【シュユパン】

 シュユパンとは星の世界から伝えられた殺人球技「ヤキュ」があまりにも危険であった為に、安全にルールを改正して成立した球技である。

 ヤキュはそもそも「野球」とほとんど変わらないルールであるが、デッドボール可、魔送球可、タックルスライディング可、ボールを捕球した状態であれば走者をぶん殴っても可、騙し討ち可というとんでもないものである。
 創始歴5000年代初頭、トカゲ神救世主「ヤヤチャ」から伝えられた直後に爆発的に流行した。
 武神としても崇められる「ヤヤチャ」の武術の鍛錬法がまさにこれである。と教えられたら当然に、荒ぶる血潮の若人はやるに決まっている。
 そして実際に武術の達人を多数輩出した。青晶蜥神救世主の禁衛隊(近衛隊)の隊員は全てヤキュの達人であったとされる。

 しかしながら人死が絶えないのを憂い、またヤキュの名勝負と呼ばれるものは互いの力が拮抗して特に危険な技を使わなくとも十分にスリリングでありスペクタクルである、と認識して安全な遊戯を求める者が多くなった。
 そこで「ヤキュ」から殺人技を除いたルールのものを「シュユパン」と称して奨励し、若人の関心を振り向けるのに成功する。
 後には興行として行う者も現れて、プロ選手も出現する。産業化に成功。まっとうなスポーツとして開花する事となる。

 

 シュユパンの球場は野球と同じ扇形で、本塁・一塁・二塁・三塁の正方形のダイヤモンドがある。
 円形競技場の中心に大きな正方形を描いて、その隅の一つを本塁とする。1辺100歩(70メートル)であるから、円形競技場の直径は100メートル程度となる。
 ただし余分を加えてもう少し大きいのが普通。二塁の位置が競技場の中心である。
 一塁線の本塁から半分の距離に1塁を置く。50歩(35メートル)になる。ダイヤモンドは正方形であるから各塁の距離は50歩である。
 本塁と2塁の距離の中間点に投球板を置く。24.7メートルで本塁からおおむね35歩(24.5メートル)であり、キリが良いように35歩とする。
 地球のダイヤモンドよりも大きく、投手が投げる距離も長くなるので打者有利だが、走者は不利となる。

 この小さなダイヤモンドを「(小)タンガラム」と呼び、大きい正方形を「大タンガラム」と呼ぶ。
 タンガラムの内側が「内野」、大タンガラムの部分が{外野」、外野の先の球場の円形部分までを「遠野」と呼ぶ。
 内野寄りのタンガラムの外側の円形部分は、もちろんファウルグラウンドである。
 なおピッチャーマウンドは無く平坦。

 地球の球場に比べて奥行きが狭いからホームランが出やすいのだが、実はシュユパンの球は打っても飛ばないように作ってある。ホームランはよほどの怪力でないと難しい。
 それでも、外野席の観客は自分を守るための楯やラケットを持っている。
 (若干ソフトボールぽい安全に留意した球である)

 人数は1チーム8人 捕手がチームリーダーである。ショートが居ない。
 ストライクゾーンという概念が無く、打者が振らず捕手が取れなかった球がボールである。捕手は投球時常に座って真正面に構える事を要求される。捕球後は立って移動可能になる。
 ちなみに投球された瞬間から走者は移動可能であるから、ボールになったら遠慮なく進塁を試みる。
 もちろん捕手に届く前に地面に球が落ちればボールである。空振りした球を捕手が取り損なうと、これはファウル扱いになる。

 ファウルは何本打っても許される。バント失敗でファウルになっても問題ない。
 ただし投球前にバントの構えを取るのは、投球妨害となる。あくまでもヒッティングの構えでなければならない。
 なおバントのような持ち方でスイングする特殊な打ち方が案外と多用される。バットの形状から最適化した打ち方で、後述の打球コントロールを行い易い。
 (プッシュバントではない、というよりもこれは武術の杖術の技である。ヤキュではデッドボール対策で身を守りながら打撃しなければならないので特殊な打ち方が発達した)
 (ストライクゾーンが無い、というのもヤキュの影響である。デッドボールが正当なプレイとして行われているのであるから、まっすぐ来た球はそれだけでフェアプレイなのだ)

