ゲバルト乙女 第十夜

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じゅえる「今日はまゆ子はおやすみです。」
明美二号「ということは仕事になりませんね。」
じゅえる「まね。でもとりあえず設定進行してみよう。」

明美「あとで怒りません? まゆ子さん。」
じゅえる「怒ったっていいじゃない。どうせ適当にでっち上げてるんだからさ、修正なんて簡単なものよ。」
明美「まあファンタジーですから、簡単といえば簡単なんですが、なにをしましょうか。」
じゅえる「単純なとこでは、ファッションてのはどう?」
明美「グットです。それならまゆ子先輩も怒りませんよ、というか、何も決まっちゃいませんから、むしろ喜びますよ。」
じゅえる「GOODだと思うんだがー。

 


 で、ファッションの話だ。一応中世ということになっているけど、でもヨーロッパの中世の衣装ってのはどうも重たくていけない。あれは、どうも気候が当時は少し寒冷期に入っていた為だそうだから、この変な世界とはちょっと違うんじゃないかな。もっと暖かいでしょ。」

明美「そういや、ここは雪があんまり降らないんでしたね。真っ白になるのが珍しいというような設定だったはずです。」
じゅえる「要するに、日本の西日本程度の気候なんだ。結構温い。

 でも逆に言うと、夏はどうなんだろう。」

明美「それはーーーーーー、設定無いですね。まったく検討された気配すらありません。」
じゅえる「ビキニだ。ビキニ鎧を出そう。」
明美「はわわわ、それはいけませんよ。あそうだ、巫女です。巫女衣装は決まってるんですから、これから考えてみましょう。」
じゅえる「これはー、季節は何時の服なんだろ。」
明美「なんというか、春秋ものじゃないでしょうか。タコ巫女は夏っぽいですが、その他は長袖ですし、あでもミミズ巫女は裸足だ。」
じゅえる「裸足だね。なんでだろ。」
明美「ともかく、これは夏物ではないですね。どうなんでしょう、この国は暑いんですか?」
じゅえる「いや、どうも、なんだ、これは冬物でもあるんじゃないかな。この程度の服でも乗り切れる寒さだったりして。」
明美「まあ、素材が分かりませんが皆長袖で脚も出してないし、これで行けと言われればなんとかしないでもないかもしれません。」
じゅえる「これにもう一枚足せば十分そうだね。」
明美「ええ、薄手のコートがあればいいんではないでしょうか。」


じゅえる「となると、夏は暑い。」
明美「必然的にそうなりますか。でも、そうすると、この世界は南国風になるわけですから、海がもうちょっと開けていてもいいかもしれないですね。」
じゅえる「潜りは出来るだろうね、夏場は。じゃあやっぱりこの世界は日本の気候を元に作られている、と考えるべきだろう。で、日本の中世といえば鎌倉時代だな。その前の平安時代は十二単衣で見るように、寒かったらしいからね。逆に鎌倉は温かったんだよ。」
明美「日本の女の人は街場を歩くのに、そんなに裾を引きずったりしない、すっきりした感じの服装ですよね。そうか、そのラインでいいんだ。」
じゅえる「巫女の衣装はそういう風に見ればいいってわけだ。なるほどねー。」

明美「となるとますます夏場の衣装は南国風であるべきですね。やっぱりビキニですか。」
じゅえる「うん。かなりきわどいものになるのがセオリー。おっぱい放り出していてもOKなんじゃないかな。」
明美「おー。なるほど。でもカブトムシ王国って硬そうですから、それは無いんじゃないですかね。」
じゅえる「そういう制約はあり、か。じゃあ逆にゲジゲジ王国は露出過剰ということで決まりね。」
明美「装飾過剰ってかんじがするじゃないですか、ゲジゲジ王国って。古代ローマがモデルなんですから。だから、女の人の服装もさぞかし美麗なんじゃないでしょうかね。」
じゅえる「まあ、一般庶民は楽じゃないらしいけどね。

決まり! ゲジゲジ王国は夏はビキニ!」

明美「うん。」
じゅえる「男はパンツ一丁だ。」
明美「おー、そう来ますか。でもそれこそ古代エジプトみたいでなんですねえ。もう少しひねってみますか。」
じゅえる「男は、褌に半纏! 麻の着物で、褌がデカい。相撲の化粧回しみたいなの。」
明美「いい感じです。もっともっと。」
じゅえる「頭にちょんまげ、縦に結い上げる。顔面には隈取りで刺青あり。」
明美「顔にですか? それとも全身?」
じゅえる「顔と胸、つまり出身カーストを表す印を彫っている。額に文字で、胸に動物というか十二神の絵、手の甲にも。」
明美「つまり、十二神のカーストということですね。色は青で、」
じゅえる「青と赤。白は化粧で塗る。女はそれに黄色も乗る。」
明美「女性はどこに彫りますか。額と、やはり胸?」
じゅえる「胸の谷間のとこと、腹、当然露出してるのね。顔面には化粧としてアイシャドウとかも彫っている。当然手の甲にも。」


明美「ということは、カブトムシ王国では刺青は無し、てことですね。」
じゅえる「無し。だからどこの出身かはひと目で分かる。ま、なんですか、だからカブトムシ王国からの侵入工作はかんたんだけど、逆は非常に困難なわけね。」

