヤクザ・犯罪組織・一般犯罪、さあどうだ!」
じゅえる「犯罪マニア、精神異常者、スパイ、邪悪の帝王とかも入れろ。」
釈「カリスマ帝王ですか。それは必要ですね。」
まゆ子「おおむねマキアリイが扱う事件の7割はヤクザ絡みだ。ただこれは大ネタにならない。殺人事件も少ない。」

釈「そうですねー、窃盗で大ネタは無いですか。」
じゅえる「よほどの国宝でも盗まれれば別だけど、」
まゆ子「それ入れよう。何十年も前に盗まれた国宝をマキアリイが犯罪組織をやっつける事で発見するシナリオだ。」
釈「おう!」

じゅえる「なるほど。それはいい話だ。じゃあもう一件くらい窃盗関係のネタを作るか。」
釈「金塊ですよ。大量の金塊を運ぶ武装列車が強奪されて、マキアリイが奪還です。」
まゆ子「それは組織犯罪ネタだろうが、何故マキアリイが絡む?」
釈「そうですね、近所の逃げたわんこ捜索の依頼を受けて、たまたま山で出くわした的な。」
まゆ子「うんまあ、そうだな。ザイリナ系だな。」

じゅえる「墓泥棒とかもいいんじゃないか。
 古墳を盗掘していて思わぬお宝で起きた仲間同士血で血を洗う殺人事件。その惨劇の痕跡を数十年後の富豪の犯罪から暴き出す。」
釈「金田一系ですね。」

まゆ子「じゃあ窃盗系をもう2つほど増量しよう。やっぱ王道だ。」

釈「金塊とくれば高額紙幣窃盗事件ですよ。三億円です。」
じゅえる「強奪はもうやった。詐欺だな。警察がかっぱらわれた三億円をマキアリイが奪還する事件。」
釈「知的ゲームですよ! 怪盗と英雄探偵の知恵比べです。」
まゆ子「それはマキアリイ圧倒的不利だぞ。」
釈「そこを腕力で解決です。」

じゅえる「札束はそこでいいとして、窃盗もう一件となれば美術品だな。超有名画家が描いた裸婦像が盗まれるのだ。」
まゆ子「そこは裸婦像自体は破壊される事にしよう。マキアリイは犯罪者を捕まえるが、宝物自体の奪還は失敗するのだ。
 ただ人命を助ける代償となるシナリオで世間からはやはり天晴英雄探偵と賞賛されることとなる。」
釈「最後は裸婦像が火に包まれるのを、窃盗犯自らが涙で見送るシーンですね。」

 

じゅえる「窃盗ネタはこのくらいでいいだろう。」
釈「盗難国宝発見・金塊強奪列車強盗・古墳盗掘殺人事件・高額紙幣詐取・裸婦像毀損。いいですね。」

まゆ子「じゃあ次は殺人系。」
釈「殺人と言っても大量殺人と猟奇殺人と権益絡みの殺人と怨恨痴情殺人と計画殺人と、どうしましょう。」
じゅえる「ヤクザ系の報復殺人、また仕置見せしめとしての殺人も入れるべき。」
まゆ子「政府系陰謀暗殺も欲しい。」
釈「であれば、謎を葬る為に関係者を謀殺ですよ。これは外せない。」

じゅえる「まずは大量殺人だ。意外と難しいぞ、敵を誰にするか。」

釈「テロリストです!」
まゆ子「一件くらいは欲しいが、テロリストと言われても背景が困るぞ。反政府組織か?」
じゅえる「外国人テロリストはちょっとアレだから、国内反政府組織死ね死ね団みたいなのだな。」
まゆ子「ショッカーか。」
釈「いいですねショッカー。ばーんと出しましょう。」

 

まゆ子「うむ、ではショッカーみたいな謎のテロリスト集団がマキアリイに何度も襲い掛かってくるのだ。
 というか彼らの謀略と大量殺人の犯行を何度も未遂で防ぐマキアリイであった。」
じゅえる「そうか、大量殺人事件が「起きなかった」でもいいんだ。」

釈「それでこそ英雄探偵です。そうですねーショッカーの陰謀を3度は阻止しましょう。
 ケバルナヤで1回、ザイリナで1回、シャヤユートで1回。後にはクワンパの時も1回。」
まゆ子「ルパンに出てくるスコーピオンみたいだな。番組開始時に噛ませ犬で出される犯罪組織。」
じゅえる「定番でいいじゃないか。えーと名前をまず考えよう。

 ミラージュ、とかどうだろう。」
釈「方台タンガラム語でないと困ります。意味はミラージュ蜃気楼・幻影、でいいですけど。」
まゆ子「安直に『ミラーゲン』にしよう。ミラージュ+幻影で。」

釈「恐ろしく安直ですが、どうせ異世界の言葉です。それでいきましょう。」
じゅえる「じゃあ「幻賊ミラーゲン」ということで。世界征服が目的でいいか。」
まゆ子「世界征服だよ、それも恐怖による絶対支配体制の確立を目論む。ミラーゲン元帥というやつが総指揮官なのだ。」
釈「地獄の軍団ですね!」

じゅえる「しかし、なんでそんなあほうな事を画策しているのだそいつら。」
まゆ子「あー、世界は優れた人類と劣等人類とに分かれていて、劣等人類は永久に奴隷でなければならないという。優等人類はなんか肉体的特徴があって、特別に優れているという思想なのです。」
釈「ジオニズムですよニュータイプ。宇宙に適応した人類なのです。」

じゅえる「それは、角でも生えているのかよそいつら。」
まゆ子「いいねそれ、生まれつき角が生えた子供がミラーゲンに拐われて兵士にされるのだ。」
釈「いや、でも角なんて生えるんですか。」
まゆ子「あー、珍しいけれど皆無ではない、というかんじで。子供の頃ちょこんと生えて成長すると目立たなくなるくらいの。」
じゅえる「デンパだよ。角からデンパが出るという設定なのだ。それで天上の神の意思を直接に受けて行動するのだ。」

まゆ子「まあ、そんな感じで。そのくらい荒唐無稽な方がショッカーぽい。」
釈「ぽい。」

 

釈「ゲルショッカーも欲しいですよね。後継組織。」
まゆ子「うむ。「闇御前」事件と絡めよう。

 「闇御前」が逮捕されたことによりミラーゲンも壊滅的打撃を受けて、ミラーゲン元帥は死ぬのです。
 だが暗黒のプリンス、ミラーゲン大公がゲルミラーゲンを旗揚げするのだ。
 組織の目的は憎っくき仇敵マキアリイの抹殺!」
じゅえる「それはー、自動車サーキットか豪華客船を作ってマキアリイを誘い込もうぜ。」
釈「そうですそうです。巨大な罠を仕掛けておびき寄せてブチ殺すんです! そうしなければ組織の後継者として認めてもらえないという。」
まゆ子「うむ、じゃあそういうことで。」

釈「ちょっと考えたんですけどね、片目の大尉が居ますよねマキアリイの最後の敵となる。」
じゅえる「うん、こないだ考えたな。」
釈「この人が、ミラーゲン大公にならされてしまうんですよ。
 というか、政府よりも更に深い闇の秩序が組織する実力部隊が「ミラーゲン」であり、謎の委員会がミラーゲン元帥を定めるのです。
 で大尉は謎の委員会によって次の元帥候補とされて、その昇格の為の最初の試験が「マキアリイ暗殺」なのです。」

まゆ子「あ! その謎の委員会、わたし知ってる。」
じゅえる「わたしも知ってるぞ。弥生ちゃんが方台から出て行く際に作った「裏トカゲ王国」だろ。」
まゆ子「裏トカゲ王国が民衆協和国時代になった今でも連綿と続いており、裏で歴史を操っているのだな。それが「ミラーゲン」」
釈「かっこいいでしょ。」
まゆ子「おう。ぐっどだね。」

じゅえる「となれば、その一つ前の『罰市偵』第六巻「英雄と皇帝」でミラーゲンは壊滅しなければならない。」
まゆ子「ここで死ぬのかミラーゲン元帥。」
釈「そうですねー、そもそも「英雄と皇帝」とぶちあげてみましたが、「皇帝」って誰? じょうたいですから。」
まゆ子「ミラーゲン元帥であるところのなんか偉いヒト。が正体だよ。」
じゅえる「全然正体じゃない。

 弥生ちゃんのライバルの黒の母、は出てくるんだよ。あのヒトは違うんだね?」
まゆ子「あの人はあくまでも火焔教ですよ。裏トカゲ王国とは一線を画しているが、まあ似たようなもの。あの人は皇帝ではなく女帝です。」
釈「そうですね。皇帝をやっつけたら女帝に褒められた。そういうシナリオなんです。今のところの構想上は。」

まゆ子「しかし裏トカゲ王国の理念を継ぐものだとすれば、その目的は悪の養殖。最も強き悪を為政者によって敢然と打ち砕かせる事で支配体制を盤石なものとする。
 そういう目的だぞ。
 つまりミラーゲンは他の犯罪組織に対しても敵なのだ。」
釈「蠱毒の計ですね。毒虫同士を咬み合わせて最後に生き残ったものをトカゲ神救世主が討つ、というシナリオです。」

じゅえる「じゃあ、大量殺人されるのは組織犯罪者という時もあるわけだ。」
釈「いいですね。世間で悪評を轟かせていた犯罪組織が根こそぎぶち殺される事件が起きるわけですよ。これがマキアリイさんが解決すべき事件です。」
まゆ子「その一つ、だな。ミラーゲンが関与する事件はおおむねそういう風に始まる事にしよう。」

 

