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ゲバルト処女

エピソード3 弥生ちゃん、錯綜する正義に歪む

仮改修バージョン(2020年12月開始)

 

 

明美「そういえば最近、弥生ちゃんの姿見ないね」
じゅえる「なんか、生徒会の全国組織の集まりで東京に行ったんじゃなかったか」
まゆ子「国会議事堂を見学するんだっけ?」

志穂美「京都で世界中の学生が集まって、国連の腐敗と怠惰を批難する決議集会に出ると聞いたが」
しるく「それは先月の話です。結局弥生さんは行かなかったようですが、……なんでも主催者の筋が悪いとかで」
ふぁ「そうなんだ」

聖「 ……          ……。」

明美「ふむ。聖ちゃんが言うにはね、
 弥生ちゃんは案外、どっかの異世界に飛ばされて救世主の役でもさせられてるんじゃないかって」

 あははははは。

じゅえる「いかにもありそー」
まゆ子「そうなったらもう、嬉々としてやるね、弥生ちゃんは」

釈「あの、弥生ちゃんキャプテンなら、今職員室に居ましたよ。
 なんだかもの凄く忙しくて、身体が二つ有っても足りないとか言ってました」
志穂美「なんにでも首突っ込むからだ   」

 

【天文のお話】

 十二神方台系と地球とでは暦が違うのは当たり前。

 私が地球から持ってきた腕時計(祖父から中学入学時にプレゼントされたもの。太陽電池で動くから電池切れは無い!)
で計測したところ、一日は27時間もある。

 地球人は25時間周期で睡眠を取るという話だが、時差の狂いは、まあかなり早い段階で慣れた。
 だがこの世界の人間はきっちり12時間眠る。
 短い人でも8時間は絶対睡眠時間に当てる為、夜中に私一人が起きている、というはめによく陥った。

 一日が24時間以上あればもっと色々な事が出来るのに、という人がたまに居るが、
増えた時間は寝るというのがどうやら答えらしい。

 一年は333日。地球時間に直すと374日になる。
 年齢の換算は地球時間とほぼ同じと見ていいだろう。
 333=9×37。一年を9で割れば実に便利なカレンダーが作れる。
 実際に「九季」という区分もあり、「春・夏・秋」×「初・中・旬」で「夏初月」という呼び方をする。

 冬は季節としては無く気象現象だ。年末に霜が降りて寒冷化する事を言う。
 無い年もあるが翌年は病虫害に悩まされる不作の年になるらしい。
 冬至の日が1月1日。これは遠日点。
 わずかに楕円な軌道を描いて回っているから、一年で太陽の視直径がちょこっと大小する。

 衛星は二個。
 黄道面を素直に周回する「白の月」が28日、北極南極を周回する極周回衛星「青の月」が33日で回っている。
 「青の月」の方が遠く小さい。
 「白の月」を基準とした太陰暦も採用されている。28×12ヶ月=336日。
 閏月がめんどくさい。

 「白の月」と「青の月」は33ヶ月に一度「劫(合)」を起こす。
 この日はどこかで大災害が起きるとされる。
 実際、毒地で大地震があったしね。
 二つの月の軌道では長年月経つとややこしい軌道変化を起こすはずなのだが、
三千年の観測記録を見るとほとんど関係が変わらないらしい。

 太陽は一つ、惑星は四つが知られている。
 彗星は100ほども確認されて皆名前が付いている。

 彗星は「テューク(タコ)」の仲間と思われており、創世神話によると、
天河を遊んでいた無数のテュークを神々が海に投げ落として十二神方台系の土台を作ったとされる。
 南岸タコリティの隣の円湾ではその姿が本当に観察出来るのだが、
実際はこれは何なのだろう。

 ギィール神族はちゃんと天動説を知っているけれど、それ以外の人は天体の方が動いていると信じている。
 当然世界は真っ平らで、海の端は天と接触してそのまま泳いで登っていける。
 死んだ人の魂は魚になって天に上り、天河の神様によって生前の罪を裁かれ、
善い人は神様の庭で楽しく遊んでやがてまた地上に生まれ変わるが、
悪い人はカニ神に首をちょん切られ河原の机に長く晒し続けられる。
 干からびて粉になるまで生きているそうだ。

 重力はおそらく0.92程。この世界では私はちょっとしたスーパーマンだ。
 でなければ、こんなに長く歩き続けられる訳が無い。

(蒲生弥生)

 

 

