ゲバルト乙女 第一夜

 

まゆ子「最近のお気に入りは十二国記。」

明美二号「あ、今流行ってるみたいですね。時間帯が悪くて見れないんですけどNHKでアニメやってるんですよね。」

まゆ子「ビデオ撮りなさいよ。」

明美「あ、でも、ビデオってのは誰か家族がいじるとちゃんと撮れないんですよね。」

まゆ子「そういう貴方の為に、人類はハードディスクビデオってものを発明した。お父さんに買ってもらいなさい。」

明美「あ、いや、ウチのお父さんはそういうのにはあんまり興味が無いもんで。」

まゆ子「というわけで、我々もファンタジーをやってみたいと思う。」
明美「イイですね。」
まゆ子「というか、そもそもウエンディズには最初からファンタジーにする予定があったのだよ。なんとなれば、不思議少女が元々三人も居る。」
明美「志穂美先輩に聖先輩でしょ、あと一人は。」
まゆ子「明美一号だよ。あれはもともとは、とんでもない災厄に見舞われる不幸の星の下に生まれた、という設定になっている。」
明美「あ、あれは、ファンタジー設定だったんですか。妙にリアルなもんで違和感無く感じてました。」
まゆ子「それだけじゃない。実はウエンディズはもともとはファンタジーあどべんちゃーのパーティーとしてキャラ設定されてるのだ。つまり、RPGのキャラなのだね。」
明美「それは初耳です!」
まゆ子「あ、あんたは違うよ。あんたは明美のコンパチとしていきなり発生したんだから。実は私は、メイジなのだ。」
明美「あ、魔法使いだったんですか。どうりで変な発明ばかりすると思いました。じゃあ他のヒトは。」

まゆ子「ふぁは、戦士なのだ。しるくは騎士なのだよ。聖ちゃんはネクロマンサーなのだ。じゅえるはヒーラーだったりする。」
明美「ほうほう。」
まゆ子「ふぁ、しるく、じゅえる、と私で、マテリアル4というグループだったのだ。私の中学時代のあだ名のふろーれん、でつまり”毛皮、絹、宝石、花”なのだな。」
明美「おお、今明かされる驚愕の事実。あ、聖先輩は入ってないんですね。」
まゆ子「ホントはシーフも居たんだけど、これは人間じゃないキャラだったのでウエンディズ設定の際に落っこちたんだ。”黒檀”だよ。で、聖はついでに入れた魔法使いなのだ。というか、聖はもともとはSFファンタジーの主人公なのだよ。で、独立していたのを、ウエンディズは9人要るから持って来た、というわけだ。」
明美「なるほど。

 じゃあ、元々の明美先輩はどうなんですか。」
まゆ子「明美はー、あれはもともとは、”悲鳴女優”なのだ。」
明美「なんですかそれ。」
まゆ子「英語で言うと”すくりーみんぐあくとれす”。B級C級サスペンス映画、ホラー映画で怪獣とか変質者に襲われて「きゃあー」と悲鳴を上げて殺される役なのだ。物語が複数あって、その話に死体とか殺される役だけど台詞は無いとかいう役が有った場合、汎用悲鳴女優としてつくられたのが、明美なのだ。」
明美「ひでえ。」
まゆ子「なんでよ。つまり、出番はいくらでもあるという儲け役なんだよ。で、これも、常に不幸に見舞われるという設定がGOODだったからウエンディズに不本意ながら強制的に加入させられる、という役でメンバーになったのだ。ついでに言うと、あなた二号は、その災厄の一つ、「偽者が出たけれど、本物よりも出来がよかったため、誰にも見破られず、本物は忘れられてしまった」という災厄として作られたのだ。」
明美「なるほど。不幸は決して不幸ではない、という事ですか。」

まゆ子「これで、6名。次いで別シリーズのお話から、志穂美と鳴海の姉妹をひっぱってきたのだよ。そのシリーズにはちゃんと元から犬のピカードくんも居た。でも設定は随分と違ってね。志穂美はもともとは楚々とした美人だけど何もできない無力なキャラとして、ピカードはとても役に立つサイボーグ犬として、鳴海ちゃんが主人公として活躍するはずだったのだ。」