じゅえる「とりあえず大量殺人はクリア。次行こう。」

釈「もう一件別口の大量殺人も用意しておきましょう。もちろんマキアリイさんの活躍で未遂で阻止成功です。」
じゅえる「スタジアム爆発、程度のやつだな。」
まゆ子「スタジアムは爆発しなくてはならない。いやだいばくはつだ。」
釈「絵的にもそうですね。爆発大賛成です。」

じゅえる「だが観客は誰一人死なない、無事。勝ち誇る悪党が唖然呆然の中で逮捕されちゃうのだ。」
まゆ子「観客が満員、と思っていたのに、実はまるっきり誰も居ない。マキアリイの機略により敵の裏を掻き欺いたというわけだ。」
釈「いいですねそのシナリオ。スタジアム自体は壊れますが、悪も滅びるのです。」
じゅえる「愉快犯だな、それは。あるいは英雄探偵に挑戦状というシナリオでもいいぞ。」
まゆ子「そこは警察にしようよ。マッキーさんは普通だとそういうのには関与しないんだよ民間人だから。」
じゅえる「なんとかしろ。」

まゆ子「あーそーだねー、脅迫状いや予告状はマッキーさんの所にも届くわけですが、動く主体は警察局であり巡邏軍だ。マッキーさんは日常営業中。
 しかし、あることをキッカケに敵の正体に感づいたマッキーさんがカニ巫女を連れて独自調査を始めるのです。
 そして犯人をペテンに掛けて、誰も居ないスタジアム大爆発という結果。つまりそれまで警察もスタジアムが爆破されるとは考えていなかったのだ。
 だからマッキーさんが一人で何万人もを避難させるのに成功する。というシナリオ。」

釈「おう、そりゃ警察が道化扱いですね。泣けます。」
じゅえる「ひょんな事で気がつく、ってのは何?」
釈「そんなのは小説化する際に考えればいいんです。未定です。」
じゅえる「いやいや、そこわかんないとシナリオもへったくれも無いぞ。」

まゆ子「この話はこういう風に始まります。

 ある日、割りと世間に名が知られてきたマキアリイ事務所に一通の脅迫状が送られてくる。
 どこそこで人を爆殺する、というふざけた手紙。挑戦状だ。
 マキアリイとカニ巫女はなんだこのいたずらは、と思うが市民の義務として警察局に相談する。
 警察局の捜査官は一応は事務所に出向いてくるが、もちろんまったく取り合わない。もちろんマキアリイにも調査の必要なしと断言する。
 マッキーさんも依頼料が無ければ調査しないよ、ということで、自分には責任がありませんというところを捜査官に納得させる。終了。
 だが! ほんとうに爆殺事件が発生するのだ。警察局メンツ丸つぶれ。矛先はなんの落ち度もないマキアリイに!」

釈「それはどうみてもザイリナ時代のお話ですね。」
じゅえる「それザイリナ事件ね。」

 

まゆ子「欲が出たぞ。大量殺人をもう一件考えよう。」

釈「無差別殺人はどうでしょう。なにか条件を満たす人を問答無用でタンガラム中のどこかで殺しているのです。」
じゅえる「超広域殺人か。なるほど、それは難しいな。」
まゆ子「ふむふむ。本来であればどこの件でもあまりにも遠すぎて連続殺人と分からないのに、誰かが気付くんだ。マキアリイ、じゃないよね?」
釈「新聞社の人間でしょう。全国のニュースを拾い集めていて、偶然の一致に気付いた。それで全国的に恐怖のブームとなる。」

じゅえる「マッキーさんは関係ないな。」
釈「えーとこの場合どう絡みますかね。一度気がついたら警察も血眼になって探すでしょう。連続殺人の一致点を見つけ出す名探偵というのが、」
まゆ子「マキアリイ以外の名探偵が一致点を見つけた。という事にする。そこで全国の警察巡邏軍が一斉に警戒する中、えーとマッキーさんは。」
じゅえる「こんな事件は出番が無いな、とぼーっとゲルタでも食っているのだ。そこにたまたま。」
まゆ子「いやそんな消極的な事件の関与は嬉しくないぞ。やはり動いてくれないと。」

じゅえる「じゃあカニ巫女が殺人現場に遭遇して、辛くも取り逃がすというのは。もちろん被害者は無事ということで。」
まゆ子「ふむ。カニ巫女も活躍しないとな。」
釈「そうですね、マキアリイでなくカニ巫女の方がこの事件では立派だと讃えられるんです。」
じゅえる「でも一度気づけば警察が追い回すんだな。マキアリイの出番は無い。それでいいのか?」
まゆ子「ふむ、たまにはそういうのもあっても良いが、最後にはビシっと決めるのが英雄探偵だ。どうしよう。」
釈「そこは刑事らしさがびしっと欲しいところですが、この事件の性質上犯人は単独犯ですかね。一人で方台上を行ったり来たりする職業の。」

じゅえる「ABC殺人事件のポアロさんを先週見たんだな。うんそういうシナリオでも良いけど。」
まゆ子「犯人は複数! それぞれの事件の地元に居る。同じ条件が揃った人間を殺すことにより単独犯の犯行と見せかけて自分達は逃げ切るというトリックだ。
 囮のストッキングのセールスマンを用意するべきなのだ。」
釈「では、ABC殺人事件を下敷きにしましょう。木を隠すなら森の中、というのを逆手に取るのです。」

じゅえる「警察はそのシナリオで動いていたのを、マキアリイが看破するのだ。名探偵よりも名探偵であるのだな。
 まあ彼が気付くのは、一人で何人も殺しておきながらカニ巫女に妨害されるような不手際をする慣れてなさ、に違和感を覚えるのだ。」

釈「つまりこれは、殺人ネットワーク! 事件ですね。」
じゅえる「うむ。立派な超凶悪事件だ。」
まゆ子「これは乱暴なシャヤユートにふさわしい事件だな。規模的にも怪奇的にも。」
釈「そうですね、これはマキアリイ英雄の令名が或る程度行き渡った状態で起きるべき事件でしょう。ならば三番目です。」
じゅえる「ケバルナヤはもっと荒削りな事件解決、だな。」

 

まゆ子「もう一件だ!大量殺人。」

釈「えー、食中毒事件では。」
じゅえる「毒か。飲食物に猛毒を混ぜて殺人、というのは世界中古今東西よくある殺人だな。」
まゆ子「木を隠すには、これですよ。」
釈「目的の人物を殺すために、町全体をブチ殺す的な狂気。これはイケます。」

じゅえる「ゲルタに毒を混ぜる、というのはどうだろう。マキアリイ激怒憤怒シナリオだ。」
まゆ子「いやそれは、まっさきに食っちゃうからなあー。」
釈「毒煙ではどうでしょう。ゲルタを焼く煙に見せかけて、有毒ガスで大量殺人です。」
まゆ子「そっちだ!」
じゅえる「なるほど、ちょっと空気の流入が悪いような所にゲルタを焼いた煙が流れ込んだ、というシナリオで人が死ぬんだな。それはマキアリイ激怒だ。」
釈「日頃ゲルタを焼いていて悪臭に慣らされているから、有毒ガスの混入に気が付くのが遅れて死ぬのです。」
まゆ子「許せないな、それは絶対許せないな。」

釈「しかし、これは犯罪が発生するまでマキアリイさんも手が出せない状況です。どうしましょう。」
じゅえる「日頃からゲルタの臭いがするいい感じのところにマキアリイがふらふら〜と吸い寄せられていると、ある日煙の中に異臭を感じ取る。いや無臭の毒ガスだが気が付くのだ。
 そして英雄的に突入して人々を救い、自らも負傷。消防が後から来て大惨事を防ぐことが出来た。
 事件解決は警察巡邏軍に任せておいて療養生活。だが、木を隠すには、に気が付くのだ。」
まゆ子「なるほど。そして目標となる誰が死ななかったから事件はまた起きると看破するのだ。次が食中毒に見せかけた殺害、をマキアリイの指示で動くカニ巫女が阻止する。

 これでいいんじゃないか。」
じゅえる「これこそケバルナヤ的な事件だな。マキアリイの趣味っぽいし。」
釈「ですね。これは探偵生活初期的な事件ですよ。」

 

まゆ子「もう一件、どこか地方でベイスラでない所で起きる大量殺人が。」
釈「山奥ですか都会ですか海ですか。」
じゅえる「平原の野原か農園では?」
まゆ子「平原で大量殺人、出来る?」
じゅえる「あーそれはーむしろー、軍関係で火器を大量使用てのかな。」

釈「どこらへんに行きましょうか。それで決まります。」
まゆ子「ふーむ、首都での犯罪もアリだが、派手に有名になるとしたらやはり人口の多い都市だろうし、」

釈「観光地では?」
まゆ子「うむ、では救世主ヤヤチャ様の聖地「テキュ」だ。トカゲ王国の首都だよ。新ぴるまるれれこ教団の本拠地でもある。」

じゅえる「宗教関係か、敵対宗教の仕業か。それとも宗教内部での内ゲバか。」
まゆ子「宗教抜きでは無理かな、大量殺人。」
釈「むしろ、祭り?」
じゅえる「祭りの花火に本物の爆薬を仕掛けて、という手も。」
まゆ子「いやもうちょっと手の込んだお話を。」

じゅえる「甲冑で剣闘というのはどうだ。祭りの只中に完全武装の甲冑武者が現れて惨殺を始めるのだ。」
釈「なんでそんなばかみたいな事件が。」
まゆ子「絵的には面白いが、なんでだよそれ。」