第一章 古の女王の吐息は、南海をさざめかせる

 

 

 

第二章 沸き起こる歓呼の声に、救世主は眠れない

 

 

 

第三章 北の都に咲く双輪の花は、可憐な毒に彩られ

 

 

 

第四章 奮い立つ若武者に、薫風は微笑む

 

 

 

第五章 金雷蜒少女、鬼谷の妖気に美身を震わせる

 

 

 

第六章 針の穴から覗く天は、どこまでも青く

 

 

 

【闘猫】

 

 

第七章 いぬのはなし

 

 

 

第八章 赤き矢は平原を貫いて、旭日を望む

 

 

 

第九章 誘うは泥濘の戦戯(仮
  (旧題「戦戯の棋盤に列する駒は、泥濘に転ぶ」) 

 ヌケミンドル正面軍の総指揮を執るのはクルワンパル主席兵師大監だ。
 23代武徳王カンヴィタル洋カムパシアラン・ソヴァクから直々に指名を受けて、王国中枢を守る最重要防衛線の指揮を執る。

 クルワンパル明キトキスは41歳。
 兵学校に在籍中から将帥の器を認められ、20代で兵師監に抜擢された英才だ。
 黒甲枝の主要家系の出身ではないが、聖戴の直後より軍政局に配属され兵師統監直々の薫陶を受ける。

 重用される理由はもう一つ。
 ソグヴィタル王 範ヒィキタイタンを領袖とする「先戦主義」派とは一線を画し与しなかった。
 元老院からも好意をもって迎えられる。

 当時若手黒甲枝に人気の「先戦主義」に彼が同調しなかったのは、
多分に神話的な脅迫観念に基づく「大侵攻計画」が、一時の勝利以外の展望を持たなかったからだ。
 「計画」自体には十分成功する見込みがあったものの、勝った後どうするかを考えていない。
  数年の内に必ず逆襲されると予想した。

 もっともソグヴィタル王としては、その頃までには必ず青晶蜥神救世主が降臨して、
方台が新しい局面を迎えるだろうとの予測があった。
 今現在、青晶蜥神救世主「ガモウヤヨイチャン」の降臨で大変動が起きているのだから、
結局はどっちでも良かったわけだ。

 褐甲角軍としては、ソグヴィタル王の遺産である大動員計画がそのまま今次大戦に流用できて、非常に助かっている。
 クルワンパルも感謝する。

 

「はてさて。人の死ぬを見るは楽しからざる体験であろうが、兵師であればむしろ喜ぶものであるかな。」

 前線視察するクルワンパルの隣を歩くのは、元老員ガーハル敏ガリファスハル。
 武徳王から直接派遣された督戦使だ。
 黒甲枝クルワンパル家の累代の後見役でもある。

 元老員はおおむね奇矯な者が多く、その言動にいちいち腹を立ててもしかたないが、
機嫌を損ねて武徳王陛下に妙な讒言をされても困る。
 丁寧に隔離しようと司令官自ら案内する。

「主席大監、いや司令官殿と呼ぶべきか。
 そなたはこの戦、勝つおつもりか、それとも勝利以上のモノを得るおつもりか?」
「それはまた、突拍子も無いお尋ねです。
 私は陛下より与えられた使命を愚直に果たすだけです。」

「いや、そういう話ではない。
 つまりは青晶蜥神救世主ガモウヤヨイチャンの存在を踏まえてのことだよ。
 戦が終った後の方台の状況にどう落とし所を着けるかという問いだ。
 明敏なそなたならば当然その程度は考えておろうし、またそうでなければ主席大監など務めてもらっては困る。」

 クルワンパルは顔をしかめた。
 元老員というのはとかく論が中空に浮かぶものだが、彼の言葉はその最たるものだろう。
 黒甲枝は愚直である事を美徳とする。
 それ以上は元老院が考えて法として定めるものだ。

「いささかお言葉が過ぎると思われます。そのような問いはハジパイ王殿下にこそ、お尋ねください。」
「あれはダメだ。ガモウヤヨイチャンを殺す気でいる。」

 クルワンパルは瞬きした。

「……まことですか。」
「無論、その程度で時勢が旧に復すはずも無い、とは王も理解しているがな。
 こうは思わないか。すべてのカブトムシが翅で飛び立った後、一人だけ居残っている奴が居る。」
「どこに飛んで行くかは元老院でお定めになるべきでしょう。
 あるいは、ガモウヤヨイチャンを王宮にお呼び下さい。」