 3ストライク3ボール3アウト制。9回まで、延長有り。決着が付かない場合、打撃競争をしてポイントが多い方が勝ちになる。
 つまりはサッカーのPK戦みたいなもので、投手以外の全メンバーが一人ずつピッチャー位置から1球だけ投げるのを相手チームが打つ。これを代わる代わるに順不同一回のみで行う。
 小タンガラムを越えて大タンガラムへのヒットまたはホームランが出ればポイント。ボールが出てもポイント。2ポイント差が付いた時点で勝敗が決する。
 最後は投手同士が投げて打つ事になる。8回で決着がつかなかった場合は引き分けになる。
 捕手は捕手が行う。捕手の番の時は投手が捕手を務める。なお野手は両軍ともに関係ない者が行い、外野に飛んだ場合はワンバウンドするまで捕球しない。

 

 「シュユパン」の最大の特徴は、とにかく走る事を高く評価する所にある。
 古来より伝わるタンガラムオリジナルのボードゲーム「ダル・ダル」が競馬ゲーム(人生ゲーム的)であり、これに類似するものが観客に喜ばれる。

 故に、走者が前の走者を追い抜く事が許され、先に本塁に帰還した場合得点が2倍になるルールがある。
 さらにこの状態でホームランが出れば、通常の得点の倍になる。つまり最低でも6点が入る事となる。
 ただし追い抜いた走者がまだホームインしていない状態で、追い抜かれた走者がアウトになると抜いた者もアウトになる。
 (理論上は2人抜くと4倍になるのだが、不可能というよりも実行上は得ではないからほぼ使わない)

 もちろん同じ塁上に走者2名以上が留まるのは有り得ず、最も新しい走者のみを残してアウトになる。それが追い抜かれた走者であれば、上記ルールが適用される。
 また追い抜く際には、通過する塁を踏む際にそこに前走者が居ない状況でなければならない。
 次の塁に到達出来なければ戻る事は許されるが、逆進して前の塁に行くのは当然にアウトとなる。
 つまりは抜く者よりも抜かれる者の行動の方が重要になる。いかにして塁上に留まるか、が興味深いプレーとなる。

 このように走塁に特別なルールが設けられているが、外野が狭い球場で走り回るのはかなり困難である。そもそもが塁間が長いから走者は不利だ。
 そこで外野安打に特別な特典が付いてくる。
 大タンガラムの外側「遠野」と呼ばれる部分に球が進入した場合、これはゴロや捕球時でもそうである、野手は必ず一塁→二塁→三塁→本塁 の順で球を送らねばならない。
 もちろん塁を守備する者が捕球した状態で塁を踏む必要がある。(野手であれば誰でもいいが)
 これにより故意に遅延が発生するから、走者にとって有利な状態が発生する。
 もし違反した場合、その打球が発生する前に遡って打者および走者が一掃されて得点となる。追い越し2倍も適用される。

 シュユパンで使われるバットも特徴ある形になっている。
 野球のバットと違ってグリップ側に徐々に細くなるのではなく、打撃部の太さは変わらない丸太状でグリップ部分だけが細い。
 そして丸太部分が一面だけ平面になっており、のみならずコニャク樹脂(ゴム)の板が貼ってある。
 つまり、丸い方で思いっきり打ってもよいが、平たい部分で打球に回転を与えコントロールが出来るのだ。

 この惑星の大気は薄く、ボールに回転を与えて変化球とするのは難しい。それに空気抵抗も少ないから、遠距離から投げても球の速度は落ちない。
 しかし打ち返す際にどのような回転が掛かっているかでの攻防が発生する。
 投球時には野手は投手以外小タンガラム内に入ってはならないと定められている。また小タンガラムは地球のダイヤモンドよりも広い。
 為に、内野安打を上手く転がされると野手は突っ込んで拾いに行かねばならない。
 打球コントロールは攻撃の基本中の基本にして奥義である。

 シュユパンの試合は、とにかく高速の球が飛び交い人が走りまくる、スリリングなものである。

シュユパン球技場

 なお野球賭博のようなものが無いわけではないが、あまり人気は無い。
 タンガラム人は賭け事を好まない、というよりも理由も無いのに損得が発生するのを理解できないのだ。

 シュユパンの円形競技場は多目的であり、シュユパンの試合をやっていない時は「サンガス」(相撲)の興行を行っていたりする。
 また踊り念仏のように人が輪になって踊っていたりする。タコ神殿の祭事であるが、特に理由や縁起が無くても自然発生的に行われる。
 競技場の周囲には縁日の出店が多くあり、楽しく遊べる。

 そのような人の集まる場所であるから選挙演説にも好都合であり、常日頃から政治や行政に関して一家言の有る者が勝手に演説をぶって討論を行ったり喧嘩をしてたりする。

 

 

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