ゲバルト乙女 第七夜

前の夜

 

 

 

まゆ子「タコ、ゲジゲジ、カブトムシ(ふんころがし)、壁チョロ、蛾、ミミズ、コウモリ、蜘蛛、カタツムリ、カエル、蟹、ネズミ。

 これら十二支の神様はそれぞれに役目というか、属性が設定されている。」

じゅえる「わ。びっくり。」
明美二号「わ。」

まゆ子「あ、おはよう。というわけで、とりあえず思いついたところから始めるよ。

 で、十二支の神様はそれぞれに決まった意味があり、世界のあちこちでそれにちなんだお祭りとか儀式とか縁起担ぎがあるわけなんだな。」
じゅえる「まあ、そりゃそうだろう。神様なんだから暇にしてるわけにはいかない。」
明美「ということは、おみくじは十二支の神様ごとに違うカテゴリーの、たとえば金運と恋占いとは神様が違うってのがあるんですよね。」

まゆ子「まったくそのとおり。

 で、おみくじ担当の神様は蜘蛛なんだ。占いの神、運命の糸を操る神様なのだね。だからおみくじと言えば蜘蛛!では他の神様のおみくじは、と言えば、どちらかと言うと願掛けになる。願を掛けておみくじを引いて、その願いの成就を諮るって感じね。だから安物のおみくじばっかりではなくて、金貨百枚のおみくじというのもこの世界にはある。」
明美「おお、大したものですね。」

じゅえる「そうか、一種の娯楽性を持たしてあるんだね。この世界には、まあ信仰というよりも実際に本物の神様が現出しているわけだから、すがりつくというか依存するというか、そういう感じの絶対的な存在感が有って、信じる必要は無いからね。」
まゆ子「そうなんだ。神様なんて信じるものじゃないんだ、この世界は。力がどういう風に発現するか、それを見極めるというのがこの世界の信仰なんだ。だから、おみくじを引いてより良い方に行動しようとする。そういうシステムなんだな。」


明美「かなり、実利的なんですね。現世利益的な。」
まゆ子「だってこの世界の人間は死後の世界を信じないんだもん。人は死んだら天の川に魂だけ行って、十二神の審判を受けて再びこの世界に戻ってくる、というのが死生観なのだな。輪廻転生なのだ。で、すべての物事はこの世界でのみ実現される。人間レベルでの事はこの世界でのみ決着される。

 つまりこの世界は人間と動物と、つまり肉を持つ生物専用の箱庭みたいなもの、という世界観なのだ。」

明美「はあ。」
じゅえる「単純だが、なかなか思い切りのいい、幻想の無い世界観だね。現世は現世で完結してるんだ。むしろ潔いよ。」

 

まゆ子「というわけで、十二支の神様の意味づけなのだ。
 最初の四つはもう決まってる。

 タコ=豊壌と農業の神、大地母神。農業を伝えた神であり、農村ではどこでもお祭りをするし感謝祭がある。
 ゲジゲジ=英知の神、知識と技術の神、工の神で世界を改造する力を持つ。
 カブトムシ=守護の神、怪力の神、軍神でもある。堅固さと安定の象徴でもあり、契約の際にはこの印章を用いる。
 壁チョロ=慈悲と癒しの神、病や傷から人を救う力を持つ。

じゅえる「壁チョロはまあこんな感じでいいんだけど、カブトムシは契約の神? ちょっと意外な感じもするけど。」
まゆ子「契約というよりは法の神といってもいいんだけど、ともかく決まったことは必ず守る、そうでなければたたっ斬るという意味合いがあるんだね。だからカブトムシ神に誓ったことは、命を掛けて守る必要があるのだ。」

明美「ゲジゲジ神は、つまり学問の神様であるわけなんですね。入試の際にはゲジゲジにお祈りをするとよい。」
まゆ子「まあー、まあそうね。ゲジゲジ神にはそういう機能もあるけれど、どちらかというと知識の護り手という意味合いが大きい。是非、理非曲直を明らかにするという、曲がったことは大嫌いという神様だ。」

