優子「前回までのあらすじ。
 物辺優子は超絶美少女である。その家系は旧くから神社を守っており、優子本人も今や人気絶頂の商売であるところの『巫女』である。
 だが何故か男が寄りつかない。今回はその辺りの事情をさぐってみよう。」

喜味子「色物には誰も手を出さない、ってだけじゃん。」
花憐「通り魔の前にのこのこ出て来る人は居ないでしょう、それは。」
童「結論早いよ。」

 ま、だいたいこの通りである。物辺優子が超絶美少女である事に異論を挟む者はほぼ居ない。が、美と捉える者もそうは居ない。
 コワイから、だ。顔形の美しさよりも地の底から噴き出るような鬼気に圧倒され、誰しもが目を背ける。

優子「いや、先輩はちゃんと私を見るぞ。」
鳩保「香村先輩と香椎先輩は、にんげんが出来てるもん。」
優子「相原せんぱいは?」
花憐「あの人はゆうちゃんよりコワイから。」

 香村先輩は三年生男子で、物辺優子が一応所属する演劇部の前部長だ。暗黒舞踏に走った優子の唯一と言って良い理解者であり、心ときめく異性でもある。
 が、香椎先輩というのが彼の彼女であり、端から見るとそれはもうお似合いのカップルで割って入る愚が誰の目にも鮮やかだ。
 ゆうちゃんかわいそう。

喜味子「相原せんぱいは、ゆうちゃんと同じ人種だと思うよ。私。」
花憐「雰囲気は一緒だと思うけど、でもなにか違う。」
童「あのひとウエンディズだもん。」

鳩保「たとえて言うならば、ゆうちゃんは巫女だけれど、相原せんぱいは祭られてる方の神様だよ。あっちの方が格上だね。」
優子「うーむ、そんな気がする。文化祭で見たせんぱいの書で、背中びりびり痺れたもん。」

 相原志穂美せんぱいは、書道部である。字は、はっきり言うと物凄く下手なのだが、そこに込められる怨念とも呼べる気魄が凄まじく見る者を圧倒してやまない。魔除けの効果があるとか病魔を打ち破る、呪いを掛けた相手に百倍返しにするとかの噂も高い。
 作品を譲られた誰かが試しにネットオークションに掛けてみたら、どこやらの宗教団体の教祖が買ってった、とかも聞く。

花憐「ひょっとして、相原せんぱいをゲキロボに乗せたら、凄いんじゃないかしら。」
鳩保「考えただけでも恐ろしいなそれ。」
優子「でもわたしじゃないとゲキロボ湧き出て来ないもん。何を隠そう、物辺家の女は皆、ゲキの子孫なんだな。」

 物辺神社の縁起が物語るところでは、京の都からゲキと呼ばれる鬼の頭が飛んできたのが千年前。秀吉が全国制覇した頃になんやかやで復活したゲキの鬼に物辺神社の巫女が犯されて孕んだ子が、そのまま神社を継いで居る女系家族である。
 この家系は絶対に男子が生まれない。女ばっかりで、入り婿を取るしかないのだ。

優子「というわけで、うちは家系的に超美人なのだ。」
鳩保「変なひとばっかり、てのも遺伝なんだね。」
花憐「遺伝です。ついでに淫乱も遺伝です。」

 城ヶ崎花憐は物辺村村長の娘、代々の庄屋であり網元だ。物辺家ほどではないが古くからこの地に住み続けて居る。だから、物辺家にまつわる様々な悪評もよーく心得て居る。

 村の男達は決して物辺神社の娘とまぐわってはならない、というのが固い掟だ。喰い殺されるぞとか、精を吸い尽くされ抜け殻になる、沖に出たら海の神様に取り殺される等々に脅かされる。
 生贄になるのは旅芸人とか武者修行のサムライ、外人異国人などの事情をまったく知らない人間で、その末路は悲惨を極めるとも。

優子「酷い言われようだな。わたししょじょなのに。」
喜味子「今の人間は賢くなった、ってことでしょう。」

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