明美「その他にはなにか特徴的なのは。」

じゅえる「ゲジゲジ王国の人は彫り物が好き。人形というか、根付みたいなものを体中にぶら下げてる。木彫りだったり金工だったり練り物だったりするけれど、ともかく動物の形をしたものを身につけている。装飾過剰だ。特に金はゲジゲジ神族だけに許されている。銀色は官僚とかね。それに宝石の使用もランク分けが厳しい。」

明美「ダイヤモンドはありますか。というか、なにがあってなにが無いんでしょうか。」

じゅえる「ダイヤモンドは残念ながら無いかも。エメラルドやルビーサファイアは有る。一番ポピュラーなのがタコ石。ガラスとその細工ものである蜻蛉玉も人気だ。玉の類いも種類が豊富で琥珀珊瑚も結構ある。珍しいものと言えば、黒鉛ね。黒鉛も宝石のひとつに入ってる。玉虫の羽根もあるし、貝殻も使われる。木も目が詰まった黒檀とか紫檀とかに似たのがあって高値で取り引きされている、ってとこかな。」
明美「なかなか充実してますね。でもダイヤモンドは無いとは。」
じゅえる「深いところはなかなか掘らないから。あ、鉄、真鍮、銅緑青、青銅、錫、等々金属の塊も装飾に使うよ。骨や牙、鱗も鳥の羽根もともかく使えるものはなんでも装飾にするのがゲジゲジ王国の特徴で、細工の技術は特別に進歩してるんだよ。」


明美「わかりました。つまり、衣装は質素だけど、付属品が凄いんですね。」
じゅえる「この付属品は全部お金としても使えるんだけど、標準的な貨幣は、鉄貨。つまり鉄の塊を動物の形に切って貨幣にしている。鉄の刃物は禁止されてるのに、お金は鉄なのね。いざとなったらこれを溶かして武器を作るって意図があるらしいんだけど、そこまでするような事態は結局ゲジゲジ王国が出来て以来無い。」
明美「錆びちゃいませんか?」
じゅえる「叩いてるから大丈夫。表面はつねにつるつるしてるし、人々も暇があったらお金を磨いてる。これはもう趣味の領域でね、つるつるしたお金自慢ってのも居るくらい。」


明美「つるつるといえば鏡はやっぱり銅鏡ですか。」
じゅえる「まね。じつはゲジゲジ王宮にはガラス張りの鏡がちゃんとあるんだけど極秘扱い。そんなに大きなものじゃない30センチ角くらいのでね、当然宝石よりも何倍も高い。カブトムシ王国にもガラスの鏡ってのは作れないのね。水銀を塗ってこする江戸風の鏡しかない。だからガラスの鏡はカブトムシ王国でも限られた王族しか持ってない。」
明美「じゃあ、ガラスはこの世界では高級品なんですね、窓ガラスってのは無いんですか。」

じゅえる「さあ。窓には紙が張ってるってのが普通の家の窓の明かり採りで、まあ障子と一緒ね。大きな板ガラスってのは何世紀に出来るようになったんだろう。」
明美「はあ、そりゃあまゆ子先輩に聞いてみなければ分からないですね。中世には無かったんでしょうか。」
じゅえる「全然わかんない。どうしよう。」
明美「と、ともかくゲジゲジ王国では鏡が作れるくらいですから、板ガラスも作れるんじゃないでしょうか。王宮は全部ガラス張りで、すごい不思議な感覚で。」
じゅえる「要所要所に鏡の間があって、迷宮みたいになってるってわけね。ゲジゲジのついてない人ならもう迷ってしょうがないって感じ。ブルース・リーの死亡遊戯みたい。」
明美「で、全部金箔で装飾してるんです。ガラスと鏡と金で、・・・・超豪華ですね。」
じゅえる「さすがのローマでも負けるね、それ。」

(まゆ子注; 窓ガラスはローマ時代にはもう使われてるんだけど、これは透明ガラスの破片を鉛でくっつけたようなもので板ガラスではない。砂の上に溶けたガラスを伸ばして作る板ガラスてのもあるけれど、これは不透明であんまり良くない。透明で平面の板ガラスは七世紀シリアのガラス職人が考案した、お皿というかピザを伸ばすようにガラスをぐりんぐりんぶん回して遠心力で伸ばすのが実用化の最初みたいで、これ自体はかなり大きな、直径1メートルの円形板ガラスが作れたらしいんだけど、四角く切れば70センチくらいかな。あんまりにも高価すぎるので、普及品は直径15センチくらいの円形板ガラスを窓に何枚かはめて、というお手軽なものになる。昔の学校のガラスが小さかったのと同じね、割れるのは小さな単位で割れてくれ、というもの。その後15世紀くらいベネチアがガラス工芸で大繁盛してた時代には鉄板の上に流す方法とかも使われてるけれど、17世紀に考案された、長い円筒形のガラスの瓶を吹いて、それを縦にちょん切って伸ばす、というのがまあ板ガラス普及の切り札になったわけで、この時代にようやっと板ガラスが日本にもやってきてる。日本で板ガラスの製造が本格化したのは、明治時代の半ば以降だから、遅れてるね。閉鎖していれば、技術の進歩は無いというわけだ。