まゆ子「

 

 蛾=音曲の神、調和の神、飛翔する大気の神、気象の神でもある。
 ミミズ=地底の神、水の神、地下水の神、土壌の変化を司る神、植物の生育に関する神でもある。
 コウモリ=夜の神、死の神、怪物の神、世界を知らない間に整える神、悪を滅ぼす神
 蜘蛛=運命の神、占いの神、天文の神、未来をつむぎ出す神、文字と数字の神でもある

 

明美「蛾が音曲の神というのは?」
まゆ子「この世界の蛾は、ギルギルと鳴くのだ。」
明美「げ。」
じゅえる「蛾が、鳴くの?」
まゆ子「セミみたいなものだと解釈してくれい。ギルギルと鳴くのだよ。で、結構大きい。この神様として看做される蛾は、大人の掌を合わせたような大きさがあるんだよ。極彩色で怪しい模様の、それでもってギルギルと鳴く。」
明美「わ、わかりました。それは不思議なものとして見過ごせない、あやしい生物ですね。」
じゅえる「日本には居ない種類ね、それ。

 ミミズは、タコの豊壌の神とバッティングしないの?」

まゆ子「ミミズは雨乞いの神様です。それと地下水のね。水が無ければ農業も出来ないけれど、水があるからといって作物が出来るというものでもない。だから、タコ神さまは大地母神で、ミミズはそれに潜る地龍みたいなものなんだね。地下水自体が生物である、という風な捉え方をしている。」
明美「地震はミミズの神様ですか、それともタコ神さまですか?」
まゆ子「タコ神さまの方かな。土砂崩れとか洪水とかはミミズの方だけど。その意味ではミミズは災害の神でもあるね。」

じゅえる「コウモリは、善い神さまなんだね。」
まゆ子「基本的に悪い神様は十二支には居ない。この世界では死は悪ではない。当然の摂理と理解されているし、死なない人間というのはむしろ永遠の刑罰とさえ思われている。天の川に上って十二神の裁きを受ける勇気の無い者、というわけだ。だから人生の最後を取り仕切ってくれるコウモリの神様はとても尊い神様なのだよ。それに、どんな悪にでも終わりはある、という希望の神さまでもある。」

明美「で、蜘蛛が占いの神様なわけですね。蜘蛛の巣を張るように運命も紡いでいくというわけですね。」
まゆ子「正確には、運命は天の川の十二神さまが相談して決めていく事になっていて、蜘蛛はその書記という役どころね。だから文字数字の神というわけ。当然運命に関して最も詳しいのだよ。
 でも、他の神様も運命の成立に関与しているわけで、蜘蛛の神が独占しているわけじゃあない。目的に応じて、それぞれの担当部署の神様にお願いしておみくじを引くのは、そういう理屈によるわけね。」
明美「なっとくしました。」

 

まゆ子「王宮にも蜘蛛の神の巫女が居て、占いをしている。この人は超能力者ではあるんだけど、別に頭に蜘蛛が取りついているわけではないから、そんなには正確な、詳細な占いは出来ない。でも重宝がられているよ。お話しにも重要な役所として出すつもり。」

じゅえる「ファンタジーには予言者は必須アイテムだからね。」

 

まゆ子「

 

 カタツムリ=蒼穹の神、天井の神、山の神、家の神、倉庫の神、ともかく膨らんだ形を司る神、覆いの神、大工の神でもあるが、国家の神でもある。
 カエル=変化の神、少女の神、快楽とセックスの神、毒の神、美しさの神、愚かさの神、恋愛の神、巫女の神でもある。
 蟹=裁きの神、破壊の神、海の神、飲み干す神、謎の神、無慈悲と冷酷の神。
 ネズミ=増殖の神、繁栄の神、子供と妊娠の神、ご馳走と飢餓の神でもある。商売の神でもある。

 

じゅえる「ネズミの、ご馳走ってなに?」
まゆ子「ネコがネズミを太らせて売る、て話があったでしょ。まるまると肥ったネズミはこの世界では結構なご馳走なんだ。ただ、ネズミの種類が違うけどね。ドブネズミではなくて、野ネズミの一種で食用ネズミが居るんだ。でも、ドブネズミも合わせてのネズミのイメージね。」