「いや。……そうたとえばだ、
 このヌケミンドル正面軍、これがこぞってガモウヤヨイチャンの軍門に降ったら面白いだろう。
 元老院も陛下も飛び越えてトカゲ王国を樹立してしまい、後でつじつまを合せる。
 そなたの才ならば可能だ。」
「御戯れを。」

「ハジパイ王の頭の中は、そんなことで一杯なんだよ。

 黒甲枝は畢竟民衆の生命をこそ大事として、王国そのものの存立にはさほど拘らない。
 青晶蜥神救世主が新しい枠組みで人を救うとなれば、それが善であり正義と見做すのもやぶさかではない。
 もちろん国法的には、謀反なんだがね。
 とりあえず疑っているのは赤甲梢だな。」

 「キスァブル・メグリアル焔アウンサ様ですか。
 あの御方は、なるほど新しく面白い事がお好きですか。」
「彼女だけではないぞ。その姪の劫アランサ王女も既にガモウヤヨイチャンに取り込まれている。
 殺す理由には事欠かないのさ。」

 どこまでが真実か知らないが、ガーハルは武徳王から直接信任を得ている。
 ハジパイ王の動向も、褐甲角神聖宮の注目する所となっているのだろう。

 

     *****

「という話を前提に置いてもらい、この人物が最前線にて戦況を観察する事をお許し願いたい。」

 元老ガーハルがそう前置きして紹介する人物を、クルワンパルは眩しく見上げた。
 身長2メートル、彼よりも頭二つ分も大きい。
 ガーハルの黄金の鎧に対して、その者は白銀の鎧を身に纏っている。
 羽飾りの派手な兜の下から、花のように柔らかい茶色の髪が零れる。

「女性、ですか。」
「胸を見れば分かるだろう。見たとおりのものを信じたまえ。」

 銀の鎧の胸部には、乳房の膨らみが盛り上がる。
 だがタコ樹脂と鉄板で象られたものだ、ギィール神族の作ならば女の形に意味は無い。
 趣味でいかようなものでも着るだろう。

 兜の下から現われた頭には、ゲジゲジもカブトムシも無い。
 美しく整った顔だが、ただの人だ。この身長でこの体格とくれば、

「神族の出身で、亡命者ですか。」
「少し違う。青晶蜥王国より観戦にいらした救世主の廷臣だ。胸の印を見て欲しい。」

 甲冑の胸部、ちょうど豊かな胸の谷間には七宝が嵌め込まれる。
 青く描かれた角のある女人の顔だ。
 青晶蜥神救世主ガモウヤヨイチャンの紋章「神殺しの神」ピルマルレレコ。今や方台中の人が知る。

 女性は、身長からは想像出来ない美しく澄んだ声で自己紹介する。

「この度、青晶蜥神救世主ガモウヤヨイチャンの宮廷にて、青晶蜥王国建軍準備委員会が発足されました。
 委員会で観軍評論員を任じられた ューマツォ弦レッツオです。以後御見知り置きを。」
「軍政局より報せは受けていましたが、まさか女性の方だったとは。」

「男です。」
「は?」
「エリクソーの服用を失敗し、体型が女性の外見と化してしまった者です。
 故に聖蟲に嫌われて聖戴の栄を受ける事が叶いませんでした。」

「真正、男なのだそうだ。おもしろいだろう。」

  と、能天気にガーハルが笑う。弦レッツオも口元に手を当ててころころと笑う。

 服用の失敗など嘘だ。
 ギィール神族の中には自ら薬品の調合を行い生まれた性を転換する者が居る、と聞いている。
 聖蟲がそのような者を選ぶはずが無い。

「それで、観戦をお許しねがえますか。」
「お断りします。
 ここ第三列の城塞まではガーハル様のお計らいで見る事が出来ますが、
 これより先は司令官の権においてお断りいたします。」

 ガーハルと弦レッツオは互いに目くばせして肩をすくめる。
 想定内だ。次の手もちゃんと用意している。

 弦レッツオは澄んだ声で、再度懇願する。

「それでは私がガモウヤヨイチャン様から受けた使命を果たせません。
 どうか、もう一度御考え直しください。」
「私は、武徳王陛下と兵師統監様以外より命令を受ける立場にありません。どうか御引き取りください。」

