優子「前回までのあらすじ。
 次々と明かされる物辺神社の秘密。鬼の家系に潜む狂気とはなんぞや。果たして彼女達はいかなる運命に投げ込まれるのか。
 全てを知るには過去を紐解かねばなるまい。」

優子「あたしもインスタントでないれっきとした巫女ですから、神社の縁起なんかちゃんと覚えているのです。」
喜味子「物辺神社と言えば、節分の日のお祭りだね。」
花憐「ゲキおろしだね。」

 ゲキ颪とは旧暦の2月3日に行われる村を挙げてのお祭りだ。子供たちが「ゲキのへのこ」と呼ばれる布を巻いた棒を手に練り歩き、家々の前に置かれたお供え台を片っ端から叩き壊していく。
 これはゲキが降臨および復活した際の禍を再現したものと言われる。叩き壊し具合が甘いとその年一年村に禍が訪れるとされ、年寄が子供たちにハッパを掛けへろへろになるまで棒を振り下ろさせる。

優子「西暦で言うとちょうど1000年。京の都を荒していた「ゲキ」と呼ばれる鬼が空中分解して、骸は北の彼方に、首は西の彼方の物辺村に墜落したとされてます。
 ゲキは「外記」と書き、ほんとうは名前の無い鬼です。鬼もそれぞれの棲みかに応じて名前があり、その場所の神様に従うものとされていますが、ゲキはどこの神様とも無関係の三千世界に孤立した例外中の例外です。故に、すべての神様の縁に連ならない系図の外に記されるもの、『外記』です。」

鳩保「でもゲキロボは自分でも「ゲキ」と名乗ってるよ。」
童「うん。」
優子「えーそう? わたしの電話ではペけろんぼよねろむみょん・しぶらぶ三世、て名乗ってるよ。」
喜味子「それは嘘だな。絶対。」

花憐「物辺村というのは、ゲキの頭が落ちて来たから、「モノ」辺なんだよね。」
優子「モノとは物の怪のモノ。旧くは神様を表わす言葉でもありますよ。つまりゲキは神様なのです。
 で、ゲキの頭が落っこちた海辺に一夜にして出来た小島が、ここ物辺村物辺島です。ほんとか嘘かは分からない。」

 物辺村は本土から200メートル離れた島であり、かっては舟を使わないと行き来出来なかった。今ではちゃんとコンクリ製の橋が出来て、車が通っている。
 産業は漁業と農業。童 稔の家は養殖業を、児玉喜味子の家は養鶏を営んでいる。

優子「んでもって、元亀天正の頃と言うから信長秀吉の時代です。その頃戦国大名の一人衣川辰滋て人がここら一帯を領有します。
 それに叛旗を翻したのが、古くからこの地に根付いている名門の碓井倖允て人です。碓井家てのは碓井神社ってとこの宮司でもあり、物辺神社が成立する際にも多大な世話を受けた、というか碓井神社の分家って感じです。

 反乱を起したとはいえ多勢に無勢、碓井倖允は戦に破れ物辺村に逃げて参ります。そこで鬼の力を用いて衣川家を追い出そうと、禁断の秘宝「ゲキのへのこ」に手を出した。
 ゲキの力が乗り移った碓井倖允は自らも鬼に変じ、ここいら辺一帯を地獄に変えたと言います。
 で、彼に犯された物辺神社の宮司の娘が孕んだ鬼の子が、私の御先祖様。」

鳩保「つまり、ゆうちゃんは正真正銘の化物の子孫なのです。」
花憐「まあ、本当か嘘か分からない話ですけどね。」
喜味子「いや、ゲキロボを蘇らせたんだから、ほんとだろ。」

童「ゆうちゃんはどうやってゲキロボを蘇らせたの?」
喜味子「あ、それは聞いてなかった。北海道に行く前になんかやったんでしょ。」
花憐「聞きたくないききたくない。」

 と花憐は両手で耳を塞ぐ。頭の後ろで髪をまとめている大きなピンクのリボンがぴょこんと跳ねた。

優子「あー、5人皆居たはずなんだけど、幼少のみぎり「ゲキのへのこ」が納められている祠をこじ開けて、というか喜味子が金庫破りしたんじゃなかったっけ?」
鳩保「あーあの時? 喜味子が針金を使って錠前を開けたんだ。あの時はぼこぼこにぶん殴られたねえ。」
花憐「わたし、一週間も家に閉じ込められたわよ、あの時!」

優子「で、ゲキのへのこに私の体液を染み込ませると、反応して身体に因子が刻み込まれた、と。」
童「体液って、なに?」
優子「神社の縁起に依れば、いばり、ですね。」

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