「前回までのあらすじ。
  NWO(NewWorldOrders)が本拠を構える硫黄島南の人工島。これはミス・シャクティから提供された全長12キロにもなる”宇宙戦艦”である。
  この上甲板に土を盛り上げて作られた町がNWOの事務局であり、各国から派遣されたおよそ10万人が働いている。
  EX-02ポイント、通称”アルカンカラ”。その守備隊に一人の米軍人が派遣される。」

「ようこそ少尉、神秘の世界へ。」

 上空を旋回し着陸の順番待ちをする輸送機上で、ガリー・コーネル少尉はEX-02の説明を受ける、事前には「未来人の宇宙戦艦」としか聞かされていないが、もちろん彼女は信じない。

「これから最低10年間は拘束される身分です。真実をお聞かせ下さい、大尉。」
「君が今眼下に見るとおりのものだよ。EX-02”アルカンカラ”、34世紀の未来人が開発したブロクレブシュ級時空戦艦72隻の1隻だ。」
「これが人工物、人工島であることは理解しますが、それにしても全長12キロの、しかも宇宙船だなどと。」

「常識はそのあたりで棄ててくれ。」

 ジョーダン・フィス大尉は黒人で34歳、アメリカが派遣するEX-02防衛隊の技術将校だ。専門は機動兵器、ミス・シャクティが提供した人型兵器の運用を研究している。

「エリア54は知っているだろう。対宇宙人戦闘を研究しているとマスコミで噂される。アレは、ここの存在を隠蔽する為に作られたフェイクだ。」
「未来人ではなく、宇宙人が襲来してきたと大尉は言うのですか。」

 ガリーは、これは性根を入れ変えて現実に対処しなければと、態度を改めた。彼女がこれまで極秘裏に教育されて来た「人間の技術水準を遥かに越える兵器群」も、出所が宇宙人もしくは未来人と考えれば理解が容易い。が、

「敵はどちらなのです? 宇宙人ですか未来人ですか。」
「残念ながら、そのどちらでもない。」

 大尉の言葉には苦渋がにじんでいる。人知を越える超技術に接していながらも人間自身は何一つ進歩が無いと、彼はこの10年常に思い知らされて来た。
 さすがに、全米トップクラスの人材から選りすぐられたエリートだ。ガリーは理解する。真実は予想される最悪に常に向かうのだと。

「人類の武器では、そのどちらにも勝てないのですね。」
「宇宙人による被害の規模は君の想像を絶するが、対処する必要をNWOは認めない。これは天災と考えるべきだ。人は運命には逆らえない。
 問題は、宇宙人によりもたらされる技術をNWO以外の勢力も入手している点だ。彼らはNWOに取って代わり、人類の代表として宇宙人と交渉するつもりだ。」

「人間の敵は人間、そういうことですか。」
「皮肉な事だ。アメリカは発展途上国に代理戦争を強いて来たが、今や人類全体が複数の宇宙人による代理戦争の場と化している。」

「NWOはそれに対抗する力を持っているのですか?」
「ミス・シャクティは善なる存在と、NWOでは定義する。50年を掛けての観察と交渉の結果、そう信じるしかないと悟った。だが彼女が未来技術を提供しなければ、我々は今も宇宙人の存在を感知出来ていないだろう。」

 大尉の答えは質問から少し外れる。が、現在の状況を理解する上では有益だ。
 人類はあまりに幼く、高度な文明を有する宇宙人の前では赤子同然。憐れみを覚えて手を差し伸べるミス・シャクティに、愚かで幼稚な欲望をぶつけている。

 ガリーはさらに不快な質問をせねばならなかった。彼女は世界情勢をよく認識し、愛すべき祖国がそれほど賢くないと知っている。

「合衆国はどう行動しているのです? まさかEX-02を利権争いの場にしているのではないでしょうね。」
「EX-02の甲板上仮設構造物、これすべてが合衆国所有となっている。NWOを主導するのは我が国だ。その為にどれほどの努力と浪費を行ったか、想像すると目の前が真っ暗になる。
 だが愚かなのはわが国だけではない。ソビエトの崩壊もNWO運営に対する重大な違反のペナルティ、だそうだ。」

 輸送機は着陸の順番を得て降下を始めた。
 この機には、ガリーが試験運用を行って来た最新鋭ロボット兵器も積み込まれている。完全な人類製であるが、であればこの島では一番古いがらくただろう。

 最後に大尉は付け加えて忠告する。後々までも有益であった金言だ。

「それほど深刻に考える必要は無い。どうせ34世紀まで人類の滅亡は無いんだ。気楽に行こう。」

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