明美「カタツムリがわからないんですが、やはりあの殻が問題なんですよね。蒼穹の神ってのはなんなんですか?」
まゆ子「簡単なはなし、この世界の人間は、空に天井があると信じている。空の上には天井があり、その上に天の川が通っている。そういう風に世界を感じているんだ。」
明美「あ。そうか、天井か。じゃあ、この世界はカタツムリの殻の中なんだ。」

じゅえる「初期設定ではフンコロガシが転がすというのがあったんだけど、あれとは異なる?」
まゆ子「あーー、あれはー、天体の概念が無いとわかんないから、どうもこの世界の人間は、他の天体ってのを理解しそうにない。天動説を信じているみたいだから、あれは没だね。」

明美「なんか、カエルが凄くいいイメージなんですが、この世界のカエルってのは、綺麗なもんなんですか。」
まゆ子「ああ、カエルはこの世界でなくてもこっちのカエルでも綺麗なもんなんだけどね。特に熱帯の毒カエルは様々な色があって毒々しいばかりに綺麗だったりする。」
じゅえる「変化、ってのはまあベタなイメージなんだけどね。基本的には女の神なんだ。男は?」
まゆ子「やっぱりカブトムシでしょ。軍神だし。」

明美「蟹はコワイ神様なんですね。」
まゆ子「うん、基本的にはこの世界は海は無しなんだ。沿海以外に漕ぎ出す事は無い。危ないし、帰って来ない。その向こうに何があるか、だれにも分からない。実際数千キロ先まで島一つ無いのだな。

 謎で、人間の関与をまるっきり受けつけない無慈悲さがある。そういった海のイメージを象徴するのが蟹なんだ。というか、海の水平線の端はそのまま宇宙の天の川につながって、死後の世界に直結すると思ってるから、蟹神は死んだ人間の魂を裁く裁判官の役もする。」
じゅえる「ふーん、じゃあ、この世界の人は蟹は食べないんだ。」
まゆ子「めったにね。おなか壊す事も多いし。」
明美「そうなんですか、毒ですか?」
まゆ子「いや、痛み易いんだ。だから食中毒になってしまう。食べ物を放っておいたら腐ってしまうという無慈悲さでもあるんだな。」

 

じゅえる「で、まあ、十二支なんだけど、太陽と月が無いね。これは別口?」
まゆ子「別口。太陽は鳥が扱い、月は魚が、惑星は獣が扱う。魚は、海がそのまま死後の世界だから、魚は死者の魂と看做されている。死んだ人は魚になって天の川まで泳いでいき、蟹神の裁きを受けて、また地上に振ってくる。一種の輪廻転生思想だよ。で、月は新しい体をもらう宮殿とされている。ちなみにこの世界に月は一つしかないが、隣の惑星がほとんど連星で近くに見えるから、二番目の月扱いされてる。でもまあ、天動説だからね。」

 

 

明美「こうして見ると、壁チョロ神の意味が薄いですね。わかりやすいですけど。」
じゅえる「そうだね。あ、金属とか鉱石とかは、神様は無いの?」
まゆ子「それはー、ゲジゲジ神だね。補足しとこう。

 そうねー、たしかに壁チョロ神は意味が少ないね。他の神様は相互に矛盾するような意味合いも持ってるし、裏づけとなる事物もあるんだけど。」

じゅえる「カブトムシも裏づけは少ないね。抽象的なものだけって感じがする。」
明美「担保が無いとやっぱいけませんか。そうですねえ、この二つだけ自然物が絡んでないですね。ネズミもそうだけど。」
じゅえる「ネズミは増殖だから、裏づけは生物そのものでしょ。ちゃんとある事になるわよ。」
まゆ子「カブトムシはこのままでも構わない。軍と法という、極めて重要な裏づけがある。自然物でなくてもいいと思う。」
じゅえる「まあね。」

