じゅえる「にしても、なんか普通すぎるね。もっと世間一般のファンタジーからぶっとんで異なるテイストのファンタジーってのはできないものかな。」

明美二号「先輩、それは無茶です。なぜならこの話は、十二国記のパクリからはじまってるんですから、普通の以上に普通で無ければいけないんですよ。」
じゅえる「そうだった。ころっと忘れてたわ。でも、普通といえば普通なんだけど、なんかもっとインパクトのある話じゃないとね。」
まゆ子「それは分かるけど、頭に壁チョロのついた救世主ってのは十分にインパクト有るんじゃないかな。」
じゅえる「そうなんだけどねー。」

明美「そもそもじゅえる先輩は、どういうお話を念頭に置いて話してるんですか? どのくらいぶっとんでいれば可なんです?」
じゅえる「そうだねえ、・・・スターウオーズくらいかな。」
明美「そ、それはベタですよ。」
じゅえる「スターウオーズでいうフォースというかジェダイというか、それともロボコップとかターミネーターな感じの悪役とか、そういうレベルでなんかインパクトのあるものはできないものかしらね。」

まゆ子「ある。」

じゅえる「ある?」
明美「本当ですか?」

まゆ子「志穂美。」

じゅえる「あー、それはヤバい。」
明美「それはたまったもんじゃないですね。」
じゅえる「でも、志穂美をどう使うの?」
まゆ子「誰も逆らえないおーらを発しているとか。例えば、目から服従光線が発射されるみたいな。・・ちょっと違うか。不死身だな、物陰で何十人もの悪漢に襲われても次のシーンではぴんぴんしてる。」
明美「それじゃあ説得力ないですよ。ほとんどターミネーターですし。」
まゆ子「そうねえー。」
じゅえる「第一、行くのは弥生ちゃんであって志穂美じゃあない。志穂美の件は忘れよう。」

明美「やっぱり普通でいいんじゃないですか、普通を極めれば上等だと思いますよ。」

 

まゆ子「それはそうと、ゲジゲジ王国、カブトムシ王国ってのはそのままで書いとこう。どうせ後でコンピュータで置換すればいいだけの話だから。」
じゅえる「そね。その方が、実は読んでる方も分かりやすいかもね。」

 

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GEWALT乙女「弓レアル  〜第二章〜」

 

「・・・ではないでしょうか。先生。」

 王城の尖塔が見える南向きの石造りのテラスで、爽やかな秋風が吹き抜ける中ゲジゲジ語文学の授業を受けた後、弓レアルは家庭教師に尋ねてみた。

 弓レアルと弟の基テイハルの家庭教師であるハギット女史は29歳、住み込みでもう8年も二人に語学文学、書術と言理術等々を教えている。博学で聡明ではあるが女性としては少し魅力に乏しい人物だ。独身であり身内にも乏しく、およそ花嫁修業には適していないので、今度新しい家庭教師をもう一人短期で雇う事になっている。

「海の果て、ですか、お嬢様。」

「そう。今度の蜥蜴神の救世主さまはこの世の人ではないらしいのですが、そうすると、どこから来た事になるのでしょうか。私はやはり海の果て、たぶん東の太陽が上る先からおいでになったと思うのですが、先生はどう考えますか。」

 ハギット女史はさすがに考えこんだ。弓レアルのこの質問は、いわば意地悪である。たとえ王宮の博士であっても救世主のことなど分かる筈も無いし、ましてやこの大地とは異なる世界からの来訪者であるとなれば、もっとも適切な解答は”わからない”であろう。しかし負けず嫌いのハギット女史はそれを良しとはしない事を弓レアルは知っていた。

「そうですね。確かにこの世界よりも外となれば、海の果てからお出でになるか、天空より御下りになるか、二つしかありえませんが、天空からということは御座いませんね。天空の星の海は神々の御座でありましょうから、その御使いである救世主さまは地上にあって天空の神より命を受けこの地にお出でになられたと考えられます。であれば、お嬢様の仰しゃられるように海の果てよりお出でになられたという可能性が一番高いですね。」

「でしょう。となると、やはり海の向こうには国がある、というべきではありませんか。」

「そう御考えになるのは正しいですね。されど、どのような国であるかはさすがに分かりかねます。これは救世主さまに直にお聞きする以外にはありませんね。」

「しかし、救世主さまはこの地で何をなさる御積もりでしょうか。今はゲジゲジ王国が出来た時のように戦乱に明け暮れる訳でもなし、カブトムシ王国のようにゲジゲジ神族から民衆を救わねばならないという使命も無いでしょう。」

