シャクティ「前回までのあらすじ。
 物辺村少女自警団は遊んでばかり居るわけではなく、日夜人類を守るべく邪悪な宇宙人と戦って居るのです。
 その努力の涙ぐましいこと。」

 ウサギ星人。誰が名付けたか知らないが、それはまさしくウサギ星人である。
 全長40センチ、ずんぐりしたタケノコ状の白い身体。後ろ足が2本でぴょんぴょん跳ねて移動する。最も特徴的なのが金属光沢を放つ細長い笹の葉型の2枚の「耳」で、どこから見てもウサギさんだ。

 メルヘンチックな可愛らしい形にも関らず、この宇宙人は凶悪無比。目にも留まらぬ速度で街を疾駆し、耳を刃として人の身体を切り裂く。
 城ヶ崎花憐が受信した今回の被害予測は3400人、既遂で83人が殺されている。
 こんな化物を放置するわけにはいかない、と少女達は13時間にも渡る捕獲作戦を試みていた。

 まず物辺優子がゲキロボを用いて半径500メートルのエネルギーフィールドを形成、この中にウサギ星人を追い込んで他のメンバーが捕獲する。
 のだが、児玉喜味子はなあんにもしていない。ただボーッと突っ立って居るだけだ。折角変身した身体の線がぴちぴち出るEROスーツが泣いている。

 しかしながら、ウサギ星人は喜味子の近辺50メートル以内に決して近付こうとはしない。
 他のメンバーには頻繁に接触し攻撃を繰り返すにも関らず、喜味子だけは避けている。だからこそ13時間も浪費するのだ。

喜味子「飽きたよお、もお。」
鳩保「ウサギの野郎、だいぶバテてきたから、もう少し!」

 ウサギ星人は度重なる戦闘と逃走に、さすがに疲れている。宇宙人であるから地球の生物と同じ意味での疲労は無いが、不断に続く少女達の攻撃に身体を形成するエネルギー論理回路が損傷修復の限度を越え、物理的不具合が頻発して動きのなめらかさが損なわれてきた。

 なにせ正確厳密な鳩保芳子の二丁ビーム拳銃の射撃を掻い潜り、自己と同じ運動性を持つ童みのりのハンマー攻撃を耳で跳ね返し、超絶高速で地面すれすれを飛翔する城ヶ崎花憐のショックウェーブに転げ回されるのだ。
 にも関らずいまだに決定打を与えられないのは、ウサギ星人の物理的性能の高さ故。エネルギー兵器を用いない宇宙人として、マイクロ宇宙人として最高レベル金賞の戦闘力をカタログに記録するだけはある。

優子「3、2、1、はい!」
 物辺優子がゲキロボが形成するエネルギーフィールドに何十回目かの震動を与える。エネルギーの揺らめきでウサギ星人の疾駆する進路を変えるのが目的だが、今まで全て失敗した。
 が、

「来た!」

 回避計算に身体が追随しなかったウサギ星人が、喜味子の間合い50メートルに飛び込んでしまう。ウサギ内心「しっぱいした!」と感じているのが、ありありと見て取れる。

喜味子「と、とったああああ!」
鳩保「よし!」
花憐「やったあ!」

 児玉喜味子の手に、ウサギ星人の白い身体がすっぽりと包まれて居る。両の手指がさして凹凸の無い滑らかな身体の各所にじんわりと潜り込んでいく。

喜味子「ど、どうしよう?」
優子「絞め殺せ!」
鳩保「くびり殺せ!」

 わかった、と喜味子は指の力をほんの少し強める。実家は養鶏場でたまには自分家用に老鶏を絞めたりするから、その要領でウサギ星人を締め上げていく。

 ウサギ星人、盛んに耳を振り足をばたつかせて暴れるものの、脱出出来ない。深海1万メートルの水圧でも平気に耐える剛性の高い身体が、喜味子の指で不自然に歪んでいく。
 ぐきょ、ぐきょお、にょきょきょ、くきん。

喜味子「や、やた。」

花憐「ふああああああ、やっと家に帰れる。」
童「…おなか空いた。」
優子「このウサギ、喰えないかな?」
鳩保「それはさすがに。」

 喜味子の手の中に、さっきまでウサギ星人であったなにかがずるりと垂れ下がる。タケノコ状の身体はぜんまいを引き伸ばして伸べたように一本の紐と化し、内部コンポーネントがスチールウールっぽくもしゃもしゃと絡まっている。体液は無い。
 83人をローストビーフの薄さにスライスした金属の耳が、虚しく南欧の夕陽に光る。

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