 さて問題は、この世界にはダイヤモンドが無いってことで、つまりガラス切りが無い、切り子ガラスが作れないのだ。参ったね。ゲジゲジ王国では円筒形を切って伸ばす方法、手吹き円筒法ってのが使われている。機械力を使わないのであればこれが限界。カブトムシ王国にはぐりんぐりん溶けたガラスを回すクラウン法ってのしかない。もっとも、地底のタコ化石から取れる塗料を膠みたいに半透明に伸ばしたという不思議な材料がある。ガラスみたいに透明ではないが、その分強度が滅法強い。楯としても使えるくらいだ。)

 

明美「カブトムシ王国のお金はどうなんです。」
じゅえる「ただの銅貨。大きいのと小さいのと三角形の。表面に極めて精巧な模様がある鋳造品でね、この製造の難しさで偽造防止している。高額貨幣は銀貨、で勲章的に使われてるのが金貨、ね。金はゲジゲジが抑えているから、カブトムシ王国では銀本位制をとっている。だから金貨ってのは使いみちが無いんで、昔の大判みたいに贈答用なのだよ。」

明美「なんとなく江戸時代なんですね。そうかー、まゆ子先輩は江戸っポイ呼び方をするって言ってたけど、そういう複線があったんですね。」
じゅえる「いや、なんとなくね、暖かいところの中世ってのはあんまり想像がつかないんだもん。で、しかたがないから江戸時代にしてる。近世なんだけどしかたないね。」
明美「つまり江戸風中世ヨーロッパファンタジーなんです。斬新じゃないですか。」
じゅえる「斬新だね。無節操だけど。」

明美「で、カブトムシ王国のファッションはどうなってるんです。」
じゅえる「逆に装飾は無い。布をたっぷり使ったような、ほわんとした服で、ゲジゲジ王国とは対照的なんでしょ。ここがまた日本風だな。鎌倉風のような感じのする、中世ヨーロッパなのだ。」
明美「なるなる。つまり基本的には日本なんですね。どっちがかっこいいとかいけてるとかは、あるんでしょうか。やっぱ奴隷でしかないゲジゲジ王国の人よりも、カブトムシ王国の方がいいものを着ているんでしょうか。」
じゅえる「まあカブトムシ王国が勢力的にはじりじりと勝ってるから、ゲジゲジ王国でもカブトムシ王国のものが浸透してて、案外住人は服装の違いとか感じてないのかも。」
明美「アレンジし直すとか、装飾で誤魔化すとかしてカブトムシ王国の服を着てるんでしょうかね。年がら年中ビキニでいるわけにもいかないでしょうから、そんなものかな。」

 

明美「じゃあ、こんどは普通の人の暮しってのを考えてみましょうか。学校てのはあるんですか、この世界。」

じゅえる「無いと思うよ。て言うか、中世なんだもん、普通はお寺か修道院で勉強する、あるいは貴族とかが家の中で家庭教師に教わるってとこでしょ。一般庶民が勉強するようになったのは近世以降、義務教育が出来たのは近代になってからじゃないの。」

明美「やっぱりそうですよね。じゃあ普通の人は字を読めないわけなんですね。」
じゅえる「いや、ほら、ネズミ神時代に字が出来た、って設定があったじゃない。これは外せないのよね。」
明美「あー、あーそうでした。あれはどういう文字なんでしょうね。」
じゅえる「ここはいっぱつ、エジプトみたいに象形文字ということで、というか絵文字で小学生の絵日記みたいに記録してたってとこにしておこう。」
明美「絵日記ですか。じゃあ、すごく簡単なことしか表現できないですよね。それこそ、壁画みたいなかんじで。」
じゅえる「そうだと思うけど、でもそれじゃあ文明ってものはつくれないから、ここもエジプトに習って、絵文字を簡略化した記号文字が発生した、ってことにしましょ。

 ネズミ神時代の後の、タコ女王様の時代よね。あれは通商国家ってはなしだから、商取引に使われる専用の文字を開発したわけよ。要するに番頭なんだね。タコ女王様のところで番頭として働いていた人達が独自の階級に発達して、めんどくさいネズミ絵文字を省略した速記文字を開発したってわけ。始まりがはじまりだから、契約書とか商法とかの複雑でめんどくさいものを表現しなきゃいけないから書式がめんどくさいのよね。だから普通人には使えない。また読めない事を利用して一種の暗号としても機能して、情報を一元的に管理するタコ女王の繁栄に寄与したってわけ。

 で、結局タコ女王さまの宮殿は全てこの文字で記録される事となり、大量の文書が作成され図書館というものが作られる。タコ王宮が崩壊したとき、この図書館と番頭階級が散逸して、世界中でこの文字が利用されるようになり、普通の民衆を情報から隔離することで利便を独占する支配階級としての「王」が発生して、で、タコ神時代末期の分裂状態が起こるのよね」