「ではいたしかたありません。ガモウヤヨイチャン様にはその通りにお伝えいたします。
 褐甲角王国では戦場において悪逆非道を働いていると。」
「そうだな。人に見せられぬとあれば、そう判断せざるを得ないからな。
 武徳王陛下もさぞお悲しみであろう。
 誇りとする主席大監がそれほど腐っていたとは、御想像もされてないだろうからな。」

「なんと仰しゃられても決定は覆りません。
 また敵が王国に仇為す者であれば、いかようにも我ら非道を働きますぞ。」
「うむ。精励なされよ。」

 言いながらも、ガーハルは胸元から山蛾の絹布を取り出す。
 勅状を記すものであるから、クルワンパルはやっぱりそう来たか、と覚悟する。

「勅命であるぞ。」
「は。」

「青晶蜥神救世主ガモウヤヨイチャンが遣わした観軍使に対しては、最大限の便宜を図りその使命を全うさせよ。
 観軍使は常に督戦使ガーハル敏ガリファスハルの傍にあり、彼により行動の制限を受けその指示に従うよし、
 協定に定められている。」
「御錠に従います。」

 弦レッツオは婉然と微笑む。

 いつのまにカプタニアは救世主と協定を結んでいたのか知らないが、まさか元老ガーハルの方便ではあるまい、
とクルワンパルは自らに言い聞かせた。

「うむ。殊勝である。最前線の防塁に案内してもらおう。
 いや、司令官直々でなくてもよい。誰か黒甲枝を寄越してもらおう。」

 

     *****

 褐甲角軍は方台中央部に位置する抜けミンドルに最大最強の防衛線を敷く。
 これは地形上当然の理由だ。

 ヌケミンドルは南北を貫くスプリタ街道の中点にして、方台西部に繋がるカプタニア街道の起点。
 西には、方台最大の湖アユ・サユル湖が拡がる。
 直径100キロメートルの湖と北のカプタニア山脈に挟まれて、街道は1本しか無い。
 湖南岸のサユールまたベイスラ側はえぐられたかの切り立った断崖となり、通行は不可能。
 徒歩で移動できるのはカプタニア経由しか無い。

 カプタニアを扼すれば、方台中央の東西交流を阻止出来る。
 褐甲角王国はこの地を占領して初めて国家としての基盤を手に入れた。

 東金雷蜒軍が褐甲角王国を攻略しようと思えば、カプタニアを陥さねばならない。
 ヌケミンドルが決戦の場となるのが必定だ。

 

 東西南北交易の十字路であるから、ヌケミンドルでは幾多の戦争が繰り返される。
 この時問題となるのが、地形だ。

 ヌケミンドルの周辺は、アユ・サユル湖に毒地平原の水を引き込むかに低くなっている。
 何度も水が溢れ泥が堆積し、泥地となっていた。
 神聖金雷蜒王国時代、ギィール神族が土地改良に乗り出し巨大な運河を作って流路を拡張し洪水を防ぐ。
 以来泥地は広大な乾いた土地となり、都市を築く基盤をなったが、
雨が降ればまたぬかるむ。

 天候によって戦況ががらりと変わる、難度の高い戦場だ。

 褐甲角軍はこの地に大要塞群を築く。
 野戦は避け、要塞に籠もっての防御戦を選択する。

 要塞はまた人心を安定させるのに貢献した。
 いかに無敵の神兵が守るとはいえ、ゲイル騎兵は神出鬼没。
 毒地平原の側が開けていれば、どこから襲われるか安心して眠れない。
 恒久的な防御施設が必要であった。

 現在ヌケミンドルは軍都として繁栄を遂げている。
 だが人が多く住む都市で戦闘を繰り広げるのは不適。ゲイルは10メートルを越える城壁でも平気で登ってくる。
 故に毒地側にさらに進出して、土塁を並べた最前線防衛陣を敷いた。

 ギィール神族との攻防は、此処で行われる。

 

 誰言うとなく自然と定まった今次大戦『大審判戦争』において、
褐甲角軍政局は、ヌケミンドル防衛の基本戦略に修正の必要を感じなかった。

 2年前に着任したクルワンパル主席大監も同意したが、改めて考えると
これほどの規模の大戦では戦線全領域との釣り合いが取れていない。
 ヌケミンドルが強すぎるのだ。

 今回金雷蜒軍の攻撃対象は「褐甲角王国自体」である。
 具体的には民だ。
 王国存立の基盤である国民を害され為す術も無いと露呈してしまうと、青晶蜥神救世主に王国の大義を説く事が出来ない。
 褐甲角王国は存在理由を失ってしまう。