まゆ子「壁チョロはー、

・・・・・・・・・氷があった。寒さのアイドルはまだ無い。」
じゅえる「そういえば、この世界って冬が来るんだよね。」
まゆ子「うん。ちゃんと雪も降る。・・・この神様の中では、氷と雪を司るのにふさわしいのは、壁チョロ神だけだね。」
明美「そうですねえ。壁チョロも冬は弱そうな気もしますが、他はもっとダメですから。」
まゆ子「じゃあ、氷の神ね。で、慈悲、癒しの神。」
明美「ちょっと矛盾しそうな気もしますが。」

じゅえる「これじゃあ、弥生ちゃんの働きと矛盾するんじゃない?」
まゆ子「あ、うーーーーん、そうね。慈悲と癒し、これはデフォルトで、壁チョロは、脱皮、ね。」
じゅえる「脱皮、つまり古いものから新しいものへと生まれ変わるイメージだ。これは弥生ちゃんのイメージに合っている。で、」
まゆ子「だから、そうだね。冬が厳しいというイメージがこの世界には無いということだろうかね。冬は来るけどそんなに厳しく寒いわけじゃなくて、せいぜい温帯の冬で、大地が眠る時期という感触をこの世界の人はもっている、と。だから、壁チョロ神は、冬の神であって、それは次の春への準備の期間というのだよ。だから新生と癒しの神なんだ。」

明美「でも、そうすると、4番目が冬とすれば、四月が冬?」
じゅえる「ああ、暦はどうするんだったかな? 十二支で月も表示するんじゃないの?」

まゆ子「あ、暦てものをすっかり忘れてた。あーそうかー、十二支は時間と方位に関係するんだったね。うーん。十二支の順番を変えてみるか、いい感じに。ついでに修正も掛けるよ。」

 

春、朝、東
 タコ    =豊壌と農業の神、大地母神。海から大地を作った神、包容の神、曙の神。   
 蛾     =音曲の神、調和の神、飛翔する大気の神、気象の神でもある。         
 ミミズ   =雨の神、水の神、地下水の神、土壌の変化を司る神、植物の芽吹きの神。  

夏、昼、南
 ゲジゲジ =英知の神、知識と技術の神、火と金属の神。日照りの神、工の神で世界を改造する力を持つ。   
 カタツムリ =蒼穹の神、森の神、家の神、ともかく膨らんだ形を司る神。国家の神でもある。           
 ネズミ   =増殖の神、繁栄の神、子供と妊娠の神、ご馳走と飢餓の神でもある。商売の神でもある。     

秋、夕、西
 蟹     =裁きの神、海の神、飲み干す神、謎の神、疫病の神、無慈悲と冷酷の神、夕焼けの神。              
 カブトムシ =守護の神、怪力の神、軍神でもある。堅固さと安定の象徴でもあり、法を司る神でもある。収穫の護り神。   
 カエル   =変化の神、少女の神、快楽とセックスの神、毒の神、美しさの神、愚かさの神、恋愛の神、酒の神でもある。   

冬、夜、北 
 コウモリ  =夜の神、死の神、怪物の神、世界を知らない間に整える神、悪を滅ぼす神。      
 壁チョロ  =慈悲と癒しの神、安らぎと眠りの神、次の新生への準備の神、氷と水晶の神。     
 蜘蛛    =運命の神、占いの神、天文の神、未来をつむぎ出す神、文字と数字の神でもある。  

 


じゅえる「・・・ま、ちょっと肯定しがたいのもあるけれど、まあいいか。どうせおみくじだ。」

明美「これで普通に日本で使ってるように十二支使っていいんですね。」
まゆ子「うーん、大丈夫かな。えーと、大体朝日が昇るのがタコ時で、夕日が沈むのが蟹時だから、正確に12等分してるわけじゃない江戸時代の時計と一緒なんだけどね。南中する正午がゲジゲジ時、深夜0時がコウモリ時となる、

 

・・・って、タコゲジゲジカブトムシ壁チョロの順番がデタラメになってしまった・・・。」
明美一号「ここはやっぱりメルヘンよ! メルヘン攻勢を掛けるべきだと思うよ!!」

