ガリー「前回までのあらすじ。
 イラク北部での米軍部隊潰滅事件が宇宙人の仕業と判明し、我々に出動命令が下った。
 新型ロボット兵器の実用試験の一環として私も投入されるが、状況は最悪。」

「ガリー! まだ生きているか!?」
 必死に無線で呼び掛けるジョーダン大尉の声に、一瞬意識が飛んだ私は再び右手のスティックを力一杯握った。

「大尉、宇宙人は?」
「脱出しろ、ロボットを棄てて逃げろ!」
「しかし!」

 随伴する歩兵部隊は乗車してきた兵員輸送車諸共、無惨な姿を曝している。生き残った兵士もなにに襲われているか判らずに、あらぬ方向に銃弾をばらまくだけだ。

 この状況をなんとか出来るとすれば、私が搭乗する新開発ロボット兵器しかない。
 火力は十分とは言えないが、なにより搭載するコンピュータの性能がずば抜けており、肉眼では捉えられない速度で動く宇宙人の姿もカメラで撮影できた。
 小口径ながらも秒速2000メートルを越える銃弾はほとんどの地上兵器の装甲を貫通し、連射の最中であっても一弾ごとに標的を換える優れた火器管制能力を持つ。
 日本で特別に成型されたセラミック装甲はわずか8トンで最新MBTに匹敵する防御力を持ち、

「う、っわきゃ!」
 ロボットは無限軌道の脚をすくわれ、左に横倒しになる。人工知能が自動で姿勢を回復しようとするが、動きは絶望的に遅い。

「コーネル少尉! 君のロボットが撮影した画像で宇宙人の正体が判明した! サルボロイドだ!」
「サルボなんです?」
「人間大ヒューマロイドでは最強の宇宙人だ。次元褶曲場を防御に用い、物理攻撃を一切受け付けない!!」

「物理攻撃を、一切…。」
 蟷螂の斧、という言葉を思い出す。所詮人間は宇宙人に狩られるだけの哀れな兎だ。
 自分が兎の一匹に過ぎないと悟り、ほとんど無意識に脱出装置のレバーを引いた。逃げる?、いや装甲の外に出て生き残れるはずも無い。

 がつ。

 姿勢を戻しかけていたロボットが今度は左から殴られて、まっすぐ直立する。サルボロイドによる攻撃ではない。
 コンピュータの目が高速度撮影で映し出すのは、白い人間の、少女の影。次のフレームで彼女は消え、アラームと共に10メートルを瞬時に移動しサルボロイドと接触する姿を発見する。

「何?!」
「コーネル少尉、今映ったのは!」
「あれは新しい宇宙人ですか!?」

「違う、あれはゲキパイロット ファクター5”KIMIKO-KODAMA”だ。彼女には次元褶曲場を解除する、亜空間コンピュータのハッキング能力がある!」

 

 2分後、絡み合いながらサルボロイドと”KIMIKO-KODAMA”は視界から消えた。10分後、脅威が去ったと判断してロボット兵器のハッチを開放する。
 外に出て見てぞっとした。射出座席が飛び出すはずの経路に、大きく尖った鋼材が刺さっている。もし脱出装置が正常に働いていれば、私は身体を両断されていた。

「少尉!」
 かろうじて生き残った兵士の一人が、ロボット兵器の装甲板を指差す。
 兵士は、兵員輸送車の転倒で死ななかった者は結構無事だった。サルボロイドは生身の人間を襲う気が無かったらしい。

「なに?」
「文字が書いてあります。これは、アラビア語じゃないですね。」
「見せて。…日本語だ。」

 極めて硬度の高い装甲に、指で抉ったような跡が残っている。日本のゆるやかな文字でほとんどひらがなであるから、私にも読み取れた。
 おそらくは、先ほど接触した”KIMIKO-KODAMA”がロボットを立て直してくれた際に書いて行ったのだろう。
 何故だか彼女は私の名前を知っていた。私が乗っていたからこそ、助けてくれた。

 私だから?

 

『DEAR GALLY.
 てめそんながらくたでのこのこでてくんじゃねえ! おとなしくクマちゃん抱いておねんねしてな』

back

inserted by FC2 system