 民への直接攻撃を止め、ギィール神族と神兵を直接対決させねばならないが、
ヌケミンドルは防御が厚すぎて、神族が忌避し他に眼を向ける。
 防御陣をわざと手薄に見せて、神族の攻撃を誘引せねばならなかった。

 クルワンパルは考える。それでは足りない。
「ギィール神族の知的好奇心をくすぐり、なんとしてもヌケミンドルの難題を攻略してみせると虚しい挑戦をさせる」
 不本意ながらも自らに冠せられる「智将」の虚名を利用して、知恵比べをさせようと思い至る。

 

 クルワンパルは最前線のさらに前に、いくつもの小さな防塁を作らせた。
 一見すると無防備そうだが互いを補い合い、容易には攻略を許さない。
 全体として迷路のような陣形だ。

 この陣の妙味は、知恵を絞り適切に兵を用いると、必ず攻略できるようになっている点だ。
 本物の防御線に達する前に、金雷蜒軍はパズル解答に精力を使い果たす。
 一隊が疲れ果てれば、また別の隊がパズルに取り掛かる。
 神族を飽きさせぬように常に新しいパズルを用意する。それが可能なのはクルワンパル唯一人だ。

 もしもこの陣を、弥生ちゃんの地球の友達「八段まゆ子」が見れば、即座にこう叫んだろう。
 「三元奇門遁甲八陣の計!」
 真に知恵ある者であれば、早速に迂回するものだ。

 しかし、ギィール神族は引っ掛かる。
 おもしろいから、以上の理屈は要らない。

 

      *****

 果たして、ヌケミンドルに先着した寇掠軍は、この防塁を見て考え込む。

 なるほど、急ごしらえの防塁は実に小さい。10人も詰めれば一杯だろう。
 しかし、土を盛った小山の上にあり掘や垣根で守られているから、歩兵ではとても攻められない。

 多人数を犠牲にしひたすらに押しつぶす作戦は、兵数が少ない東金雷蜒軍にに無理。
 弩車を持ち込むにしても、防塁は土と粘土で出来ており効果は薄い。
 火を掛けても燃え広がらない。
 少数の剣匠で殴り込みを掛ける、またゲイル騎兵で乗り込むにしても、
待ち構えるのは間違いなく神兵だ。
 割が合わない。

 防塁間は200メートル程で、黒甲枝の鉄弓ならば相互に矢が届き援護も出来る。
 無理に防塁の間を抜け浸透しても、四方八方から鉄箭を射られて針ねずみになって死んでしまう。

 大砲と爆弾があれば話は別だろうが、どちらも持ち合わせていない金雷蜒軍だ。
 こちらも地道に陣を作り兵力を増強してじわじわとすり潰すしかない、と見定める。

 だがもちろん、ギィール神族はちまちました作戦は大嫌いだ
 防塁の配置を詳細に検討し地図に正確に記してみると、敵将クルワンパルの意図が見て取れた。

「我らに対する挑戦だな。」
「矢の届かぬ回廊が何本か作られている。ここに来い、と言っている。」
「罠以外の何物でもないが、どんな罠か興味が湧くな。」
「面白い。手並みを見せてもらおう。」

 

 クルワンパルが設定した回廊は幅が30メートル程度。
 ゲイルも一列に並んで進まねばならない。
 身を隠す場所も無く左右に退避する余裕も乏しく、後退して逃走するのも困難だ。
 しかしゲイル騎兵はむりやり押し通る。

「この防塁は取られて取り返す、そういう考え方で作られているな。」
「ああ、西側からは取り易いようになっている。
 つまり奪還時にはこの回廊を通って歩兵を乗り込ませる事が可能だ。」
「我らが取ってもあまり有利にはならないが、取らねば不利のままで空しく時を費やすのだ。」

 そして当然のように待ち伏せに遭う。
 予想に反して、クワアット兵の集団だった。
 長槍と弓の百人隊が道の左右に埋伏していきなり姿を現す。

 常であれば物の数ではないが、ゲイルで蹴散らそうとすれば防塁からの射程圏内に入ってしまう。
 思う壷だ。
 さすがに額にゲジゲジを持つ神族は慌てず、まっしぐらに正解を進み、ついには包囲から脱出する。