明美「ふむ、なんかメソポタミアの歴史みたいな話ですね。あそこはくさび形文字がそういう風に作られたって話ですから。」

じゅえる「というわけで、この文字を便宜上”タコファベット”と呼ぶ。」
明美「正式めいしょうですか・・・・。」
じゅえる「後でコンピュータで置換すればいいから、書いてる時はタコファベットと呼ぶ。苦情は受けつけない、と。」
明美「まゆこさあ〜〜〜ん。」

じゅえる「で、ゲジゲジ語というのがまた別にあるのよね。
 ゲジゲジ語は、ネズミ文字の発展系で象形文字なのよ。漢字みたいな。タコファベットは便利だけど、普通の番頭階級の人が読めるじゃない。ゲジゲジ神族は頭のゲジゲジから進んだ科学技術の知識を得ているわけだけど、でも全部が全部覚えているわけじゃないし、興味の無いことにはゲジゲジも知識を与えてくれない。だから、人によって知識の分野やレベルが異なるのよね、応用するための理解も違う。だから、それぞれが得た知識を共有化する為に文書化する必要があり、それを他の連中に知られないような特殊な文字で表記する必要があったのよ。で、ネズミ絵文字を発展させて洗練昇華させた優美な文字としてゲジゲジ文字”ゲジ聖符”というのが完成したのよ。」

明美「じゃあ、それは番頭階級の人は絶対読めないわけですね。でも、解読しちゃう人もいるんじゃないですか。」
じゅえる「死刑よ。」
明美「やっぱり。」

じゅえる「だから、本格的なゲジ聖符の解読はカブトムシ王国が出来た後になるのね、ゲジゲジ王国からの脱出者が率先して解読に当たったの。なんせ、この世のありとあらゆる秘密が書いてある、という書物だからね。でも、実は、単に文字が難しいだけじゃなくて、内容が更に難しかった。」
明美「何故です?」
じゅえる「科学技術書ってのは、普通のひとにはなに書いてるかさっぱりわかんない。」
明美「あー!」
じゅえる「わかんない事がわかんない文字で書いてある。しかも、基本的な知識は頭のゲジゲジが供給するという前提で書かれた文書だから、解読は困難の極みだったわけね。しかも、ゲジゲジ神族ってのは自分達の事をエリートだと思ってるから、単純平易な文体は使わない。まあねじ曲がったような当てこすったような人を小馬鹿にしたような、ともかく難解で言辞的に韜晦したような、その上本歌取りとか引用とかを多用した、とてもじゃないがまともな人間なら読みたくないような書物に出来上がってるのよね。
 ここら辺は聖っちゃんが専門だけど。」

明美「・・・・なるほど、カブトムシ王国が成立して1000年、未だにゲジゲジ王国を制圧出来ないのは、そういう裏があったんですね。技術の移転が非常に困難なんだ。だから1000年掛けてじっくりじっくり立ち上げてきたんだ。」
じゅえる「そういうことね。

 で、このゲジ聖符、漢字と同じで”音読み”がある。ゲジ聖符で書かれた文章をそのまま音で読んだのを”ゲジ聖語”というんだけど、これはそのまま頭のゲジゲジが理解する。それだけじゃなくて、頭のゲジゲジ通信でテレパシーみたいに遠くの人に伝える事ができるのよ。便利いい。」

明美「あ、それって、黄金カブトムシとおんなじですか。」
じゅえる「だいたいおんなじなんじゃないかな。黄金カブトムシはすべての黒カブトムシ兵、赤カブトムシ兵の頭のカブトムシに一方的に言葉を伝える事が出来るし、カブトムシが見る映像を一方的に見る事もできる。つまり黒赤カブトムシは着信専用の電話機みたいなものね。で、黄金カブトムシ同士は言葉も見るものも共有出来る。それに対してゲジゲジは、直に会ってゲジゲジ同士を接触した相手ならば言葉を通信出来る。でも一対一で、同時には一人ずつとしか会話出来ない。黄金カブトムシはかなりの数の、あるいは全部のカブトムシに同時に言葉を伝える事ができるけど、ゲジゲジは一対一、ね。」

明美「黒カブトムシ同士はどうなんですか。」
じゅえる「無い。」
明美「はあ。」
じゅえる「と言っても目はいいんだから、姿が見える同士なら、合図で意志を伝える事が出来るのよね。2、30キロは離れていても見えてれば意思疎通は出来る。超音波も発しているらしくて、ある一定領域内であれば、姿が見えなくても会話は出来るのよ。その時使われている言葉がどうもゲジ聖語みたいなのよね。ゲジ聖語はカブトムシも理解することが出来る。頭の上のゲジゲジとカブトムシが会話するときにはゲジ聖語で会話してるらしい。人間には聞こえないけれど、くっついてる人には会話していることが分かるよね。だから、ゲジ聖符は天上の天の川十二神の言葉だと理解されてる。だからカブトムシ王国でも必死になって解読に励んでるのよ。」

明美「ふむふむ、なるほど。じゃあ、ゲジゲジ神族はケイタイ持ってるようなものだけど、カブトムシ兵は無線機みたいなもんなんですね。」
じゅえる「まね。放送に近いかもしれない。

