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「前回までのあらすじ」

 

 タンガラムを代表する大手映画会社三社代表、

「自由映像王国社」の、ヒゲ禿頭ちょっと小太り60代社長、
「エンゲイラ光画芸術社」の、細くて背の高い顔も長い50代社長、
「サクレイ映画芸術社」、若作りした60手前かっこつけ社長。

 三人は料亭の一室に集まり、苦悩する。
 「自由」の小太り社長、額に右手を押し当て眼をつぶる。

「マキアリイさんが歴史に名を轟かす超英雄であると重々承知していたのですが、
 まさか、立て続けに3件も超大作映画級の事件を解決なさるとは……」

 三社共に昨年は「英雄探偵マキアリイ」映画を競作して疲労困憊の極にある。
 「サクレイ社」のみは昨年暮れに映画二本立てを公開して、笑いが止まらぬ高収益を上げていた。
 だが代償は大きい。

 「エンゲイラ」の長い顔の社長が「自由」社長に尋ねる。

「あなたのところでは、グェンヌ君は無事ですか」
「彼には、……無茶ばかりを強いている。さらに次の作品に出演しろとはとても言えない」

 主演「ヱメコフ・マキアリイ」役の俳優カゥリパー・メイフォル・グェヌは、「自由」「エンゲイラ」両社の作品に共通する配役だ。
 これはマキアリイ本人の希望であり、またグェヌ氏もよく応えて世界中で大人気となる。
 「マキアリイと言えばグェンヌ」、もはや常識だ。

 しかし超大作活劇映画の主役を、それも同時進行で撮影を行うなど常人に為せる技ではない。

「泣き言は言わないが、撮影現場でも心配する声が大きい。ほとんど限界に近いのでしょう」
「やはり彼には休暇が必要ですな。最低でも3ヶ月」
「うむ……」

 その点「サクレイ」社は別の「マキアリイ」役を使うので融通が利く。
 利くから二本立てを撮ってしまい、現在休養中であった。

 「サクレイ」社長が提案する。

「前回同様に、我々三社のどこがどの事件を担当するか。予め決めておきましょう。
 後の心配はそれぞれに検討するということで」
「サクレイさん、おたくは既に公開済みで撮影班も空いているだろう。あなたがまずは選ぶべきだ」

 「自由」社長の言葉はもっともである。「サクレイ」社長は手堅く絶対に外しようの無い選択をした。

「それでは我が社は、「ユミネイトさん帰国・物理学者連続殺人事件」を、」
「やっぱりかー」
「やっぱりですなあー、美味しいですなあ。それは誰でも逃さない!」

 何しろ「潜水艦事件」のヒロインの帰国だ。「マキアリイ」映画としても申し分無い大活劇。
 しかも、今や「ソグヴィタル・ヒィキタイタン議員」との結婚騒動の渦中にある。
 黄金のリンゴがごろごろ成る樹を手に入れるようなものだ。

 「エンゲイラ」社長は尋ねる。

「サクレイさんでは「ユミネイト」役を誰にするつもりですか」
「やはり我が社での「ユミネイト」と言えば、カルマカタラ・カラッラ君の他は無い」
「彼女か、なるほど、彼女だな、完璧な「ユミネイト」さんだ」

 「自由」社長もうなずく。

「我が社でも「ユミネイト」役にカラッラ君を起用したい。
 それも「首都総選挙政権転覆・ヴィヴァ=ワン総統暗殺未遂事件」でです」

「やはり「自由王国」ではその事件をお取りになりますか」
「現在手がけている「「潜水艦事件」十周年記念式典襲撃事件」の、直接の続編にあたるものです。
 我が社としてはコレ以外の選択肢を持ちません。
 エンゲイラさんも既に決めているのではありませんか」

 「サクレイ」社長も「エンゲイラ」社長を促す。

「『英雄暗殺』第二弾。もちろんエンゲイラさんが喉から手が出る事件ですよね」
「うぅう〜む、社会的責任として前作大成功の我が社として、多くの待ち望む観客の為にも、断固撮りますぞ「八閃鬼事件」」

「”恋するカニ巫女”クワンパさん、盛り上がっていますなあ」
「あの事件ではまさに彼女こそが脚光を浴びましたからな。美味しいぞイケますぞ」
「だがやはり、グェンヌ君が……」

 

 

『罰市偵 〜英雄探偵とカニ巫女

 (第○☓話)

 

       *** 

【英雄探偵マキアリイ事典】

(END)

 

 

 

 

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