【将棋】

 タンガラムにはボードゲームはあまり存在せず、歴史上オリジナルと呼べるものは「ダル・ダル」と呼ばれる競馬ゲームのようなものだけだ。
 これは盤の上に描かれた輪状のマスをコマがサイコロの数だけ進むというもので、あまり勝ち負けが明確でない和やかなものである。
 神様関係人生ゲームという感じだ。

 囲碁・将棋は今より1200年前にタンガラムに星の世界より降臨したトカゲ神救世主「ヤヤチャ」により与えられた。
 囲碁はタンガラム人には割と馴染みやすいもので知識人の間で急速に普及したが、将棋は違う。
 これは一種の賭けであり勝敗を明確に決定するものとして認められた。さらに過激に言うならば、決闘の手段としてだ。
 実際将棋が持ち込まれた数年後に、当時の金雷蜒神聖王の王妃と寵姫が将棋で争い、負けた寵姫が自害している。どちらも当代随一の達人だったと伝わる。
 以来、女性が将棋をする事は芳しからぬ事とされた。

 

 タンガラムの将棋は、日本の将棋と同様に9×9のマス目で行われる。
 「歩兵」を「雑兵」と呼び「外陣駒」、「香車」「桂馬」「銀将」「金将」を「内陣駒」と呼び、「飛車」「角行」を「聖駒」とする。
 動き方も日本の将棋とほぼ同じだが、取った駒を持ち駒として打つ方法と、「成駒」が明確に違う。

 相手の駒を取って持ち駒とするのは「外陣駒=雑兵」のみが許される。「内陣駒」「聖駒」は取られたらそれまでで、盤上に復帰はしない。
 これは当時の軍隊の実情を鑑みて、下級の雑兵が寝返る事はごく普通にあり得るが、身分の高い武人がそのような恥ずかしい真似はしないとして強く抗議された為という。
 この為、「持ち駒」のルールに大きく変更が加えられた。二歩のルールは適用される。

 「成駒」も同様に、「雑兵」にのみ許される。「雑兵」は敵陣3マスの領域に進入すると「凌兵」と呼ばれる「金将」と同じ動きをする駒になる。
 では他の駒は成らないかと言えば、もっと特別なルールに代替されている。
 「内陣駒」である「香車」「桂馬」「銀将」は敵陣に進入を果たすと、もしも自分に持ち駒の「雑兵」が有った場合、その場所に「凌兵」を置き進入した駒自体は自分の持ち駒とする事が出来る。
 持ち駒は次以降の手番に、移動が可能な場所であれば任意の空いたマスに置く事が出来る。

 なお、持ち駒を打つ行為を「推参」と呼ぶ。敵陣に入った「内陣駒」を「凌兵」と置き換え持ち駒とするのを「帰陣」と呼ぶ。

 また「聖駒」は敵の聖駒を取った場合にのみ特殊な成り方をする。「飛車」ならば「竜王」に、「角行」ならば「竜馬」に。
 「竜王」「竜馬」でもう一つの敵の聖駒を取った場合、チェスのクィーンと同等に前後左右斜めどこまでも移動可能となる。

 コレ以外の変更点は、「銀将」に相当する駒に「先駆け」という能力が与えられている。
 「銀将」の移動可能位置にある自陣の駒と、その位置を交換する事が出来る。ただし「王将・玉将」は除く。
 「雑兵」との転換は二歩のルールが適用されて制限を受ける。
 これにより「香車」「桂馬」の位置を任意の場所に移動させる事が可能となり、戦術の幅が広がる。敵の駒を取って打つ事が制限される故の救済措置と言えよう。
 また「金将」は「王将・玉将」との間にだけ、位置の交換が可能である。「身代わり」と呼ばれる。

 なお駒の名称は、
 「歩兵」→「と」   「香車」「桂馬」「銀将」「金将」 「飛車」→「竜王」      「角行」→「竜馬」       「王将・玉将」
 「雑兵」→「凌兵」 「槍兵」「跳駒」「剣匠」「禁衛」 「神族/神兵」→「神将」  「巨蟲/兎竜」→「神輿」  「金雷蜒王(神聖王)/褐甲角王(武徳王)」

