まゆ子「というわけで、”げばると乙女 救世主弥生ちゃん伝説”のテスト版第一話ができたのだ。」

じゅえる「ここに書いてある固有名詞は、もう確定?」
まゆ子「いいや、でたらめに付けてみました。固有名詞は全部未定です。でも無いと書けないから適当に付けてみました。これからもっと精密に設定するつもりだけれど、でも一度出たものはめんどくさいから優先的に採用されるんでしょ。」

じゅえる「ということは、つまりほとんど確定ってことか。

 ちなみに今回の主役の女の子は、今後も登場する?」

まゆ子「不明です。が、多分出ますが大した役ではありません。というか、この話を書いた後で人物設定進めていった上で、この女の子はあまり役に立たない事が分かりました。」

じゅえる「分かる? 分かるってなに?」
まゆ子「つまり、使えるかそうでないかを判定したのだね。その上で大した事の無い役であるだろう、という事になりました。

 つまりー、この女の子は、黒カブトムシ兵のお嫁さんになる事が約束された娘なんだけど、弥生ちゃんが大戦争を起こしてしまうから、結婚式が延びてしまうんだね。で、婿になる黒カブトムシ兵の家の長子である男の人は、まだカブトムシをもらってないから、無敵じゃない。」

じゅえる「! 死ぬんだ。」
まゆ子「ありていに言うと、そう。」
じゅえる「可哀想だよ。というか、お話しなんだから可哀想でなきゃいけないんだろうけど。」

まゆ子「人物設定を進めていく上で、この子の妹、つまり御嫁入りする先の黒カブトムシ兵の家の娘であり義妹になる女の子、の方が重要な役になる、と判明しました。この話では手紙を送る方の女の子だね。」

じゅえる「なんか、特別な役どころなんだ。」

まゆ子「つまり、この子は黒カブトムシ兵の家の子であるから、求めに応じて王宮に務めたりするんだ。で、まもなく王宮に上がるわけで、もちろんその為に家で武術の稽古とかもしているんだけど、その先が悪かった。単に王宮に務めるに留まらず、地方にまで飛ばされちゃうんだな。

 ほら、赤カブトムシ兵の親分は、黄金カブトムシ王族の巫女だ、って話になったでしょ。あの女は三十半ばの大美人だけど、さすがに歳だから次の巫女にその座を渡せ、という話になってるんだ。というわけで、次の巫女というのが見習いとして彼女に付いてくる。で、その巫女は当然の事ながら若いわけで、お目付け役が付いてくるんだけど、それが黒カブトムシを戴いた女の衛士なんだ。つまり名門中の名門の家系だけど適当な男子が居なくてしかたなしに現在は当主を女子に任せてあるわけね。で、その人が若い巫女見習いの王女さまのお守役になる。で、件の妹は、王宮からその侍女へと転出する。つまり地方に従軍することになる。ちなみにその王女さまの巫女というのが、つまり物語の最後に張り付けで火焙りにされそうになる御姫様だよ。」

じゅえる「なるほど、大変に重要な役どころだね。つまりその妹の視点から物語が語られるわけだ。」

まゆ子「ついでに言うと、王宮に上がったその妹は、まず最初の御役目として犬の番をさせられる。つまり、額にカブトムシを付けた大犬で黄金カブトムシ王族の長老会の監視装置であるところのイヌだよ。そのイヌが市中に見回りに行くのにも侍女として付いていく。ちなみに、妹よりもイヌの方がくらいは上だ。」

じゅえる「なるほどなるほど、そういう順番で城の状況説明とかをするわけだね。となると、その、市中に見回りに行った時に当然トラブルを起こすわけで、そこんところに弥生ちゃんが、」
まゆ子「あ、そこで助けてくれるのが、女衛士の人、その時は市中で警視をやってるんだけど警察関係でおイヌ様警備もしているわけで、妹とも知り合い、スカウトされて王女さまの侍女になるわけだ。」

じゅえる「うん、いい感じだ。絵になるね。」
まゆ子「ちなみに、イヌ云々は今考えた。」

じゅえる「いま?」

まゆ子「うん。いま。」

じゅえる「・・・・・・・・・。」

 

2003.9.13

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「救世主? 来ているの?」

 レアルは手紙を届けに来たネコの言葉に驚いた。

 テラスで背中の毛を舐めながら駄賃のパンケーキを待っている、体長1メートルの真っ白なネコは、その情報の持つ重大さなど意にも止めないようにさりげなく街の噂を、このお嬢様に伝えたのだ。