 出た先が弩車の射界であったとしても、最適解なのだから迷いは無い。
 これまで温存してきたロケット槍(飛噴槍)を直撃させて、辛くも虎口を脱した。

 過酸化水素を用いる「飛噴槍」は、ギィール神族の間では結構知られた新兵器である。
 だが寇掠軍で用いるのはこれまで控えられてきた。あまり使い所が無かったのだ。
 今次大戦においては存分に披露する。

 

 ヌケミンドルの国境線は約100キロ。
 全域に渡って小防塁が作られているのではない。
 或る程度まとまった数が集中して、それ以外の場所は神兵の機動防御に依る。

 狙い目に見えなくもないが、

「神兵が強弩を担いでいるぞ。何時でも何処でも防御陣を張れるな。」
「クワアット兵で補えるか。ここもクルワンパルとの知恵比べだな。」
「兵が10万あれば効率的に攻められるが、ゲイル百騎を並べても黒甲枝に手柄を与えるだけだからな。」
「結局は我らも砦を築くべきか。」

 強弩は対ゲイルに、また対装甲神兵に有効な兵器であるが、金属製で大変重い。
 通常は移動に荷車を必要とする。
 一体化して「弩車」と呼ぶが、道路が車輪を想定していないので移動は制限される。
 人間が担いで運ぶのはとても無理だが、神兵の怪力であれば可能であった。

 なお褐甲角軍が用いる「強弩」は東金雷蜒王国製。
 ギィール神族は喜んで敵方に最新兵器を売る。
 売らねば新兵器開発の意欲が湧かない。面白くならない。

 

      ***** 

 金雷蜒軍でも土塁・砦の構築が始まる。
 クルワンパルの小防塁の展開を考えて、こちらの有利に布石を打つ。
 まるで囲碁のような状況となった。

 こちらにも強弩や投石器が装備されるが、さすがに東金雷蜒王国本国製。
 褐甲角軍には売らない「分解可能」な製品で、部品を分けて奴隷に運ばせる事が出来る。

 もちろん褐甲角軍は建設に手をこまねいてはおらず、盛んに攻めかけ妨害する。
 これを防ぐ為にも、土塁が必要なのだ。

 

「暑い……。」
「奴隷どもに十分な水と食糧を与えねば、たちまち倒れてしまうぞ。」

 季節は夏、日差しを遮るものの無い平原での土木作業だ。
 付近の草木はすべて刈られ、地面は掘り起こされて泥と粘土が陽に乾く乾燥した場所になっている。
 二日に一度はざっと通り雨が降り、たちまち泥濘と化して足元が沈み身動きがとれない。

 泥の中で奴隷兵達は土を捏ね、袋に詰め背に負って運んでいる。
 いかに肉体労働には慣れていても、絶えず褐甲角軍の突入に怯えながらの作業は遅々として進まない。
 寇掠軍はただ荷物を運び掠奪するだけ、と聞いていた者も多く、予想が外れて不満を見せていた。
 しかし、代わりの奴隷は運河の舟に乗って続々と到着する。

「アユ・サユル湖からの用水は、いつ水を止めるだろうか。
 我らが先に堰き止めて舟による運輸を確保するべきではないか。」

 神族の懸念はアユ・サユル湖から毒地に水を引く運河だ。
 神聖金雷蜒王国時代に築かれた運河は水量も多く、物資を輸送する舟がひっきりなしに往来する。
 ヌケミンドルには運河をまたぐ巨大な石造りのアーチ橋「大拱橋」が有る。
 方台三大不思議建築として観光地ともなっていた。

 褐甲角軍としては、金雷蜒軍の補給路を断つ為に水を堰き止めるのがセオリーであるが、
何故か今も止められていない。

 クルワンパルはギィール神族のヌケミンドルへの集中を図るから当然の策だが、
便宜を受ける方はさすがにそこまでは見抜けなかった。

 気付いた。さすがに。

「ひょっとすると、攻塁は奴等に作らされているのではないか?」
「少し考え方を変えてみよう。」

 

 褐甲角軍最前列の小防塁を一つずつではなく、一斉に壊滅させる。
 もちろん十分な防御力を持つ防塁を簡単には破壊できない。
 が、そこはゲジゲジの聖蟲を持つ者だ。
 火攻めを用いる。

 ゲイルの上に大弓を搭載して、神族特製焼夷弾を放り込む。
 普通に射ても泥土の外壁に遮られ、表面が焦げるだけ。土塁に火は効かない。
 だがゲジゲジの超感覚により極めて精密に弾道を計算できる神族は、ごく僅かに覗く狭間を狙う事が出来た。