 

明美二号「わ、一号先輩、いつのまに。」
一号「いや、出番が無いから暇を持て余しちゃって。で、ね、ここは一発、世界誕生秘話ということでメルヘン神話を書くべきだと思うのよ。」

じゅえる「なるほど、一理ある。」
まゆ子「二理も三理もあるな。神話がいつもいつもしかめっ面らしく深刻ぶってるというわけでもない。面白おかしくメルヘンの神話だって、十分役に立つわけだし、メルヘンだからと言って神話に価値が無くなるという事も無い。」
一号「でしょ、でしょ。」

じゅえる「いや、待て。・・・ここは一番、わたしの出番では無いだろうかね。」
まゆ子「え?           、ダメ。」
じゅえる「ち。」

二号「え、なんのことです?」
一号「今じゅえるがやおいメルヘンにしようと言ったのよ。」
二号「そ、それはー、・・出来るんですか?」
じゅえる「出来いでか。」
まゆ子「じゅえるなら出来るから、禁止なのだよ。」
二号「それはーーーーー、やですね。」

一号「で、メルヘンなのよ。」
まゆ子「あーーーーー、そうね、まあ、やって損するってことも無いか。じゅえる。」
じゅえる「わかった。とりあえずやってみる。」

 

 

 

じゅえる「でさ、巫女さんはどうなるの。 十二神のおみくじ売って生計を立ててるんでしょ。この神さまの守備範囲がそのままおみくじになるんだ?」

まゆ子「巫女はね、まあ、そうなんだよ。おみくじだけでなくてちゃんとした御奉仕もある。というか、売春も御奉仕の一環なんだよ。

 でもね、巫女でない売春婦というのも居るんだな、これが。見つかると死刑になってしまうから、普通はショバ代払ってカエル神の巫女になる。カエル神は早い話が売春の神さまでもあるわけで、資格審査一切無しというお手軽巫女が出来るんだな。カエル巫女といえば安物の売春婦の代名詞ともなる。でも、カエル巫女は結婚してる女は受けつけないんだ。だから、そういう人がもし売春婦になろうとすると、まあ経済的な困窮によるんだけどさ、人気の無い神さまの所に行く事になる。カニ神だ。つまり人妻売春はカニ巫女という一般常識が存在するわけで、当然のことながら評判はすこぶる悪い。

 で、巫女にも色々あって、売春をしない巫女というのもある。

 壁チョロ神の巫女は通常神殿で看護婦みたいなことをする。街場なら往診にも出かけるし、山野に出かけて薬草を取って来て煎じたり潰したりして薬を作って神殿付属の薬局で売ったり、病気平癒怪我治癒のお祈りもしなくちゃいけない、と、とても忙しい。だから売春なんかしている暇が無い。壁チョロ神のおみくじは当然病気平癒なんだけど、熱冷ましも売っている。膏薬になっていてこれを額にぺたっと貼ると冷や冷やする。夏場にはよく売れる。

 蜘蛛神の巫女はおみくじ売り失せ物占いが本業で売春をする必要が無い。精神を集中する為には余所に気を取られてはいけないから、処女が大半だ。それに、蜘蛛神のおみくじのほとんどがネタがある。ネコ郵便のネットワークに乗ってくる噂話を聞いて世情に通じるのも蜘蛛巫女の役目で、ネコの為に大量のパンケーキを焼くのが日課で、それは案外に重労働なのだ。ネコから仕入れたネタで、どうでもいい噂話をおもしろおかしくした新聞も作ったりしているけれど、これが案外よく売れる。

 コウモリ神の巫女は葬儀屋さんだ。死者を清めたり、もがりをしたり、悪霊が死体に取りつかないようにお祓いをしたり、と夜に行われる葬儀の一切を行うから忙しいし、縁起が悪いからと客も寄りつかない。昼は昼で、お墓で死後何日目のお祭りとかも手配している。コウモリ神のおみくじはつまり悪霊避けだ。自殺やら殺人とかがあった現場ではお清めに大量に貼られるので結構よく売れる。

