「前回までのあらすじ。
 童 稔19歳のみぎり、商店街の福引で当てた『ドバイスーパーセレブクルーズ御一人様ご招待』。
 だがそれは、紅い陰謀渦巻くNWOの罠だった。狼の群れがみのりちゃんを襲う。」

「話は簡単だ。日本から来る田舎娘を一人、墜とせばいいだけだろう。」

 ドバイに作られた超高級保養地、衛星軌道上からもくっきりと葉っぱが見える人工島パーム・ジュメイラは異様な雰囲気に包まれている。
 世界各国から若い男性のVIPが続々と集結し、ふんだんにカネをばら撒きホテルのスゥイートを貸し切り、それぞれ何十人もの召し使いを駆使して怪しげな工作活動を行っている。

 これ全て、一人の若い日本人女性を口説き落し、結婚にこぎつける為だ。

「かって第三世界と呼ばれた国で、NWOから信頼性と安定性を認められた高貴な家系からの花婿候補達だな。」
「評判の悪いプレイボーイも多数混じっているが、どうだろう。手管では有利なのだろうが、互いに潰し合うのではないか。」

「それを防止する為に、我がドバイ政府はこの人工島を武器携帯禁止、ボディガード随行禁止としております。」

 NWOから来た監察官2名に説明するのは、人工島全域を預かるドバイの王族の一人でホテルのオーナーでもある。
 彼ら監察官が泊るこのホテルは中立地帯として設定され、壮大な茶番劇を演出するスタッフのオフィスともなっている。
 当然花婿達のターゲット、哀れな子鹿もここに宿泊する。

「意外と日本人観光客が多いな。これは意図的に?」
「はい。MINORI・WARABE様が御寛ぎできますように、日本語の分かる者を配置しております。日本において特別ツアーを組み、一般の観光客も誘致しました。」
「今回日本人に権利は無いからな。」

「して、今WARABE嬢が言葉を交わした白人のカップルは。」
「あれは米軍XP-02防衛隊特殊戦闘班の者だ。120名を配置した。すべて白人に統一しているから、分かりやすいだろう。」
「こう言ってはなんだが、古代・中世的な価値観を持ち続けるアラブやアフリカの王子様を、無条件に信じるわけにはいかなくてね。非常時には彼らがターゲットを回収する。」

 NWOの会議において定められたGEKIパイロットの割り当てで、童 稔は有色人種からなる家系に保護される事が決定する。
 日本とアメリカが一国のみで一人を確保するのに対し、彼女は百に近い国の女王となる。著しく不公正に思われるが、それが現在の世界の力の象徴だ。いかに石油や資源を握っていようとも、彼らは脇役に過ぎない。

 だが不満は少ない。
 NWOを組織し主導するミス・シャクティ、34世紀から来たと自称する超科学の保有者は紛れもないインド系の浅黒い肌と漆黒の髪を受継ぐ。彼女自身、WARABE系の因子保有者だと表明する。
 未来は確定しており、この系統の末裔がGEKIプロジェクトの中枢を担うと知れば、誰しも熱が入るのが当然だ。世界中から集まった王子様達は皆父王や母女王に尻を叩かれ、狩りに臨んでいる。

「あまり美人ではないし、スタイルも良くはない。背が低くほとんど幼児体型だな。」
「男性経験も無いらしい。ま、友人が固くガードして居た為でもある。」
「カサノバ、ドンファン気取りにはさして食指の動かぬ餌だろうが、どう出るかな。」

 監察官の言葉は本人が聞いたら自殺しそうな辛辣なものだ。が肉体的な要素で言えば、WARABE系の因子は最上と目されている。
 なにしろ直接に身体能力を向上させ、超人と呼べるほどに強化するのだ。素で格闘に強く身体の頑健さも増すとなれば、人類支配の資格云々抜きでも試してみたくなる。

「王子様の中には腕自慢決闘マニア、実戦参加を誇る筋肉バカも少なくないが、腕力で訴えるとかはないかな?」
「それも面白い。あんな子供に叩き伏せられるのもいい経験だ。」

「それほどにお強いのですか。」
「うん。強い。」

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