2018/12/23

まゆ子「くっちゃりぼろけっとー!
 さて、ゥアム帝国の地図が出来ました。」

じゅえる「字が小さくて地名が読めないぞ。」
釈「えーと、これは大都市の名前ですか、それは重要な地名ですね。」
まゆ子「と言ってもだ、これは仮の名前ですから、てきとーに変えてもらってもかまいませんよ。
 そもそもがヨーロッパ近辺の地名を付けるつもりだったけど、ヘタに合わせるとツッコミを食らうから諦めててきとーに付けてます。」

釈「ゥアム帝国においては、区分けは「州」でいいんですね。」
まゆ子「県よりは大きな区分だからね。
 ちなみに昔はこの州くらいの大きさで国が分かれていました。その名残です。」
じゅえる「つまりは、この州の区分で仲が悪いんだ。」
まゆ子「まあ、歴史的伝統的確執がありますね。」

  ゥアム全図

釈「では、とりあえず地名のリストアップをしておきましょう。

 *地中海沿岸区 北から時計回りに
   「ADLOMEアドローマ」崇王州 〜「ゥアム帝国」の首都州であるが、特権的地位にはない
      「EMPERIAエンペリア」皇帝府 〜行政首都ではないが議会はある

   「DRAKENドラッケン」龍洞州 〜海賊州として知られる
      「DRAKENLORAドラケンロア」州都
   「BAHLINバーリン」狛獅州 〜唯一地中海区と外縁区が一体化した州
      「DHITRYディトリィ」州都
   「HIDETHPOICハイデスポリス」東顎州 〜地中海区と外縁区と両方に位置付けされる
      「OHGINオーギン」州都

   「CLACKENクラッケン」鞍賢島 〜州ではないが地中海出口の島であり、数々の歴史的事件の舞台となった

   「HAPSHEFPSTハプシェプスト」泊帥州 〜軍事的に微妙なバランスで面倒な州
      「HAPSHEFPSTハプシェプスト」州都
   「FROWALUNCEフロゥワランス」豊寧州 〜最も豊かな州
      「PLICEプライス」州都 華の都と謳われる
   「GOGRANDRゴグランド」神喜州 〜ゥアム神族発祥の地として知られる
      「SULSBOAHNサルスボオァン」州都

  *外縁区
   「SIGLANDシグランド」北泰州 〜歴史的伝統的に「蛮族が住む辺境」の代名詞
      「CLSTOKクルストク」州都
   「HGUPTハグプト」無塵州 〜砂漠と高山のみの人口が極端に少ない州
      「OLオル」州都 〜小さいが他に街が無い
   「YLOAMEィロエイム」旭湾州 =「ドラッケン」州と隣接しており通行も容易く、普通に発展した
      「DEVANデヴァン」州都 〜歴史的に、外縁区としては破格の発展を遂げた都市
   (「BAHLIN」)
   (「HIDETHPOIC」)

   (「HAPSHEFPST」)
   「SUIGFANスゥイグファン」西牙州 〜歴史的に地中海に近く、割と発展している
      「COLAGOコラゴ」州都 〜他の州都と比べると小さいが、この州は中くらいの都市が多数有る
   「VIEWINXビュインクス」重邊州
      「GATALOWガタロー」州都 〜ゥアム帝国西岸の主要港で、国際交流都市となっている
   「OLANCオゥランク」香藻州 〜特筆すべきものが無いことで有名な州
      「MAHLIMVOマリンヴォ」州都

     (注;以後展開される会話を反映して、それぞれの州・都市の特色を後で設定しています)

 

 この「地中海」というのは、「FUAM」と書いてますがなんて読みますか。フアムですか。」
まゆ子「それが「ゥアム」だよ。ゥアム神族・ゥアム帝国ってのは、「地中海」て意味なんだ。
 見ての通りにこの方台地形の最大の特徴は馬蹄形で、中に大きな海が有る。
 で、中側の土地が豊かで生産性が高く、外回りは環境が酷くて発展しなかった。つまり文明は中で生まれて、全土の支配をおこなったわけね。」

じゅえる「なるほど。じゃあ「外縁海ROUNDLOL」側てのは、田舎ってことか。」
まゆ子「ね。だから外周に住んでいるのは蛮族のバーバリアンなのさ。」
釈「バーバリアンてのも入れておきましょう。「バロバロ人」とか」
じゅえる「実際「ボロ」という名の地名が北方にあるな。」
まゆ子「そこ、文字通りの辺境です。なるほど、そこに住んでた蛮族を「ボロボロ人」にしよう。」

