【銃砲弾】
・タンガラムにおいては拳銃弾は、長らく口径3分2指幅(10ミリ)の「執行実包」と呼ばれる弾が標準とされてきた。
軍隊や警察機構が使用する「執行拳銃」用の強力な銃弾である。
金属薬莢弾の民間での使用は厳しく制限されてきた為に、これ以外の規格の弾はほぼ製造を許されてこなかった。
口径こそ大きいが既に規格が発表されて百年経つ、黒色火薬時代の銃弾だ。
さすがに発射薬は無煙に改良サれているが、弾頭はそのままで高価で貴重な鉛を極力使わず軟鉄(錬鉄)を弾芯に用いている。
威力は近距離では殺傷するに十分なものであるが、遠距離(100メートル)での命中精度は低い。
(注;この惑星は地球よりも重力が若干低く空気も薄いので、投射物は4割増しくらい飛ぶ)
軍用に長銃身の拳銃も導入されているが、遠距離狙撃はさして信頼されていない。
またあくまでも回転拳銃もしくは単発拳銃用のもので、規格制定当時には存在しなかった自動拳銃での使用は考慮されていない。
・ゥアム帝国から輸入された自動拳銃の国産化を試みるが、銃弾を「執行実包」とすると必ず失敗する。
また短機関銃を試作してみても、銃弾の古さに由来する不具合が多発して実用に耐えなかった。
この為、特に短機関銃用に「執行実包」の近代化が行われる。
発射薬を最新のものとし雷管の方式も変更し、弾頭にも鉛を増やしてさらに弾芯を軟鋼として貫通力を増大させる。
そもそもが古い手工業時代の精度で製造されていたのを、自動機械による厳密な精度での大量生産を標準とした。
だが、それでいて従来の拳銃での使用も可能とする要求であるから、さほどの改善とはならなかった。
短機関銃での使用も或る程度はマシになったものの故障は頻発し、無用に威力を増大させたから命中精度がさらに悪化する。
自動拳銃も試作してみたが、手の中で跳ね回りとても扱えるものではない。
この銃弾は「強攻弾」と呼ばれる。
従来の拳銃でも発射可能とされているが、威力が強すぎる為に旧銃の強度が足りず事故が頻発した。
実用性は度外視で、この弾を撃つための専用拳銃がわざわざ開発されたという。
・「強攻弾」開発が事実上の失敗に終わったのを鑑み、タンガラム軍はまったく新しい、銃弾から新規に設計する「短機関銃開発計画」を立ち上げた。
新しい銃弾は口径半指幅(7.5ミリ)、歩兵銃用の弾丸と同口径である。
主目的が短機関銃での使用であり、しかも高精度で強力、長距離射撃での命中精度まで考慮した野心的計画だ。
タンガラム軍においては、歩兵銃への自動小銃の採用が見送られた為に、短機関銃をその代わりとして用いる事を考えた。
さらには、自動拳銃にもこの弾を用いて連射性能を上げ、輸送隊や工兵隊などの補助部隊の火力を増強しようと考える。
「機関拳銃計画」である。
この計画は順調に進展し、現在は評価試験中である。
・「執行実包」から50年ほど後に、小型拳銃弾の規格が発表された。
護身用拳銃で使用するもので、口径1爪杖(7ミリ)、弾芯には鉛を用いるのであまり安くはない。
小型で隠密性を目的とされ、威力は必要最低限しか要求されない。
要人警護や捜査員が携帯する事を想定したもので、自動拳銃での使用も可能だ。
だが政府機関においては、自動式の「護身拳銃」を用いている部署は無いとされる。
富裕層が護身の為に携帯する事も許可されるが、銃弾の購入が届け出制など規制は厳しい。
なお一般民間人が所持出来る銃は紙薬莢を用いるものに限られ連発式も禁止されるが、複数銃身式は大目に見られる事が多い
**********
・タンガラムの歩兵銃は半指幅(7.5ミリ)弾を長く標準として用いてきた。
長射程と貫通威力を重視した強力な銃弾であるが、あまりにも強力であるために連射は考えられていない。
元々は一指幅鉄矢銃をライフル銃(旋転銃)で置き換えるべく定められたもので、まずは貫通力を重視する。
鉄矢銃は単発で紙薬莢を用い鉄矢弾を別に装填するので連射性は低い。
迅速な装填が出来る金属薬莢を用いる歩兵銃が連射性が問われる事は長く無かった。
しかしながら、海外に艦隊を派遣して権益を争奪する戦争が常態化すると、陸戦隊が扱うのに従来の歩兵銃では長大過ぎると看做されるようになった。