明美「志穂美先輩はどうしてそこまでキャラ変わっちゃったんですか?」
まゆ子「不明だ。何も出来ないキャラだったのが、不精で何もしないキャラになって、不精なだけでなく不遜で傲慢で何もしないキャラになったのだな。」
明美「わからないものですねえ。あの志穂美さんが、そんな過去があったなんて。」
まゆ子「で、これで8名。鳴海ちゃんが中学生というのは最初からそうだったんだ。一人だけ中学生が交じっているとアクセントが付くからね。で、最終的に野球が出来るな、ではキャプテンが必要だ。というわけで、弥生ちゃんが造形されたんだ。最初から”キャプテン”として、そして主人公として作られた、丸っきりの完璧な主人公なんだ。」
明美「おおお。さすが弥生キャプテンはものが違うと思いました。なるほど、そういう裏があるんですね。

 で、

    ウエンディズでファンタジーをするわけなんですね。」

まゆ子「そうなんだ。こういう経緯であるからウエンディズでファンタジーは必然でもあるのだよね。で、題までもう決まっている。闘う乙女という意味で

         ”ゲバルト乙女”という。

ちなみにゲバルトは独逸語で”闘争”を意味するのだな。」

明美「なんというか、普通のウエンディズとあんまり変わらないですね。やってる事。」
まゆ子「そうでもない。このシリーズだと、一人一人の舞台が違うんだよ。つまり、しるくが主人公だと、舞台は江戸時代で御姫様になる。という具合で、誰でもが皆主人公になれる、というのがこのシリーズのよいところなのだ。ちなみに私はマッドサイエンティストとして世界を混乱のずんどこに叩き落とす話になる。」
明美「いかにもありそうな話です。で、で、わたしは? わたしはどういう設定になるんですか?」
まゆ子「あんたたちは、下駄履きの生活者として現実社会の片隅でひっそりと暮らしている薄幸の一般人が、不可思議な災厄に見舞われるのをおもしろおかしく描く、というシリーズになる。」
明美「やっぱし・・・・。あの、私だけでも御姫様とかにはなれませんか?」
まゆ子「二号のあんたの場合は、つまり一号が貧窮のどんぞこに居て、二号のあんたは社長令嬢とかいうのは、ありかもしれない。で、ひょんな事から二人が入れ代わり、二号のあんたの代わりに一号が襲い来る暗殺者の魔の手に掛かる、とか。」
明美「う、・・・・まあ。まあ、いいでしょう。つまり私は助かるわけですね!そうですね!」
まゆ子「そういうこともまああるかな。

 

 

 で、十二国記のバッタモノの世界に行くのが弥生ちゃんだ。」

明美「やっぱり、麒麟が迎えに来るんですよね。いいなあ、うらやましいなあ。」
まゆ子「あ、いや、そんなのは来ない。なぜならば、弥生ちゃんがバッタモノ異世界に行くのは、・・・わたしのせいなのだ。」
明美「ま、まさか、怪しげな実験に巻き込まれた弥生先輩が、どういう理由かしらないけれど異世界に飛ばされて、という黄金パターンですか!」
まゆ子「いえぃ。

 というわけで、明美ちゃん。貴方が弥生ちゃんが活躍する世界を設定する神になるのだ。」
明美「へ?」
まゆ子「だからあ、あなたの言うとおりの世界をつくってやろー、という訳だよ。」
明美「設定? わたしが?」
まゆ子「そう。

 でぇー、やっぱり、麒麟は要るかね。」
明美「え、え、え?でも、王様になるってのは、ちょっとあまりにもぱくりが過ぎて、ーーーーー、そうですね、麒麟は弥生きゃぷてんがピンチになると現われるのです。」
まゆ子「ああ、もののけ姫みたいにね。」
明美「だ、ダメです! くそー、そうかー、別に十二国記だけに麒麟が出るわけじゃあなかったんだ。うー、じゃあ、麒麟は止めて龍にします。龍神が弥生きゃぷてんを助けるのです。超能力で。」
まゆ子「またベタな設定だねー。で、じゃあ、その龍神がロボットになる?」
明美「なりません!」
まゆ子「ち。じゃあ、魔法で助けるのだね。弥生ちゃん自身は魔法を使えるのかい?」
明美「あ、それはあー、無い方が面白いですかね?」
まゆ子「弥生ちゃんはただでさえ強いからね。」
明美「じゃあ無しにします。」
まゆ子「特殊アイテムは?」
明美「? ああ水禺刀みたいなやつですね。それはあった方がいいでしょうから、アリです。やっぱ刀にしましょう。キャプテンはカタナ、使えるんでしょ?」
まゆ子「しるくから習ってるからね。巻き藁も斬った事あるよ、三年生全員。そういやあんたはまだやってなかったかな?」
明美「あ、それはー、たぶん、わたし行かなかったと思います。一年の時になんか学校の行事で。」
まゆ子「そうか。じゃあ今度やってみよう。ということで、弥生ちゃんはカタナを持っている、と。魔法のカタナ?」
明美「?? うーーーーーーん、なんかきゃぷてんに魔法は合いませんねえ。どうしましょう。」
まゆ子「間を取って、私が作った超科学電磁ブレードというのはどうだ。」
明美「あんまりファンタジーの世界には合わないんじゃないですか? あ、でもライトサーベルってのもありかな?」
まゆ子「よしわかった。フラッシュライトにしよう。警備用のごつい懐中電灯だ。あれはそのまま棍棒としても使える。ぴかっと光って魔物も逃げ出すのだ。」
明美「いやーそれはーちょっと美しくないというかー。わかりました、魔法のアイテムでいいです。魔法の張り扇にしましょう。ぽかんと叩くと昏倒する。」
まゆ子「その時点で色物決定だな。