 将棋の駒は「金雷蜒軍」と「褐甲角軍」とに分けられ、金雷蜒軍側は赤色(高級品は金色)、褐甲角軍側は黒色、双方の外陣駒「雑兵」は白色 に塗り分けられている。
 チェスと同様に小さな人形の駒である。ただし、簡素な木の板の駒も売られており旅の友となっている。
 「雑兵」の駒にはタスキがあり、これを斜めにすると緑色が現れて「凌兵」となる。木の板の駒では裏に「凌兵」と書いている。

 「聖駒」が成る場合は、売っている将棋セットによって異なるが、「雑兵」と同様にタスキを持つ形式と、旗を立てて表示する形式とがある。
 木の板の駒の場合、1回目は裏返して成るが、2回目は用意されている特別な駒を使用する。「蝙翔」と呼ばれる。
 これは、「コウモリ神人」と呼ばれる無敵の怪人を表す。とてつもない化け物であったが、「ヤヤチャ」に征伐されたとされる。
 人形型の駒でも特別に「蝙翔」を用意してあるものも売られている。色は白で、両軍どちらの陣でも使える。

 「蝙翔」への昇格は非常に困難であるので、特殊な地方ルールとして「蝙翔」になった方が勝ちというのもある。
 実際そのような状況に陥った場合、ほぼ勝敗は決しているのだからお手上げという意味であろう。

 「金雷蜒王(神聖王)/褐甲角王(武徳王)」の駒の造形は、将棋セットの商品により異なるのであるが、最もポピュラーなものはタンガラム・タロットと同様の
 「金雷蜒王(神聖王)」が半裸の老人の像。これは金雷蜒神救世主初代「ビョンガ翁」の姿である。鉄を鍛える鎚を手にしている。
 「褐甲角王(武徳王)」が剣を右手に持って下に提げる若者の像。褐甲角神初代救世主「クゥアンヴィタル・イムレイル」で、彼は空中飛翔者とも呼ばれ空を飛ぶ時の姿を表す。

 

 この将棋セットはつまり赤黒白の三色に分けられている。
 白い「蝙翔」を混ぜて3番目の「王将」とすれば、3つの軍に分ける事が出来る。
 これを利用して、「王将」+「兵卒」9枚の三人将棋が可能である。いや、「雑兵」の駒がさらに9枚あり「聖駒」の余分があるから四人将棋すら可能である。
 4番目の軍は駒が成った状態である「凌兵」にして編成する。

 三人四人将棋はローカルルールが激しいのであるが、全国統一ルールだと、
 「王将」は普通どおりに全周囲1マス動ける。「兵卒」の駒は前方3マスの3方向に動ける。
 しかしながら「兵卒」の駒は方向転換が可能で、1回の移動の代わりに左右に90°方向を変えて、移動可能方向を修正できる。
 駒が色分けされているから方向がバラバラでも見間違える心配は無い。
 ローカルルールによれば、「兵卒」以外に「剣令」と呼ばれる駒を作り、前後左右1マスずつの移動が可能とするものもある。

 この三人四人将棋は或る時点で千日手に陥る例が多く、その為に特別な勝利条件が設定されている。
 各軍の陣をどこに張るかでもローカルルールが有るのだが、おおむね隅か辺の中央の4箇所を最初の出発点とする。
 「王将」がこの陣を出発して、向かい側、あるいは隣の陣に到達した時点でそのプレイヤーが勝利する。
 特に四隅を陣とするものは全体で回転するような動きを行うので、「ダル・ダル」に似て人気がある。

 駒を1個ずつ順番に動かしていくと鬱陶しいと感じる人も居るので、サイコロを振って出た目の数の駒を1回ずつ移動できる、というルールもある。
 この場合、動かしたくなくても目の数だけ動かさねばならないというのもある。

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