 レアルは再び、ネコに尋ね直した。もしこれが本当ならば、王国が根底からひっくり返る程の重大事なのだ。もちろん、エアル自身にとっても。

「本当だよ。救世主ガモウヤヨイチャンさまだ。」

 ネコはこの世のものとはとうてい思えない不思議な響きを持つ名を告げた。ネコは記憶力はずば抜けてよいが、想像力をほんのかけらも持っていない。街の路地裏の洗濯屋のおばさんが13年前に三番目の子供に言った小言、というのを覚えていても、推測とか予想などはまったく出来ないのだ。ゆえにその証言は信憑性に満ちている。脚色も変更もまったく加わっていない、ネコ族ネットワークに口コミで伝わる確実な情報なのだ。

「救世主というのは、カブトムシ神さまの、救世主?」

 ここサンタバギア王国は1000年前にカブトムシ神を額に戴く救世主によって建てられた、人間を守る為の王国である。それ以前に世界を支配していた神聖ヌットバギアの神族王家による残虐非道を窮めた民衆の迫害から、カブトムシ神の霊力で人間を解放したまさに正義の王国なのだ。今もその戦いは続いており、神聖ヌットバギア改めヌットバギア真公国を荒野の隅に追いやり、今まさに滅亡させようとしている、とレアルは婚約者から聞いている。彼女の婚約者は今三年の辺境警備の軍務に就いており、それを終えると王都に戻って来てレアルと結婚式を挙げる予定だ。

「タコ、ゲジゲジ、カブトムシ、トカゲ、だから十二神の順で言うと今度は壁チョロの救世主さまだ。四番目の千年紀の始まりだ。」

 ネコは相変わらずそっけない。レアルがなかなかパンケーキをあげないから焦れて挙動不審になってきている。

「でもサンタバギアは慈悲と人徳に満たされた、人間のための王国なのよ。何故救世主さまが今になって別に現われるのよ。」

「五月七日、内壁南の豪商ヒッポドス貯コグトスの娘、弓レアルは、いかにもお嬢様なバカな事を言った、と。」

 ネコの比類無い記憶力の片隅に、レアルの言葉が記憶されてしまった。この言葉は事によればネコネットワークを通じて世界中に配信されてしまう。レアルは真っ赤に頬を染めた。

 その通り、人間の為に作られたサンタバギア王国といえども1000年の時を越えて戦い続けてきた内に、権力特有のひずみを生じている。その何よりの証しが城壁外周に多数居住する難民の群れだ。王都20万の正規の住民に対し、10万人もの難民が生業も無く配給に頼って無為に日々を過ごしている。これらの人々はサンタバギア王国が解放したヌットバギア真公国の住民で、ヌットバギアは純軍事的な敗北に対し自らの領土に焦土戦術を弄し、農地を毒で汚染して荒地となして大量に発生する難民をサンダバギアに押しつけて補給上の負担とし、侵攻速度を遅らせるという手を使っている。つまり、慈悲により解放するという大義が、貧困と飢餓という現実によって蚕食されているのだ。

 レアルもバカではないし物知らずでもないが、一般庶民と意識が異なるのは致し方ない。彼女は元々は神聖ヌットバギアの宮廷官吏であったヒッポドス家の娘で、生まれついての上流階級だ。彼女の家は、領域を狭め国庫が傾き続けそれでもなお暴虐の度をますます強める神族軍人の専横に振り回されるヌットバギア真公国に見切りを付けて、三代前に脱出してサンダバギアに亡命臣従したのだ。

 ヌットバギアの主神は、サンダバギアの主神カブトムシ神に対し、十二神で一つ前のゲジゲジ神である。黄金に輝くゲジゲジを頭に戴くヌットバギアの王族、自らを神族と名乗る彼らは、ゲジゲジ神から与えられた目も眩むような高度な科学技術をもって、蛮族が群雄割拠する小王国の連立を脱し、巨大で統一された文明帝国へ全土を変革させた。統合された国力を利用して不毛の地であった大陸中央部に潅漑用水を作り農地と変え、農業生産力をそれまでの数十倍にも高め、人口を爆発的にふやした。或る意味ではヌットバギアもまた救世主の王国である、が、それも1000年の時を耐えて仁慈を貫く事が出来ずに権力に溺れ、残虐で非道な王国へ堕す事を留める事が出来なかった。

 ヌットバギアから民衆を救い出す事を使命とするカブトムシ神の使徒サンダバギアは、カブトムシ神の与える霊力により無敵の戦闘力を誇る。しかし、ゲジゲジ神がもたらす技術の力は彼らには無い。故に、ヌットバギアを逃れて帰順する廷臣や博士、官僚や軍人は、技術と知識をもたらす者として大層優遇されるのだ。レアルの曽祖父もまたそうして高い地位を得た。現在でこそ官を離れ商人として財を為すに至っているが、血筋という点に関してレアルは、カブトムシ神に仕えるサンダバギアの王族よりもなお旧い、伝統有る家系の一員なのだ。