まゆ子「で、至る所に砂漠、この地図だとベージュで塗られてる場所ですが、これ砂漠というか荒れ地です。
 ただ、地中海側の土地には本来荒れ地はありませんでした。森林を人間が伐採した結果、ぺんぺん草も生えないサボテンだけの土地になりました。」
じゅえる「ああ、ここは弥生ちゃん間に合わなかったんだな。」

 

まゆ子「ちなみに、ゥアム帝国には共通語とか統一語というものがありません。」
じゅえる「無い?」
まゆ子「むしろタンガラムがおかしいのです。あんなに簡単に全国行き来できる単純な地形がね。
 で、ゥアム帝国ではおおむね8つの異なる言語があります。」
釈「めんどうですねえ。」
まゆ子「まあ最強語というのがありますから、そしてそれをゥアム神族が使っていますから、社会上層部は必ずそれを習い熟達します。特には困りません。
 でも地域国家のアイデンティティを守るために、あえて言語統一を拒否する態度が見られて、そのまま統一に至っていません。」
じゅえる「めんどうだなー。」

まゆ子「最強語圏が、オゥランク・ゴグランド・アドローマで、ゥアム語圏と呼ばれている。
 フロゥワランス・ビュインクスがフロゥワ語圏
 ドラッケン・ィロエイムがドラッケン語圏
 シグランド・ハグプトがボロボロ語圏
 バーリン、ハイデスポリス、ハプシェプスト、スゥイグファンがそれぞれ独立語圏。
 その他、弱小言語多数。」
じゅえる「なんとかしろよ!」

 

      ***

釈「「皇帝府」というところがありますが、ここが首都ですか。」
まゆ子「そこはまだ考えてる最中。「エンペラトル」だね。まあ普通に考えると首都帝都なんだが、なにせ皇帝が実在しないからなー。」
じゅえる「じゃあここには何が有るんだ?」
まゆ子「キャビネット枢密院がありますね。皇帝の下僕であり、神族からも独立して動く闇の官僚達。」
釈「「え? ゥアム神族がすべての権力の頂点に居るんじゃないんですか?」
まゆ子「そこは、神族の家族である「銀骨のカバネ」がやっている。実際国家機構のほぼすべては彼等が独占するが、キャビネットで行われる秘密計画には神族ですら関われない。」

じゅえる「なんでだ?」
まゆ子「神族よりも旧い時代からの慣習で、皇帝直属と自称する存在が居るんだよ。
聖蟲が居た時代はキャビネットは神族に従っていたんだけど、今のゥアム神族は聖戴者じゃないからね。従わない。」
釈「わー、その秩序がまだ存在したんですね。」
まゆ子「したんですよ。で。ゥアム神族の方でもだったら仕方ないなと。

 現在の神族は「存在しないはずの皇帝が見える」事が資格になるから、聖蟲関係ないのな。
 でもキャビネットは聖戴者にのみ従う。現在聖戴者と呼べる存在は実在せず、「皇帝」のみが額に聖なる何者かを乗せている。はずなのだ。
 で、キャビネットの人間は神族ではないから「皇帝」が見えない。「皇帝」が見えるのは神族のみ。
 だから、キャビネット寄りの神族によって彼等は「皇帝陛下の意向」というやつを伝えられて、そのとおりに秘密の謀略を実行している。」

釈「つまりはキャビネットも神族に従っているわけですよ。」
じゅえる「なんだびっくりした。

 でも「キャビネット」て「内閣」じゃね? 「枢密院」は「カウンシル」だろ。」
まゆ子「ゥアムに内閣無いよ。」
釈「無いんですか。」
まゆ子「ゥアム帝国には大臣制が無いからね。大臣というのなら、神族全員が内閣総理大臣だ。
 だから行政府の長は官僚だ。
  そもそも「キャビネット」の意味は「(書類等を納めた)小部屋」であるからね。「枢密院」なる怪しげで卑しい者共が侍る部署を「キャビネット」と呼んで何が悪い。」
じゅえる「そいう理屈があるのならそう呼ぼう。」
釈「そもそもが「枢密」という語が「機密、または政治上の重要な秘密」という意味ですからね。
 枢密院の構成員が高貴な身分である、というのは地球上の慣習に過ぎないわけですよ。」