全長を切り詰めたカービン銃「海軍小銃」が用いられたが、通常弾だと威力が強すぎて照準がぶれて当たらない。
口径と弾頭は同じだが発射薬を減らした減装弾が用いられ、戦場でも特に問題なく使用する事ができた。
この経験を元に、新型歩兵銃および銃弾が開発される。
・「機動歩兵銃」と呼ばれ、1爪杖(7ミリ)の新型弾を用いる。
弾薬を小型軽量化して装弾数を増やし、歩兵個人の携行弾数を多くした。
海外派遣軍での戦闘経験から、割と近距離で障害物が多い環境での使用が多いと判断。
多数の銃弾を迅速に発射できる方が有利と考える。
この為「機動歩兵銃」はボルトアクションライフルでありながら、ポンプアクションと同等の操作で次弾発射が出来る機構を備えている。
腰だめに構えたまま次々に連射できるので、屋内戦闘や森林部などで有利な戦闘が可能となる。
将来の自動小銃導入も見据えているが、現状のタンガラム工業力では国産自動小銃の信頼性が疑問で、今回は見送られた。
なお「機動歩兵」とはタンガラムニおいては、自動車や輸送車、列車や動力舟艇などの乗り物を用いて移動展開する歩兵をいう。
乗り降りする際に長過ぎる小銃では邪魔になると、機動歩兵銃は全長が短くなっている。これも海外派遣軍の戦訓だ。
見通しの良い内陸平原部の狙撃歩兵団や、山岳兵団においては射程距離を生かせるので従来の長大な歩兵銃がそのまま使用されている。
・1指鉄矢弾(1指幅15ミリ)
旧時代の歩兵用小銃である「鉄矢銃」で用いられるものである。
百年前に勃発した「砂糖戦争」において、鉄矢銃はタンガラムの主力武器でありスタンダードであった。
口径を示す「指幅」も、鉄矢銃が標準となって定められている。
鉄矢銃は単発式滑腔銃で、後装式であるが弾頭である「鉄矢弾」と紙薬莢の「発射薬」を別々に装填する方式である。
その為連射性能は低いが極めて貫通力の高い銃弾で、土壁や家屋など簡単に射抜いてしまう。
「砂糖戦争」においてはゥアム軍が装甲上陸艇を用いたが、この装甲も鉄矢銃でしばしば撃ち抜かれ、撤退に追い込まれた。
現在のタンガラムにおいては、旧式の鉄矢銃を軍や治安維持機関が用いる事はない。
「砂糖戦争」の戦訓から、すべて金属薬莢を用いるライフル銃となっている。
しかしながら民間においては、戦時中に用いられた鉄矢銃が誇りと共に子々孫々受け継がれており、相当数が使用可能状態で現存する。
猟銃としても現役である。
法律で「金属薬莢を用いる銃器」「連発銃」の民間所持は原則禁止されているが、鉄矢銃は対象外である。
政府も、下手に鉄矢銃の規制などしたら民間から非常に大きな反発を受ける事が予想されており、これまで取締りは行っていない。
既に兵器メーカーはどこも関連部品や弾薬を製造していない。
しかし、そもそもが古い技術で作られているから鍛冶屋で修理や新造が可能である。
弾丸も現在は手作りも多く、様々に微妙に違う鉄矢弾が出回っている。
・3爪杖幅(21ミリ)鉄矢弾 徹甲弾・榴弾・焼夷弾
現在のタンガラム軍で用いられている狙撃鉄矢銃で用いる。単発式。
鉄の矢ではなく合金製であり、極めて大きな貫通力を持つ。戦車背面でも貫通するほどに強力。
ただ後述の1指幅重機関銃弾を用いる自動銃とどちらが便利か、という問題で装備していない歩兵小隊も多い。
3爪杖幅弾には焼夷弾が用意されているので、特殊な用途で使われる。
榴弾もあるのだが、炸薬量が少ないために特に意味のあるものではない。
タンガラム軍では20ミリ台の銃砲弾は他に使っていない。
15ミリ重機関銃で装甲を貫通するか、30ミリで榴弾を使うか。とにかく間に合っている。
もし将来戦闘機や爆撃機が装甲を強化して15ミリでは対処出来なくなった後は、20ミリの出番もあるだろう。
**********
・タンガラムでは機関銃は4種が用いられている。それぞれ軽機関銃・標準機関銃・強機関銃・重機関銃と呼ぶ。
軽機関銃は、「海軍小銃」と同じ半指幅(7.5ミリ)減装弾を用いる。
反動が弱く銃本体も軽量であり、歩兵分隊と共に前進して最前線で使用される。
標準機関銃は、歩兵銃と同じ半指幅小銃弾を用いる。強い反動を抑える為に銃本体が重く、一人では運搬出来ない。