 じゃあ、次はお供の動物だ。」
明美「動物って、やっぱり必要ですかね。」
まゆ子「アニメでは必須アイテムだけどね。ピカチュウみたいな。」
明美「そうかあ、じゃあさっき言った龍神がちびこいドラゴンになってお供になるのです。」
まゆ子「ベタだな。じゃあもっと意表を突いて壁チョロになるというのは。で、弥生ちゃんの頭に取りついてるのだ。」
明美「それは気持ち悪いですよ。そんなのなら無い方がマシなんじゃないですか。」
まゆ子「たとえばあ、壁チョロが無いと言葉が通じないとかは?」
明美「あ、・・・・・・・・・・・なるほど、十二国記では仙人にならないと言葉が通じないんでしたね。」
まゆ子「じゃあ、弥生ちゃんの頭に壁チョロが付いてる、と。

 で、どう? やっぱ王様になる? それとも、王様になる人を助ける?」
明美「RPGの定石ですよねえ。ちょっとありふれてますね、それ。」
まゆ子「そう言われればそうだな。もっと新機軸が必要だろう。」
明美「いっそキリスト様とかジャンヌ・ダルクとかみたいに弥生きゃぷてんが人々に敬われるとか。」
まゆ子「悪くはないけど、妙な宗教が入るのはまずいんじゃない?」
明美「うーーん、じゃあまったく平和な世界に、きゃぷてんが現われて、・・・だめだ。きゃぷてんが騒動の元になってしまう。」
まゆ子「頭に壁チョロが付いてる救世主が現われると世界の終わりが近い、という伝説がある世界、というのはどうだろう。弥生ちゃんの出現で平和な世界が一気に暗黒の動乱期に突入する、ってのは。」
明美「あ、でも、きゃぷてんは、正義の味方であるべきでは。」
まゆ子「動乱があるからこそ、正義の味方も輝くってものだ。だから、・・・・そうだね。とある平和な人間の国と、じゃあくな魔物の世界とがあって、その間には昔大戦争があったのだけど、今は平和に暮らしている。で、和平条約の期限が「頭に壁チョロがくっついた天界の使者が現われるまで」となっているとしたら。」
明美「魔物ってのはちょっとやです。敵も人間であるべきではないでしょうか。」
まゆ子「ふむ。でも、ただの人間でいい?」
明美「頭に、カブトムシがくっついた人間の国、というのはどうでしょう。なんかスゴイ魔法が使えるんです。」
まゆ子「悪くないね。じゃあ、カブトムシがくっついた救世主によってはるか昔この国は大繁栄を遂げたのだ。で、今も頭にカブトムシのくっついた一族によって統治されている。どんな魔法がいい?」
明美「不死身、で怪力、で火を吐く、とか。」
まゆ子「火はドラゴンの方だろ。固くて刃物を受けつけない、というのでどうだろう。不死身で怪力で鎧のように固い人間。カブトムシのイメージに合ってるじゃない。」


