花憐「前回までのあらすじ。
 中くらいお嬢様 城ヶ崎花憐は私立文系コース2年1組に所属する。
 ここには門代高校の美人生徒が集う、魅惑の花園が。」

 県立門代高校には古くから妙なしきたりがある。
 2年生女子を対象にミス門代を女子全員で選び、生贄に差し出すのだ。学校の裏にある比留丸神社という小さな祠があり、ここにお供え物を持っていく怪しげな行事だ。
 投票は文化祭の時に行われるが、評価基準がなかなか面白い。

「去年のミス門代は石橋じゅえるさん。ケチで腐女子のところが好評価でした。もちろん群を抜いて綺麗だけど。」

 ミス門代選出実行委員会、生徒会書記の別当美子は自身も候補に挙げられる美人だ。
 彼女が属する2年1組は美人が揃っており、ミスが出るのはほぼ確定とされている。しかしこのコンテスト、ただ美形なだけでは選ばれない。

「えーとねえ、エントリーしているおは12人。この半分を本番前に落します。舞台に上がるのは6名で水着審査もありますよお。」
「水着なら如月強いでしょ。」
「え、わたしエントリしてないよ。」

 水泳部の如月怜は驚いて声を上げる。ショートカットでナイスバディなクールな美少女であるが、彼女にはとある秘密がある訳でイベントに参加する気は毛頭無い。
 美子は構わず話を続ける。

「2年1組からエントリーしたのは、あたし。如月。根矢。城ヶ崎。草壁。しかしながら優勝候補は5組の3人ね。」
「やっぱ5組の鳩保とか物辺が出るんだ?」

 美子に尋ねるのは、草壁美矩。「一重のラムちゃん」と呼ばれるすっきりした和風の美女。1年生まではさほど目立つ存在ではなかったが、2年生になってグッと注目度が増している。印象が骨太に強くなった。

 鳩保物辺、とかが話に出て、花憐は肩をびくっとすくめた。あの二人の噂がロクなものであった例が無い。

「でもさ、実は物部優子は生徒会が落すつもりなんだ。あいつは舞台上で裸踊りしかねない。」
「そ、そうね…。」
「鳩保はあれは男子の投票で落ちるでしょう。拒否権はあるんだ、男子にも。」
「そうね、色物だもんね、ぽぽーは。」

「今のところ優勝候補は、5組3人目のシャクティ・ラジャーニさん。おもしろ天竺少女というのはいける!」
「そう。」

 花憐はほっと胸を撫で下ろす。これ以上物辺村の評判を落す事は無さそうだ。
 金粉を塗りたくって校内を徘徊する物部や馬鹿笑いで巨乳を突き出して顰蹙を買う鳩保の尻ぬぐいは、もうたくさん。

 美子はエントリー表を眺めつつ、残念そうに目を細める。

「実はあたしも落ちる事が決まっている。比留丸神社の祭礼ってめんどくさくてね、準備に手間掛るんだ。あたしは裏方だよ。」
「そういう事なら、私達も落としてよ。」

 花憐と美矩も面倒は御免だ。というよりも、1組だけで決めるとしたら、根矢ミチル一択に決まっている。
 テンパの黒髪ラテン系の眼差しの彼女は、2年生で最も危険な女と呼ばれている。思い込んだら命懸け、本当に刃傷沙汰に及び新聞ネタになるのも確定済み。

 振り返ると、ミチルはふあああとあくびをしている。余裕よゆう。

 美子はなるほど二人の言う事ももっともだ、と手にしたシャーペンの尻で、どちらにしようかなを始める。

「どちらにしようかなてんのかみさまのいうとおりけっけのけのけむしあぶらむしかきのたね123!
 OK! 城ヶ崎花憐らくせん!!」
「やたあー!」
「なんでーぇ?」

 万歳する花憐にがっくり落ち込む美矩。あまりのいい加減さに、如月怜が尋ねる。

「理由はなににする?」
「城ヶ崎花憐は、普通過ぎる。いくら大きなリボンを着けていても、ダメ!」

「わたしは!」
「あなたは、シャクティさんと同じ『ウエンディズ』じゃない。互いに潰し合っていただきましょう。」
「とほほ。」

 まただよーと愚痴を言いながら床に落ちたゴミをつんつんする美矩。
 おそらくは、たぶんこの予想は絶対当たるのだけど、文化祭の舞台に立ったらマイクだか照明だかの電線に蹴躓いて、感電するに決まっている。
 「一重のラムちゃん」のあだ名はダテじゃない。

 花憐は無意味に勝ち誇って言った。

「じゃ頑張ってね。」
「落選して喜ぶな!」

「ぜんぜんかなしくない!」

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