小隊支援や拠点防衛、車載して使用される。
なお新型「機動歩兵銃」用の1爪幅(7ミリ)小銃弾を用いた軽機関銃の開発は予定されていない。
自動小銃が導入される際に連射機能を搭載して、歩兵すべてが機関銃を装備する事となる予定。「機関小銃計画」
・3分2指幅(10ミリ)通常弾、曳光弾
通称「太弾」
強機関銃は軽装甲車両や敵拠点を攻撃する為のもので、非常に強力であるが重量も重く移動も困難である。
装甲車や輸送車に搭載され、また武装列車でも使用される。海軍水軍の小型艇の標準武装。
戦闘機や偵察飛行機にも搭載される。
対空機関銃としても使用されるが、さほどの高度には達しない。
・1指幅(15ミリ)機関銃弾。通常弾、曳光弾
対装甲兵器用に開発された重機関銃で車載また対空として用いる。戦闘機にも搭載される。
威力は申し分無いが、発射速度が早く銃弾をあっという間に消費してしまう。
対空ではよいが、地上目標を狙う際は発射速度を低くするスイッチを持つ。
歩兵用対空兵器として、この銃弾を用いる「対空自動銃」が開発された。
連射が出来る大型銃として案外と便利に使われるが、2人掛かりでないと運用できない。
**********
これ以上大きなものは砲弾となる。おおむね人間が担いで運べる火器が「銃」であり、それ以上は「砲」扱いだ。
・2指(30ミリ)狙撃砲鉄矢弾、榴弾。
2指狙撃砲はタンガラムの戦車に搭載されているもので、優秀な装甲貫徹力を持ってはいるがさすがに口径が小さいと誰もが思っている。
思ってはいるが、これを防げるほどの重装甲車両は地面を動けないのだから、問題ない。主に発動機の出力の低さに起因する。
そもそもが既に成形炸薬弾が存在するのだから、過剰な装甲には期待しない。
狙撃砲は車両に搭載せず単体で運用されるものもある。4人掛かりで担いでいく。機関砲陣地等を狙撃して潰すのが目的。
戦車搭載のものには弾薬架が装着され、半自動装填による迅速な射撃が可能である。
・2指対空機関砲弾
戦闘艦に搭載されている対空機関砲用の砲弾。対空機関砲としてはスタンダードである。時限信管を用いて空中で炸裂する。
2指狙撃砲弾と口径こそ同じであるがまったくに異なり、流用可能ではない。
地上の要塞にも設置されているが、艦船と異なり直接の航空攻撃の危険には曝されていないから、さほど多くは配備されてない。
また同じ砲弾を使う単発の対空速射砲も用意されている。機関砲は極めて高価格でありしかも連装砲で、艦船以外は導入が難しい。
そこでお茶を濁すかに、廉価版簡易対空砲として採用された。陸軍施設にはたいてい装備されている。
対空射撃以外にも地上目標にもよく効く小型榴弾砲として重宝される。
小型の舟艇、さらには装甲列車にも搭載された。戦車にも搭載してみたが、長くて運用上不利となり採用にならなかった。
2指狙撃砲と違って据え置き型で大きな砲架が有り、戦場で持ち運びされる事はない。
・3指(45ミリ)小銃擲弾。これは厳密には砲弾ではない。
小銃擲弾は歩兵が小銃を用いて発射するもので、銃口に発射器を装着して使用する。榴弾のみならず煙幕弾、催涙・毒ガス弾もある。信号弾も使える。
小銃擲弾専用銃というものが有るらしいのだが、誰も見たことが無い。
・3指狙撃砲徹甲弾、榴弾。
戦車砲としての2指狙撃砲が非力であるのは誰の眼にも明らかであるから、敵がより装甲の厚い戦車や上陸艇を投入してくる可能性を考慮して開発された新戦車砲。
しかしながら現有戦車に搭載するには大き過ぎて、砲塔を廃して直接車体に装備する必要がある。十分に大きな戦車は未だに開発されていない。
そこで今は車輪を付けて対戦車砲としての運用を考えられている。鉄矢弾は使わない。
・4指(60ミリ)迫撃砲弾。
4指迫撃砲弾は最も小さな迫撃砲用で、少人数で運用が出来る。基本的には前装式であるが、車載用は砲尾から装填できるものもある。
普通は触発信管であるが時限信管を持つものもあり、これは対空用として発射薬増量をして使われる。
「簡易対空砲」と呼ばれる1メートル以上になる鉄管を地面に埋めて空を狙う。
さほどの高度には上がらないので、ロケット砲弾「空中阻塞弾」を用いる事に最近は変わってきた
