鳩保「前回までのあらすじ。
 超エロ女子高生 鳩保芳子通称ぽぽーは、男子にモテモテの学園のアイドルである。
 それを許せない、心の狭い女子が居るわけです。」

「きゃははっ!」

 教室全体に響き渡る下品な嬌声に、慣れる者は少ない。少なくとも女子には居ない。

 2年5組。門代高校は1学年7組まであるが、6組7組は男子のみ。数理研究科50人中わずか5名の女子は、男女混合の5組に編入されている。
 5名の中で最も成績が良い生徒が、何を隠そう鳩保芳子だ。数理研究科のランキングでも並み居る男子を抑えて5位前後と、なかなかの優秀さを誇る。
 それに加えてこの美貌、しかも乳! バスト92の迫力に逆らえる男子は地上に存在しない。尻腿のボリュームも凄まじく扇情的で、

「あいつはがっこうになにしに来てやがるんだ。」

 苦虫を噛みつぶす、リアルで、女子が居る。数名の男子にちやほやと女王様扱いされている鳩保に、劫火の敵意を燃やす。
 若狭レイヤ、数理研究科で2番目の成績の女子だ。
 いわゆるガリ勉タイプで目の端が尖がっており余裕が無い。成績至上で校内活動においても得にならない事はしない利己主義者であるが、それだけの努力を費やし勉学に勤しんでも鳩保に勝てないのは、一種の不幸と呼べよう。

「まあまあ、」
 となだめすかすのは、浅黒い肌、長くて太い黒髪の持ち主。インド少女シャクティ・ラジャーニだ。インド国籍ではなく日本籍だと理解されているが、実態はさだかではない。
 一年生の終りに大阪方面から転校して来て、すんなりとクラスに打ち解けた。非常に人当たりが上手く、明朗快活。日本語に堪能で弁舌も爽やかながら、人の気持ちを思いやる知性にも優れ、誰からも愛される。
 そんな性格であるから、クラスのまとめ役やら委員やらを押し付けられる事も多い。今回、若狭レイヤの説得に当たっている。

「つまり5組の女子全員で秋の文化祭の出し物をするわけだけど、数理科は別にまたなにか用意しないといけないのね。」
「鳩保にやらせろ。アレはそういうの大好きだ。」
「それはそうなんだけど、研究発表をしろとセンセの方から言って来たわけなのね。アノ性格で、それは無い。」
「…無いね。」
「だからまとめ役を貴方にやって欲しいのよ。他の女子も了解とったけど、若狭さん他の子からも逃げるでしょ。」
「勉強のじゃまなんだよ。」
「いやこれ、数理科の義務だから。」

 シャクティ本人は数理研究科の所属ではない。要するに、鳩保以外の数理科の女子から、仲の悪い二人をなんとかしてくれと頼まれたのだ。

「きゃはは、やあだそれもうなあに〜。えろーい、そんな事やってんだあ。えへえ。」
「うういらいらする。」
「だからまとめ役というのは、実質何もしなくていい。ただ発表だけは正面に出て貰わないといけないのね、」

「やあだ触らないでよお、もう。」

 ぶちい。
 若狭レイヤが、キレた。鳩保に分厚い物理の参考書を投げる。投擲された軌道上に存在する男子生徒をかすめ、見事に鳩保顔面直撃コースを飛翔し。

「あぶないじゃん。」
「うきぃいいいいい。」

 鳩保は運動神経も良い。なんなく参考書をキャッチするとそのまま投げ返し、取り損ねたレイヤが突き指する。
 さらに暴れようとするレイヤを椅子に押さえ付けながら、シャクティは思った。

「うん、これこそ学級崩壊。うんうん良いネタになるね。」

 シャクティは大阪仕込みのお笑い少女としても知られる。

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