まゆ子「「枢密院」の構成員がそもそも、高級官僚と違って激烈な競争を勝ち上がってきた成功者ではないのです。
 その役目をする為に生まれながらに仕込まれてきた、謀略や暗殺専門技術者。世襲の専門奴隷なのです。
 そりゃあ、下賤の者扱いされても仕方ないな。」

釈「じゃあ、ゥアム帝国には国会議員て無いんですかね。というか国会自体が、」
まゆ子「無いね。でも議会は有る。
 官僚が他の官庁の官僚と議論して政策を審議する、「国政会議」と呼ばれるものがあります。
 が、彼等が如何に白熱した議論で殺し合いにまで発展して白黒付けたとしても、神族の鶴の一声で全部覆ります。
 それだけ神族の発言は重く、また的確で、すべてを見通した正しさを持ちます。

 しかし、神族が直接に政策を指示するのはほとんど無い。「国政会議」が無駄という事は無いのです。」
じゅえる「いいのか、そういう制度で。」
まゆ子「むしろ、超競争社会を勝ち残ってきた高級官僚であればあるほど、能力の高い人間同士の議論以外には意味がないと思っています。
 だからタンガラムの国会なんか、彼等の目から見ると絶望的なまでにレベルが低い。低すぎて何やってるか理解すら出来ない。
 そして、自分たちよりは遥かに偉く賢い神族の言葉に、彼等が全力を振り絞って戦ってきた議論の内容があっけなく敗北する姿をまじまじと見せつけられているのです。」
釈「無力感に打ちひしがれますね。」
まゆ子「だから、ゥアム帝国では革命なんか起こそうとは決して思わないのさ。」

じゅえる「しかし、そんな超絶的に効率的な政治体制でありながら、社会が究極的な発展をしないのか。理不尽じゃないか。」

まゆ子「不思議だよね。賢人政治ってまったくどうでもいい、てのが現在のゥアム社会学の到達したひとつの現実であるのさ。
 むしろ高度に精密に運営されている芸術的なほどに完成度の高い社会体制こそが、カタストロフィに脆弱で頓挫しやすいと結論づけている。
 でも、だからと言っていいかげんな社会制度を導入しようなんて、誰も考えない。
 いや、そんな恐ろしいこと誰だって尻込みする。神族であってもだ。」

釈「ほんとうにそんな事があり得るんですか?」
まゆ子「というか、ゥアム人は気付いてしまったのさ。
 超激烈な競争社会こそが、実は愚行であり社会の活力を減衰させ、不条理不合理を引き起こす元凶であり、
 故にゥアム社会は理想社会とはかけ離れた存在として堅固に維持され続けている。と。」
じゅえる「十分にいい加減な社会である、てことか。」
まゆ子「ゥアム神族はその事を熟知しており、故に競争をやめさせようとはしない。て事さ。」

まゆ子「あー、あとね。ゥアム帝国においては、高級官僚ってのは大学卒業時の席次で配属部署が決まる、て事がありません。
 がらがらぽんです。」
釈「抽選ですか。」
まゆ子「いや、だって頭いい人が最高に重要な部署に就けばいいのなら、神族が直接やりますよ。
 神族の目から見れば、どれほどの天才児であってもどんぐりの背比べに過ぎない。
 そんな連中が最初の席次なんかで以後も偉そうに権力ピラミッドを作ろうなんて、許せるわけがないでしょ。
 がらがらぽんで、嫌なら辞めて民間に行け。というのが採用思想です。」

じゅえる「人生一回きりの選択か。」
まゆ子「あーいや、官吏任用試験は3年に一回くらいはやってますからチャンスは何度でもあるにはある。
 でも自分より年下の奴にも成績上位者はいくらでも居るわけで、」
釈「3年に一回にうじゃっと群がるわけですね。そりゃー一度拒否したら二度と無理かもしれない。」

 

      ***

じゅえる「ゥアムのエリートさんて、ちっとも幸せじゃないんだな。」
まゆ子「ゥアムエリート最大の不幸は、「頭のいい奴が多すぎる」問題です。
 まあ考えてみれば分かりますが、経営とか管理責任者とか企画立案とか、そいう頭のいいヤツの仕事は出来る奴が居れば一人で間に合うようなものです。」
釈「あー、船頭多くして船山に登る問題ですね。」