明美「でも、そんなに強いんだったら、平和な人間の国とどうやって和解したんですか?」
まゆ子「カブトムシが嫌った、というとこかな。そっから先はカブトムシが行けない領域になっていて、そこに逃げて来た人たちが街を作ったのだ。で、カブトムシ様の予言で、頭に壁チョロを付けた救世主が現われる時、扉が開かれる、と。」
明美「なんか変ですよ、やっぱり。論理的じゃないです。というかカブトムシを付けてない兵隊を送り込めばいいんじゃないですか?」
まゆ子「一理あるな。よし、じゃあそこは征服された人たちが下層階級として暮らすダウンタウンなのだ。そこに伝わる古代の予言に「頭に壁チョロをつけた救世主」というのがある。誰も信じてはいなかったけど、そこに突然弥生ちゃんが現われるのだ。」
明美「結局、きゃぷてんは動乱の元なんですね。うーん、もっとたおやかな女主人公ってわけにはいかないもんでしょうか。」
まゆ子「いい男、欲しい?」
明美「そりゃ当然です。ヒロインにはヒーローが付き物です。でも、そういえば十二国記にはそんなのは出てこないですね。」
まゆ子「いい男が出なければ、いい女にはなれないのだよ。それが物語の鉄則。弥生ちゃんをたおやかなヒロインにしたいのなら、イケメンが必要だね。」
明美「じゃあ反乱軍のリーダーに。」
まゆ子「フセイン大統領みたいな? あるいはアルカイダのビンラディンとか。」
明美「一気にイケメンじゃなくなりますねえ。反乱軍はダメですか?ダメなんですか?」
まゆ子「それもベタだから、なんだねえ。カブトムシ王国は悪の帝国なのかい、やっぱり。」
明美「あー、まあ。そうだとラクチンかな、と。分かり易い話になるのではないかと思うんですが。」
まゆ子「確かに分かりやすい。しかしひねりが足りない。

 たとえばあ、カブトムシに頼って千年の王国を築いてきたけれど、カブトムシが反抗するようになったとか、王宮の中心に巨大なカブトムシが生まれて、それの命令に従わなければならないようになっていて、カブトムシの支配から当の王族自身が逃げたがっているけど、でもそれ無しには支配が続けられないから、その葛藤で、というのは。」
明美「悪魔のカブトムシ、ですか。なんかハリウッドのいいかげんファンタジーみたいですね。」
まゆ子「なるほど。それもパターンか。」
明美「赤いカブトムシってのはどうですか。カブトムシ王国に分裂の気配があるのです。種類の違うカブトムシ同士で内乱が起こっている。中で、壁チョロの救世主が現われる。」
まゆ子「赤いカブトムシは、不死身で怪力で固くて、おまけに高速で動く事が出来る、と。ふむ。それの抗争に巻き込まれて一般民衆が難儀している。そこに弥生ちゃんが現われて、両派の思惑に翻弄される、と。」
明美「壁チョロは、カブトムシを食べるのです。で、弥生きゃぷてんの力でカブトムシ兵を倒して、ちゃっかり食べる、と。」

まゆ子「いいね。よし、その線でいこう。」

 

明美「しかし、十二国記よりはスケールが小さいような感じですね。」

まゆ子「エスカフローネよりは大きいからいいじゃない。そか、もっと巨大な世界観が欲しいというわけだね。」
明美「まあ、そうです。国が一個じゃあなんか寂しいじゃないですか。」
まゆ子「もっともだ。もっと裏設定とかが欲しいな。直接物語に関係なくても。」
明美「そうでしょ、やっぱり。十二国記でいう黄海とか神仙のシステムとかが欲しいんです。」
まゆ子「神々の古代大戦とか、のバックグラウンドってやつだな。それに、現実の、つまり弥生ちゃんが流される理由が必要なわけだ。しかしこれもまたパターンが多いからなあ。」
明美「ですねえ。」
まゆ子「地球の影にある別の惑星、というのが一番この設定なら順当だと思う。十二国記のは特殊過ぎる。あれは、まるっきり全部仙界だ、と言ってもいいからね。かといってはるか遠い過去や未来というのは違うだろ、やっぱ。まるっきりの異世界に設定すべきだと思う。」
明美「惑星ですか。ということは宇宙があるんですよね。スゴイ宇宙人にきゃぷてんが拉致されて送り込まれるというのはどうでしょう。まゆ子先輩が宇宙人に届く通信機を作ってしまうとか。」
まゆ子「しかし、そんなかけ離れた宇宙にまで行く必要は無いだろう。やはり魔法の惑星であるべきではないかなあ。あ、そうだ。カブトムシだ。このカブトムシってのはだ、エジプトでいうところのスカラベなのだな。スカラベというのは早い話がフンコロガシだ。フンコロガシが転がしているのがこの地球、という事になっている。弥生ちゃんが来たのは、聖なるカブトムシが宇宙で転がす球体の惑星ということにしよう。」
明美「つまり地球は、フンだと。なんかやですねえそれ。」
まゆ子「で、この惑星は、なんとかというカブトムシの神様の球体なのだ。弥生ちゃんは別の神様のカブトムシが転がす世界からやってきたのだ。聖なるカブトムシの羽根に乗れば、弥生ちゃんは元居たこの世界に帰ってこれるけれど、そのためには王宮深くに眠る古代の巨大カブトムシを起こさなければならない。」
明美「「いい感じです。でもきゃぷてんの頭の上には壁チョロが付いてるんですよね。」
まゆ子「そうだ。カブトムシにとっての天敵であるあまりにも強大な神ドラゴンが付いてるわけだ。これが暴走すれば、世界を回すカブトムシの神様が死んでしまう。」
明美「ふむふむ。いい感じです。」
まゆ子「しかも、そのドラゴンの力でこの世界を滅ぼして、別の世界に行こうという悪い連中も存在する。弥生ちゃんはその連中からも狙われるのだ。」


