タンガラム軍の紋章について
近代タンガラムにおいては、表音文字「テュクラ符」を使い、表語文字「ギィ聖符」は公式には用いない。
のではあるが、古代テュクラ符は意味と音を兼ね備えた文字であり、文字を組み合わせて新しい文字を作る事が許されていた。
もちろん発音をそのまま書けば意味は通じるのであるが、新語の実態を表す為に意味を優先した文字も盛んに用いられ、表記の確実性を高めていた。
近代タンガラムでは意味を表現する合成テュクラ符は、そもそもが印刷の活字として存在しないのだから使い所が無い。
図像として紙面に表す事となり、むしろ標章・商標として盛んに用いられた。
この場合の発音はその標章が表現する事物の名を用いるわけだが、それぞれに発音が有る文字要素の組み合わせであるから、独自の発音を構成する事が可能。
この発音をまた本来の発音記号で表現する事により、標章自体の名前を付ける事が出来る。
長過ぎる固有名詞のつづりの略号としても使われる。
タンガラム軍「陸軍」「海軍」「巡邏軍」において、これら古代文字を図案化した紋章が用いられ軍旗に記される。
おおむね十二神信仰の象徴が混ざっているので、民衆協和主義の国家の軍隊としてはいかがなものか、との懸念もあるが、
将兵においては特に問題とせず、むしろ神様の御加護が有ると歓迎する。
交易警備隊とは、古代紅曙蛸女王国における軍事組織である。
紅曙蛸(タコ)王国においては未だ「軍隊」と呼ばれるものが無く、女王の求めに応じて各部族が兵士を出し合って混成軍を構成するのが通例であった。
しかし各地を繋ぐ交易路を守り商隊と共に旅する交易警備隊が、女王独自の軍隊であったと見做されている。
彼ら交易警備隊の特徴としては、軍隊というよりもタコ女王の使者であり、軍事力警察力を必要とする事態が交易路周辺にて発生していれば、タコ女王が定めた法に則って解決する義務を負っていた。
一方各地に留まって治安の維持に当たるのは、十二神の使徒であるカニ神官巫女に託される。
警察と呼ぶよりは風紀委員的な存在で、そもそもが「法」「道徳」「信仰」というものへの理解が薄い当時の民衆を教化するのが本来の目的である。
タコ女王の「法」は、後の時代に比べればあまりにも単純で条文も少ないものであるが、カニ神官が女王の意図を民衆に解き明かして、何故法に従わねばならないのかを説いたという。
交易警備隊はやがて軍事組織としての独立性を主張する事となり、女王の王都にあって権力を恣意的に行使するようになった「番頭階級」と対立するようになる。
最終的には交易警備隊隊長が王都の腐敗を一掃して正しい秩序を取り戻したのであるが、これが為に古代紅曙蛸女王国自体が崩壊。
各地に散らばった「番頭階級」が地元有力者と結びつき、独自の地方王国を築き上げ、「小王」が乱立する事態となる。
交易警備隊も「小王」の勢力に吸収され私兵となったが、交易の安全を守る本来の意味での警備隊はそのまま存続し続けた。
警察業務は各地「小王」の配下の者が司る事となったが、カニ神官巫女はタコ女王の定めた「法」「道徳」「信仰」を説き続け、小王の横暴を食い止めていた。
この時期に、「国」と「公」の概念が確立したとされる。
そもそもが、タコ女王の治世にあっては民衆が「国」の概念を本当に理解したか疑わしい。「天下」がそのまま国である、程度であった。
皮肉なことに、全国を統一的に支配する「女王国」が崩壊した事により、地域国家である小王の領域が「国」として民衆に強く意識された。
権力というものが、為政者の独善によって行使され我欲により運用されるものであると、はっきり理解する。
そして数多の国を越えて全体に共通して統一された結びつきである「公」の概念がある、とも理解した。
「小王」の時代は500年続き、創始歴3054年神聖金雷蜒王国の誕生により終焉を迎えた。