まゆ子「てなわけで、エリート達は数少ないポストを巡って足の引っ張り合いをしているわけですね。
 そして人間同士が謀略で潰し合うというのは最高に刺激的な知的ゲームであると同時に、こんな無駄で潰しの利かないものも無いわけです。」
じゅえる「ダメじゃん。下の実務部門に才能やら人材やらを投入しないと。」
まゆ子「まあ、そうなんですけどね。そうなんですが、そこは競争に乗れなかった負け犬人材というのを突っ込んでいますから。
 下層の負け犬同士でも激烈な競争は存在するわけですよ。こちらは賃金というさらに厳密な要素が絡んできますから、どちらさんも必死です。」

釈「じゃあ、人材の配分は問題ないということですか。」
まゆ子「今の所ちゃんと回っているからね。」
じゅえる「つまりは壮大な無駄こそがゥアム帝国ということか。」

まゆ子「というわけで、ゥアムエリート達が現在もくろんでいるのが、「世界征服!」

 彼等は自らが支配するべき下層民、被支配層を切実に必要としている。
 彼等がエリートであり続ける為には、支配されるべき人間が倍も十倍も必要なのです。
 人間が増えればポストも増えて、自分達が役職に就ける。」

じゅえる「うーむ、そんな情けない世界征服の動機は見たこと無いなあ。」

 

釈「社会的に反発しようという勢力は無いのですか? そこまで窮屈な世界だと反発するでしょう。」
まゆ子「そこが、統一言語が出来ない理由なんだな。

 現在の超競争社会は近年百年くらいの状況で、その前はもうちょっと緩かったんだ。
 なにせ学校教育制度が法的に完備されていなかった。だから地元でそれぞれ伝統的な教育制度が生きていたんだな。」
じゅえる「なるほど、だから言語教育もしていなかったんだ。それはわざとか。」
まゆ子「ゥアム神族はわざとやってました。こう考えた方がいいかな。

 つまり地域ごとに分断して自由競争社会を作っていたんだ。
 神族が上層部を抑えているとはいえ、あくまで社会の主人公は一般庶民であり、彼等の信望を得なければ支配層は成り立たない。
 「銀骨のカバネ」も地元から離れては生きていけない。
 そういう縛りを敢えて構築することで、狭い領域内での繁栄と幸福を追求する社会だったんだ。」

釈「ローカル主義ということですね。」
まゆ子「この千年、つまり救世主「ヤスチャハーリー」によって生まれた世界がコレなんだ。
 というか弥生ちゃんの思想は一貫して地域分権と地域国家による競争主義だな。」
じゅえる「シンドラにおいても「太守」制度で分割支配させてるしな。」

 

釈「それが、近代に突入する事によって、急速な統合を遂げたわけですね。」
まゆ子「そのきっかけとなったのが、タンガラムの発見遭遇だ。

 既に民衆協和制国家で統一されていたタンガラムは、元から言語が一種類しかない均一な国家だ。
 で、これを見たゥアム人はびっくりしたんだ。そんな単純な世界があり得るのかと。
 で、よくよく観察すると、民衆協和政治というのはむちゃくちゃなんだな。素人同然の政治家がわやわややってるだけで。
 だから「砂糖戦争」で攻め取ろうとしたら、国民が蜂起して叩き返されてしまった。国家の力というよりも国民の力に敗北したんだ。」

じゅえる「ゥアム帝国は敗北したんだ?」
釈「侵略戦争は侵略失敗したら敗北ですよ。」
じゅえる「そか。」

まゆ子「で、ゥアム社会においても「統一国家」という命題が提唱されて、それまでの分割支配ではコレ以上の発展は望めないのではと思ったんだ。
 というか、自由競争を行うのであれば、これからは海を越えた異国との競争をしなければならないと理解した。」
釈「状況が激変したんですね。
 シンドラ連合王国の発見もその頃ですか。」
まゆ子「うん。タンガラムに行ったら、西の果てにシンドラが有ると聞いたから行ってみたらほんとに有った。そういう発見だ。」
じゅえる「そうか。ぽんぽんと世界地図が発生したわけだ。そりゃあ人の意識も変わるわな。」
まゆ子「タンガラムがそうだったように、ゥアムにおいても激変だったんですよ。」

釈「戦争とかありましたか。」
まゆ子「あったあった。もちろん分割国家時代から戦争は引っ切り無しに行ってきたのだが、統一国家志向になるとさらに激化して」
じゅえる「だめじゃん。どうしたんだよ。」
まゆ子「いや、そこは神族が出張ってきて対立抗争を繰り広げる連中をさっくり始末して、統一させました。
 というか、独占資本による巨大産業化を推し進めて経済的に統合をまずやってしまって、国家という枠を飛び越えて経済が結びついたところで、各地域国家の政府を解体です。」