 でね、カブトムシ王国でもゲジ聖符は使われているのよ。「弓レアル」の”弓”ってのは、つまりゲジ聖符で書かれてるのよね。これは一種の呪術文字としても扱われていて、これで名前に一字入れれば縁起がいい、という迷信があるのよ。だから、普通の名前に加えてゲジ聖符で文字がおまけに付いてくる。ついでに言うと、弓レアルが勉強している「ゲジゲジ語文学」ってのは、つまりゲジ聖符で書かれた難解な文体をタコファベットに翻訳した文体の文章のことなのよね。ゲジ聖符で書かれた文書の翻訳本はすべてこの文体で書かれているから、およそエリートであればゲジゲジ語文学は必修なの。まあ弓レアルはエリートとは言いがたい普通の凡人のお嬢様なんだけどね。」

 

明美「普通の、日常の言葉で書かれた小説とかは無いんですか。というか、小説は無いんですか。」
じゅえうる「うーーん、無かったことにしよう。ゲジゲジ王国時代は小説は無い。演劇はあるから戯曲はある。それと演説と論文ね。でも通俗小説ってのは無い。タコ王国時代は普通の神話劇というかおとぎ話や神話があった。漫才もあった。
 でも完全フィクションとしての小説は、カブトムシ王国のごく最近2、300年くらいの産物だったりするのよね。弓レアルなんかはこれに夢中なんだけど、レベルとしては高くはない。でも平易な文体であるから、これから進歩するのよ。一般庶民が学問するようになるのは、この文体での書物がどんどん増えた後になるわね。ちょうど、日本の平安時代のカタカナが生まれた時期に女流文学が花開いたのと同じような感じなのかな。」

明美「ということは、まだ一般庶民はそういうレベルには全然達していないということなんですね。そうかあ、こういうのは民間に資本が蓄積してコガネモチが増えてからじゃないと、やっぱり発展しないのかなあ。

 どうなんです、ゲジゲジ王国とカブトムシ王国では、一般庶民はどっちが裕福なんですか。」

じゅえる「実を言うとね、ゲジゲジ王国には税金は無い。というか租税ね、農作物を取り上げるやつ。」
明美「ほえ?」
じゅえる「正確に言うと、農作物は強制的に買い上げられてしまう。値段も取り上げる側が勝手に決める。で、お金をもらう。」
明美「げ、それは、税金取られるよりもキツいんじゃないですか。」
じゅえる「まあ、そうなんだけど、昔はそれで機能したんだ。流通を独占することでね。だから、ゲジゲジ王国は一物一価なんだよ。ゲジゲジ王国以前は地方地方でモノの値段が違って大変困ってたわけなのよね。だから、これは一種の進歩なの。」
明美「なんか共産主義みたい。」

じゅえる「うん、そう。ゲジゲジ神族以外は皆同じと言ってもいいのよ。全部奴隷ってわけね。奴隷だから商取引なんてやっちゃいけない。ゲジゲジ神族以外 金儲けしちゃいけないのだ。」
明美「そうか、なんとなく分かって来ました。カブトムシ王国の人は奴隷じゃなくて、所有権とか商取引の自由とかがちゃんと保証されてるんだ。」


じゅえる「所有権というのなら、ゲジゲジ王国では確かに個々人に所有権は無い。でも、彼らを所有するゲジゲジ神族というのがちゃんと決まっていて、奴隷の持ち物はすべて主人であるゲジゲジ神族の持ち物なのよ。で、奴隷の役目や働きに応じて財物が主人から与えられる。主人が決めたことだから、それは他の奴隷が力づくで取り上げるとかは出来ないんだね。暴力で搾取するヤクザみたいのは理論上はありえない。
 というか、宮廷官僚も軍人も皆奴隷なんだから、奴隷と言ってもピンからキリまであって、自分の家を持っていて召し使いを何人も使ってる奴隷というのも珍しくない。」

明美「なんですかそれ。どこらへんが奴隷なんですか。」
じゅえる「でも、ご主人のゲジゲジ神族の一言で全てを失ったりもするんだよ。立場上はすべての民衆は平等なのね。」

明美「うーん、なんか少し、ちょっとなにかが違うみたい。つまり、イスラムのスルタンの宮廷みたいなものかしらん。白人の奴隷が大臣をしていたとかの。」
じゅえる「そんな感じね。」

明美「じゃあカブトムシ王国はまるっきり違うんですよね。奴隷はないんですね。」

じゅえる「奴隷は無い。すべての人間をゲジゲジ神族から解放するのが、カブトムシ王国の使命だからね。だから一般人にもちゃんと所有権がある。土地は私有できないけどね。で、所有権が存在するから民間人同士の間で貸し借りも発生するし、契約も成立する。高利貸しが居るしヤクザが取り立てもするし、借金が払えなくてカエル巫女にされたりタコ部屋で強制的に働かされたりもする。奴隷自体は居ないけど、奴隷的境遇の人はちゃんといるのよ。」

明美「人間社会ってのはなかなかうまくいかないもんですねーー。」


じゅえる「そういうわけ。カブトムシ王国には奴隷は無いけれど、現代的な意味での人権は無い。というか、国家が個人を保護するという概念が存在しないんだから、基本的人権なんて考えたこともない。ただ法の下での平等という概念があるだけで、それも階級によって適用にちゃんと差があり、それを誰もが当然と受け入れている。誰のものでもない人間は、誰の保護も受けないってわけね。」
明美「そんなことでいいんですか?」

