まゆ子「というわけでいいかげん本編を書こうかと思う。」

じゅえる「というか、まだやる気だったんだ。」
明美二号「いやーずいぶん間が空いたからもう諦めちゃったかと思いましたよ。」

まゆ子「すまん。一本書こうと思ったら固有名詞の壁にぶつかっちゃったんだ。ふぁんたじーもんはこれだからよくない。ともかく固有名詞を設定して、しかもその後間違えないように管理しなきゃいけないていう作業が始終付きまとうのよね。いやになっちゃう。」
じゅえる「固有名詞って具体的にはなに?」
まゆ子「ゲジゲジ関係よ。特に名前がねえ、モノとかもあるし、これをうまいことかっこいいカタカナ名をつけちゃうと、いい雰囲気になるんだけど、そう簡単にはいかないのよ。」
明美「でも、そこらへんは後でコンピュータで置換しちゃうとかするんじゃなかったんですか。」
まゆ子「数が多過ぎた。文体整えるにはそれじゃあ追っつかない。」
じゅえる「どうすんのよ。それじゃあ辞書作らないと始まらないってことじゃない。」
まゆ子「いや、実は文法から始めなきゃいけないことになっちまった。どうしよう。」
明美「そんなー。」
まゆ子「つまりだね、するっと現実世界の名詞で済ませるには、ゲジゲジ王国はスノッブすぎたのよ。高級感を出そうと思えば、そこんとこね。」
じゅえる「ああ。じゃあ、台詞なんかとても組めないでしょう。スノッブな人間てのは、固有名詞に頼った台詞回し使うから。」
まゆ子「まさにそこなんだ。地の文は誤魔化せても台詞はモロバレしちゃう。」
明美「こまりましたねー。」

まゆ子「というわけで途方に暮れていたわけなんだけど、面白い映画みちゃった。」
じゅえる「何?」
明美「なんですか。」
まゆ子「”麿子”っての。かのゆうめいな押井守監督作品のアニメ映画よ。」
じゅえる「知らない。聞いたこともない。」
明美「ゆうめいなんですかその監督って。」
まゆ子「攻殻機動隊とかパトレイバーとか、うる星やつらの監督さんよ。」
明美「うる星やつらのらむちゃんは知ってますよ。美矩さんのあだ名の元になった漫画ですよね。ふわふわ電撃を出す宇宙人で、えーと、なんでも昔流行ったとかいう。」
じゅえる「そういやうる星やつらは今度土曜日のBS2で再放送が始まったよ。見てないけど。」
明美「で、その押井監督の作品にインスパイアされたわけですね。」
まゆ子「早い話がだね、このアニメはアニメじゃないんだ。」
明美「は?」
じゅえる「アニメじゃなかったら人形劇なの。」
まゆ子「うん。」
じゅえる「アニメなんでしょ。」
まゆ子「アニメなんだけど、人形みたいなの。まるで人形のような絵のキャラクターが書き割りのような舞台でお芝居をする。」
じゅえる「凝りまくってるな。」
明美「おもしろいんですか。」
まゆ子「わからない。なんというか、・・・・・ふるすぎてぴんとこないんだな、題材が。核家族の物語なんだけど、80年代的なイメージで描かれた家族が不思議な少女によって崩壊していくというお話しなんだけど、そのお、なんというか、21世紀の今日からいうと、もうとっくに滅び去った遺物が今まさに滅びようとするところの記録映像を見せられるような不可思議なおしばいなのよ。」
じゅえる「なに言ってるかぜんぜん分からないよ。なにそれ、結局つまらないわけ。」
まゆ子「わたしは面白かったけど、これは対象となる人が、・・・・・・・誰なんだろう。まあともかくだね、このお話しはおしばいなんだ。それも大昔に流行ったような小劇場スタイルの不条理劇をお芝居の形のままでアニメにするという、とんでもない倒錯したスタイルの映画なわけね。で、ともかく小難しいお話しが延々と台詞によって進行する。というか、基本的には何も起きないわけで、アクションなんか無いも同然。ともかく台詞ばっかりでというか台詞を聞かせる為だけに存在するアニメなのだよ。」
じゅえる「そんなものをアニメで作って大丈夫なの。」
まゆ子「わからない。劇場版になってるんだからそれなりにヒットしたのかもしれない。」
明美「あ、ひょっとしてそれテレビアニメなんですか。」
まゆ子「いや、OVAのシリーズだったんだけど。というか、日本初のOVAはこの押井監督の”ダロス”という作品なのだ。これトリビアね。」
じゅえる「そうかー、それはひょっとして冒険作だったのかもしれない。押井監督て今世界でも有名な監督さんでしょ。それが出世作だったのかもね。」