 ネコは言った。

「救世主ガモウヤヨイチャンさまは、すべての戦いを終わらせる為に天の星から来たと言っている。でも随分と気の短い御方だよ。」

 ネコの物言いは私心を加えず記憶を正確に再現するものであるから、味もそっけもない。余所の世界のうわさ話かのように無感動に喋るから、そこに極めて重大な情報が有ることは注意していなければ聞き落としてしまう。

「え、天の星って、今度の救世主さまはこの大地で生まれた人じゃないの?」

「ネコにはそれはわからない。」

 パンケーキへの欲望に、ネコの目が充血し目尻が逆立っているのを見て、レアルはこれ以上留める事が出来ないのを悟り、しぶしぶパンケーキを与えた。亜麻豆を煮潰して練り上げ型に入れて蒸し上げたそれは、ネコに言わせると血を浸して食べるのに最高の食材なのだそうだ。

「もう一枚。」

 ネコは記憶力は抜群だが、手先が不器用だ。知性はあっても自らパンケーキを作る事が出来ない。小動物を捕食して血を舐める吸血動物のくせに甘いパンケーキやせんべいを欲しがるのは、彼らが彼らなりに人間の文明に敬意を払っているという証拠だろうか。

 レアルはもう一枚、ネコに手渡した。このパンケーキはそれなりに高価なもので、たぶん城壁外の難民が口に入れるのは困難であろう。そのくらいの知識は彼女も持っている。ここ、レアルの住いする城の内壁では、それら難民や乞食を見ることなど絶対に無いのだが。

 二枚目は食べずに口にくわえたまま、ネコは長い身体をくねらせてテラスを出て行こうとする。彼らネコ族は身体能力がずば抜けて優れていて、人間がめぐらす防壁や柵などまるで蜘蛛の巣が掛かっている程度にしか意にも止めず、誰にも遮られる事無しに自由に行き来が出来るのだ。ゆえに郵便配達に重宝する。代金はパンケーキと結構高いが、深夜でも軍の警戒中でもするすると抜けて来るので、逢い引きの連絡には最高なのだが。

 レアルへの手紙は婚約者の妹からのものだった。嬉しい手紙ではない。妹の下に届いた連絡によると婚約者が勤務する軍の管轄で異変が起き、王都への帰参が二三カ月遅れるというものだった。

 親同士が決めた婚約であるから、特に想うところはレアルには無い。ろくに人物も知らずに結婚するのは、この国では当たり前の事だ。結婚というものは互いに寄り添う内に愛情が芽生えてくるものだ、と家庭教師は言う。恋なんて騒がしいだけで意味など無いのだと。
 彼の妹は義姉になるレアルに対して兄の事を色々と褒めるが、それもまた形式的なもので、文面の端から漏れ伝わってくるのは、軍人として、また黒カブトムシを戴く甲羅兵団の一翼を担う家の嫡子として、の威圧とか思考の固さとか、そういう面白みの無い人物像だった。17歳のレアルにはもの足りないだろうが、これが20歳を越えれば、まして子を産み奥様と呼ばれるようになれば、重責を担う家の家長としてまたヒッポドスの縁者として、そういった人物の方が好ましくなるのだよ、と父母は言う。しかし、

「・・・この異変というのは。ひょっとして救世主さまが降臨されたというのと関係があるのでは。」

 詳細を知らないか聞こうとしてネコを探したレアルだが、すでにテラスにも植えこみにも白く長いその姿は無かった。

 レアルは世の中が予想もしなかった方向に動こうとする音を聴いた気がして、振り返り、城の尖塔を仰ぎ見た。サンダバギアの王城は彼女が生まれた時から見上げる姿のまま、小揺るぎもしないように映るが、しかしこの城もはるか以前はヌットバギアの一地方都市に過ぎなかったことを思い出す。おととしの千年紀には彼女自身も1000人の舞姫として揃いの晴れ着を着て、王国の長久を祝う行列に参加したのだった。

「そう、千年。千年を区切りとして時代が変わるのがこの世界の理。」

 城の上の蒼い空をずっと高く見つめている内に、根拠の無い確信を覚えていた。今に時代は変わり世の中の仕組みが一変するだろう。自分の身にもなにか、家も血筋にも関係なく全てを打ち破る大きな異変が起きるかもしれない。だがそれは、ひょっとして自分を今の、自身の力ではどうしようもない停滞から解放してくれるかもしれない。そんな淡い期待にレアルは胸の鼓動が高鳴るのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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