じゅえる「いや、そんな簡単に解体できるのか?」
まゆ子「実は、政府は解体しても軍隊は解体していない。各国別軍隊の司令官が各地域で一番偉い事にした。」
釈「え!? だいじょうぶなんですかそれ。」
まゆ子「むしろ地域の偉い人は喜んで軍隊の司令官職になった。なにせ武力こそが支配力だからね。
 政治をしなくてもいいから軍隊だけやってろと言われて、そりゃ楽だと。ちなみに軍隊独自の経済活動も可能なのだ。」

じゅえる「軍閥じゃんか。」
まゆ子「軍閥だよ。」
釈「だいじょうぶなんですかそれ。」
まゆ子「むしろ、政治家が素人のまま軍隊の総司令官になったから、軍隊自体は弱体化しているのだ。
 で、統一軍というのは作らない代わりに、海外派遣軍を組織してそちらで統一は進めている。」

じゅえる「出た! ここでも海外派遣軍だ。」
釈「あーでも、「砂糖戦争」でタンガラムに攻めてきたのは、」
まゆ子「あれは、ゥアム各国の合同軍だ。寄せ集め軍隊だったんだが新型兵器で結構強かったのだ。
 地中海諸国が軍艦を出して、陸戦隊は外縁区の発展途上地域から戦闘に強い氏族が努めた。」
じゅえる「なるほどなるほど、海外派遣軍であれば最初から各国合同の枠組みがあるわけだ。」

釈「まってください。じゃあ軍隊は超競争社会じゃない?」
まゆ子「士官学校というのはありますが、地元有力者や「銀骨」の子弟が若年から放り込まれて、根っからの軍人生活をおくる人が主体で構成されています。
 そもそもこの枠組だと全土共通の軍隊教育がありませんから、競争と言っても小規模なものです。
 まあ、だから官僚を目指す人達からはバカにされていますね。バカが行くのが軍隊だと。

 でも逆に、外縁区においては地元有力者のみで構成される軍隊というのは、強いあこがれと支配力を認められます。やはり戦いに強いのが立派な男だと。」

じゅえる「わかった。つまりゥアム社会においては軍隊は唯一息抜きができる逃げ場なんだ。」
釈「なるほど、ギスギスしているようでもちゃんと抜け穴は有るんですね。しかも武力という決定的な力を掌握する。」
まゆ子「ゥアム社会が革命なんか起こらないわけ分かるだろ。軍隊は常に民衆の味方なんだ。

 というわけでしてね、ゥアム人でも軍隊さんは面白い人が多いんですよ。
 侠気が溢れる人ばっかりだし、田舎の蛮族出身者が幅利かせてるし、武術腕っぷしが強いやつは無条件に人気有るし。
 ヱメコフ・マキアリイとか大人気ですよ。」

じゅえる「おおー。」
釈「おおー、そこはドラマ的にグッドですよ。ゥアムを舞台に小説描く時は軍隊ですよぐんたい。」

じゅえる「だが国家戦略とかは偉い高級官僚様がやってるんだろ。そこと軍隊はソリがめちゃ悪いんじゃないか。」
まゆ子「めっちゃ悪いですね。なにせどちらも折れようとはしない。

 ま、そういう時は神族が出張ってきますが、神族のお使者の方というのが彼等の仲介役をするわけですよ。
 「待壇者」と呼ばれる神族予備軍は、競争社会を既に卒業した上がりの方々ですから、いい感じにやってくれます。
 でも神族よりも「待壇者」の方が少ないんですけどね。」

 

      ***

釈「つまり、 ゥアム社会というのは氏族を単位とする連合体みたいなものですか。」
じゅえる「まあ古代社会はそうだね。大体。」
釈「さすがに近代社会でそれは、いかにも古臭くありませんか。」

まゆ子「そうだねえ、神族制度と氏族社会との関係は難しいねえ。
 だからさ、その前段階として「聖戴者」時代があったんだよ。ちゃんと頭に変な蟲乗っけてたんだ。」
じゅえる「聖戴者ってのはわかりやすくいいよな。」
釈「一目瞭然で偉いですからね。」

まゆ子「つまり聖戴者神族は、どの氏族も平等に発生するというものではなかったんだ。
 そうだね、ゥアム独自の聖戴の方法と継承があったんだな。」

じゅえる「わかった、石仮面をかぶって生贄の血を浴びるんだ。」
釈「おおおおー。」
まゆ子「余計なこと言うんじゃないよ。その気になるじゃないか。」

釈「でも、生贄の儀式はどこか密接に絡み合っていないと、この状況じゃあ許されませんよ。」
じゅえる「石仮面だ、石仮面でいこう。」
まゆ子「まてまて、まて。考える今考える。」

