花憐「前回までのあらすじ。
  無論のこと、日本政府は門代高校に万全の警備を行っている。とはいえ、
  それがゲキパイロットにバレて自由な行動を妨げるのは逆効果となるわけです。」

 ミスシャクティの助言により日本国政府はゲキの覚醒を2年前から知っており、ゲキロボットのパイロットの身辺警備を密かに行っていた。
 彼女達が同じ高校に通う事になったのも、その一環。成績がかなり低かった童と児玉の二人には自然な形で家庭教師役の人物を差し向け、むりやり合格させている。
 一つ所に集めた方が警備に都合が良いと判断したわけだ。

 門代高校の教職員さらには生徒の中にも警備は紛れ込んでいる。
 如月怜、彼女はその一人だ。

 2年1組、水泳部に所属するナイスバディでショートカットの美少女は、しばしば選択科目の授業を脱出する。

「定時報告、対象者Cの状況に変化無し。脅威を認められず。」
『了解。引き続き任務を続行されたし。』

 5人のパイロットに5人の専属警護員が居り、支援が更に2人ずつある。如月怜は城ヶ崎花憐の専属だ。
 実のところ、彼女は女子高生ではない。政府関係者の子女を陰ながら護衛する秘密機関に所属しており、年齢も19歳。2歳もサバを読んで門代高校の生徒となっていた。

 今、如月怜が連絡に使った携帯電話も特別製だ。白いネコのイラストが描いてある可愛らしく丸っこいデザインだが、実は銃器・スタンガンと一体化している。
 武器を校内に持ち込むのは忌避されるから、わざわざ特注製造した。38口径弾を3発内蔵する。
 また妨害に強い専用周波数の電波を使い、校外に待機する無線中継車を通じて指揮本部と通信する。「ロバのパン屋さん」を偽装するバンがそれだ。

 高校敷地内の警備員数は最小限に留めている代わりに、周辺の一般住宅を接収して100を越える特殊武装警察官を配置する。
 近隣の自衛隊駐屯地に新設された「都市型ゲリラ対策部隊」も、実は有事の際に真っ先に門代高校を確保する為のものだ。
 それでも足りないと、遠く米軍基地からほぼ毎日F-16戦闘機が上空を定期的に飛来する。表向きは訓練だが、もちろん実弾を搭載した対宇宙人装備だ。

 

「それだけするのが馬鹿馬鹿しくなるほど、彼女達はのんびりやってるんだ。」

 如月、本名は犬塚怜は最近自分がゆっくりと麻痺していくのを感じる。ここ門代高校は田舎とはいえ進学校でそれなりにぴりぴりしているはずなのに、どうにも神経が弛緩する。
 学校中に奇妙に安心を促す空気が流れていて、それでいて透明な緊張が心地好く身体を賦活し毎日が調子いい。年下のはずの生徒達と馴染んでしまう。

 昼休みの時間となり、生徒達がそれぞれの教室から戻って来るのを如月怜は迎える。
 誰も皆、明日も明後日も何事も無く続くと信じて疑わない、平和で贅沢な時間を浪費している。不自然な光景がどこにも無いのが、彼女の目には不思議に映る。

 門代高校のこの場所こそ、世界中から狙われる陰謀の渦中にあり、宇宙人の襲撃を受けるであろうホットスポットだと、どうして彼らは気が付かない。

「そういえば、」
 城ヶ崎花憐が前に言った話を思い出す。

「物辺村には十数年に一度、武術の達人が遊びに来るのよ。もう何百年もそうで、道場や宿舎までウチに有るの。」

 物辺神社は古くから軍神を祭る宮として信仰を集めていた。「物辺」=「ぶつへん」=「武辺」、ということだ。
 なにを隠そう、犬塚の家にも物辺神社のお札は有る。武術に秀でたひい爺さんが頂いて来たと伝えられる。

 尊敬と信仰の対象ともなる伝説的な武芸者の訪れを、村人が平和の裡に歓迎したのは当たり前だが、それは間違い。
 彼らの狙いはやはりゲキであったに違いない。超常の力を欲する者、またそれを防ぐ者が人知れず剣を交え、密かに弊れていったのだ。

 おそらくは彼女と同じように陰からゲキを守る集団があり、今も活動を続けているのだろう。政府が全力を挙げて警備する中でも、やはり。

 

「隙アリ!」
「あ?」

 如月怜は額を空手チョップされて、びっくりというより呆れてしまう。何故こんな間抜けな攻撃を自分は防げなかった?
 目の前には草壁美矩が立っている。最近彼女はテレポートのように瞬間的に視界から消える動きをして、しばしばクラスメートにちょっぷして遊ぶ。

「あ…。」
「ふふぅん。」

 にこにこして去る美矩は、門代高校影の総番と噂される3年生蒲生弥生率いる私兵集団『ウエンディズ』の隊員だ。彼女達も独自の判断で校内の治安維持に奔走する。

「あれが、…その筋なのか…。」

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