じゅえる「そこまでは考えてないが、祭りのさなかに起きた惨劇をマキアリイが武術の腕で食い止めて英雄!
 だが次から次へと現れる甲冑武者が無差別殺戮を繰り返す。」
釈「薬物中毒患者ですね。恐怖の白い粉ですよ。中世時代の騎士物語の幻覚を見ているのです。」

まゆ子「そこは、火焔教だ。」
じゅえる「なるほど、これは魔法の力だな。」
釈「そういうことであれば、火焔教の起こす事件としては納得です。絵的に見栄えもよろしくて。」
まゆ子「よし、これもアリとして、シャヤユートだな。」
じゅえる「怪奇系はシャヤユートでいいぞ。」

 

まゆ子「というわけで大量殺人系が決まりました。
 ショッカー系×3(+1クワンパ)、スタジアム爆破、超広域無差別殺人、ゲルタ毒煙、鎧武者乱入。」

釈「次は組織犯罪ですね。ヤクザも含めましょう。
 これに、政府や軍部の汚職とかも絡めますか?」
まゆ子「そういう事になるな。このジャンルはとにかく欲が原動力だ。」

じゅえる「その前に、おしゃれ系犯罪を2件ほど作っとかないか。怪盗が華麗に活躍する奴。」
釈「なるほど、彩りを考えるとそういうのも必要ですね。」

まゆ子「華麗なる復讐者による見せしめ殺人、てのはオシャレ系に入れていいのか?」
釈「勿論です!」
まゆ子「じゃあ、華麗なる復讐者は美女で。」
じゅえる「OK! そう来なくっちゃ。とにかく犯罪自体はものすごく残虐なものにしよう。
たとえば古い塔の避雷針から腸を引きずりだした死体がぶら下げられるとか。」
釈「酷いですねえ残虐ですねえホラーですねえまさにオカルトですよ。それが華麗なる復讐者です。」

まゆ子「よし、じゃあそれで。でもこれは美人巫女シャヤユートの出番じゃないな。ザイリナだな。」
釈「そうですねー、この場合マキアリイが美女と恋に落ちる展開が必要ですから、カニ巫女子供を使いましょう。」

 

じゅえる「そういや、ケバルナヤはアユ・サユル湖で遊覧船を座礁させ、ザイリナは鉄道列車を脱線させていたな。
 これも数に入れないと。」
まゆ子「シャヤユートの美装店エロ奴隷事件もね。それと、ザイリナの「闇御前」「連続暗殺未遂」が確定した犯罪なのだ。」
釈「シャヤユート最後の事件、もあります。これは山奥の旧家にまつわる残虐な連続殺人事件ですね。

 前2つは組織犯罪で使えると思います。美装店はそれこそ組織犯罪です。ザイリナ2件はもろ政界ですね。」
まゆ子「まあ、華麗なる復讐者はシャヤユート最後の事件と同じ系列の、怨恨痴情系ドロドロ殺人だな。
 意外とこの系列はマキアリイは巻き込まれないんだ、というか超大事件にはならないのだな。」

釈「世間への伝播力が低い犯罪、ということですね。もちろんドラマ化映画化する際にはこういうのも大人気です。」
まゆ子「実際、次の映画はシャヤユート最後の事件でドロドロ系だからな。

 今回のくっちゃりで考えているのは大事件であって少ないですが、さくっと片付いたその他大勢の事件には、この系列は結構あるのです。」
じゅえる「その中でも特筆に値する大事件が、華麗なる復讐者、とシャヤユート最後の事件、てことか。」
釈「それに、怪盗VS英雄探偵、です。」
まゆ子「ロマン系犯罪と呼ぼう。3件も有れば十分だろ。

 

 で、怪盗は何を盗むのだ?」
釈「あなたの心です。」
じゅえる「いやーそういうオチが利くような華麗な怪盗でないとな。逮捕する?」
まゆ子「逮捕しよう。だが警察から脱獄して、それはマキアリイの関知するところではないから、怪盗VS英雄探偵その2を乞うご期待でしょう。」

じゅえる「次元と五右衛門を付けようか?」
まゆ子「ああ、うん、そうだな。怪盗自身は男性で1人としてそのサポート役が二三人いてもいいな。」
釈「執事とメイドとボーイですよ。老執事が凄い知恵を持っていて、若くて美人の怪しいメイドと元気の良い少年がサポート役なのです。怪盗は若様です。」
じゅえる「怪盗一家なのか。」
釈「もう何百年と続く怪盗一族の末裔、ということで。」
まゆ子「ずいぶんと趣味だなあ。まあ、いいか。
 じゃあそういうことならば、古代のギィール神族が築いた地下帝国のお宝へと案内してくれる赤石、タコ石のタコ、という事にしよう。」

釈「舞台はお城です。お姫様の胸に輝く宝石なのです。」
じゅえる「怪盗ならそうだろうな。それ以外だとなんだかな。」

釈「お姫様の祈りによって、タコ石のタコは脚を伸ばして本来の姿カタチに戻るのです。その状態でやっと鍵としての役割を果たす。」
まゆ子「ふむふむ。その程度の不思議は許容範囲だ。もっと魔法出していいぞ。」

釈「では、地下の巨大鍾乳洞を抜けると、お宝が収められた地下神殿が発見されるのです。
 もちろん怪盗・マキアリイとは別に第三の勢力の邪悪も追い掛けてきます。
 そして最後に宝の部屋に到着したのは、怪盗とマキアリイのみ。そこで見たものは!」
まゆ子じゅえる「ふむふむ。」

釈「空っぽの部屋。すでに宝は何者かによってとっくの昔に運び去られていたのです。がっかりです。

 だがその部屋の中心に一本の鉄釘が打ち込まれて居るのですが、それに触るとぱあーっと青く光輝きます。
 それで二人共に、宝を持ち去った犯人が実は1200年前のトカゲ神救世主ヤヤチャ様である事に気付くのです。
 この場所に収められていた秘宝というのは、古代の知識を収蔵した書物であり、地上世界で大学を作る際にヤヤチャが火焔教から分捕っていった。
 その証明として、青く光る鉄釘のみが残されていた。

 だが今となっては、その光る鉄釘こそが何者にも代えがたい重要な文化遺産として値の付けられない価値を持つのです。」

じゅえる「なるほど。」
まゆ子「いいシナリオだ。

 最後はこうしよう。そこに第三勢力の悪の首領が現れて拳銃を突き付けて貴重なヤヤチャ財宝である鉄釘を寄越せと脅迫する。
 マキアリイと怪盗は肩をすくめ、光る鉄釘を悪党に投げる。悪党それを掴むと、ぎゃーと叫び声を上げて手を押さえ拳銃を取り落とすのだ。

 何故ならヤヤチャ伝説によれば、青く光る力を与えられた神剣は、ヨコシマな心を持つ者が握ると鞘に入っている状態でも柄を握っていても、その者の手をすっぱりと切断した。と言い伝えられているのです。」
じゅえる「魔法だな。」
釈「善い魔法です!」

まゆ子「鉄釘を拾ったのはマキアリイ。怪盗は、自分は大丈夫かどうか自信が無いと手を出さない。
 だが怪しいメイドが鉄釘を掻っ攫って行き、怪盗自身は捕まった。
 警察は、そもそも財宝が無かったという事実でもうどうでもよくなり、怪盗を捕まえた事自体で大喜びなわけです。真に価値あるものは奪い去られたままなのに。」
じゅえる「ふむふむ。では城の姫にとってそれはとても素晴らしい宝なのだな。」

まゆ子「そうだな。それはなんか繋がりが欲しいな。」
釈「城の地下深くから自分を呼ぶ清浄な声がした、とかを夢枕に聞くのです。彼女のこの霊感から、すべての事件が始まる。」
まゆ子「うむうむ。でも鉄釘盗まれたからな。」
釈「それも姫は善い事としてマキアリイを諭すのです。素晴らしいものが明るい陽の光の下に出ることとなった。世の為人の為になるのですと。」

 

じゅえる「うん、じゃあロマン犯罪は3件。
 華麗なる復讐者、怪盗タコ石、シャヤユート最後の事件。」

まゆ子「大量殺人系が
 ショッカー系×3(+1クワンパ)、スタジアム爆破、超広域無差別殺人、ゲルタ毒煙、鎧武者乱入。」

釈「窃盗ネタが
 盗難国宝発見・金塊強奪列車強盗・古墳盗掘殺人事件・高額紙幣詐取・裸婦像毀損。」

まゆ子「計15件。十分過ぎるが、まだ政財界軍部絡みの組織犯罪やらヤクザ犯罪が残っている。と。
 だがここでひとつ抑えておかねばならない条件があるんだな。

 ケバルナヤ・ザイリナ・シャヤユート、この三人の巫女にはひとりひとりに山場となる事件が用意され、感動的な別れをしなければならない。」
じゅえる「物語的に正しい盛り上がり方をスケジュールしなくちゃならんてわけだ。」
釈「それは重要な問題です。でもシャヤユートは自らが逮捕されるという、演劇的な最終回を迎えたわけですね。」
まゆ子「シャヤユートはそれでいい。

 ザイリナは、「闇御前」事件を解決して、「マキアリイ連続殺害未遂」事件をくぐり抜けて、大団円の中関係者全員と円満に事務所卒業です。」
じゅえる「それはそれでいいエンディングだな。」
釈「修正の必要は無いと思います。」

まゆ子「で、ケバルナヤの最終回もそれにふさわしい大型事件を用意すべきだと思います。」
じゅえる「いやそれは、テロリスト「ミラーゲン」との最初の抗争でいいじゃないか。」
まゆ子「うーむなるほどなるほど。」
釈「テロリストとの対決は、普通は大事件でしょう。それもショッカーですよショッカー。」
まゆ子「そうだなー。じゃあその線で行くか。なにか大仕掛なカネの掛かる陰謀を開発するか。」

