花憐「前回までのあらすじ。 児玉喜味子は2年5組。鳩保と物辺と同じクラスだが、鳩保は数理研究科という別コースに所属する。 だが派手な二人と違って、喜味子はものすごーく地味でクラスでも目立たない。目立たないが、友達は居る。ちょっと怪しい子がね。」 「ゆでたまご、呑み込むの?」 昼ご飯のおまけに持って来たゆで卵を恐るべき早業でくるりと剥き、ぱくっと一呑みした喜味子は、当たり前のことを今更聞かれたという感で、目の前に座る由芽の顔を見た。 「気持ち悪い?」 喜味子が卵呑み込んでも蛇女扱いされないのは、正真正銘の蛇女物辺優子が傍に居るからだ。黒髪が長くうねり肌が抜けるように白い優子は、見る人にこの世の者ならざる印象を常に与え、人間扱いする事を許さない。 「でも、丸のまま卵呑み込んでだいじょうぶなの?」 と喋りながらも、喜味子の指は2個目の卵に移る。しゅるりと滑る白い指はこれだけが別の生き物のようで、人間の付属物とはとても思えない。児玉喜味子という少女は、両の手指とそれ以外で出来ている。 レイプされた、と由芽は感じる。ゆで卵は本来有るべき壊され方を回避され、自らの予期せぬ形で世界に露にされた。そして何も分からない内に彼女の唇の間に、 「はいあーん。」 え?とも思わぬ内に、由芽は自分の唇を割って卵が口に入っているのを知る。あんまり真剣に卵を見ていたので、喜味子は由芽も欲しいのかと勘違いして剥いた卵をくれたのだ。 「うぬふうむう。」 ぬぽっと引き抜かれる。由芽の唾液に濡れる卵は教室に差し込む陽の光を薄く浴びて、きらめいた。 「はい。」 「きみこお〜。」 「なに〜。」 放課後の怪しい変身に使う金粉を、物辺優子は振りかざす。ネジの間に粉が挟まってきつく閉じてしまったのだろう。 「ふにゃ、はい。」 苦も無く小瓶はこじ開けられ、そのまま優子の手に戻る。 「?、食べないの。」 由芽はそのまま両手に持ち続けていたゆで卵に、頭を下げて小さく噛みついた。とんがった先が齧られて、中の乾いた黄身が見える。 |