 カブトムシ神の巫女は現在は王宮にしか居ない。本来はカブトムシ神の巫女は結婚式の介添人で、カブトムシ神は契約の神であり結婚の護り手でもある。だから、夫婦仲が悪くなった時の仲裁とかもやっている。いよいよ悪い時は離婚もあるんだけど、それもカブトムシ神の神殿で受け付けている。
 でも現在は巷のカブトムシ神殿は王宮に遠慮して、正式の巫女神官は勤めていない、代理人だ。代理だから売春はしないし、第一結婚式で売春とかなったらそれこそ修羅場だ、から無い。売っているおみくじは当然、家内安全夫婦円満だが、別に証紙も売っている。契約書に使う特別な紙で商売や遺書とかには使用が義務づけられており、証紙の製紙はカブトムシ王宮の副業だから大変に儲かっている。

 ゲジゲジ神は、もう二千年も普通の神官巫女は居ないんだけど、伝わるところでは、学問の神で勉強する時に願掛けに行くのがこの神殿。ついでに頭が痛くなった時とか精神が衰弱とか妄想とかでおかしくなった時もこの神殿で治療する。悪魔払いもね。頭関係の神様なんだ。ゲジゲジ神の巫女は棒で頭を叩いて治すとかの、怪しげな話が伝説になって伝わっているけど、詳しいことは北の山の神殿にでも行って勉強するしかない。売春をしていたかどうかも、もう誰も覚えていない。
  しかし、ゲジゲジおみくじは蜘蛛神殿でついでに売っている。頭痛払いの御札で、額に貼っつけるといいことになっている。妙な警句が書かれていて、読むと頭が痛くなる、という代物で、しばしば警世の句でもあるので、よく警察の取り締まりに引っ掛かったりするんだが、誰が書いているのかは普通謎だ。

 

 それ以外が売春をする巫女だ。

 タコ神の巫女は普通踊り子として知られている。農耕儀礼の時に踊りを奉納するから均整の取れた美人が多い。踊りだけではなく曲芸もするし手品もする、芸能人だ。 だからかなり人気があるけれど、呼ぶ時は楽団付きという事になってしまうので相当金が掛かる。舞のなかには剣舞もあって常に小刀を携帯していて、剣闘の腕もかなり高い。売っているおみくじは当然豊作祈念だけど、タコ巫女ブロマイドというのもあって木版で刷って売っている。ちなみにブロマイドの絵師は王宮の奴婢の特殊技能者が、たいていやっている。

 蛾の神の巫女は音曲や唄のスペシャリストでこれも人気がある。でも、呼ばれる時は宴会の時が多いから、あまり買春目的というのは無い。というか、かなり客を選ぶので、巫女のファンが大金を投じて客になる、という形が多い。大気の巫女でもあるから、天気予報もやるわけで、おみくじというよりも長期天気予報というペーパーを売っているが、この予報は当たらない事で有名で、何日の予報が的中するかでの賭けすら行われているほどだ。 しかし中には本当に天気が当たる超能力者も混じっている。

 ミミズ神の巫女は、普通は雨乞いをする時に呼ぶ。夏場の日照りはシーズンだから大忙しでこの時期は買春は無い。それ以外の農閑期は買春をやっているけれど、あまり人気は無い。なにせ雨乞いの巫女だから逝っちゃってる人が多くて、まともな男の人は耐えられないんだ。素人にはお薦め出来ない。また平均年齢が少し高めなのも難点。むしろ水呪いという恋人の嘘を暴き出すという禁断の魔法を目当てに来る女の人のお客が多かったりする。

 ネズミ神の巫女は繁栄と繁殖の神だから、男性のインポを治すスゴイ技を持つ。もっとも、子孫繁栄の為には妻のヒトとセックスしなければいけないから、ネズミ神の巫女は本番は無し。それに産婆もやってるからいつでも会えるというわけじゃあない。もっとも、産婆は普通歳を取った巫女がするんだけど。不妊の相談とかも受け付けるし、既婚女性相手によく妊娠するセックスの体位の講習とかもやっている。内緒だけど、実は堕胎もやっている。
 ネズミ神は商売繁盛の神さまでもあるので、商売繁盛の祈願おみくじも売っている。儲かるといえばこっちの方がうんと儲かる。