釈「今日はここまでにしておきましょう。」

 

   ******

まゆ子「とまあそういうわけで再開。

 窃盗絡みの多くは組織犯罪やら集団やらが関与するわけで、また特殊な権益が絡むとなればそれなりの事業者がまた政治家等々も裏に控えているわけですよ。
 つまりは窃盗関連は巨悪を表現するための方便と見做してよいわけです。」
釈「ですね。巨悪が裏に絡んでこれをやっつけないと真の解決とはならない。」
じゅえる「そうは言ってもだ、巨悪は巨悪で直接アクセスするのが王道だろう。」
まゆ子「そこはねー、マキアリイさんの性格特質から言って、直接政治家やら政商やらと絡みが無いんだよね。
 あくまでも日常市井の私立刑事探偵としての業務が、とんとんころりと転げていって、気がついたら大物が釣れていた。そういう話だ。」

釈「とりあえず政治関係の悪を並べてみましょう。
 まずは汚職ですね、横領でもいい。不正な強権発動による市民の損害、さらには個人の権利が侵害される。もっと言えば特別高等警察なんかも出て欲しいです。」
じゅえる「思想警察か。タンガラム民衆協和国ではそこんとこどうなんだ。」

まゆ子「基本的な事を言えば、現体制は左翼です。」
釈「そうなんですか。」
まゆ子「民衆協和体制にも思想の血脈が何本もあるわけで、その中でも現在の体制は、全ての国民に平等に政治権利がある、という事になっています。」
じゅえる「なんかおかしいのかそれ?」
まゆ子「おかしいですよ。別の思想では、バカが政治に関与するなんて以ての外! てのもありますから。」
釈「なるほど、理に適っている。」
じゅえる「そこは確かに左翼的だな。」
まゆ子「他にも税金等国家への貢献に応じて権利に差別があるべきだ、という思想もあります。国民を富裕層と労働者層に分けて個別に社会を形成するべきだ、という思想だって。」

釈「それ全部同じ民衆協和主義なんですか。」
まゆ子「共産主義的な資産の国家独占を唱えるものだってあります。現在の体制はむしろ資本主義、資本家優先独占の強権体制に近いとも言えます。」
じゅえる「なるほど、特別高等警察で取り締まるにしても大変だな。」
まゆ子「というわけで、特高は思想的に誰それを捕まえるって活動はしていないのです。主にテロリスト破壊活動を取り締まっています。」

釈「右翼、ってのは居ないんですか。」
じゅえる「いや、タンガラムの右翼ってなんだ?」
まゆ子「あー、いわゆる復古主義反動主義というのはありません。なんとなれば、すでにこの世界に聖戴者が居ませんから、支配体制が作れないのです。
 現在の民衆主義体制は、聖戴者と呼ばれる絶対的権威の喪失をいかに補うか、をメインテーマに形作られているのです。」

じゅえる「だよな。だから右翼的というならば、軍国主義か。」
まゆ子「そだね。国防体制を強化して、海外に進出して権益をがっぽり掴もうぜ、というのが右翼的といえば右翼的。」
釈「それは支持率はどうなんですか。」
まゆ子「いやー軍国主義にも色々有るからねー。独裁者やら皇帝やらを作ろう的なものから、全国民徴兵による平等な国家体制を作ろう的なものまで。」
じゅえる「ギリシャ的な民主主義か。うーむ、左翼右翼で分けるのは無理があるな。」

まゆ子「今度、タンガラムにおける政治情勢については特別考察回を作りましょう。」

 

釈「ということで、政治はめんどくさいのですが、政治犯罪は典型的で分り易いのです。」
まゆ子「あー基本的に汚職事件を2、3件でっち上げるとして、それぞれが別々の利権に食い込んでいるとして、考えなくちゃ。」
じゅえる「公共土木事業がまあ、普通に。」
釈「軍部に関係する利権も必要ですね。あと政治家ではなく官界の腐敗も。」
まゆ子「じゃあそこは仲良く、政治家・軍人・高級官僚 の三点セットで3件の悪をやっつけます。」

釈「「闇御前」は国会だけでなく政官財軍のすべてに影響力を持つ超黒幕ですよね。
 これはーどう扱いましょう。」
まゆ子「まずはささいな事件から発展して、数多の妨害をくぐり抜けて到達したら、超大物だった! という事件です。
 発端は少女がエロ奴隷にされる、ってものだな。でエロ組織を探索していくと何故か。」

じゅえる「シャヤユートの美装店誘拐事件、とは異なるのか。」
まゆ子「これはザイリナ時代だからね。そうだねー借金のカタに少女が人身御供にされるというなんともアナクロな事件でザイリナが怒りの探索を行うのです。」
じゅえる「借金のカタで風俗、ってのは無いのか?」
まゆ子「普通にあるんだけどね。ただこの場合ちょっと異常な噂があって、少女が生き肝を食われる的な怪談話都市伝説なんだ。
 普通の人ならそんなバカな、で済むところ、カニ巫女ザイリナが食いついた。」
釈「なるほど。発端はそういうものですか。」

まゆ子「えーと、ザイリナの結末的事件が「闇御前」だから、それ以前の汚職やらの事件はその前座という事になります。
 そうだなー、ザイリナ時代にその三点セットを立て続けに解決してマキアリイは「政財界公権力に対する民衆の闘士」的な崇められ方をするんです。
 で、そういうのはやだなー、と二人共思っていたら、ザイリナが学校怪談を仕入れてきて、面白がって調べていたら。
 という顛末。」

じゅえる「そうか、政治事件が立て続け、か。」
釈「でもノゲ・ベイスラに居てそんなのに遭遇しますかねえ。」
まゆ子「そうだな、じゃあ前座3事件は、地元、ちょっと大きめの地域、全国レベル、というだんだんエスカレートする事にしよう。」
じゅえる「だが地元の汚職を暴いても映画にはならないぞ。」
まゆ子「ふむ。」
釈「そこは殺人事件絡みですよ。なんだったら組織犯罪者も絡めてもいい。」
まゆ子「そうだな、純粋な政治的事件でなく、政治家も絡む犯罪だな。」

じゅえる「全国レベルのは逆に、そういう細かい殺人事件とかとは無縁な、完全な経済犯罪であった方がいいと思うぞ。」
釈「政商の出番ですね。」
まゆ子「ふむ。軍における最新兵器導入に関する不正とか、そういうレベルの奴が欲しいな。」
釈「ますますマキアリイと関係ないです。」
じゅえる「そこはヒィキタイタン様にお出ましを願おう。政治家ヒィキタイタンが独自調査で軍の汚職について調べていたら、有力情報を掴んだという報告を最後に調査員が失踪。
 困り果てて、友人であるマキアリイに探索を依頼。てのでどうだ!」
釈「グッドです。」
まゆ子「政界話はそりゃヒィキタイタンが出ないとな。」

釈「中くらいの事件はどうしましょう。」
まゆ子「公共事業にまつわる不正だろ、そんな程度だよ。」
じゅえる「鉄道とかダム工事とか、そんなのだな。許認可に不正があったのさ。」
釈「あーそーですねー、現在の中国みたいに地元住民を踏みにじる形で自然破壊が進行していて、たまりかねた地元民がマキアリイに相談してくる的な展開ですね。」
まゆ子「自然と現場に溶け込める設定だなそれだと。で、建設側に雇われたならず者をマキアリイパンチでやっつけていると、大物がマキアリイを買収しようと。」
じゅえる「その交渉の現場で、ザイリナが事業の裏に隠されたとんでもない陰謀に気付くのだ。」
まゆ子「うんうん。」
釈「いいですね、典型的な探偵もので。」

まゆ子「最初の地元政治家の事件。金塊強奪とか盗難国宝とかを絡めよう。犯罪組織と裏で関係していたと。
 逆に公共事業の方はブラックだが公然としたヤクザが関与する事件。メリハリをつける。」
じゅえる「金塊強奪だな。組織犯罪者も出てくるし。」
釈「では軍の納入にはそういう民間の悪組織は一切関与しない、もう公共の組織秘密諜報機関がびっちり関与してくるようにしましょう。」

 

じゅえる「ザイリナ時代は、小地元政治家、中公共事業、大軍部新兵器納入、闇御前、英雄暗殺。
 ずいぶんとみっちり詰まっているじゃないか。」
釈「詰め過ぎましたかね?」
まゆ子「じゃあ残りの事件は軽くゆるく、ロマン系でまとめよう。」
釈「ミラーゲンのテロリストはどうしましょう? 闇御前とか絡めますかね。」
まゆ子「うーん…。」
じゅえる「そういやザイリナは鉄道列車を脱線させたんだったな。誘拐された少女が線路に縛られているのを助けるために。
 これは?」
まゆ子「英雄暗殺。もしくは別口の犯罪組織の事件だな。少女誘拐は別口にしたいなー。」
釈「その少女はエロ奴隷目的ではなく、なにか重要な情報を握る人物の口封じをする為の人質として拐われた。そういう事にしましょう。」
じゅえる「それなら軍部納入事件だな。」
まゆ子「うむ、そんなところだな。」

釈「華麗なる復讐者、怪盗タコ石、スタジアム爆発予告挑戦状、大中小政治がらみ、   闇御前、英雄暗殺。
 こんなものですかね。」
じゅえる「そんなものだろう。」
まゆ子「うーん、細かいネタが欲しいところだが、あーそーだなー、事務員となったザイリナが最初に遭遇する事件にふさわしいのが欲しいな。」
釈「なるほど、規模的には控えめでありながら、印象深い趣きのある事件。」
じゅえる「それも映画になるようなドラマティックな奴だな。」