逆に地上目標に迫撃砲弾を直射するという本末転倒な使用法がまかり通っている。
なおタンガラムの迫撃砲弾は、鉄矢弾の経験から矢羽が少し曲がっており空気抵抗で回転する。故に命中精度はかなりいい。
滑空砲であるので、迫撃砲弾はかっては「鉄矢爆裂弾」とも呼ばれた。
・1分杖(70ミリ)歩兵砲弾。
10分の1杖(70ミリ)歩兵砲のものとなる。通称「十分砲」
これは鉄矢銃時代の口径表示法で分数で表記する。10分の1なら「十分」、3分の1なら「3分」と呼んでいた名残である。今は10分の1が「1分」、100分の1が「1爪」で表記する。
鉄矢銃と十分砲は「砂糖戦争」当時の歩兵の主力兵器であり、軍隊用語が一般社会にも拡散して根強く染み付いてしまっている。
大砲と言えば「十分砲」なのだ。慣用句ですらある。
現在でもこの口径の歩兵砲は主力である。また戦車にも搭載される。だが当然に十分に近代化されている。
戦車砲としては、成形炸薬弾を使用する。砲身長が短いので鉄矢弾は使わない。徹甲榴弾はある。
・1分杖野戦砲弾。
口径こそ同じだが、遠距離攻撃を行うための野戦砲で使われる。砲弾も薬莢も長くて、十分砲での使用は不可能。
砲身長が長く、当然に大重量となり人力での展開は不可能。牽引車を使用する。中型トラックの上に載せて移動も出来る。
また線路上を走行可能とする台車が用意されている。
野戦砲としては小さいがそれ故に展開は早いので、「機動砲」とも呼ばれる。
海外派遣軍の陸戦隊で使用される最大の火砲である。
・5指(75ミリ)歩兵砲
十分砲がスタンダードになれば、より強力な砲を必要と考える向きもある。50年ほど前に新型歩兵砲として開発された。
口径が大きくなった分重量も増したので、十分砲ほどは取り回しが簡単ではない。
作ったは良いが陸軍としては運用に困り、ほとんど歩兵砲を使用しない巡邏軍に配備された。
配備当時の巡邏軍は同じ十分砲でも旧時代の黒色火薬を用いるものを使わされていたから、新型砲は大歓迎された。
既に調達は終了しており、近代化もされていないがまったく問題なく使用可能である。
暴徒鎮圧用に催涙ガス弾や煙幕弾も用意されている。
同じ砲身を用いる対空高角砲も存在するのだが、現在の航空機に対してはまったくに効果を持たない。
後に戦車に搭載する事も検討されたが、当時既に調達終了が決定していたので見送られた。
・12爪杖(84ミリ)歩兵砲。
こちらが現在使用されている新型歩兵砲である。完全に人力による移動を諦めて、砲力の強化を図る。
これもまた機械力を使っての移動に主点を置いて、「機動砲」の範疇に入る。
新型だけあって配備数がまだ少なく、また大きく重量も有るので海外派遣軍では未だに使用されていない。
完全に国内用と考えている。
12爪とは、1分2爪杖という事である。
・12爪野戦砲。
十分砲と同様にその大型版でも野戦砲が作られた。ただし、砲弾自体は同じものであるが薬莢が長く、長距離への攻撃用となっている。
一応は「機動砲」の範疇なのだがより大きく重いので展開に時間が掛かる。
配備数もまだ少ないので、現在は重要拠点に配備されて固定的に運用される。
・12爪迫撃砲。
大型の迫撃砲。しかし分解して人力で運べる最大のものである。故に配備数は多い。
「12爪」と言えばたいていの兵士はこの迫撃砲と思う。
4指迫撃砲と違って、発射薬の増減をする事で射程距離を操作できる。
ガス弾も配備されている。
基本的には、陸軍歩兵部隊は戦闘となればまず十分砲とこの迫撃砲を投入して最初の攻撃を行う事となる。
・6指(90ミリ)外挿砲弾。もしくは13爪(91ミリ)外挿砲弾。
十分砲用に開発された、砲口から挿入して外付けで発射する砲弾。榴弾である。安定翼が付いている。
射程距離が大幅に短くなるが、その分破壊力は大きい。
「十分砲で十分」と考える根拠はこのタイプの砲弾の運用を念頭に置いているからである。
ただし射程距離が短い分、砲自体が敵に肉薄する必要がある。
成形炸薬弾を使用する場合、想定しうる最大の装甲厚でも貫通が可能と見込まれている。
何故名前が2つあるかと言えば、十分砲が「杖」単位で表記されている為に、砲弾の方もそれに倣うべきだとして13爪と表記される。若干大きいのだが気にしない。