明美「なんか、きゃぷてん孤立無援ですね。それでいいんですか。」
まゆ子「うむ、なんか設定にずれが生じてるな。整理してみよう。


  弥生ちゃんはカブトムシ兵には勝てる。カブトムシ兵は民衆を虐げる悪い支配者だ。しかしカブトムシ兵にも二種類あって、より悪いやつとそうでもないのがいる。弥生ちゃんは虐げられる民衆の救世主だ。その救世主の力でカブトムシ兵の支配から逃れようという反乱勢力がある。さらには世界を滅ぼしてカブトムシ帝国に復讐しようと連中も居る。弥生ちゃんを元の世界に返すのは聖なるカブトムシの飛翔の力による。


明美「異常はないんじゃないでしょうか。問題は、解決策です。弥生きゃぷてんはどうすればすべてを解決に導く事ができるか、こたえはどこだという事じゃないですか。」
まゆ子「弥生ちゃんの使命は、カブトムシ兵の支配を終わらせ、人間の国を作り、復讐しようという連中を滅ぼして、元の世界に返ることだ。
つまり、世界の中心に居る聖なるカブトムシの所に行き、神様カブトムシをこの世界から解き放つのが弥生ちゃんの使命になる。ということは、この世界にはカブトムシの力が無ければ勝てないような邪悪な魔物が居ることになる。」
明美「え?」
まゆ子「つまりカブトムシの神様は邪悪なものではない。むしろ人間を救う為にこの世界にやってきて、人間に力を分け与えて、それらの脅威から人間を解放したわけなんだが、年代が進むにつれてその力は支配の道具としてしか使われなくなった。そこで、ドラゴンの神様がカブトムシの神様をこの任務から解放するために弥生ちゃんを遣わせたのだ。何故弥生ちゃんかというと、・・・・まそれは置いといて。カブトムシの神様が来る前に人間を虐げていたのは、ゲジゲジの神。頭にゲジゲジが付いた人間が、他の人間を奴隷にして強制労働させていたのだ。」
明美「なんだかカブトムシ兵と変わらないような気がしますが。」
まゆ子「うん。じゃあ巨大なゲジゲジが居て、それらを飼うために人間を強制労働させて、ついには人間も食べさせて大きくしていたのだ。人間を餌にしてゲジゲジ神を増やす作戦だったのだ。」
明美「なるほど。まだカブトムシの方がマシですね。で、完全にゲジゲジ神を滅ぼしたんですか?」
まゆ子「まだ荒野の遠くには残っているけど、赤いカブトムシ兵が追いかけている。だから、赤いカブトムシ兵は居丈高なのだ。ちなみに普通のカブトムシは黒くて、王族のカブトムシは金色。金色のカブトムシは、カブトムシに直接命令する事が出来る。付いている人間ではなくてカブトムシに直接ね。そしてカブトムシ神とも交信出来る。王族の最大の特権は、つまりカブトムシ兵からカブトムシを取り除いたりくっつけたり出来るということ。カブトムシが付いているというのは大変な名誉であり特権であり当然俸給も大きいから、それを自在にするのが王族というのは順等ね。」

明美「ではそもそも何故にゲジゲジの神はこの世界に来たんでしょうか。それが、バックグラウンドという奴ですよね。」
まゆ子「ゲジゲジは、・・・荒野に住んでいた人間をまとめて文明というものを教えて都市を作り火を操り土器金属を作る事を、文字を天文を教えたのです。つまり文化英雄神なのだよ。だからゲジゲジ崇拝者というのが今も存在しており現在のカブトムシ体制を覆そうと狙っている。それが弥生ちゃんを利用しようとする反体制ゲリラだ。」
明美「じゃあもともとはゲジゲジ神はいい人なのですか。」
まゆ子「人間に取りついている内にわるい神様になってしまったのだ。で、人間から離れて暮らすと大きくなって魔獣になってしまう。そして人間を飼育して食べるようになったというわけだ。これも皆人間の持つ生来の悪の心を同化してしまった為のだよ。」