まゆ子「裸婦像毀損事件、を持ってくるか。ロマンちっくであり劇的映画的に。陰惨な殺人事件も絡めやすい。」
釈「浅見光彦的ですね。」
じゅえる「決まりだな。」

 

釈「次はシャヤユート時代を考えましょう。
 今までに決まっている事件は、  美装店誘拐エロ奴隷、超広域連続殺人事件、古都甲冑乱殺事件、シャヤユート最後の事件。」
じゅえる「ミラーゲンのテロリストが居ないぞ。」
釈「あ、そうですね。大掛かりな舞台装置が必要な、てのは古都甲冑でいいんじゃないですか?」
まゆ子「そこはテロリスト違いだ。火焔教の仕業だよ。」

釈「シャヤユート最初の事件は美装店誘拐でいいですよね。彼女美人だしぴったりだと思います。」
じゅえる「絵的に映えるしな。」
まゆ子「高額紙幣詐欺、もシャヤユートでいいと思うぞ。あまり役に立ちそうにないが、マキアリイが主に活躍する事件、でいいだろ。」

じゅえる「5個決まっちゃったぞ。」
釈「ですね。」
まゆ子「古墳盗掘殺人事件、をシャヤユート最後の事件に絡めよう。その旧家というのが実は財をなしたそもそもの元が、古墳盗掘で互いに殺し合った結果勝ち残りなんだ。」
釈「なるほど。それならば狂気を孕んだ犯行にも一定の理解が出来ますね。」

まゆ子「だが、うーんなんか足りない。」
じゅえる「アクションだよ。痛快なガンアクションがシャヤユートには無い。」
まゆ子「つまり、ヤクザ組織か。」
釈「ここは外国人犯罪者組織、を出してみませんか?」
じゅえる「それまでに出ていないのか、外国人犯罪。」
まゆ子「無いねえ。うーん、そうだな。美装店誘拐は海外にタンガラム美人を売り飛ばす犯罪、という事にするか。」
釈「それだと無理なく外国人犯罪組織が絡みますね。ドンパチだって普通に出来ます。」

 

まゆ子「あ、今考えついたんだが、クワンパの事件スケジュールにはちゃんと入っている「国家の式典に英雄マキアリイが呼ばれて列席、その会場で事件が!」系が、無い。」

釈「そりゃ大変だ。押し込まないと。」
じゅえる「ザイリナ時代には1回くらい必要だな、そういうの。
 だがーまてよ。大中小事件の連続解決を、国から表彰されるってのはどうだろう。そこから闇御前事件に絡めていくのは。」
まゆ子「ふむ。
 首都でさんざん表彰され歓待された二人は、ノゲ・ベイスラにげっそりとなって戻ってきて、もう大げさな事件はこりごりだ。と学級怪談に飛びつくのだ。
 これでいいかな。」
釈「まあ、展開としては。書かないんですけどね。」
じゅえる「書かないんだよ、これらの事件は。」

釈「それにしても、シャヤユート時代には国家レベルの犯罪が無いですね。」
じゅえる「ふむ。なにか作れ。」
まゆ子「えーと待ってよおー、スパイ事件はクワンパに用意されているから、暗殺事件か。

 国家の重鎮が殺されて、でも捜査がまったく進まない。その真相は某国からの外交使節による殺人事件であり、国家間の信頼関係を揺るがさぬ為に伏せられるのだ。
 マキアリイはその重鎮に一度ならず会った事があり、ザイリナ時代の政治絡みの事件で後処理をしてもらった恩が有る。
 勿論「闇御前」の勢力に加担していない清廉な政治家であり、殺されるとすれば悪の恨みを買ったからに違いないだろう。
 個人的に捜査に乗り出したマキアリイを、国家秘密諜報機関が阻止しようと動き出す。

 こんなもんでどうだ。」
じゅえる「ちょうどいいくらいの国家の関与だな。マキアリイも自然と絡めるし、なにより大げさじゃない。」
釈「これをミラーゲンの陰謀にしましょう。憎っくきマキアリイを「国家の敵」として排除する為の陰謀なのです。」
まゆ子「ふむ。大げさな大量殺人事件でなくてもアリか。海外にまでミラーゲンの魔手が伸びている、とも考えられるし。」
じゅえる「仕掛けにカネが掛かってないが、なんとか考えよう。

 そうだな、国際友好都市、とかいうのをどこかに作ってその落成式に殺人事件だ。」
釈「最後はばくはつ!」
じゅえる「おう!」
まゆ子「よし、計画都市まるごと爆発オチだ。」

じゅえる「ただこの事件はあまりにも国際的な影響が大きすぎる為に、国家から報道が禁止されて、世間の人には知られていない。という事にしよう。
 それならば「新聞で大きく取り上げられたシャヤユート時代の事件は5つ」に合致する。」
まゆ子「うん、そんな感じがいいね。」

 

釈「というわけで、ケバルナヤ時代です。彼女のオチとなる大規模な事件はテロリスト「ミラーゲン」との最初の遭遇です。」

じゅえる「結局、ザイリナ時代のミラーゲンはどうなったんだ?」
まゆ子「まず「闇御前」がミラーゲンの関係者、というかミラーゲン元帥でいいさ。
 そうだなースタジアム爆発事件、これミラーゲンが大金を投じて作ったマキアリイ抹殺施設、てのはどうだろう。
 新築でまだ開業もしていないスタジアムに建設時期から爆発物が仕掛けられているなんて、おしゃかさまでもきがつくめえさ。」
釈「そこまで大げさにしますか。」
じゅえる「そうか、スタジアム開業イベントで観客総動員抹殺計画だな。警察が血眼になって探しても爆弾は決して見つからない。」
釈「いいですねいいですね、そのくらい阿呆な方がショッカーぽくていいですよ。」

まゆ子「それでケバルナヤだがね、彼女には「アユ・サユル湖で遊覧船を座礁させた」という罪状があるんだ。
 これを考えて、豪華遊覧船爆破がミラーゲンの仕業、というのはどうだろう。
 しかも乗客はすべて招待された各界名士であり、だがその実態は数多の犯罪組織のボス共なのだ。
 ミラーゲンはタンガラムに巣食う悪をまとめて湖の藻屑とする、凄まじい殺害計画を敢行するのだ。」

じゅえる「マキアリイはなんでそんな船に乗ってしまうんだ?」
釈「そりゃあ、悪を追いかけて行ったらそうなった、んでしょ。」
まゆ子「まあそういうことなんだが、そうだな。うん、マキアリイには水上飛行機を操縦する特技がある。
 豪華遊覧客船にも、ケバルナヤ付きで空から降りて合流しよう。」
釈「派手ですね。」
まゆ子「派手でいいんだよ。まあ、水上機をなんで操縦してたのか、にはとんでもなく???だが。」

じゅえる「しかし、悪党総登場ってのは面白い舞台だな。刺客とかボディガードとか満載で。」
釈「絵になると言えば、そりゃあ凄いですけどね。」

まゆ子「ケバルナヤ時代の特徴は、かなり貧乏くさいてとこです。なにせ事務所もなく階段で眠っているくらいですから。
 えーと、ゲルタ毒煙事件、遊覧船座礁事件。」

じゅえる「犯罪の残りは、盗難国宝発見事件、ですか。足りないな。」
まゆ子「盗難国宝はいいな。ケバルナヤデビュー犯罪として。」
釈「そうですねえ、あの有名な英雄マキアリイさんが犯罪捜査で失われた国宝を奪還! これは全国ニュースですよ。
 刑事探偵デビューとしても最高の出だし、カニ巫女デビューでも最高です。」
じゅえる「うん、それはいいな。」

 

まゆ子「ではのこり3件か。まあ細かい事件は10件以上解決しているのだが。
 ヤクザと乱闘だな。」
釈「一人でヤクザの大軍をやっつけますか。」
じゅえる「いや、そうじゃない。ヤクザ同士の抗争で正面決戦の場に颯爽登場!英雄探偵だ。」
まゆ子「仲裁するのか?」
じゅえる「うーん、とにかくヤクザ同士が戦うだけの深刻な利権争いがあるはずだ。それをなんとかすれば抗争も無くなる。
 ヤクザの抗争で迷惑を被る周辺住民も無事。という塩梅。」
まゆ子「うーん、利権……、いや、その抗争の元はささいな行き違いと錯誤によるもので、真相が何者かけちな悪党によって隠されているのだ。
 どちらのヤクザも抗争で大ダメージを受ければ儲けもの、という第三勢力によってね。

 マキアリイはそのケチな陰謀を暴いて、ヤクザ抗争を止めさせるが一度火が点いた喧嘩は止められないと、最終決着がマキアリイの腕力勝負となってしまう。」
釈「『鉄火場の若大将』ですね。」
じゅえる「そこまで武張った話にするか。いや、駆け出し時代はそこまでやらないといかんね。」
まゆ子「じゃあ、ヤクザ抗争事件。」

 

釈「もう一個は、しんみりとしたケバルナヤの人格に沿った深い話にしましょう。神に仕えるカニ巫女でなければ癒せない。」
じゅえる「過去の戦争での犠牲者を弔う、とかそんなやつだな。」
まゆ子「ふむー、過去と言ってもどのくらいにするか。人間が生きて恨みなり想いなりを抱えて生きるのは、せいぜい60年だな。60年前の出来事だ。」
釈「ベイスラの歴史知りませんが、60年前ってどんなでしたか?」
まゆ子「あー砂糖戦争も更に40年は遡るかな。戦争と言っても、うーん、クーデターくらいだろうな。」