・6指噴進砲弾。
ロケット砲である。肩に担いで撃つバズーカ砲タイプ。
最初4指(60ミリ)口径の対戦車ロケット弾が開発されたが、爆発力が低く不評であった。
原因は対戦車砲としての使用を想定して開発されたのに対し、海外派遣軍での試用では対舟艇攻撃手段として用いられたからである。
そもそも海外派遣軍陸戦隊が敵戦車と遭遇する事は少なく、装甲目標といえば舟艇だ。
歩兵が一撃で敵舟艇を破壊するのに必要な火力、ということで6指幅となる。大は小を兼ねるで対戦車兵器としても十分以上の能力を持つ。
射程距離は短く、弾体の飛行速度もあまり早くない。命中精度はそれなりで、やはり近距離での使用を余儀なくされる。
4指幅ロケット砲は例のように巡邏軍に配備されたが、巡邏軍に対戦車任務は無く倉庫の片隅で眠り続けている。
通常の砲弾よりも使用期限が短い為に、そろそろ弾薬備蓄が無くなるはず。
だが一般社会への公式発表では、これは最新兵器扱いだ。
なお4指幅簡易対空砲で使用する空中阻塞弾用のロケットは、これと同じ物を使う。
・15爪(105ミリ)長身砲。
15爪砲はタンガラム軍伝統の主力野砲である。本格的な砲撃戦はこの砲をずらりと並べて砲列を敷き、苛烈に撃ち込む。
当時は陸上で牽引できる最大口径の砲であったが、機械力が発展した現在は8指(120ミリ)砲が実現している。
野砲としてはより大口径大火力が求められ、8指砲に順次交代されている。
装甲列車の主砲でもあるが、装甲列車自体が航空機による爆撃に対抗するのが難しいとして今後の利用は否定的で、改修の予定は無い。
近年は対空砲の需要が増加して、同口径の15爪高射砲が配備されている。野砲とは口径こそ同じではあるが、別物である。
水上艦にも搭載され、対空また対水雷艇用に用いられる。
・15爪迫撃砲。
大型の迫撃砲。最初から機械力によって移動される事を前提とした砲。
12爪迫撃砲より確実に強力なのだが、展開の自由度を考慮するとこれが出ていく前に既に12爪で十分撃ちまくっているだろうと想像できる。
海外派遣軍でも使っておらず、射程距離が必要な平原部の狙撃兵団に主に配置される。
現在は大型の迫撃砲よりも航空機による爆撃の方がより強力な爆弾を落とす事が出来るとして、戦術の見直しが行われている。
実際海外派遣軍では航空爆撃が多用され、十分な成果を収めている。
・15爪滞空阻塞弾。
ロケット砲による滞空迎撃弾。2メートル長の直立した鉄管に1発を収め、これを10数本以上まとめて運用する。
滞空阻塞弾とは、砲弾の中に複数の子弾が納められ、空中で散布されると落下傘を開いて或る程度の時間滞空、空中機雷として航空機の進入を防ぐ。
触発と時限信管を搭載し、一定時間で空中で爆発する。
対空迎撃よりも、航空機が重要拠点や艦船の爆撃コースに進入するのを妨げるのが主目的。故に複数を同時に打ち上げて大量の子弾を散布する。
同時に煙幕を発生させるタイプもある。
大型艦艇の防御用に採用されている。
・15爪噴進弾
ロケット砲弾。地上攻撃を目的とする。発射器を必要としない為に展開が早く、早期に大火力を投入できる手段として現在注目されている。
ただし命中精度は低いので集中的にばらまかねばならず、費用が掛かる上にかさばるので運用の研究が進んでいる。
これもまた、航空機による爆撃の方が良いのではと比較研究がされている。
15爪滞空阻塞弾とロケット部は共通。
・8指(120ミリ)長身砲。
現在のタンガラム陸軍の主力野砲。非常に大きく立派なもので、専用牽引車を持ち大切に扱われている。
射程距離破壊力共に十分で、これ以上の野砲は要らないであろうと思われている。
それだけに高価で配備に時間がかかり、タンガラム防衛の主要部に集中して配備されている。内陸部には無い。
海軍においても、大型・中型艦に搭載される。中型艦では対艦戦闘にも使われるが、主目的は水雷艇防御である。
また平頭弾という頭が平たい砲弾を用いて浅い水中目標に対しての攻撃が出来る。潜水艦・魚雷迎撃に使われる。
タンガラム軍の特徴は、陸軍と海軍とで装備を共有化するところにある。
これは兵器生産力が低いというよりも少ない為で、人口に相応の産業規模しかない。為に資源設備人材の共有化が行われている。