明美「なんか、構造的にもっと上のレベルの神様が居るみたいですね。もっとエライ神様がゲジゲジの神とかカブトムシの神とか壁チョロの神とかを人間の世界に派遣してるみたいな。」
まゆ子「それは、まあ、あんまり深く突っ込まない方がいいな。そこはブランクにしておいた方が謎でいいよ。しかし、この世界の人間はそのシステムは知っている。だから、弥生ちゃんの頭に壁チョロが付いてるのを見てひと目で何者かを知るのだよ。」

 

明美「ということで、世界観は出来ました。というか、おもったよりうまく出来ましたね。」
まゆ子「うむ。まったく出たとこ勝負でいいかげんに話した割にはうまくいった。次は出て来るキャラクターだ。

 まず弥生ちゃん。壁チョロドラゴン。カブトムシスカラベの神。ゲジゲジ神のなれの果て
 下層階級の民衆。黒カブトムシ兵、赤カブトムシ兵、金色カブトムシ王族。ゲジゲジ崇拝者。


 で、これらの中心となる人物だ。弥生ちゃんの協力者になったり敵になったりする。イケメンもここに居る。」
明美「イケメンは大事です。でも弥生きゃぷてんは恋愛はしない人ですからねえ。」
まゆ子「弥生ちゃんはそういうことはてんで弱いからねえ。」
明美「で、やっぱり王子様とか出るべきじゃあないでしょうか。なんせイケメンなんですから。」
まゆ子「イケメンと言っても頭にカブトムシ付いてるんだよ。
 うーん、それじゃあもっと例外的な人物として、頭にトンボの付いた吟遊詩人とかも出そうか。」
明美「なるほど。ようするに頭になんか気持ちの悪いものを付ければいいというのが、この世界のルールなんですね。実に分かりやすいですねえ。」
まゆ子「世界の流れから遊離したような人物が居ると、物語世界のシステムを説明するのに都合がいい。話の進行がわかりやすくなる。トンボでいこう。」
明美「トンボイケメンですね。GOODです。」
まゆ子「黒カブトムシ兵は威圧的で官僚的、赤カブトムシは居丈高で攻撃的で尊大。金色王族は、この世界がうまくいかなくなってきている事に気付いて焦っている。王族達は弥生ちゃんの真の使命を知っているけど、それを実現させると自分達の特権も失うと右に左に揺れている。」


明美「なかなかなものですね。

でも、外部からなにか干渉があると、いい感じかも知れません。」
まゆ子「外部、ってのはつまり弥生ちゃんが元居た世界、ってことだね。うん。」
明美「まず、まゆ子さんは出るわけでしょ。きゃぷてんを異世界にすっ飛ばした張本人ですから。で、ついでに私も出して下さいな。」
まゆ子「え? でも、うーーーん、じゃあバージョン1.51で異世界に行き来出来るようにしよう。弥生ちゃんのはバージョン0.98でベータバージョンで不具合で戻って来れなくなってる。」
明美「転送装置かなんかを作るわけですか?」
まゆ子「人間の精神波動を毒電波に載せて宇宙に転送するましーんだ。宇宙に精神感応力を持つ宇宙人が居る場合、通信が出来る。・・・いや、逆だ。宇宙から毒電波が流れてるのをキャッチする人間SETIを、人間の脳を使って受信するのだ。で、それのベータバージョンに弥生ちゃんを繋いだら、壁チョロドラゴン神とコンタクトしてしまい、弥生ちゃんは宇宙に転送される。」
明美「ふむ。筋は通ってますね。でもなんかまゆ子さんが逝っちゃってる人間みたいです。」
まゆ子「そうだなあ、やっぱりもっと阿保みたいな発明がいいなあ。

 じゃあアルタードステーツで行こう。コンピュータ制御の精神分析ソフトで人間の脳の中にある古代の意識を呼び起こし、猿人にしてしまうというベタなアイデアを文化祭で実演しようと、ついでにあわよくばインターネットでソフトを販売しようと、わたしが開発するのだよ。精神に掛けられたリミッターを解除して人体の持つ最大の筋力を発現させるとかいうふれこみで30人31脚で超記録を出してギネスに載ろうとか。で、ディズプレイの中に色の付いた円がぐーるぐーると回るという、70年代SFちっくなまぬけなソフトなのだ。」
明美「GOODです。そのくらいおまぬけじゃないと、最近のすれたふぁんたじーファンはのってこないと思います。」
まゆ子「で昏倒した弥生ちゃんは宇宙を旅して、壁チョロドラゴン神の導きにより、カブトムシ惑星に漂着する。