じゅえる「クーデターで倒された政権があるとして、その時の騒乱によって多くの無辜の民衆が殺されたという事で、その時の犠牲者の遺族がその人物だな。」
まゆ子「過去の大量虐殺が、あいやそうじゃない、特別高等警察によるクーデター派の大量抹殺事件てのがあって、それが極秘事項になっていたんだ。
 もちろん今の政権はクーデター後に成立しているのだから、責任は無い。だが特別高等警察はその後組織改編をされ、秘密を抱えたまま現体制に吸収された。
 その秘密を暴き出す。古い怨念が暴こうとするマキアリイに襲いかかる。」

釈「ふむ、しんみりですね。」
じゅえる「刑事探偵はそんな古い事件も引き受けるのか?」
まゆ子「引き受けましょ。ケバルナヤが持ち込みの事件ということで。」
じゅえる「うん。じゃあヤブを突いて蛇が出たんだな。」
釈「その事件を解決したら、その頃のクーデターで行方不明になった人々を探す団体というのが接触してきて、政界を揺るがす静かな運動になるのです。
 またしてもマキアリイさんは英雄探偵としての名にふさわしい活躍をしたのでした○。」

まゆ子「浅見光彦シリーズだからな。こういう話は欠かせないな。」

 

まゆ子「もう一つ、血がだらだら流れる事件が欲しい。流血の巷。」
じゅえる「超凶悪犯だな。」
釈「単独犯、超凶悪で何十人も殺した奴が脱獄です。」
まゆ子「ふむ。だが巡邏軍の出番だぞ。」

じゅえる「人質立て篭もりというのはどうだ。」
まゆ子「だがそれこそ民間人はお断りだろう。」
じゅえる「こういうのではどうだろう。超凶悪犯が人質をとって立て篭もりが発生。テレビでも放送中。
 その凶悪犯の要求が、何故か「英雄探偵マキアリイを呼んでこい」であった。
 マキアリイがのこのこと出向いてみると、驚くべきことに調査依頼であった。
 自分は何十人も殺したが、自分が殺していない殺人事件が混ざっている。その無実を明かして欲しい。そういうものだった。」

釈「これですね! 名探偵ものとしてはこうですよ!」
まゆ子「うむ、冒頭導入としては最高にカッコイイな。
 で、人質は。」
じゅえる「そりゃもちろん、マキアリイが凶悪犯を倒して確保です。というか、もう一つの依頼という事にしよう。
 事件調査の依頼をしたそいつが、もうひとつ「英雄探偵ってのがほんとうに強いのか試してみたかった」とか言い出して。」
まゆ子「おう、そりゃあ殺人狂だなあ。」
釈「もちろん大勝利なんですね。」
じゅえる「そりゃそうだ。しかも凶悪犯まで無傷で捕らえ、死刑台に送るのだ。」

まゆ子「ふむふむ。で、その死刑が執行される直前に、マキアリイの調査が完了。真の殺人犯が逮捕され、無実が証される。
 という報告を聞いてそいつは歯を剥いて笑いながら死んでいくのだ。」
釈「カッコイイですねえ、まさに英雄探偵ですよ。そういうのが欲しいんですよ。」

 

じゅえる「ケバルナヤ時代の事件は、
 盗難国宝発見事件、ヤクザ抗争事件、過去の歴史発掘事件、超凶悪殺人無罪事件、ゲルタ毒煙事件、遊覧船座礁事件。」

釈「6個、いいですね。」
まゆ子「いいですよー。」
じゅえる「じゃあまとめよう。」

 {ケバルナヤ時代}
 盗難国宝発見事件、ヤクザ抗争事件、過去の歴史発掘事件、超凶悪殺人無罪事件、ゲルタ毒煙事件、遊覧船座礁事件

 {ザイリナ時代}
 裸婦像毀損事件、スタジアム爆発事件、華麗なる復讐者事件、怪盗タコ石事件、金塊強奪地元政治家事件、地方公共工事汚職事件、軍部新兵器納入事件、「闇御前」事件、英雄暗殺事件

 {シャヤユート時代}
 美装店誘拐事件、高額紙幣詐欺事件、超広域連続殺人事件、古都甲冑乱殺事件、(国際交流都市大爆破事件)、最後の事件(古墳盗掘)

 

釈「これを、4年で全部解決ですか…………。」

 

 

 

 2016/05/17

まゆ子「くっちゃりぼろけっと緊急−しょーしゅー!」

釈「へい。」
じゅえる「なんだよいきなり。」

まゆ子「突然ですが、『罰市偵』第二巻の構成に変更の必要を認めます。
 英雄探偵マキアリイというヒーローに対して、アンチ・ヒーローもしくは腐的なカウンターキャラを要求します。」
じゅえる「なるほど、理に適っている。」
釈「2巻目に男性のライバルキャラを出すのはセオリーと言って良いですね。でもヒィキタイタンさんはそうじゃないんですか。」
まゆ子「ヒィキタイタンさんは協力キャラですから。敵とはいいませんが敵対的な、それでいてストーリーラインを支えるくらいの重量級キャラが欲しいんです。」
じゅえる「分かってるわかってる。梁になるような奴だな。で、何時頃殺す?」

まゆ子「殺す?」
釈「ああ、出番は何時までってことですね。最終回まで生き残りますか?」
まゆ子「ああ、うん、なるほど。えーと第七巻「絶体絶命」はある程度在庫一掃ですから、ここで死んでください。逮捕で退場でもいいですが。」
じゅえる「うん最終決戦での黒幕としてな。その線で行こう。」
釈「でも第六巻「英雄と皇帝」で政界超大混乱ですが、ここでは悪事を働きませんか?」
まゆ子「ああ、その件が終了した時点で悪役としてのスイッチが入る。そのくらいの段取りでお願いします。」

じゅえる「うんまあ。だいたいキャラの役割は分かった。つまりはスリーパーという奴だな。」
釈「であれば、それまではどちらかというと善玉なんですね。少なくとも政府や行政からは犯罪者とは見做されていない。」
じゅえる「むしろ高級官僚であるべきではないだろうかね。」
釈「高級官僚ですか、ありがちですがそうですね。悪く無いですね。」

まゆ子「ここでゲストの投入です。山中明美さん!」
明美「どもー、話は聞きました。燃える腐キャラを投入ですね!!」
じゅえる「うん。おもいっきりやってくれ。」
明美「軍人にしましょう。ハイカラさんです。」
まゆ子「軍人、か。なるほど、これまでの構想上では抜け落ちている身分だな。」
釈「犯罪捜査には基本的に軍隊は関与しませんからね。むりやり巡邏軍をでっち上げましたが、所詮は治安維持システムで軍隊とは言い難い。」
じゅえる「なるほど。だが軍人と言ってもそれこそ政界との絡みが無いとドラマに出れないぞ。」

明美「暇そうな軍人、て居ないの?」
まゆ子「予備役なら。あるいは戦傷で養生中なんか。あるいはより偉くなる為に大学で勉強している最中というのもアリだぞ。」
明美「負傷キャラで勉強中、というのはダメかな。」
じゅえる「ちょっと傷で弱い、というのは悪くない属性だ。勉強というよりも秘密工作機関を率いて謀略中、てのはどうだ。」
釈「いえ、秘密工作機関はちょっと使いすぎではないでしょうか。ですよね、まゆ子さん。」
まゆ子「じゃあこうしよう。第六巻で秘密工作機関の偉い責任者が引責辞任もしくは犯人として死亡するとして、その後任にそのキャラが第七巻から就任するわけです。」
じゅえる「いいね。」
明美「それがいいね。それまではふらーりと暇そうなんだよ。だから敵か味方か分からない。」
まゆ子「ではフィクスします。新キャラは軍人で暇そうでかなりの高官、第七巻で悪に目覚めてマキアリイをぶっ殺しに組織を用います。」
釈「OKですね。」

 

明美「予想外のキャラである方が望ましいです。」
まゆ子「当然だ。どういう属性がある。」
明美「妻帯者にしましょう。ちゃんと美人の奥さんが居るんです。」
まゆ子「お?」
釈「じゅえる先輩、どうしますかこの属性。」
じゅえる「いや、別にマキアリイと絡ませる必要も無いのだが、妻というのはどういうキャラだ?」
明美「いや普通の美人で善人で綺麗で、ちょっと病弱かなという感じで、夫は妻をちゃんと気遣ういいご夫婦ですよ。子供は居ない方がいいだろうけど。」

まゆ子「妻帯者か。独身半端者のマキアリイにとってはちょっと目の眩む相手だな。」
釈「かなり難しいですよ。どうしましょう。」
じゅえる「そうだな。道で妻が難儀をしている、心臓発作で動けなくなったところをマキアリイに助けられて、それで夫と出会う。このくらいか。」
明美「いいね、それはいい。」
まゆ子「うーむ、家庭的な軍人ということか。」
明美「ハイカラさんみたいに軍人と近しいんですよ。」

釈「でもノゲ・ベイスラにどうして居るんですかね、その人は。」
じゅえる「そりゃあ、戦傷の結果あまり酷使されない閑職に回されて内陸部のほとんど実戦と縁の無い部隊に赴任。」
明美「かっこよくないと困ります。」
じゅえる「だな。どんなカッコよさにしようか、軍人なんだから射撃の名手とか。」
明美「マキアリイさんは飛行機に乗るんでしょ。空軍大尉とかでは。」