「御座いませんね。されど、救世主さま、神様は地上の人間には考えも及ばぬ深い智慧に基づいて行動なされます。神々の目ではカブトムシ王国でさえもまだ不十分なのかもしれません。」
「先生、・・・。」

 ハギット女史はこのようにしばしばカブトムシ王国に対して突き放したような物言いをする。聞く所では、祖父の代にそれまで仕えていたカブトムシの名門家中から禄を召し上げられ、市中においてかなり苦労したとかで、その恨みが今も彼女をしてこのような態度を取らせるのだろうか。弓レアルにはそれがなかなかに新鮮で、御用商人でありカブトムシの権威の前に魂までも平伏する両親の処世の卑屈さから束の間解放されたような気にもなれるのだ。

 しかしそれ以上の治世の批判を彼女にさせようとは弓レアルは思わない。父親にでも聞かれてしまった日にはハギット女史は家を追われてしまいかねない。どうせ自分が嫁いだ後は、もはや弟も女性の家庭教師を必要とはしない年頃に達しているので、早晩我が家を辞すに決まっているのだから、それまでは平穏無事に勤め上げさせたいと、願っている。

「海の先に国がある、というのなら、これまでの地図は間違いという事になりますね。」

「そうですね、なにしろ誰も行った事がありませんから、想像ででっち上げた地図と言ってもよろしいでしょう。そう考えれば、よくもまあ1400年も同じ地図を使ってるものだと呆れてしまいますね。」

 現在の地図はゲジゲジ王国時代の航海王、渡濤キルギルギス将軍が辿った航路を元に作られている。キルギルギス将軍は、神聖ゲジゲジ王国において海商護衛の任についており、初めて二本マストの大帆船を作った人物として知られるが、それよりも有名なのがあまりにも無謀だった東西南北への探検航海の顛末なのだ。

 ハギット女史は授業をしていたテラスをしばし離れて書庫に行き、まもなくキルギルギス将軍の探検記を携えて戻って来た。その本の巻末には当然、聖なる大地を中心とした海図が収められている。

「我がヒッポドス商会も船は使いますが、船乗りたちは陸地が見える場所より先は漕ぎ出さないと聞きます。漁師はそれよりも先に赴く事もあると申しますし、不幸にして風に吹かれて難破した人はより遠くまでも流されると聞き及んでいますが、およそ命をもって帰って来た人の中でキルギルギス将軍よりも遠方に行った者は無いはずです。」

「私は、正直言ってキルギルギス将軍はバカだと思います。」

「わたしもです。」

 二人は顔を見合わせて笑った。

 キルギルギス将軍は、当然ゲジゲジを頭に頂くゲジゲジ神族であったのだが、身分にこだわらず水夫達と親しみ同じ甲板で食事もするという好人物であったという。というよりも、彼は神族である以前に根っからの船乗り、冒険家だったのだ。誰よりも遠くに赴き世界の果てを極めたいというのが彼の生涯を貫く野望であって、その為に役に立つ船乗りたちを、身内よりも大切にしたわけだ。それゆえに水夫たちは反乱を起こすこともなく彼の冒険に付き合ったわけなのだが、しかしその成果は芳しいものではなかった。

 キルギルギス将軍の冒険は、海の向こうには何も無い、という結果に尽きる。彼の航海記より描き出された海図には、聖なる大地以外には何もない、ただ海が東西南に広がっている、それだけだったのだ。

「将軍は最初西に船を向けました。自ら設計した最新の大帆船を仕立てて、3ヶ月分という大量の食糧と水を積み込んでひたすら西に向かうというものでした。その頃の常識では世界の果て海の境は、航路にして一ヶ月は先であろう、と予測されていましたから、往復で十分な量であったのです。しかし、」

 ハギット女史は本を開いて最初の図版の頁を出した。キルギルギス将軍最初の航海、いや最初の迷走の記録である。

「西に1ヶ月、そこまでは船員達も付き合う積もりでした。実際そこにたどり着くまでに随分と発見がありました。クジラという生物を発見したのもこの航海の成果です。ですが、1ヶ月になる前に嵐に遭ったのです。」

 キルギルギス将軍の航路を指で辿ると、帆走1ヶ月までは順調に西に向かっていたものがここでいきなり複雑にねじ曲がって南下している。

「めちゃくちゃですね、この航海は。」

「南に流されてこれまた1ヶ月ほどでまた強風に遭います。これは西から東にまっすぐに吹いているという不思議な風で、これにより船は元居た大地の真南にまで押し流されたのです。これは幸運としか言いようがありませんが、そこから北に上るのに風が無くて苦労したわけです。で、結局このようにジグザグと航海して、ようやく王国に戻ったのが、半年後。これにより海図の西半分は出来上がったわけで、同時にちゃんとした船ならば半年も海上に漂っても生き延びられる事が証明されたわけです。」