 と言っても、実際は弥生ちゃんの精神だけが飛ぶわけで、しかも本人は現実世界でもさっさと目を覚ましてしまう。弥生ちゃんの精神のコピーが冒険をするのだ。」
明美「じゃあ、現実世界ではきゃぷてんは何も影響が無い? いやあそういうのは良くないです。なにか白昼夢を見るとか、いきなり教室でぶっ倒れてシンクロするとか、そういうのが無いと許されないでしょ、当然。」
まゆ子「うむ、ベタで定番で、読者の要求するところだが、ひねりが足りない。向こうで弥生ちゃんのコピーが傷つくと、こちらの世界の弥生ちゃんも同じ傷を受けるとか、かな。」
明美「それもベタですね。じゃあこういうのはどうでしょう。現実世界でも弥生きゃぷてんの頭に壁チョロが張りつくのです。取っても取っても隙を見つけては頭の上に落ちてくる。で、皆びっくりするわけですが、きゃぷてん自身にはその訳が分かってる。夢でそういう風な異世界を体験しているから、そうなっているのだ、と説明するけれど、私たちには分からない。」
まゆ子「現実世界でもゲジゲジが頭に取りついた人間を出そう。志穂美がいい。突如襲い来るゲジゲジ志穂美。その原因は異世界にあった。」
明美「GOODです。それは大災難だ。で、壁チョロはともかくゲジゲジは良くないと、新型ソフトにきゃぷてんを何度も何度も掛けるわけです。で、その度に異世界のきゃぷてんは強くなる。あ、志穂美先輩にはなぜゲジゲジが付くのですか? 志穂美先輩もソフトに掛けるんですか。」
まゆ子「それでは面白くない。宇宙意志が弥生ちゃんの経路を伝って逆流するのだ。で、最もシンクロ率の高い志穂美に取りつこうとするが、まあ、志穂美を支配しようなんてのは出来るもんじゃないな。頭に取りついたゲジゲジを取ろうして暴れる志穂美の被害甚大、ってとこだろう。」
明美「それは、恐怖なんて代物じゃないですね。こっちの世界の方が滅亡の危機ですよ。

 で、私は何のためにソフトに掛けられるんですか」
まゆ子「宇宙意志であるドラゴン神の所在を確かめる為にもう一度再現してみるのだ。今度は安全装置付きで、で、弥生ちゃんのコピーを安全にこの世界に連れ戻す為のガイドなのだよ。そうでないと何時まで経っても弥生ちゃんの頭の壁チョロは取れないし志穂美も暴れ続ける。元を立たなきゃダメってことだね。ちなみに安全装置とは明美一号のこと。二号のあんたが危機に陥った場合、一号が災難を肩代わりしてくれるのだ。」
明美「またそんな惨いことを。」


まゆ子「ま、弥生ちゃんにはもっと別の災厄があるんだけどね。

 つまり、コピーの体験する事を事細かくリアルタイムで知覚できる。目の前で、現実世界の体験とオーバーラップする形で異世界の物事が見えてしまうんだ。と言っても日常生活では困らない。普通の現実の意識はちゃんとしていて行動もその知覚の影響を受けないんだ。要するに、嗅覚や聴覚は始終働いているわけなんだけど、多分どんな物音でもいつも聞いてるし臭いも嗅いでるんだけど、行動に支障も無いように、異世界の体験もバックグラウンドで知覚していても意識には上らない。でも分かる。目をつぶれば瞼の裏に異世界が映り、夜は眠っていても異世界が映り続ける、という。」
明美「それは地獄のような体験ですね。眠れないんでしょ。」
まゆ子「弥生ちゃんはずぶといから眠る。ただ夢が夢で無い妙にリアルだけど、でも他人事だから気にしないってだけだ。もちろん普通の人間なら頭おかしくなりそうなものだけどね。」
明美「なんでそんな、きゃぷてんは平然としていられるんですか? ちょっと変じゃないですか?」
まゆ子「いや、そうじゃない。なんというか、リアルタイムで進行するRPGのゲームをずーっと眺めているようなものなんだ。で、なんか手を出そうとしてもコントロール出来ないし、自キャラであるコピー弥生ちゃんが、まさに弥生ちゃんがそうするであろう選択と行動をそのまんまにやっていくのだから、なんの心配もしないのだよ。つまり、異世界であるということをまったくリアルに理解する、この現実世界とはまったく関係ない情報だ、というのを実感しているから、何も気にせずに居られるわけだ。」