 内部には大量の矢や物資が集積される。
 燃え移り、竈のようになった。
 たまらず飛び出すクワアット兵を、黄金の矢が射抜く。
 今回神族は煙幕筒も併用する。
 煙に燻され眼を奪われ、どこに敵が居るか分からぬままに褐甲角軍は死んでいく。

 重甲冑の神兵が突撃する。
 視界は無くともゲイルの気配は隠せない。
 まっしぐらに神族の元に駆け込み、岩をも砕く大剣を降り下ろす。斧戈を振り回す。

 

 一方神族は、別働隊をクルワンパルが設定した回廊に突入させる。
 こちらは毒煙筒を用いた。

 褐甲角軍も防毒面を装備するが、装着しては視界も狭まり矢も当たらぬ。
 高速で疾走する標的にはなおさらだ。
 防塁に放り込むと、なんと兵ではなく神兵が飛び出す。

 甲冑装備の神兵は、装備に防毒面の機能を持つ。
 冷却機能も有り、限定的ではあるが火中ですら行動できた。
 毒煙筒の攻撃を予期し待機していたのだ。

 しかしクワアット兵の支援は無い。
 ゲイルと神兵直接の格闘戦が始まる。
 大剣と斧戈が、黄金の槍が弓が、その他様々な新兵器が威力を奮う。
 巨蟲の肢に刃が食い込み緑の体液は弾け、
跳ね飛ばされた重甲冑が毬のように転がり、泥に嵌る。

 ゲイルは防塁を乗り越え、回廊も何も無視して三次元の機動を行う。
 無傷の防塁からもやはり神兵が鉄弓を振りかざし、ゲイルの腹に深く鉄箭を打ち込む。
 背の狗番が大弓を引いて、火炎弾を神兵に命中させる。

 まさに血みどろの戦闘で、その日5人の神族が戦死した。
 両軍はさらに高い緊張状態に突入する。

 

      ***** 

 翌朝、金雷蜒軍はあり得ないものを見る。

 いきなり目の前に新しい小防塁が出来ている。
 これではせっかく作った攻塁が意味を為さない。

 兵ではなく神兵が怪力を活かして粘土を詰めた袋・籐篭を運び、
 たちまちの内に積み上げた。
 敵将クルワンパルは何時でも好きな所に防塁を築き、自在に戦略を構築する。

 神族は協議して新たな攻略法を模索せねばならなくなった。
 そして数日。今度は褐甲角軍が我が目を疑う。

 ゲイルが土を運んでいるのだ。
 巨大な泥の玉をを無数の肢で転がし、寄せて来る。
 さらには地面にとぐろを巻いて泥を掘り、盛り上げた。
 あっと驚く暇に、土塁が完成する。

 ゲイルは額の聖蟲と形を同じくする尊い蟲だ。
 その神蟲にこのような卑俗な真似をさせるとは、神聖金雷蜒王国の昔を紐解いても見られぬ蛮行。
 そこまで神族は思い切るのか。

 褐甲角軍の前線は狼狽し、クルワンパル主席大監に指示を仰ぐ。

 

 

「穴はどうなのだ。地底をくり貫いてゲイルが城塞の内部に侵入するなどは無いか?」

 督戦使ガーハルは報告に来た中剣令に尋ねるが、そんなもIFは分からない。
 代わってクルワンパルが答える。

「さすがにゲイルの構造では地底を掘り抜く事は出来ないでしょう。
 ミミズかオケラのような形でないと。」
「たしかにゲイルは地を走る蟲だ。では地底からの攻撃は無いか。」
「すくなくとも最前線の小防塁にはありません。労多くして功が少な過ぎます。」

「兵の代わりに防塁を駒として配置しあう。まるで『ダル・ダル』のような展開だな。
 主席大監はこれを予想していたのか。」
 (『ダル・ダル』とは十二神方台系のすごろく)

「まさか。ゲイルがこのように用いられるなど、神族でさえ予想していなかったでしょう。
 ゲイルが神の化身と思われていた時代なら、口にしただけで暗殺されます。」
「時代が変わって、ゲイルをただの便利な道具と看做すようになったわけだ。