「この西から東に吹く風は、やはり神の御技でしょうか。これより先は人間が訪れることを許さないという意思の表れでしょうか。」

「そう取っても良いでしょう。普通の人間ならばそういう教訓を得るわけですが、将軍はそのようには考えませんでした。この風を越える第二の冒険に出たのです。」

「バカですね。」

「そうです。バカ故に歴史に名を残したのです。今度の航海はそれより5年後、5隻の船団を組んでこの風を突き切って世界の果てを目指そうというものです。再度西にではなく南に向かったのは、この風にやはり神の意志を感じたからでしょう。そして当然のように失敗します。
 5隻の船団の内1隻は故障で早々に港に戻り、1隻ははぐれてやはり戻りました。3隻がこの不思議な風にたどり着きましたが風を突っ切れたの将軍の乗艦のみ、残りははぐれてやはり引き返してしまいました。
 将軍の船は風に流されてとんでもない所にまで、つまり東の果てに流されて、西に向かった時と同様に暴風にもてあそばれた挙げ句、今度は北に流されます。北の果てとはどういうところか分かりますか。」

 弓レアルは少し考えた。大地の北の果ては聖山があり多くの修行僧や神官巫女が住んでいるという。その先はあまりにも厳しくて人が住めるところがなく、うっそうとした森が広がると聞いているが、更に先は、

「気候が厳しく雪が一年中降っている、というのではないでしょうか。」

「おみごとです。ですが、将軍のたどり着いた先はもっと壮絶なものでした。氷の壁です。」

 本に載せられた次の挿し絵は、キルギルギス将軍の船が北の果て、世界の終わる場所に遂にたどり着いた絵だった。それはまさに世界の果てと呼ぶにふさわしい絶景であると言えるだろう。高さ500メートルにもなる氷の壁が屏風のように東西にそびえ立ち、人の上陸を拒むのだ。

「キルギルギス将軍の水夫たちは皆絶望しました。しかし、将軍だけはこれを神の救いだと感じたのです。なぜならば、」

 弓レアルはすっかり冷めたハーブ湯をすすった。この世界には茶もコーヒーも存在しない。ただ野山の香草を乾燥させ湯で戻した汁をすするのが茶の代りとなっている。

 行く手に立ちふさがる氷の壁、そんなものを前に人間にどのような希望があるだろうか。素直に考えれば、・・・神の御技に恐れ入ってその手に身を委ねるしかないのだろうが、それでは生還する事など出来はしないだろう。となれば、将軍は、狂気ともいえる方法を試したに違いない。

「壁を上りましたか?」

「さすがに、それは失敗しました。」

 ほんとうにやったのか、と弓レアルは呆れ返った。たしかにキルギルギス将軍という人は、バカだったらしい。

「将軍は、最初の航海より5年を、ただ準備に費やしていたわけではありません、陸路で北を目指していたのです。陸行する事2ヶ月、ただひたすらに北へと東岸を辿って極地を目指したのです。聖山の森の端を野獣や怪魚に脅かされながら人間として可能な限りを尽くしてついにたどり着いたのが、同じ氷の壁です。つまり彼は、北に行けば氷の壁がある事を最初から知っていたのですね。そこで、船によりたどり着いた大氷壁が、そのまま聖山の氷の壁とつながっているという直感を得て、壁伝いに西へ戻ろうという方法を考え付いたのです。」

「でも、寒くはありませんか。」

「もちろん寒いのですが、南に行けば良いだけです。将軍は壁伝いに西に行き、寒くなってこれ以上留まれなくなると南に降りて回復し、再び北に上って氷壁が見える距離を保ちながら方向を間違えないよう航海を続けたのです。その時、北海で将軍が食糧とした動物の絵がここに描いてあります。」

 本に描かれている30種を越える怪獣怪魚怪鳥、その他分類すら知らない奇妙な生物の絵を前に、楽しそうなハギット女史を見て、弓レアルは、この女性はひょっとしたらキルギルギス将軍にお供をして海を流離いたかったのではないか、と感じた。彼女には家庭教師という職は本来向いていないのかもしれない。男であったなら案外軍人となって、
・・・・いや、謹厳なカブトムシの軍には、キルギルギス将軍のような酔狂な人物を許容する余地は無いだろう。