 カエル神の本物の巫女は、実際売春が本業といえるプロフェッショナルで極めて有能、スゴイ技をいくつも持っている。だけど、本当の役目は接待で、カエル巫女の接待で落ちない男は居ないと言われるほどの手練手管を使って、難物をてなづける、というのが本来の能力だ。当然カエル巫女は美人ばっかりで、しかも欲望に際限が無いので、お客が身代潰そうが背任しようが借金しようがまるで関係なく、貢ぐ事を要求するんだな。カエル巫女が原因で破滅した、って話がごろごろしてる程恐ろしく危険な巫女なんだ。
 で、恋占いのおみくじを売っている。普通の少女がカエル巫女の所に行っておみくじを買う、というのはかなーりな冒険なのだが、好きな男の背中に見つからないようにばちっと貼り付けて、家の戸口をくぐるまで気付かれなければ恋が成就する、というおまじないがあるから、挑戦する女の子は後を断たない。

 本来のカニ神の巫女は、なにもしない。なにもしないで祭っているのが正しいカニ神さまの祭り方で、破壊の神様になにかされたら困っちゃうからね。だから、カニ神巫女は儀式のプロでもある。冠婚葬祭の相談を受けて正しい儀式のやり方を教えて報酬をもらうのが、普通の在り方。ついでに、巫女、それも安物のカエル巫女に巫女社会のルールを教えるのがカニ巫女で、その指導に従わないとお仕置きもする。また、巫女登録をしないで売春をやってる者を摘発もする。と言っても、通常はカエル巫女にするかカニ巫女に強制的にしてしまうから、刑事罰、それも死刑ってのはほとんど無い。ちなみにお仕置きてのは、まず裸にひんむいて棒で叩く、天井から吊るす、水責めにする、髪を切っちゃう、等々。
 カニ神のおみくじは、やっぱり物騒な天誅の御札で、憎い相手の家の礎石に貼り付けるとてき面に効果があり、三日の内に敵が悶絶死するとか言われているけど、さだかではない。簡易カエル巫女カニ巫女の鑑札を売るのもカニ巫女で、これが一番の収入源。

 

 カタツムリ神の巫女は特別で、王宮に仕える女官みたいなものだ。
 本来の役目は神話の再現で、神話劇を祭礼で行っている。頭のいい人が多くて、長い神話や叙事詩を暗唱できる。孤児院の運営にも当たっているし、王宮に出入りして巫女達が避妊に失敗した子供達を育てて読み書きを教えたりもする。王宮やカブトムシの家の身分がある女性にトラブルが起きた時、カタツムリの巫女が解決に遣わされるという事もある。
 また極めて特殊な役目も持っていて、身分のある者が刑事事件等で捕まった場合、カタツムリ巫女が代わりに人質になって仮釈放される。もし被疑者がそのまま逃亡となると、人質のカタツムリ巫女は自動的に有罪となり代わりに処刑される事になる。もちろんそうなったら、王宮が特別討伐隊というのを組織してその被疑者の首を取るまで帰らないという仕儀になるのだが、国事犯の場合でも仮釈放が認められているから、しばしば政争に巻き込まれて命を落とすカタツムリ巫女が居る。
 おみくじは一応売っているけれど、カタツムリ神殿というのは王宮そばにあって、庶民が近寄れるものじゃないんでほとんど買えない。建物の完成とか棟上式とかに柱にぺたっと貼ると家が潰れない、ということになっている。

 カブトムシ兵の幼年学校にセックスの講習に行くのが、このカタツムリ巫女で、グラマーでしっとりとした美人が多いので男の人にかなり人気があるけど、街場では客はとらない。というか、この巫女さんはタダなんだよ、練習相手に使われる、という形で行われるから。それだけに会うのがとても難しい。