じゅえる「そこらへんは実効的にカバーするのよ。村や街はそれぞれで警官や役人を抱えていて、それが住民を保護するサービスを提供している。十二神の巫女や神官が御奉仕してるし、カブトムシ兵も権限の範囲内で公正な扱いをしていて、お正月とかには食糧を貧しい人に配ったりもしてる。でも、年金制度は無いし健康保険も失業保険も無い。基本的には、食べるものもお金も無くなったら死ななくちゃいけない、というのは世界中どこでも一緒。」
明美「あ、・・・まあ、・・・そりゃそうなんですけど。」


じゅえる「ところがゲジゲジ王国にはそれが有るのよね。」

明美「げ、じゃあ、ゲジゲジ王国ではゲジゲジ神族には奴隷を生かさなければならないって法律とかもあるんですか。」

じゅえる「ある!ちゃんとある。というか、奴隷が他人に傷つけられたら主人はその代償補償を取り立てる権利と義務があるし、犯人の引渡を要求する権利と強制的に執行する義務もある。
 ゲジゲジ神族は土地は持ってない、というか全ての土地は国有財産だけど、人間は別なのよね、動産なの。土地を国家から借りて、自分の奴隷を使って耕させたりものを作ったりする。なにせ、ゲジゲジ神族の財産は人・奴隷であるわけで、人は死んだら補充がなかなか効かないのよ。誰のモノでもない奴隷、というのは国内には存在しないわけだし、繁殖目的の牧場とかいうのはさすがに成り立たないから、奴隷の生死は割と重要な問題なのよね。
 農作物が不作で飢饉とかになっても、ゲジゲジ神族が金を出して食糧を遠くから取り寄せる。そうしなければ奴隷が飢え死にして自分の財産が減ってしまうのよ。だから、大体、食糧は主人であるゲジゲジ神族が持って、奴隷は食費を使う必要が無い。まあ、量とか質とかは別の話だけれど。
 身体障害者もそうね、使える限りはなんでもさせる。手先だけを使う仕事や目が見えなくでも出来る仕事ってのを割り振って、労働力としてとことんまで使い尽くす。代わりに道端でのたれ死にとかは無い。老後は老後で、まあ寿命が短いから心配する必要も無いんだけど、年寄りを大事にするゲジゲジ神族というのは徳が有ると看做されて、結構社会的評価が高いのよ。というか、つまり年寄りを生かす程の余裕が有る=奴隷の使い方がうまい、という事なのね。普通平均寿命は40何歳なんだけど、60歳越える年寄りにもなると、別扱いされてかなり快適に過ごせるのよ。」


明美「はあ。奴隷制度ってのはそういうものなんですか。」
じゅえる「アメリカの黒人奴隷を標準と思っちゃダメよ。大体人間てのはどこでも余剰がないんだから、供給する所は限られるのね。或る所から別の所に人間移したら労働力不足で元の所の生産力が落ちちゃう。それに、働かせるだけ働かせて使えなくなったらポイってのじゃあ、やる気なくなるでしょ。意外とそこらへんは気を使ってるのよ、ゲジゲジ神族も。鞭だけじゃあ人は動かないってわけね。というか、アメリカの奴隷制度ってのは、アフリカから無制限に人間を輸入出来たからこそ成り立つ制度で、それも綿花栽培とかの単純モノカルチャア中心で、ゲジゲジ王国みたいなバラエティに飛んだ産業の担い手てのとは違うのよね。」

明美「そ、そういうもんですか。奴隷制度ってのはもうちょっとひどいものかと思ってましたけど、」
じゅえる「いや、まあ、酷いと言えば酷いんだけどね。まああれよ、家畜でも100万円するのと10万円しかしないとでは扱いが異なるて事ね。農業の耕運機とかと考えてもいいわ。」
明美「そりゃあ非人間的な比喩ですね。」
じゅえる「でもほんとうに奴隷使ってる人の意識ってのはそういうものよ。というか、現代でもまだ奴隷ってのが有る国はあるんだもん。そこのレポートってのを読めばそういうものよ。」

明美「はあ。でもそういうのってあんまり読みたくないんですけどねー。」
じゅえる「読んでキモチイイってもんじゃないしね。まあ、貧しい国の売春婦も実質奴隷みたいなものだけどね、でも現代は人間の供給は潤沢だから相場は相当に低いのよねー。もっと人間が居なかった時代はもうちょっと高値で取り引きされたんだけど。」

明美「なんかじゅえる先輩ってコワイ人ですね。」
じゅえる「お話しを書く人間てのはこのくらい当たり前よ。ダークサイドの知識が無いと話続かないもん。」

 

 

明美「で、カブトムシ王国ですけど、奴隷は無いんですよね。ゲジゲジ王国を打倒するんだから。」
じゅえる「そうなんでしょうね。つまり、奴隷制度のみならず、奴隷を巨大ゲジゲジの餌にする、という行為に対する反発から、カブトムシの救世主、カブトムシ王国は始まってるって設定なのよね。」