「・・・そして、出発より1年半を費やして、とうとう帰って来たわけです。その航海に従った水夫の半分が死ぬという悲惨な結果ではあったのですが、それでも生還できたというのは快挙と言えるでしょう。そして、海図の東半分も出来たわけです。帆船で東西南に1ヶ月の海、北にはやはり1ヶ月程度で氷の壁。これが人間に許された領域である、と当時の神聖ゲジゲジ皇帝シギムガモンが御定めになり、これより先の冒険を禁ずる布令を出したわけです。
 その後キルギルギス将軍は、御丁寧にも西側の北の極地も航海してやはり氷の壁が延々と続く事を確認しています。そして作られたのが、この世界図ですね。」

 中央に正方形で描かれる聖なる大地、その左右には何も無い海が広がり端には暴風の霊が左右対称に描かれている。南には東西を貫く太い風の帯が蝉蛾の神と共に描かれ、北には聖山と麓には神殿都市、更に北には針葉樹の広大な森が扇のように広がり、ついには一直線で上端を仕切る氷の壁がそそり立つ。その壁には氷の神として、

「あ、蜥蜴神だ。」

「ああ、そうですね。北の方位神は蜥蜴でした。」

「という事は、救世主ガモウヤヨイチャンさまは、北の果ての世界からお出でになったという事でしょうか。」

「しかし、余りの寒さに凍りついた世界に人が暮らす事が出来るとはとても思えませんが、どうなのでしょうかね。」

 困惑しながらハギット女史は本を閉じた。さすがのキルギルギス将軍も北極探検まではしていない。となると、そこはやはり人間の在るべき場所では無いだろう。

「猫の話だと、ガモウヤヨイチャンさまは、割と暖かい所の服を着ていらっしゃるそうですが。タコ神巫女のように脚をさらしているのだそうですよ。」

「ネコになど。ネコの話なんか淑女の聞くものではありません。殿方は世情に通じた女など好みはしないのですよ。」

「先生のような。」

「そうです。知り過ぎると私のようになります。」

 と言いながらも、ハギット女史はそれを誇りに思っているかのようだ。弓レアルはおかしくなる。この世界においては最早嫁き遅れと看做されるような歳ではあるが、未だこの女性は稚気が抜けてない。

「それでは、今日はここまでに。」

 ハギット女史は澄ましていたが、少し寂しそうな顔をした。弓レアルはその表情を見て、遂に来るべきものが来た、と直感する。

「レアルお嬢様、これにてゲジゲジ語文学の私の教授はおしまいとさせて頂きます。来週よりは新しい家庭教師が午前中の御学問の時間に参ります。私は三日に一度、御教授させて頂く事になりますので、ゲジゲジ文学ではなく書術のみといたしましょう。ですが、」

 さすがにただでは彼女は引き下がらない、と弓レアルは心中舌を出した。

「・・残されたお時間、ただの書では趣がございませんので、せっかくですからゲジゲジ詩集より文章を抜き出してアレクレス霊書法で御札を書いてみましょう。」

「それはゲジゲジ巫女や蜘蛛巫女の仕業ではありませんか。」

「託宣籤を自分で書けるとなにかと便利です。たとえば、お嬢様がお輿入れにダダをこねた時に御母上から頂いたカエル神の霊符は、あれは私が書いたものです。」

「!」

 あの札は、まだ見ぬ恋の相手を引き寄せるという霊符で、あれを密かに下着に縫い入れて臨んだ夏越しの灯火宴で弓レアルは、居るとは聞いていたが姿も名前知らされなかった許婚者と運命的に対面したのだったが、

「騙されました。仕組んだのですね。」

「仕組みましたが、御札に嘘は無かったでしょう。」

「それは結果論というものです。・・・・分かりました。その術は是非とも覚えておかねばならないようです。」

 二人は席を立ち、弓レアルから先にお辞儀をした。この女狐め、と蹴飛ばしてやりたくもなったが、しかしあの御札が無ければ、あの偶然を装った出会いが無ければ、結婚に納得出来たか自分でも不安に思う。やはり、必要な時には嘘でも偽りでも使う方が正しいということだろうか。

「それではお嬢様、また明日。」

 そう、学問は別にゲジゲジ語文学だけではない。カブトムシ王宮書簡集の暗記やら商票や法令の読み方も皆この女性に学んでいるのだ。蹴飛ばす機会はまだいくらでもある。

「御教授ありがとうございます。それでもまた明日。」

「また、あした。」

 

03/10/27

 

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