明美「はあ、そんなものでしょうか。」
まゆ子「むしろ心配するのは他の人間、つまりわたしたちだ。弥生ちゃんがなんだかわからない事を言い出すし、頭に壁チョロがへばりついて取れないし、志穂美は暴れるし、というのでなんとか早急に処理しなければいけないと焦りまくる。で、その異世界を直接コントロールしようとバージョン1.51を作り出すわけだ。」
明美「なるほど。」


まゆ子「ついでに言うと、志穂美にへばりつくゲジゲジは、ゲジゲジ信者どもが無敵の弥生ちゃんに刺客を送ろうと、次元を越えた超技術での呪いな訳なんだけど、残念ながらシンクロする志穂美の方が、呪いを掛ける方よりもよほど精神力が強かった。呪い返しを掛けられて異世界の方で術者が悶え死ぬ羽目になる。」

明美「気の毒な。

 で、まあ、このくらい設定があればなんとかなるんじゃないでしょうか?」
まゆ子「あ、いや、異世界ものというのは、飛ばされる主人公が心の成長を遂げて現実世界に帰還するというのがセオリーなわけだが、でも、弥生ちゃんは元から完成されてるからね。」
明美「最強人間ですから。なんかそういうのを組み込まなければいけませんかね。」
まゆ子「かならずしも弥生ちゃんが成長しなければいけないわけではないから、むこうの人間が弥生ちゃんの影響で成長して壁を乗り越えていく、という話にしようか。その場合、読者のシンクロは弥生ちゃんからは外れてしまうけど、まあしかたない。」
明美「ああ、そういえばきゃぷてんは虐げられる民衆の救世主だったんですよね。そういうのもアリかな?」
まゆ子「大昔にはあったタイプのおはなしだな。無知蒙昧な一般大衆を近代思想で啓蒙していくわけだ。パターンといえばそれもまたそうだな。」
明美「ちょっといやですね。きゃぷてんはそんな押しつけがましい人では、必ずしもないですから。」
まゆ子「知らない人ほど弥生ちゃんをそういう風に見るんだけどね。実の所、弥生ちゃんは他人のことなんかどうでもいいんだよ。ただ、自分が突っ込んで行くところには、何故だかしらないけれど新しい道が出来ていて、後ろから他人がやってくる。だからまた弥生ちゃんは進む。というだけなんだ。」
明美「そういうのは、異世界ものでは無いんでしょうかね?」
まゆ子「難度がかなり極端に上がるね。つまり、異世界というものは単独で完結しているべきものなのだ。モラルもそう。現実世界のモラルを異世界に適用するのは、物語の破綻の常道なのだ。」
明美「そういうのを聞かされると、弥生きゃぷてんはやるでしょうね。」
まゆ子「へそまがりだからねー。しかし、どうするか、はこちらの設定の問題だ。そうだねえ、もしそういうのが描写出来るとしたら、弥生ちゃんは本当に異世界に放り込まれた異物として異彩を放つでしょう。チャレンジの甲斐はある。」
明美「具体的にはどうするべきでしょうか。」
まゆ子「勝手に動く。むこうの人間の思惑をことごとく無視し、予言に逆らい、民衆の期待を大きく裏切り、しかも状況がどんどん変わっていき、当初民衆や支配者層の考えていた思惑や期待が非常にみみちいものに誰の目にも思えて来て、皆が弥生ちゃんを後ろから追いかけていく、・・・そういうお話しになる。」
明美「面白そうですね。」
まゆ子「出来りゃあね。ものすごく展開の早い、ドライブ感のある、目が離せない物語だろう。力技が必要だ。」

 

 

明美「で、・・・・・・やりますか。」
まゆ子「やろうか。しかし、ただ単に小説を一本書くというのも芸が無いな。
 よし、こうやろう。まず、私たちがこうやってダベって話の筋を決めていく。で、色々修正をして、最終的に完成するのが小説の一文というところだ。」
明美「難しそうですね。」
まゆ子「乗りかかった船だ。それに、ましなりいもさすがに飽きてきた。やはり、お話しを作らなければ話は進まないのだ。」
明美「ですね。」

まゆ子、明美
「という事で、次回より 『ゲバルト乙女』新連載が開始されます。引き続き、ましなりいでぽではこの設定展開と進行を同時に進めていきますから、ご期待ください。」

2003/07/09



 

 

 

 

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