明美「そうでした。巨大ゲジゲジは人間を餌にするんでした。でも、この巨大ゲジゲジってどこから仕入れたんでしょうね。」
じゅえる「不明。頭にくっつく聖なるゲジゲジとは種類が違うんじゃないかと思うんだけど、これどこから来たんだろ。」
明美「まあ、それはまゆ子さんに任せて。でもこれ戦闘用でしょ。ということは、ゲジゲジ王国内部で内乱があったってことですか。」
じゅえる「うーーーーん、逆かもしれない。巨大ゲジゲジが手に入ったから、内乱が始まった、って感じじゃないのかな。というか、これはひょっとして品種改良の結果なのかも。」
明美「頭に付けるゲジゲジの、ですか。」

じゅえる「だから、聖なるゲジゲジに手を加える派と自然派というのが抗争して、その結果巨大ゲジゲジが生まれたってのはどう?」
明美「赤カブトムシ誕生の話と似てますね。つまりゲジゲジのパワーアップですか。」
じゅえる「というか、その他の家畜もゲジゲジ神族によって改良されたのよ。その延長上に、根幹となるゲジゲジも改良してみたらどうだろうって考えるマッドサイエンティストの一派があり、自然状態の神様がお授けになったままのゲジゲジを維持しようという主流派がある。で、マッドサイエンティストは都を追われて辺境の地に逃げ延び巨大ゲジゲジを開発して逆襲する。で、主流派は対抗手段としてやはり同じ巨大ゲジゲジを導入して、一種のたがが外れたような状態になり、王国全体が混乱する。そこにカブトムシの救世主が現われる、って寸法。」

明美「おお、それじゃあ巨大ゲジゲジをばったばったとなぎ倒していくヒーローの出現てわけですか。」
じゅえる「えい。」
明美「で、やっつけたゲジゲジ神族の奴隷を解放して自由の民にして、カブトムシ王国が始まるわけですよ。」
じゅえる「なかなか、調子いいね。

 で、そういう感じで出来上がった国であるからには、強権的な絶対の支配者とか特権的な貴族ってのはよろしくないわけで、黒カブトムシ兵は直接土地の経営とか支配をせずに一種のオブザーバーとして共同体に存在するのよね。民衆は民衆だけで共同体を運営していかなければならない。

つまり、
聖なるカブトムシが国の中心で、黄金カブトムシを頂く長老議会が国の中心で、国家と国土と国民を統治している。
 国民は国土と同様に、自然状態として世界に存在するものとして、カブトムシ王国が庇護を与え、代わりに国民は服属する事になっている。これはゲジゲジ王国からの脱出者を前提としたシステムであって、誰も奴隷ではないという前提に成り立つ国なのね。
 で、農民は耕地を私有せず、協同農場として借りる事になり、街とか村とかのグループに領域として貸出されている。つまり、村とかの行政単位があってそこが流れて来たゲジゲジ王国からの脱出者を預かるのね。で、生産物の分配はその中で行われる。誰の畑、てのは無いんだけど、村長が農民の働きとか家族の状況とかを見てそれぞれ妥当と思われる量を分配して、また飢饉に備えての備蓄とかもしなきゃいけないのね。で、国家はその行政単位である共同体から農地の賃料として税を取るわけだ。

 共同体はそれぞれの勝手で人を集めることは出来るんだけど、犯罪者でなければ一度受け入れた人は放出できない。だから、村では人の受け入れは合議して決めるし、最近は人手が余ってどこにも受け入れてもらえない人が都市に溢れてる、という有り様になる、と。」

明美「聞く分には、かなり民主的なんですけど、うまくいかない事もあるんですか。」
じゅえる「いや、これはー、まあ民主的といえばそうなんだけど、全員が同等の権利を持っているわけじゃない。金持ちになる人も居れば古くからの既得権益を持ってる人も居る。逆に新参者とか、正式な村人じゃない季節労働者も居て、そういう人は会議に参加も出来ない。」
明美「ほうほう。じゃあやっぱりお金持ちはますます金持ちになり、貧乏人はますます貧乏になる、てあれですか。」
じゅえる「それよ。で、結果としてヤクザとか高利貸しも出てくるわけ。こういうシステムって、実際は案外と無慈悲だったりケチだったりするのよね。冷たいの、姥捨て山の世界になったりしちゃう。」

明美「ははあ、じゃあそのまま放っておけば、とてもイヤな社会になるわけなんですね。それって民主主義の悪いとこが出て。」

じゅえる「そこで黒カブトムシ兵の存在が光ってくるのよ。このシステムでは村同士が競合関係になったりもするわけで、場合によっては武力闘争に発展する可能性もあるんだけど、それを調停し合理的な解決を与えるのを期待されてるわけ。固定化して腐敗する村や街の共同体を牛耳る顔役達を、法の下の正義により打ち破り、自由主義よりも社会的平等と公正さを実現するための強権を発動する、まあ小さい救世主さまなのだね。農地の賃貸料の税を徴収する役目を担う事にもなってるんだけど、そこで厳しい検査をして共同体の実力者の不正も暴いたりする。」

