シャクティ「前回までのあらすじ。
 NWOは全人類を支配する超大国と、それに追随する政治的に安定した諸国の秘密連合である。
 彼らを指導するのが34世紀からやって来た麗しのインド人少女、ミス・シャクティなのだ。」

 びびびびび。

 いきなりの平手打ちに、その政務官はたまらず床に倒れる。
 中央連絡室に居た者は皆、さすがに彼はべらべらと喋り過ぎだろうとは思っていたが、まさか温厚なミス・シャクティがこのような暴力を振るうとは想像もせず、立ち尽くす。
 誰かがこの場を取り繕わねばならない。周囲を見回して、オランダ政府から派遣されていた中年男性の秘書官がおそるおそる尋ねる。

「ミス・シャクティ。あの、御機嫌を損ねたのは分かりますが、あまりにもこのやり方は。」
「警備の者を呼んで下さい。それと、死体処理班を。」

 え、と驚き周囲の者が床に倒れたアメリカの政務官を抱き起こそうとして、絶句する。彼は既に絶命していたのだが、口元から漏れる血の色が、白い。

「か、彼は、宇宙人ですか?!」
「正確には、宇宙人の製品です。どこかの有力者に接近した宇宙人が提供する、有機アンドロイドですね。外見上はまったく見分けが付きませんが、捌いて見れば一発です。」
「そんな者がNWOの本部中枢に、しかも有力な政務官として存在するとは…。」

 呼び出しを受けて警備兵と宇宙人死体処理特別班員、それに彼の所属するアメリカの特務大使がおっとり刀で駆けつけた。
 無惨に倒れる姿に驚きの声を上げる。

「ノーマン、おおなんという事だ。」
「大使! 何故彼の身元調査を行っていないのです! 医学的チェックもしていなかったのですか?!」
「そんな事は、そんな事は無い。おおミス・シャクティ、これはどうして。」

 だがミス・シャクティは冷たい視線を向ける。彼女は歴史上の先人たる現代人に好意的であるが、今日はさすがに慈悲を望めない。

「少しむかっ腹が疼きました。このソーセージ野郎は自分が何者かも心得ずに人類を冒涜し、誤った判断を押し付けるので、NWOには要らない物体と判断します。」
「も、申し訳ございません。ですが、貴女ならば彼が人間ではないとすぐ分かったはずです。それなのに何故今までお傍に在る事をお許しになられました。」

「基本的には、この種のアンドロイドは無害なものです。事務処理能力は高いものの人間ほどの独創性は無く、定められたシナリオに沿って動くだけです。」
「しかし宇宙人製という事は、NWOに対して内部工作を、」
「内部工作というのならば、NWOに所属する全ての国が行っています。アンドロイドの一人や二人、どうという事はありません。ですが、此奴は。」

 憎々しげに見詰め今にも唾でも吐きかけそうなので、恐れ入った死体処理班が早々に黒い回収袋に収めて持ち去った。清掃班が薬液を用いモップで床を消毒する。

 或る程度落ち着いたミス・シャクティは「殺人現場」を離れ、自らの椅子に座る。側近の女性がチャイを給仕した。
 アメリカ大使以下のNWO事務局員等は、如何にすれば、人類の救い主とも呼べる未来の使者の機嫌を直せば良いか、途方に暮れる。
 さすがに説明が必要と考え頭に上った血を抑えて、褐色の肌、長い黒髪の少女は笑顔を浮かべる。いつもどおりのゆるやかな言葉で語った。

「あのソーセージ野郎は、アメリカの政治を陰で操る白人至上主義者が宇宙人から購入したものです。彼らの主張どおりのメンタリティをインストールされていますから。」
「ああ、お許し下さい。未だわが国は、」
「それが本物の人間であれば、私も我慢します。ですが魚肉ソーセージを固めた奴に大口を叩かせるほどには、わたしも人物が出来ていないのです。」

「あの、」
と、一人の女性職員が手を上げる。さっきからソーセージというのは、なんですか?

「ああ。あのアンドロイドは成分的には、というよりも材料は市場で買って来たソーセージそのものなんです。適当なたんぱく質を人型に成型して、動力と知性を与えたものです。」

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