明美「で、それがゲジゲジ王国とどうゆう風な関係を持つわけなんですか。」

まゆ子「いや、それは簡単だ。わたしはこれまで一生懸命まともなドラマにしようと、”ゲバルト乙女”を万人が読んでも理解出来るごく普通のファンタジー、というかライトノベルのファンタジーとして想定していたわけなのさ。しかし、それ以外の道もあると悟ったのだよ。」
じゅえる「具体的に言うとどういうこと。」
まゆ子「つまり、誰にもわからないようなしち面倒臭い小難しい理屈で読者を幻惑させることで、却ってファンタジー世界を際だたせるという手法を発見したのだね。つまり、言葉で幻惑させるという、或る種ファンタジーの王道を再発見したのだよ。」
じゅえる「なるほど。ファンタジーは異世界の物語。この世の人間が読んで完全な理解を得る事はあり得ない、という事を読者に強制する手法だね。」
明美「や、でも、それはほんとにやっていいのですか。」
まゆ子「いいも悪いも、」
じゅえる「いやさね、あけみちゃん。親兄弟を殺されて復讐に出る主人公が居るじゃないか。で、仇を追い詰めて、あなたどうする?」
明美「そりゃぶち殺しますよ。」
じゅえる「あんたが現実世界でも、そうする。」
明美「あ、・・・・・・・・・・・・あー、あーーーーーーーー、どうしましょう。」
まゆ子「普通の人間ならしないよ。現代人なら。」
明美「ですよね。」
じゅえる「でも物語の主人公はぶち殺すわけよ。ぶち殺すことを当然のこととして受け止め、ぶち殺すことを前提として行動する。変でしょ。」
明美「生きている現実のにんげんとしては、異常性格者ですね。」
じゅえる「で、その社会全体が仇をぶち殺すことを是とし、また善としてみなし賞賛する、こういう一般常識をもって構成されているわけよ。これはファンタジーよね。」
明美「あ、でも、アラブの世界って今でもそういう風になってるんじゃ。」
まゆ子「なってるね。でも、そのことをわざわざ説明する人は居ないでしょ。」
じゅえる「自分達のやっていることが異常であるということが、その世界の人には理解出来ないし、自分達の異常さを説明しようとも思わない。つまり、異常性がナマのままぽんと現実世界に放り投げられているのが、当たり前の世の中よ。それは分かるよね。」
明美「外部からやってきた人間にとっては、ですね。」
まゆ子「であるから、ファンタジー世界を小説として書くということは、本来ならばその異常さと剥き身の自分が遭遇する、という驚異の体験なわけなのね。」
じゅえる「事前のリサーチ無しにいきなり外国旅行をするようなものよ。まるっきりわからない。かってが掴めない。著しく不快だ。」
明美「それは分かります。」
じゅえる「まゆ子の言ってるのは、その不愉快さを存分に味わってもらおうということよ。まるっきり不親切な読者の理解を完全に無視した、ナマの異世界にごろんとぶち込もう、という趣向ね。現実世界に噛み砕いたような分かりやすい用語は一切出て来ないし、彼らの了解している一般常識、固有名詞の説明も一切放棄する。」
明美「やりっぱなしですか!」

まゆ子「だがそれがいい。

 ファンタジーというものは元々そういうものなんだよ。それが、ファンタジーとおとぎ話の根本的な違いね。」
明美「しかし、そんなことをやって、文学作品として成り立つんですか?」
じゅえる「どうだろう。」
まゆ子「任せなさい。」

2004・02・13

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