明美「なるほど。カブトムシ王国ではむしろ一般の民衆の方が悪なんですね。カブトムシ兵は正義の味方で。でも、それでもうまくいかない。」
じゅえる「正義の味方、ってだけでもないし、第一戦争してるからね。普通の税以外にも夫役とか特別税とかはあるし通行税とか市場のショバ代は取ってるし、カブトムシ王宮独自のビジネスもやってる。その優先度は普通の民間の事業より上で割を食わされることもあるし、第一人間が増え過ぎて農村のキャパシティを越えちゃってるし更に難民が流入してたりする。
 ま、世界のどこの国とも同じように難題山積よ。」

明美「それでもゲジゲジ王国よりはマシなんでしょう。」
じゅえる「どうなのかな? まあ農作物の生産量はカブトムシ王国の方が上らしいから、食糧が有る方が勝ちかな。」

 

明美「でも、じゃあこの世界の人は、一体どういう世界であればいいと、理想郷だと思ってるんですか。」
じゅえる「それはねえ、どうも不思議なものでねー、なんなんだろう。カブトムシ王国の人は、もっとカブトムシ兵に指導力を発揮して欲しいと思っている。民衆の合議制による町村経営は効率的ではない、と皆思ってるんだよね。計画性と将来性を見通す知性と教養の持ち主に強力な指導力でリーダーになってもらいたい、と思ってる。教養があり判断力に富み技術やら地勢や商業について知識があり合理的発展的に町村を経営できるのは、他でもない黒カブトムシ兵しか居ない、実際。文字が読めるって人そんなに居ないし、学が無い人間が長老になってもぱっとしないのが分かってるんだよ。しかしその一方では、ゲジゲジ神族による支配の記憶てのがまだあって、無条件な優位者の支配というのにはおそれを為している。」

明美「ダメじゃん。だめですよ、そんな世界は。責任の放棄とか転嫁とかみたいじゃないですか。」
じゅえる「でも、この世界の人は、自分達がそれほど賢くも無ければ善人でもないということをよく知ってる。普通の人間だけの世界ではとても成り立っていかないことが分かってるんだな。そういう人間が求める理想郷というのは、どんなのがいいわけ? というか、この一般の民衆って人達は小学校すら出てないわけなのよ。」

明美「そうなんですよね。理想を語るにしても、基礎的な教養が無いと話ができないんですよ。」

じゅえる「そうなのよー。第一、文字にはなにか呪術的な力があり、下手に使うと身を滅ぼすとさえ普通の人は思ってるのよ。もちろんその畏れは完全に現実的で正しいわけで、ゲジゲジ神族は決められたカースト以外の奴隷が字が読めるのは反逆だとして死刑にしてたし、カブトムシ王国でも何らかの謀議あるいはゲジゲジ王国への内通として、一般人の字の使用は警戒してる。ゲジゲジ王国への内通者ってのをごく普通に取り締まると、必然的に怪文書の存在が確認されるんだな。だから、字が読めない事が身を守る事、として認識されてるのよ。」

明美「そ、それはー、・・・基本的なとこで間違っているというか、幼稚園のところから根性たたき直さなければいけないというか、あきませんね。」
じゅえる「こんな奴らの住んでる世界を、どうやって理想郷に導けばいいと思う?」
明美「無理ですね。」
じゅえる「無理だよねー。ふつう。どっちかというと、巨大な軍事力と高い教養と智慧を持ち合わせた聖王に十二神の加護がある王道楽土、こそが最高の理想郷になってしまう。というか、他にはありえないでしょ。」


明美「あ、ギリシャとかローマみたいな民主主義とか共和制は、」
じゅえる「だからあ、カブトムシ王国の村や街は、皆そういう体制になってるんだよ。それで収まらないところに黒カブトムシ兵の権威と力で皆納得する解決を得ている。民主主義の限界をイヤというほどわきまえてるわけなのよ。これってわかる?」
明美「ぜつぼーてきに、理想が描けませんね。

 うーーん、結局のところ、どちらが正しいんですかねー。これじゃあ人々は迷っちゃうんじゃないんですか。」

じゅえる「識者の間では、ってね。識者のあいだでは、この問題は決着が着いている。
 つまり、ゲジゲジ王国の体制は、ゲジゲジ神族、ようするに頭に付いてるゲジゲジが居なければ、成り立たない。一方、カブトムシ王国の体制はカブトムシ兵が居なくても成り立つが、カブトムシ兵で無ければ巨大ゲジゲジに対抗出来ない。つまり、神の問題、というわけなんだよね。理想を言えばカブトムシ王国の方が自立性を持っている。神の存在に頼らずに人間だけで生きていく世界を構築する事が出来る。しかし他方で、巨大ゲジゲジの脅威は黒カブトムシ兵の力が無いと防げないし、ゲジゲジ王国を解放するのにカブトムシ神の存在は不可欠なのよね。
 この世界はその存立の始めから神様の存在が大きかったわけであるから、神様の存在を無視した社会体制は有り得ない。

となると、社会が変革するとしたら、」

 

明美「次の救世主を待つ以外あり得ない、って話になるわけですよ。」

じゅえる「そいうこと。」

 

03・11・20

 

 

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