それに現在は海外派遣軍のみが実際の戦闘を行っているから、海軍装備の充実の方が重視される。
と言っても海軍そのものの増強は無く、あくまでも海外派遣軍および陸戦隊に回されている。
海外派遣軍が使用する艦艇は巡航能力が重視され装甲は薄く、比較的小口径の砲弾で十分撃破可能である。これは他国の派遣軍の巡洋・巡航艦でも同様。
8指砲は十分に主力艦砲として通用する。
・8指要塞砲。
要塞に固定される砲。若干古い規格であるので、砲身長はあまり長くない。
固定砲としては8指は標準的な口径で、タンガラム各地に多数配備されている。
ただ「砂糖戦争」以来外敵の侵攻は無いので、使わない砲としても有名。「潜水艦事件」において、イローエント港で実際に発射されたが弾は外れた。
・8指古砲。
8指要塞砲が導入される前の要塞砲で、前装式で薬莢を使わない砲。さすがにライフル砲ではある。黒色火薬を用いる。
非常に古い砲であり実戦威力は無いと言って良いが、廃棄されない。
軍学校において学生が午砲を撃つという名目での運用を行わされている。
この砲は、歴史的遺物としていろんな所に配置されている。言うなれば「民衆協和運動」の記念碑。
・8指短砲。
旧型の迫撃砲。口径は大きいが砲身が極めて短く、射程距離も長くない。臼砲と呼ぶべきであろう。
砲自体さほど大きくはないので機動性は高く展開も容易だが、扱いにくい砲であった。
現在では実戦配備されていない砲であるが、まだ廃棄されていない。
各種特殊砲弾を開発する際に、この砲でとりあえず撃ってみようと実験台的に使われる。
民間にも時々貸し出され、妙なものを発射している。この場合は黒色火薬を用いる。
・2分杖(140ミリ)砲。
ちょっと前までの海軍艦艇の主砲である。
これ以前の砲は発射薬に黒色火薬を使い、射程距離も短かった。
徹底的に研究改良がされた結果、決定版として登場したのがこの砲である。
弾速が倍となり、射程距離も大幅に伸びて命中率も高く、それまでの艦砲の限界をあっさりと突破した。榴弾威力も向上する。
旧大型艦はすべてこれを搭載している。
これ以上の大口径砲を積むのは、巡航能力の無い近海防衛用の軍艦のみとされてきた。
対艦砲撃戦は当然であるが、既に魚雷も登場して大型艦への攻撃は水雷艇で行うとされており、水雷艇撃破に特に定評がある。
要塞固定砲としても使われた。
陸軍は陸上でも運用しようと列車砲化してみたが、これを用いる敵というのが想定できなかったので計画は破棄された。
現在では少し強化された10指(150ミリ)砲が実用化して搭載されている。
・10指(150ミリ)砲。
前述の2分杖砲の改良版。正確には21爪(147ミリ)砲であるのだが、キリの良い10指と呼ばれる。正確な表現ではない。
威力の強化というよりも射程距離の延伸が目的で、砲弾自体の貫通力は増しているが破壊力はさほど向上していない。
砲自体の近代化も為されて速射性・運用利便性が向上している。
また砲塔に収めて自動装填による迅速な装弾も考慮された設計になっている。高角砲としての運用も可能だ。
ただし新機軸を打ち出したのはいいが既存艦では想定していない機能もあり、砲自体の利便性を損なってしまう。
新型艦にのみ搭載され、既にレーダーも実戦配備がなされているので、砲塔と連動したレーダー管制射撃が可能となっている。
陸軍でもレーダー管制可能な対空高射砲として配備を行っている。
・3分杖(210ミリ)要塞砲。
ちょっと前の要塞主砲。口径は同じであるが、より性能を増した砲に何世代も交代している。
この口径の砲を製造するのはタンガラム工業力でも大変で、旧式化した砲は別の要塞にお下がりを持っていくという形で長く使われる。
また完全分解しての移動が出来る構造に作られているから、時間さえ掛ければ攻城砲として設置する事も不可能ではない。
薬莢は使わずに発射薬を袋で詰める。
沿岸防衛用の「重防御艦」と呼ばれる砲艦にも搭載される。要塞のお下がりだ。
要塞での運用時とほぼ同じだが、多少発射薬を少なくして艦への負担を下げて発射される。