 

明美「か、カニ巫女恐るべし。そんな巫女は要らないです。」
じゅえる「というか、それはヤクザというか忘八じゃないか。」
まゆ子「まあ、洋の東西を問わず、そういう人は要るもんなんだよ。あ、基本的には、ヒモは安物のカエル巫女、人妻のカニ巫女にしか居ない。他の巫女はしっかりしてるからね。タコ神蛾の神の巫女は大富豪と結婚引退も多いんだよ、人気者のスターだからね。 」

明美「どこの町にも村にも巫女は居るんですか。」
まゆ子「うん、大抵は居る。というか、全部揃ってるというのはあんまりないし、一人の巫女が何種もの巫女を兼ねてるというのもある。

 壁チョロ神とネズミ神は田舎では同じ人がやってる事が多い。医療系だからね。カニ神カブトムシ神コウモリ神も儀式系だから、一緒の人がやってる事が多いけど、でも役目の関係上むしろ男の神官の方が多いのだ。田舎には居ないのが、蜘蛛神の巫女だ。この巫女は霊感が無いと務まらないけど、そんな人はめったに居ないからね。逆に同じ霊感系でもミミズ神の巫女は、これは田舎にいっぱい居る。というか、霊能力の大小で守備範囲が極端に広い超有名人巫女が居るんだ。

 タコ巫女蛾巫女カタツムリ巫女なんかは旅芸人みたいな事もしてるから、お祭りの時にはやってくるというわけだ。各神のおみくじはその旅芸人のキャラバンでも売っている。大都市の有名人巫女の書いたおみくじは凄くよく売れる。

 

 ちなみに紙は、バナナみたいな大きな葉を四角に切って干したものと、パピルスみたいに草の皮を剥いだものと、古着を叩いて本当に紙を漉いたものと、獣皮を伸ばしたものがある。値段は言った順に高くなるけど、おみくじに使われるのは大抵がバナナの葉っぱだ。」

 

2003・09・13

 

 

まゆ子「ついで!十二神のむずかしい漢字!!

蜻蛉(とんぼ・セイレイ)

蛸・章魚・鮹(たこ)蚰蜒(げじげじ・ユウエン)甲虫(かぶとむし・金亀子(こがねむし))蜥蜴(とかげ・セキエキ)

蛾(が、蜩(ひぐらし・チョウ)蚯蚓(みみず・キュウイン)蝙蝠(こうもり・ヘンブク)蜘蛛(くも・チチュ)

蝸牛(かたつむり・カギュウ、蛞蝓(なめくじ・カツユ))蟾蜍(かえる、ひきがえる(月の異称)センジョ)螯蟹(はさみ、かに・ゴウカイ) 鼠蝟(ねずみ、はりねずみ・ソイ)

じゅえる「なんだ、タコとカブトムシはそのまんまじゃない。」
まゆ子「すまん。漢和辞典には出て来ないんだよ、かっこいい漢字。中国にはカブトムシはいないのかな、っていないわけないんだが。」

明美「フンコロガシで引いてみましたか?」
まゆ子「あ、やってない。・・・だめだ。出ない。」
じゅえる「ぐーぐるで引いてみれば?」

まゆ子「・・・・・・あーーーー! クワガタは中国語で鍬形甲虫だ!」

じゅえる「げ!」

まゆ子「あ、やっと出た。独角仙というのがカブトムシだ。でもこれはあだ名みたいなもんだな。クワガタは鍬甲ともいうみたい。」

明美「どっちにしろ、専用の漢字は無いわけですね。」
まゆ子「そうみたい。意外だ。」
じゅえる「というかさあ、カブトムシって食べられないし害虫でもないから、まるっきり興味ないんじゃないかな。」

まゆ子「う、その可能性は高い。独角仙って名前はいかにも取ってつけた、趣味のペット的な飼育昆虫になってからのあだ名って感じするし、鍬形甲虫てのはいかにも日本的だ。たぶん、日本でクワガタに人気があるから、そのまま横滑りって感じじゃないだろうかね。」

 

 

 

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