釈「でも軍隊がそんなに人気有るのなら、逆に警察は人気無いんでしょうね。」
じゅえる「冷酷な官僚が支配する権力の犬、て感じだな。民衆には蛇蝎のように嫌われているんだ。」
釈「バランスですよばらんす。悪の警官の横暴に対して、正義の軍人さんが諸肌脱いでべらんめえで、庶民はすかっとするんですよ。」
じゅえる「いいねえ。入れ墨だねえ。」

まゆ子「入れ墨かあ。そこは考慮すべきだな氏族社会として。」
釈「入れ墨を入れるのは通過儀礼として大人になるための試練と言えます。でも、その程度で神族にはなれないでしょう。」
じゅえる「ま、流血が無いとね。」

 

まゆ子「致し方ないなあ。では神族になろうとする者はチームを作って、他のチームと命を賭けたサッカーをするんだよ。」
じゅえる「で、負けた方は生贄に。」
釈「トーナメントをやって、最終的に生き残ったチームのリーダーが神族としての儀式を行えるのです。」

まゆ子「うむ。妥当な線だなあ。
 でもその試練も生半可なものではない。たとえばー、怪物だな。
 怪物が潜む森にチームで入って、怪物の首を取ってくる。」

じゅえる「それは、途中でリーダーが殺られたらどうなるんだ?」
釈「最終的には、首を取ってきた者の中から神族が選ばれる。それでいいんじゃないですかね。」
まゆ子「取ってきた者の中で希望者は全員神族になれる。でいいだろ。
 もちろん、チーム全員が生き残るのは稀。全滅だって普通にある。」
じゅえる「なるほど。」
釈「それは命を賭けるに値する試練です。」

まゆ子「ふむふむ。両手に革のグラブを着けてボールが持てないようにして、サッカーだ。
 ハンドは無し、全身を使ってボールをコントロールする。パンチングだね。
 ボールをトラップする事は許されず、ボールは常に動いていなければならない。
 ゴールキーパーは無く全員同等。で、グラブで相手チームのメンバーを殴るのは可。蹴るのも頭突きも有りだが、捕まえるのは禁止。
 こういうゲームをするんだよ。
 チームメンバーは8人くらいかな。」

じゅえる「流血必至だね。」
釈「実際試合で死ぬ者も出て、名誉とされているのですよ。」

まゆ子「ただ、リタイアが出てもチームにメンバー補充は出来ない。そうだな、補欠としてもうひとりくらいは有りにするか。」
じゅえる「チームリーダーというのが居て、そいつは試合に出なくてもいい。どうせ8人しか試合には出られない。
 彼はトーナメント上位に勝ち上がった時に出て来るわけだな。
 トーナメント中はメンバー補充は出来ないのだ。
 激しい試合で間違いなく欠員が出るから、その為の控え。温存と言ったほうがいいか。」

釈「でも試合に負けてしまったら、リーダーはまっさきに首を刎ねられるんですよ。」
まゆ子「そりゃー、試合で戦って死ぬ方がよほどマシだな。」
じゅえる「見ているだけで殺されるとかやだな。」

まゆ子「もうちょっとハードルを上げるか。
 チームは9名、試合に出れるのは8名。
 試合最中でのメンバー交代は認められないが、メンバーが試合中に死ぬと控えの選手が出場できるようになる。
 そこで、チームメンバーの一人が負傷して戦えなくなったら、メンバーによって敢えて殺されて、リーダーの投入ができるようにするのだ。」
じゅえる「うーむ、まさに名誉の戦死だな。でも3回しか戦わないから、アリか。」

釈「8つの氏族から8組のチームが出て、計72人。
 最後に残るのは1組であるから、確実に63名は死ぬ。
 最終試練としての怪物退治で全滅するかもしれないから、72名の優れた若者達が生贄となってしまう。」

まゆ子「毎年やるのは無理だな。4年に1ぺんくらいだな。」
じゅえる「しかし、聖戴して神族になる人数が少なすぎないか?」
釈「いやこの場合、少ない方がカリスマ性が有っていいんじゃないですかね。」