重防御艦は「浮かぶ要塞」と呼ばれるもので、コンクリート製の非常に分厚い装甲を持っている為にたいへん重く、巡航能力は持たず、速度も遅く機動的展開が出来ない。
港湾部に係留して敵の魚雷を自ら受けて主要施設を防御しながらも、大口径砲で反撃するという運用をされる。
・3分杖艦載砲。
同口径で艦載用に設計し直した近代的な砲も存在するが、艦自体がこれに適応した設計でなければ運用できない。
海外派遣軍で用いられる艦隊旗艦がこれに該当するが、旗艦自体が艦隊戦に遭遇するのは絶対に避けるべき状況であるとして、搭載は見送られた。
だが近海防御用の艦艇が大火力を要求して、各種利点を捨てて無理やりこれを搭載している。
本来であれば高度な光学観測機器と連動し、船体の揺動を自動補正して高い命中率を発揮するはずが、砲手の専門技術に頼って運用する。
最近建造された軍艦であれば、最初からこれを運用できるように設計されてある。
それでも海外派遣軍の艦艇充足が優先され、近海防衛の海軍用艦艇は後回しにされている。
新設計の海外派遣軍艦隊旗艦はレーダー管制砲撃が可能となっており、大口径砲を初弾から直撃させるのも不可能でない。
しかし他国の軍艦の装備と比較して、より遠距離への砲撃が可能な35爪(245ミリ)砲が最終的に開発搭載された。
・3分杖旧艦砲。
3分杖口径は、前装砲の古い時代から軍船に搭載されてきた。
黒色火薬を使いライフル線条も無いものから、或る程度砲身の長い後装砲まで、軍船主砲のスタンダードと呼べる。
しかしながら発射薬が進化して砲弾の弾速が向上すると、この反動を木造軍船では支えきれなくなった。
鉄骨構造船の時代となり新型砲が搭載されるようになると、大きいだけの旧式砲は載せているだけとなってしまう。
砲弾威力も格段に向上した結果、小口径砲でも十分に敵艦を撃破可能となり、大口径砲の搭載は無くなった。
その後鋼鉄船・装甲艦が出現するも、より高速の徹甲弾が開発されて砲力優位の時代が続く。
さらに魚雷が実用化されて水雷艇優位の時代となり、現在では航空機が魚雷攻撃を行いまた爆撃する。
大口径砲がどの程度効果を持つか、疑問視されている。
旧艦砲は「砂糖戦争」記念艦にのみ現存する。
・35爪(245ミリ)要塞砲。
タンガラムの要塞に装備される主砲で、タンガラムでは最大口径の砲となる。30年前に開発されて5年に1基ずつ製造される。
一撃で大軍艦を撃沈する能力を持つが、もちろん実戦で試した事はない。
これ以上の大口径砲は、試作された事はあるが実際に配備はされていない。
・35爪艦載砲。
最新鋭の海外派遣軍艦隊旗艦が誇る最大主砲。しかも連装砲塔1基で装備される。
レーダー管制と連動する事で高い命中率を誇るが、さらに連装で確実性を増している。
海外派遣軍の装備は国外の脅威に対するデモンストレーションの意味合いもあるので、最新技術をこれ見よがしに見せびらかしている。
ただし旗艦が直接に艦隊戦を行うことは厳に慎むべしとされており、この砲も威嚇用または対地攻撃での砲艦外交用と考えられている。
そもそも艦隊旗艦の大軍艦といえども、十分な装甲を持っていない。戦艦ではないのだ。
遠洋で何ヶ月も活動する巡航能力こそが最大に必要とされ、戦闘力は二の次である。旗艦であるから、艦隊司令部としての情報処理能力が優先される。
この艦の実質的な主砲は10指(150ミリ)砲である。連装砲塔2基を有し、さらに舷側に砲郭で8門を備える。
加えて15爪(105ミリ)高角砲と2指(30ミリ)機関砲を複数装備。滞空阻塞弾発射筒を20門装備する。
魚雷発射器、機雷投射器も装備して潜水艦対策とする。
主に対空と対水雷艇、魚雷防御を主眼とする。徹底的に防御力を高め生存性を上げている。
魚雷に関しては、多重の隔壁構造により船腹に大きく穴が開いても容易には沈まないようになっている。
戦闘力としては、むしろ搭載する水上戦闘機による爆撃雷撃、搭載水雷艇による攻撃に依存する。
また艦隊に属する駆逐艦が防御の任に当たり、戦闘艦が攻撃を担当する。
新型の戦闘艦は、装甲こそ薄いものの3分杖(210ミリ)砲を単装砲塔で装備するものもあり、十分な砲力を持つ。
水上戦闘機母艦・水雷艇母艦・潜水艇母艦も随伴しており、攻撃隊を発進させる。