まゆ子「空軍大尉が後に秘密工作機関を指揮するのは変だろ。」
じゅえる「変だ。だからなんとかして実現しろ。」
釈「空軍て、あるんですかほんとに。」
じゅえる「空軍あるよね?」
まゆ子「陸軍航空隊と海軍航空隊に分かれているが、空軍は無い。まだ航空機の性能が低いから空軍を別に組織する段階に無いのだ。

 あー、ノゲ・ベイスラと空軍が関係するとすれば、アユ・サユル湖の湖沼水軍だな。直径100キロもある巨大な湖だから、水上機部隊も存在する。
 そして重要なのが、首都ルルント・タンガラムは湖の北西岸にあり、湖沼水軍の航空機は首都防衛にも大きな役目を担っている。そんなとこだ。」
じゅえる「いいじゃないか。」
釈「湖沼水軍て、エリート部隊なんですかね。」
まゆ子「どうしよう。少なくとも首都方面の部隊はそうだろう。だが広大な湖の南岸ベイスラ側までがエリートって事もないだろ。」
釈「では、後に首都防衛隊に転属になって。それから秘密工作部隊の指揮官になる、という線で。」
じゅえる「これでいいかな。」
明美「いいけど、もちろんパイロットだよね?」
まゆ子「ここまで来たらエースパイロットにしてやるよ。国外に派遣されていて戦闘機で空中戦をやって、負傷した事にしよう。」
釈「片目眼帯ですよ! 敵機の機銃弾が掠めて失明ですよ。」
じゅえる「あー、眼帯はちょっと使い古しかな。左目が義眼というのではどうだ。」
明美「うんうん。病弱な妻を気遣う義眼の空軍大尉、これはいける。」
まゆ子「いや空軍無いんだけどね。片目だと距離が掴めないから基本もうパイロットはやらないんだけど、まあなんらかの場面でそれもアリにしよう。」

明美「それで、ノゲ・ベイスラ市内に家が有るのかな。」
じゅえる「そうだなー、夫の国外派遣の間は妻は実家の有るノゲ・ベイスラに居を移していた、事にするか。」
まゆ子「その位が自然かな。」

釈「その大尉の背景はどうしましょうか。いずれ秘密工作機関を任されるくらいですから、最初からそれなりの訓練なり人脈なりが有るはずですよね。」
まゆ子「これはまだあまり固まっていないし詳細の無い設定だが、国外派遣部隊というのがかなり厄介な状況になっている。
 まあ国際利権の衝突の最前線であるから当たり前すぎるのだが、当然に国外での謀略というのが行われている。秘密工作機関も存在する。
 大尉、便宜上「大尉」と呼ぼう。彼は国外派遣で水上機部隊を指揮し、秘密工作員の潜入や回収などでかなりの関係が有る。
 左目を失った空中戦というのも、その流れで発生した不正規戦闘だ。国家同士はあくまでも戦争戦闘は行っていないが、最前線では衝突が散発的に続いているのだ。」

釈「では大尉はもちろん秘密工作機関の偉い人とも繋がりが有る。」
じゅえる「そして負傷して戻ってきた後は首都近辺に配属されて、活躍の時が来るのを待っていた。そういう流れだね。」
明美「いいこと考えた。第七巻「絶体絶命」の最後、マキアリイ謀殺に失敗した大尉はその上の偉い人に嫌疑が掛からないように拳銃自殺するのです。」
まゆ子「ほう。」
じゅえる「なるほど。」
釈「うんうん、そのくらいの覚悟を示した方がキャラとして引き立ちますね。では基本的に、彼はマキアリイ謀殺には関与を渋っていた、という状況も描写しておきましょう。
 それでも命令であるから従わざるを得ず、マキアリイと対決する事になる。」

 

まゆ子「うむ。明美先生どうでしょうか。」
明美「その人、ヒィキタイタンさんとは絡まないの?」
まゆ子「おう!」
釈「そう来なくちゃ。」
じゅえる「うーむそうなるとまた、仕掛けが少し必要だな。」
釈「難題になりますねますます。
 というか、そもそもマキアリイさんと大尉はどこらへんでどのように接触するかがまるで無いわけですスケジュール上。まあ今考えろと言われたばかりですから。」

明美「ばくはつしよう。」
まゆ子「爆発って、何が?」
明美「マキアリイさんが爆発で死にかけたところを、大尉が助けてくれるとか。」
じゅえる「ふむ、事件の最中に爆発オチで死にかけたところを、公務として大尉が助けてくれる。これはアリ。」
釈「まあ、妥当ですね。」
まゆ子「妥当過ぎるとちょっとやだな。」
じゅえる「じゃあ何の意味もなくマキアリイが爆発に巻き込まれて、」
釈「そこは素直に刺客の爆弾でいいでしょ。」
まゆ子「うん、まあ刺客だよね。で爆発オチして。」
明美「爆発の結果、大尉の奥さんと遭遇するというのはどうかな。つまりマキアリイさんを狙った爆殺事件に奥さんが巻き込まれて、マキアリイさんに助けられて自宅に戻ったところを
 急を聞いて家に戻った大尉が遭遇する。」
じゅえる「ネトリ?」
明美「あー、そーいう風にも見えてもいいかなー。」
まゆ子「まあ、その頃はマキアリイは爆弾で全身ぼろぼろで、とてもそうは見えないんだろうけどね。」
釈「ミイラ男ですよ。」

 

まゆ子「ヒィキタイタンとの接点はねー、どうしようかな。やはり公務だろうかね。」
じゅえる「飛行機仲間でいいんじゃないかな。ヒィキタイタンは実家が金持ちで自分家に自家用機が有るんだろ。そこらへんで。」
釈「では、大尉もお金持ちですか?」
まゆ子「うーん、どうしよう。貧乏は展開に苦しむかな?」
じゅえる「いや逆に、秘密工作機関で偉い人に使い捨てにされる、というのは金持ちのルートじゃないだろ。」
釈「そこは貧乏人が世の柵と義理人情に流されて、いやいや危ない橋を渡らされるのが常ですね。」

明美「びんぼうはいやだ。」
まゆ子「了解。じゃあそれなりの金持ちということで、ヒィキタイタンが通っていた飛行機倶楽部の関係者という事にしよう。」
じゅえる「直接の金持ちでなく、飛行機整備とかの機械関係が実家の商売で、大尉はそこの息子というのでは。」
明美「かっこよくないとダメだよ。」
じゅえる「うーむ。そういえば昔は飛行機パイロットというのは貴族の花型だったらしいしな。」
まゆ子「ヨーロッパの話だな。戦闘機パイロットは空駆ける騎士だよ。」
釈「じゃあお金持ちですか。」
まゆ子「いやこうしよう。彼の実家自体は金持ちなんだ。ただ彼自身の出自は金持ちの愛人が母であって金銭的にはともかく割と不遇な少年時代を送ったのだ。
 それで思春期の頃に飛行機に魅せられて、素性を隠して飛行機倶楽部に手伝いとして潜り込んでいた。
 まあ後に父親に見つかって辞めさせられるわけだが。その後父親の押し付ける進路に反発して軍人へと勝手に志願してしまう。」
明美「うんうん。」
じゅえる「定番といえば定番だ。」
釈「このくらいで妥協しますかね。あまり突飛な設定でも読者様はついて来ないし。」

明美「もう一発! ひねくれて。」
まゆ子「え゛ー。」
じゅえる「じゃあ、大尉のガラスの義眼には魔法の力が宿っていて超能力が発露。」
釈「みなさまは誤解されているかも知れませんが、『罰市偵』は異世界ファンタジーですから魔法はアリなのです。」
まゆ子「いや、魔法は有るんだけど、ココで出すか?」
じゅえる「ここ以外の何処で出すつもりだよ。」
まゆ子「あー、いやー、魔法なしでやるつもりだった。擬似SFで。」
じゅえる「出せよ魔法。」
釈「出せよ。」
まゆ子「へい、出します。」
明美「うんうん、それでこそファンタジーだよ。で、どんな魔法?」
まゆ子「釈ちゃん!」

釈「はい! えー、そーですねー、軍人さんですからねー、軍事に関係のある超能力とかいいですねー、
 では。死ぬ人間が分かる超能力、死が見える超能力ってのはどうでしょう。」
じゅえる「死神が見えるんじゃなくて?」
釈「オーラの色でもうすぐ死ぬ人間が分かって、そこに何人か人が居るとして、突然死の色が見えたらどこに居れば死なずに済むかが分かったりするんですよ。」
まゆ子「なるほど、死なない人間の傍に寄れば死なずに済む、ってわけか。」
じゅえる「軍人としてはアリかな。」
釈「人間だけでなく、器物や書類の内容などでも死の色が分かって、それを避けると誰も死なずに済む。逆に言うと、これは大失敗するのが目に見えているという作戦計画書なんかが分かったりするわけです。」
じゅえる「そりゃきついな。明美どうだ。」
明美「うーん、ありがちな。」
じゅえる「まあね。」
まゆ子「もう一捻り。」
釈「では、死の色が見えたら避けられない。大尉自身が何をしようとも死は確実に進行する。制御不能でただ知るだけ。てのは。」
じゅえる「自分が死なないだけで精一杯、そういうわけだな。」
まゆ子「皮肉な超能力だなそのくらいでいいか。」

じゅえる「その流れでいうと、奥さんは死ぬね。最期。」
釈「そうですね。奥さんが死んだ事を伝える電報とか電話とかが分かるんですね。それで大尉もマキアリイ暗殺失敗の責任をとって拳銃自殺。そんなところで。」
明美「うーん、じゃあその人にとってマキアリイさんはどう見えるんだろう。」
じゅえる「命で眩しく輝いているんじゃないかな。凄まじい生の迫力で。」