釈「でも、8チームより多くエントリーしたらどうするんですか。」
じゅえる「そりゃトーナメントだから、……シード枠てのが出るなあやっぱり。」
まゆ子「やはり地中海区の国からは1チームずつ確定していて、残り2枠が予選で決まるって事にするんだろ。
 そうだなー、外縁区の蛮族チームは素で強いから、2枠になる前に対戦しててさらに経験を積んで強くなって本戦参加だな。」

釈「神喜州が神族発祥の地ですから、ここは1チーム確定ですよね。」
じゅえる「4年に1回、神喜州でオリンピックみたいに行われるんだよ。」
まゆ子「ふむふむ。」
釈「神喜州・崇王州・豊寧州・龍洞州・泊帥州・狛獅州 で6チーム確定。
 それ以外の参加チームが2枠を争って予選トーナメント。」

まゆ子「予選では負けても生贄にならない事にしよう。」
じゅえる「ふむふむ。では予選落ちチームは生きて戻れるんだ。」
釈「あんまりかっこよくはありませんがね。」

 

まゆ子「ふむ。じゃあこのゲームによって聖戴者を決める方法は古代のやり方で、”皇帝”が出現した後はもっと簡単に成れてたくさん聖戴者が生まれる制度に変わった事にしよう。」
じゅえる「弥生ちゃんがゥアムに来るのはその頃だな。」

釈「つまりこの頃は”皇帝”に遭ったら聖蟲をもらえるという、今の制度に近い形式になっていたんですよ。
 どうしますかね、こちらもやはり試練が無いと許されませんよね。」
じゅえる「生贄人数が劇的に少なくなる方法が必要だな。」

まゆ子「その怪物が、この頃には別の怪物に変わった事にしよう。
 皇帝が飼っている新しい怪物を、誰でもいいからぶっ殺せば神族になれる。ただし、挑戦者は一人ずつ戦う。」

じゅえる「8人がかりで戦っていた怪物と、一人で戦えってか。」
釈「うーむ、72名が死ぬよりはマシかもしれませんが、勝率やばいですよ。」
まゆ子「その代り、毎年というかいつでも儀式はやっている。
 その門をくぐれば、誰でもが勇者になれる。そして見事出てくれば聖蟲を額に宿して神族になって帰ってくる。」

じゅえる「その門の外に、試練に失敗した者達のしゃれこうべをずらっと並べておこう。」
釈「ええ。やはりそのくらいのハッタリは必要ですね。

 しかし、それでは武勇だけで神族が決まる事になりますが、いいんですか。」
じゅえる「まあ、試練の中には頭使わないと死ぬものもあるとしよう。」

まゆ子「書類審査と、賢人や神族による面接を受けた後に、門をくぐる事を許されるとしますかね。」
じゅえる「書類審査ぁ〜?」
まゆ子「というか、各氏族が認める立派な人間でないと、皇帝への謁見は許されないってことさ。
 ただの一般人・下民は許されないってことだね。
 あるいは、特例を許すなんらかの試練を、各氏族が用意しているとしてもいいさ。」

釈「面接は、人物判定をしなければならないてことですね。
 ここで知性を確認するというのもいいですね。」

まゆ子「皇帝が飼っている”王猫”というのと人智を越えた戦いをして、帰還すると聖戴者になれる。てなかんじで。
 ただし、”王猫”は幻術を使うので本当に倒したか嘘夢を見ているか、聖蟲をもらうまで分からない。
 いや、もらったはずの聖蟲が幻だったという可能性すらあって、その時は門を出た段階で外の人に叩き殺される。」

釈「それはー知的な攻防ですねえ。」
じゅえる「真実を見極めずには出てこれないわけだ。なるほど知的な試練でもある。

 でもさ、これ神族がたくさん出来るシステムじゃないよね?」
釈「はあ。成功率ちっとも高くなりませんねえ。」
まゆ子「あー、まてちょっと考える。えーと、
 おお、そうだ!

 つまり、この頃には神族の世襲が行われるようになるんだよ。
 何故そうなるかと言うと、親の神族が子に対して”王猫”の攻略法を教えるんだ。
 と言っても、そんな生易しい試練ではない。確定した攻略法なんてすぐに突破されるに決まってる。
 だから、神族である父であればどのように対処するかを、子は頭の中に叩き込んで挑むんだ。

 で、これが究極にまで発展して、神族である父の人格をそっくり自分の中に構築できるようにしたのが「顕臨の魂法」と呼ばれるようになる。
 ここまで完成すれば、”王猫”攻略はいとも容易い。」

釈「おお、ここでユミネイトに繋がりますか。」
じゅえる「そいう連続性は大事だよ。」

 