旗艦は電波通信機能が充実しており、航空管制能力も持っている。
*****
ちなみにタンガラム海軍には「戦艦」という区分は無い。
軍艦は「巡航艦・巡洋艦」と「沿岸防衛艦」の2種に大別される。
「沿岸防衛艦」は巡航能力を持たず本土近海でのみの戦闘を想定した戦闘艦で、火力装甲共に充実している。
防衛艦は、低速「砲艦」と高速「撃滅艦」とに分けられる。
「砲艦」は火力装甲共に充実し、沿岸港湾部を護る盾として立ちはだかる。
そこまで遅くは無いのだが、沿岸防衛に特化しており航洋性に劣る為に、さほど遠海には進出しない。
高速性能は随伴する魚雷艇に任せて、敵艦隊の接近を防ぐ役目を負う。また潜水艇も使用して敵艦を撃退する。
近年は魚雷を装備した飛行機も使用する事となった。
魚雷攻撃を受け止める為に特別にコンクリートを用いた装甲を装備した、浮かぶ要塞のような船もある。
コンクリート船はかなり大きな船であるので浮力が大きく、超大型砲を搭載している。
遠海に進出して敵艦隊を撃滅するのを任務とするのが「撃滅艦」
火力装甲共に「砲艦」と同程度を確保しているが、そんなに大きくはない。
ただし装甲が厚いと言っても、大型艦でさえ15爪砲で容易に穴が開く程度である。これはタンガラムのみならずこの世界の燃料供給問題に起因する動力機関の限界による。
つまりは重い船を動かす為の燃料がバカバカしいほど高価いのだ。
故に「撃滅艦」は海外遠征を目的とせず、さほど長期間の出動は考慮していない。あくまでも沿岸防衛の為の戦力である。
ちなみに艦載砲は十分に進化して長砲身で高速弾を発射できるまでになっている。発射薬も黒色火薬からより強力なものに替わった。
これを防御する装甲は未だ十分な進歩が得られず分厚い鉄塊を並べるしかなく、すぐ限界に達する。
軽装甲でも撃沈されないよう船体構造を工夫して損傷が広がらないようにするしか手が無い。
タンガラムの定義では、「巡洋艦」は遠洋に長期間単独航行可能な大型の戦闘艦を指す。
「巡航艦」は遠洋航行可能であるが、補給船による定期的な補給を必要とする比較的小規模の船を指す。
どちらも装甲はほとんど無く防御は弱いが、それでも機関等主要部を守り容易には沈没しない構造となっている。
火力は、船体の大きさに比例して十分な砲を装備しているが、いかんせん防御力が無いので砲戦は忌避するのが通例。
魚雷艇や潜水艇、水上飛行機による攻撃を主体とする。むしろこれら小型艇を撃退する為の装備を大型艦は充実して保有する。
水雷艇潜水艇に巡航能力を与える事は困難であるので、大型船の上に載せて目的海域まで運搬する事となる。水上飛行機母艦も近年は導入されている。
「撃滅艦」とは、「駆逐艦撃滅艦」の意味である。
以上述べたとおりに巡航能力を持たない魚雷艇水雷艇・潜水艇・水上飛行機を多数搭載した輸送船を、搭載艇発進前の遠海で破壊するのが「駆逐艦」であった。
しかし各国が海上での権益を争い艦隊を派遣する内に、護衛として手頃な大きさの巡航戦闘艦として「駆逐艦」を用いる事となる。
「駆逐艦」自体は長期航行は出来ないが、大型輸送船が随伴する艦隊であれば適宜補給を受けての運用が可能となる。
艦隊護衛として大活躍する事となった。
つまり、敵艦隊が襲来した場合、艦隊護衛である「駆逐艦」に対して防御側も「駆逐艦」で当たらねばならない。
これは極めて不利な状況であるので、「超駆逐艦」「駆逐艦駆逐艦」が必要となった。
ヨーロッパの帆船時代の軍艦のような、船腹に大砲を並べたタイプのものはタンガラムには無く、ゥアム帝国で使用していたものを後に模倣する事となる。
これを「砲列艦」「砲列構造」と呼ぶ。
では何故タンガラムにこのタイプの軍艦が無かったのか。小型艇に銛打ち砲を搭載して攻撃していたからである。
銛に導火線の付いた爆弾を装着して、船体のどこにでも打ち込めばどのような大船でも簡単に沈没させられる。船体はすべて木で作られているから、絶対に刺さるし爆発すれば大被害間違い無し。
いわば水雷艇時代の先取りみたいな事を行っていたわけだ。
だから海戦では大型船の投入は無く、小型艇を大量投入しての大乱戦となった。大型船も大砲ではなく狙撃銃を多数搭載して接近を阻止する戦いを行う。