 

 

 2016/04/29

まゆ子「というわけで「罰市偵」第五話「最初の戦い」の初稿ができたわけですばんざい」

 

釈「そうじゃないでしょそうじゃ。」
じゅえる「病気のことについてちゃんと説明しろよ。「重篤な急性心不全」で死にかけたんだろ。」
まゆ子「いやそれ私じゃないし。KOMNYANさんだし。」
釈「いやいや、それはおかしい。」
まゆ子「いやいや、それはまったくおかしくないし。私じゃないし。」
じゅえる「とにかく説明しろ。簡単でいいから。」

まゆ子「あ−簡単に説明しますとですね、”くっちゃりぼろけっと”において私達3人が論理層で、KOMNYANさんは物理層に相当するわけです。
 コンピュータでもそうでしょ。インテルのCPUでマウスコンピュータとかが本体作って、その上にマイクロソフトのOSが乗って、ChromeとかFirefoxとかのブラウザが動いて、その上に課金ゲームが動いてる。
 この中で最も重要なものは課金ゲームでしょ?」
じゅえる「そりゃそうだ。」
釈「まあ、商業的に考えると、そうですね。」
まゆ子「くっちゃりぼろけっとは課金ゲームに相当するわけですよ。下の構造なんか知らなくても大丈夫。なんだったら別のプラットフォームに移転しても続ける事は可能。」
じゅえる「そう言われてみると、まあ大したことないか。」
釈「いやいや、それはおかしい。」

まゆ子「まあ簡単に病状を説明すると、たしかに重篤な急性心不全で死にかけたわけですが、だからどう悪いってのは無いのです。
 1ヶ月ほど死にかけて、2週間以上入院しましたが、だからと言って心臓の手術をしたわけじゃないし。治療と言ってもただ単にえんえんと利尿剤投与されただけだし。」
釈「利尿剤?」
まゆ子「とにかく身体の中に水が多くなり過ぎて、血液がどんどん薄くなって、心臓が肥大化しなくちゃならなくなったという塩梅。
 拡張性心筋症、というのは治らない病気ではありますが、つまりは血液が少なければ、水が少なければ普通。というとても不可解な病状なのです。」

じゅえる「水が多い、ってどのくらい?」
まゆ子「おおむね20リットル分を体外に排出しました。」
釈「げ!」
じゅえる「げ。2リットルペットボトル10本分が入ってたのかい。」
まゆ子「びっくりです。」
釈「そりゃびっくりですが、人間の身体ってそんなに水が入るものなんですか?」
まゆ子「知らない。でもそうなんだからそうなんだろう。その分体重が激減しました。」
じゅえる「ただ単に、ただの水?」
まゆ子「利尿剤で済むんだから、そうなんじゃないかな。」
釈「腎臓の病気じゃないんですか?」
まゆ子「むしろ腎臓は至極元気で、心臓があまり動かなくなったからちゃんと動けなくなった、と考えるべきかな。」
じゅえる「腎臓は異常無し?」
まゆ子「検査は色々しましたが、ほとんど関与無しです。だいじょうぶなのか、患者の方がびくびくする有様。」

釈「治療は、心臓の手術とかは無しですか?」
まゆ子「いや最近はカテーテルを心臓に突っ込む方法が至極安直に出来るみたいで、カテーテル自体も細くなって手首の動脈から心臓に突っ込める事になっていて、ものすごく簡単なのです。
 普通の人は入院しなくて日帰りで出来るくらいに簡単です。
 でまあ、手首と首の頸静脈から突っ込んで検査しましたが、特に問題なし。
 まあ心臓の動きが弱ってますから、強化するためのお薬は必要ですけどね。」
じゅえる「なんか至極軽い病気みたいだな。」
まゆ子「まあなんと言いますか、極めて軽く死にかけた、という。」
釈「嫌な状況ですねえ。」

まゆ子「集中治療室に3日ほど突っ込まれたのですが、この病院は近辺の心臓病患者を集中的に治療する最近流行りの中核病院てやつで、まあ30人くらいは重症患者が突っ込まれているわけです。
 で至るところからうめき声やら、人事不省ですごいいびきをかいていたり、治療のための機械がひっきりなしに警告音を発生させる状況の中に居たわけですよ。
 でも比較的軽症な死にかけですから、特にやることもなく、別に意識不明になる事もなく、延々とそういうのを聞かされたわけですね。

 あ、というか心不全になると呼吸が出来なくなるわけで、これは家で1ヶ月死にかけていた原因なわけで、周囲の人達のうめき声の正体が分かるから、そりゃあ大変なんだなあというのが我が身のように理解できるのです。
 まあ酸素マスクを鼻に着けたらなんとか収まりましたから、特に苦しくも無いのですけど。というか酸素マスクさえあれば、と後から悔やんだわけですよ。

 とにかく入院するまでが苦しかったわけで、息が出来ない過呼吸になる、寝てたら心臓が止まりそうになるから必死に胸を抑える、咳やら吐き気やらしゃっくりみたいな感じで心臓に負圧を掛けて喉から心臓が出てくるようなすごい圧力が掛かる、だからつまりは眠れない、ご飯食べられない、10歩歩くと疲れて歩けなくなる、そしてとにかく寒いほんとうに1℃以下の温度変化でも寒くて動けなくなる、そして今年は冬が寒かった、と家に居るだけで死にかけていたわけですね。
 さらにはテレビが見れない、ドラマ見てたらうなされる、ほんとに何の害も無いような朝ドラ「朝が来た」や「真田丸」で夜中うとうととしてもうなされて飛び起きる。現実と空想の境目が無くなって、とにかくフィクションは見れない。
 とうぜん深夜アニメ視聴は論外。」

釈「いやそれは本当に死にかけじゃないですかあ。重篤ですよ。」
じゅえる「ほんとうにそれなんとも無かったのか? というか、心臓壊れてない?」
まゆ子「だから拡張性なんですよ、水が多いから心臓がゴムマリみたいに膨らんでパワー不足に陥るのです。至極大変な状況です。
 でもどっか壊れているというものでもない。
 血栓が詰まるわけでもなく、動脈硬化でもなく、ペースメーカーが必要なわけでもなく、その分ではむしろ優等生的に綺麗なものなのです。」

釈「なんか信用ならないな。」
じゅえる「重篤な、ってのが間違いなのかもしれない。ひょっとするとほんとうは軽いのか・」
まゆ子「いやいや、拡張性は治らない病ですよ。もう一生ダメなんです。まあIPS細胞とやらで心筋細胞を培養してシートが云々、という手術法をテレビで見たことありますが、今はまだまだ夢物語。」

じゅえる「まあとにかく、そうなんだ。」
まゆ子「それでですね、周囲はそれこそ死んじゃうような重体な人がゴロゴロしているわけで、ああこれで私ももうダメダ的な気分に陥るわけですよ。
 というか、とにかく水が敵だから、水分制限が苦しくてきつくて。で、いっぱしの重体患者的な気分になるわけなんですよ。夜眠れないし。

 でも、3日目普通病棟に移動させられる段になりまして、そこで若い頃のもたいまさこさんみたいな看護師さんが出現するわけです。
 で、ベッドの上で変な格好で押しつぶされそうになったり、宙吊りにされてぐるぐる回されるなどして、なんかほとんどギャグかコントの如き有様にされてしまって
 「嗚呼わたくしはやっぱり三枚目の役だった」と現実を認識させられて、集中治療室から追い出されたわけです。」

釈「もたいさん、ていいですよね。なんかきっちりと死ぬツボとか熟知していて、さっくりと殺ってくれそうで。」
じゅえる「でも知っているけど殺らないよ、て感じだよね。いやがらせで。」

まゆ子「まあそんなわけで、その後2週間も延々と利尿剤だらけで入院が続いて、退院なわけです。
 シャバに出てからはとにかく塩を食ったらイカン、ということで味の無い食事ばかりで辛い。これはつらい。」
じゅえる「高血圧なのか?」
まゆ子「とにかく塩があったら水が体内に過剰に留まるみたい。だから塩分禁止。」
釈「うわー不味いですよねー。」
まゆ子「ラーメンとか絶不許可。サンドイッチもあかん。普通に味が付いているもの全部ダメ、という有様。大好きなイカのお菓子もありえない。」
じゅえる「小説であれだけイカについて書いているのに、ダメなのか。」
まゆ子「イカスルメの類の干物やら焼き物は全部塩分の塊です。ありえない。」
釈「くるしいです。それはくるしい。」

まゆ子「しかしポテトチップスうすしお味は食えるという。塩が食材内部にこもらずに表面にのみまぶされていれば、塩自体は少なくてもきっちり辛いのです。
 逆に醤油味やコンソメ味は不許可。辛さに比してとんでもない塩が入っているのです。」
じゅえる「つまり人間の舌って簡単に騙されるわけだ。」

 

まゆ子「とまあそういうわけで、あまり心配しなくてもだいじょうぶだけど大丈夫じゃない。びみょーな状態ですが、くっちゃりやるのに問題はない。
 というわけで、計画通りに執筆を進めていくわけです。

 あ、でも入院中に思いました。これからはちゃんとした小説を書こう。
 読んだ人がちゃんと幸せになる、楽しくなる、明るい素敵な小説にしよう。変に捻じくれたりせず、世を斜に構えたりせず、皮肉で冷笑的なお話でなく、良いお話で行こう!
 と決意しましたよ。それが世の中いちばんです。」

 

 

 

 

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