 さもありなん。千年に一度の大戦、大変革だ。
 神威にのみすがっている者は最早カプタニアにしか居るまい。」

 ガーハルはこの後一度下がって、武徳王への報告に赴く。
 だが対処法を携えてでないと、陛下の納得は得られないだろう。
 クルワンパルを急かせて策を絞り出させる。

「そうですね。当初の計画は今も有効ですが、防塁同士の攻防で20日は時間が稼げるでしょう。」
「その後は?」
「神族が飽きますから、今度は平原に出ての戦闘を考えます。
 その間に防塁を整理して要塞群までの道を空けましょう。攻城戦をさせます。」
「ふむ。より大規模にな。」

「神兵が足りませんね。」

 青晶蜥神救世主の観軍使ューマツォ弦レッツオが、優しい口調で弱点を指摘する。
 ガーハルもうなずく。

「敵軍のゲイルは200を越えるだろう。
 重甲冑の神兵3人が当たらねば、ゲイル1騎を確実に屠るのは無理なはずだ。」

 部外者の口出しにクルワンパルは内心怒りを覚えたが、指摘はごもっとも。
 最前線ばかりに配置は出来ず、機動防御にも十分な数の神兵を当てねばならない。
 ゲイル騎兵の数が増えれば、搦手から攻めようと考える者も増える。

「後方の、カプタニア街道口の防衛はクワアット兵に任せて、神兵は前面に出そうと思います。
 陛下の御親征を願って近衛兵団を前進配備出来れば、と考えます。」
「うむ。そこは儂に任せてくれ。」

「ゲイルは最終的には500騎になります。今朝報告がありました。」

 ぎょっと二人は麗しい観軍使を見る。
 なぜそんな事を知っている。

「レッツオ、それは青晶蜥神救世主の情報網からか。」
「あの御方は情報に関しては非常に大きな関心を持っており、一日にして方台全土を知るまでに整えております。
 その一端はわたくしにも伝えられ、わずかばかりではありますがクルワンパル大監のお役にも立つでしょう。」

「救世主はギジジットの諜報網をすべて使える、というのは本当ですか。」

 ガーハルに代わってクルワンパルは尋ねる。
 レッツオは花のように綻ぶ笑顔を見せる。

「王姉妹さま方の御利益に、ガモウヤヨイチャンさまの成される事は完全に叶うのです。」
「それで500騎の内訳は。」
「東金雷蜒王国においてこれまでに出征なされた神族は800名、計画なされている方は500名です。」

「おお、ゲイルも既に800騎が毒地に入っているか。」

「北方ボウダン街道は赤甲梢の兎竜が猛威を奮っており、戦果も芳しくありません。
 スプリタ街道沿いの前線を目指す方が多く、およそ500となります。
 しかしヌケミンドルがこのように堅守を示せば、200は南のベイスラにでも向かうでしょう。」

 これは良くない。クルワンパルも悩む。
 ベイスラをゲイル騎兵が200も襲えば、壊滅しか考えられない。
 ヌケミンドルの軍勢を割くのは不可能だから、別を考えねば。

「……わたしの権限ではありませんが、西岸の「装甲海兵団」より応援を、」
「うむ。請願書を書いてくれぬか。」
「早速に。」
「兎竜はどうだ。赤甲梢に話を付けて一部隊を回してもらおう。」
「お願いいたします。」

 だが懸念はまだ有る。
 神兵が過重の戦闘で疲弊が目立ち始めていた。
 人はいい。装備が問題だ。

 重甲冑も翼甲冑も褐甲角王国では製造できない。
 金雷蜒王国の神族の工匠によって作られていた。
 補修部品も当然に輸入で、他の代替が利かない。特にタコ樹脂製の部品は手に負えない。
 損傷すれば修理もしなければならないが、このままでは。

 ガーハルに伝えると目を瞑り大きくうなずく。

「破損の著しい重甲冑は無いか。陛下にお見せして状況を認識してもらおう。」
「ご用意いたします。」
「だが、   」

 とガーハルはにたと笑う。
 クルワンパルも理解して、笑顔で応じる。

 

「計画はすべて順調です。
 ヌケミンドルは未だ、敵に対して存分に魅力を振りまいています。」 

 

 

第十章 金雷蜒少女、初めての接近遭遇

 

 

 

第十一章 聖戦に沸く武王の都は、今日もいいお天気

 

 

 

【羅針盤】

 

 

第十二章 破れし者の名は、栄光の翼に乗ってはばたく

 

 

 

最終章 青晶蜥神救世主は明日を越えて、明後日に向かう

 

 

【エピローグ】

 

  

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 Episode4 『忙中閑あり姦計あり』

に続く

 

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