      ***

【ゥアムの兵制】

 ゥアム帝国の軍隊は、或る意味前近代を色濃く引きずっており、氏族社会がそのままに温存されているとさえ言える。
 タンガラム民衆協和国においては、軍隊は官僚制度に即した緻密な構成が定まっているが、
 ゥアムでは地方国家で独自の兵制が敷かれており、各国連合軍を構成した際には齟齬を生じる事もある。
 以下は、タンガラム創始歴6200年における、「ゥアム総軍」の暫定階級表である。

歩卒(補助兵) <兵卒<兵士<戦士(伍長に相当) <<十人長(兵曹相当) <騎士(三十人長 兵曹長相当) 

<<騎士長(百人長 士官) <旗団長(中隊長) <部隊長(千人長) <兵団長 <<軍団長(将官) <将軍 

<大将<将議長 <<将帥(神族) <元帥(神族)

 

 ゥアム帝国には馬は居ないが二足歩行生物に騎乗する習慣があり、「騎兵」「騎士」はちゃんと存在する。

 歴史的に見ると、「戦士」は各「氏族」に属する「家」において戦士としての教育を生まれながらに施されてきた者が軍に所属する時に与えられる位で、
 「歩卒」「兵卒」「兵士」はそれ以外の者および氏族外から軍に入った者を対象とする。
 つまりは「兵士」と「戦士」は同格であり、「兵士」が昇格すると「十人長」になるのが正しい。
 だが現在においては「戦士」の特例は無く、単なる階級となっている。

 三十人長である「騎士」は、だいたい小隊長とみなしてよいのだが、騎士長からが士官扱いされている。
 歴史的に言うと「騎士長」は「氏族」長に相当し、軍団の最小単位「氏族」から派遣される軍勢の指揮官であり、当然に高級従卒とも呼べる騎兵を従えていた。いわゆる「一族」「郎党」だ。
 弱小氏族では動員数が百人に満たない所もあるが、それでも氏族長としての格式を必要とする。人数の問題ではない。

 現在でもゥアムの軍隊は、各地の地域国家別に構成されているので、「軍団長」が地域国家軍の総指揮官だ。
 地方国家別軍隊であるから、軍団長の下に「陸軍」「海軍」「空戦隊」が存在する事となる。これの指揮官が「兵団長」だ。

 

 「将軍」位は地方国家における最高職を意味する。
 地方国家行政の首長が制度として廃止された代償に、各国軍組織は独自に温存され、軍団の総司令官「将軍」をもって地方国家の長と定めている。
 故に「将軍」の実態は政治家であり、戦場で指揮を取ることはまず無く、軍団長が戦争を遂行する。

 「ゥアム総軍」は各地方国家軍の連合軍となるわけで、「将軍」は「総軍議会」の議員となる。
 役職持ちの「将軍」が「大将」、「総軍議会」の議長「将議長」が最高権限を持つ。
 ゥアムの海外派遣軍司令官は「大将」になるが、各地方国家とは独立した存在であり、「将軍」が役職を帯びたものではない。

 「将帥」・「元帥」は神族のみに許される位で、ゥアム総軍を監督する役目を負うが通常は口出しをしない。
 総軍議会が迷走を始めた時に初めて直接介入を開始する。そして迷走はしばしば発生する。
 「将帥」がどのように任命されるかは簡単で、神族が「自分がやる」と言えば決まる。人数にも制限はない。
 「元帥」は「将帥」が複数存在する場合に彼等の互選で成立する。

 

 なぜ近代合理主義のゥアム帝国において軍隊だけは旧体制を温存するのか。
 高度に訓練された優秀な士官将官によって支配させれば効率的に強力に運営できるのに、と普通は考える。
 間違いなくそうであるし、実際に軍事関係のエキスパートが随所に配置されて合理的な運営を行っているのだが、
 彼等は所詮は官僚に過ぎない。
 兵士を死地に送り込み、命を賭して命令を遂行させる精神的指導力を持ち合わせていない。

 当然の事ながらタンガラムのような民衆協和主義でないゥアム帝国において、「国民軍」は成立し得ない。
 「皇帝」や「神族」は民衆を直接統治するものではなく、その任に当たる上流層やエリート層の為に死のうと考える兵士はどこにも存在しない。
 カネですら、真剣に彼等を戦わせる事は出来ない。
 ただ旧来よりの氏族的忠誠心のみが兵士を従わせ戦いに赴かせるのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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